※この作品はかなりの出血描写がありますご注意ください。
「たっだいま~~~~~!今日の ランチは ビーフケバブッ♪」
太陽も真上に昇りきったお昼ごろ、遊びに出掛けていたぬえがごはんを食べに帰ってきた。白蓮がぬえの大好物を作ってくれる約束をしたので、
とても嬉しそうにスキップをしながら命蓮寺の玄関を開ける。
だが、すぐにそのテンションも崩れ去ることとなった。既に、異変は起こっていたのだ。
「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁ!!!」
玄関の先に、水蜜がうつ伏せで倒れていたのだ。死んだように動かない。床には紅い水溜りが出来ている。
え?どういうこと?これは、血?ムラサが、ムラサが死んでる……?
ぬえの頭が混乱する。
考えろ、助けを呼ぶべきだ。その前に脈はあるのか?ここを離れていいのか?間に合わないかもしれない。などと色々なことが頭をグルグルと
回っている。そして、最終的に一つの答えを導き出した。
「そうだ!元から死んでるんだった。…血糊まで準備して、脅かさないでよね!」
変ないたずらにプンプンと怒りながら、血糊で汚れないように水蜜の背中を踏んづけて廊下へ上がる。そんなことより今はケバブの方が大事だった。
水蜜を放って、スキップしながら廊下を進む。目的地は台所。白蓮が準備して待っているはずだ。
「ケケケケバブ~!ジューシーお肉を削いで刻んで挟みます~♪ケケケケバって、うわっ!!」
バッタン!
居間の前まで辿り着いたとき、石のようなモノに躓いて転んでしまった。
「うう、なんでこんなところに石が…ムラサだな!あいつ、後で覚…えて………」
ぬえは絶句した。起き上がろうと顔を上げた先に一輪が倒れていたのだ。驚いて顔を背けてしまう。しかし、今度は居間の中で倒れている者を
見つけてしまった。それは毘沙門天の弟子、寅丸星。
「へ?何これ、嘘でしょ…」
これもいたずらだと思いたかった。みんなして私を驚かそうとしているのだと。でも、その考えはすぐに否定される。だって水蜜ならともかく、
一輪や星がこんなことをするわけがない。それに…居間で倒れている二人の周りは、赤い、紅い血で染まっていた……
「ひっ!?」
混乱するというレベルじゃなかった。頭の中が真っ白になって何も考えられない。助けを呼ぼうにも身体がブルブルと震えて動けなくなっている。
目から涙が零れそうになったそのとき、どこからか声が聞こえてきた。
「……ぬえ…ぬえか?帰ってきたんだね!」
聞き覚えのある声。この声は、
「ナズーリン!ど、どこにいるの?みんなが…みんなが!」
「落ち着くんだ。あまり大声を出すんじゃない…今、そっちに行くから」
すると居間に置いてある箪笥と壁のスキマから、にゅるんッとナズーリンが出てきた。
「うわっ、気持ち悪い!え?どうやって出てきたのよ!」
「気持ち悪いとは失敬だな。これは私の秘奥義の一つ、『ネズミじゃらし』だよ。ちなみに秘奥義は1008式まである」
「多っ!それ秘奥義って言わないよ……ってそんなことより大変なんだから!みんなが倒れてて、血がいっぱいで、誰がこんな酷いことを!
あぁう、どうしよう…早く助けなくちゃ。そうだ、聖は、聖は無事なの?!」
みんながこんな状態だ。白蓮もどこかで倒れているかもしれないと嫌な考えが頭を過ぎった。 姿が見えないことがぬえの不安を掻き立てる。
だが、聖という名前にナズーリンの顔が曇っていく。
「ぬえ、落ち着いて聞いてほしい。これは全部、聖がやったんだ」
「はあ!?な、何言ってるの!聖がこんな酷いことするわけがないじゃない」
「それが本当なんだ。船長は玄関に入ってすぐ。一輪はなんとか意識を保とうとしたがこの廊下…ご主人様は居間で……やられてしまった。
私も危なかったよ。とっさに秘奥義でスキマに逃げ込んで命拾いをしたんだ。あともう少しでみんなと同じように倒れるところだった……
ああそれと、雲山なんてショックのあまり石になってしまったよ」
そう言って廊下を指差す。そこにはぬえが足を引っ掛けて転んでしまった石、雲山が転がっていた。
ナズーリンの言葉がぬえには信じられない。けど、石になった雲山、血を流しながら倒れているみんなの姿を見てしまったら否定することが
出来なくなってしまった。そして、堪らなく悲しくなってくる。本当だったら今頃、みんなで昼ご飯を食べているはずだった。白蓮の作ったケバブを
楽しくお喋りしながら食べる。そんな一家団欒を過ごしていたはずだったのに…
しかし、現実は違う。誰にでも優しい白蓮が家族と呼べる者達を酷い目にあわせた。それが辛い事実。ぬえはここから逃げ出したかった。
それでもそうしなかったのは、白蓮への想いが強かったから。復活の邪魔をしていたぬえを咎めず、許した上に、一緒に暮らすことも認めてくれた。
そんな優しいヒトを見捨てて逃げるわけにはいかないと思ったのだ。
「ぐすっ、わ、私が止めなくちゃ。なんでこんなことしたのかわからないけど、それでも聖を止めないと…私が聖を助ける!」
ぬえは決意する。今までの恩を返す為にも、自分が白蓮を助けてあげることを。
「ナズーリンはみんなの救助をお願い。まだ助けられるよ!私は聖をなんとかする」
「む、無理だ!あれは君の手に負える相手じゃない。みんな殆ど瞬殺されたんだぞ!」
「それでも、私は聖を助けたいんだ。私を受け入れてくれたヒトをこの手で…」
必死に止めるナズーリンに、ぬえはぎこちない笑顔を作って答える。覚悟は決めた。たとえ自分が犠牲になっても白蓮を救ってみせると。
ギシ…ギシ…
その時、廊下の向こうから音が聞こえた。誰かが床を歩く音。二人の動きが止まる。そして、
「ぬえちゃん?帰ってきてるの?ナズちゃんも一緒ね。お昼用意して待ってたんだから…」
白蓮の声、ここに近づいてきている。ぬえの身体が恐怖で震えだす。ナズーリンは固まって動かない。そんなナズーリンを守る為に、意地で
一歩、二歩と震える足を前に出す。三歩前に出たところでまた動けなくなった。もうすぐ白蓮がやってくる。覚悟を決めたはずなのに、その覚悟が
揺らいでいく。多分、何も出来そうにないとぬえは悟った。
それでも白蓮は近づいてくる。どんどん床を踏む音が大きくなっていく。そしてついに、白蓮がやってきた。ぬえは震えながらその姿を目にする。
「ひ、ひじ…り………?」
「あら、お帰りなさい。ちゃんと手洗いとうがいは済ませてきてね。そうしたらみんなでご飯をいただきましょう」
「あ、アレ…その、え?ええぇ~~~~!!?」
ぬえは驚愕した。自分の目に映ったものが全く信じられなかったから。
姿を現したのは紛れもなく白蓮その人だった。それは間違いない。ただ、その右手には刃渡り60cmほどの包丁を握り締めていた。しかし、
ぬえが本当に驚いたのは、白蓮自身の姿だった。
白蓮は小さくなっていた。もっと詳しく説明すると、5,6歳くらいの子供の姿になっていたのだ。ぬえやナズーリンより背は低く、豊かな胸も見事に
ぺったんこになっている。だが、服はいつもと同じ大きさだからかなりぶかぶかである。歩きにくいのか、小さな手で一生懸命スカートを持ち上げていた。
それでも態度はいつもと同じように優しいおっとりとしたままだった。
今まで起こったことすべてが吹っ飛んだ。この日一番の驚きだった。ぬえの思考が追いつかなくなる。もう何を考えればいいのか検討がつかない。
だが急に後ろで、バタンッと音が鳴った。意識をなんとか取り戻し後ろを振り返る。固まっていたナズーリンが倒れていた。鼻血を流しながら……
「ふふ、ふふふ…可愛すぎる、可愛すぎるよ聖。この私としたことが1008の秘奥義でも対抗出来ないなんて、さ、さすが超人……いや、これぞまさに
小人(ロリ)「聖白蓮」
と呼ぶべき神々しさだ。ご主人様命の私を萌えさせるなんて、お見事………」
ぴちゅーーん
「駄目だナズーリン!逝くな!これシリアスじゃないの!サスペンス的な話じゃないの!?まさかそういうこと?みんなが流している血は鼻血ってオチ?
とりあえず、ちゃんと、ちゃんと説明してから死ねーーーーー!!!」
悔いの無い顔で力尽きるナズーリンを抱えたまま、ぬえは溜まった思いを大声で吐き出した。
「あらあら、みんな仲良しさんね」
ウフフ、包丁を握りながら楽しそうに眺める小人(ロリ)であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふ~ん、つまり聖が小さくなって現れたから、鼻血出しながら耐え切れずにぴちゅーーんしちゃったってわけね」
ぬえが腕を組んで見下ろすような形で話をまとめる。
あれから倒れている者達をおもいっきり蹴飛ばして起こし、傍にはまだ星の鼻血が残ったままの居間で一列に並べ正座させて説明を受けていた。
白蓮(5歳)はぬえの後ろでニコニコと笑っている。
「ああ、心配して損した。覚悟だって決めたのに…こんなことで倒れてるんじゃないよ。情けない」
「こ、こんなことって言いますけどね。これは大変なことなんですよ。白蓮が小さくなったんです。唯でさえ可愛らしいのに、プラス幼女化だなんて……
耐えろと言う方が無理なんです!!」
「そうです!いつもは頼もしい姐さんが私を見上げて『一輪ちゃん、そろそろご飯ですよ~』って言うんですよ!そんな可愛くされたら誰だって
ぴちゅります!!」
「私なんて三途の川飛び越えて冥界まで行ってきたんだから!!」
「聖が可愛すぎて生きるのがツライ!!」
ぬえの発言に、星、一輪、水蜜、ナズーリンが順番に異議を唱える。みんな鼻にティッシュを詰めながら必死の形相で食って掛かる様は
見ていて凄く気持ち悪い。気圧されかけたぬえが今度は白蓮に話しかける。
「そもそもなんで聖はそんなちっちゃくなってしまったの?誰かにやられたの?」
「え?ああこれね。これには山より大きく、海より深い理由があるんです…」
白蓮が真剣な顔になる。ゴクリ…と唾を飲み込み次の言葉を待つ一同。
「私の過去のことは以前話したわね。大事な弟、命蓮が亡くなったとき、私は死を怖れて、若返りの魔法に手を出してしまった。それが禁術だと
知りながら必死に習得した。命蓮の最後の願いを私が叶える為に……今思えば馬鹿な話よね。人が死ぬのは自然の摂理だというのに……
本当、自分勝手だったわ」
ぬえも知っている。それがきっかけで妖怪を敬うようになったと。弟の願い、困っている人々を助けること。そして、白蓮の願い、虐げられている妖怪を
救うこと。今の白蓮を形作った出来事、それが今回関係しているのかと考えた。
白蓮が続ける。
「法界に封印されてから千年くらい何も出来なかったから、力が衰えていることもわかるわよね。だから、ためしに実験で若返りの魔法を使ってみようと
思ってやってみたら見事に失敗しちゃった。テヘッ☆」
「………は?」
可愛らしく左手を頭にコツンッと当てる白蓮。意味が全くわからないぬえ。その後ろで、ブラボー!オオ、ブラボー!!と鼻血を撒き散らしながら
拍手を送る残りの者。
「いや待て、話の脈絡がおかしくない?山より大きく、海より深い理由ってまさか、魔法の練習で失敗しただけ!?」
「ピンポーン!大正解です。ぬえちゃんに座布団弾2枚!でも恥ずかしいから他の人に言っちゃダメよ」
「はーい!誰にも言いません」 「言えるかよ。こんなこと…もったいなさ過ぎる」 「墓まで持っていく所存でございます」 「チューちゃんねるに書き込んで
いいかい?」
ぬえは頭を抱える。ダメだこいつら……
「まあまあ、あくまで練習だからね。明日には元に戻るから安心して頂戴。さあ!それよりお昼ご飯にしましょう。ぬえちゃんもお腹空いているわよね?
