Coolier - 新生・東方創想話

ウルトラマンエイヤ

2010/12/27 00:45:41
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♪わりと離れた 永遠亭に
 ぼくらの願いが とどく時
 迷いの竹林 はるかに越えて
 喧嘩をしながら やってくる
 「今だ!」「変身!」妹紅と輝夜
 戦え戦え ウルトラマンエイヤ
 うにゅうは う・つ・ほ
 戦え戦え ウルトラマンエイヤ
 ぼくらの 永・夜・抄
 























              赤波超獣 ドンゲイン 登場













「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



 突如空からそんな音が響き、続けざまにドスン、ドスンと地面が揺れた。私、藤原妹紅も今しがたしっかりと安眠を妨害されたところ。地震が起きればオンボロ家やオンボロ神社は崩れるものと思い出し、かっこよくローリングエスケープ。ようはねっころがったままゴロゴロと庭、もとい外へと逃げることである。

 外に出て日の光を眩しいと思う今、どうやら謎の地響きも納まってくれたようだ。やれやれ、と体を起こす。なまった体をしゃっきりさせるためにひと伸び。関節が鳴る音がする。見上げた空はどこまでも青く澄んで、浮かぶ白い雲。そしてそびえ立つ白いもこもこした謎の物体。あぁ、いい天気だ、と自然と笑みが浮かん……、いや、まて。なんだ、あれ。



「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



 ……謎の物体が、吼えた。陽の光に目を焼かれつつ、”そいつ”を見る。それは手足が妙に短い、歪な人型をしているように思えた。もこもことした白い毛皮に覆われ、尻にはそのでかさに似合わない丸くて可愛い尻尾が生えている。逆光に紛れてよくは見えないが、ワニかそこらの爬虫類面にはどこかで見たような二つのものが確認できる。ルビーのような透き通った赤い瞳と、根性の欠片も見えないへたれた兎耳。そこまで視認して、導き出した結論をあえて口に出してみる。

「よし、これは夢だ」
「やっほー妹紅」

 あぁどうしたことだろう。こんな時、夢でも会いたくない奴の声がなぜかした。眉間に皺が寄るのが自分でも分かる。藪睨みのまま振り返れば、やはり、居た。
 憎むべき仇敵、不倶戴天の輩、私のブッ殺すリスト最上位に千年前からノミネートしている月よりのアホ姫。蓬莱山輝夜ことバ輝夜。そのバ輝夜がアホ面下げてにやけながら私の名を呼んでいる。

「やっほーもこたん」
「もこたん言うな!」

 よし殺す。いやしかし、その前に。

「おいバ輝夜」
「バ輝夜言うな! ……なによ?」

 手招きをするとほいほい寄ってくる。すぐ側まで寄った輝夜の顔を見つめれば、ビロウドよりも滑らかな黒髪の下には誰もが認めるありとあらゆる美を集結したような美貌。白磁よりも美しいその肌、林檎のような赤みを帯びた頬に、そっと手を伸ばし、そして。


 思いっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっきり!! 引っ掴んで!! 思いっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっきり!! 引っ張った!!

「ひにゃい!? いひゃいいひゃいいひゃはいぃっ!! ひゃ、ひゃひふふほよほこふぁんっ!?」
「も・こ・た・ん・って、言うなぁっ!!」

 上上下下丸書いてちょんっ! ってな具合に餅のように伸びる頬をひとしきり弄んでから、あえて痛みが残るようにつねりあげてから離す。恨みがましく睨んでくる輝夜を見て、とりあえず納得する私。

「夢じゃないのか、チッ」
「いや、ちょ、それは自分の頬を使ってよ!?」
「細かいことはさておき、何の用事よ? どうせしょうもないことよね。よし分かった、帰れ」

 こいつがこんなにやけたアホ面下げてここにくる場合、反吐が出るほど楽しい殺し合い以外は間違いなくしょうもないことかろくでもないことかどっちかだ。どっちにしても、帰れ。

「えー……。ねぇ妹紅、話くらい聞いたっていいじゃない」
「その話を聞いた時点でのっぴきならない事になるから聞かない。帰れ」

 長いつきあい、だいたいパターンは読めている。こちらが藪睨みを続けるその視線の先で、輝夜が瞳に涙を溜めはじめた。これだってお定まりのパターンじゃないか。

「妹紅……。ほんとにダメなの? ね、とっても大事な話なのよ?」

 ここでちょっとでも同情したら私の負けだ。そもそもこいつは憎むべき相手、泣こうが喚こうが知ったこっちゃない。

「くどい、帰」

「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 帰れ、という言葉を遮るように、謎の巨獣がまた咆哮をあげる。謎の、というか。だいたい察しはついているんだが。……はっきりいってバ輝夜が企んでいるだろう、今回の何やらには乗ってやるつもりはない。だが、どうにも、どこか悲しげに饂飩饂飩と鳴く巨獣が不憫に思えて輝夜に声をかける。

「輝夜、一ついい?」
「ん? なにかしら」

 私が興味を示したのを知って、先ほどの涙顔をどこへやら笑顔の輝夜。ホントこいつ、調子いいよなぁ! ま、まぁいい。

「あれ」

 そういって巨獣を指差す。ちら、と輝夜はそっちを見て、すぐに視線を戻した。今の所作で輝夜があの巨獣が何であるか知ってる事を理解した私。あぁ、そうなんだ、やっぱり。

「おまえんとこの、鈴仙、だよね。姿形はあんなだけど」

 確か名を鈴仙・優曇華院・イナバとかいったか。輝夜のペット兼八意永琳の助手兼因幡てゐの悪戯実験役兼永遠亭の弄られ役を一手に引き受ける薄幸の兎妖獣である。と、私の視線を受けた輝夜が、なにやら急に真剣な顔つきとなった。

「いいえ違うわ、あれは”赤波超獣 ドンゲイン”。故郷である月を追われた悲しき逃亡者。その悲しみのオーラと満月光線が謎の相乗効果を発揮して、身長58m、体重6万3000tの巨大な生物となったのよ」

