Coolier - 新生・東方創想話

この差はなんなのさ?

2008/10/26 10:31:02
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季節は秋真っ盛り。
高く拡がる澄み切った蒼の空、その下には燃える様に紅い山々が季節を彩っていた。
此処は幻想郷でも滅多に人や妖怪の立ち入る事の無い場所、迷い家。
その名の通り、真に迷ったものだけがたどり着けると言われているのだが紅白や白黒を見かける辺りその限りではないのかもしれない。
そんな迷い家の主、八雲紫はむくりと寝床より起き上がる。
(はて?いつもより早く起きたのかしらん、それとも寝すぎたのかしら…)
ぼ~っとした頭で上半身だけ起こした状態でしばし固まる。
すると、すぐ横の襖からガタッという音が聞こえてきたので顔をそちらのほうに向けてみる。
そこには驚愕の表情のまま紫と同じく固まっている式である藍の姿がある。
藍は我が目を疑うと同時に混乱する。
三年どころか万年寝太郎といって差し支えの無い主が今日に限って朝一番に『自ら』起きているのである。
いつもなら紫は冬の冬眠に向けて食糧を蓄え、眠る時間がだんだんと延びてくる時期である。
(何故?…検索…月の巡り…過去事象…異変…結界…巫女…たくあん!?…)
瞬時に恒河沙の暗算が可能な藍の高速演算処理能力でも主の行動理論を理解する事は不可能だ。
そんな藍の様子を見てため息一つ吐きこう告げる。

「藍、貴女に今日一日休暇を与えるわ。…そうね、橙と一緒に紅葉狩りにでも行ってきたら?」

さっきから固まったまま状態であった藍だがこの言葉には思考まで固まってしまう。

「…へっ?…あ…えぇ!?」

何かを口にしようするのだが出てくるのは間抜けな喘ぎ声だけだ。
紫はそんな藍の様子を見てため息二つつ吐きこう告げる。

「藍、これは命令よ。復唱しなさい。」


「は、ハッ!私は今日一日休暇を与えられ、橙と紅葉狩りに行ってきます。」


「宜しい、そんな訳で今日は夕食の準備まで不要よ。下がりなさい。」


「失礼します。」

藍は首を捻り、ついでに頬を抓りながら部屋を後にした。
(そんなに休暇を与えたのが信じられなかったのかしら、失礼な子ね…でもそういえば何年振りかしらね)
ふと思い返してみて、年の位が三つを超えたところで面倒臭くて止めた。

「さて、天気もいいし何処から回ろうかしら…」

お気に入りの紫のドレスに袖を通し意気揚々と出かける紫であった。




「…ふわぁぁ…」

場所は変わって紅魔館前。
いつもの如く門番として立ち続ける美鈴の姿があった。
朝も早く眠気も覚めていないのか、しきりにはしたなく大きな口をあけて欠伸をしている。
すると、どこからかとてもよく通る美しく澄んだ歌声が聞こえてくる。

「ド~はドイツ軍人のド~♪レ~は霊夢のレ~♪み~はみ~な殺し~、ファ~はファッ○のファ~♪其~は、かけふの毛~♪」

色々台無しに危険な歌である。しかも凄まじく語呂が悪い。
美鈴は動揺する、本能的に危険を察知したと言ってもいい。
あの八雲紫が『朝早く』から『スキマを介さず』此処に来た。
とりあえず突っ込みたい歌の事は頭の外に排除する。
様々な憶測や混乱を頭から追い払い美鈴は職務を真っ当することに努める。

「止まれっ!此処は誇り高き吸血鬼の王、レミリア・スカーレット様の館だ。如何様で参られた!」

とりあえず形式的に大声を張り上げて相手の様子を見る。
対して意にも介さず門の前まで歩いてきた紫は、胡散臭く笑って挨拶をする。

「あら、御機嫌よう。今日はお茶をご一緒しようと思って来たのよ。貴女のご主人にお目通し願えるかしら?」
(…この子は駄目ね。平凡すぎるわ。)

