これは、創想話において自分が掲載させていただいた「アーマードこぁ」シリーズ(作品集32・33・34・35・37・39・55)を自分なりに違う設定でやり直してみたものです。とくに最後の話でいただいたご批判
『何て~か、よくある主人公達は正しい。
相手はとにかく間違ってる。
主人公達の語りかけにより相手も自分の考がゆらいだり。
とにかく、状況・理由・思惑なんて関係なく何があろうと主人公達が正しいんだよ! みたいでよくない』
『「お前は間違っている!」「私が間違ってました」めでたしめでたし。
……あれ、東方でもACでもないよ?
表面だけじゃなくて中身もきちんとなぞった上で組み上げて欲しかったです。
どっちの作品のエッセンスも活かせていれば……。』
の言葉が心に残っていて、『やり直し』のつもりで書いてみました、今回ACやその他の小ネタは少なめにしてあります。
紅魔館に住む、「こぁ」こと私小悪魔は、今日も変わらず魔法使いであるパチュリー様の世話をしながら本の整理などの仕事をしている。
パチュリー様と交わした契約は、彼女の魔力を定期的に与える代わりに身の回りの作業をするというもので、契約期間は任意に決められる事になっている。契約が終了しようと、また破棄されようと、別にパチュリー様の魂を食らうというような事はしないし、またしたくない。
単調でも、幸せな日々が続いている。そんな日々にある事件が起きた。
「えっ、それって、契約終了ですか?!」
ある日、唐突にパチュリー様にしばらく人里へ行くように伝えられたのだ。
一体なぜ、もしかして、今までにやったミスのせいかしら。
「何が悪かったんでしょうか?
もしかして、『黒の歴史書』を魔理沙さんにせがまれて、断り切れずに貸した事ですか?
それとも、植木鉢を割ってメイドのせいにした事ですか?
ああ、やっぱり、妹様の外出をみんなに黙っていた事でしょうか?」
わたしは慌ててまくしたてた。パチュリーさまは呆れた顔。
「禁貸出の本が無くなったと思ったら、そんな事をしていたの?」
「あっ、えっ、その……ごめんなさい」
「まあ別にいいわ、今後気をつけなさい。
それより、これは決して解雇じゃないから、早とちりしないで」
「では、何でしょうか?」
「紅魔館が取引している人里で、妖怪排斥を唱える『結社』のテロが最近起こっているらしいのよ。でも彼らは紅魔館も嫌っているでしょうから、名前の知れたうちのヘタレミィやメイド超の咲夜が出ていったら彼らを刺激してしまう恐れがあるわ、ますます妖怪への敵意を強めてしまうかもしれない、そこで、比較的無名で大人しめとされるあなたに調査に行って欲しいのよ」
パチュリー様は早口で言った。この口調はいつもの事なので、何とか聞き取る事はできた。
「分かりました、調査に行ってきます」
「もし、大規模なテロの証拠をつかんで、じぶんで何とか出来そうだったら、ちょっと悪戯してやりなさい、それで敵わなさそうだったらさっさと逃げなさい。いずれにしろ、無理はしない事。なんなら私も同行するわ」
「大丈夫ですよ、パチュリー様。不肖小悪魔、びしっと役目を果たしてまいります」
久しぶりの人里、不謹慎ながらちょっと楽しみだな。
支度を整え、パチュリー様特製のスペルカードも貰って人里へ向かう。
湖を超え、森の小道を抜けると、賑やかな里の喧騒が聞こえてくる。
咲夜さんなどのメイドさんが買い出しに来る所だ。
ちょっとした買い物ついでに聞き込み開始といこう。
まずはお菓子屋さんのおじさんに声をかけてみた。
「あの~、水ようかん一つ下さい」
「ああ、あんたは紅魔館の人かい、いつも世話になってるね」
この里と紅魔館はかなり密接な結びつきがある。
慣れ染めはかつての吸血鬼異変、紅霧異変よりずっと昔にさかのぼる。
レミリアお嬢様が幻想郷に来た時、この世界を征服しようとし、手始めにこの里を支配しようとしたのだ。
しかし何だかんだでお嬢様は降伏し、その後、紅魔館の魔法の技術と里の物産を平和的に取引するようになり、切っても切れない関係になったのだ。
だから結果的にお嬢様の野心は達成されたことになる。怨恨は時間が解決してくれたのか、このおじさんも、小悪魔である私に微笑んでくれるというわけだ。
「あっ、かーくまさんだー」
茜色の着物に身を包んだ女の子が、笑顔で私の腕に抱きついてきた。
「かーくまさん、こんにちは」
「こんにちは、わあ可愛い」
私はその子の頭を撫でてあげる。彼女の視線が私の耳の羽に集中していたので、頭を傾けて羽を触らせてあげた。ぴこぴこと動かしてやると、女の子は喜んでつついてくる。
「うわ~本当にくっついてるんだー」
指がくすぐったい。ひとしきり耳の羽で遊んだあと、お父さんらしき人に呼ばれて店を出て行った。その人は私の顔を見るや否や、真っ青になって女の子の頭を押さえ、謝らせようとする。
「紅魔館の方、娘がご迷惑をおかけして、本当にすみません。ほらカナ、謝りなさい」
「いいんですよ、この子は私の友達です」
「でも、失礼なことをしてしまいました」
「大丈夫、この子より年上の人間で、もっと節操がない子を知っていますし」
今頃どこかの魔法使いがくしゃみをしているだろう。
「さよなら、かーくまさん」 カナちゃんが手を振った。
「さようなら」
ああ、本来の仕事を忘れるところだった。
他の店の人にも聞き込みをしてみる事にしよう。
「あの、最近この辺で、妖怪を嫌う人たちが活動していると聞いたんですが?」
今度はマヨイガ御用達の豆腐屋さんに尋ねてみた。
「そうだね、何だか極端な人たちがビラを貼って行ったり、結界を里のあちこちにいやがらせのように張ったり、爆弾を仕掛けたり。
うちの馬鹿息子も、結社に入りたいとまでは言わないものの、連中の気持ちも分かるみたいな事を言ってたり、不安じゃないと言えば嘘になるよ」
「そうですか……ありがとうございます」
やっぱり、人と妖怪が一緒に暮らすことには限界があるのだろうか?