ちゃんと要望通り、ケバブ作ってあるからみんなで食べましょう!」
「そんな暢気にメシ食ってる場合じゃあ(グ~~)……あっ」
お腹がなる。帰ってきてから驚きの連続で緊張していたからか、安心したら一気にお腹が活動を再開した。空腹のお腹を恥ずかしそうに
押さえるぬえにもう一度ニッコリ笑って、
「決まりね。では準備しますからみんなは席について待っていて下さい」
そう言い、服をズルズル引きずりながら台所へ向かう白蓮。残された者達は仕方なく食卓の前に座り始める。だがその時、台所から「キャー!」
と悲鳴が上がった。慌てて全員で白蓮のところに向かう。
「聖!どうした!何かあったの!?」
ぬえが先頭に立ち、台所へ入り真っ先に声を上げる。そこには、涙を浮かべながら必死に手を伸ばしている白蓮の姿が見えた。
「た、大変なの、ぬえちゃん!台所に…台所に手が届かない!!」
ズザーーー!!おもいっきりすっ転ぶ。他の面子は白蓮の必死な姿を見て、また鼻血を流している。とても清清しい顔がやはり気持ち悪い。
「ああ…懸命に手を伸ばして台所に立とうとするその心意気、素晴らしいです」
「足を見てください!爪先立ちしていますよ。わ、私の面舵がいっぱいいっぱいです~」
「ハッ!姐さんがロリ…ロリ姐さん……ロリ姐だと………私は一向に構わん!!!」
「フッ、今日ばかりは私のペンデュラムも攻めに変更だ。行くぞ!攻符「ペンデュラムアタック」!!」
とりあえず赤UFOで四人の頭を殴っておいた。次は青UFOで殴ると脅すのも忘れない。
結局、台座を用意して、肉を削ぐ役は白蓮。それ以外は他の面々で準備することになった。最初は一人で出来ると言っていた白蓮だったが、
それだと時間が掛かるからと納得させた。渋々了承してゆっくりと肉を削ぎに懸かっていたが、今は鼻唄を歌いながらスパッスパッと包丁を
動かしている。
「フフン フ~ン フフフ~~ン♪(スパッスパッスパスパスパスパースパッスパッ!)」
「あー、最初からずっと握っていた包丁はこれをする為だったのね…」
「おい、見たか、ぬえ。幼女が包丁振り回してるんだよ。なんて言うか…凄く扇情的だとは思わないかい?」
「思わないよ!ナズーリンなんか今日おかしくない?!いつものクールはどこ行ったの!!」
「実は黙っていたけど私、変態なんだ……幼女とか凄い好み」
「うわっ、嫌なカミングアウト。そんなの聞きたくなかった!」
ナズーリンの知られざる性癖がわかったところで食事の準備が完了した。そのまま居間のテーブルにみんなで座る。
「それでは遅くなりましたが、皆手を合わせて…いただき南無―――!」
「「「「「いただき南無―――!」」」」」
命蓮寺恒例のあいさつを行い、騒がしくも楽しい食事の時間が始まる。
ケバブの食べ方には色々あるが、命蓮寺ではご飯の上に肉を乗せる方法とパンに挟む方法の二通りに分けられる。ぬえは断然パンに挟む派で、
今回も自分の好きなように肉とトマト、レタスを挟む。そして決め手はソース、甘口と辛口があるがぬえは甘口を選ぶ。これで水蜜にお子様と
茶化されることもあるが辛いのは苦手なので相手にしないようにしていた。
「おいしい!やっぱり聖の作るケバブは最高だね」
至福の味を体感しながら、作った相手に感想を言う。しかし、返事は返ってこなかった。不思議に思い、白蓮に視線を向ける。白蓮は料理に
手を付けず静かに周りを見渡していた。そこにはいつもの笑顔が無い。
それが妙に気になったのでもう一度声を掛けようとしたとき、横から水蜜が喋り掛けてきた。
「聖、食べないんですか?ははーん、また手が届かなくて困っているんですね。それなら私が作ってあげますよ」
「え?ああ、そうなの。お肉に届かなくて、水蜜ちゃんお願いできる?今日はパンで食べてみようかしら」
「まかせてください!私の特製ケバブご馳走しますね!」
パパッと手際よく具材を挟んでいく。白蓮もさっきまでのことが嘘のように笑顔で見つめている。ぬえもやっぱり気のせいだと思うようにした。
水蜜が最後にソースをたっぷりかけて白蓮に手渡す。受け取った白蓮が口をつけようとしたとき、ぬえは大事なことに気づいた。
「聖!それ食べちゃダメ!!」
だがそれも少し遅かった。すでに白蓮はカプッとケバブに噛り付いていた。そしてそのまま顔が真っ赤になっていくのが見て取れる。目から
大粒の涙を流す。そして一言。
「カ、カラヒ…」
それからケバブを放り、口を押さえながら呻き出した。立ち上がりガクガクと震えている。一輪から水を貰い何度も喉に流し込んでいる。
「あちゃー、間に合わなかったか」
「ど、どういうこと?毒なんて盛っていないですよ!」
「だってムラサの作るケバブって滅茶苦茶辛いじゃない。いつも辛口ソースたっぷりかけてるし」
「そりゃ、私は辛いのが好きだけど…でも、聖だって辛いのは苦手じゃなかったわ。それなりに辛いのも食べてたでしょ」
「普段はそうかもしれなけど、今は子供になっているんだよ。あんなに辛いもの食べれるわけないと思ったんだ…遅かったけど」
「あ……」
小さくなったことで白蓮の味覚も子供並に落ちてしまっていた。それは、子供が何も知らずにわさび入りのお寿司を食べた後の姿を彷彿とさせる。
ヒーヒー言いながら舌を出す白蓮を見て、星とナズーリンが鼻血を流している。うわ~ケバブが真っ赤だ!とりあえず顔面に青UFOを投げつけた。
そんなことに気づくこともなく、ただ必死に水を飲んで辛さを和らげようとする白蓮は同情するに値していた………南無三。
とまあこんなやり取りがありながらも(なんとか回復した白蓮はぬえと同じ甘口を食べた)昼食が終了する。片付けも白蓮に任せてられないと、
一輪が代わって行ってくれた。
また残念そうな顔をしていた白蓮だったが、一息ついたところでおもむろに立ち上がる。
「食事も済んだことですし、私はこれから用がありますので出かけてきますね」
「用ですか?白蓮」
「やだわ、星ちゃん。今日は人間と妖怪の共存について説法して回ると昨日伝えたでしょう」
「ああ!そうでしたね。うっかりしていまし……ってその姿で行くんですか!?危険です!今の白蓮だったら悪い人達に襲われてしまいますよ。
この幻想郷には幼女趣向の輩が沢山いるんです。私が知る限りでは、紅魔館のメイド、永遠亭の薬師、山の巫女、地底の火車など他にも
まだまだいるみたいですから。姿を見られたら連れ去られてしまいます!!」
「大丈夫よ。そんな人達でも心から接してあげれば理解してくれます。最初から危険だと決め付けるのは良くありません」
「いや、そんな奴らが解るわけないよ。どこまで良いヒトなの聖……それとさっきまで鼻血噴出していた奴が言っても説得力が無い」
ぬえが冷静にツッコミを入れる。しかし、心配なのは同じで、白蓮を止めようとする星が頼もしかった。
それでも、白蓮は大丈夫、大丈夫と言いながら出かける準備をしようと歩き出した。だがその時、ブカブカだったスカートを踏んづけてしまい、
前のめりに転んでしまった。急だったので受身も取れず、顔から床に落ちていく。
パタンッ…乾いた音が響く。そして、
「い、ぃたい……」
強く打ったのか若干赤くなっている鼻を擦りながら立ち上がり、もう一度歩こうとする。が、焦ったのかまたスカートを踏んづけてしまい、二度目の
顔面ダイブに突入した。今度は起き上がらず、うう…と痛みを我慢するように歯を食いしばっている。転んだ拍子で服も乱れ、なんとも言いがたい
背徳的な姿に見える。目に溜めた涙がスパイスだ。
「ひ、ひじりゃぁあああ!!大丈夫かい!?まさか怪我したのか!衛生兵!衛生兵ーーー!!!」
ナズーリンが飛び出し、白蓮に駆け寄る。その手にはしっかりとカメラが握り締められていた。
「Is that a white lotus? (あれは白い蓮ですか?)」
「No. That is white lolitas. (いいえ。あれは白い幼女です)」
水蜜と一輪が何やら外国語で会話している。よくわからないが、きっと文法も訳も間違っているだろう。
「ア、アカンて、ホンマ…そんなのウチ耐えられへん!びゃ、白蓮が悪いねんで、そんなカッコされたら、ウチの忘れ去られた野生のチカラが
アブソリュートジャスティスしてしまう!!!が、がおーーー」
四つん這いに構える星。今にも飛び掛って来そうである。こちらも別の外国語を使っている(と思いたい)。
みんなに共通しているのは、これまでにない幸福そうな笑顔、そして鼻血。
ブチッ!
