※この話は「hktkが止まらない」(作品集61)の続編です。
※出来るだけ前回の話をご覧になってから、この話をご覧になってください。
今日は何時も通りの日だった。
何時も通り、私は博麗神社に足を運んでいるはずだった。
幾ら私が普通の魔法使いだからって、この普通な日常がこの後一瞬で壊れるだなんて、考えられるはずはなかった。
…だって、そんな事ありえるはずがなかったから…。
* * * 有り得ない博麗神社 * * *
「いやー、今日もいい天気だぜ。」
博麗神社に向かう道中、私は空を見上げながら、一度大きく伸びをする。
いやぁ、それにしてもいい天気だぜ。こういう日は宴会でもしたくなるな。
まあ毎日宴会はしたいけどな。
「どうもあなたの眼には障害があるみたいね、目的地変更して永遠亭に行く?」
横を歩いていたアリスが、呆れたと言わんばかりの表情でそう返してくる。
そうか?いい具合に空が曇ってて、涼しくていいじゃないか。
夜に星が出ないのは残念だけど、過ごしやすい日じゃないか。
「私は普通だから問題ないぜ。それより今は霊夢にたかりに行くだけだ。」
「…どうして貧乏人の家にお茶飲みに行こうだなんて思うのかしらね…。」
おいおい、随分酷い事をさらりと言うじゃないか。否定はしないけど。
まあ、霊夢はなんだかんだ文句を言いつつ、何時もお茶だけは出してくれるからな。
遊びに行くついでにお茶が出るんだ、安いものじゃないか。
それに、結局付いて来てるお前だって同罪だぜ、アリス。
「おっと、もう着いたか。」
前方に博麗神社境内に続く階段が見える。
毎度毎度、この階段上るのは面倒なんだよなぁ。
何時もは箒で飛んでるから関係ないんだけど、今日はアリスが付いてるからそれは駄目。
アリスはトロいからなぁ。
「…今失礼なこと考えなかった?」
「考えてないぜ、マーガトロイドなんだから失礼じゃないはずだ。」
私の返答に首を傾げるアリス。
…まあ、気付かなくていいぜ。自分で言ってて恥ずかしかったから。
これ見てるお前さんたちも余計な詮索はするんじゃないぞ。
…と、そうして階段を上っていると…。
唐突に、ぐるりと世界が一回転したような感じを覚えた。
「おおっ…!?」
「きゃっ…!!」
私とアリスが、揃って頭を抱えて膝を付く。
「な、なによ今の…。」
「なんか脳みそがひっくり返ったような感じだったぜ…。」
お互いに感想を言い合う。
同時に同じ感覚を覚えたんだから貧血だとかじゃない。じゃあなんかの病気か?
とは言っても、私はともかくアリスは妖怪だからなぁ、そう簡単に病気になるとは思えないし…。
そもそも、何だって私とアリスが二人同時に、同じような眩暈を…?
「…とにかく、神社に行こうぜ。別に頭痛がするってわけでもないしな。」
私は考えをスパッと切る。
確かに妙な違和感を感じたけれど、だから別に気分が悪いってわけじゃない。
立てないわけでもないし、何が起きたと考えるだけ無駄だろうから、私は素直に立ち上がる。
「ほら、アリス、立てるか?」
未だにへたり込んでるアリスに、私は手を差し出してやる。
全く、妖怪の癖にヤワな奴だぜ。そんな魔法使いに手を差し出してやる私、ああ、なんて優しいんだぜ。
…と、私が手を差し出すと、アリスは何故か一瞬で頬を真っ赤に染めた。
「な、なななななな!!ば、ばばばば馬鹿にしないでよ!!
ひひひひひ一人で立てるわよ立てるけど仕方ないからあんたの手を使ってあげるわ!!」
…?何でこんなに慌ててるんだこいつ?
しかも手を使ってやるとか言ってる時には既に立ち上がってるし。
「ま、いいや。とにかくさっさと行こうぜ。」
顔をトマトにように赤くしたアリスを放置して、私は残りの階段を上がり始める。
…と、そこで私はまた妙な違和感を感じた。ただし、さっきみたいな不確かな感じではなく、もっと明確な。
あれ?なんか神社の方から話し声が聞こえるような…?
しかも1人や2人じゃない。10人以上はいるんじゃないか?
もう少し言うと、感じる気配と言うか何と言うか、とにかくそれが全部人間のもの。
博麗神社は妖怪の巣窟だし、神社を訪れる人間なんか、私以外には咲夜か早苗くらいしかいないはずなんだが…。
「…なんかやな予感がするぜ…!」
妙な胸騒ぎを感じて、私は階段を一気に駆け上がる。
まさか霊夢、金が無さ過ぎて何処かから万引きでもして、里の人に囲まれてるんじゃないだろうな。
あるいはどっかから金借り過ぎて、借金取りに囲まれてるんじゃないだろうな。
霊夢なんだからこんな事しか出てこないのは仕方ないことだぜ。
それに霊夢だったら、仮に本当にそうだとしても、何とかうまく言いくるめて踏み倒しそうな気もするな…。
そんな事を考えている間に、私は階段を上り終えて境内に足を踏み入れる。
足を、踏み入れて…。
「…えっ…?」
…What?これはどう言う事なんだ?
ああ、私の眼は本当にいかれちまったのか?
これは本当に永遠亭で診てもらった方がいい気がしてきたぜ。
「ちょっと魔理沙、待ちなさいよ、何をそんなに固まっ、て…。」
遅れてきたアリスも、境内を見るなり言葉が止まる。
どうやら私の眼がおかしいわけじゃないみたいだな、これは現実なんだな。
いや、霊夢が里の人間や借金取りに囲まれてる方が、まだ驚きが少なかった気がする。
霊夢とは長い付き合いだし、私は何度と無くこうして博麗神社に足を運んでいるけれど、こんな博麗神社は見たことない。
ぶっちゃけ神社が地震で壊滅状態だった時の方が自然な光景なだった。
有り得ない、としか言いようがない、私の中では文句なし幻想郷No,1の珍事だった。
「…なんで、神社に参拝客がいるんだぜ…?」
「…しかも、何でこんなに沢山…?」
境内の中には、パッと見で15人の人間が、賽銭を入れたりちょっとした会話を楽しんでいた。
呆然としてる私達の隣を、今も何人もの人間が行ったり来たりしている。
これが妖怪だったらまだ有り得たかもしれないが、悲しい事にどう見ても境内にいる者全てが人間だった。
今この博麗神社境内には、人間15人前後と妖怪が1人。
妖怪比率が圧倒的に少ない博麗神社。これを異常事態と言わずに何を異常だと言えばいいんだ?
「あら、魔理沙にアリス、いらっしゃい。」
有り得ない展開にカルチャーショックを受けている私達に、なんか清清しい笑顔を向けてくる霊夢。
…おい、霊夢、目の前で異変が起きてるんだぜ?何でそんな平然としてるんだ?
それともあれか、今の神社が異常事態過ぎて頭が壊れたのか?
「え、ええ、お邪魔してるわ、な、なんだか今日は盛況みたいね。」
私の代わりにアリスが受け答えをしてくれた。
ただその舌の回らない口調から、アリスも相当驚いてる事が手に取るように判る。
…だと言うのに、霊夢の次の言葉は、私達の混乱をさらに加速させる事となった。
「何言ってるのよ、何時もに比べて少ないくらいじゃない。」
ワタシニホンゴワカリマセーン。
ああ、私が日本人じゃなければそう言って現実逃避出来たんだけどな。
残念ながら私はジャパニーズ。人生で食べたパンは13枚だけだぜ。
「…ねえ魔理沙、私どうやら日本語が判らなくなってきたみたい。通訳お願いできるかしら?」
「現実から目を逸らすなアリス。残念だが私が通訳してもお前が聞き取ったとおりの日本語だと思うぞ。」
名前的に日本人じゃないアリスは現実逃避を開始したが、一人で逃げないでくれ後生だから。
永遠亭が異変起こした時一緒に空を飛びまわった仲じゃないか、逃げるなら一緒だ。
「何こそこそ言ってるのよ。それより、ちょうどお茶入れたから飲んでく?
新しいお菓子も買ってきたから。文○堂のカステラって奴。」
霊夢、お前はどこまで私達の脳を破壊すれば気が済むんだ?これは新手の虐めか?
私が馬鹿になったらどうしてくれるんだ、責任とってもらうぞその時は。
「…お茶は何?」
「玉露。」
アリスが余計な質問をしてくれたせいで、もう私は何を考えていいのかが判らなくなる。
もう駄目だ、我慢できない。逃げる。
「す、すまんな霊夢。急用を思い出したぜ。カステラはまた今度にしてもらうぜ。」
「わ、私も急用が出来ちゃったわ。ごめんなさい。」
霊夢に何か返答をもらう前に、私は箒に跨って全速力で博麗神社を離れる。
アリスも私と同じくらいのスピードで後に続いてくる。
…そんな早く飛べたのかよ。それとも逃げようとする思いが強すぎて限界突破したか?
まあ、その気持ちは判るけどな。
「…アリス、すまんがまた手を貸してもらうぜ。」
「了解よ。これはもう四の五の言ってられないわ。」
どうやらアリスも事の深刻さが判っているみたいだ。
そう、これはもう見逃せるレベルじゃない。明らかな異変である。
博麗神社に人間の参拝客が来るはずない!!ましてや何時も来ているなんて事は有り得ない!!
博麗神社に、文○堂のカステラや玉露など買える金があるはずない!!
チーム魔法使い組、この間地底に行ってきたばかりだが早速復活だぜ!!