 あぁ、そうですか。確かに幻想郷というところは不可思議な現象が発生してもおかしくはない。そんな事もあるかも知れないなぁ。と、輝夜がカンペを読み上げながらでなければそう思った可能性も否定はできない。

「ともあれ設定は分かった。で、鈴仙だろ? あれ」
「うん、イナバよ」
「永琳がなんかしたからあぁなったんだろ?」
「まあねー」

 気軽に相槌を打つ輝夜だがなんと言うか……あまりに鈴仙が不憫だ。不憫には思うのだが、これ以上関わるとろくでもない事に巻き込まれるのも事実。いい加減話を切り上げるとするか。

「よし、じゃあ私は謎が一つ解決したところで寝るから。輝夜は帰れ」

 踵を返そうとする私の袖が捕まれた。妙なところですばしこいやつ。

「そこまで聞いて無視は酷くない?」
「酷くていいからその袖を離せっ」

 しかし輝夜は私のシャツの端をぎゅうと握り締めて離さない。ええい、うっとおしい!

「ねぇ、妹紅。これは幻想郷の危機に関わる話なのよ。お願い、話を聞いてってば」

 とうとうバ輝夜のやつ、袖どころか私の体を抱きしめてまで引きとめようとする。このまま無理やり引きずって寝床に戻ってもいいのだが、その場合こいつと添い寝か、ぞっとする。この至近距離じゃ弾幕を叩きつけるわけにもいかないし、仇敵とはいえさすがにいきなり殴りつけるのも忍びない。そんな気分でもないしなぁ。鳳凰の力を全解放して己の体ごとこいつを焼き尽くす、なんてのも面倒くさいし。

「あぁ、くそっ。話を聞いてやるから体を離せよぅ。いいか、聞くだけ、聞くだけだぞ?」
「やった! もこたん愛してる!」

 そう喜んで体を離した輝夜の顎に、上段蹴りで靴底をめり込ましてやる。いきなり殴りつけるのはともかく、蹴るのはまぁ、うん。この場合アリだろ。

「もこたん言うな、そして気味悪い事言うな! で、なんだ? 話があるならさっさと言えよ」
「いたた、相変わらず乱暴な妹紅ねぇ」

 結構本気で蹴ったつもりが、けろっと立ち上がってくる輝夜。どうであれこいつも蓬莱人だ、多少のことでどうこうなりはしない。着物についた砂埃を払ってひとつ咳払い。そして、いつもは見せることのない、とことん真剣な目。

「じゃあ話をさせてもらうわ、妹紅」
「う、うん」

 なんかその雰囲気に少し圧倒されてしまう。そういえばこいつは月の姫、人を率いる者が持つ、俗にいうカリスマってのもあるのだろうか。きりりとした表情で、私を射抜くように見つめてくる。厳かに輝夜が口を開いた。

「妹紅」
「な、なによ」
「合体、しましょ?」









 私の前蹴りが輝夜の顔を踏み倒した。









「死ね!」
「や、なによ、妹紅!? いきなりその蹴りは何!?」
「ばばば、バ輝夜! お前今何を言ったか分かってんのかこのやろう!?」
「うん。合体しま」
「死ねー! 死ねっ! このっ!? 逃げるのがっ! やたらっ! 上手いなぁっ!?」
「よっ! はっ! ふふん! 普段からっ! ゴロゴロするのはっ! 得意中の得意よっ!」

 白昼堂々阿呆なことを抜かしだした輝夜を屠るために、地面に倒れたその顔目掛けてストンピングを敢行する。しかし輝夜めどこで覚えたか華麗なローリングエスケープ。連続して踏みに行くが器用にかわし続ける。こ、こいつ、できる!? だがしかし!!

「これで終わりだーっ!」
「だから甘いって……」

 甘いのは、お前だ!

「言ってんきゃんっ!?」

 転がる先を見てなかったな!! バ輝夜め、こちらの狙いどおり水瓶にしこたま頭を打ちつけやがった。さぁ、ジ・エンドだ。その端整な顔踏み潰してやる。頭を抱えてうずくまる輝夜目掛けて足を振り上げた瞬間!!



「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



「わ、わ!?」

 鈴仙……ドンゲイン、だったか。その彷徨が再度響き渡り、ずしん、ずしんと地面が揺れた。おかげで私もバランスを崩して尻餅をついてしまう。いてて。

「あいたたたたた……って、あ。ま、まずいわ」

 切羽詰ったような輝夜の声。地響きは納まる気配がない。巨大なドンゲインを見上げれば、その姿が段々と離れていくのが分かった。何か知らないが、確かに嫌な予感しかしない。

「な、なにがまずいんだ、輝夜」
「イナバにはね、永琳謹製秘儀超催眠術括弧仮括弧閉じる、がかけられてるの。このまま何もしなければ里に向かって着実に進んでいって、後は番組終了時間まで破壊の限りを尽くすわ。そんなもの全国のちびっ子たちに見せるわけには行かないじゃない……いや、そういうので喜ぶマニアな子もいるけれども」

 かぐやのあたまがおかしい。いってるいみがわかんない。……いや、待て。聞き捨てならんこと言ってないか?

「里を、破壊しつくす、とか、言わなかったか、おい」
「うん、まぁ、そういうことになるわねぇ」
「何でそんなことをするのよ!?」

 バ輝夜の胸倉をつかみがっくんがっくん揺すってやる。

「わ、わわわ、ちょ!? か、怪獣ってそういうものじゃない! 美学よ、美学なのよ!! わかんないなら南太平洋上で水爆実験のせいで巨大化した怪獣王にでも聞いてきなさい!!」
「何言ってんのかがわっかんないわよおおおおお!?」

 私がそう叫んだ瞬間だった。それまで鳴っていた地響き、つまりドンゲインの足音がぴたりとやんだ。なぜだか知らないが里に向かう足を止めたらしい。輝夜の言が確かなら、そんな事は起きないはずなのだが……。
 そう思い私はドンゲインのほうを見上げる。おそらくは輝夜も。そして頭を抱えたくなるような出来事を見てしまった。