何かが切れる音がした。
その音を出した主、ぬえが緑UFOを振り上げ、四人の頭に打ち付けていく。緑だったUFOが赤色に変わるまで………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
命蓮寺が紅魔館より紅くなった頃、新しい案が可決された。それは、
「私達で分担して聖の仕事を行う。これでいいよね、何か意見はある?あと、聖は家に残って留守番。オーケー?」
「い、いいえ、ありません。素晴らしい案だと思いますよ。…ぬえさん」
「…わかったわ。今日はみんなにお願いします」
案というのは白蓮がこの日、説法しようとした場所へ他の者が手分けして行くということだった。何より数が多すぎたのが原因で、人里から
博麗神社、紅魔館、マヨヒガ、天界、地底、妖怪の山とデタラメのようなスケジュールである。さすがに一人では無理なので、それぞれ決まった
場所に行くことになったのだ。
「それじゃあ役割分担するよ」
ぬえのこの一言で他の四人の態度が変わった。
「あ、では私が残りますから皆さん行ってきて下さい。毘沙門天の代理たるもの、そうそう寺を離れるわけには行きませんから」
「いいえ~、やはりこの寺の主(仮)である毘沙門天様は行くべきだと思いますよ~。元は聖輦船だから船長である私が残るべきだと思いますがね」
「もう船でもないのに船長だなんて…具の入ってないカレーみたいよ、水蜜。ここは普段から寺の守護を行っている私以外にいないでしょう」
「フッ、『勝手に』門番気取っているだけだろう。今回は探し物ではないから出番ではないな。私は残らせてもらうよ」
バチバチッ、火花が飛び散っている。互いに笑顔で牽制しながら自己主張を行う。
「フフ、そんなこと言って貴方達、姐さんと一緒に残りたいのが本音でしょう。そうはさせないわよ。この泥棒猫!」
「なっ!?誰が猫ですか…私は寅です!!がおーーー」
「テメー等、ふざけんのも大概にしておけよ!!ケツに錨ぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたるぞ!!!」
「おおこわいこわい。これだから悪霊上がりの舟幽霊は……あることないことチューちゃんねるに書き込んでしまってもいいのかい?」
一触即発の状態。それぞれ、自分のスペルカードを手に取り始める。
しかしその時、四人の間にズドン!と何かが落ちてきた。それは、ぬえの虹色UFOだった。みんな同時にぬえがいる方向に顔を向ける。そこには
薄ら寒い笑顔のぬえが左手を握り、親指だけ立てていた。まあ、その親指は下を向いていたが。
「私が残る。お前らは行け」
「は、はい!」
全てが決まった瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハンカチは持った?地図もちゃんと持っている?おやつは五百円まで。向こうについたら粗相の無いようにきちんと挨拶するんですよ。
わからないことがあったらヒトに尋ねることも忘れずにね。みんなの無事を祈っているから!強く、強く生きてください…」
「聖~、今生の別れじゃないんだから…いい加減行かせてあげようよ。ていうかマジでうざいよこいつら…」
玄関ではまだ小芝居が続いている。傍には水蜜の血の池がまだ残っていた。それだけじゃなく更に増え続けている。その理由は白蓮の姿。
さすがにそのままの服では動きにくいということで、ぬえの服を貸してあげることにしたのだ。そして今はぬえとお揃いの黒い、可愛い洋服を
着ている。その姿を見たお出かけ組みは至高の笑みと鼻血で迎え入れるのだった。
「それでは行ってきます。留守番お願いしますね…くっはぁ、白蓮の二の腕堪んねぇ」
「私は予定に無い白玉楼に逝ってしまいそうです」
「ほら、雲山。夢にまで見た姐さん(子供服ver)ですよ」
「絶対領域確認。保護対象生物と認識。我がナズーリンランドへご招待」
「早く行けーーー!!!」
UFOを投げつけながら追いかける。慌てて出て行くみんなの最後尾にいた星が振り向く。
「ぬえ、どうか白蓮をお願いします」
真面目な表情で一言告げた。さっきまでの緩んだ顔とは違う、真剣な顔。すぐにいつもの穏やかな顔に戻り、役目を果たしに飛びだす。
星の頼みを胸に刻みながら、ぬえはもう遠くに点でしか見えなくなった後姿に頷いた。
「ぬえちゃん、どうしたの?」
「…ううん、なんでもないよ。それより留守番組は何しよっか。遊ぶ?」
「ダーメ。まずはお洗濯からよ。その後はお寺と家の掃除。何故かみんな今日はよく鼻血出してたから、念入りに掃除しないとね」
「うへぇ…めんどくさそう」
悪態をつきながら静かになった家へと戻る。でも本当は白蓮と一緒にいられるからそこまで嫌ではないぬえであった。
しかし、現実は甘くなかった。もともと7人家族の大所帯でその内、着る物を必要としない雲山以外は全員女性である。自ずと服には
気を配っており、洗濯は全部手洗いで丁寧に洗うようにしていた(決していつも同じ服を着ているわけではない。各々のこだわりから
全部同じような服になっているだけ)。それらを一枚、一枚、計6人分を手洗いするわけだから相当神経を使う。それに加え、ぬえ自身
初めての手洗い洗濯だから悪戦苦闘しながら洗っている。取り掛かった最初こそ、白蓮に教わりながら言われるとおりに手を動かし、
お喋りなんかしながら楽しくやっていた。
「うわー、ムラサってばいつも私を子ども扱いするくせに、くまさんパンツ履いてるのかよ…ププッ!そっちだって子供じゃん」
「おおぅ、なにこのセクシーな下着…ほとんど紐だよ。星のかな?んっ?違う…これナズーリンのだ!え~、私より小さい癖にこんなの
履いてるのか…や、やるね」
「(これ…聖のだ!やっぱり大人だな~)―――い、一枚くらい持って帰っても…って何考えてんだ私!!」
みんなの下着鑑賞を行っていたがそれも時間が経つにつれて飽きてしまい、今はもう何も考えずに手を動かす事しか出来なかった。
チラッと白蓮を横目で見る。涼しい顔をしながら洗濯を続けていた。しかも手馴れたもので素早く、それでいて綺麗に洗い終えていく。
「小さくなってるのになんでそんなに上手いんだよ~幼女に負けたぁ。悔しい……ああもう!これ全然汚れ落ちないんですけど。黒い服の癖に
生意気ね!ってこれ私の服だ」
泣きそうになりながら必死に自分の服の汚れを落とす。いつも遊びから帰ってきたら、そのまま汚れた服を放置して別の服に着替える。
気が付いたら脱ぎ捨てていた服が綺麗になって部屋に置いてある。それが当たり前の生活だった。だが、その裏では、いつも白蓮が
洗濯をして、綺麗にしていたのだ。そのことについて文句ひとつ言わず、毎日行っている。改めて白蓮の凄さを実感させられた。
やっとの思いで最後の洋服を洗い終える。報告しようと白蓮を探すが、すでに白蓮は洗濯物を干し終えていた。その手際のよさにぬえは
感嘆のため息をつく。しかし、様子がおかしいことに気づいた。白蓮が動かずに、ただじっと洗濯物を見つめ続けている。なにか大切なことを
思考するかのように。
何故かぬえはそんな白蓮が今にも消えてしまうんじゃないかという不安に掻き立てられてしまい慌てて声を掛けた。
「ひじり…」
「なあに?ぬえちゃん。あ、洗濯終わったのね。それならちゃっちゃと干しましょう。まだお掃除が残っていますから」
「う、うん。わかった」
いつもの白蓮に戻っている。なんであんなに不安になったのかぬえは自分のことなのに解らなかった。
洗濯を終えたらすぐに掃除に取り掛かる。寺はともかく、家は酷い有様だった。至る所が真紅に染まっており、それが全て血だったので、
落とすのにかなりの体力を消耗させられる。
「そもそもなんで私が他人の鼻血を拭いているんだ。あいつら容赦なくぶちまけやがって…これもう命蓮寺じゃなくて、紅蓮寺だよ」
「うふふ、上手いこと言うわね。ぬえちゃんに座布団弾3枚!」
貴方のせいですがねー。と心の中で思う。さすがに今度は白蓮も手際よくとはいかず、ゆっくりとゴシゴシと床を拭いている。
「はあ、でもこれだけ血を出してピンピンしているあいつらもつくづく化け物だよね。ぜったい身体の密度以上撒き散らしているよ」
「みんないい子達だから…こんな私の為に一生懸命になってくれる、優しい心を持っている子達よ。許してあげてください」
白蓮がさっき見せた儚げな表情でぬえに伝える。また不安な気持ちが湧いてくる。それを悟られないように元気な声でおちゃらけてみせた。
「さあて、どうしよっかな~。でも白蓮の頼みだから仕方ない、おやつのプリンをもう1個追加で手を打とう!」
「フフ、わかったわ。今日はおまけで2個食べていいです。でも、みんなには内緒ですよ」
互いに笑いながら掃除を進めていく。今は、今はこれでいいと思いながら…
日も沈みかけた頃、やっと紅蓮寺が命蓮寺に戻った。綺麗になった居間で、疲れ果てたぬえと白蓮が休んでいる。食卓には約束したプリンの
空の容器が2個置かれている。
「ふぇー、今日は本当に疲れたー。多分、一年分の体力は使ったね」
「お疲れ様、よく頑張ったわ。ぬえちゃんのおかげよ。もう休んでていいから、私は晩御飯の準備してくるわ」
そう言って立ち上がろうとした白蓮の手をぬえが掴む。そのまま、足の上に引き寄せ座らせる。ちょうど、大人が子供を膝に乗せるような形になった。
白蓮が逃げられないように腕でがっちりと固める。
「捕まえた~、まだまだ時間はあるからもう少し休んでいよう。いいでしょ?それにしてもホント小さいくなったね。私が聖を抱きしめられる日が
来るなんて考えたことなかったよ。あはは」
「ぬ、ぬえちゃん、苦しいです……それに恥ずかしい…」
「いいぢゃん、いいぢゃん。今日一日とてつもなく疲れたな~、誰かさんのおかげで~」
止めの一言で、ジタバタしていた白蓮が「むぅ…」と顔を真っ赤に染めながら大人しくなる。
「ふ~、でも本当に大変だったよ。帰ってきたらみんな鼻血流して倒れてるし、なんか言動もおかしくなっていたし、私より正体不明ってどういうこと?
それに、洗濯も面倒くさいし、掃除なんて後半ほとんど記憶ないよ。ぜーんぶ聖がロリっ子になったのが悪いんだからね!確か小さくなった
理由が魔法に失敗したからだっけ?」
「あ、あはは…ご迷惑お掛けしました。反省してます……」
ぬえの愚痴に苦笑いで答える白蓮。その頭にぬえが顎を乗せてきた。イタズラするように口をアウアウと動かすからかなりくすぐったい。
自分がまるでおもちゃになってしまった様だと心で思う。
「聖」
「なあに?ぬえちゃん」
「嘘でしょ」
「え?な、何が?」
突然、遊んでいたぬえの声色が変わった。お互いに顔を見ることは出来ないが真面目な顔をしているんだと白蓮は察する。しかしそれでも
気づいていないように振舞う。
「ふーん、まあいいや、答えてあげる。小さくなった理由、『魔法に失敗した』っていうのが嘘。本当は失敗なんてしていない、小さくなることが
わかってて魔法を使った。計画的に行ったこと。違う?間違っているなら否定していいよ」
「――――ッ」
ビクンッ!白蓮の体が一瞬跳ねた。だが何も言葉が出てこない。それはぬえの答えを肯定した証。
「やっぱりね…そもそも聖が魔法を失敗したってのが胡散臭い。そりゃ失敗することだってあるかもしれないけど、でも絶対に失敗しない魔法が
あるんだ。いや、失敗出来ないと言うべきかな。覚えてる?聖が言ったんだよ」
『大事な弟、命蓮が亡くなったとき、私は死を怖れて、若返りの魔法に手を出してしまった。それが禁術だと知りながら必死に習得した。
命蓮の最後の願いを私が叶える為に……』
「弟の願いを叶える為に必死で覚えた魔法を失敗なんてしない。それも禁術、使うのが悪いことだと理解している。簡単に、練習だといって使う
ほど安い力じゃないでしょ。私が知っている聖はそんな馬鹿じゃないよ」
ぬえが推理ともいえない自分の考えを全て伝えた。聞き入っていた白蓮が一度ため息をつき、小さな声を出す。
「………ピンポーン大正解です。ぬえちゃんに座布団弾100枚……なぁんだ、全部気づかれていたのね」
「あはは、100枚は多いかな。それだと600枚くらい用意しないといけないよ」
「600枚?なんで?」
「だってみんな気づいていたよ。それも私より早くね…私が一番ビリ」
「そう…なんだ……みんな凄いわね」
しばらくの間、二人は何も言わず黙り込んでいた。ぬえは白蓮が落ち着いて話してくれるまで、白蓮は全てを話す決心をするまで。
そして、ついに白蓮が口を開く。
「私は人間と妖怪の平等な世界を創る為に活動していました。しかしそれも人間によって否定され、魔界に封印されてしまったのです。
封印されている間、ずっと考えていました。私の望みは叶うのか、本当は唯の夢物語ではないのかと、誰もそんなこと望んではいないのかも
しれないと悩み続けていました。だけど、みんなに助けてもらって、今のこの世界、幻想郷を見たときに人間と妖怪が共に生きていることを知った。
それがとても嬉しかったわ。人と妖怪の平等な世界にはまだまだ遠いけど、それでも諦めかけていた夢がここにはあった。でもね、でも……
嬉しい感情とは別の感情も生まれたの。この世界は私が創ったんじゃない。他の誰かが創ったんだと…それを否定するつもりはないの、
素晴らしいことだと思っているわ。それでも考えてしまう、私がいなくても世界は平和になるんじゃないかって」
白蓮は落ち着いて淡々と語っている。だけど、顔を見ているわけではないが、ぬえには白蓮が泣いているように思えた。
「私は今まで妖怪を助けてきました。困っている妖怪の役に立ちたいと思いました。でも、もう一つの感情が生まれたときに思ってしまった。
もし、私が役立たずだったらどうなるんだろう?みんなは私を頼ってくれるのか、役立たずと見捨てて去ってしまうんじゃないか?って、
そんなこと絶対にあるはずがないとわかっているのに、一度考えたら忘れられなくなって、それがどんどん積もっていって、我慢できなくなって
しまった。多分この感情は、恐れ……見捨てられてしまうのがとても怖いの」
その感情を確かめる為に、白蓮は今回の計画を思いついたらしい。子供の姿になることでいつも行っている家事や仕事を失敗する、
役立たずを演じてみる。そのとき、みんなはどうするのか、いつも通りに接してくれるのか、それとも軽蔑の目を向けてくるのかを確認しようと
したらしい。結果は言わずもがな、みんな軽蔑なんて少しもしなかった。それでも白蓮は、「みんな優しいから、役立たずのヒトでも受け入れて
くれたんだ」と思っているらしい。最後に、「本当に自分勝手だわ」と締めくくった。
白蓮の想いを聞いた。苦しんでいたことにも、悩み続けていたことにも全く気づけなかった自分が悔しい。白蓮を救う言葉なんて持ち合わせて
いない。どうすればいいのか見当も付かなかったが、それでも、ぬえは自分の想いを伝えようと決心した。
白蓮の頭を両手でしっかりと掴む。掴まれた白蓮は急に何をするのかと疑問に思ったが、お互い同じ方角を見ているのでぬえの行動がわからない。
後ろではぬえが自分の頭を思いっきり仰け反らせていた。そして、
―――― 秘奥義「忿怒のぬえ頭突き襲来」
ゴチンッ!