もちろん、気の合う者同士がくっつくならいいが、むしろ適度に距離を置いたほうが良い関係を築ける場合もあるのだとは思う。
しかし、それにしても結社のする事は陰湿すぎやしないか。
言いたい事があるなら、お嬢様に直接言えばいいじゃないか。
ただのわがまま吸血鬼という印象があるが、あの方はたとえ相容れない価値観でも、筋の通った主張ならば聞き入れる度量をお持ちだ。事実、この里の代表との交渉で取引の量について里の意見を尊重することも多い。
その時、轟音が響いた。
店のおじさんはとっさに体を伏せ、私は音のした方を振り向く。
里の一角から黒い煙が上がり、細かな木片が宙に舞っている。
私はその場に急行しようとする。大通りの真ん中に走り出す。何かにつまずいた。誰かの仕掛けた、簡易の魔除けに足を取られてしまう。
「何よ、こんなもの仕掛けて!」
魔除けを魔力で強引に吹き飛ばす。巻き起こった砂煙に通行人が驚いた。私はその人たちに軽く会釈して先を急ぐ。
目を凝らしてみると、力をいくらか制限する結界やまじないが、それこそ嫌がらせのようにあちこちに張られていた。結界の面積は子供が足をコンパスにして円を描いた程度だが、それが大通りの真ん中や、あるいはその片隅、路地の入口などに点在している。もちろん妖怪に致命傷を与えるとか、この里から追い出すには程遠いが、鬱陶しい事この上なかった。
「ああもう、一体何を考えているんですか」
近道をするため、結界に気をつけながら小路に入った。『妖怪は人里から出ていけ』と書かれた宣伝ポスターが心に刺さった。だが今はそれどころではない。
「これは……」
洋風の洒落たカフェテリア、以前ここで咲夜さんと食事をした事がある。その場所が黒焦げになっていた。
もうもうと立ち上る黒い煙。悲鳴、怒号。
頭から血を流した男の人が、目を閉じたままの一人の少女を抱え、懸命に呼び掛けていた。茜色の服。まさか?
「カナ、目を覚ませ、目を開けてくれ」
彼は自分の怪我をすっかり忘れ、少女の名を呼んでいる。
あのお父さんだった。
確かめるのが怖くて、顔を下へ向けた。
だが知らないで済ますわけにはいかない、おそるおそる顔を上げ、娘を抱きかかえる男の人と、娘さんの顔を見る。
確かに、カナちゃんとそのお父さんだった。
私には分かってしまう、あの子はもう死んでいる。ついさっきまで私を『かーくまさん』と呼んでくれた女の子。
私は男の人に駆け寄り、ヒーリングの魔法で傷を癒す。
他にもまだ生きている人がいる。駆けつけてきた白沢さんと一緒に手当をおこなった。
次第に心の衝撃が怒りに置き換わる。
どうしてあの子は死ななければならなかったのか、結社の思想のためには子供を巻き添えにしてもかまわないと言うのか。そもそもあの少女は人間だ、人間を幸せにするため妖怪と戦うのだという題目を唱えながら、その人間を巻き込んでどうするというのだ。
「ああ、悪魔とはお前たちの事だ」
負傷者の救護をとりあえず終え、あとは白沢さんに任せる事にした。あの子のお父さんは、まだ茣蓙に寝かされたカナちゃんの亡骸に寄り添い、すすり泣いていた。
こんな時、どんな言葉をかけたらいいのだろう。どんな言葉をかければ、人間の悲しみは癒されるのだろうか。人より長い年月を生きていて、知識もずっとあるはずなのに、分からない。なんて無力なんだろう。
なにも言えず、その場を離れるしかなかった。
ああ何という事だろう。この日を境に、幻想郷の見え方が一変してしまった。
思っているほどのんびりした優しい世界ではなかったのだ。
私は帰途につくことにした。目に付いた嫌がらせ結界やビラを破り捨てながら。
そして、パチュリー様に報告すべく紅魔館に戻ると、館が騒然としている。
「みんな、どうしたの」
メイドさんの一人が、青ざめた表情で答えた。
「結社が宣戦布告したわ」
その後、警戒が強化され、人里の長は近隣の里と協力して、『同盟』を設立し、ともに結社に立ち向かう事になった。
私も正式にお嬢様の指示で紅魔館から派遣され、結社との戦いを支援することになる。
パチュリー様は最初、人間同士の出来事に深入りするべきではないと主張したが、お嬢様は紅魔館のメンツが汚されたので、キツイお仕置きが必要と仰った。私も賛成した。二度とあんな悲劇を見たくないと思ったのだ。
カナちゃんのお父さん、キリトさんの家、葬儀の場で里長が同盟結成の宣言をした。
キリトさんが硬い表情で見守る中、里長は無力な少女が殺されたという悲劇を強調し、里の連携強化と、人妖のさらなる共存共栄を訴えた。
一歩引いた見方をすれば、まるで里長がこの悲劇を利用して、自身とこの里の影響力強化を図っているように見えなくもない。人間の歴史にはそうして人を戦いに駆り立てる宣伝手法があるという。だが、それでも幻想郷の秩序が回復し、あの惨劇が繰り返されずに済むのなら、と自分に言い聞かせる。
「むしろ人を扇動するのは悪魔の十八番なのに、らしくないなあ」
となんとなしにつぶやいた。