紫の値踏みをするような嫌らしい視線に身じろぎをする美鈴。

「れ、レミリア様はこれからお休みになる時間だ。また後日来るがいい!」

紫の視線に居心地の悪さを感じながらも、やはり門を通そうとはしない。
まともに戦っても勝てる相手ではないのだ、大人しく引き返してもらうしかない。
…が、勿論大人しく引き下がる相手ではないだろうなと警戒する美鈴。

「…ならいいわ。直接会いに行かせて貰うから。」


「っ!させるかっ!!」

強靭な脚力を生かして一気に間合いを詰めようとする美鈴とスキマを開いて空間跳躍しようとする紫。
その両者の間に一本の銀のナイフが突き刺さる。

「うわっ!」

「…!」

次の瞬間には突如として現れた紅魔館の誇るメイド長、十六夜咲夜が瀟洒に佇んでいた。

「八雲紫、お嬢様がお会いになるそうよ…ようこそ、紅魔館へ。」

こうして正式に迎え入れられた紫は、長い廊下を咲夜と共に歩いていた。
しばらく歩いていたが、やはり咲夜も疑問に思ったのか口に出して聞いてみる。

「…あなたが朝早くからやってくるなんて、どういう風の吹き回し?」


「ん~…お茶を飲みに来たのよ。他意は少ししかないわ。」
(この子も人間だから駄目ね~)


「…そう、くれぐれもお嬢様に粗相の無いように。」


それだけ話すと、後は何事も無かったかのように歩き続ける。
まだ朝が早い為、妖精メイドたちは起きていないようで、館の中は静まり返り二人の靴の音だけが響いている。
一際大きな扉の前に立ち咲夜は失礼します、と声をかけその扉を開く。
その部屋の中で館の主は既にお茶を味わっているようだった。
紫は何も言わずにレミリアに相対する席に腰をおろす。

「御機嫌よう。お茶を一杯頂けるかしら?」


「…ああ、存分に味わっていくがいいわ。」

そんな短いやり取りのあと、黙々とお茶を飲む二人。
流石の咲夜もどうしたものか、と対応に困っていた。
(…駄目ね。いい線行ってるけど、我儘すぎる。)
紫がそんな判断を下した時に、

「…それで、私は御眼鏡に適ったのかしら?」

にやりと笑って突如そう聞いてくるレミリアに、紫はほんの少し驚きの表情を形作る。
その後に少しだけ笑って首を横に振った。
そう…と答えて再びお茶を口にするレミリア。