後頭部に強い衝撃が走った。凄い痛みが白蓮を襲う。頭を抑えながら呻き声をあげるが足でがっちり捕まえられているので転がることすら
出来ない。仕方なく痛みを我慢しながらぬえに問う。
「ぬえちゃん!いきなり何するんですか!滅茶苦茶痛いんですけど」
「痛った~…何するかって?悪いことした子には頭突きしろって寺子屋の先生が言ってた」
ぬえもかなり痛かったようで、目に涙を浮かべながら白蓮にまくし立てる。
「ああもう、さっきの取り消し!聖は馬鹿じゃないって言ったけど、やっぱり馬鹿!それも大馬鹿!!この聖馬鹿蓮!!!」
「がーーーん!?馬鹿蓮って言われた……ぐすん」
ショックを受ける馬鹿蓮…もとい白蓮を無視してぬえは更に言葉を続ける。
「捨てられるのが怖い?嫌われないか確かめる為に小さくなった?何言ってるの、そんなことしてもみんなが聖を嫌いになるわけがないじゃん!
そんな当たり前のことがなんでわかんないかな!!」
「そ、それは、みんな優しいからで…長い付き合いだし、そのよしみで良くしてくれているのよ」
―――― 秘奥義パート2「哀愁のぬえ頭突き襲来」
ゴチンッ!
またもや白蓮の後頭部に衝撃が走る。シャレにならないくらい痛い。今度は頭を抑えてうずくまることしか出来なかった。
「イタタタ…その考え止めて!それがみんなに対する裏切りだってわからないの?それなら私が聞くわ。千年間地底に閉じ込められてても、
千年間荒れ果てた場所で帰りを待ち続けながらも、誰かさんのことをずっと想い、千年たった今、助けに来てくれた奴らがただの優しいヒトで
済ませられる?違うね!優しいだけじゃあそんなこと出来ないよ。みんな、みんな聖が好きだからに決まっているでしょ!私にはわかるもん、
みんなが聖を助ける為に必死に頑張っていたこと。ずっと近くで見ていたからわかるもん!みんなの想いを…聖が裏切らないでよ………」
星が出かける前に言った言葉を思い出す。
『どうか白蓮をお願いします』
星は気づいていた。白蓮が悩んでいることに、しかしそれを救うことが自分には出来ないことにも気づいていた。信頼されすぎていたから、
自分たちは白蓮を見捨てたりはしないと。信じあえる仲間だからこそ救えないこともある。今回の異変はまさしくそれだった。
星だけじゃない、みんなそのことに気づいていた。だから、白蓮を救う役をぬえに任せたのだ。新参者のぬえ。そんな彼女だからこそ異変を解決し、
白蓮を救うことが出来ると信じた。それもまた信頼という一つの絆。
ぬえはみんなに信じて貰えたことを嬉しく思う。自分もこの命蓮寺の一員なんだと実感する。家族の頼みなら叶えないといけない。自分の望みだって
叶えたい。だから伝えないといけない。
「わ、私は聖のこと、す、好きだよ…優しいし、イタズラしても許してくれるし、ケバブ作ってくれるし、抱きしめられるとくすぐったいけど嫌じゃないし、
いい匂いするし……と、とにかく、私は聖が好き!聖が必要なの!いらないなんて絶対に思わないんだから」
そのまま白蓮のお腹に手をまわして抱きしめる。今顔を見られると恥ずかしい、きっと真っ赤に染まっているんだろうなと心で思う。
白蓮もその意図が通じたのか振り返らなかった、ただ自分を抱きしめている手を愛しそうに握り返している。
「ぬえちゃん…ごめんね。そして、ありがとう」
その言葉で気持ちは全て伝わったと感じる。後は、ぬえが白蓮を抱きしめたままゆっくりと時間が過ぎていくだけだった。
「聖は考えが極端すぎるのよ。子供になろうだなんて、もっとやり方ってもんがあるでしょうに」
「うう…反省してます。でも、今はやってよかったとも思っているの。だって、ぬえちゃんが凄く頼もしい子だってわかったから。洋服もお揃いだし、
他の人が見たら姉妹に見えるかしら?ぬえちゃんがお姉さんで私が妹、いけると思わない?」
「いや、それはいくらなんでも無理」
「がーーーん!?一秒で否定された……ぐすん」
「いつまでも子供でいられたんじゃ私が鼻血片付けなくちゃならないからね。やっぱり聖はみんなのお母さんでいないとダメ」
「遠まわしにおばさんって言われてる気がする……いいですよーだ、所詮私は無理して若返ってる可哀相なヒトですよ…」
笑い声が響く。他愛もないお喋り、それがとても楽しかった。ぬえも今日のことをよかったと思う。白蓮やみんなの心を知ることが出来たから、
驚きの連続だったけど楽しい一日だった。
気が付いたら白蓮が静かになっていた。疑問に思い後ろから顔を覗くと、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。5,6歳程の子供の姿で
あれだけの重労働を行ったのだ、疲れたのだろう。ぬえは眠る白蓮を起こさないようにゆっくりと寝かせて膝枕をしてあげた。
頭を優しく撫でながらポツリとつぶやく。
「……姉妹か、本当にそうだったら面白かったんだろうなぁ」
今はみんな出掛けている。この寺には二人以外誰もいないことを思い出したぬえは、気持ちよさそうに寝ている白蓮を満面の笑みで見つめ、
チャンスだと思った。
「びゃ…白蓮ちゃん~、ぬえお姉ちゃんですよ~。いつも良い子だからお姉ちゃんは嬉しいです。よしよし」
自分でも恥ずかしいことをしていると思う。それでも口元が緩んでしまうのを止められない。でもいいじゃないか、家族は出掛けているわけだから、
今、白蓮は自分のものだ!と心に言い聞かせる。この時間がずっと続けばいいのに、二人を邪魔をするものは何もない。聞こえてくるのは
白蓮の寝息と、風が通り過ぎていく音、そして、うらめしや~。
…………うらめしや~?
どこかで聞いたことあるフレーズ。嫌な予感がぬえを襲う。バッと顔を上げる、そして目が合ってしまった。縁側からこちらを覗いている者と……
多々良小傘、からかさお化け、ぬえの友達。愛用の傘を握り締め、固まったように動かない。
ぬえは必死に考える。まずい、よくわからないが彼女は絶対に勘違いしている。すぐに、なんでもいいから否定しなければとんでもないことになる、
そんな気がした。
冷たい汗が流れ出す。早く、速く声を掛けないと…
「小傘、落ち着いて、これはちがうん…」
「ひっ!?わ、わちきは落ち着いているよ…うん大丈夫、私はぬえが『ろりこん』でも、友だちだから!」
そう言い残し、脱兎のごとく走り去っていく小傘。に必死で手を伸ばしながら引きとめようとするぬえ。だが、白蓮を膝枕しているので動くことも、
大声を出すことも出来なかった。この日、ぬえは友人から不名誉な称号が与えられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、朝早くからぬえは居間に座っていた。別に早起きをしたわけではない。寝ていないのだ、一睡もしていない。なぜか?その理由は
すぐ近くに転がっていた。星、水蜜、一輪、ナズーリンが傷だらけで倒れている。
この異常な光景に至ったのは、前日の夜、白蓮が本格的に寝静まってからのことだった。暗い廊下を不振な影が歩いていた。それも四人
(言わずもがな星たちのことである)。その影が白蓮の部屋の前に辿り着いたとき、立ち塞がる者が現れた(こちらはぬえ)。
「みんな揃って何してるのかな?」
「お、おのれ!我々の邪魔をしますか!ロリ姐さんを拝む最後のチャンスなのに!」
「あ゛あ゛ん!?邪魔すっと柄杓で水ブチ撒けんぞ!!」
「忘れたのかい?私にはまだ1007の秘奥義が残っているんだよ」
「トラマル ビャクレン マルカジリ」
「聖の貞操は私が守る!覚悟が出来たなら、かかってこいやぁぁああああ!!!」
戦いは陽が昇るまで続き、結果はぬえがUFOと頭突きを駆使して辛くも勝利を収めた。その戦いの残骸がそこらで倒れている者達というわけだ。
眠い目を擦りながらぼ~っとしていると襖が開く音がした。
「みんな!お早うございます!聖白蓮復活いたしました!!」
いつにも増して元気な声が聞こえる。徹夜明けのぬえにはそれが頭に響くので止めてほしかったが、せっかく挨拶されたのに返さないのは悪いと
思い振り返る。
―――――――ッ!!!!!!!!!!!
目が覚めた。眠気なんて一気に吹き飛んでしまった。白蓮の姿を見てしまったから。
白蓮は元の大人の身体に戻っていた。それはいい、ぬえが驚いたのはその格好。目の前にいる白蓮がぬえの服を着ていたからだ。ただでさえ、
子供用、そんなに大きくない服を大人が着ている。豊満な胸にはキツイのか胸元はぱっつんぱっつんで、スカートは今にも見えてしまいそうな程に
短く、ニーソックスを履いた足もむっちりとしている。破壊力はバツグンだ!それを認めるかのようにその場に倒れていた者達が一目見ただけで、
「おっぱい万歳!!!」
と叫び、鼻血シャワーで乱舞した挙句、ついに貧血で倒れてしまった。
素数を数えてなんとか意識を保とうとするぬえの背後に白蓮が抱きついてきた。昨日とは逆の状態になる。でも凶器ともいえる胸が押し付けられて
気が気ではなくなる。それでもなんとか踏ん張り、この犯行の動機を聞き出そうと踏ん張る。
「ひ、ひじりさん、なななにしてるんですか~?」
「私だってまだまだいけると思わない?」
「ぎもんをぎもんでかえさないでください~。それとせなかにマシュマロみたいなのが~」
「あててんのよ?」
「だからぎもんを~ってそれよりはなしていただけませんか~」
「駄目です!私は決めたのです。もっと自分勝手になろうって、みんなが私を見捨てることが出来ないと思うくらいの我侭になるんです!まず最初に
ぬえちゃんから攻略していきます。ウフフ、覚悟してくださいね。いいでしょ?ぬ・え・お・ね・え・ちゃ・ん♪」
抱きしめる腕に力を込める白蓮。ぬえの背中に柔らかいモノが更に押し付けられる。
聖には絶対勝てないなぁと薄れる最後の理性で思う。
でも、ぬえの顔は幸せそうで、鼻からは紅い雫が滴り落ちていた。
~ ぬえんど ~
「たっだいま~~~~~!今日の ランチは ビーフケバブッ♪」
太陽も真上に昇りきったお昼ごろ、遊びに出掛けていたぬえがごはんを食べに帰ってきた。白蓮がぬえの大好物を作ってくれる約束をしたので、
とても嬉しそうにスキップをしながら命蓮寺の玄関を開ける。
だが、すぐにそのテンションも崩れ去ることとなった。既に、異変は起こっていたのだ。
「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁ!!!」
玄関の先に、水蜜がうつ伏せで倒れていたのだ。死んだように動かない。床には紅い水溜りが出来ている。
え?どういうこと?これは、血?ムラサが、ムラサが死んでる……?
