Coolier - 新生・東方創想話

告死蝶の鎖は脆く、堅く

2010/08/28 19:58:23
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「ほほぅ……これはこれは……」

 東は、博麗の巫女と神出鬼没な八雲。
 北は、妖怪の山が誇る天狗の軍勢。
 人里には、八雲の式と、正体不明の獣人。
 
 吸血鬼事変の前、作戦の資料には各地域の戦力分析が示されていた。
 危険度の高い順に方角が並べられ、その最後には。

 西は、魔法の森等、戦力微小。

 真っ先に攻め落とすべきは、西の拠点だと記されていた。

「ははは、ははははははっ」

 西を攻めるように命じられた吸血鬼の配下、不死族と言われた彼は幻想郷の妖怪たちを見ても恐怖を感じなかった。八雲紫と対峙したときも、万全な対策を練れば敗北などありえないと判断した。
 幻想郷の管理者である彼女の裏に、情を感じたからだ。

「このようなことが……起こりうるとはな」

 故に、情報を集め、相手を丸裸にしてしまえば勝利など容易いと信じていた。汚いと言われようと相手の弱みを握り、蹂躙する。
 そのためには戦いで捕らえた者に拷問を行い、情報を吐かせ、吐かせた情報を元にさらに領土を広げる。単純な作業の繰り返しを続けるだけだ。その第一歩として、容易とされる西への進軍の最中、彼は幸運を手中に収めた。魔法の森の手前の平原で八雲紫の親友と名乗る、大人びた少女と出会うことができたから。

「あの幼子の運命の力とでも言うべきか」

 東洋の華やかな青、透き通った深い空色の衣服を翻し、櫻の花びらを纏う優雅な女性。花びらの周囲では、光り輝く蝶が舞い踊り、宵闇の中でもぼんやりと女性の全体像を浮かび上がらせていた。服の上からでも母性を感じさせる肉付きを見せている彼女であったが、桜色の髪があどけなさを表現し、成人する前にも受け取れる。
 どこからともなく姿を見せた女性は、不死族の軍勢に取り囲まれようともうっすらとした笑みを崩さず。扇子で口元を隠し続ける。

「お初にお目にかかります。私、白玉楼の主を任されている者で……」

 襲われているという実感があるのかないのか。
 女性は淑やかに頭を下げ、部隊長へと向けて名乗ろうとする。
 しかし、その仕草こそ、隊長が求めていたもの。

「……かかれ!」

 無防備に頭を下げた直後、骸骨を模した兵や、人型の使徒たちが一斉に女性を組み伏せていく。仰向けに草原の上で寝かされた女性は、乱れた服を気にすることもなく驚きの声を漏らした。

「あらまあ、乱暴ですのね」

 四肢が折れかねない力で何人もの妖怪たちに体を押さえつけられながらも、穏やかな笑みを崩さずに自らの状態を冷静に観察する。中には、下卑た笑みを浮かべて豊満な肉体を弄る者も居た。目を塞ぎたくなるような下劣で下等な行為を誰も止めるものなどおらず、雄の妖怪立ちの手は衣越しに柔らかな肉体を撫で回す。年頃の女性であれば悲鳴を上げ、必死に振り払おうとするのが常であろう。

「さすが、八雲の友と自ら名乗ることはある。強情なのだな」

 しかし地に繋ぎ止められた女性は、強引な行為にすら眉を動かすこともない。自らの体の上を這い回る妖怪や四肢を掴む妖怪を眺めるだけで、声を上げることも抵抗する素振りすら見せなかった。
 部隊を取り仕切る不死族の男はその意志の強さに敵ながら感心しつつも、捕縛され諦めた女性を連れ去れと今まさに命令を下そうとした。
 そのときだった。

「ねえ、あなた、愉しい?」

 女性が、自らの体の上にいた妖怪に問い掛ける。
 妖怪は当然、『最高だ』と応じ。
 そこで初めて女性の表情が変わった。

「では、その悦びを、私に分けてくださいな……」

 妖艶に、まるでその男を誘うように微笑み……
 『両腕』を伸ばした。

「っ!」

 押さえつけられていたはずの両腕が、妖怪たちの体をすり抜けた。
 非常識な事象に、その場にいた全ての妖怪たちが声を失い、美しい女性の動きに魅せられていると。
 とうとう、その両手が女性に乗る妖怪の顎に優しく触れた。
 