「はい! おなじみ清く正しい射命丸です!! さて今日は幻想郷に突如現れた謎の超巨大生物さんに色々とお話を聞いてみようと思います!」

 どうしようもない状況を更に加速させる烏天狗、『射命丸 文』がドンゲインの顔の側でバカ明るい声を上げていた。

「……ほんとに話を聞こうとする奴がいるとか思わなかったわ……」
「同感、ね」

 呆れ返った声で呟く輝夜。思わず私の思考もシンクロする。地上から白い目で見上げる私たちに気づくこともなく、ドンゲインの鼻っ先でレポートを開始しだした。

「それでは早速お話を聞きたいと思いますけどねー。さて謎の巨大生物さん。あなたのお名前は? 性別は? 年齢は? 身長は? 体重は? ご趣味は? 家族形成は? 好きな食べ物は? そして今回の目的はなんですか? はいはいはいはい答えて答えて!」
「うわぁ……」
「鬱陶しい……」

 珍しく輝夜と私の意見がシンクロした。ドンゲインの鼻っ面を掠めるようにして飛び回りながら質問を続ける文を、まるでハエかなんかのようだな、と思ってしまう。

「まるでハエみたいね、あれ」
「え、あ、あぁ……」

 そんなとこまでシンクロしてたのか。しかし輝夜もわざわざ口にしなくてもいいだろうに。

「さぁさ謎の巨大生物さん! 答えてくださいよー、って言うか謎の巨大生物、って長くて言い難いですね! よし、この私がファンシーでギャラクシーなお名前を付けて差し上げましょうマジ喜ぶところですよここ! ……そうですねー、”シマパンダー=イコンアシッ”、これに決めたッ!」



 びー。



 目からなんか光線が出た。



 黒焦げになって落下する文だが、まぁ、うん。そりゃそうだよね。私だってドンゲインの立場ならそうする。



「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



 悲しみか、それとも怒りか。空に吼えるドンゲインの背が少し寂しそうに見えた。

「どうしたのもこたん? ぼぅっとして」
「輝夜」
「え、あ。うん、なに?」
「あいつを止める術はないのか」

 ほっとけば里に大惨事がおきるのも分かる。それともう一つ、とめてあげなければドンゲイン、いや、鈴仙がかわいそうだ。月人どもの戯れに無理やりつきあわされ、今も好奇の目に曝されている。いくらこいつらのペットとはいえ、なんかこう、あんまりだ。
 輝夜を見れば、静やかに笑っている。畜生、結局、こうなるのか。

「ええ、だからさっきから言ってるでしょ?」

 なんでそんな笑顔で言えるのかなこいつ。頭おかしいのかもしれん。いい医者を教えたいところだが、永琳以上の医術の持ち主なんていないって事は手遅れなのか。

「合体、とかなぁ、お前」
「うん、この指輪二つを合わせたらね、合体できるのよ」

 うん? なんだ、それ? そのなに、合体、て、こうなんだ、白昼堂々とだな、その、うん、やましい情事にだなぁ、耽るみたいにだなぁ、そ、そういうことじゃ、ない、の、か。

「……もこたん、大丈夫? 顔真っ赤よ?」
「うっさい、もこたんいうな。で、どういうことなんだ。くわしくはなせ」

 あぁもう! 変な勘違いしてて恥ずかしい思いをしたわよ! くそ、蹴り倒して怒りをぶつけたいところだけどあまり時間に余裕はなさそう。ありがたいことに輝夜は私の内心の動揺には気付いていないようだ。

「ええと、この指輪なんだけど。これを二人でつけてね、離れた場所からうりゃーってダッシュ、その勢いのままとぉーって前方宙返り、しつつ腕を伸ばしてお互いの掌くっつけ合わせると、私と妹紅は晴れて合体、すごい事が起きるのよ!」
「……お前の発言のツッコミどころが多すぎて私にどうしろというのよ。あのねぇ、まぁ、まず、その妙なアクションはしなくちゃならないの?」
「永琳がそうしないと出来ないようにしちゃったからね。まぁ美学よ美学」
「月人ってホントわけわかんねぇよなぁ!!」

 もう理解に苦しむどころの騒ぎじゃない。理解しようとしたらそれだけで脳みそがはじけて飛びそうだ。あぁ、もう、とりあえず次だ次!

「まぁそれはわかったわよ。で、なによ、”すごい事”って」
「それはやっての、お・た・の・し・ミバウッ」

 あ、つい足が出た。

「すまんバ輝夜。お前のその言い方とその顔が気に食わなかったんで膝蹴りがつい」
「非道い! もこたん外道!」

 文句を垂れ流しつつ復活する輝夜。

「謝ったんだからいいだろ……。で、何が起こるんだ」
「やればわかるわ、はい」

 そういって差し出してくる金色に輝く指輪。どうやら漢字を模してあるようだ。……永? もう一個は……夜。はっきり言っていまだにわけが分らないのだが、きっと、輝夜の言うとおりにしなければ鈴仙にも、里にも悲劇しか起きないだろう。

「……やってやろうじゃない」

 永の字のリングをひったくるように奪って自分の指にはめる。恐ろしいことにサイズがぴったりだ。え、永琳怖い。マジ怖い。見ると輝夜はもたもたと指輪をどの指にはめようか悩んでいるところ。ええ、まだるっこしい!

「貸せ!」

 その手からひったくって、輝夜の手を強引にたぐりよせる。白魚が裸足で逃げ出すような、美しいという言葉さえ陳腐に思える柔らかな指。その薬指に、そっ、と指輪をはめた。

「あ」
「な、なんだよ」

 いきなりそんな頓狂な声。な、なんだ?