「案外普通の反応ね?文句の一つでも言われると思ったけど。」

と、疑問を口にする紫。
レミリアの反応が意外だったようだ。

「興味が無いからね。面倒を起こすのは好きだけど片付けるのは嫌いよ。そして、いいように利用されるのはもっと嫌い。」

主の後ろに仕える咲夜は二人の脈絡の無い会話が何を指すのか理解できないでいた。
…がおくびにも出さず、すまし顔でいる。
そこが瀟洒と言われる由縁でもあるのだろう。

「成る程ね…っと、そういえば此処の図書館に魔女がいたわよね。じゃあ、あの子にこの袋を渡してもらえないかしら。用途や使用法は追って説明するわ。」

そういって、扇を取り出し何も無い空間を優雅に一薙ぎする。
すると空間が縦に開かれ、そこから黒い袋が取り出される。

「ふん、まあいいわ。咲夜。」

そう言い終った頃には、既に袋は咲夜の手元にある。
それを満足げに見た紫は徐に席を立つ。

「そろそろ御暇させて貰うわ。お邪魔したわね。」


「全くその通りね。咲夜、門までお送ってやりなさい。」

その必要は無いわ、と一言言うと紫はするりとスキマの中に消えていった。
その様子を見届けてから、咲夜が口を開く。

「お嬢様、一体アイツは何の用で此処に来たのでしょう?」


「さてね、私達には関係の無い事よ、忘れてしまって構わないわ。もう私は眠いから寝ることにする。後の事は宜しく。」

そういって寝床に向かってしまう。
はぐらかされたなと、思いながらも咲夜は主の判断に従う事にした。
そしてその数瞬後には、紫と会ったことも忘れていたのだった。





紅魔館を出た紫は魔法の森上空をゆっくりと飛んでいた。
まだ、朝の静謐な空気が残り太陽が昇る途中といえる時間帯だった。

「次は白玉楼あたりかしらね~って…あら?」

紫の視界には朝霧に包まれた小さな家が映っていた。
(そういえば、この森に人形遣いがいたわね…うん、よし!)
そう一人頷くと小さな家に向かっていった。

その時アリスは一人、食後のお茶の時間を楽しんでいた。
人形に配膳を任せ本を読みながらの優雅なひと時、この安らかな時間が彼女のお気に入りであった。
コンコンコン、と控えめに三度のノックがされる。
(…?こんな時間に誰かしら…)
アリスは不審に思う、何故なら彼女の知り合いに律儀にノックをするような輩などいないはずだからである。
時々森に迷い込む者が来るが、こんな時間から来る事ないだろう。
(とりあえず出ない事には始まらない、か…)
そう思い、アリスはドアを開け

「あら、御機嫌よ…」

すぐに閉めた。おまけにガチャリと鍵をかけ塩をまく。
しかし、そんな事などお構いなしとばかりにドアのスキマからにゅるりと湧いて出る紫。
思わず「んぎゃっ」などと情けない悲鳴を上げてしまう。

「御機嫌よう、アリス。お茶を一杯頂けるかしら?」

澄ました顔で上がりこみ返事も聞かずにイスに腰掛ける紫。
対するアリスは頭を抱える。
知り合いの中で一番関わりたくない相手が目の前でお茶を要求しているのだ。
しかも、断ったら何をされるかわからない。
とりあえず、大人しく人形にお茶を持ってこさせることにする。

「…それで一体何の用かしら?」

話を聞いているのかいないのか、人形から紅茶を貰ってご機嫌そうな紫はその人形を撫でている。
そしてそのまま人形をぽいっとスキマ空間に放り込む。
アリスの眉間にぴきっと一本の皺が寄る。
(駄目だ、いちいち相手にしていたらどんな言いがかりを付けられることやら…沢山あるんだしまた造ればいい…)
自分に言い聞かせている間にも紫は茶菓子を持ってきた人形、片付けに来た人形など、抱きしめてはスキマに投げ、キスしてはスキマに
投げを繰り返す。
眉間の皺が八本になろうかと言う所でアリスがキレた。

「ちょっと!アンタ幾つ盗めば気が済むのよ!?」


「そうそう、今日はアリスにお土産があるのよ。」

全く噛み合っていない会話のせいで頭痛と胃痛に閉じるムーンライトレイのように襲われるアリス。
逃げ場などあるはずもなくあとはピチュるだけだ。
対する紫は何処からか黒い袋を取り出しアリスの前に置く。

「これは、近い将来絶対に貴女の為になる物よ。用途や使用法は追って連絡するわ。お茶美味しかったわ。ご馳走様。」

言いたいことだけ言って勝手に窓のスキマからにゅるりと出て行ってしまった。
何度見ても気持ちが悪いものだ。
アリスは残された黒い袋を見て捨ててしまおうかとも思ったのだが、妖怪の賢者とも呼ばれるあの紫が置いていったものだということで
とりあえず開けずに保管する事に決めた。






ようやく、太陽が昇りきり空気が暖まった頃、紫は白玉楼にいた。
長い長い階段を上って行くと門の前でせっせと落ち葉をかき集める妖夢と目が合う。
(この子はまだまだ修行不足…惜しいけど駄目ね。)