「私の娘の命を奪った者は、決して許さない」 自警団とは別の集団として設立される対結社戦闘部隊のリーダーに就任したキリトさんが強く訴えた。
その後、同盟からの依頼を受け、結社の集会が行われる場所を襲撃し、主だった者を捕縛したり、テロのための物資集積所を破壊したり、危ないところでは太陽の丘を焼き払い、それを同盟の仕業に見せかける策略をギリギリで阻止したりもした。また結社がクローン培養土蜘蛛を使って里に疫病をはやらせたので、それらを統制する地下洞窟のクイーンヤマメを退治するなど、確実に結社の力をそいでいった。
あのキリトさんとも何度か一緒に戦った。
彼はもともと弾幕や武術などは得意な方ではなかったが、娘さんを亡くした後、必死に修練に励み、里でもかなりの使い手となったという、実力や才能よりも、娘の仇を取るという信念が大きく作用しているのだろう。
彼の戦いは勇猛果敢そのもので、私が制止しなければ殺してしまいかねない事も多々あった。そのたびに口論にもなった。結社の構成員を追い詰めたときの事だった。
「殺してはいけません」
「何故だ? あんたは何故こいつらをかばう?」
「もう彼らの残機はゼロよ。戦いは終わりました」
「幼子を殺した奴の人権など不要だ。それとも何か? 俺とこいつらが対等な戦士だとでもいうのか? だから捕虜として扱えと? 違う、外界で言う警官と下衆な犯罪者の構図だ」
「だったらなおさら、警官が無抵抗の被疑者を殺してはなりません、罪の全貌を聞きださなければ。憎むのは分かります、でもあなたまで加害者になってはいけない!」
即座に魔法で使い魔を召喚し、捕虜を紅魔館へ移送する。
「こんのっ、偽善者がぁっ」
彼は刀剣を地面にたたきつけ、憤りをあらわにした。初めて出会った時の柔和な表情はとっくに失われている。
確かに、私もあんな卑劣なテロを行った連中に腹が立つ。このお父さんの気持ちも分かるつもりだ、しかし、復讐に狂う彼の後ろ姿が、救いへ向かっているとはどうも信じがたいのだ。たとえ恨まれても、彼に憎悪に満ちた人生を送って欲しくない。
それでも私は、意図せずに同盟の英雄に祭り上げられ、紅魔館と人里のつながりの象徴とされた。
「大小悪魔さまがいれば、我らは安泰だ」と
規模は小さくなったものの、結社の攻撃や宣伝活動はその後も散発的に続いた。
私は結社のメンバーがどのような人々であるか知ろうと思い、お嬢様の許可を得て彼らを収容して働かせている所に行ってみる。
里から少し離れた場所に、森を切り開いて作られた収容所があった。周りを木の杭で囲まれ、寝起きする小屋と同じ大きさの作業場、そして菜園があった。そこでは、紅魔館と人里の共同管理のもと、捕縛した十数人の結社構成員が農作業や縄をなう仕事をしながら収監されている。みな手首には魔法陣の刻印があり、逃げ出せばただちに火の車がやってきて、魂を地獄に運んでいくと脅されているが、実は何の力もない、ただの刺青だった。それでもあの紅魔館謹製の呪法と言う事で、逃げ出すものは皆無らしい。少なくとも、結社構成員だったという烙印としては十分に機能している。
「ようこそこんな所においで下さいました」
ここの管理者がうやうやしく私にお辞儀をした。ひげをたくわえ、がっしりとした体つきの男の人で、腰に刀を提げていた。
「そんな、もっとフランクでいいですよ」
どうして人間の大人というものは、こう両極端な態度が多いのだろうか、結社のように敵対心むき出しか、あるいはここまで頭を低くするか、あの女の子のようにもっと自然に笑いあえないのだろうか。ぶしつけながら、その疑問を管理者にそれとなくぶつけてみた。
「大人になると、いろいろ守るものができてしまうのです、自分らはあなた方のような不思議な力はほとんど持ち合わせていません、体もあなた方に比べてそれほど頑丈でもありません、まあ巫女や魔法使いのような例外もいますがね。ですからこうやって大勢集まって、少ない力を分け合ってやっていくしかないのです。時々それに我慢できない輩が吹きあがってこんな事をする、人間の性なのかもしれませんね」
「あの、囚人と話してみてもいいですか」
「構いませんよ、でもまともに話ができますかね」
結社の者たちは、比較的従順な者もいれば、敵意の視線をぶつけてくる者もいた。
「人間は、お前たちには支配されないぞ」
「私たちは、人間を支配するつもりなどありません」
「嘘をつくな、そんな甘い言葉で懐柔するのがお前らのやり口だろう」
今なお強硬な考えを失っていない者たちとは、温和に話せそうになかった。
だが遠く離れて彼らの姿を観察してみると、作業をしながら仲間と語らう姿はその辺の青年と変わりない、彼らも喜怒哀楽の感情を持たない機械ではなく、ボタンの掛け違えさえなかったら良き友人、良き競争相手になったかもしれない人々だったのだ。
そんな普通の良き人々がなぜ、ああなってしまったのだろう。
「ほらみたでしょう、スカーレット様は戦いの場以外で殺すのはエレガントじゃないとおっしゃるので、このように生かしておいているのですが、家族を彼らに殺された者のなかには広場で処刑してしまえ、というやつもおるんです」