「……婚約指輪みたい、うふふ」
「ば、ばかやろ!」
「野郎じゃないわ、姫ですもの。じゃあもこたんが王子様?」
「あああ、アホ! 死ね! も、もこたんいうな!」

 バカなことをぬかしだした輝夜から離れる。恥ずかしさのせいもあるが、輝夜の言ってた事を実行するにはこうするより他あるまい。

「輝夜!」
「なーに、もこたーん!」
「もこたんいうなー! 準備はいいか!?」
「よろしくってよー」

 ぶんぶんと腕を振りながら輝夜は答える。

「あと輝夜ー。一つ気になることがあるんだがー! お前、そのどんくさい運動神経で空中前方宙返りとか出来るのかよー!?」

 これまで何度も戦ってきたから分っている。輝夜の本気の弾幕はそりゃもう苛烈なものではあるが、肉弾戦はことさら苦手だ。まぁ死なない身体ではあるからいいのかもしれないけど、蹴ってるこっちが心配になるほど面白いように当たりまくる。
 一度など頑張って避けようとしたのだろう、それで自分の着物の端をふんずけて盛大にスッ転び近くの岩に頭をぶつけて、死んだ。しばらくはそれを笑いのネタにはしたが、まぁそれで分るくらいには輝夜はどんくさい。私の疑問も当然というやつだ。
 輝夜といえば、アホのように口をぽかんと開けたあと、頬をぷぅっと膨らまして怒り顔。

「どんくさ……空飛べるから平気よー!! それくらい分りなさいよアホもこたん!!」
「もこたんいうな! アホいうな! まぁいい、じゃあやるぞ!」

 離れて向き合って立つ。視線をかわして、頷きあった。一歩、踏み出す。加速する。近づいてくる輝夜と同時に、空へ身を躍らす。

「輝夜ぁっ!」
「妹紅ぅっ!」

 空中一回転して、手を伸ばす。指輪が引き合うように近づき。






 光る。












「エイヤァ―――――――――ッショ!!」










□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■















「あっ! ウルトラマンエイヤ! ウルトラマンエイヤが助けに来てくれたよ!」

(ん、なんだこれ。)

 一体、何が起こったのだろうか。

 私はいつ空を飛んだのか、と思うほどに視界は遥か上にある。ちょうど同じくらいの高さでドンゲインの後ろ頭が揺れていた。それはともかく、わりと聞きなれた甲高い声がした方を見下ろすと……。え、見下ろす? と、ともかく。眼下には親指ほどの大きさとなった因幡てゐと、幾十人ほど集まった里人の姿があった。

(え? どうなったんだ? とりあえず状況を確認しろ私)
(ふふ。そうね、それがいいわ)

 さっきの妙な行動で、私は輝夜と合体とやらをしたはずだ。まぁ言葉を考えるなら……そういうことなんだろうなぁ。

(流石年寄り、そういう機知はあるのよねー)

 姦しい返事はひとまず無視して、ゆっくりと手のひらを握り、開く。それだけの動作で空気が大きく動いた。

(……で、だ)
(うん)
(さっきから私の脳に直接語りかけるてめぇの声は何なんだ! 出てきて説明しろ! 蹴るぞ!)
(はいはい、そう言われりゃ仕方ないわね)

 その言葉が伝わったんだろうか。にゅる、と半透明の、幽体のような輝夜の顔が目の前に現れた。

(うわっ! きもちわr)
(あなたも私から見たらそうなってるの! えぇぃ、説明してあげるから少し落ちつきなさい!)
(はい)

 正直なところ、これが落ちついていられるかと怒鳴りつけてしまいたいところだが、現状を鑑みるにあまり得策ではないようだ。おとなしく聞くしかあるまい。

(まぁお察しのとおり、私と妹紅が合体、つまりウルトラクロスすることによって互いの精神は混ざり合い、体の方は超獣から幻想郷の危機を守るためにM78星雲から派遣された光の巨人になっているのよ。身長40メートル、体重4万5000トン、空をマッハ20で飛行して、腕力は14万トンタンカーを持ち上げるほど。兵力71000人分、艦船190隻分、航空機750機分、アメリカ第7艦隊以上の戦力を持つ、これがウルトラマンエイヤ、よ)

 なんかすっごいしたり顔で説明する輝夜。蹴りたい。が、まぁ、つまり。

(……という設定なんだな)
(まぁねー)

 溜息つけたらそれも万トン級ってか。まったくこいつの気まぐれもここまでくれば呆れるよりほかない。

(というわけでヒロイン役の私は肉弾戦は苦手なんで、そういうのは妹紅に任せるわ。補佐はしてあげるからまぁ頑張りなさい)
(ちっ、楽しやがって)
(と、親切に教えてあげるけど、あなたの心の呟きは全部筒抜けだからね)
(……うっせばーかばーか! ばーかーぐーやー!)
(バ輝夜言うな!)
(あぁもう、この声も筒抜けかよ畜生)
(ほらほら、愚痴ってる暇はないわよ?)

 至極気持ちの悪い姿の輝夜が不意に消えると、視界がもとに戻る。ドンゲインは巨体を人里へ向け、のろのろと進撃中。見物人たちもようやく色をなし、あわや人里! といったところか。

(わかった、わかったよ。とりあえず今私は巨人になってるんだな。よし、どうにかしてヤツを止めるぞ!)

「エイヤァーッ!」

 雄たけびを上げつつ勇躍すれば、二人でひとりの巨体は重さを感じさせずにひらりとジャンプ。しかし……加減をどうしたものか。
 とりあえず、だ。なんとなく手加減した程度のハンマーパンチをドンゲインの背中に落としてみる。めりりっ、ともこもこに覆われたドンゲインの皮膚が歪んだ。

(ど、どうだ!?)



 ……が、駄目っ!!



「ウドオオッ!」

 腕のひと払いで、やすやすと銀色の一撃は引きはがされた。え、なんで腕がこんなカラーリングなんだ。

(一応あなたをイメージした赤と銀の……ってそんな事はどうでもいいわ。しっかりやりなさい! イナバは相当強化されてるのよ? 手加減なんて考えなくていいわ。いざとなったら永琳もいるし)
(……ひっでぇ。しかし、むざむざ里を破壊されるわけにもいかないな。やぁってやるぜぇ!!)

「エェーイッ!」

 助走の一歩一歩で砂塵が舞い、大地は揺れる。そのまま地を駆けて、いまだこちらを向かぬドンゲインの後ろ頭めがけドロップキック!! 



