「あなたがフランドール・スカーレットさんですね?」
とてつもなく大きな爆発音と共に私の部屋の扉を破壊して侵入してきた人物がそう訊いてきた。
「あ、あなた誰よ?」
「私ですか? 私は東風谷早苗といいます。それであなたはフランドールさんでいいんですね?」
「そうよ」
何なんだ? こいつ。
話からすると私に用があるらしいが、この登場の仕方は喧嘩を売っているとしか思えない。
「私に何か用? もしかして遊んでくれるのかな?」
「いえいえ。私も遊んでいるほど暇ではありませんので」
「じゃあ何の用よ?」
「あなたをスカウトしに来ました」
「スカウト?」
スカウトって有望な新人を引き入れることよね?
「そう。私はあなたを『奇跡戦隊☆フルーツレンジャー』にスカウトしに来ました」
全世界の時間が止まった気がした……
「な、何それ?」
「困っている人間や妖怪を奇跡の力で救うのです。この幻想郷に来てしばらく経ちましたが、正直がっかりです。この幻想郷ですら奇跡は幻想なのですか? 皆さん奇跡を信じなさ過ぎです。奇跡を信じていれば叶えられる願いだってあるはずなのに!」
なんか愚痴られてる?
「そもそも! 幻想郷を代表する巫女である博麗霊夢はどうなってるんですか? あれがあんなのだから人々は信じることをしなくなってしまったんですよ! ……聞いてますか?」
聞いてねぇよ。
「あなた此処に何しに来たのよ」
「あっ、そうでした。すいません。最近愚痴っぽくなってしまって」
ホント何しに来たんだ? コイツ。
「というわけで、入隊おめでとうございます」
「えっ!? 私入るとも何とも言ってないよね?」
「大丈夫。あなたならきっとできます」
「いやいやそうじゃなくて。そもそもなんで私?」
そうだ。なんで私なんだ。どっかその辺の暇そうな奴でいいじゃないか。
それに私は……。
「聞いたところによるとあなたは『フルーツ』を使うそうですね?」
「はい?」
よく意味がわからない。
「『クランベリートラップ』とか『フォービドゥンフルーツ』とか」
「……」
何言ってるかよくわからない。
「そりだけ?」
「そりだけです。入隊条件としては完璧です」
どんな入隊条件だよっ!
こんなわけのわからないことに付き合わされてたまるか。
「に、入隊したいのは山々だけどお姉様がね」
「大丈夫です。レミリアさんは現在外出中です。咲夜さんも。パチュリーさんからは許可をいただきました」
……何が大丈夫なのかよくわからない。
「というわけで早速困っている人間、又は妖怪を探しましょう」
そう言うと早苗は変な機械を取り出した。
「何それ?」
「『悩みキャッチングマシーン』です。悩んでる方を即見つけてくれる優れものです」
どういう原理だろうか。
「全ては『奇跡の力』です」
何じゃそりゃ。
『悩みキャッチングマシーン』とやらの案内通りに進んでいくと何時の間にか地底に入っていた。
「なんでわざわざ地底? 近場でいいのに」
「これはより悩んでいる方から反応するのです」
それも『奇跡の力』とやらなのだろうか?
私としてはお姉様にバレないうちに早く帰りたいのだが。
「あの館からのようですね」
早苗が指をさした場所には紅魔館より一回り小さい建物が立っていた。
「おりょ? お前さんたち、地霊殿に行くのかい?」
なんか話かけられた。
そこには一本角の鬼がいた。
「見たところ一人は人間のようだが、もう一方はなんかの妖怪かい? 地上の妖怪は入り込まない約束だったんじゃないのかい?」
え゛っ、そうなの?