…カステラはちょっと惜しいけどな。
* * * * * *
おぞましい、なんてものじゃなかったわね。
確かにあの二人は性格的にも見た目的にも子供っぽい。
だけど、幾ら子供っぽいからって、まさかあんな事になるなんて思いもしなかった。
…この間間欠泉から怨霊が湧き出る異変が起きたばかりだと言うのに…。…面倒くさいわね…。
* * * ペ○い紅魔館 * * *
ぱらり、と本を一ページめくる。
人間には到底読む事は叶わない文字や図式が書いてある魔導書。
しかし、知識を求める私にとっては、この程度の魔導書などどうと言う事はない。
ふむふむ、236Pで波○拳…。…うん、読めても意味がよく判らないわね。
「パチュリー様、紅茶が入りましたよ。」
と、私が読書に耽っていると、私の使い魔である小悪魔が、テーブルに湯気立ち上る紅茶のカップを2つ置く。
「ありがとう。」
感謝の言葉を述べて、私はカップを手に取り口に運ぶ。
うん、いい味ね。最初呼び出した時とは比べ物にならないわ。
小悪魔の紅茶の味は、私としては正直咲夜よりレベルが高いと思っている。
味は勿論だけれど、言わずとも私のその時飲みたい味に調節してくるのも、小悪魔の優秀なところ。
…どうして言ってもいないのにその時の気分を当てられるのか、それが判らなくて少々不気味だけれど。
以前それとなく聞いてみたら「だったらベットの上で教えて差し上げます」とか訳の判らない事を言われた。
別に聞きたくもなかったから聞かなかったけど。
「そう言えば先ほど上でフランドール様を見かけたんですが、今日はお出かけでもするのですか?」
私の向かいに座り、紅茶を手に取りながらそう尋ねてくる小悪魔。
「ええ、何でも神社に行ってくるらしいわよ。妹様もたまには外に出そうと言うレミィの意見。
霊夢達に出会ってからもう何年も経ってるからね。妹様もそれだけ変わったと言うことよ。」
何だかんだで、私達も霊夢達と付き合い始めてもう何年と経っている。
今ではそれなりに仲が良いと言えるだろうし、あれ以来紅魔館の全員が、何かしらの変化があったと認めざるを得ない。
妹様の場合特にそれが顕著で、魔理沙と言う友達を得た事で、今では館内での破壊工作も滅多に起きない。
お陰で私の仕事も減った。その分鼠退治という仕事が増えては意味ないような気がするけど。
「全く、魔理沙には感謝すればいいのか文句を言えばいいのか…。」
毎度毎度本を盗んで行くのは気に入らないけれど、結構世話になっているのも事実なのよね。
妹様の事もそうだけれど、この間も地底に潜ってもらったりもしたわけだしね…。
本当に、どう言えばいいのやら…。
…と、私がそんな事を考えていると…。
「むきゅ…!?」
「ひあっ!!」
知らない間に、私と小悪魔は同時に椅子から転げ落ちて、図書館の床に頭を打った。痛い。
「な、なに今のは…。」
「地球が回ったかと思いました…。」
いや、何時でも地球は回ってるわよ。
でもまあ、そう表現したくなるのも無理はない。まるで、宙に浮いたまま一瞬で360度横に回転したような、そんな感じだった。
今のはいったいなんだったのかしら?
私と小悪魔が一緒に同じ感じを覚えた事を考えると、空間的な作用があったことは判るのだけれど…。
それが図書館だけなのか紅魔館全体なのか、或いは幻想郷全体か…。
「と、とりあえずレミィ達のところへ行きましょう、今のが私達だけだったのか…。」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
何が起きたのかが判らず慌てていた私達に、さらに追い討ちを掛けるその悲鳴。
「い、今のは…咲夜さん…!?」
そう、今のは間違いなく咲夜の悲鳴だった。どうしてこんな所まで悲鳴が聞こえるだなんて考えてはいけない。
とにかく、咲夜の悲鳴のお陰で、私は更なる焦燥に駆られる。
なにせ、あの咲夜が今みたいな悲鳴を上げるなんて事、紅魔館で咲夜が働き始めて一度もなかった事だから。
何かただならない事態が起きている、そう思わずにはいられなかった。
「急ぐわよ、小悪魔。」
「はい!!」
私と小悪魔は図書館を飛び出し、急いで悲鳴のした方へと駆けつける。
その道中、妖精メイドたちが慌てふためいているのを視界に捕らえた。
…それはそうよね。咲夜のあんな悲鳴聞いて、動揺しないほうがおかしいわ。
だけど、心配ならあなた達も咲夜のところ行きなさいよ。そんなに慌ててるだけじゃなくて。
…と、全速力で飛び続けたお陰で、そう時間も掛からずに咲夜の元に辿り着く。
そして、私と小悪魔はそこで信じられないものを目にした。
「そ、そんな…!!」
「咲夜さん!!」
あの咲夜が、床にうつ伏せになって倒れていたのだ。
しかも顔の辺りから、かなりの量の血が流れて…。
出血量から考えてまだ致死量には遠いけれど、それでも十分に信じられない事態だ。
紅魔館きっての戦闘能力を誇る咲夜が、こんな正面から倒されるなんて…!!
「小悪魔!咲夜を介抱して!」
自然と私の声も荒くなってきた。
それはそうだ、こんな事態で慌てない方がおかしい。
それに、どうも第一発見者は私達のようだし、今は私達が積極的に動かなくては。
「は、はい!パチュリー様は!?」
「咲夜を倒した犯人はまだ近くにいるはずよ、それを探して…!!」
私は廊下の向こうに、小さく蠢く影を見逃さなかった。
「行きなさい!!『エメラルドシティ』!!」
私はその影が逃げられないように、紅魔館の廊下にエメラルドの壁を隆起させる。
私のエメラルドシティにその影も気付いたらしく、僅かな反応を見せた。
だがその時既に遅く、既にエメラルドの壁は私達とその影を囲んでいる。
よし、これで私が倒されない限りは、この場から逃げられるものはいない。
「さあ!正体を見せなさい!!」
アグニシャインを発動して廊下を照らしつつ、私はその影との距離を一気に詰める。
…実はこの時、結構疲労が限界に来ていたのだけれど、まあこの際仕方ないわね。
レミィより先に事態の収拾をつけて…。
…あれ?そう言えばレミィに妹様は?
咲夜の悲鳴を聞いてあの二人が駆けつけないはずはないし、私が図書館から此処までに来る間に、レミィ達が此処に辿り着けないはずは…。
そんな疑問は、次の瞬間に一瞬で解決した。
「「うーっ!!うーうーっ!!」」
…。
……。
…………はぁ?
「いぢめないでいぢめないでぇ!!」
「ごめんなちゃいごめんなちゃい!!」
…えっと、あの、誰か私に知識をくれないかしら?
どうやら100年以上も本を読むだけの生活をしてきたのに、まだ知識が足りないみたいだわ。
心底、私はエメラルドシティでこの空間を隔離しておいて良かったと思う。
この時の私の意識は遥か彼方に吹き飛んでいたが、多分凄い顔をしていた。
ああ、妖怪でも理解の範疇を超える事が起きると、こうも顔が崩れてしまうものなのかしらね。
「…小悪魔。咲夜はどんな状況?」
幻想郷の端まで吹き飛んでいた私の意識が、大結界に跳ね返ったのか少しだけ戻ってくる。
とりあえず、状況の再確認。私の眼の前にいるこの二つの生物が現実なのかどうかを。
「えっと、口からの出血も見られますが、大部分は「ああもう言わなくていいわ、ほっといてこっちに来てくれる?」
うん、聞かなくても判ってたわ。
要するに、この目の前の状況は現実なのね。私の眼がおかしくなったわけじゃなくて良かったわ。
咲夜が顔から血を出している時点で、別に心配するようなことじゃなかったと気付くべきだったわね。
…だけどまあ、目の前のこの二つの生物は、やっぱり異常事態かしら。
「…レミィ、妹様、それは何の真似かしら?」
しゃがみ込んで頭を抱えながらぶるぶる震える、所謂「しゃがみガード」のレミィと妹様。
もうね、何かしらこの光景は。世の中のロ○コ○共が見たら泣いて喜びそうね。
「ふええぇん!!おねえちゃんめがこわいよぅ!!」
とことんまで幼いしゃべり方のレミィ。悪かったわね、目つきは昔からこうなのよ。
…それにしても、どうやらレミィは私の事が判らない様子。
状況から判断して、記憶がなくなったというよりはレミィ自体が私と出会う前の幼い状態に戻ってしまった、と言うことかしら?