「確かに、結社のやり方は許せません、でも、戦いが終わり、無抵抗になった者を改めて殺す必要はないと思います。悪人にも死ねば泣く者がいるかもしれない。これは偽善でしょうか?」
男の人は少し考え、答えた。私に恐縮する態度がわずかに変わり、一言一言に感情を静かにこめて話す。
「あなたは同盟にここまで尽くしてくれました、あなたが間違っているとは思えません。結社への制裁は当然だが、報復の連鎖は止めなければならない。スカーレット様もそうおっしゃっていますし、自分も同意見です。人は人を許す事が出来る。しかしながら、愛する者が殺されれば、それだけであらゆる理屈や理性が吹き飛び、復讐しか考えられなくなるのもまた人間なのです。彼らを生かすにせよ、人生を奪われた者たちの無念さも理解していただきたい。殺された者たちには、限りない未来があった、それが永遠に奪われたのですよ。ここで彼らを虐待し、殺したところで、失われた命が戻って来るわけではありません、でも私は彼らが許せんのです」
やっぱりこの人は私たちの考えをどこかで綺麗事だと思っているのだろう。私自身、パチュリー様や紅魔館のみんなが殺されて、冷静にこんな事を言えるとは思えない。あの里で知りあった女の子の事については、今でも考えるだけで怒りと悲しみが湧いてくる。しかしそれでも、と頭の中の冷静な私が語りかけてくる。幸いにも自分や周囲の者が悲劇に巻き込まれていない者ぐらいは、冷静な視点も必要だろう。怒りで頭がいっぱいになった社会もまた、結社と同じレベルに自分を貶める事になるのだ。
「里が感情で暴走する事を防ぐためにも、我々は結社を適切に押さえなければならない。その時はどうかお力添えを願いたい」
私の心を見透かしていたかのようにその人は言った。
「ええ、殺さないお仕置きならどんどんやりますよ、本来私は悪魔ですからね」
紅魔館と連合に属する複数の里の調査で、結社の拠点とされる里が判明した。
そこへ行って結社を一網打尽にする計画が練られた。
私たちも協力を申し出たが、これからは人間だけで決着をつけたいとのキリトさん自身の強い申し出があり、私は里の警備のみを担う事になった、完全に嫌われたな。
ちなみに、一連の仕事は本来パチュリー様と交わした契約とはかけ離れてしまっているが(身の回りの世話)、人里が騒乱状態だと落ち着いて読書ができないから、という拡大解釈で乗り切ってしまった。この状況なら仕方ないとはいえ、できればこういうのは乱発しないでほしいなと思う。
人間同士で決着を、か。これで平穏な幻想郷に戻ればいいのだけど。
戦いは対結社戦闘部隊が主力となり、1日で終わった。小規模な争いで同盟側に死者は出なかった。以前の私たちの働きで結社はすでに力を失っており、そのリーダーである通称『甲』と言われる男は自決したという。生き残った結社の者はみな同盟に降伏した。
その拠点となっていた里はこの里の指導を受けつつ再興させていくという。
3日後、やがて戦いの終わりを告げる記念式典が開かれた。広場に設けられた壇の上で里長がスピーチし、あのキリトさんがこれで娘も安心して眠れるだろうと感慨を述べた。その後、結社の捕虜の処遇を決める話し合いがもたれ、お嬢様とパチュリー様、そして私は、罪の度合いが深い者は紅魔館が一生監視するから、生きて償いをさせるべきと主張した。人里からは処刑するべしという声もあったが、白沢さんがどうにか強硬派の人々をなだめ、『憎しみの連鎖を断たなければならない』と主張した。私もそう思う。結局その案の方向で議決となった。
やはり、不満の声も人々の中から上がる。そこには、あの時私を射抜いた言葉もあった。
……偽善者が……
すべての人を納得させる答えなど見つからない。私はせめて被害者遺族への後遺症の手当、療養、生活費の支援もするべきだとお嬢様に進言し、自分の給金も使っていいと訴え、その結果、『宴会を減らさなけりゃ』と言いつつもお嬢様は受け入れて下さった。私だって、犠牲になった人々のために何かをしたいのだ。だけど……
『補償は一切いらん、加害者の命をくれ』
と面と向かってはっきり言われた時、私は何も答えられなかった。
永遠に埋まらない溝、全てが丸く収まるなんて、物語の中だけなのかな……
その後も紅魔館と里との関係はおおむね以前のまま続いた。だが里の代表との関係はいくらか冷え込んだと言わざるを得ない。政冷経熱ですねと美鈴さんは言った。
半年後、私たちはまたいつもの生活に戻っていた。パチュリー様のお世話をし、本を整理し、魔理沙さんの応対など。休日に里に行くと、完全ではないにしろ、里の活気が戻り、人々の傷もいくらか癒えてきたように思える。パチュリー様と私は話し合って、かつて結社の拠点となった里を交易圏に組み込み、相互に利益を与えあう事で和解につなげてはどうかとお嬢様に話してみた。もちろん、紅魔館も利益が増える。物を買ってくれる得意先のいる里とドンパチをやりたいと思う者はいない。
しかし、お嬢様の答えは、『その必要はない』との事だった。