ぬえの頭が混乱する。
考えろ、助けを呼ぶべきだ。その前に脈はあるのか?ここを離れていいのか?間に合わないかもしれない。などと色々なことが頭をグルグルと
回っている。そして、最終的に一つの答えを導き出した。
「そうだ!元から死んでるんだった。…血糊まで準備して、脅かさないでよね!」
変ないたずらにプンプンと怒りながら、血糊で汚れないように水蜜の背中を踏んづけて廊下へ上がる。そんなことより今はケバブの方が大事だった。
水蜜を放って、スキップしながら廊下を進む。目的地は台所。白蓮が準備して待っているはずだ。
「ケケケケバブ~!ジューシーお肉を削いで刻んで挟みます~♪ケケケケバって、うわっ!!」
バッタン!
居間の前まで辿り着いたとき、石のようなモノに躓いて転んでしまった。
「うう、なんでこんなところに石が…ムラサだな!あいつ、後で覚…えて………」
ぬえは絶句した。起き上がろうと顔を上げた先に一輪が倒れていたのだ。驚いて顔を背けてしまう。しかし、今度は居間の中で倒れている者を
見つけてしまった。それは毘沙門天の弟子、寅丸星。
「へ?何これ、嘘でしょ…」
これもいたずらだと思いたかった。みんなして私を驚かそうとしているのだと。でも、その考えはすぐに否定される。だって水蜜ならともかく、
一輪や星がこんなことをするわけがない。それに…居間で倒れている二人の周りは、赤い、紅い血で染まっていた……
「ひっ!?」
混乱するというレベルじゃなかった。頭の中が真っ白になって何も考えられない。助けを呼ぼうにも身体がブルブルと震えて動けなくなっている。
目から涙が零れそうになったそのとき、どこからか声が聞こえてきた。
「……ぬえ…ぬえか?帰ってきたんだね!」
聞き覚えのある声。この声は、
「ナズーリン!ど、どこにいるの?みんなが…みんなが!」
「落ち着くんだ。あまり大声を出すんじゃない…今、そっちに行くから」
すると居間に置いてある箪笥と壁のスキマから、にゅるんッとナズーリンが出てきた。
「うわっ、気持ち悪い!え?どうやって出てきたのよ!」
「気持ち悪いとは失敬だな。これは私の秘奥義の一つ、『ネズミじゃらし』だよ。ちなみに秘奥義は1008式まである」
「多っ!それ秘奥義って言わないよ……ってそんなことより大変なんだから!みんなが倒れてて、血がいっぱいで、誰がこんな酷いことを!
あぁう、どうしよう…早く助けなくちゃ。そうだ、聖は、聖は無事なの?!」
みんながこんな状態だ。白蓮もどこかで倒れているかもしれないと嫌な考えが頭を過ぎった。 姿が見えないことがぬえの不安を掻き立てる。
だが、聖という名前にナズーリンの顔が曇っていく。
「ぬえ、落ち着いて聞いてほしい。これは全部、聖がやったんだ」
「はあ!?な、何言ってるの!聖がこんな酷いことするわけがないじゃない」
「それが本当なんだ。船長は玄関に入ってすぐ。一輪はなんとか意識を保とうとしたがこの廊下…ご主人様は居間で……やられてしまった。
私も危なかったよ。とっさに秘奥義でスキマに逃げ込んで命拾いをしたんだ。あともう少しでみんなと同じように倒れるところだった……
ああそれと、雲山なんてショックのあまり石になってしまったよ」
そう言って廊下を指差す。そこにはぬえが足を引っ掛けて転んでしまった石、雲山が転がっていた。
ナズーリンの言葉がぬえには信じられない。けど、石になった雲山、血を流しながら倒れているみんなの姿を見てしまったら否定することが
出来なくなってしまった。そして、堪らなく悲しくなってくる。本当だったら今頃、みんなで昼ご飯を食べているはずだった。白蓮の作ったケバブを
楽しくお喋りしながら食べる。そんな一家団欒を過ごしていたはずだったのに…
しかし、現実は違う。誰にでも優しい白蓮が家族と呼べる者達を酷い目にあわせた。それが辛い事実。ぬえはここから逃げ出したかった。
それでもそうしなかったのは、白蓮への想いが強かったから。復活の邪魔をしていたぬえを咎めず、許した上に、一緒に暮らすことも認めてくれた。
そんな優しいヒトを見捨てて逃げるわけにはいかないと思ったのだ。
「ぐすっ、わ、私が止めなくちゃ。なんでこんなことしたのかわからないけど、それでも聖を止めないと…私が聖を助ける!」
ぬえは決意する。今までの恩を返す為にも、自分が白蓮を助けてあげることを。
「ナズーリンはみんなの救助をお願い。まだ助けられるよ!私は聖をなんとかする」
「む、無理だ!あれは君の手に負える相手じゃない。みんな殆ど瞬殺されたんだぞ!」
「それでも、私は聖を助けたいんだ。私を受け入れてくれたヒトをこの手で…」
必死に止めるナズーリンに、ぬえはぎこちない笑顔を作って答える。覚悟は決めた。たとえ自分が犠牲になっても白蓮を救ってみせると。
ギシ…ギシ…
その時、廊下の向こうから音が聞こえた。誰かが床を歩く音。二人の動きが止まる。そして、
「ぬえちゃん?帰ってきてるの?ナズちゃんも一緒ね。お昼用意して待ってたんだから…」
白蓮の声、ここに近づいてきている。ぬえの身体が恐怖で震えだす。ナズーリンは固まって動かない。そんなナズーリンを守る為に、意地で
一歩、二歩と震える足を前に出す。三歩前に出たところでまた動けなくなった。もうすぐ白蓮がやってくる。覚悟を決めたはずなのに、その覚悟が
揺らいでいく。多分、何も出来そうにないとぬえは悟った。
それでも白蓮は近づいてくる。どんどん床を踏む音が大きくなっていく。そしてついに、白蓮がやってきた。ぬえは震えながらその姿を目にする。
「ひ、ひじ…り………?」
「あら、お帰りなさい。ちゃんと手洗いとうがいは済ませてきてね。そうしたらみんなでご飯をいただきましょう」
「あ、アレ…その、え?ええぇ~~~~!!?」
ぬえは驚愕した。自分の目に映ったものが全く信じられなかったから。
姿を現したのは紛れもなく白蓮その人だった。それは間違いない。ただ、その右手には刃渡り60cmほどの包丁を握り締めていた。しかし、
ぬえが本当に驚いたのは、白蓮自身の姿だった。
白蓮は小さくなっていた。もっと詳しく説明すると、5,6歳くらいの子供の姿になっていたのだ。ぬえやナズーリンより背は低く、豊かな胸も見事に
ぺったんこになっている。だが、服はいつもと同じ大きさだからかなりぶかぶかである。歩きにくいのか、小さな手で一生懸命スカートを持ち上げていた。
それでも態度はいつもと同じように優しいおっとりとしたままだった。
今まで起こったことすべてが吹っ飛んだ。この日一番の驚きだった。ぬえの思考が追いつかなくなる。もう何を考えればいいのか検討がつかない。
だが急に後ろで、バタンッと音が鳴った。意識をなんとか取り戻し後ろを振り返る。固まっていたナズーリンが倒れていた。鼻血を流しながら……
「ふふ、ふふふ…可愛すぎる、可愛すぎるよ聖。この私としたことが1008の秘奥義でも対抗出来ないなんて、さ、さすが超人……いや、これぞまさに
小人(ロリ)「聖白蓮」
と呼ぶべき神々しさだ。ご主人様命の私を萌えさせるなんて、お見事………」
ぴちゅーーん
「駄目だナズーリン!逝くな!これシリアスじゃないの!サスペンス的な話じゃないの!?まさかそういうこと?みんなが流している血は鼻血ってオチ?
とりあえず、ちゃんと、ちゃんと説明してから死ねーーーーー!!!」
悔いの無い顔で力尽きるナズーリンを抱えたまま、ぬえは溜まった思いを大声で吐き出した。
「あらあら、みんな仲良しさんね」
ウフフ、包丁を握りながら楽しそうに眺める小人(ロリ)であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふ~ん、つまり聖が小さくなって現れたから、鼻血出しながら耐え切れずにぴちゅーーんしちゃったってわけね」
ぬえが腕を組んで見下ろすような形で話をまとめる。
あれから倒れている者達をおもいっきり蹴飛ばして起こし、傍にはまだ星の鼻血が残ったままの居間で一列に並べ正座させて説明を受けていた。
白蓮(5歳)はぬえの後ろでニコニコと笑っている。
「ああ、心配して損した。覚悟だって決めたのに…こんなことで倒れてるんじゃないよ。情けない」
「こ、こんなことって言いますけどね。これは大変なことなんですよ。白蓮が小さくなったんです。唯でさえ可愛らしいのに、プラス幼女化だなんて……
耐えろと言う方が無理なんです!!」
「そうです!いつもは頼もしい姐さんが私を見上げて『一輪ちゃん、そろそろご飯ですよ~』って言うんですよ!そんな可愛くされたら誰だって
ぴちゅります!!」
「私なんて三途の川飛び越えて冥界まで行ってきたんだから!!」
「聖が可愛すぎて生きるのがツライ!!」
ぬえの発言に、星、一輪、水蜜、ナズーリンが順番に異議を唱える。みんな鼻にティッシュを詰めながら必死の形相で食って掛かる様は
見ていて凄く気持ち悪い。気圧されかけたぬえが今度は白蓮に話しかける。
「そもそもなんで聖はそんなちっちゃくなってしまったの?誰かにやられたの?」
「え?ああこれね。これには山より大きく、海より深い理由があるんです…」
白蓮が真剣な顔になる。ゴクリ…と唾を飲み込み次の言葉を待つ一同。
「私の過去のことは以前話したわね。大事な弟、命蓮が亡くなったとき、私は死を怖れて、若返りの魔法に手を出してしまった。それが禁術だと
知りながら必死に習得した。命蓮の最後の願いを私が叶える為に……今思えば馬鹿な話よね。人が死ぬのは自然の摂理だというのに……
本当、自分勝手だったわ」
ぬえも知っている。それがきっかけで妖怪を敬うようになったと。弟の願い、困っている人々を助けること。そして、白蓮の願い、虐げられている妖怪を
救うこと。今の白蓮を形作った出来事、それが今回関係しているのかと考えた。
白蓮が続ける。
「法界に封印されてから千年くらい何も出来なかったから、力が衰えていることもわかるわよね。だから、ためしに実験で若返りの魔法を使ってみようと
思ってやってみたら見事に失敗しちゃった。テヘッ☆」
「………は?」
可愛らしく左手を頭にコツンッと当てる白蓮。意味が全くわからないぬえ。その後ろで、ブラボー!オオ、ブラボー!!と鼻血を撒き散らしながら
拍手を送る残りの者。
「いや待て、話の脈絡がおかしくない?山より大きく、海より深い理由ってまさか、魔法の練習で失敗しただけ!?」
「ピンポーン!大正解です。ぬえちゃんに座布団弾2枚!でも恥ずかしいから他の人に言っちゃダメよ」
「はーい!誰にも言いません」 「言えるかよ。こんなこと…もったいなさ過ぎる」 「墓まで持っていく所存でございます」 「チューちゃんねるに書き込んで
いいかい?」
ぬえは頭を抱える。ダメだこいつら……
「まあまあ、あくまで練習だからね。明日には元に戻るから安心して頂戴。さあ!それよりお昼ご飯にしましょう。ぬえちゃんもお腹空いているわよね?