「はううっ!!!!お嬢様に妹様可愛らしいですぅーッ!!!!」
と、そんな二人を見た小悪魔は、無駄に眩しいくらいに目を輝かせながら二人に抱きつく。
…ああ、此処にも泣いて喜びそうなロ○コ○がいたわね。
「ああ可愛い可愛いお持ち帰りしたいて言うか持って帰りますお持ち帰りぃーッ!!」
「「うわあああぁぁぁぁぁん!!」」
小悪魔の蛮行に恐怖したのか、二人揃って泣き出す。
「はぁはぁお二人とも食べちゃいたいです寧ろ食べます時間を掛けてゆっくり食べさせていただきます!!」
しかしその行為が逆に何かを刺激したのか、もう目もあてられない程に興奮する小悪魔。
…ああ、何で私はこんなのを使い魔に雇っていたのかしら。
今更他の使い魔を召喚する気もないから、後で色々教育してやるしかないわね。
「小悪魔、そのくらいにしておきなさい。」
こんなコントを見に私は此処に来たのではない。
さっきの急な眩暈、そして幼児化現象を起こしたレミィと妹様。
…両者はきっと結びついている。私の長年の魔女としての勘がそう言っている。
「暫く留守番とその二人を頼むわ。これは立派な異変よ。」
動かない大図書館、そう言われている私だけれど、今回は動かざるを得ないわね。
咲夜は天国に旅立っているし、小悪魔は留守番させなくちゃいけないし、今紅魔館で動けるのは私だけ。
誰か一人忘れている気がしなくもないけれど、まあ気のせいよね。
「は、はい!判りました!お気をつけて!!」
「私がいないからってその二人に手を出さないようにね?」
チッ、と舌打ちする小悪魔。やっぱり手を出す気だったのね。
留守番なんだから二人をちゃんと守っていなさい。能力まで低下してるかもしれないんだから。
レミィに手を出すのは私が先
レミィに誰の手も出させるんじゃないわよ。
「行ってくるわ。」
気質の雲が幻想郷を覆った異変の時以来、私は自ら動いて異変解決に乗り出すことにした。
「パチュリー様、お出かけの前にティッシュいりますか?」
「煩いわね、これはさっき飲んだ紅茶が鼻から出てきただけよ。」
* * * * * *
千年以上生きているからって、私にだって判らない事はある。
天才だの月の頭脳だの言われてきたからって、判らない事はある。
昨日までの日常とは明らかにかけ離れたもの、異常すぎる異常は私の手には負えない。
たとえ好ましい異常だったとしても、異常は異常でしかなく、結局日常じゃないのよね…。
* * * 働き者の永遠亭 * * *
「…うーん、なんだか妙に頭が重いわね…。」
昨日実験のために徹夜をしていて、私が目覚めた今の時間は大体正午。
さっき寝ている間に物凄く妙な感じを覚えて目が覚めたのだけれど…。
ああ、気分が悪いわ。医者の不養生とはよく言うけれど、それにしたって…。
まあ、私は厳密には薬剤師。医者ではないわ。
「とにかく、ウドンゲの顔でも見てこようかしら。」
ウドンゲのかわいらしい顔を見れば、少しくらい気分が良くなるかもしれない。
いざとなればその場でウドンゲとフュージョンすればいいわ。
なにを言っているのかって?別にやましい事なんて何一つ言ってないわよ?
とにかく私は何時もの服に着替えて、とりあえずウドンゲがいそうな台所へと向かう。
時間が時間だし、今は兎達の昼食を作っているかもしれない。
台所に顔を出してみれば、案の定そこにはエプロン装備のウドンゲが。
ああ、最高のシチュエーションね。素晴らしいわウドンゲもうあなたに教える事は何もないわ。
おぉけい、やる気は最高潮にまで回復したわ、後はフュージョンしましょうウドンゲ。
「あっ、師匠おはようございます。今日は珍しく遅いですね。」
ウドンゲがおたまを片手に私の方を振り向く。
…鼻血が出そうになるのを鋼の精神で堪える。ウドンゲ、あなたは私を殺す気かしら?
大丈夫よ、私は死なないから私を殺そうとするあなたの姿を心行くまで楽しむことが出来る。
「ええ、ちょっと徹夜しちゃってね。それより、姫の昼食を作りたいからスペース借りるわよ。」
基本的に姫の食事は私が作る事にしている。
と言うのも、その天下の我侭は食事にまで及んでいて、曰く「イナバと同じもの食べられるか!」だそうで。
だからって別に一人で食事するわけじゃないから、そのくらいどうでもいいだろうに、とは遥か昔に諦めた事。
ウドンゲに作ってもらってもいいのだけれど、それでは負担が大きいだろうと、そこだけは私が手を貸している。
それでも最近は鍋の時くらいは我侭言わずに一緒に食べるので、まあ変わったと言えば少しは変わったんでしょうね。
「ああ、姫なら今日は昼食いらないって言ってましたよ。
何でも仕事仲間と休憩時間に外食するそうで、こっちには戻らないそうです。」
あらそう、それは手間が省けていい事だわ。
姫の食事は割と手を入れて作らないと「気に入らない」と一蹴されるから。
「そう、じゃあウドンゲの方を手伝ってあげるわ。」
て言うかそのエプロン姿もっと間近で見せろ。
「えっ?だ、大丈夫ですよ。こんな事で師匠の手を煩わせるわけには…。」
「大丈夫よ、私がやりたくてやると言っているのだから。」
遠慮するウドンゲを無理やり制して、まずはメニューをざっと見回す。ウドンゲの姿を堪能してから。
ふむふむ、今日は焼きソバなのね。焼きうどんじゃないところが何かにくいわ。
人参が大量に入っていて、まさに兎用の焼きソバと言う感じがする。
でも、確かにこれじゃ私が手を貸す事ではないので、何かアクセント的なものでも作る事にしましょうか。
「じゃあ私はサラダを作っておくから、そっちはよろしくね。」
「あ、はい、わざわざありがとうございます。」
わざわざ頭を下げてくるウドンゲをああ可愛いと思いつつ、私はまずは野菜を並べる。
キャベツに人参にキュウリ、後はスライス大根と何故かあるカニ缶でも使いましょうかしら。
そして、私はそれらを切るための包丁を手にとって…。
ざくり、と自分の腕に突き刺してみた。
うん、痛い、とっても痛い、血が吹き出るほどに痛い、だけどこれが現実であると認めなくてはならない私の心の方がもっと痛い。
「し、師匠なにやって「ちょっと待てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゐ!!!!!!」
私の中で何かが弾け飛んだ。
「ウドンゲ、お願いだから正直に答えて。姫は何で昼食がいらないって言ったの?」
出来る限り、最高の笑顔で私はウドンゲに尋ねる。
普段だったら急に発狂した私に怯えているウドンゲの姿を堪能したいと思うところだけど、今はもうそんな事はどうでもいい。
さっきあまりに当たり前のように言うからスルーしちゃったけど、とても聞き捨てならない単語が混じっていた気がするんだけど?
「え、えっと、だから、仕事の同僚と一緒に食事するからって…。」
「仕事の同僚って誰?ニ○ニ○動画の仲間?それともm○x○のオフ会?」
「いえ、姫が働いてる所の同僚ですが。」
「姫が働いてる?ウドンゲ、あなたは何を言っているの?
あの千年ニートの我侭娘が仕事をしてるなんて、鴉天狗の記事にだってなりはしないわよ?誰も信じないから。」
「し、師匠こそ何を言ってるんですか!?
今の永遠亭の財源の4割は姫の仕事の分じゃないですか!!」
「ああウドンゲ、判ったわそんな嘘を言って私にお仕置きされたいのね。
いいわフュージョンしましょう、その可愛らしいエプロン姿ごと私が汚してあげるわ。」
「いやーッ!!だ、ダレカタスケテーッ!!」
私が捕らえるよりも早く、ウドンゲは台所を飛び出す。
…うん、あの反応は何時ものウドンゲね。私が愛して止まないウドンゲそのものね。
…となると、さっきのは冗談で言ったわけじゃないのね。
姫が、本当に、働いてる?いや、でもそれもまた有り得ない。
それはまあ、気まぐれで働こうとか言い始めることも何度もあったし、実際に働いた事がないわけじゃない。
だけど飽きっぽい性分ゆえ、それが長続きした事は一度だってない。
詰まるところ、永遠亭の財源の4割を担うほどの働きをしているなんて有り得ない。
そもそも、昨日までの姫は確かにニートだった。この月の頭脳がそんな事を間違えるはずがない。
…結論は、唯一つ。
「…まさか私が、自ら異変解決に乗り出さなくちゃいけない日が来るとはね…。」
どんな異変なのかはまだよく判らないけれど、これが異変であることは間違いない。
本来なら、永遠亭の異変解決係は主にウドンゲ。
この間の天気の異変の時もウドンゲに任せていたし、だから自分で異変解決をしようだなんて事、考えたこともなかった。
だけど今、私が解決しなくてはならない異変が目の前にある。
だからこそ、私はこの異変を解決しなくちゃならないんだろう。
ウドンゲも異変の影響を受けていたし、てゐはどっちであろうと絶対に異変解決をしにいかない。
…よし、私の精神安定のため、即座にこの異変を解決しよう。
そう決心して、私は昼食の準備をほったらかしにして、幻想郷の空を駆けていった…。
…姫が本当に働いているのであれば、解決すべき異変じゃない、って気もしたんだけどね…。
* * * * * *
ええ、私は子供が好きですよ。ロリコンだのショタコンだの両刀使いだの言われようと、それは否定しません。
外の世界にいた頃から子供好きで有名でしたし、何せ信仰する神様が片方子供の姿なんですから。
ですがね、それはあくまで保護者精神と言うものであり、要するに私は子供の世話をするのが好きなんです。
なので、日常と化していたその楽しみを取り上げられては、私の行動は唯一つ…。
* * * アダルトな守矢神社 * * *
「おっそうっじおっそうっじたっのしっいな~♪」
ちょっと早かった昼食が片付き、私は守矢神社の境内を掃除していました。
実際は別にそこまで楽しくないんですが、そうやって気分を良くしないとこの広い境内の掃除なんて出来ません。
幻想郷に来てからもう一年以上、私はこの庭掃除を欠かしたことはありますよ何度も。
ですが2、3日置きに1回はちゃんとやっています。これは外の世界にいた頃からの日課の一つですから。
「おっ、早苗今日も偉いねぇ。麓の巫女にも見習って欲しいものだよ。」
いつの間にか神社の屋根の上にいた八坂様に声を掛けられた。
八坂様はそうして高い所に上って、幻想郷全土を眺めるのがお好きなんだそうです。
…なんとかと煙は高い所に昇りたがるといいますが…。
…いえ、別に深い意味はありません。ただちょっと思いついただけのことです。
八坂様がそのなんとかであるとは思っていませんので。
「いえ、そんな事はありません。霊夢さんも神社の掃除は真面目にやってるみたいですよ。」
と言うより、それ以外にやる事がないだけみたいですが。
まあ私も似たり寄ったりの生活です。この山奥では人間の参拝客は来ませんからね。
妖怪の参拝客の方とも仲良くやっている心算ですが、それじゃやっぱり霊夢さんと変わりありません。
うーん、外の世界にいた時は、こうものんびり時間を過ごすなんてこと、あったんでしょうかね。
学校に行ったり勉強したりで、何だかんだで結構忙しかったような気もします。
勿論その生活が嫌だったとは言いません。ただ、あの時の生活と今の生活が、全く正反対のようで…。
やっぱり、この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね。
と、私がそんな風に、ちょっと昔の思い出などに浸っていると…。
「ふあっ…!?」
物凄い脱力感と言うか、まるで貧血になったかのように急に頭が重くなる。
箒を杖に何とか膝は付きませんでしたが、それでも一瞬とは言え立っているのもやっとでした。
「い、今のは…。」
頭を抱えつつ、何が起こったのかと考えようとした、その時…。
ごしゃっ!!