「そ、そうなのですか?」
なんか不味い雰囲気。
「ふーむ、どうしたものかねぇ。問答無用で叩き出してもいいけどお前さんたちにも色々ありそうだ」
「そうなんですよ。見逃してくださると助かるのですが……」
私としては見逃してくれないといいのだけどね。
「よしっ。私に勝ったら見逃してやる」
うわっ。『いい暇つぶしの相手が見付かった』って顔してるよ。
「勝負の方法はそっちが決めていいぞ。弾幕か? 酒か?」
まあ、弾幕勝負ならやってもいいかな。
「そうですね。『豆合戦』で勝負です」
「「『豆合戦』?」」
聞きなれない言葉だなあ。
「ルールは簡単。炒った豆をお互いに投げあうだけです。簡単でしょう?」
「それは駄目だろ。節分はとうに終わったぞ」
「勝負の方法はこっちが決めていいって言いましたよね?」
「うっ。まあそうだが」
「じゃあ、勝負開始ですね」
そう言うや否や豆を投げだす早苗。
どっから出したんだよ、その豆。
「わわわわわ。わかった、わかった。私の負けだ。……やるね私に一杯くわせるとは」
「いえいえ……それほどの者です」
それほどの者なのかよっ!
「やりましたよ。クラン」
クラン?
誰、それ?
「クランってだれよ」
「あなたのコードネームです。ちなみに私はミラクルです。任務中はそう呼ぶようにしてください」
……頭痛くなってきた。
『クランベリー』からとってるのか?
「約束通り見逃してやる。クランとやら羽が隠せるなら隠しておいたほうがいいぞ」
そう言うと鬼は酒の飲みながらどっか行ってしまった。
名前間違ったまま覚えられてるし。
「さあ、行きましょう」
「はいはい」
もうどうにでもなれ。
「着きましたね。とっとと入りましょう」
そう言って早な……ミラクルは後ろに下がった。
「?」
「奇跡『ミラクルフルーツ』」
すさまじい爆音とともに扉が吹き飛んだ。
「をい。だめだろ、これ」
「なんでですか?」
せんせー、ここに駄目な子がいまーす。
「あ、言い忘れていましたが任務中は『フルーツ』に関するスペルしかつかってはいけませんよ」
「あっそう」
どうでもいい。
「なにごと?」
中から猫(?)が出てきた。
「私達は『奇跡戦隊☆フルーツレンジャー』。何か困ったことはありませんか?」
「……とりあえず、壊れた扉と目の前にいる訳わかんない人達」
ですよねー。
「うにゅ? どうしたのお燐」
「あっ、お空。襲撃よ、襲撃」
変な烏みたいなのも出てきた。
「襲撃じゃありませんよ。ん? もしかしてあなたは神様から力を授かった地獄鴉ですか?」
「そうだよ~」
「な、なるほど。『ソーラーパワー』ならぬ『空パワー』ということですか。さすが神奈子様に諏訪子様、人選がナイス過ぎます」
よくわからないけど、多分違うと思う。
「それに幻想郷ではもう狸ロボットが出す道具が開発されているんですね?」
「うにゅ?」
「その腕にあるのは『空○砲』ではないんですか?」
よくわからないけど、多分違うと思う。
「違うよ~」
「じ、じゃあなんだと言うのですか? 『ネオアームストロング○イクロンジェットアーム○トロング砲』ですか?」
それも違うと思う。
「そうなのかな? よくわかんない」
「「いいのかそれでっ!」」
だめだこいつら。早くなんとかしないと。
「でっ、なんか用なの?」
「そうそう、ここに悩みを持つ者がいるはずなんですが、あなた達ではなさそうですね。誰か知りませんか?」
「うーん? さとり様かな?」
「案内してください」
「いいよ」
いいのか? 警戒心なさすぎだろ。
「別に案内しなくてもいいわよ」
「あっ、さとり様」
「どうしてここに?」
「あんなに大きな音がしたら普通見に来るわよ」
ですよねー。
「ふーん、悩みねぇ。そんなのないわよ」
えっ!? まだ何も言ってないのに。
「私は心が読めるのよ」
うわぁ、それはいやだなぁ。
「まあ、そうでしょうね」
「……わかりましたよっ! あなたの悩みが」
「え?」
「その能力がゆえに嫌われてしまうことですね?」
「そ、それは……」
「フフフ、大丈夫です。『奇跡の力』はあらゆるニーズに応えられるんです。ズバッと解決してあげます。蝙蝠だけに」
蝙蝠? それ私のこと?