「あ……」

 間違いなく、触れただけだった。
 優しく撫で上げられただけ。
 それだけで妖怪の男は官能的な声を漏らし、蜜を求める虫のように二つの大きな華の間に顔を埋める。
 けれど、それはほんの一瞬のこと。
 柔らかな胸に受け止められたはずの男の顔が、地面へと落ちた。
 女性の肉体の内部へと全身を沈めて。

「虚と実、夢と現、妖怪にとってその境界のなんと曖昧なことでしょう」

 誰も動けない。
 取り囲む男たちの腕、脚、その身体を全て無視し、立ち上がる女性を誰も止められない。

「成り立ちが人の幻想や信仰に拠るものほど、移ろいやすく、失われるのもまた容易。なんと儚い」

 剥ぎ取られた帽子の中に隠されていた桜色の髪は、風もないのに揺れ動き、前髪の隙間から覗く表情には、やはり異性を誘うかのような笑みが張り付いている。破られ、切り裂かれた衣服の大きく開いた胸元や、足の付け根まで見えてしまいそうなほど布地を縦に失った風貌が、より一層妖しげな魅力を引き立てていた。
 背徳的な芸術、そう形容できるほど美しい存在が、淡い光の中で両腕を広げているというのに、それを取り囲む妖怪たちは手を伸ばそうとすらしない。

「こんな、馬鹿なことが……」

 なぜなら、誰一人として女性を見ていなかったから。
 隊長を含め、部隊の全員はある一箇所を見つめていた。
 女性に触れられた、一人の妖怪。
 大地の上で単なる土くれとなった、彼の最期の姿を……

「私の使徒が……こうも簡単に……」

 肉体を巨大な妖力で砕かれるか、作り出した主人がいなくならない限り不死に近い存在。それが触れられただけで活動を停止するなど、前代未聞だった。限りなく死から遠い存在が一瞬のうちに土くれと化したことは、部隊全ての動きを一時的に停止させてしまう。
 正体不明の敵相手に、それがどれほど危険な行為か知りながら。隊長は命令を下すことすらできない。

「使徒? 作り物の命、ということかしら? あまりに味気ないのはそれが原因ということね……でしたら、そうね……」

 その結果。

「そうだわ、あなたにしましょう」

 取り囲む妖怪の一人に右手を伸ばすが、思わず男が身を引いたので指先は空中で停止した。だが、彼女の行動はそこで止まらず、手の平からは光り輝く蝶を生み出した。

「命の華の色が違うということは、違うはずですものね」

 女性の言葉の意味を探ろうとする間も、蝶はヒラリヒラリと宙を舞う。美味しい華に吸い寄せられるように男の肩に輝く羽が触れた途端。
 男の膝が、かくり、と折れる。
 崩れた足が地面に触れ、前のめりに倒れこんだ男は身動き一つ取ろうとしない。そんな男の肩に止まっていた蝶は、光の燐粉を振りまいて生み出した主へと戻り。伸ばした右手に吸い込まれていった。
 生死の確認はしていない。
 しなくても、状況で判断できた。

「天然ものの方が味わい深い、それでも贅沢が言えないのが悲しい立場というものね」

 唇に紅を塗る仕草、薬指を軽く触れさせてから、蝶が吸い込まれた手を愛おしそうに舐めとっていく。指先から手の平、手の平から甲へと舌の先を移動させ、やっと手を遠ざけた。

「ひぃっ!」

 至近距離で行為を見ていた妖怪の誰かが、小さく悲鳴を漏らす。
 その声を合図に、周囲に感情の波が広がっていった。
 静かな水面に石を投げ込んだときに、波紋が広がるように。
 得体のしれない恐怖が、部隊全体を侵していく。