と、境内の石畳に何かが落ちたような音が聞こえる。
驚いてその音のほうへを振り向いてみれば、何のことはない。単に八坂様が屋根から落ちただけでした。
きっと八坂様も同じような眩暈に襲われたのでしょう。一瞬意識がなくなったせいで、屋根から転げ落ちて…。
…まあ、別に気にすることの程でもないですね。
「今の眩暈は…。」
そう、今は気になるのはそっちです。
八坂様も同じような眩暈に襲われたのだと仮定すると、単に私の疲労だとか、そう言う理由は全て除外されますね。
となると、今のは守矢神社全体に、何かの力が加わったと考えるべきでしょう。
ただそれが何なのかは判りません。一瞬眩暈がしただけで、それ以外が特に変わったようにも見えません。
うーん、幻想郷ではこんなよく判らない事も起こるんでしょうかね…?
「さ、早苗…。…何で少しも心配してくれないんだい…。」
さっきまで物凄く無様な姿を晒していた八坂様が、こっちが何でと言いたくなるような台詞を仰る。
八坂様の頭からは血がどくどくと流れています。うん、神様にもやっぱり血は流れてるんですね。
「いえ、だって神様は屋根から落ちたくらいでは死なないのですよね?
でしたら別に心配する必要はないと思いましたので…。」
「ああ早苗、君はどうしてそうなっちゃったんだい。」
「この幻想郷では常識に囚われてはいけないみたいですので。」
「少しくらい常識を取り戻してみたらどうかしら?」
「私はもう後ろを見ないで生きると決めましたので。」
私の言葉に何故か涙目になる八坂様。ああ、きっと頭の方が結構痛いのでしょうね。
いえ、変な意味じゃありませんよ?純粋に、血が出るほど痛いんだろうな、って言う意味ですからね?
と、私達がそんなやり取りをしていると…。
「うわっ!神奈子大丈夫?」
守矢神社のもう一人の神、洩矢様の声が神社の方から聞こえる。
「ああ、別に大、丈…夫……。」
洩矢様の姿を見た瞬間、八坂様の言葉が、徐々に途切れて行く。
そして私の意識も、徐々に遠のいて行く。
えっ…?私の頭は常識に囚われなくなったからどうにかなってしまったんでしょうか?
私の眼は常識に囚われなくなったからどうにかなってしまったんでしょうか?
いえいえ、八坂様も目を見開いて固まっていますし、きっと同じ事で驚いてるんですよね?
こんな二人同時に頭がおかしくなるなんて事、ありえるはずはないですよね。
八坂様は既におかしいんですから。あっ、つい本音が。
「す、すわこ…?…そ、そのすがたはどうしたんだい…?」
震える声を何とか絞り出している様子の八坂様。
流石は神様、私よりもこういう状況に素早く対処できるようで…。
やはり、この幻想郷では常識に囚われてはいけませんね。
「ん?何か変?別に何時も通りじゃん。」
「も、洩矢様それはありえません!」
洩矢様の予想外の一言に、私は声を荒げずにはいられませんでした。
だって有り得ませんよそんな事は!洩矢様は…洩矢様はぁ…!!
「そんな八坂様並の身長でそんな胸が八坂様並に豊かでそんな素敵にサラッとした長髪なわけないじゃないですか!!
私の知ってる洩矢様はぺったんぺったんつるぺったんであーうーが口癖のロリっ子娘じゃないですかぁ!!
八坂様みたいに発育が良すぎて脂肪の塊みたいになった年増な姿な訳ないじゃないですかぁ!!」
「早苗私の事そんな風に思ってたのかい!?」
今の洩矢様の姿は、まさに私の言ったとおり。
もし洩矢様が神様でなく普通の少女でしたら、成長したらこんな感じになるでしょう。
しかし、それはあくまで成長したら、の話。
洩矢様は成長しない少女だからこそ洩矢様なのであって、こんな洩矢様は洩矢様であるはずが…!!
「…そ、そうか!!あなたは偽者ですね!!
我が洩矢様に手を出すとはいい度胸です!!この私が天に代わって成敗します!!」
「えっ!?さ、早苗落ち着いて!!
何を勘違いしてるのか知らないけど私は洩矢諏訪子だよ!?」
「煩いです!!仮に本当に洩矢様でもょぅι゛ょを止めた洩矢様など洩矢様であるはずがありません!!
私の洩矢様を!!私の存在意義を!!私の全てを返せえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「か、神奈子助けてえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「『九字刺し』!!『九字刺し』!!『九字刺し』!!『九字刺し』!!『九字刺し』いいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「ひぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「『九字刺し』!!『九字刺し』!!『九字刺し』!!『九字刺「早苗!!もう止めて!!諏訪子のライフはとっくに0よ!!」
怒りに任せてありったけの「秘法『九字刺し』」を叩き込んでしまいました。
正直な話、この方が本物の洩矢様である事は判っていたんです。
長年お傍に仕えていましたし、寧ろ判らない方がどうにかしています。
…判ってしまったからこそ、許せなかったんです。このアダルトな女性が洩矢様である事が。
この女性が洩矢様である事を認めなくてはならなかったという現実が!!私は許せません!!
洩矢様は!!何千年と生きているというのに未だに子供っぽいという、そのギャップがいいんじゃないですか!!
人間の子供では決して出来ないから!!何年も何十年もお世話が出来るから素晴らしいんじゃないですか!!
私が八坂様だけでなく洩矢様も信仰している理由は、9割9分はそれだと言っても過言ではありません!!
こんな、こんな大人になって…!!そんなの、そんな事…!!
「八坂様ァ!!」
「は、はいぃっ!!何でしょうか早苗さん!!」
「これは異変です!!解決しなければならない異変です!!
私は異変解決に行ってきます!!帰ってくるまで洩矢様をお願いします!!」
「わ、判りました!!行ってらっしゃいませ!!」
何故か敬語で返答する八坂様を尻目に、私は守矢神社を飛び立つ。
異変解決はまだした事ありませんが、この異変だけは絶対に解決せねばなりません…!!
「誰だか知りませんが!!私の洩矢様を返せえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
この異変の犯人…絶対に捕まえてやります…!!
* * * * * *
それはまあ、確かに此処最近変わったことばかりだったよ。
地上から人間がやってきたり、その縁で地上の人間や妖怪が地底に来るようになったり、逆に外に出て行くようになったり…。
何より、私の長い付き合いの親友だって、凄い力を手に入れたりで、良い意味でも悪い意味でも変わったところはあったよ。
だけど、それでも、限度ってものはあると思うんだ…。
* * * 賢い地霊殿 * * *
「死体運びはお任せクロネコオリンの宅急便~♪」
あたいはその時、地霊殿の中庭を怨霊と一緒に走り回ってた。
この間地上から巫女や魔法使いのおねーさんがやってきて以来、あたいとおくうは地霊殿に住み着くようになっている。
何故って、そっちの方が地上に行きやすいし、旧灼熱地獄にいるよりはこっちの方が広いからね。
第一、あっちはおくうの核エネルギーでまた凄く燃え始めてるから、熱いんだよね。
別にそう簡単に燃えてなくなるって事はないけど、好き好んで熱いところにいる意味もない。別に熱いの好きじゃないし。
だからさとり様から許可をもらって、特に用事がない時には地霊殿にいるようにしてる。
ああ、勿論ちゃんと怨霊の管理はしてるし、仕事はサボってないよ。
「あー、おくうまだかな~。」
私が今中庭にいるのは、おくうと遊ぶ約束をしているから。
おくうの事だから忘れている可能性も否定できないけれど、その時はそれを口実におくうとフュージョンするだけだから問題なし。
だって普段から自分で「フュージョンしましょ?」とか言ってるんだもん。あたいだけフュージョンしちゃいけないという事、あるはずがない。
ああ、おくう可愛いなぁ。あの「うにゅ?」って言って首傾げてる動作とか、たまらないよね。
さとり様やこいし様も可愛いし、あああたいマジでさとり様のペットになってよかったここ天国だよウフフフフフ…!!