「あれっ?紫様じゃないですか。こんな真昼間から珍しいですね。幽々子様なら縁側で紅葉をお楽しみになっているようですが…
 ご案内しましょうか?」


「いいえ結構よ。大体どこにいるか想像はつくから。貴女は掃除を続けていなさい。」

妖夢は一礼するとその場を去っていった。
おそらくは紫の来たのを感知して門の前で待っていたのだろう。
全く律儀な娘だ、と紫も感心する。
二百由旬あると言われる冥界の庭もすっかり秋の色になっていた。
妖夢が整えたであろう美しい景色を堪能しながら歩いていると、縁側に座る幽々子の姿が見えてくる。

「御機嫌よう、幽々子。」


「あら、紫、お久しぶりね。」

そんな軽い挨拶を交わした後、紫は早速本題に入ろうとする。
懐から紅い袋を取り出して幽々子に見せる。
そして、何かを口にしようとしたところを幽々子に手で制されてしまう。

「紫、私は悲しいわ~。いつから貴方は友人に厄介ごとを頼み込むようになったのかしら~。」

いつも厄介事しか頼まない自分を棚に上げてそんなことをのたまう幽々子。
勿論頼まれるのは妖夢であり厄介事に巻き込まれるのも妖夢なのだがそこら辺は愛嬌だ。

「そんな事言わないで頂戴な。今回の事は貴女だってあながち無関係ではないでしょう?」


「だから、嫌なのよ。もう閻魔様のお説教は受けたくないし。」

結局、そんなやるやらないの問答を小一時間繰り返し、お手伝いはするという確約を取り付けたところで紫が折れた。
不満げに紅い袋をしまい込む紫を苦笑しながら見つめる幽々子。

「お次は永遠亭辺りにでも行くのかしら?」


「…いいえ、素質的には申し分ない者達ではあるけど、まだ幻想郷に来てからの日が浅い。今回はパスね。向かうのは妖怪の山よ。」


「あら、じゃあ早速出番なのね。まあお昼くらいウチで食べていきなさいな。」

そんなこんなで、紫が白玉楼を出たのは三時のおやつを食してからだった。






紅葉舞う妖怪の山、紫は少し急ぎ目に飛んでいた。
(いけないいけない、少し幽々子とお喋りしすぎたわね。…でも、この袋どうしましょう。)
黒い袋を指に引っ掛けてぶるんぶるん振り回してみる、とその時目の前で突風が巻き起こる。
そして、その拍子に袋が指を離れ重力に従い袋は下に落っこちてしまう。

「あ、あ~……確か下は沢だったかしら………ま、いっか!」

そう言って、その突風の起こった元を見てみると、そこには黒髪の鴉天狗の少女、射命丸文がむっつりとした顔で佇んでいた。

「八雲紫さん。あなたのような強大な力を持つ妖怪に堂々と山に入られると非常に困るんですよ。我々にも面子というものがありますからね。
 スキマを使ってコッソリ移動するか、さっさと私にやられちゃって退散するか、どっちかにしてください。」

そういって風神団扇を構え戦闘態勢に入る文。
勿論彼女だって相当な実力者だが一人でスキマの大妖と謳われるかの八雲紫に勝てるとは思っていない。
ただ此処は妖怪の山、彼女のテリトリーである。
騒ぎを起こせば哨戒天狗や大天狗だってやってくる。
流石の紫も天狗の全てを敵に回すような愚は犯さないだろうとふんでいるのだ。
対する紫はよっこらせとスキマに腰掛け戦意が無い事をアピールする。

「ふふっ御機嫌よう。今日は貴女にお願いがあってやって来たのよ。」


「あややっ、私にですか?」

まさか自分に用があるとは思っていなかったらしく、随分と意外そうな顔をする文。
特に付き合いが深いわけでもなくインタビューでもない限りは挨拶を交わす程度の関係だったはずだ。