「心が読めても空気を読んだ発言をすれば嫌われることは減りますよ」
「空気を読んだ発言?」
「そう。例えばあなた、私達が何も言ってないのに用事をわかったような発言をしましたね?」
「ええ、そうね」
「それじゃ気味悪がられるだけです。そこは『何かようかしら?』と聞かないと」
「そうなのかしら」
「そうです。あなたには空気を読む練習をしてもらいます。センセーどうぞ」
そう言って早……ミラクルは手を上げた。
「どうも、こんにちは。プラス・○プラーです」
「「「「「……」」」」」
なんかでた。
(あっ、間違えた)
天上から声が聞こえたかと思うと何かは消えていった。
「あー、改めましてセンセーどうぞ」
「どうも、こんにちは。『空気の読める女』永江衣玖です」
おお、まともそうなのがきた。……ポーズ以外は。
「ん? そこの鳥のあなた」
「ほぇ?」
「それは『ネオアームスト○ングサイクロンジェット○ームストロング砲』ですね? 完成度高いな、おい」
全然まともじゃねぇぇぇぇ!
「さすがセンセー。空気が読める方ですね」
どこが?
「それでは早速行きましょうか」
「「どこに?」」
「会話の練習をしに行きましょう」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★LESSON.1☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
私達四人は霧の湖に来ていた。
猫と鴉は留守番だ。
「なんでここ?」
「最初はより単純な方がいいでしょう」
「チルノさーん。お願いします」
「あたい、参上っ!」
うわぁ。
「さあ、さとりさん。チルノさんとおしゃべりしてください」
「え、ええ。……こんにちは」
「オッス」
「今日はいい曇り加減ですね」
「そうね」
……ハッ。つい私が答えてしまった。
「「「「……」」」」
「ご、ごめん」
しょうがないじゃないほんとにいい曇り加減なんだから。
「あ、私の名前は古明寺さとりよ」
「あたいはチルノ。最強の氷精よ」
「最強?」
「そう、最強」
「そ、そう。すごいわね」
「おっ、わかる? あんたなかなかやるわね」
「そ、そうかな?」
「そうよ。あたいの最強さを理解できたのはあんたが二、三人目よ」
「……何考えてるのかわからない」
明らかに人選ミスだろ、これ。
「あ、そういえばあたい行かないといけないところがあったんだ」
「そ、そうなの?」
「またな、さとりーぬ」
「「誰っ!?」」
行ってしまった。
「どうですか? センセー」
「まあまあですね」
今のどこがまあまあだったのだ?
「今ので私の授業をおわります」
ええっ!? 終わり?
「お疲れ様でした。帰りは送らせてもらいますね」
早n……ミラクルが手を上から下に降ろしながら、
「スリスリスリットぉぉ!」
そう叫ぶと衣玖の後ろに空間の裂け目ができて衣玖を吸い込んでいった。
……もう知らん。
「さて、さとりさんあなたへのレッスンはまだ終わりではありませんよ」
「……私もう帰っていいかしら?」
「いいと思うよ」
私も帰りたい。
そう話している私達を見ている一つの影に私達は気付かなかった。
いや、気付くはずはなかった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★LESSON.2☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「会話術を得たあなたはもう初対面から変に思われることはありません」
さっきので会話術が得れるんならこの世界は詐欺師のパレードだよ!
「あとはあなたの『心を読む程度の能力』をいかした職をすればいいんです」
それはそうかも。
はじめてこいつの意見に賛成できた。
「どんなのがいいのかしら」
「そうですね、探偵とか人生相談とかですかね」
「それならできそうな気がするわ」
「まずどっちから試しますか?」
「そーね……。探偵とか面白そうね。『犯人はお前だっ!』ってやつでしょ?」
「そうそう。いけそうですね。じゃあ『悩みキャッチングマシーン』作動!」
その示した先は我が住居、紅魔館だった。
やっと帰れる。
「あっ、妹様お帰りなさい」
「ただいま中国」
「……名前で呼んであげましょうよ」
「気が向いたらね」
ミラクルが向かったさきには数名の妖精メイドがいた。
「どうしたの?」
「お嬢様用の茶菓子を誰かが食べちゃったんです」
「あれはとても高いものだったから。ばれたら……」
「メイド長に……」
「お嬢様に……」
おしおきされるわけだ。
「じゃあその犯人をひっ捕らえればいいんですね? 我ら『奇跡戦隊☆フルーツレンジャー』にお任せあれっ!」
もしかしてさとりも入ってるのかしら?