と、あたいがそうして悦に浸っていると…。
「うにゃっ…!?」
ぐらりと視界が揺らいで、そのせいで足がもつれて中庭の地面にヘッドスライディング。
「い、いたたたた…。」
顔から落ちたために鼻が物凄く痛かった。その痛みで視界がちょっと滲む。
な、なんなんだよぅ急に…。猫車に頭ぶつけなかっただけいいと思うけど…。
「あーあーもう、汚れちゃったよ。」
パンパンと服についた土とかを払い落とす。
あー、でもなんか気持ち悪いなぁ、ちょっとお風呂にでも入ってこようかなぁ…。
ああそうだ、それがいい。おくうも誘って一緒に入ろう。
どうでもいいけど、私は猫でおくうは鴉なのに温泉好きって言うのも変な話だよね。
…うん、本当にどうでもいい。さっさとおくうを迎えに行って、一緒にお風呂入ってフュージョンしよう。
「おくうーッ!!」
そうと決まれば、あたいはおくうの部屋まで直行して、勢いよく扉を開ける。
これでおくうが着替え中だったら儲けものだなぁ、とか心の底で考えてはいたけれど、残念な事にそんな事はなかった。本当に残念。
…残念だったけれど、あれ?なんかそれがどうでも良くなるほどに、珍しい光景があたいの前に…。
「こら、お燐。静かにしてください。おくうが集中できないでしょう?」
何故かおくうの部屋にさとり様が。
あたいやおくうがさとり様の部屋に行くことはしょっちゅうだけど、その逆のパターンは初めてだった。
序に、よく見回してみるとこいし様もいた。存在感がないから見回すまで気付かなかったけど。
「あれっ?さ、さとり様、おくうの部屋でなにやってるんですか…?」
「なにって、おくうの勉強。」
…はぁ?
さとり様は当たり前のように仰ったけれど、何の事だか全く理解できない。
「何をそんなに戸惑って…。
…あら?何時も見ているはずなのに、あなたの心にこの事の情報がありませんね…。」
流石さとり様、言葉に出す必要がないから楽です。
「何時もこの時間はおくうの勉強の時間だったじゃありませんか。
神様を取り込んで以来学問に励むようになって何よりです。」
あれ?あれあれあれ?
こいつはどうしたことだい、あたいの頭がどうにかなっちゃったの?
おくうに勉強なんてさせたって、30分後にはきれいさっぱり全部忘れてる。
それが判ってるから、さとり様だって今まで無意味な事だと、勉強なんてさせた事なかったじゃないですか。
いやまあ、元々あたい達は放置プr…じゃなくて、放し飼いだったけど。
「…おかしいですね、あなたの心の中の記憶が、私の記憶とまるで一致しません…。
ですがあなたがお燐である事も確かですし、これはどう言うことでしょうか…?」
あたいの心を読みつつ、首を傾げるさとり様。
それはあたいの方が聞きたい。今あたいはどう言う状況に置かれているの?
此処が地霊殿であるのは間違いないのに、まるで異世界にでも放り込まれたみたいな感じがする。
「ん、お燐どーしたのー?
折角来たんだし、お燐も勉強してく?おくう凄いよ、因数分解とか、もうパーフェクトだね。」
こいし様があたいの混乱に追い討ちを掛けてくる。因数分解ってなんですか?
おくうは確かにバカではない。ちょっと調子に乗りやすいところはあるけれど、ちゃんと分別はある。
地霊殿では核の力を使わない、と言うさとり様の言いつけをちゃんと守ってるし、単に物忘れが激しいだけ。
だけど、その物忘れが激しいおくうが、勉強でそんなこいし様が驚くような頭脳を持っているはずがない。
「…あの、さとり様、念のためお聞きしますけど、おくうが飲み込んだ神様って何でしたっけ?」
「ん、確か菅原道真じゃなかったかしら?」
「何でそんな物凄く人間的な神様を取り込んでるんですか!!確かに学問の神ですけど!!
誰が好き好んで太宰権帥を神様としておくうに与えたりするんですか!!何の意図があって学問の神をおくうにあげるんですか!!」
「何を驚いて…。…あら?あなたの心の中のおくうは八咫鴉を…?
本当によく判りませんね…。まるで何か異変でも起きているかのようですね。」
ああもう!!何がなんだかさっぱり判らない!!
もう本当に異変が起きてるとしか思えな…。
…あれ?ちょっと待って?本当に異変なんじゃない?
ほら、さっきあたいは原因不明の眩暈に襲われたじゃん。
あれがきっと、異変が起こった瞬間だったんだ。
今のこの状況から察するに、あたいがどこか異次元に送り込まれたか、或いは過去が変わってしまったか…。
どちらにせよ、これが解決しなくちゃあたいはおくうと遊んだりフュージョンしたり出来ない。
おくうとお風呂でキャッキャウフフしたりベッドに押し倒してあんな事やこんな事…。
「ちょっ、お、お燐!!なに考えてるんですか!!」
どうせだからさとり様やこいし様もみんなで一緒にフュージョンしたり…。
ああもうキャッキャウフフな展開ばっかり思いつく。ああおくう可愛いよさとり様可愛いよこいし様可愛いよ!!
「ば、ばか!!変な事考えないでください!!ああもうやめてお願いお燐やめてええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
顔を真っ赤にしてばたりと倒れるさとり様。
…うん、やっぱりさとり様を倒すにはこれが一番だね。世界が変わってもさとり様は変わってない。
さとり様はこういう事に弱いからなぁ。頼んでもいないのに勝手に心を読んでくれるから、あたいの勝手な妄想で自爆してくれる。
…別に、変な事は考えてないよ?ただあたいとおくうとさとり様とこいし様が仲良く遊んでる所を想像しただけだからね?あたい基準で。
「おっ!!お姉ちゃん!!大丈夫!?」
眼を回しているさとり様に飛びつくこいし様。ああ、姉妹愛って素敵ですねぇ。
「こいし様、さとり様をお願いします。あたいはちょっと暫く出掛けてきますので。」
返事が返ってこなかったので、多分さとり様に気を取られすぎてあたいの声が耳に入ってなかったんだろう。
うん、あたいはこれから異変解決に行く。この異変は解決しなくちゃいけない。
ひょっとしたら止められるかもしれないから、保険としてさとり様だけちょっと倒させてもらいました。ごめんなさいさとり様。
以前おくうが八咫鴉を取り込んだ時は、他力本願な事をしたけれど、今回は違う。
何処でどんな異変が誰に影響を与えているのかが判らないから。
少なくともおくうを中心に、さとり様、こいし様、お二人ともこの異変の影響を受けている。
だったら、今この場で異変解決に行けるのはあたいだけだ。
だから、あたいがこの異変を解決しなくちゃいけない。あたいのおくうを、さとり様を、こいし様を、取り返すために。
「さあ、あたいの初の異変解決だ!張り切って行くよー!!」
そうして自分に活を入れつつ、あたいは出来る限りの全速力で地霊殿を飛び出す。
あたいの動物としての勘が告げている。
あたいが行くべき場所、それは…。
…それは、地上だと…!!
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「はぁ…。」
布団に寝転がりながら、私はため息を吐く。
このため息、あれからもう何回吐いた事だろうか…。
何だろう、この例えようもない孤独感は…。
あの事件から4日ほど、私の待ち人はずっと訪ねてきてくれない。
人里の方に顔を出しては見たんだけど、あれからずっと帰ってないみたいだし…。
「…どこにいるんだよぉ、慧音…。」
仰向けになって、家の天井を眺める。
慧音が私の家を飛び出していってから、もう4日も経ってしまった。
私の生きてきた1000年以上の時間に比べれば、4日なんて僅かな時間のはずなのに…。
なんで、何でこの4日間はこんなに長いんだろう。
1000年も一人で生きてきたのに、何で今はこの孤独が辛いんだろう。
永琳が言ってた。私は鈍感だと。
…私は、何に気付いていないんだろう。それに気付けば、この寂しさはなくなるんだろうか…。
…判らない、判らないよ…。…慧音、慧音ぇ…。
何でかは判らない。だけど、私は今慧音に謝りたい。
何を謝ればいいのかはまだよく判らないけれど、私が慧音を泣かせてしまった事は確かなんだ…。
謝りたい、謝りたいのに…。…何処にいるんだよぉ、慧音…。
「…飯食おう…。」
寝転がってるだけでも、腹が減るものは腹が減る。
幾ら死なないからって空腹は辛い。て言うか、空腹で死ねないとか地獄だ。
何もやる気が起きないけれど、せめて食事だけは作らないと…。
私がそうやって、ゆっくりと身体を起こしている最中に…。
「妹紅おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
ドカアアアアアァァァァァァァァァァン!!!!
まるで爆弾でも落ちてきたかのような衝撃と爆音が、私の家に響き渡る。
「な、なに!?何事!?」
今までの無気力も、いきなりのこの出来事に流石に吹き飛んでしまった。
私は急いで部屋を飛び出す。
そして、飛び出した瞬間ゴシカァン!!と、勢いよく誰かに押し倒された。
「慧音は!!慧音は何処だ!!白状すればマスタースパークは勘弁してやる!!」
私を押し倒したのは、霧雨魔理沙だったはずなんだけど霧雨魔理沙じゃなかった。
私すら一瞬恐怖を覚えるような、少女らしからぬ鬼のような形相を浮かべる魔理沙。
「す、すとっぷ!!落ち着け魔理沙!!慧音ならいないよ!!」
「じゃあ何処だ!!何処にいる!!」
「し、知らない!!私もずっと探してるんだよ!!だけど何処にもいないんだよぉ!!」
「嘘を吐くな!!慧音が人里にいないなら此処以外に何処にいる!!」
「私の方が知りたいよ!!慧音何処にいるのおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「おっけぃ!!それ以上シラを切るなら零距離マスタースパークをプレゼントしてやるぜ!!」
「痛い!!聞くだけで痛いからマジでやめて!!」
私の必死の懇願を無視して、八卦炉を私の眼前に設置する魔理沙。
やばいマジで殺される!!死なないけど殺される!!誰か助けてえええぇぇぇぇぇぇ!!