「ええ、ちょっと上の神社でドンパチかますのを黙って見過ごして欲しい旨を天魔様に伝えて頂きたくって。」


「いやいやいや!そんなの無理に決まってるじゃないですかっ!何考えてるんです!?」

両手をぶんぶんと振って即答する文。
天魔とは天狗達の頭領であり頂点の存在だ。
力だけでなく特に統率力、知識、人徳などを重視され選ばれる天魔は天狗達の中でも絶対の存在だ。
天狗の中でも異端である文としてはあまり顔を会わせたくない相手でもある。

「モチロンただで、とは言わないわ。」

そう言って紅い袋を取り出して見せ付ける紫。
文は腕を組んで渋い顔をしている。
その袋の中に天狗を、いや自分を動かすほどの物が入っているのか?という顔だ。

「…とりあえず聞いておきましょう。その袋の中には何が入っているんです?」

よくぞ聞いてくれましたといった感じに妖しく笑う紫。

「この袋の中には近々起こるであろう異変の解決を手助け出来るものが入っているわ。」

異変という言葉を聴いてピクリと反応する文。
もちろん紫はそれを見逃さない。
にやりと哂って話を続ける。

「貴女は異変についていつも詳しい話を聞き出せなくてもどかしい思いもしている…それに最近ある噂が流れているのは知っているでしょう?
 一新聞記者として巨悪に立ち向かい真実を暴く…ああ!誰もが一度は体験してみたいシチュエーション!!」

身振り手振りを交え芝居がかった台詞で舞台役者のようにクネクネと動く、いや蠢く。
全くもって胡散臭い事この上ない。
かと思ったら、急に真面目な顔をして大きなスキマを開く。

「もし、貴女が首を縦に振ってくれないのならこのスキマを介して直接天魔様に直訴しに行くわ。この私が直接お願いするんですもの天魔様だって
 了承せざるを得ないわ。でもそれは面子を重んじる天狗にとって、侵入者を頭領の下まで行く事を許した、天魔様が折れた、という事実は
 致命的になるわ。勿論貴女が首を縦に振ってくれれば、私はひっそりスキマを使って神社に行き、結界を貼る。誰も入って来れないから事実を知るのは
 貴女と天魔様だけ…あら?これじゃあどっちが賢いかなんて一目瞭然ねえ~」

巧くて汚いやり方だな、と文は思う。
最初の条件提示の時点で、結構文の心は傾いていた。
しかし、一瞬すら悩む事など許さぬとばかりに脅迫めいた文言の鞭と追加条件の飴。
そしてこの『脅迫めいた』所がミソなのだ。
そう脅迫されたと天魔に告げれば文自身に批難が降り懸かることも無い。
詰まるところ、文のプライド云々などすっ飛ばされて道は一つしか残されていなかったのだ。
(全くもって恐ろしい…絶対に敵にはまわしたくありませんね…)
肝を冷やしながら文は大きくため息を吐く。

「…はぁ…わかりましたよ。あなたの言いなりになるのは非常に気に入りませんが、最良の選択をさせて貰います。くれぐれも騒ぎを
 大きくしないで下さいよ。」

紅い袋をしっかりと受け取ると文字通り風のように去っていってしまった。
その様子を満足そうに見送ってから

「さてさて、これからが本番かしら。頼むわよ幽々子…」

と呟き、肩に留まる蝶が「はいは~い」と気の抜ける返事をするのだった。










そして場所は守矢神社。
夕日が赤く輝き、山の紅は更なる深みを増している。
山や雲そして空間ですら紅く彩っているかのように、目に映る全てが真紅であった。
そんな神社の風祝である東風谷早苗はどこぞの巫女とは違い、せっせと終わりなど無いかのように舞落ちる落ち葉をかき集めていた。
ふうっと一息ついたところで鳥居の方から、黒い影が伸びてくるのに気付く。
(あれは……紫さん…?)
確かに鳥居の方から歩いてくるのは紫の様だった。
ただ、逆光の筈なのに不気味に輝く金色の瞳に威圧感を感じる。
早苗は一応、神奈子か諏訪子に伝えようか逡巡していると向こうから声をかけられる。