 ッ命中! ドオンと重い音を立て、白い巨体が地に倒れる。これであいつも私を放っておきはしないだろうよ。
 案の定、あの重たそうな身体をどうにかして起こしたドンゲインは赤く燃えるような瞳でこちらに振り返る。よし、それでいい。



「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



 ひと吼えしたドンゲイン、頭を下げてタックルをかましてきた! 受け止め――ッ!? 

 (ばかもこたん! なにしてるのよ!?)

 ……思いっきり吹き飛ばされた。腹が痛い。死なないけど痛い。畜生、滅茶苦茶強いんじゃないか。ってバカ! 踏むな、踏むなよ重い、痛い痛い!! 死なないけど痛い!
 見ればドンゲインがそのぶっとい足でぐりぐりと悪役踏みつけをしてきやがる。

「ヤァーッ!!」

 何とか足をすくって引き倒し、這々の体で抜け出す。お互い体勢を立て直して、さてどうするか……?!

(おいバ輝夜)
(なによばかもこたん)
(技ないのか、技! このままどつきあってもパワー負けするだけだって!)

 もとがあのドへたれ鈴仙だったなんてやっぱり嘘なんじゃないかと思うくらい、ドンゲインのフィジカルはすさまじい。その圧倒的重量! 圧倒的破壊力! まるで重戦車のような恐るべき怪獣だ。いや、その脅威はもはや怪獣を超えるもの――まさにその名の通り超獣。いずれにせよ、とても現状のままでかなうものではない。

(スペルカードとか使えないのか!?)
(……はぁ)
(なんだその溜息! いま私を馬鹿にしたな!?)
(ほんっと、分かってないわねあなた。なんにも)
(分かってんのは……いまやばいってことだけだよおおおおおっ!)

 ドンゲインの猛攻迫る。交互に連打される右フック、左フックは痛い痛い。かろうじてガードしていたものの、ひざ蹴りまで入れられてはなすすべなく、轟音とともに吹き飛ばされる。
 かろうじて立ち上がり、改めて敵を見れば……正面にしたドンゲインが、くわっと大口を開いた。口の中はびっしり牙が生えていて、噛まれたら痛いなんてレベルですむのやら。真っ赤な舌がのたうつように蠢いている。
 その奥に、きらりと光りが見えたのだ。ヤバイ――!

「ウドオッ!!」

 火炎放射器のごとく、恐るべき勢いで紅蓮の炎が襲い来る! 

(あれはマインドフレア(生神劫火)ね。ドンゲインの必殺技の一つ)
(おい! あ、えちょっとまずい)

 ついいつものノリで輝夜にツッコミを入れようとしてしまった。あ、やばい。かわせない。

「エェイッ!」

 自然と体が動いた。両手が体の正面に四角を描くように空をきる。すると、その軌跡が白く輝き、光の壁が出現! ドンゲインの炎が目の前で四散する。だがそれにいっそう怒ったか、ドンゲインが両手を前に突き出した。

「あっ! 危ないウルトラマンエイヤ! あの構えはドンゲインナパーム(月兎紅蓮炮)だよ!!」

 地上の、おそらくは安全なところで見物してやがるだろうてゐの声が聞こえる。ウルトラマンエイヤになれば聴力も強化されるのか。すらすらと台詞を並べたあたり、あいつも永琳からいらん吹込みをされてるらしいが、今はその忠告ありがたく受けさせてもらう!!

「エイッ! エイッ! エヤァーッ!!」

 指先から座薬……銃弾型のエネルギー光が連射されるが、今度はむざむざ受けに回りはしない。側転、側転、側転、自分でも驚くほど華麗にドンゲインナパームをかわす! 地上に弾着したドンゲインナパームは花火のように火の粉を噴き上げ、煙をあげる。だが、それだけだ。

(いまだ輝夜、技、技! あいつの動きが止まってる、チャンスだ!)
(いちいち聞かないでよ! さっきだってあなたひとりでできたじゃない)
(お前のことだから、どうせ技の名前とか設定考えてあるんだろ?)
(もっちろん! ちなみにさっきのはジョフクバリアー。相手の炎や冷気をシャットアウトするには一番便利な技よ!)
(……はぁ)

 どうでもいいところで子どもみたいなやつだ、本当に。
 さて、側面に回り込まれたドンゲインは、巨体をのろのろと回頭中。反撃の機会は今しかない。ジョフクバリヤーの時と同じく、自然に腕が動く。胸のエイヤタイマーに両手を寄せれば、エネルギーが両掌に集まる。それはやがて刃の光輪と形を変えた。

「エイッヤァッ!」

 手裏剣でも投げるように、右手から放つ。

(それこそウルトラマンエイヤの得意とする切断技の一つイハサカスラッシュ! やるわねもこた……あれ)
(おい)

 ぺちん、と尻尾のひとはたきでイハサカスラッシュが破壊された。おい、強いぞドンゲイン。

(く、もこたんがへたれなばかりにやるじゃない鈴仙)
(私のせいかよもこたんって言うn)
(ならば更に強力な、フジヤマギロチンよ!!)
(……そんなむちゃくちゃに攻撃していいのかなぁ。まぁ、しかたない)

 気合をため、両手をそれぞれ上下へと一気に開く。そこから放たれるのは巨大な光の刃、フジヤマギロチン! くらえ!!

「エーイヤッ、ショッ!!」
「ウド、ウドォォォッ!」

 その一撃は確かにドンゲインの体にヒットした。派手な爆裂がその体表で起こったが、やつめ、しっかりと振り向きざまに両腕でガードをしていた。多少腕に焦げ目がついたくらいで、むしろドンゲインの怒りに火をつける結果にしかなってないんじゃないか。ドンゲインは攻めのみならず、守りも手ごわい。

(馬鹿な……これもきかないのか!)
(おそるべき超獣ね……あいつをつくったヤゴコーロ人(仮名)も予想外なんじゃないかしら)
(勝手な設定を今つくるな。それ聞いたらいくら永琳でも泣くと思うぞ)
(悦びでね。ほら、ぐずぐずしてるとまたやられちゃうわよ? 一気呵成に攻めたてなさい!)