「レミィ、どういう事かしら、あの里は確か、本さえ読めず、紅茶も楽しめず、餓死しないだけで精一杯の水準だったそうよ、失うものがない人間たちがやけを起こしたり、あるいは何者かが食べ物を与える代わりに刹那的な思想を吹き込んで、それであんな切ない事態になった、と私は睨んでいるわ」
「パチェ、おおむね貴方の言う通りね、私もその里と交易してみたらと代表者に言ってやったのよ、儲かれば補償と宴会を同時におこなえるしね。でも最後の戦いの後、あの里は無人になった、だから無用だって。肩透かしだわ」 お嬢様は頬を膨らませた。
「無人ですって、どど、どうしてですか」 私は思わずパチュリー様の前に出て尋ねる。
「里にいた一般の人々は、こっち側の里の支援を受けて移り住んだ、とされているわ」
「されている?」
「あら、小悪魔は知らなかったの、パチェは?」 お嬢様は心底驚いたようだ。
「私も初耳だけど」
お嬢様は右手をあごに当て、それからうなずいて説明した。
「ああ、あなた達は図書館にいることが多いから知らないんでしょうけれど、美鈴は独特の情報源を持っていてね、といっても来訪者のうわさ話程度だけど」
そして、お嬢様の口から、その里が無人になった本当の理由を聞かされた。
全身の力が抜けた、パチュリー様も明らかに顔をしかめ、動揺していた。
信じられない、キリトさんがそれに関与していたら……。
「パチェ、特に小悪魔、あなたは紅魔館と里のために頑張ってくれたわね、でももう今回の事は忘れて、こぁこぁ鳴く中ボスに戻りなさい。あのキリトってやつも、私たちに敵対するつもりはないし、里の秩序を良く守っている。里の傷がようやく癒えかかっているのに、変に蒸し返して争いを再燃させる必要はないわ。命令よ、向こう100年、人にも妖怪にも、妖精にも、九十九神になりそうな物体にも、掘った穴にもこの事を話しちゃダメ。どこかの素兎じゃないけれど、知らない方が幸せな事もあるの。これで今回の話はおしまい」
お嬢様は話を打ち切って、咲夜さんと散歩に出てゆかれた。
パチュリー様と私はその言葉に従うことにした。しかし、運命の女神は容赦ない。
「どうか協力を願います、結社の残党が、里を襲っています」
飛び込んできた里の使者は、あの捕虜収容施設を管理していた自警団の人だった。
話によると、殺傷性の強い弾幕を放つ結社の一団が里長の家と、隣接する対結社戦闘部隊の詰め所を襲っているらしい。キリトさんは助けは不要と言い張ったが、自警団の独断でここに来たという。
「おじさん、あの時の約束を果たす時が来たようですね、行きましょう」
彼は力強くうなずいた。
先行して里へ飛ぶ、あのカフェテリアがあった場所から少し離れた里の一角、対結社戦闘部隊の詰め所の門が吹き飛んでいる。あたりにはいくつもの焼け焦げた死体、生焼けの臭いが吐き気を催させる。
詰所の敷地で、結社の戦闘服を着た一人の若い男が、負傷したキリトさんと彼をかばう隊員と対峙している。
「これは貴様等への報復だ、里の恨み、思い知れ」
そう叫んで手に持った銃を乱射した。青白いレーザー光が戦闘部隊のメンバーを一人を貫いた。
「止めて!」
私はレーザー光の道筋をクナイでそらし、大玉で吸収し、彼の攻撃を遮った。
あれは魔銃カラサワ、持つ者の力を吸収して弾幕に変える魔の武器、普通の人間には使えないはずだった。
「弾切れ? ちくちょおおおっ」
そして彼は緑色に輝く剣を抜き、キリトさんに襲い掛かる。
「元凶は貴様か!」
ムーンライトソード。これも相当な使い手でなければ命に関わる魔道具のはず。
予想を超える速さで距離を詰め、生き残った隊員をほとばしる光波でなぎ払う、私も駆け付けたが、スピードが速く間に合わない。彼はキリトさんの目の前で急停止し、喉元に切っ先を突き付けた。
「地獄で詫びろ、ううっ」
急に男が膝をつき、倒れ伏した、魔道具の負担に体が耐えられなかったのか、私は彼らのもとへ駆け寄った。
「俺は……、自分の正義を……信じる。俺たちが悪とされたのは、この時代……この状況が……俺らにとって不利だった……だけだ」
「言う事はそれだけか?」
ぱん、ぱん、と乾いた音が二つ響く。キリトさんはためらいもせず、拳銃弾を男の頭に撃ちこんだ。
「罪もない娘を殺す正義が、いつの時代にあるというのだ」
そしてキリトさんは倒れた仲間の一人に駆け寄り、抱え起こそうとする。
「小悪魔さん、彼らを手当てしてくれ」
私は結社残党も戦闘部隊も分け隔てなく、ヒーリングの魔法を傷付いた人々にかけて回った。結社の構成員については、魔法で生死を問わず紅魔館のしかるべき施設に転送した。出来るだけ助けた後、キリトさんは事切れていた仲間のもとに座り込んでいる。死者の中には年配の人もいれば、まだあどけなさが残る顔の人もいた。
「ナオト、こいつは子供ができたと喜んでいた。私に名づけ親になってくれと言っていたよ。こいつはヨウイチ、両親はカフェテリアの爆発でカナと一緒に死んだ。一番弾幕が得意な青年だった。カズユキ、こいつは勇敢だが酒が飲めなくてな、宴会が大嫌いだったよ。そしてこいつは……」