「御機嫌よう。お宅の神様はいらっしゃいます?」


「あっはい、居ますけれど……何か御用でしょうか。」

いつもと雰囲気の違う紫に違和感を抱き思わず早苗は訝しげに聞き返してしまう。

「ああ…大した用事じゃないのよ。ちょっとお話したいことがあって来ただけなの。」

紫はにこりと笑って答える。
ただし眼は微塵も笑っていない。
早苗の違和感が不信感に変わろうという時、社のほうから神奈子の声がかかる。

「早苗ぇ~、今からちょいとお遣い頼まれてくれるかい?里に立てる新しい分社の祝詞を詠んできて欲しいんだ。」


「わかりました~。あ、あの…紫さんが見えてるんでるけれど……」


「ああ、彼女なら私が呼んだんだ。通していいから早く行っておいで、帰りが遅くなってしまう。」

と、姿の見えない神とそんなやり取りをした後、早苗はぺこりと頭を下げて神社を後にする。
改めて視線を社に向けると中から不敵に笑った八坂神奈子が出てくる。

「久しぶりじゃないか、八雲の。そろそろ冬眠の準備に入ってる頃かと思ったんだけどねえ。」

神奈子は軽口をたたきながら、からから笑っている。
紫も懐から扇を取り出し口元を隠して笑う。

「話を合わせてもらって、悪いわねえ…今日は貴女にお話があってやって来たのよ。」


「へえ…それは弾幕言語でかい?そんな敵意を隠さずに来るもんだからすぐに判る。」


「話が早くて助かりますわ。貴女は己が利の為大きな力を動かしすぎた。いずれ逸れは綻びとなり異変を呼び起こすでしょう。しかし異変自体は
 博麗の巫女が解決するのでそれほど問題ではありません。問題なのは黒幕である貴女が博麗の巫女によって裁かれない事。よって代わりに
 幻想郷の管理者であるこの私が貴女を裁く事にします。」


「一介の妖怪が神を裁くとは大きく出たわね。自分の思い通りに行かないのが気に入らないのは判るが、こっちはルールを破っちゃいない。理由も無く
 裁かれるわけにもいかないね。」

二人の中心の石畳がビキリと大きな音を立てて割れる。
双方笑みを崩さないが凄まじい力の奔流がその空間を責め立てているかのようだ。
地鳴りがだんだんと大きくなり木々がざわめき始める。
既に神社の周りには四重の結界が張ってある、いかなる者も出る事入る事適わない。
だんだんと夜が降りてくる社の上から、突然陽気な声が響く。

「なんだかウチの境内で随分と楽しそうなことやってるねえ。勿論私も混ぜてくれるんでしょ?」

そういいながら守矢神社の二神が一柱である洩矢諏訪子が屋根の上で獰猛な笑みを見せる。
後ろには巨大な蝦蟇のオーラが立ち昇り見る者を圧倒する。
すでに意気軒昂、戦意充分のようである。
諏訪子が屋根の上から下に飛び降りようとした時、紫はクスリと笑って肩に付く蝶に向かいぼそっと何かを呟いた。
すると紫の背後に巨大な扇が浮かび上がる。
なんと不思議な事に、突如今まで舞い踊っていた紅葉はその姿を桜の花びらへと変えていく。
ひらひらと舞い散る桜はだんだんと輝く蝶の形をとり諏訪子の前で繭を形成する。
その場にいた二柱はそんな荘厳で幻想的な景色に目を奪われている。
繭はだんだんと人型を作っていき西行寺幽々子の姿を成す。
幽々子は妖艶な笑みを浮べ…