 もうやだこの永遠亭。

(う、うるさい、戦うのは私に押し付けた癖に! だいいちどう攻めろというんだよ。さっきみたいな攻撃しても効果のないまま、エネルギーを浪費するだけだろうに)
(文句だけは一人前のもこたんねぇ……。でもそうね。仕方ないわ、とっておき、いくわよ)
(え、なにそれ。え。え? おい!?)

 輝夜が何かしたのだろうか、途端に全身が火に包まれたように熱くなる。これではまるで私が弾幕をぶちかます時のように炎が……出た!? 出たんですけど!?
 驚く暇もあればこそ、身が真っ赤に燃え上がる。え、なにこれ聞いてないんだけど。



「エエエエエエエエエエイイイイイイイイイイ……」



「まさか……! ウルトラマンエイヤはモコウダイナマイトを使う気だよ! みんな下がって!」

 わりと切羽詰ったてゐの叫びに里人たちも物陰に隠れ身を潜める。えーなにこれもしかしてヤバイ技?
 しかしそんな考えに反して体は動く。いまだこちらを向き切らぬドンゲインへ向けて、燃え上がったまま猛突進! そのままドンゲインをがっちり羽交い絞めだ。もがき苦しむドンゲインを押さえつければつけるほど、全身の炎は強く燃え上がっていく。これはわかった。わかったぞ輝夜。



 自爆する気だな、バ輝夜め! 



「イイイイイイイイイイイイイイイイヤッ!!!」



 そして、私の身体は紅蓮の炎を帯びて大爆発した。















(……っは!?)
(おはようもこたん)

 気を失っていたのだろうか。もうもうと立ち込める煙の中、私――ウルトラマンエイヤは立っていた。

(こぉのバカ!! なんて技だよ……寿命が一万年ぐらい縮まったぞ!)
(えぇ。モコウダイナマイトは自身の肉体を爆弾化して敵もろとも吹き飛ばす禁断の技よ? あ、ちなみに一回の使用につき一万年分の寿命を消費するから)
(ホントに寿命縮まるのかよ!)
(まぁ、私たちには関係ないけどね~)

 そりゃそうだが。粉みじんに大爆発したわりに、身体に傷一つ残っていないのも蓬莱人だからこそ。いやまぁ、ウルトラマンエイヤだからなのかもしれないが。いや、ひとつだけ大きく変化しているところがあった。
 胸のランプが赤い光を放ち、明滅していた。ん、なんだこれ。

(それはエイヤタイマーよ。ウルトラマンエイヤのホウライエネルギーはね、幻想郷では急激に消耗するの。エネルギーが残り少なくなったから、タイマーが青から赤に変わり点滅しだしたのね)
(はぁ。で、エネルギーがなくなったらどうなるんだ)

 軽い気持ちで聞いた一言に、口調だけ軽い、重い内容が帰ってきた。

(タイマーが消えたら、ウルトラマンエイヤは二度と立ち上がることが出来なくなるわ)
(え、おい)
(ふふ。まぁでも、うちのイナバにあれだけ酷いことをしたのでしょう? これで立ち上がってくることもないでしょうしねぇ)

 胸に沸々と、色々言いたいことが浮かぶが抑えておこう。あれだけの爆発、いかに超獣ドンゲインと言えどもひとたまりもないはずだ。かわいそうだが、怨むなら師匠を怨め。あとこのバカ飼い主も。



 かくて幻想郷の人里は護られた。

















 はず、だった。

「えっ!? みんな、あれ!」


 てゐが指差す先、煙が徐々に晴れてくる。そこには――!



「ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」



(た、倒せてない……だとぉ!?)

 まさかの無傷。怒り狂うドンゲインの巨体が、煙を押しのけ突進をかけてくる! まともにタックルを浴びせられた私の体は軽々と吹き飛ばされた。さらにドンゲインの追撃、目から繰り出すルナティックビーム(赤眼轟波)に指先からのドンゲインナパーム、口からはマインドフレアと全段発射!
 かわせない、かわせるはずがない。モコウダイナマイトに匹敵するかという大爆発の渦中へ叩きこまれ、私は無様に倒れ伏す。

「エ、エィ……ヤッ」

 しかしそこまでしてもドンゲインの怒りは収まらぬようで、地響き立てて迫り来る。やばい!

(どうするんだよ、さっきのは必殺技じゃなかったのか!?)
(もちろんそうだけど……ドンゲインがここまで強くなってるとは思わなかったわ。……怒りと悲しみが相互作用し、イナバ細胞を活性化させたのね!)
(言ってて恥ずかしくないのかそれ)
(『国士無双ぶくろ』もつけたほうが良かったかしら)
(勘弁してくれ、あいつの内臓図なんて誰が得するんだよ……)
(あら、人里の子供たちには人気よ)
(マジか)
(たぶんね)

 余裕こいて軽口をたたき合っている場合か。ドンゲインはもうすぐそこだ。へにょり耳を振り乱し恐るべき鳴き声をあげ、真っ赤に輝く瞳は……。


「ウ、ウドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」



 ……泣いている?
 はっとした。そうだ、ドンゲインは泣いているのだ。輝夜を始め周囲の奴らからは弄りまくられ、ゆくところ常に薄幸、その挙句超獣になどされたのだ。私なら真っ先に諸悪の根源永遠亭をぶっ潰しに行くところだが、ドンゲインはそのあまりにも深い悲しみと怒りに我を失い、破壊衝動にかられているのだろう。それも、望まぬ破壊衝動に。

(……おい輝夜)
(なに?)
(代われ)
(はぁ? 何言ってるの、私はヒロインよ?)
(いいから代われ! あいつを止めるには私が力で立ち向かっても駄目なんだ。お前があいつに正面から向き合ってやらないと!)

 よろめきつつも立ち上がり、ドンゲインの前に立ちはだかる。背後には守るべき人里と、そこに住む人々。あと守らなくても良い気がするけど嘘付き兎。

(憎しみからは、何も生まれない! 憎しみじゃ何も守れやしないんだ!)
(もこたん……)

 そこで感動するな。あともこたんって言うな。
 なんとか立ち上がり、ドンゲインが繰り出す光線をバリヤーで防御する。足を踏ん張り、腰を入れる! だが、あまりもちそうにはない!