キリトさんは亡くなった仲間の事を話す。そして、両手を広げ、芝居がかった口調で訴えた。
「ごらんなさい優しい小悪魔さん、これで分かったでしょう、更生不可能な悪がこの世にはある。私は二度と娘のような犠牲者を出さないため、徹底的にやる覚悟です。そんな私たちこそ悪だと思いますか? 憎しみに溺れては結社と同レベルだと言いますか? ではどうぞどうぞ、そのようにレッテルをお貼りなさい。私は自分の信じた道を行く」
その怒りと悲哀がないまぜになった目に、私は射すくめられた。
「こいつ、相当な無茶をしていたわね」
永遠亭で死体を検分していた八意永琳さんは、額の汗をガーゼでぬぐいながら言った。
あの後すぐに駆けつけてきたパチュリー様の提案で、彼の亡骸は今ここにいる。どの人間勢力にも邪魔されない場所で調べてもらうべきと考えたのだ。
「足りない魔力を補うため、いくつもの魔道具を体内に無理やり埋め込んでいる。医術的にも魔術的にもど素人の手術としか言いようがないわ。この男、あんな事を起こさなくても早晩命を落としていたでしょうね」
男の頭に手を当てて、残留思念を読んでいたパチュリー様もうなずく。
「脳の損傷した部位の思念は読みとれなかったけど、あの日の結社の拠点があった里の記憶が読めたわ、やっぱりレミィが言っていた通りの光景だった。それにこの手術、周囲が止めるのを無理に頼んで術者たちにさせたようね、そうとうな復讐心で」
連鎖はまだ止まらない、同盟の攻勢が復讐心を呼び、今回の襲撃がさらに里の敵愾心をあおり立てるだろう。
「小悪魔、今後も人里の動向に気をつけなければならないでしょうね」
パチュリー様の声色にも不安が混じっているようだ。
その後キリトさんは、今回の結社残党の襲撃には、里の内部事情を教えた協力者がいるかもしれないと見なした。彼は里長から主導権を徐々に奪い、怪しいと見なされた者を詰め所に連れて行き、取り調べの後に新設された牢へ閉じ込めた。里の住人には密告を奨励し、牢の収監者は徐々に増えていった。
人々の表情は暗くなり、里の大通りの活気も薄れ、親戚のつてを頼って他の里へ逃げる者も現れはじめたが、対結社戦闘部隊がそれを取り締まるようになり、許可なく里を離れた者はやはり牢につながれてしまう。私や他のメイドさんも、必要な用事以外里へ行く事をためらい、用がすめば足早に帰るようになっていた。暗い雰囲気が肌に合わないのだ。
私がそれを見たのは、夕食の支度をしていた咲夜さんに頼まれ、仕方なく里へ買い物に行った時のことだった。お嬢様が急に豆腐が食べたいとおっしゃったからだ。それでマヨイガ御用達の豆腐屋へ行き、豆腐をボウルに入れてもらい、お勘定を済ませた後、店主のおじさんが悲しげに私にこう漏らしたのだ。
「こぁちゃん、聞いてほしい、うちの馬鹿息子なんだけどね、奴が結社を擁護していたのは前にも話しただろう。それで、あの襲撃以来さらに心に余裕が無くなったキリトさんを批判したんだ、本人の目の前で」
「本当に?」
「うん、結社の擁護とかじゃなくて、こんな事はもうやめてくれ、自由だった頃の里に戻してくれって訴えたんだ、そしたら案の定連れて行かれた。普段の言動が言動だけに、余計怪しまれたんだ」
「それで、息子さんも牢屋に入れられたんですか」
「いや、帰ってきたよ、今もそこの部屋にいる」
おじさんは奥の少し戸の開いた部屋を指差し、私はそっと覗きこんでみた。
そこにいた人物と目が合った、瞬間、私は両手で口を押さえ、息をのんだ。
痣だらけの顔や手足、目はうつろで、焦点が合っていない、よだれをたらし、何事かをつぶやいている。
「あ゛ー う゛ー」
「息子さんは……」
「連れていかれて3日して、ふらふらと戻ってきたんだ。ああなってな」
おじさんの声が濁り始める、やがて、鼻をすすり、涙をこらえきれなくなる。
私も涙が止まらない。
「あいつが結社に傾倒していたのは確かだ、その点で馬鹿な奴だったのは認める。だがあいつは、勇気を振り絞って、自分の危険も顧みずに、みんなが言いたくても言えない事を代弁してくれたんだ、慧音さん、ああ慧音さんってのは白沢の人だが、その方も感謝してくれていた、おれは今でも息子を誇りに思っているよ」
「あの、慧音さんは、なぜ里長さんや、キリトさんを止めないんですか」
悲しみながらも、浮かんだ疑問をぶつけてみる、あの白沢は人間を愛しているはずじゃなかったのか、どうして止めない!
「止めないんじゃなく、止められないんだ、変な呪符を貼りつけられて、妖精ぐらいの力しか出せなくなっている、キリトさんたち戦闘部隊は最近、対妖怪戦も視野に入れているなんて噂もまことしやかに流れている。こぁちゃんたちも気をつけた方がいい」
誰が被害者で、誰が加害者か。犠牲者ばかりが増えていく。
私は重い翼を無理やり動かしながら帰途につく、帰り際に考える、私は、紅魔館はどうすればいい? こうなったらキリトさんや強硬派を力づくで排除するか、でもそうしたら、その血縁者、縁のあった人々が私たちを憎むようになる。
どうしたらいい?