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~んっ!!」


…色々と台無しだった。
見惚れていて損した気分の二柱と苦笑する一匹、満天の笑みの一人。
こうして、紫は神奈子に、幽々子は諏訪子に、それぞれが相対する。


「さて、役者も揃った事だし始めましょうか」                /  「冥界の姫か。相手にとって不足は無いねっ!」

                                    
「成る程、二対一じゃ分が悪いと踏んで助っ人を呼んだか。       /  「うふふ、蛙は美味しいと聞くわ。とても楽しみ…」
 妖怪らしいね。」 


「効率のいい方法を選んだだけ。どっちにしろ貴方達は私に       /  「神を食べようとは不届き千万!ってやつだね。」
 裁かれることになる。」


「怖れを知らぬ妖怪よ。神の畏れを知るがいい!!」           /  「私の力は神すら殺しきるのかしら?」


「郷に入っては郷に従え…貴女は私でなくこの郷の掟に敗れるのよ!」 /  「試してみるがいいわ。出来るものならねっ!」


…こうして幻想郷を揺るがすほどの地鳴りとともに、史上最大規模の弾幕戦が始まったのだった。


…………………

…………

……













辺りはすっかり暗闇に包まれていて陽の光は地平の彼方に消えた博麗神社。
紅白と白黒の二人組はのんびりと縁側でお茶を飲んでいた。

「いや~さっきまでの地鳴りはすごかったな~…霊夢、これって何かの異変じゃないのか?」


「さあ?幻想郷の危機ってわけでもなさそうだし放っておいていいんじゃないかしら。私の予感はもっと…」

急激に妖気が集まってくるのを感知して、話をそこで止める霊夢。
見ると肩の上に手乗りの大きさの鬼がちょこんと乗っかってお酒を飲んでいる。
神出鬼没とはまさにこの事だ。
見た目は幼いが強大な力を持つ鬼、名を伊吹萃香という。
霊夢が肩の上からぽんぽんと払い落すと抗議の視線を上げる。

「ちょっとくらい肩貸してくれたっていいじゃない…ああ、そうそうさっきの地鳴りだけれどあれはたぶん力の強い妖怪同士のケンカかなんかだよ。
 ここ最近はメッキリ無かったみたいだけど昔はそれこそ四六時中鳴ってたもんさ。」

そういって魔理沙の疑問に答える萃香。
ふ~ん、と話を流す霊夢は特に関心がないようだ。
一方の魔理沙は興味を持ったのか、誰がやりあってるかだの、スペルカードルールの適用はどうしただの、
いろいろ聞き出そうとしているようだった。
そんな賑やかになった博麗神社からは陰になって見えない階段のふもと、ふらふら動く二つの影がみえる。
どうやら、その二つの影は紫と幽々子であるようだった。

「う~思った以上にしんどかったわ…まさかあそこまで信仰心が集まってたなんて…行くのがもう少し遅かったら危なかったかも…」

そう呟くのは紫だ。
足取りはフラフラで服もボロボロ、相当激しい戦いであったであろうことが容易に想像できる。

「あんなに強いなんて聞いてないわよ~。力使い果たしちゃってもう動けないわ~。妖夢の介抱が一ヶ月は必要よぅ…」

紫に肩を借りて辛うじて歩いている振りをする幽々子。
浮かんでるのでそんな事をする必要はないのだが余程疲れていることを表現したいらしい。
「負けたの?」という問いに「まさか。食べないでくださいってケロケロ泣かせたわ~」などと軽口をたたき合ってる様子を見ると、まだまだ
余裕があるようにも見えるのだが…
何やら騒いでいることに気づいたのか、霊夢が階段を覗き込んでフラフラな二人を見つける。