「……何をした?」
「何、とは? 単なる口なおしですけれど?」
「どうやって殺したのかと聞いている!」

 たった一人の女に、手玉に取られている状況が気に食わず強気で怒鳴ってみても、その声にはどうしても焦りが残り混乱を拡大させるばかり。二百を軽く超える妖怪の一団が取り囲むという圧倒的優位な立場であるのに、次の手が出せないのだから。
 何せ、今、彼女が偶然対象に選んだのは……
 不死族の使徒と、幻想郷で集めた妖怪の一人。
 つまり外からやってきた者と、最初から内にいた者。さらに、属性や種族さえ違う存在に対し一瞬で死を与えた。
 そんなことが可能な種族など聞いた覚えがない。

「だって、あなたたちには死がやってくるでしょう? それだけのこと」
「手の内は見せないということか……」

 女性の言葉を理解できない隊長は誤魔化しているだけと判断した。当然だろう。方法を尋ねたのに『いずれ死ぬ』という極論を返されれば、馬鹿にされていると思っても仕方ない。 

「隠してるつもりなんてないわ、そうそう器用でもありませんし。先ほどからお伝えしているでしょう? あなたたちは多少『死に難いだけ』。条件次第では人間よりも簡単に滅んでしまいますもの。あなたとあなたの使徒が日光に弱いように」
「な、に……?」
「過程が異なっても、終末は全て同じ。ならば私にとって大きな問題ではありません」
 
 男は、察してしまう。
 彼女が真実を答えている可能性を、見つけてしまう。
 『過程など関係ない』と、そう答え。
 語るはずもない弱点を言い当てた。
 それが意味するものこそ……

「それにしても、あなたたちの構成はとても興味深い趣向ね。人間の集団と違って、皆が違うんですもの。終着点に向けた順路に個性があって、ついつい魅入ってしまった……紫に怒られてしまいそうなくらい」

 終着点までの順路。
 終わりまでの条件。
 そう言い代えるなら……
 
「……全力で、攻撃しろ!」
「え、あの、捕らえるのでは?」
「あれは、あの女はそんな生易しいものじゃない! 全力で攻撃して滅ぼせ! 跡形も残すな!」

 彼女は天敵だ。
 己の身体能力に自信を持つ悪魔たちが、その真価を発揮する間もなく消し飛ばされてしまう。いや、悪魔だけではない、人間も、もしくは神であったとしても。
 滅びの概念が存在する生命体に対して、逃げようもない天敵なのだ。

「あら、やっと理解してくれたのかしら?」

 闇を暖かく照らし出す光の中で、至近距離で取り囲んでいたものが動いた。さきほどのすり抜ける動きを見て、単なる物理攻撃では効果がないと判断したのか。各々が刀や爪に魔力を送り込み、密度の高い攻撃を繰り出そうとする。
 一人が縦に切り裂けば、左右の仲間はその左右を塞ぎ。
 一人が横に薙げば、上下と後方が回避する空間を埋める攻撃を繰り出す。
 取り囲む布陣は縦にも横にも、避けることが難しい集中攻撃用。
 前後左右どころか、八方より襲い掛かる連携で妙な特殊能力を封じ、殲滅する。初動やそれに連なる動作から判断して、女性が素早い動きを得意としないと予測した上での戦法だ。

「なかなか面白い舞ね……」

 女性が攻撃の暴風に飲み込まれる前に、できた行動は二つの扇子を胸元から取り出すことだけ。体一つ分も逃げ場のない攻撃に耐えるには脆弱すぎる装備。重い鉄の塊を受ければ簡単に折れ飛んでしまうに違いない。
 それを実践するために、女性の脳天へと振り下ろされる刃が。

 ガキンッと音を残した。
 扇子とぶつかった音ではない。
 女性に振り下ろしたはずの剣先に触れていたのは、追撃を繰り出そうとした別の妖怪の爪だったのだから。

「っ!」

 女性が何をしたかと言えば、扇子の上に刃の先を乗せ斜めに払っただけ。肘を曲げ左手の扇子で顔を隠し膝を軽く曲げ、全身が軽く沈み込んだと同時に首を斜めに。小首を傾げた格好で体を半分ほど捻り、傾けた顔と同じ角度で扇子を振るう。
 払われた先に偶然仲間がいて、なんとか刃を防御した。
 しかしその防御を行ったせいで後詰めの攻撃を行えなくなり安全地帯が広がる。
 わずかな動きの乱れで生じた一人分の空間には、女性が歩を進めており、交差した腕の指先を口元と腰の横で優雅に揺らしていた。夜桜をそこに移したような、赤みがかった薄い紫色の扇子を手にして。