やはり、根気良く説得してみるしかない。私たちや紅魔館のみんな、慧音さんのような妖怪が説得しても聞いてくれなさそうだし、里の人たちで、穏健派に近い人にも協力してもらおう。
「そんな事が、確かにキリトどのは残党襲撃事件以来、猜疑心が強くなられたようだ、牢獄に入れられる者が増えたのは知っていたが、まさかそんな少年まで……。」
話が通じそうな人と言う事で、結社メンバー収容所管理人のおじさんに会ってみた。彼は話を冷静に聞いてくれた。最初は結社と戦うキリトさんを支持していた人にも、さすがに最近やり過ぎだと感じる人は増えているみたいだ。
「戦闘部隊がここまでやっているとなると、やはりあの噂は本当だったのかも知れんな」
あの事件は里の人たちもうすうす感づいている。批判的な人を集め、何とかできる範囲で説得してみることに決まった。これで事態が好転すればいいのだけど。
事実上里の支配者となったキリトさんの元に、自警団の代表者、豆腐屋のご主人を含む里の有志が請願に訪れ、彼を説得した。私はかなりキリトさんに嫌われているようだったから、遠くで待機し、悪魔の地獄耳で成り行きを見守る(聞き守る?)ことにした。
結社残党の襲撃で戦力が低下していたのに加え、予想を超える人数が請願に訪れた事にキリトさんはショックを感じているようだった。
数時間にわたる協議の末、怒鳴りあいを交えつつ、キリトさんは戦闘部隊は維持するが、牢獄を廃止し、慧音さんの呪符もはがし、以前の里に戻す事を約束してくれた。
私は夜、意を決してキリトさんの元へ行く。どうしても彼の意思を確認したかったし、彼の主観からみれば、娘を殺されたキリトさんの思いを、私が自分のイデオロギーで踏みにじったことには変わらない、一言でも謝りたかった。
正々堂々と彼の屋敷を訪れ、面会を求めるといともあっさり要求が通り、私は居間でキリトさんと向かい合う。彼は冷たい笑顔で言う。
「まったく、私は君の事をただの理想主義者だと思っていたが、なかなかの策略家でもあったようだね、敵ながらあっぱれだ」
「どういう事ですか?」
「とぼけなくていい、残党どもをけしかけ、私の手持ちの戦力を減らしたところに、里の住人を取りこみ主導権を奪った、見事なクーデターだよ」
「そんな事じゃありません」
「じゃあ、襲撃者を生き残ったやつはともかく、死体までことごとく回収したのは何故かな? 私達に調べられては困る式なり魔法なりが掛けられていたのではないかな? まあそんな事はどうでもいい、君は私の復讐を良く思っていなかった、結果的に私を止めることに成功したわけだ。これで私の権限は大幅に減るだろう。しかし、私はいまでも自分がやろうとした事は正しいと思っている。復讐は何も生まない、という君が偽善者にしか見えない」
「そうよ、偽善です、綺麗事です、私も大切な人を殺されたらどんな事をするかわからない、そのくせ他人の復讐は止めようとするのだから始末に負えませんよね。そもそも私は悪魔、人の心をかき乱す存在ですよ。忌み嫌われる事こそ喜び……です」
私は自嘲気味に微笑み、続けた。
「でも、報復感情で頭を一杯にして、それでカナちゃんが喜ぶでしょうか? 武器を振るってキリトさんも幸せになれるでしょうか、私にはとてもそうは思えないのです」
キリトさんは歯を食いしばり、答えた。
「そうだ、こんな事をしても、何にもならない、カナも帰ってこない、分かっているさ。そりゃ加害者どもにも家族がいるだろう、カナのような一人娘だっているだろう。私が奴らの里でぶち切れてた光景を、外界の『びでお』だの『でじかめ』だので記録し、事情を知らない連中に見せれば、十中八九私こそ心が狂った悪人だと見なすだろう。でも、大事な人を奪われれば…………みんな狂っちまうんだよ」
キリトさんは涙を着物の袖で拭う。
「でもせめて、あなたの傷が少しでも癒えるように、紅魔館はどんな事でもします。加害者にも罪の重さと向き合わせます。だから、その……」
「どんな事でも? ハッ、どうせ捕まえた結社メンバーを拷問して、加害者を見つけて殺させろと言ったら反対するんだろ」
「……」
キリトさんは私の両腕をつかみ、叫ぶ。
「復讐はダメ、でも遺族の気持ちもきちんと尊重する? じゃあ私を殺してくれよ。殺して、この脳みそに沸き起こる感情から解放してくれよ、カナの元へ送ってくれよ。それもできねえんだろ、この偽善者。自称善人。一体どうしてくれるんだよ、答えろ、答えろよ」
その場にうずくまり、ただ嗚咽する。
「カナ、なんで死んじまったんだよ、なんでお前が殺されなけりゃならねえんだよ、愛していたのに、カナを返してくれよ」
そこにはもう、復讐鬼も独裁者もいない、娘を亡くした父親の姿だけがあった。
思えば、私は今までこの人に何をしてあげられたのか? 私はこの人達には血の報復などして欲しくないし、今もそれは変わらない。しかしキリトさんから見た私は、理想論を唱え、加害者を擁護する邪魔者にしか見えなかっただろう。
英雄扱い? 大玉? クナイ弾? そんな物何の役にも立たない、結局私は無力じゃないか。
『クーデター』の後、里ではキリトさんこそ殺してしまえという声もあったが、やはり私と慧音さんで思いとどまってもらった。私が善人ぶっていて、裏でどんな腹黒い事を考えているか知れたものではないという陰口もあったが、そういう感情もあえて受け止めようと思う。それにそう見られてこそ悪魔らしい悪魔だ。