「ちょっと魔理沙!!やめなさいよ!!知らないって言ってるじゃない!!」
「そ、そうだよ!!おねーさん落ち着いて!!」
私の祈りが通じたのか、八卦炉に光が溜まり始めたところで、魔理沙の腕を人形遣いと見た事ない赤い髪の猫が必死に掴む。
私はその隙を逃さずに、何とかマウントポジションの魔理沙から逃げ出す事に成功した。
「全く!!あなたはやる事が無茶苦茶なのよ!!もっと穏便にやりなさい!!」
「あれだけ本気で脅せば流石に嘘は吐けないだろうって計算からだぜ。」
「最後本気でマスタースパーク撃とうとしてなかった!?」
「ただの趣味だぜ。」
「趣味で人殺しするんじゃねえええぇぇぇぇぇぇ!!」
魔理沙の理不尽な一言に私の怒りがヴォルケイノ。
確かに死なないけど!!死なないけど!!痛いもんは痛いんだよおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
ったく!!これだから近頃の若い奴は!!
「全く煩いわね…。まあ、妹紅が今回の異変の原因なんだから、そのくらいは別にしてもいいけど。」
うっわぁ、耳障りな聞きたくない声が…。
声のする方を仕方なく見てみれば、案の定そこには八意永琳の姿が…。
しかもその後ろには、不健康そうなツラした魔法使いと、確か妖怪の山に越してきた神社の巫女…早苗だっけ?もいる。
二人とも人里とかで逢った事あるからまだ判るけど、あの猫はいったい誰なんだろう。
まあ、そんな事は今はいいか。
「今のはどう言う意味だヤブ医者。」
「ご挨拶ね。それにそのままの意味よ。」
私の皮肉に眉一つ動かさない。なんか腹が立つ…。
しかも言ってる事は言ってる事で意味が判らないし。異変って何だよ。
「私は此処3~4日外に出てなんかないし、勿論何もしてないよ。」
「あら、私や寺子達の目の前で異変を起こしてくれたのによく言うわね。」
はぁ?ますます意味が判らない。
このヤブ医者は兎に性欲もてあましすぎて頭おかしくなったのか?
「永琳さん、まずは異変の事を説明しないと駄目ですよ。
多分妹紅さんは、私達が今日こうして尋ねてきた理由も判っていないでしょうし。」
ああ早苗、流石にわりと常識人っぽいだけあって話が判る。
頭良いくせに要領得ないヤブ医者とは大違いだな。
ただ、正面きって判ってないとか言われると何か虚しい。どうせ私は鈍感ですよ。
「そうだよ、何の用だよお前達。何か不釣合いな面子揃えてさ。」
だって魔法使い3人、ヤブ医者、妖怪の山の巫女、謎の猫…。
どうもアンバランスと言うか、共通点が見出せない。強いて言うなら全員魔理沙と関わりがありそう、ってくらいか。
だからその猫は誰なんだ。
「おねーさん随分乱暴な言葉遣いだねー。
ああ、あたいはお燐、旧地獄の地霊殿に住んでるんだよー。」
私が心の中で誰だと呟き続けたせいかは知らないけど、やっと猫の正体はちょっと判った。
お燐…お燐ね。本名は知らないけど、本人がお燐だと言うならお燐でいいか。
「そこの魔法使いよりはまともな心算だよ。
私は藤原妹紅、健康マニアの焼き鳥屋だ、よろしく。」
「言われてるぜアリス。」
「どう考えてもあんたでしょうが!!」
魔法使いのショートコントをスルーし、私はもう一度永琳に眼を向ける。
とりあえず、自己紹介すんだから事情説明のほうをよろしく。
「今、幻想郷では歴史が滅茶苦茶になるって異変が起きているのよ。」
そう言ったのは、永琳ではなく不健康な顔した魔法使いの方だった。確か名前はパチュリーだったよね。
歴史が滅茶苦茶に?それってどう言うこと…?
「大まかな説明は省くけれど、少なくとも博麗神社、紅魔館、永遠亭、守矢神社、そして地霊殿で異変が起きている。
私達はその異変を解決するために動き回っている最中に、まあ自然と集まったのよ。」
ああなるほど、妙に不釣合いな面子だと思ったけど、そう言う理由だったのか。
同じ異変を解決しようと情報を集めてれば、必然的に同じ目的を持ってる連中と一緒に行動するようになるよね。
どうでもいいんだけど、お燐が住んでる地霊殿って何処にあるんだろ。旧地獄って何処?まあ本当にどうでもいいけど。
「私達で話を総合した結果、その異変と言うのは全て『過去の事実或いは過去からの継続的な事情』が書き換えられたものだった。
そして極めつけは、人里やそこの薬屋から聞いた『里の守護者が行方不明』と言う事。
里の守護者は歴史を操る能力を持つ。少なくとも、守護者がこの異変に関係していることは間違いないわ。」
…聞いてて、慧音が悪く言われていることに腹立たしく思ったものの、なるほど確かに筋は通っている、と納得してしまう。
慧音は幻想郷きっての堅物。異変を起こすなんて事はとてもじゃないけど考えられない。
でも、どんな異変が起きているのかは知らないけれど、まあこれだけの面子が口を揃えて同じ事を言うんだ。
嘘を吐くには手が込みすぎているし、本当に異変が起きていると考える方が自然だ。
慧音が此処何日か行方不明なのも知っている。
最後に慧音と別れた時、慧音が凄く取り乱していた事も知っている。
そして今、幻想郷では歴史が滅茶苦茶になるという異変が起きている。
…もし、慧音が異変に関係しているなら、あの時の事に原因があるなら…。
…その責任は、確かに私にある…。
私は慧音を悲しませた。何がいけなかったのかは判らないけれど、それは事実だ。
「…慧音を、探そう…。」
私は俯きつつ、ボソッとそう呟く。
慧音を探して、もし異変に関わっていないならそれでいい。
だけど、もし異変に関わっていたら、異変の首謀者だったりしたら、それを解決するのは私の役目だ。
慧音を傷つけてしまった、この私の責任なんだ…!
「だけど妹紅、お前も慧音がいる場所が判らないんだろ?なのにどうやって探すんだよ。」
魔理沙がごもっともな横槍を入れてくる。
確かにそうだけど、今それ言う事かよ全く…。
「ああ、判らない。だけど、もうさっきまでとは事情が違うんだ。
見つかるか、見つからないか、じゃない。『見つける』んだ。」
これまでは確かに、私自身しっかり慧音を探していなかったのかもしれない。
慧音に逢いたい、慧音に謝りたい、ずっとそう思って慧音を探していたけれど…。
…正直、私は慧音に逢うのが怖かったのかもしれない。
慧音に逢っても、なんて謝ればいいのかが今の私には判らないから。
どうすれば慧音に許してもらえるのかが、判らないから。
だけど、今はもう事情が違う。
『異変』として、もう他の人たちまで巻き込んでいる。
私達二人の問題が、幻想郷全体にまで影響し始めている。
これ以上こいつらに迷惑を掛けられないし、それに…。
…それに、慧音にこれ以上、悲しんで欲しくない。
もし慧音がこの異変を起こしているなら、堅物の慧音が異変を起こすほどに、悲しんでいるのだから…。
…私のせいで、ね…。
「みんなも、出来れば…。…いや、違うな。」
私はいったん言葉を区切る。
魔法使い達や早苗、お燐にならともかく、永琳にまでこんな事いわなくちゃいけないなんて、私も躍起になったものだ。
でも、慧音のためなんだ。私が慧音に与えてしまった傷に比べれば、こんなのかすり傷にもなりはしない。
「お願いだ、みんなも協力してくれ。慧音を見つけたら、すぐに私に知らせて。」
私は素直に、此処にいる全員に頭を下げる。
幻想郷はそれなりに広い。私一人で探すには、時間が掛かってしょうがない。
だけど、私を含む7人なら、その作業も1/7以上にまで短縮される。
今は一刻を争うんだ。
もし歴史がさらに滅茶苦茶になって、私達が異変解決をしている歴史すら失われてしまったら…。
「それは勿論よ、何のために異変解決に乗り出してると思ってるのよ。」
「レミィたちのあんな萌…おぞましい姿を見ていたくはないわ。」
「あなたが私に頭を下げるのだもの、断るわけには行かないわ。」
「妹紅さん一人の問題ではありません。私達にも、この異変を解決しなくてはならない理由があります。」
「このまま帰ったんじゃ、地上まで出てきた意味がないからね!」
全員が全員良い返事を返してくれて、なんだか私は少し泣きそうになってしまった。
みんなが推理したとおりなら、この異変の元凶はこの私。
だと言うのに、みんな少しの躊躇いもなく協力してくれると言ってくれたのだから。
「あー、報酬次第だな。」
「お前は空気読めええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ただ一人、全く持って彼女らしい一言を言った魔理沙に、私の怒りが再びヴォルケイノ。
コノヤロウ一度焼かないといけないか?魂の底までウェルダンにしてやろうか?
「冗談だぜ、そう熱くなるな。」
全く、魔理沙の扱いだけはどれだけ経っても慣れる気がしない。
こんなのと長年付き合ってると言う博麗の巫女が、改めて末恐ろしく感じた。
物凄く如何でもいいんだけど、そう言えば何でこいつらはそんな異変が起きてるのにその影響を受けてないんだろう。
「…とにかく、慧音を見つけたらすぐに知らせてくれ。
慧音の能力はかなり強力だから、あまり刺激はしないように。」
それだけ言って、私達は幻想郷全土に散って行く。
出来れば私が見つけて私が慧音を説得したいけれど、今は一秒だって惜しい。
とにかく、今は慧音を見つけること、それだけを考えるんだ。
…慧音、何処にいるんだ…!!