ちゃんと要望通り、ケバブ作ってあるからみんなで食べましょう!」
「そんな暢気にメシ食ってる場合じゃあ(グ~~)……あっ」
お腹がなる。帰ってきてから驚きの連続で緊張していたからか、安心したら一気にお腹が活動を再開した。空腹のお腹を恥ずかしそうに
押さえるぬえにもう一度ニッコリ笑って、
「決まりね。では準備しますからみんなは席について待っていて下さい」
そう言い、服をズルズル引きずりながら台所へ向かう白蓮。残された者達は仕方なく食卓の前に座り始める。だがその時、台所から「キャー!」
と悲鳴が上がった。慌てて全員で白蓮のところに向かう。
「聖!どうした!何かあったの!?」
ぬえが先頭に立ち、台所へ入り真っ先に声を上げる。そこには、涙を浮かべながら必死に手を伸ばしている白蓮の姿が見えた。
「た、大変なの、ぬえちゃん!台所に…台所に手が届かない!!」
ズザーーー!!おもいっきりすっ転ぶ。他の面子は白蓮の必死な姿を見て、また鼻血を流している。とても清清しい顔がやはり気持ち悪い。
「ああ…懸命に手を伸ばして台所に立とうとするその心意気、素晴らしいです」
「足を見てください!爪先立ちしていますよ。わ、私の面舵がいっぱいいっぱいです~」
「ハッ!姐さんがロリ…ロリ姐さん……ロリ姐だと………私は一向に構わん!!!」
「フッ、今日ばかりは私のペンデュラムも攻めに変更だ。行くぞ!攻符「ペンデュラムアタック」!!」
とりあえず赤UFOで四人の頭を殴っておいた。次は青UFOで殴ると脅すのも忘れない。
結局、台座を用意して、肉を削ぐ役は白蓮。それ以外は他の面々で準備することになった。最初は一人で出来ると言っていた白蓮だったが、
それだと時間が掛かるからと納得させた。渋々了承してゆっくりと肉を削ぎに懸かっていたが、今は鼻唄を歌いながらスパッスパッと包丁を
動かしている。
「フフン フ~ン フフフ~~ン♪(スパッスパッスパスパスパスパースパッスパッ!)」
「あー、最初からずっと握っていた包丁はこれをする為だったのね…」
「おい、見たか、ぬえ。幼女が包丁振り回してるんだよ。なんて言うか…凄く扇情的だとは思わないかい?」
「思わないよ!ナズーリンなんか今日おかしくない?!いつものクールはどこ行ったの!!」
「実は黙っていたけど私、変態なんだ……幼女とか凄い好み」
「うわっ、嫌なカミングアウト。そんなの聞きたくなかった!」
ナズーリンの知られざる性癖がわかったところで食事の準備が完了した。そのまま居間のテーブルにみんなで座る。
「それでは遅くなりましたが、皆手を合わせて…いただき南無―――!」
「「「「「いただき南無―――!」」」」」
命蓮寺恒例のあいさつを行い、騒がしくも楽しい食事の時間が始まる。
ケバブの食べ方には色々あるが、命蓮寺ではご飯の上に肉を乗せる方法とパンに挟む方法の二通りに分けられる。ぬえは断然パンに挟む派で、
今回も自分の好きなように肉とトマト、レタスを挟む。そして決め手はソース、甘口と辛口があるがぬえは甘口を選ぶ。これで水蜜にお子様と
茶化されることもあるが辛いのは苦手なので相手にしないようにしていた。
「おいしい!やっぱり聖の作るケバブは最高だね」
至福の味を体感しながら、作った相手に感想を言う。しかし、返事は返ってこなかった。不思議に思い、白蓮に視線を向ける。白蓮は料理に
手を付けず静かに周りを見渡していた。そこにはいつもの笑顔が無い。
それが妙に気になったのでもう一度声を掛けようとしたとき、横から水蜜が喋り掛けてきた。
「聖、食べないんですか?ははーん、また手が届かなくて困っているんですね。それなら私が作ってあげますよ」
「え?ああ、そうなの。お肉に届かなくて、水蜜ちゃんお願いできる?今日はパンで食べてみようかしら」
「まかせてください!私の特製ケバブご馳走しますね!」
パパッと手際よく具材を挟んでいく。白蓮もさっきまでのことが嘘のように笑顔で見つめている。ぬえもやっぱり気のせいだと思うようにした。
水蜜が最後にソースをたっぷりかけて白蓮に手渡す。受け取った白蓮が口をつけようとしたとき、ぬえは大事なことに気づいた。
「聖!それ食べちゃダメ!!」
だがそれも少し遅かった。すでに白蓮はカプッとケバブに噛り付いていた。そしてそのまま顔が真っ赤になっていくのが見て取れる。目から
大粒の涙を流す。そして一言。
「カ、カラヒ…」
それからケバブを放り、口を押さえながら呻き出した。立ち上がりガクガクと震えている。一輪から水を貰い何度も喉に流し込んでいる。
「あちゃー、間に合わなかったか」
「ど、どういうこと?毒なんて盛っていないですよ!」
「だってムラサの作るケバブって滅茶苦茶辛いじゃない。いつも辛口ソースたっぷりかけてるし」
「そりゃ、私は辛いのが好きだけど…でも、聖だって辛いのは苦手じゃなかったわ。それなりに辛いのも食べてたでしょ」
「普段はそうかもしれなけど、今は子供になっているんだよ。あんなに辛いもの食べれるわけないと思ったんだ…遅かったけど」
「あ……」
小さくなったことで白蓮の味覚も子供並に落ちてしまっていた。それは、子供が何も知らずにわさび入りのお寿司を食べた後の姿を彷彿とさせる。
ヒーヒー言いながら舌を出す白蓮を見て、星とナズーリンが鼻血を流している。うわ~ケバブが真っ赤だ!とりあえず顔面に青UFOを投げつけた。
そんなことに気づくこともなく、ただ必死に水を飲んで辛さを和らげようとする白蓮は同情するに値していた………南無三。
とまあこんなやり取りがありながらも(なんとか回復した白蓮はぬえと同じ甘口を食べた)昼食が終了する。片付けも白蓮に任せてられないと、
一輪が代わって行ってくれた。
また残念そうな顔をしていた白蓮だったが、一息ついたところでおもむろに立ち上がる。
「食事も済んだことですし、私はこれから用がありますので出かけてきますね」
「用ですか?白蓮」
「やだわ、星ちゃん。今日は人間と妖怪の共存について説法して回ると昨日伝えたでしょう」
「ああ!そうでしたね。うっかりしていまし……ってその姿で行くんですか!?危険です!今の白蓮だったら悪い人達に襲われてしまいますよ。
この幻想郷には幼女趣向の輩が沢山いるんです。私が知る限りでは、紅魔館のメイド、永遠亭の薬師、山の巫女、地底の火車など他にも
まだまだいるみたいですから。姿を見られたら連れ去られてしまいます!!」
「大丈夫よ。そんな人達でも心から接してあげれば理解してくれます。最初から危険だと決め付けるのは良くありません」
「いや、そんな奴らが解るわけないよ。どこまで良いヒトなの聖……それとさっきまで鼻血噴出していた奴が言っても説得力が無い」
ぬえが冷静にツッコミを入れる。しかし、心配なのは同じで、白蓮を止めようとする星が頼もしかった。
それでも、白蓮は大丈夫、大丈夫と言いながら出かける準備をしようと歩き出した。だがその時、ブカブカだったスカートを踏んづけてしまい、
前のめりに転んでしまった。急だったので受身も取れず、顔から床に落ちていく。
パタンッ…乾いた音が響く。そして、
「い、ぃたい……」
強く打ったのか若干赤くなっている鼻を擦りながら立ち上がり、もう一度歩こうとする。が、焦ったのかまたスカートを踏んづけてしまい、二度目の
顔面ダイブに突入した。今度は起き上がらず、うう…と痛みを我慢するように歯を食いしばっている。転んだ拍子で服も乱れ、なんとも言いがたい
背徳的な姿に見える。目に溜めた涙がスパイスだ。
「ひ、ひじりゃぁあああ!!大丈夫かい!?まさか怪我したのか!衛生兵!衛生兵ーーー!!!」
ナズーリンが飛び出し、白蓮に駆け寄る。その手にはしっかりとカメラが握り締められていた。
「Is that a white lotus? (あれは白い蓮ですか?)」
「No. That is white lolitas. (いいえ。あれは白い幼女です)」
水蜜と一輪が何やら外国語で会話している。よくわからないが、きっと文法も訳も間違っているだろう。
「ア、アカンて、ホンマ…そんなのウチ耐えられへん!びゃ、白蓮が悪いねんで、そんなカッコされたら、ウチの忘れ去られた野生のチカラが
アブソリュートジャスティスしてしまう!!!が、がおーーー」
四つん這いに構える星。今にも飛び掛って来そうである。こちらも別の外国語を使っている(と思いたい)。
みんなに共通しているのは、これまでにない幸福そうな笑顔、そして鼻血。
ブチッ!