(代われ輝夜! お前にしか出来ない仕事だ!)
(うーんどうしようかなあ)
(やれよ! お前感動してただろさっき! 早くチェンジしろおおおおおお)
(でもフォームチェンジなんて、平成的じゃない。やっぱりもこたん分かってない)
(どうでもいいから!) 
(はいはい、分かったわよ。じゃあ……!)






 胸のエイヤタイマーが、光る。






 ドンゲインすらもひるむような輝き、次の瞬間、そこには青と白のボディーを持った戦士がいる。それは月の優しき光のごとき、慈しみの青い巨人。私はなぜか、その光景を第三者のように眺めている。



「エイィィィィヤッ!」



「あっ! ウルトラマンエイヤが変身したよ! ルナモードだ!!」

 てゐが指差しそう言った。

(輝夜、どうなった)
(言われた通り、交代したのよ。もこたんはさっきの私みたいに観戦席。ここからは私がこの体を動かすわ。ヒロインなのに)
(こだわるんだ)
(あたりまえじゃない)

 ゆったりと構えをとると、一瞬、ドンゲインがひるむ。相手が輝夜だと分かったからだろうか。しかしすぐさま怒りを取り戻したか、ドンゲインが雄叫びをあげて襲い来る。

(輝夜っ! ガードしろガードッ)

 ぶちかましが炸裂するあわや、という所。しかし予期したダメージはまったくない。気がつけばドンゲインはよろめきながらあらぬ方向へ。
 私、というか輝夜というか、ウルトラマンエイヤルナモードは悠々と立っている。思わず感心してしまうほど完璧な受け流しだ。

「ウドオオオオオオッ!!」

 馬鹿にされたとでも思ってか、再度ドンゲインは突進。しかし結果は同じこと。最低限の動きで、相手の勢いを利用し、足を引っ掛け腕を絡めて軽々と投げる。ドンゲインは無様に頭から転んでしまった。

(やるな、お前)
(まあね。これぞ”一枚天井返し”。……それじゃ、そろそろ終わりにしましょうか)
(終わりって……あいつにはどんな必殺技もきかないぞ)
(憎しみからは、何も生まれないんでしょ?)

 輝夜の霊体がくすりとほほ笑む。畜生、不覚にも可愛いとか思っちゃったじゃないか。
 咆哮するドンゲインを見据えると、ウルトラマンエイヤは両手を大きく回旋させた。柔らかな、そう、まさに月光のような光がそこに集まる。

(秘技、「ウルトラ永夜返し」っ)

 光を乗せて、ウルトラマンエイヤの――いや、輝夜の手が、ゆっくりとドンゲインに差し伸べられた。光が、ドンゲインを包んでいく……。






「エイ、ヤァァァァァ―――――ッショッ」






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「鈴仙! 鈴仙!」

 聞き慣れた声に、私は目覚めた。まるで長い長い悪夢を見ていたかのような気分。いったい、自分はいままで何をしていたのだろう?

「ああ鈴仙! よかったあ!」
「てゐ!? ちょっと、抱きつかないでよ! どういうこと!?」
「鈴仙が元に戻ってよかったあ! 鈴仙鈴仙~!」

 なぜかすりすりと頬を寄せるてゐに抱かれ、横たわっている自分。
 私はその頬に、光るものを見た気がした。本当にどうしたのだろう? あの悪戯者のてゐが、こんなになるなんて……。

「私、どうしちゃってたのかな?」
「鈴仙はね、悪い超獣にされてたんだよ! でも大丈夫、ウルトラマンエイヤが助けてくれたから……!」
「超獣? それにウルトラマンエイヤって……」

 てゐが顔を上げた。その視線の先には、夕日を浴びる紅白の巨人。



「ウルトラマンエイヤ……」



 何故だろう、唐突な出来事のはずなのに、唐突ではないような不思議な気分。ずっと前からこのウルトラマンエイヤのことも、彼女に助けられたということも知っているような……。
 ……彼女?



『優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。もちろん弾幕ごっこで。例えその気持ちが何百回裏切られようと。……それが私の、最後の願いだ』






 最後だなんて、悲しい事言わないでよ。そう思っても、言葉にならなかった。それでも、ただ一言だけは。

「ありがとう、ウルトラマンエイヤ」

 それだけは、伝えなければいけなかったから。












「ところで私なんで裸っ!?」
「お約束お約束っ」






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「これで、良かったのか?」
「ええ。万事うまくいったわね」

 戦い終わって見上げる夕焼け空。私はウルトラマンエイヤの中、霊体同士で会話していた。

「あーあ、結局お前のいいとこどりだったなー。初めからそのつもりだったんじゃないの?」
「代わってって言ったの、あなたじゃない」
「うるせえ。っていうか、お最初からお前がやってれば私が苦労する必要なかったじゃん。 第一最後の技、お前の時間戻しだろ? 鈴仙が超獣になる前に戻したんだよな?」
「まぁまぁ、決め技は最後にとっておくっていうのはお約束ってやつよ。ともかく、あなたはよくやったわ」
「ふん。どうだか」

 足もとで抱き合う鈴仙とてゐはなかなか感動的だが、なんだろう、苦笑してしまう。てゐはわかってやってたんだろうが、鈴仙の方は事情を知ったら怒るだろうなあ。このバ輝夜の自作自演みたいなもんだし。ま、ひとまず一件落着だ。

「よっしゃ、それじゃ元に戻るか。まさかこのままなんてことはないよな? 『最後の願いだ』だなんてカッコつけやがって」
「ええもちろん、戻れるわよ。もこたんはね」
「もこたんい……え、お前は?」