「…あれ?そう言えばあたいはその慧音って人、どんなのか知らないんだけど…。
ま、いっか。それっぽいの探しとけば。」
* * * * * *
幻想郷散策の過程は省略するけれど、暫く経った後、日没直前くらいに慧音は見つかった。
見つけたのは、流石スピードには定評のある魔理沙だった。
慧音がいたのは無縁塚だという。…なるほど、確かに無縁塚なら普通の人は来ないだろうな。
だけど、そんなところで異変を起こしていたら閻魔に見つかるぞ。寧ろ、この4日間見つからなかった事の方が奇跡なんじゃ…。
「…っと、あそこか。」
私は魔理沙に言われたとおりの場所に到着し、まずは息を潜めて慧音を探す。
因みに、魔理沙には他に探しに言った連中を呼びに行ってもらっている。
それにしても、確かに手を出すなとは言ったけど、まさか魔理沙が本当にその事を守ってくれるとは…。
常識があるんだかないんだかよく判らない奴だ、本当に。
…さて、此処までは、私の理想通りの展開になっている。これで、私は慧音と二人きりで話す事が出来る。
さて、慧音は何処に…。
「…ううっ…。…ぐすっ…。…ひっく…。」
…誰かのすすり泣く声を聞いて、私は足を止める。
間違いない、今のは慧音の声だ。
足音を立てずに、私はその声のほうへと忍び寄って行く。
「…壊れてしまえ…。…歴史なんて…全部…ぐすっ…。」
私の眼に、4日ぶりに慧音の姿が映った。
…だけど、4日ぶりに慧音を見る事が出来た感動よりも先に、私は自分の眼が正常かどうかを疑った。
なにせ、慧音の姿は最後に別れた時と同じだったから…。
普通だったなら全く驚くような事ではないのだけれど、私が最後に見た慧音は…。
(…まだ…ハクタクのまま…?)
そう、この事件のそもそもの発端。それは慧音がハクタクから人間に戻らなくなったこと。
落ち着いて考えてみれば、確かに幻想郷全土の歴史を掻き乱すなんて事は、人間時の慧音には出来ないことだろう。
だけど、まだハクタク状態が解除されてないなんて…。…時間が経てば戻るんじゃなかったのかよ、ヤブ医者め。
「ううっ…、…妹紅…もこぉ…。」
慧音のその声が、ぐさりと私の胸を貫く。
やっぱり、私のせいだったんだ。私が慧音を悲しませて、そしてそのせいで、慧音はこんな事をしてしまった。
…だから、やっぱり私が、この異変を解決しなくちゃいけないんだ。
全ては私の責任。自分の撒いた種は、自分で刈り取らないと…。
「…呼んだ?慧音…。」
慧音の肩が、びくりと跳ねた。
そう言うと同時に、私は慧音に一歩ずつ歩み寄って行く。
「…も…こう…?」
その時見た慧音の眼は、どれだけ泣いていたのか、真っ赤に腫れ上がっていた。
…こんな慧音の姿、見たくなかったのに…。
その原因を私が作ってしまったのであれば、本当に馬鹿げた話だ。
「慧音、もう止めて。こんな事したって、他の人たちに迷惑が掛かるだけだ。
慧音は人間の里を守る守護者なんだよ?その慧音が、こんな事をしてちゃ駄目。」
慧音がこんな事をするまでに追い詰めてしまった奴が、なに言ってるんだと思う。
私にこんな事を言う資格なんてありはしないのに、とも思う。
…だけど、慧音にこれ以上異変を起こして欲しくない。悪い言い方だけど、罪を重ねて欲しくない。
「…煩い…。」
慧音から返ってきた言葉は、今まで一度だって私に言ったことのない、とても冷たい一言だった…。
…いや、厳密には、これで2回目か…。
「私はもう、この世界がどうなったって知ったことじゃない。
私はもう生きている意味すらなくなった。私は、私はもう…一番欲しかったものを手に入れられなくなった…。」
またぼろぼろと、大粒の涙を流す慧音。
慧音の一言一言が、私の胸を抉る刃物になって突き刺さる。
あの慧音がこんな事を言うなんて、本当に信じられない。だけど、今私の目の前で、慧音はこんなにも悲しんでいる。
そして、その原因を作ってしまったのは、何度も言うようにこの私。
慧音と今までずっと友達でいて、そしてこれからもずっと友達でいたいと思っていたのに…。
…人間でなくなって、死ななくなって、一人になってしまった私に…。
…ただ一人、手を差し伸べてくれた大切な存在、それが慧音だったのに…。
本当に、私は最低だな。大切な友達を傷つけて、そして未だに何がいけなかったのかが、判らないんだなんて…。
「もう、こんな世界は壊してやる。歴史なんて滅茶苦茶になってしまえ…。
どうせ私は、人間をやめた化け物だ…!妖怪は妖怪らしく、異変でも何でも起こしてやる!!」
「慧音!!」
慧音のその言葉に、私は思わず声を張り上げる。
今、私が慧音に絶対に言って欲しくなかった言葉があった。
幾ら自棄になってるからって、その言葉だけは、絶対に言って欲しくなかった…。
「慧音は化け物なんかじゃない!!慧音が化け物なら、死なない私は何だって言うんだ!!
慧音は人間だ!!死ななくなった私なんかより、ずっとずっと人間だ!!」
「煩い!!人間の妹紅に何が判るんだ!!」
私以上に声を荒げる慧音の言葉に、私は思わずたじろいでしまう。
「妹紅は人間だ…!!死ななくなった、そんな事、お前が人間でない証明になるものか…!!
人間として生まれ、人間として生きてきたお前に、何処に人間でない要素がある…!!
私は、私は人間である事を止めた。私はもう人間じゃない…。お前とは違うんだ、妹紅…!!」
違う、それは違う慧音…!
確かに慧音は半獣。生物として分類するなら、確かに慧音は人間じゃないかもしれない。
でも、人間として生まれて、人間として生きてきた。それは慧音だって一緒じゃないか。
私が何時も見てきた慧音は、里の事で頭を悩ませたりする、ただの里長みたいなもの。
私が知っている慧音は、寺子屋で子供達に歴史を教える、ただの一教師じゃないか。
それの何処に、慧音が化け物だなんて要素があるって言うんだ。何処からどう見たって、ただの人間じゃないか!
輝夜としょっちゅう殺しあって、何度も何度も死んでいる私の方が、よっぽど化け物じゃないか!
「…妹紅、私はお前の事が好きだった…。…この世で誰よりも、お前の事が好きだった…。」
…その時、何故か慧音の顔が笑っているように見えた。
いや、実際に月明かりに照らされた慧音の顔は、泣きながら笑っていた。
どこか、とても寂しそうに。
「だけど、お前は私の気持ちには気付いてくれなかった。
いや、結局、人間と妖怪が一緒になろうなんて事、無理だったんだろうな。」
慧音、何を言ってるの…?
誰よりも人間と妖怪との調和の事を考えていた慧音が、そんな事を言うなんて…。
「…だから妹紅、さよならだ。私とお前は、最初から出会わなかった。
お前との出会いも、全てなかった事にする。だから、此処でお別れだ…!!」
私が慧音の言っている事を理解するよりも早く、慧音は筆と巻物を取り出す。
それは、何時も慧音が歴史を操る時に使っていたもの。そこに歴史を記す事で、その歴史を自由に操る事が出来る。
私にはもう眼もくれず、慧音は筆を取って、巻物に何かを書き始めて行く。
「慧音!!やめっ…!!」
違う、私が今言うべきなのはそんな事じゃない。
とてもスローに見える世界の中で、私の頭は今までないほどに高速で回転する。
慧音、本当にそれでいいの?
慧音は、私と過ごしてきた全ての時間をなかった事にして、それでいいの?
私と過ごしてきた時間から、何も得られる事はなかったの?
そんな簡単に、私との時間を消してしまえるほど、その程度の存在でしかなかったの…?
いや、違う。これも全部、私のせいなんだ。
慧音は今、私に「好きだ」と言ってくれた。それが、慧音の本当の気持ちだ。
永琳が嘗て言っていた。私は鈍感だと。
だけど、その鈍感な私でも、今は慧音の気持ちをしっかりと受け取ることが出来た。
じゃあ、私はなんて言ってあげるべきなんだ?
どうすれば、慧音が動かす筆を止める事が出来る?
どうすれば、私は慧音ともう一度、友達でいることが出来る?
…私自身、もう判ってるんだ。きっと、ずっとずっと前から判ってた。
ただ私は、ずっとその事を言えなかった。自分の気持ちとして心に封じておくだけで、それを言うことはなかった。
死ななくなった私に、慧音は手を差し伸べてくれた。
人間である事をやめた私を、慧音はもう一度、人間にしてくれた。
ずっと思ってたじゃないか。感謝なんて言葉では言い表せないほどに、私は慧音を…。
…だから、今こそ言うべきなんだ。慧音が示してくれたように、私も…!!
私がずっと隠し続けてきた、本当の気持ちを…!!