極秘に地霊殿から古明地さとりさんを招請し、結社メンバーに対するさらに詳しい取り調べが行われ、テロの首謀者や改悛の余地なしと判断された者はゾンビフェアリー憑依の刑に処される事が決まる。憑依された者は自由に動けるがおつむの働く範囲が限定され、お燐さんの命令に逆らえなくなってしまう。彼らは一生地霊殿で働くことになる。ある意味、死刑よりえぐい罰しかたではあるが。取り調べ記録はお嬢様が必要と判断したものだけ公表され、人里の平穏回復に努めた。
「フラン、パチェ、咲夜、美鈴、小悪魔、私はこれで二回、幻想郷に対して嘘をつくことになるわ。東洋の鬼が最も嫌う行為、でも里の秩序のため、私は敢えて汚名をかぶる。信じてくれるかしら」
「あいよー」
「わかったわ」
「お嬢様をそこそこ信じ、それなりに守り通すのが私の役目です」
「了解です」
「わかりました、お嬢様」
お嬢様だって、幻想郷のパワーバランスの一角を占める紅魔館当主としての責任感はあるのだ、ただ普段は目立たないだけ。もっと理解してほしい。
それからさらに数ヵ月後。私は人里へ墓参りに行くことにした。活気に満ちているが今もどこか陰を引きずっている里で線香や花などを買い、結社との抗争で亡くなった人々に花束とお供え物をささげている間、偶然お参りに来たキリトさんとまた話す機会があった。相変わらずの辛辣な言葉を投げかけてくるが、表情は幾分穏やかになっている。良かったと思っていいだろう。
「もう過ぎた事だが、君は偽善者としても実に中途半端だな。あのとき、私を止めたければ、自分の正義を信じるなら、私をさっさと殺せばよかったんだ。私が正反対の立場ならそうするぞ。何もかも背負い込むものではない、全てを救う選択肢はないのだ」
「確かに、肝に銘じます」
「本来こういった仕事は悪魔の方が得意じゃないか、なあみんな」
キリトさんが3人の部下に同意を求める。軽い失笑が起こった。もう対結社戦闘部隊は解散になったが、彼らはキリトさんへのリンチを警戒して自発的に警護にあたっているのだと言う。
「給料無しだぞと言ってもついてくるんだよ、こいつらは」
「信頼されているのですね」
「私は何度も言うが、まだ君たちの罪人の罰しかたには不満を感じている。悪を止めるのに善だけでは足りない場合もあるのだよ」
今でもキリトさんを慕う人々がいる。きっとこの人もこの人なりに、自分の信念を貫くため、自らの手を汚す覚悟で行動していたんだろう。お嬢様と同じように。なら私も覚悟を示そう。
「私はあくまで極悪人でも生かして償わせるべきだと思っています。
その事で非難されてもかまいません。
もし私が更生したと確信し、釈放した結社メンバーがまた人を殺したら、その時は私を好きにして下さい」
「それが偽善だというのだよ、どうせ君のバックには紅魔館が付いている。
戦闘能力も本来私らなんぞ一ひねりだろう。それに無名の我々が仮にも中ボスを痛めつけたとあっては、10点妖精も黙ってはいまい。
ちっとも覚悟でも何でもない、安全圏からの発言に過ぎん」
「はははあ、そうですね」
苦笑い、これでいいのだ。信念や正義を貫くため、時に汚れ役を引き受けなければならないと言うのなら、私は、『手前勝手な理想を押し付ける偽善者』の汚名をかぶる事にしよう。
カナちゃんの小さな墓に花とお菓子を添え、線香に火をともし、手を合わせ、足早に立ち去る事にする。キリトさんが私の背中にこう呼びかけた。
「私は確かに娘の仇を取るため罪を重ねた、そして君は確かに優しい、だが優しさがかえって多くの犠牲を出す事もありうる。悪には極悪で対抗するしかない、私は今でもそう信じている。もう会う事もないだろう、さよならだ」
「さようなら、どうか安らかな日々を」
永遠に平行線をたどるしかない対立もある。誰もがハッピーエンドで終われない物語も存在する。
だがそれでも、愚かなことに、私は皆が許しあえる日を夢想している。
綺麗事だからこそ、現実にしたくなるのだ、力を振るい振るわれるだけの関係なんて悲しすぎるから。
私なら争いが終わるまで、もしくは自分が殺されるまで毎日カナちゃんの墓参りですかね。
それが一番無責任で、楽な道だと知りながらも。
>パチュリー様特性の→特製の
>「何よ、こんなもの仕掛けたのは」→誰よ、こんなもの又は何よ、こんなもの仕掛けて、かなぁと。
>彼の戦いは勇猛果敢その者→その物
>紅魔館も利益も増える→紅魔館に利益も、又は紅魔館も利益が、の方がしっくり来ますね。
>芝居がかった口調で訴えた。あ→ 何、この……ナニ?
もう一度、ふるいの読み返そうかな
鴉共は善・偽善の以前に、金と己の命しか考えてない野郎共が多いもんなw
そして今日も私は警備部隊を誘き出すために一般車両を踏み潰す。
いや、だってホント、素直に笑っちゃっていいのか真面目な場面なのか……ちょっと反応に困っちゃいますねぇ;w
誤字の指摘だけでなく、感想もいただけてうれしいです。
確かにあまり救いのある展開ではありませんね。
個人的には小悪魔寄りの立場ですが、本当にそれでよかったのかどうか。
月並みですが、悩み続けることが答えなのかも知れません。
名無しさんその1
昔のアーマードこぁも読んで下さったんですか? ありがとうございます。
楽しんでいただけたようで何よりです。
名無しさんその2
警備部隊のあのミッションは自分の場合、敵が車で一台も壊さず隠れています。
モノレール破壊とか労働団体弾圧(裏で他企業が操っているかもですが)
といったミッションは少し胸が痛みます。
まあ、ゲーム中とはいえ、敵なら弱くてもバンバン殺しているのでそれこそ偽善的ですが。
ずわいがに
すいません、シリアスな所での小ネタは控えたほうが良いかも知れません。