何かが切れる音がした。
その音を出した主、ぬえが緑UFOを振り上げ、四人の頭に打ち付けていく。緑だったUFOが赤色に変わるまで………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
命蓮寺が紅魔館より紅くなった頃、新しい案が可決された。それは、
「私達で分担して聖の仕事を行う。これでいいよね、何か意見はある?あと、聖は家に残って留守番。オーケー?」
「い、いいえ、ありません。素晴らしい案だと思いますよ。…ぬえさん」
「…わかったわ。今日はみんなにお願いします」
案というのは白蓮がこの日、説法しようとした場所へ他の者が手分けして行くということだった。何より数が多すぎたのが原因で、人里から
博麗神社、紅魔館、マヨヒガ、天界、地底、妖怪の山とデタラメのようなスケジュールである。さすがに一人では無理なので、それぞれ決まった
場所に行くことになったのだ。
「それじゃあ役割分担するよ」
ぬえのこの一言で他の四人の態度が変わった。
「あ、では私が残りますから皆さん行ってきて下さい。毘沙門天の代理たるもの、そうそう寺を離れるわけには行きませんから」
「いいえ~、やはりこの寺の主(仮)である毘沙門天様は行くべきだと思いますよ~。元は聖輦船だから船長である私が残るべきだと思いますがね」
「もう船でもないのに船長だなんて…具の入ってないカレーみたいよ、水蜜。ここは普段から寺の守護を行っている私以外にいないでしょう」
「フッ、『勝手に』門番気取っているだけだろう。今回は探し物ではないから出番ではないな。私は残らせてもらうよ」
バチバチッ、火花が飛び散っている。互いに笑顔で牽制しながら自己主張を行う。
「フフ、そんなこと言って貴方達、姐さんと一緒に残りたいのが本音でしょう。そうはさせないわよ。この泥棒猫!」
「なっ!?誰が猫ですか…私は寅です!!がおーーー」
「テメー等、ふざけんのも大概にしておけよ!!ケツに錨ぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたるぞ!!!」
「おおこわいこわい。これだから悪霊上がりの舟幽霊は……あることないことチューちゃんねるに書き込んでしまってもいいのかい?」
一触即発の状態。それぞれ、自分のスペルカードを手に取り始める。
しかしその時、四人の間にズドン!と何かが落ちてきた。それは、ぬえの虹色UFOだった。みんな同時にぬえがいる方向に顔を向ける。そこには
薄ら寒い笑顔のぬえが左手を握り、親指だけ立てていた。まあ、その親指は下を向いていたが。
「私が残る。お前らは行け」
「は、はい!」
全てが決まった瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハンカチは持った?地図もちゃんと持っている?おやつは五百円まで。向こうについたら粗相の無いようにきちんと挨拶するんですよ。
わからないことがあったらヒトに尋ねることも忘れずにね。みんなの無事を祈っているから!強く、強く生きてください…」
「聖~、今生の別れじゃないんだから…いい加減行かせてあげようよ。ていうかマジでうざいよこいつら…」
玄関ではまだ小芝居が続いている。傍には水蜜の血の池がまだ残っていた。それだけじゃなく更に増え続けている。その理由は白蓮の姿。
さすがにそのままの服では動きにくいということで、ぬえの服を貸してあげることにしたのだ。そして今はぬえとお揃いの黒い、可愛い洋服を
着ている。その姿を見たお出かけ組みは至高の笑みと鼻血で迎え入れるのだった。
「それでは行ってきます。留守番お願いしますね…くっはぁ、白蓮の二の腕堪んねぇ」
「私は予定に無い白玉楼に逝ってしまいそうです」
「ほら、雲山。夢にまで見た姐さん(子供服ver)ですよ」
「絶対領域確認。保護対象生物と認識。我がナズーリンランドへご招待」
「早く行けーーー!!!」
UFOを投げつけながら追いかける。慌てて出て行くみんなの最後尾にいた星が振り向く。
「ぬえ、どうか白蓮をお願いします」
真面目な表情で一言告げた。さっきまでの緩んだ顔とは違う、真剣な顔。すぐにいつもの穏やかな顔に戻り、役目を果たしに飛びだす。
星の頼みを胸に刻みながら、ぬえはもう遠くに点でしか見えなくなった後姿に頷いた。
「ぬえちゃん、どうしたの?」
「…ううん、なんでもないよ。それより留守番組は何しよっか。遊ぶ?」
「ダーメ。まずはお洗濯からよ。その後はお寺と家の掃除。何故かみんな今日はよく鼻血出してたから、念入りに掃除しないとね」
「うへぇ…めんどくさそう」
悪態をつきながら静かになった家へと戻る。でも本当は白蓮と一緒にいられるからそこまで嫌ではないぬえであった。
しかし、現実は甘くなかった。もともと7人家族の大所帯でその内、着る物を必要としない雲山以外は全員女性である。自ずと服には
気を配っており、洗濯は全部手洗いで丁寧に洗うようにしていた(決していつも同じ服を着ているわけではない。各々のこだわりから
全部同じような服になっているだけ)。それらを一枚、一枚、計6人分を手洗いするわけだから相当神経を使う。それに加え、ぬえ自身
初めての手洗い洗濯だから悪戦苦闘しながら洗っている。取り掛かった最初こそ、白蓮に教わりながら言われるとおりに手を動かし、
お喋りなんかしながら楽しくやっていた。
「うわー、ムラサってばいつも私を子ども扱いするくせに、くまさんパンツ履いてるのかよ…ププッ!そっちだって子供じゃん」
「おおぅ、なにこのセクシーな下着…ほとんど紐だよ。星のかな?んっ?違う…これナズーリンのだ!え~、私より小さい癖にこんなの
履いてるのか…や、やるね」
「(これ…聖のだ!やっぱり大人だな~)―――い、一枚くらい持って帰っても…って何考えてんだ私!!」
みんなの下着鑑賞を行っていたがそれも時間が経つにつれて飽きてしまい、今はもう何も考えずに手を動かす事しか出来なかった。
チラッと白蓮を横目で見る。涼しい顔をしながら洗濯を続けていた。しかも手馴れたもので素早く、それでいて綺麗に洗い終えていく。
「小さくなってるのになんでそんなに上手いんだよ~幼女に負けたぁ。悔しい……ああもう!これ全然汚れ落ちないんですけど。黒い服の癖に
生意気ね!ってこれ私の服だ」
泣きそうになりながら必死に自分の服の汚れを落とす。いつも遊びから帰ってきたら、そのまま汚れた服を放置して別の服に着替える。
気が付いたら脱ぎ捨てていた服が綺麗になって部屋に置いてある。それが当たり前の生活だった。だが、その裏では、いつも白蓮が
洗濯をして、綺麗にしていたのだ。そのことについて文句ひとつ言わず、毎日行っている。改めて白蓮の凄さを実感させられた。
やっとの思いで最後の洋服を洗い終える。報告しようと白蓮を探すが、すでに白蓮は洗濯物を干し終えていた。その手際のよさにぬえは
感嘆のため息をつく。しかし、様子がおかしいことに気づいた。白蓮が動かずに、ただじっと洗濯物を見つめ続けている。なにか大切なことを
思考するかのように。
何故かぬえはそんな白蓮が今にも消えてしまうんじゃないかという不安に掻き立てられてしまい慌てて声を掛けた。
「ひじり…」
「なあに?ぬえちゃん。あ、洗濯終わったのね。それならちゃっちゃと干しましょう。まだお掃除が残っていますから」
「う、うん。わかった」
いつもの白蓮に戻っている。なんであんなに不安になったのかぬえは自分のことなのに解らなかった。
洗濯を終えたらすぐに掃除に取り掛かる。寺はともかく、家は酷い有様だった。至る所が真紅に染まっており、それが全て血だったので、
落とすのにかなりの体力を消耗させられる。
「そもそもなんで私が他人の鼻血を拭いているんだ。あいつら容赦なくぶちまけやがって…これもう命蓮寺じゃなくて、紅蓮寺だよ」
「うふふ、上手いこと言うわね。ぬえちゃんに座布団弾3枚!」
貴方のせいですがねー。と心の中で思う。さすがに今度は白蓮も手際よくとはいかず、ゆっくりとゴシゴシと床を拭いている。
「はあ、でもこれだけ血を出してピンピンしているあいつらもつくづく化け物だよね。ぜったい身体の密度以上撒き散らしているよ」
「みんないい子達だから…こんな私の為に一生懸命になってくれる、優しい心を持っている子達よ。許してあげてください」
白蓮がさっき見せた儚げな表情でぬえに伝える。また不安な気持ちが湧いてくる。それを悟られないように元気な声でおちゃらけてみせた。
「さあて、どうしよっかな~。でも白蓮の頼みだから仕方ない、おやつのプリンをもう1個追加で手を打とう!」
「フフ、わかったわ。今日はおまけで2個食べていいです。でも、みんなには内緒ですよ」
互いに笑いながら掃除を進めていく。今は、今はこれでいいと思いながら…
日も沈みかけた頃、やっと紅蓮寺が命蓮寺に戻った。綺麗になった居間で、疲れ果てたぬえと白蓮が休んでいる。食卓には約束したプリンの
空の容器が2個置かれている。
「ふぇー、今日は本当に疲れたー。多分、一年分の体力は使ったね」
「お疲れ様、よく頑張ったわ。ぬえちゃんのおかげよ。もう休んでていいから、私は晩御飯の準備してくるわ」
そう言って立ち上がろうとした白蓮の手をぬえが掴む。そのまま、足の上に引き寄せ座らせる。ちょうど、大人が子供を膝に乗せるような形になった。
白蓮が逃げられないように腕でがっちりと固める。
「捕まえた~、まだまだ時間はあるからもう少し休んでいよう。いいでしょ?それにしてもホント小さいくなったね。私が聖を抱きしめられる日が
来るなんて考えたことなかったよ。あはは」
「ぬ、ぬえちゃん、苦しいです……それに恥ずかしい…」
「いいぢゃん、いいぢゃん。今日一日とてつもなく疲れたな~、誰かさんのおかげで~」
止めの一言で、ジタバタしていた白蓮が「むぅ…」と顔を真っ赤に染めながら大人しくなる。
「ふ~、でも本当に大変だったよ。帰ってきたらみんな鼻血流して倒れてるし、なんか言動もおかしくなっていたし、私より正体不明ってどういうこと?
それに、洗濯も面倒くさいし、掃除なんて後半ほとんど記憶ないよ。ぜーんぶ聖がロリっ子になったのが悪いんだからね!確か小さくなった
理由が魔法に失敗したからだっけ?」
「あ、あはは…ご迷惑お掛けしました。反省してます……」
ぬえの愚痴に苦笑いで答える白蓮。その頭にぬえが顎を乗せてきた。イタズラするように口をアウアウと動かすからかなりくすぐったい。
自分がまるでおもちゃになってしまった様だと心で思う。
「聖」
「なあに?ぬえちゃん」
「嘘でしょ」
「え?な、何が?」
突然、遊んでいたぬえの声色が変わった。お互いに顔を見ることは出来ないが真面目な顔をしているんだと白蓮は察する。しかしそれでも
気づいていないように振舞う。
「ふーん、まあいいや、答えてあげる。小さくなった理由、『魔法に失敗した』っていうのが嘘。本当は失敗なんてしていない、小さくなることが
わかってて魔法を使った。計画的に行ったこと。違う?間違っているなら否定していいよ」
「――――ッ」
ビクンッ!白蓮の体が一瞬跳ねた。だが何も言葉が出てこない。それはぬえの答えを肯定した証。
「やっぱりね…そもそも聖が魔法を失敗したってのが胡散臭い。そりゃ失敗することだってあるかもしれないけど、でも絶対に失敗しない魔法が
あるんだ。いや、失敗出来ないと言うべきかな。覚えてる?聖が言ったんだよ」
『大事な弟、命蓮が亡くなったとき、私は死を怖れて、若返りの魔法に手を出してしまった。それが禁術だと知りながら必死に習得した。
命蓮の最後の願いを私が叶える為に……』
「弟の願いを叶える為に必死で覚えた魔法を失敗なんてしない。それも禁術、使うのが悪いことだと理解している。簡単に、練習だといって使う
ほど安い力じゃないでしょ。私が知っている聖はそんな馬鹿じゃないよ」
ぬえが推理ともいえない自分の考えを全て伝えた。聞き入っていた白蓮が一度ため息をつき、小さな声を出す。
「………ピンポーン大正解です。ぬえちゃんに座布団弾100枚……なぁんだ、全部気づかれていたのね」
「あはは、100枚は多いかな。それだと600枚くらい用意しないといけないよ」
「600枚?なんで?」
「だってみんな気づいていたよ。それも私より早くね…私が一番ビリ」
「そう…なんだ……みんな凄いわね」
しばらくの間、二人は何も言わず黙り込んでいた。ぬえは白蓮が落ち着いて話してくれるまで、白蓮は全てを話す決心をするまで。
そして、ついに白蓮が口を開く。
「私は人間と妖怪の平等な世界を創る為に活動していました。しかしそれも人間によって否定され、魔界に封印されてしまったのです。
封印されている間、ずっと考えていました。私の望みは叶うのか、本当は唯の夢物語ではないのかと、誰もそんなこと望んではいないのかも
しれないと悩み続けていました。だけど、みんなに助けてもらって、今のこの世界、幻想郷を見たときに人間と妖怪が共に生きていることを知った。
それがとても嬉しかったわ。人と妖怪の平等な世界にはまだまだ遠いけど、それでも諦めかけていた夢がここにはあった。でもね、でも……
嬉しい感情とは別の感情も生まれたの。この世界は私が創ったんじゃない。他の誰かが創ったんだと…それを否定するつもりはないの、
素晴らしいことだと思っているわ。それでも考えてしまう、私がいなくても世界は平和になるんじゃないかって」
白蓮は落ち着いて淡々と語っている。だけど、顔を見ているわけではないが、ぬえには白蓮が泣いているように思えた。
「私は今まで妖怪を助けてきました。困っている妖怪の役に立ちたいと思いました。でも、もう一つの感情が生まれたときに思ってしまった。
もし、私が役立たずだったらどうなるんだろう?みんなは私を頼ってくれるのか、役立たずと見捨てて去ってしまうんじゃないか?って、
そんなこと絶対にあるはずがないとわかっているのに、一度考えたら忘れられなくなって、それがどんどん積もっていって、我慢できなくなって
しまった。多分この感情は、恐れ……見捨てられてしまうのがとても怖いの」
その感情を確かめる為に、白蓮は今回の計画を思いついたらしい。子供の姿になることでいつも行っている家事や仕事を失敗する、
役立たずを演じてみる。そのとき、みんなはどうするのか、いつも通りに接してくれるのか、それとも軽蔑の目を向けてくるのかを確認しようと
したらしい。結果は言わずもがな、みんな軽蔑なんて少しもしなかった。それでも白蓮は、「みんな優しいから、役立たずのヒトでも受け入れて
くれたんだ」と思っているらしい。最後に、「本当に自分勝手だわ」と締めくくった。
白蓮の想いを聞いた。苦しんでいたことにも、悩み続けていたことにも全く気づけなかった自分が悔しい。白蓮を救う言葉なんて持ち合わせて
いない。どうすればいいのか見当も付かなかったが、それでも、ぬえは自分の想いを伝えようと決心した。
白蓮の頭を両手でしっかりと掴む。掴まれた白蓮は急に何をするのかと疑問に思ったが、お互い同じ方角を見ているのでぬえの行動がわからない。
後ろではぬえが自分の頭を思いっきり仰け反らせていた。そして、
―――― 秘奥義「忿怒のぬえ頭突き襲来」
ゴチンッ!