「幽々子に…紫!?あんた達一体そんな恰好でどうしたのよ?」

普段めったのに動揺することのない霊夢だが、二人のそんな様子を見て少々驚いているようだ。
そんな霊夢の反応を見て神社で騒いでいた二人も階段を覗きにくる。

「ありゃ、紫に幽々子じゃない。ずいぶん消耗してるねえ。」

事のあらましを知っているのか、あんまり驚いた様子を見せない萃香。

「そうか…ケンカしてたってのはお前らだな。やっぱりそのあとに肩を組んで歩くのは常識だぜ。」

見当違いな発言とよくわからない常識を披露する魔理沙。

「…まあ、疲れてるみたいだし上がっていったら?お茶くらいなら出すわよ。」

こうして、萃香と魔理沙にずりずりと引きずられて縁側に到着。
お茶を飲んでようやく落ち着いたという表情をする二人。
魔理沙はいろいろ聞きたそうな顔をしてうずうずしている。

「萃香、貴女にこれを渡しておくわ。」

そういって、紅い袋を取り出す紫。
萃香は「はいよ」といって、さも当然であるかのように袋を受け取る。
それを見ていた魔理沙も、さも当然であるかのように食いつく。

「なんだなんだ、お土産か?私にはないのか?」

そんな様子を見て紫はすまなそうに笑う。
笑ってる時点で少しもすまなそうで無いところがまた胡散臭い。、

「魔理沙、とりあえず貴女には謝っておくわ。御免なさいね、悪気は少ししかなかったわ。反省もしてない。」


「うおっ!何故だか知らんが紫が謝ってる!?明日は空から怨霊でも降ってくるのか?」


「魔理沙…少しも謝られてないって気付きなよ…」

姦しい三人組をのんびりと眺めながらお茶をすする霊夢。
横に座る幽々子もにこにこ笑いながら茶菓子を頬張っている。
その時一陣の風が吹き、霊夢は肩をぶるりと震わせる。
肩丸出しの恰好なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「ううっ…寒くなってきたわね。もうすぐ冬かしら。」


「いやいや、霊夢。今年は暖冬よ?それこそ死ぬほど暑いほどの…ね。」

そう言って扇をパタパタと仰ぐ幽々子。
いちいち相手にすると疲れるので、やはりふ~んと言って聞き流す霊夢。

やがて、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、取っ組み合いを始める紫と魔理沙。
紫も消耗しているため案外いい勝負をしているみたいだ。
魔理沙の飛び膝蹴りと紫の十六文キックが、何故か霊夢の頭を挟んで激突。
二人まとめて夢想転生という、いつもの光景と共に博麗神社の夜は更けていくのだった…



一方守矢神社では、お遣いから帰ってきた早苗がボロボロになった二柱を発見。
「ケンカは駄目だっていつも言ってるじゃないですか」と二柱まとめて説教をするのはまた別のお話…
魔理沙⇒3ボス、3ボス、4ボス

霊夢⇒ラスボス(EXボス)、Phantasmボス(自機)、自機(主人公)


どうも飛蝗です。
地霊殿でもこの扱いの差は何なんだろう、と思って書いたお話です。
楽しめて頂けたら幸いです。
飛蝗
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コメント



0.730簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
だが アリスは元EXボスでパチュリーもEX中ボスという罠だったり
3.100名前が無い程度の能力削除
前半の奇行を重ねるゆかりんも後半のかりすま溢れるゆかりんもどっちも大好きだ。
あとゆゆ様も。
4.無評価名前が無い程度の能力削除
にとり一切出てなくて俺涙目
6.60コメントする程度の能力(ぇ削除
にとり拾ったからかよwww
11.80名前が無い程度の能力削除
こういう前話もなかなか面白くてよいです。
13.90名前が無い程度の能力削除
昔はこんなのが四十六時中あったのか
紫様、ゆゆ様おつかれ
17.80名前が無い程度の能力削除
地霊殿、なんだかんだで霊夢たちは早苗をボコったような・・・
19.無評価名前が無い程度の能力削除

袋の複線の意味がいまだにわからないです。読みが足りないのかな・・・。
20.90名前が無い程度の能力削除
特に文花帖で考えると格差があるように感じますよね
いやとにかく面白かったです。乙です
21.無評価名前が無い程度の能力削除
ん~、よく判らん。
地霊殿関係の話?