 輝夜は答えなかった。ただ、少しだけ悲しそうに微笑んでいて。

「お前も戻れるんだろ? なあ」
「……ウルトラマンエイヤは、二人の蓬莱人がいて、それから月があって初めて変身することができるの。月からのエネルギーと、それから無限の蓬莱人の力で……」
「だから、なんだよ……」
「もう分かってるでしょう、妹紅。今回の戦いで私たちは月のエネルギーを使い果たしたの。あなたはもともと地上人だから月の力なんていらない。でも私は曲がりなりにも月の出身だから、どうしてもそれが必要になるの」
「じゃあ、早く戻って補給すれば」
「妹紅」

 やめろよ。そんな顔するなよ。
 頭では分かっている。でも、それを受け入れたくはなかった。それは、つまり、そういうことで。

「私は蓬莱人だから、死ねない。でもこのまま地上に留まることもまたできないの。月の力を一気に失って、魂だけさまようことになるから。だから――お別れよ。私、蓬莱山輝夜が、月へ帰るときが来たの。これでおしまい……」

 それでも、私は認めたくなかった。



 徐々に周囲が光に包まれていく。視界が真っ白になって。気付いた時には、変身した時と同じ場所に、私と輝夜は立っていた。あたりはいつの間にか暗くなり、月が出ている。

「あなたと張り合うの、結構好きだったわよ」
「やめてよ……」
「妹紅、これから幻想郷を守るのはあなたよ。あなたひとりでウルトラマンエイヤになるの」
「私ひとりじゃ、できないよ」
「できるわ。永琳にもお別れを告げて来なくちゃいけないから、それじゃあ……」

 輝夜はそう言って指輪を外すと、私の手を取ってそれを指へとはめた。永、夜の刻印が両手に揃う。

「頑張ってね、もこたん」

 ふわり、輝夜の体が宙に浮いた。

「私は一人で見送るぞ、輝夜ぁっ!」



 両手の指輪を、永夜の文字を一つに合わせ、一人でウルトラマンエイヤへと変身!















 しない……だと……?



「もこたん、その表情傑作よ! ありがと!」
「な、どういう……まさかお前!」
「そのリングじゃもう変身できないのは本当よ。さすが永琳の10サイが生みだしたアイテムね」
「そう言う問題じゃねえええっ!!!!」

 リングを指から引っこ抜き、投げ捨て、地面を蹴って飛翔する。
 月をバックに舞う輝夜は、それでも悔しいながらとっても綺麗で。









「待てや、この……バ輝夜ああああああああああああああああああああああああっ!!!!」



 私は、そんな輝夜と殺し殺され生きている。



 幻想郷は、今日も平和です。



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 輝夜と妹紅の戦いはこうして終わったのです。妹紅の乙女心を利用するとは、恐るべき蓬莱人です。でもご安心ください、このお話は、遠い遠い幻想の物語なのです。

 ……え、何故ですって?

 我々読者は今、彼女らと同じ世界を生きるほど夢を見てなどいられませんから……。





                   糸冬
















 
@本作品は前半部と推敲を白、後半部を蛸擬とで作成しております俗に言う合作です。プラズマとマイナズマみたいなものですね。

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 年末にこんばんは。お読み下さりありがとうございます。バルタン星人Jr.です。うそですビルガモ投げつけないで。
 元々これは自分一人で書いていたのですが、蛸擬さんという素晴らしい作家さんも特撮が好きと聞きまして、拉致して洗脳した挙句地球侵略の尖兵として、もとい後半部分をお願いした、とかくある次第であります。
 二人とも好き勝手やりたい放題、まさに怪獣大進撃な作品ですが、皆さんも温かい殺獣メーサー光線でお迎え撃ちください。ではまた、今後とも二人をよろしく、です。よい年末年始を。一番好きな怪獣はゴモラ初代と言い張る白でした。


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 立てばミエゴン座ればアギラ、歩く姿は星人ブニョ。そんな蛸擬でございます。嘘です。
 今回は白さんのお誘いで、好き放題にやらせていただきました。デストロイ・オール・モンスターズ。楽しんでいただけたなら幸いです。お読みいただいた方にはありがとうございました。明日のエースは貴様じゃねェ! な改造ベムスターが好きな一味違う蛸擬でした。
ぱくもどき (白&蛸擬)
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コメント



0.530簡易評価
1.100水蒸気爆発削除
タイトルを見てクリックせずにはいられずに、初っ端から笑わせてもらいました
それで読み進めていって「マニアックなネタばかりでも嫌だな」と思ったのですが、そんな事もなくすらすらと読み進める事が出来ました
ウルトラマンのお約束を踏まえた素晴らしい作品だと思います
3.100名前が無い程度の能力削除
ウドオオオオオン!
鈴仙不憫すぎるw

一カ所脱字報告を。
モコウダイナマイトの直後ですが、

インドフレア
→マインドフレア?
5.100名前が無い程度の能力削除
ああ…日曜日の朝を思い出す…
6.100ヒロスケ削除
平成生まれなのにコスモスはもちろん全てのネタが分かる俺は一体・・・。
次は平成三部作のガイアをお願いします。
あ、もちろん土煙も。
7.100銀狐 夜々削除
立てばブルトン座ればプリズ魔、歩く姿はクレージーゴン、頭脳はバルタン星人(6代目)な銀狐 夜々で御座います。
とても懐かしい気持ちにひたらせていただきました。
本当に、有難うございます。
できれば、次回作はハクレイ5つの誓いとか、その辺りで一つ、よろしくお願い致します。
8.100名前が無い程度の能力削除
わかりやすいネタが多かったので、楽しめて読めました。
またこのようなものを読みたいです
11.100名前が無い程度の能力削除
他にもウルトラマンコウマとかウルトラマンヨウヨウとかいるんでしょうかw
12.90名前が無い程度の能力削除
ごめん、ウルトラマンコウマという語句が非常に気になってしまったよ
13.100名前が無い程度の能力削除
こういう直球パロネタ、好きよ?
14.100名前が無い程度の能力削除
輝夜の能力ってイナズマンの劣化版だよね、と東映に走ってみる。
18.80桜田ぴよこ削除
色々懐かしかった
21.100名前が無い程度の能力削除
貴方たちアホだろwwさいっこうの大馬鹿ものだw
面白かったです。ニヤつきながら読ませていただきました。