「慧音!!!!好きだ!!!!」
* * * * * *
『妹紅と私は出会わなかっ』、そこまで書いたところで、慧音の筆は止まった。
後ほんの少しだけ遅かったら、全てが手遅れだったかもしれない。
「…妹紅…?」
唖然とした表情で、しかし眼から涙を絶やす事なく、慧音は私の顔を見る。
「…ずるいよ、慧音。自分だけ一方的にそんな事言って、挙句私と出会わなかった事にするなんて。
私だって、ずっと慧音の事が好きだった。この世の誰よりも、慧音の事が好きだった。」
私は一歩ずつ、慧音の傍に歩いて行く。
「…ごめんね、慧音。私、鈍感みたいだからさ…。
ずっと慧音の気持ちに気付いてあげられなかった。慧音の事が大好きだったのに、慧音の気持ちが判らなかった。」
だから、慧音は自棄になって、こんな異変を起こしてしまった。
きっと慧音は、あの時私の家で一緒に生活していた事に、特別な意味を持っていたんだろう。
なのに私が、慧音の気持ちも考えずに物を言ってしまったために…。
…私と違って、あの時の慧音はずっと私に自分の気持ちを出し続けていた。
なのに私は、慧音の気持ちに気付かなかった。
そりゃあ、寺子達や永琳に冷たい目で見られても、おかしくはない。寧ろ当然だ。
「本当に、ごめん。死んで償えって言うなら、何度だって死んでやるよ。
だけど、もう一度だけ言わせて。
慧音、大好きだ。」
ああ、なんだか随分すっきりした気がする。
たった一言、謝るよりも先に、慧音にこの言葉が言いたかった。
感謝なんて言葉では言い表せないほどに、私は慧音の事が大好きだった。
何時も思うだけで口に出さなかった一言、それをやっと言う事が出来た…。
「妹紅…!!」
此処に来てから慧音が泣いていない姿を見ていない。
だけど、何故か今の慧音の涙だけは、見ていて少しだけ暖かかった。
「…私も、妹紅が好きだ…!!」
「…うん。」
「好きで好きでどうしようもないくらいに、お前が好きだ…。」
「…うん。」
「私は多分、お前よりも先に死ぬ。きっといつか、お前と別れなくちゃいけない時が来る。」
「…うん。」
「…それまで、ずっと私と一緒にいてくれるか…?」
「…勿論、ずっと一緒だよ、慧音。」
時間にして、10秒掛かったか掛からないか程度の会話だった。
だけど、今の私達にはそれだけで十分だった。
慧音の言うとおり、私と慧音は何時かはお別れしなくちゃいけない時が来る。
死ぬ事のない私は、今目の前にいる大切な人の死を、見届けなくちゃならない。
だけど、いや、だからこそ、今二人が生きているこの時間を、大切にしなくちゃいけない。
最期に悔いが残らないように。笑ってお別れが出来るように。
…そして、ずっと慧音に、私の心の中で生きていてもらうために…。
「終わったみたいね。」
と、静かに無縁塚に響き渡る第三者の声。
何時から見ていたのか、声の主の八異永琳と、魔理沙やアリス、パチュリー、早苗、お燐の姿も。
何故か早苗まで泣いていた。…貰い泣きって奴か?そーなのかー?
「んあ?何で慧音の奴ハクタクなんだ?今日は満月でもなんでもないぜ?」
慧音の姿を見るなり首を傾げる魔理沙。
そう言えばそうだった、慧音のハクタクモードは何でまだ解除されてないんだ?
おい、診察したヤブ医者、答えてくれ。
「…まあ、原因は判ってるわ。あなた、あの薬をまた飲んだでしょ?」
びくりと慧音の方が跳ねる。
あの薬?あの薬って…?
「元々、慧音がハクタクから戻れなくなったのは、私の精神安定剤の使い方を間違えたから。
まだ結構余ってたはずだし、そもそも今そこでこんなの拾ったからね。」
そう言って、永琳は小さな袋みたいなのを取り出す。
あれって、私が慧音にあげた精神安定剤…?
「自暴自棄になってたわりには、こういう事には頭が回ったみたいね。
私は『早く戻りたかったら薬の服用はしないように』と言ったけれど、逆に言えば飲めばハクタクのままでいられるって事だから。
全く、普段しっかりしているだけにはた迷惑な話だわ。」
…ああ、結局、そこにまで私の責任は少しあったわけね。
その精神安定剤を貰ってきたのは私だし、使用法について慧音に何も伝えなかった。
慧音なら使用法をちゃんと確認してから飲むだろうな、とは思ってたんだけどなぁ…。
「全く、里の守護者がそんなんで大丈夫なのかしらね。」
アリスからの厳しい一言。
アリスも慧音と同じく、人間から魔法使いになった存在だと聞く。
…きっと彼女なりに、慧音を心配しての一言だったんだと思う。
「全くね。こんなつまらない事で外を出歩くなんて二度と御免だわ。」
パチュリーからの追い討ちの一言。
…まあ、こいつらはこいつらで色々迷惑だっただろうしな。
私も含めて、今だけはこう言われても仕方ない気もする。
「まあまあ二人とも、これで万事解決なんだからいいじゃないですか。」
目元の涙を拭いつつ、早苗がフォローしてくれた。
「そうだねー。ところでお姉さん、ちゃんと壊れた歴史は元に戻せるんだよね?」
お燐がもっともな事を言う。
それもそうだ、そう言えばちゃんと元に戻せるんだよね…?
「ああ、幻想郷全土を修復するにはちょっと時間が掛かるだろうが、必ず朝までに元に戻す。
…みんな、本当にすまなかった。なんとお詫びすればいいのか…。」
全員に向かって頭を下げる慧音。
…ああ、良かった、もう完全に何時もの慧音に戻ってる。
これで、もう大丈夫だ…。
「私からも謝る。本当にごめん、みんな…。」
私も頭を下げる。
何処までいっても、今回の異変の責任は私にある。
なのに慧音だけが頭を下げるなんて、そんな馬鹿な話はない。私もちゃんと謝っておかないと…。
だけど、魔理沙たちは何故か急に花が咲いたような笑みを浮かべて…。
「はははは、なに言ってやがるんだ。こんな異変なんか幻想郷じゃしょっちゅうじゃないか。」
…えっ?
「まあ、確かにそうね。ついでに言うと、異変起こして謝ってきた奴なんて一人もいないわね。横にいる薬屋さんも含めて。」
「…この間異変起きたばかりだから、もうちょっと間隔開けて欲しかったけどね…。」
「たまには私がこうして動くのも面白かったわ。姫が異変の影響を受けさえしなければねぇ。」
「今更そんなの気にもなりませんよ。この幻想郷では常識に囚われてはいけないみたいですので。」
「色々楽しかったよー!異変解決ってのも面白いもんだねーっ!」
…ああ、もう、何か全てがどうでも良くなってきた。
もうさ、別に私人間じゃなくてもいいじゃん。周りはこんな常識外れな連中ばかりなんだからさ。
人間か人間じゃないかなんて事、それが物凄く小さくて、くだらない事に思えてきた。
私は此処にいる。此処でこうして生きている。それだけで十分だ。
大切な人の隣で、毎日一緒に過ごしている。それ以上の事を望む必要なんてない。
死ななくてもいい。人間じゃなくてもいい。輝夜と殺しあっててもいい。
私はただ、慧音の傍で生きていたい。それだけでいいじゃないか。
「…まったく、お前たちと言うやつは…。」
慧音もまた、どこか嬉しそうな表情でため息を吐く。
きっと、慧音も私と同じ事を考えていたんだと思う。
本当に、こいつらは何時も通りだ。
だけど、その何時も通りが、きっと大事なんだと思う。
長い間一人で過ごしてきて、長い間輝夜と殺しあってきて、長い間慧音と過ごしてきて、そんな当たり前の事も忘れていた。
竹林に一人でいるのが、殺しあっているのが、慧音の隣にいるのが、当たり前になっていたから。
…慧音の隣にいる事が当たり前になってしまったから、私は慧音の気持ちに気付けなかった。
慧音が私に気持ちを伝えてくれるのが、当たり前だった。当たり前の事を、当たり前の事としか受け取れなかった。
私はもう一度、この当たり前の幸せを噛み締めないといけないんだ。
「慧音。」
だから、私は慧音に最後にこの言葉を言いたい。
とても当たり前で、でもとても大切な言葉だと思う。
私は、ずっと慧音の隣にいる。何があっても、慧音の傍を離れない。
だから、慧音…。
「一緒に帰ろう、私達の居場所に。」
私は慧音の手を、そっと握る。
その握った手が、とても暖かくて、とても優しくて…。
「…ああ…!…帰ろう、妹紅…!」
慧音も、私が今まで見てきた中で最高の笑顔を浮かべてくれていた。
ずっと見ていたい、この笑顔を。私は素直にそう思う。
だから、ずっと見ていられるように、私はこの手を繋いでいるべきなんだ。
こうして私は、慧音ともう一度触れ合うことが出来た。
だから、一度手放してしまった慧音のこの手を。
私は、絶対に手放さない。
未来永劫、手放さない。
ずっと、ずっと一緒だよ、慧音…。
ありがとう…。
諏訪子の大人バージョンがとても魅力的だったと思います!
でも、私はそこまで笑えなかったなぁ……。
面白かったですけどね。
追記:人のセリフの文末に(例)「私からも謝る。本当にごめん、みんな…『。』」
のように、「。」は必要ないですよ。
さてどういうことだ?
もこけね度の判定とかか?www
前半のドタバタから一転、後半シリアスになるその落差が良いです。
追い詰められて壊れそうな状態ってすごく好きなので…ご馳走様でしたw
もこけね話は自分の日々の活力です。
過去話、わくわくして待ってますね!
素敵なお話をありがとうございました!!
前半部分の暴走から後半にシリアスとは中々ギャップがあって楽しかったです!