まあいいっか。私一人では突っ込みが追いつかない。
でも犯人を捕まえるといってもどうやって?
「犯人はもうわかってるわ」
おっ?
「さっきの美鈴って人が内心バレないかビクビクしてたから」
さすがさとり。こういう時に便利ね。
「あとは証拠ね」
「証拠も何もとっとと捕まえればいいんじゃないの」
「駄目よ」
「いえ、クランの言うことにも一理あります」
一理どころか全てじゃない?
「フフフ。私こと、ミラクルに任せてください。クラン、さとりーぬ」
あっ、さとりのコードネームはさとりーぬなのね。
「美鈴さん!」
美鈴がこっちを向いた。
「あなたがやったことは全部マルッとズバッとスリッとお見通しだぁ!」
「「「!?」」」
私達三人は皆驚いた。
美鈴はなんでバレたんだろうってことだろう。
私とさとりは……さとりーぬはセリフ自体に『なんだそりゃ』っていうことだろう。
「わ、私は何もしてませんよ?」
目が泳いでるわよ。
「じゃあ、襟元についてる食べかすはなんですか?」
「!? そ、そんなちゃんとはらったはずなのにって、あっ」
「「「観念しなさい!」」」
「今日は色々ありがとうございました」
頭を下げるさとりーぬ……さとり。
今日は解散らしいのでもう名前で呼んでいいらしい。
「いえいえ、何もできなかったようなものですよ」
ホントそうだよ。
「なんか自信がついた気がするわ」
それ、気のせいじゃない?
「お姉ちゃん!」
「こいしっ!?」
ん? こんなのさっきまでいたっけ?
「お姉ちゃん、何してるの? そんなの許さないよ?」
「な、何言ってるの? こいし」
なんか変な雰囲気。
「私が孤独になるのが嫌で能力を捨てたのに、能力を捨てずにお姉ちゃんは私の欲しい物を手に入れようとしてる。そんなのずるいよ……」
「こいし……」
こいしと呼ばれた方がさとりに掴みかかる。
「……ずるいお姉ちゃんなんて死んじゃえ」
「あなたはバカですかぁぁぁぁぁぁ」
早苗がこいしをひっぺがえす。
「あなたは唯、現実から逃げていただけです。お姉さんは今まで闘ってきたんです。ずるいのはあなたの方じゃないんですか?」
「……」
「なぜベストを尽くさないんですか。あなたは友達がほしいのでしょう? ならば作る努力をすればいいのです。お姉さんと一緒に」
「……」
「幸いにもいい人物が目の前にいます」
「え?」
「そこにいるフランドールさんですよ」
え!? 私?
「……どうも、古明寺こいしです」
「フランドール・スカーレットよ」
「ふふふふ」
その後、しばらくお話をして古明寺姉妹は帰っていった。
ベストを尽くすか……。
私もお姉様と話あってみようか。
別にあの二人が帰る時に手を繋いでたのが羨ましかったわけじゃない。
そう、頑固者のあいつのためだ。
まずなんて話かけようかな……。
それと、話が急展開すぎる気がしました。
ただ早苗が面白い方向に暴走してるのは個人的に良かったかな。
脱字?の報告
>「着きましたね。とっと入りましょう」
「とっとと入りましょう」ではないでしょうか?
さすがはミラクル!
そこはかとない上滑り感が素敵。
→「どうしたの?」
所々解らないネタがありましたけど、何か妙に面白かったです。
珍しいタイプの早苗とフランですねw
誰が喋っているのか判りづらい台詞がいくつかあるのが難点かな。