後頭部に強い衝撃が走った。凄い痛みが白蓮を襲う。頭を抑えながら呻き声をあげるが足でがっちり捕まえられているので転がることすら
出来ない。仕方なく痛みを我慢しながらぬえに問う。
「ぬえちゃん!いきなり何するんですか!滅茶苦茶痛いんですけど」
「痛った~…何するかって?悪いことした子には頭突きしろって寺子屋の先生が言ってた」
ぬえもかなり痛かったようで、目に涙を浮かべながら白蓮にまくし立てる。
「ああもう、さっきの取り消し!聖は馬鹿じゃないって言ったけど、やっぱり馬鹿!それも大馬鹿!!この聖馬鹿蓮!!!」
「がーーーん!?馬鹿蓮って言われた……ぐすん」
ショックを受ける馬鹿蓮…もとい白蓮を無視してぬえは更に言葉を続ける。
「捨てられるのが怖い?嫌われないか確かめる為に小さくなった?何言ってるの、そんなことしてもみんなが聖を嫌いになるわけがないじゃん!
そんな当たり前のことがなんでわかんないかな!!」
「そ、それは、みんな優しいからで…長い付き合いだし、そのよしみで良くしてくれているのよ」
―――― 秘奥義パート2「哀愁のぬえ頭突き襲来」
ゴチンッ!
またもや白蓮の後頭部に衝撃が走る。シャレにならないくらい痛い。今度は頭を抑えてうずくまることしか出来なかった。
「イタタタ…その考え止めて!それがみんなに対する裏切りだってわからないの?それなら私が聞くわ。千年間地底に閉じ込められてても、
千年間荒れ果てた場所で帰りを待ち続けながらも、誰かさんのことをずっと想い、千年たった今、助けに来てくれた奴らがただの優しいヒトで
済ませられる?違うね!優しいだけじゃあそんなこと出来ないよ。みんな、みんな聖が好きだからに決まっているでしょ!私にはわかるもん、
みんなが聖を助ける為に必死に頑張っていたこと。ずっと近くで見ていたからわかるもん!みんなの想いを…聖が裏切らないでよ………」
星が出かける前に言った言葉を思い出す。
『どうか白蓮をお願いします』
星は気づいていた。白蓮が悩んでいることに、しかしそれを救うことが自分には出来ないことにも気づいていた。信頼されすぎていたから、
自分たちは白蓮を見捨てたりはしないと。信じあえる仲間だからこそ救えないこともある。今回の異変はまさしくそれだった。
星だけじゃない、みんなそのことに気づいていた。だから、白蓮を救う役をぬえに任せたのだ。新参者のぬえ。そんな彼女だからこそ異変を解決し、
白蓮を救うことが出来ると信じた。それもまた信頼という一つの絆。
ぬえはみんなに信じて貰えたことを嬉しく思う。自分もこの命蓮寺の一員なんだと実感する。家族の頼みなら叶えないといけない。自分の望みだって
叶えたい。だから伝えないといけない。
「わ、私は聖のこと、す、好きだよ…優しいし、イタズラしても許してくれるし、ケバブ作ってくれるし、抱きしめられるとくすぐったいけど嫌じゃないし、
いい匂いするし……と、とにかく、私は聖が好き!聖が必要なの!いらないなんて絶対に思わないんだから」
そのまま白蓮のお腹に手をまわして抱きしめる。今顔を見られると恥ずかしい、きっと真っ赤に染まっているんだろうなと心で思う。
白蓮もその意図が通じたのか振り返らなかった、ただ自分を抱きしめている手を愛しそうに握り返している。
「ぬえちゃん…ごめんね。そして、ありがとう」
その言葉で気持ちは全て伝わったと感じる。後は、ぬえが白蓮を抱きしめたままゆっくりと時間が過ぎていくだけだった。
「聖は考えが極端すぎるのよ。子供になろうだなんて、もっとやり方ってもんがあるでしょうに」
「うう…反省してます。でも、今はやってよかったとも思っているの。だって、ぬえちゃんが凄く頼もしい子だってわかったから。洋服もお揃いだし、
他の人が見たら姉妹に見えるかしら?ぬえちゃんがお姉さんで私が妹、いけると思わない?」
「いや、それはいくらなんでも無理」
「がーーーん!?一秒で否定された……ぐすん」
「いつまでも子供でいられたんじゃ私が鼻血片付けなくちゃならないからね。やっぱり聖はみんなのお母さんでいないとダメ」
「遠まわしにおばさんって言われてる気がする……いいですよーだ、所詮私は無理して若返ってる可哀相なヒトですよ…」
笑い声が響く。他愛もないお喋り、それがとても楽しかった。ぬえも今日のことをよかったと思う。白蓮やみんなの心を知ることが出来たから、
驚きの連続だったけど楽しい一日だった。
気が付いたら白蓮が静かになっていた。疑問に思い後ろから顔を覗くと、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。5,6歳程の子供の姿で
あれだけの重労働を行ったのだ、疲れたのだろう。ぬえは眠る白蓮を起こさないようにゆっくりと寝かせて膝枕をしてあげた。
頭を優しく撫でながらポツリとつぶやく。
「……姉妹か、本当にそうだったら面白かったんだろうなぁ」
今はみんな出掛けている。この寺には二人以外誰もいないことを思い出したぬえは、気持ちよさそうに寝ている白蓮を満面の笑みで見つめ、
チャンスだと思った。
「びゃ…白蓮ちゃん~、ぬえお姉ちゃんですよ~。いつも良い子だからお姉ちゃんは嬉しいです。よしよし」
自分でも恥ずかしいことをしていると思う。それでも口元が緩んでしまうのを止められない。でもいいじゃないか、家族は出掛けているわけだから、
今、白蓮は自分のものだ!と心に言い聞かせる。この時間がずっと続けばいいのに、二人を邪魔をするものは何もない。聞こえてくるのは
白蓮の寝息と、風が通り過ぎていく音、そして、うらめしや~。
…………うらめしや~?
どこかで聞いたことあるフレーズ。嫌な予感がぬえを襲う。バッと顔を上げる、そして目が合ってしまった。縁側からこちらを覗いている者と……
多々良小傘、からかさお化け、ぬえの友達。愛用の傘を握り締め、固まったように動かない。
ぬえは必死に考える。まずい、よくわからないが彼女は絶対に勘違いしている。すぐに、なんでもいいから否定しなければとんでもないことになる、
そんな気がした。
冷たい汗が流れ出す。早く、速く声を掛けないと…
「小傘、落ち着いて、これはちがうん…」
「ひっ!?わ、わちきは落ち着いているよ…うん大丈夫、私はぬえが『ろりこん』でも、友だちだから!」
そう言い残し、脱兎のごとく走り去っていく小傘。に必死で手を伸ばしながら引きとめようとするぬえ。だが、白蓮を膝枕しているので動くことも、
大声を出すことも出来なかった。この日、ぬえは友人から不名誉な称号が与えられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、朝早くからぬえは居間に座っていた。別に早起きをしたわけではない。寝ていないのだ、一睡もしていない。なぜか?その理由は
すぐ近くに転がっていた。星、水蜜、一輪、ナズーリンが傷だらけで倒れている。
この異常な光景に至ったのは、前日の夜、白蓮が本格的に寝静まってからのことだった。暗い廊下を不振な影が歩いていた。それも四人
(言わずもがな星たちのことである)。その影が白蓮の部屋の前に辿り着いたとき、立ち塞がる者が現れた(こちらはぬえ)。
「みんな揃って何してるのかな?」
「お、おのれ!我々の邪魔をしますか!ロリ姐さんを拝む最後のチャンスなのに!」
「あ゛あ゛ん!?邪魔すっと柄杓で水ブチ撒けんぞ!!」
「忘れたのかい?私にはまだ1007の秘奥義が残っているんだよ」
「トラマル ビャクレン マルカジリ」
「聖の貞操は私が守る!覚悟が出来たなら、かかってこいやぁぁああああ!!!」
戦いは陽が昇るまで続き、結果はぬえがUFOと頭突きを駆使して辛くも勝利を収めた。その戦いの残骸がそこらで倒れている者達というわけだ。
眠い目を擦りながらぼ~っとしていると襖が開く音がした。
「みんな!お早うございます!聖白蓮復活いたしました!!」
いつにも増して元気な声が聞こえる。徹夜明けのぬえにはそれが頭に響くので止めてほしかったが、せっかく挨拶されたのに返さないのは悪いと
思い振り返る。
―――――――ッ!!!!!!!!!!!
目が覚めた。眠気なんて一気に吹き飛んでしまった。白蓮の姿を見てしまったから。
白蓮は元の大人の身体に戻っていた。それはいい、ぬえが驚いたのはその格好。目の前にいる白蓮がぬえの服を着ていたからだ。ただでさえ、
子供用、そんなに大きくない服を大人が着ている。豊満な胸にはキツイのか胸元はぱっつんぱっつんで、スカートは今にも見えてしまいそうな程に
短く、ニーソックスを履いた足もむっちりとしている。破壊力はバツグンだ!それを認めるかのようにその場に倒れていた者達が一目見ただけで、
「おっぱい万歳!!!」
と叫び、鼻血シャワーで乱舞した挙句、ついに貧血で倒れてしまった。
素数を数えてなんとか意識を保とうとするぬえの背後に白蓮が抱きついてきた。昨日とは逆の状態になる。でも凶器ともいえる胸が押し付けられて
気が気ではなくなる。それでもなんとか踏ん張り、この犯行の動機を聞き出そうと踏ん張る。
「ひ、ひじりさん、なななにしてるんですか~?」
「私だってまだまだいけると思わない?」
「ぎもんをぎもんでかえさないでください~。それとせなかにマシュマロみたいなのが~」
「あててんのよ?」
「だからぎもんを~ってそれよりはなしていただけませんか~」
「駄目です!私は決めたのです。もっと自分勝手になろうって、みんなが私を見捨てることが出来ないと思うくらいの我侭になるんです!まず最初に
ぬえちゃんから攻略していきます。ウフフ、覚悟してくださいね。いいでしょ?ぬ・え・お・ね・え・ちゃ・ん♪」
抱きしめる腕に力を込める白蓮。ぬえの背中に柔らかいモノが更に押し付けられる。
聖には絶対勝てないなぁと薄れる最後の理性で思う。
でも、ぬえの顔は幸せそうで、鼻からは紅い雫が滴り落ちていた。
~ ぬえんど ~
しかし、ナズーリンがあのスカートなのに紐パン……いやしかしぬえ服のひじりんも捨てがたい……むっちりニーソックス……
どうすれば檀家になれますか。
さすがは聖母(ひじりまま)
幼女になっても年上感があっても違和感無いZE
自重など法界の片隅にでも封印して、全員攻略目指して頑張ってください。
最後に、聖母(ひじりまま)万歳!!!
……姐さんロリ巨乳もできないすっか?
なんかもうあれだね、行くとこまで行っちゃいそうだねwww
なんという変態紳士淑女たちw
雲山はどうした?
鼻血吹いたw
ケバブうまいよねケバブ
変態という名の淑女ばかりか・・・いいぞ、もっとやれwww
聖母(ひじりママ)万歳!ロリママ万歳!ぬえ服聖万歳!
白蓮さん←命蓮寺メンバーは不動のハーレムですなw
小傘…w
これは…恋!?