「面白いのだけれど、綺麗過ぎて遊びが足りないかしら。一見精練されたように見えるのだけれど、ほらね」

 間髪おかずに横薙ぎの攻撃が繰り出されれば、胸の高さの攻撃は頭上に、腰の高さのものは足元へと両手で弧を描いて受け流し、下段から切り上げようとしていたもう一人へとぶつける。薄紫の帯が闇の中に残像を残す中、円を描く扇子の速度はさらに増し続け、先端が攻撃を繰り出そうとしていた二人の妖怪の頬を撫でる。
 それだけで二つの物言わぬ肉塊が出来上がり、地に倒れ伏した。

「多少崩れただけで、場を殺してしまう。芸ではなく、遊戯と成り下がった舞ほど無様なものはありませんもの」

 決して速いわけではない。
 目で追えないわけではない。
 流麗な舞に誘い込まれるように、弾かれた攻撃が相手の防御へと変えられ味方の妨害を繰り返す。そして一度でも大きく崩されれば……彼女の能力が容赦なく戦力を削り取る。
 再び腕を交差させ、構えを取る女性。その間合いへ踏み込もうと向かっていく者は誰もいない。じりじりと後ずさりしながら、包囲の円を広げるだけ。悲しいかな、練度に圧倒的な差がある上に、触れられたら終わりなのだ。
 これだけの条件を見せ付けられた上で、同じ策を取り続けるなど愚の骨頂。

「今日のところはお帰りになるの?」
「……その提案がとても魅力的に感じられるよ」

 薄雲が晴れたのだろうか。眩いほどに感じられる月光が降り注ぐ中、隊長は正直な言葉を口にする。
 敵側に、馬鹿げた能力者がいる。
 その情報を持ち帰るだけでも、十分な戦果だ。もしそれを知らずに本隊が大掛かりな行動を起こしたとき、このたった一人の女性が本陣付近に出現したらどうなるか。指揮系統を一瞬で潰されかねない。
 そのため、すでに一度目の伝令は送った。
 先ほどの攻撃の合間に、隙を見て本隊へと走らせた。
 故に、今、彼がとるべき行動は勝利よりも、正面の敵の情報をより多く取得することだった。

「もう少しあなたに付き合ってもらいたいことがあるのでね」

 接近戦がだめなら、中距離。
 中距離でも駄目なら遠距離からの魔力、妖力の一斉攻撃ならば。
 精神体に近い彼女に手傷を負わせられる可能性がある。
 そういった攻撃ならば紙一重で避ける事はできても、余計な反撃を受ける必要はないはず。そう思い、接近戦しかできないものは中距離部隊の守備に当たらせた。
 もっとも、防御できるとしても、たったの一度。
 命をかけた壁でしかない。

「射角に注意し、包囲、合図を待って一斉攻撃!」

 その命令を聞いた女性は、接近戦用と思われる構えを解き。また無防備に体の前面を見せつける。両腕を体の横、斜めに下ろしたかと思うと。
 右腕だけをすっと、胸の前に出した。
 手の平を夜空のほうへ向け、くすくす、と微笑を浮かべながら。

「攻撃もいいのだけれど、もう少し、落ち着いてはどう? ほら、今日は空がとても綺麗ですし」
「……時間稼ぎか?」
「いまさらそんなものに意味などありませんわ。純粋に美しいと思えるだけで」

 確かに、今夜は明るい。
 作戦開始時は女性の周囲を飛ぶ蝶くらいしか明かりというものがなかった。しかし今ではどうだ、曇っていた空が晴れていったせいか横に立つ仲間たちの表情すらはっきりと見える。昼間とまではいかないが、満月よりも明るいのではと錯覚してしまうほど。
 さぞや星が光り輝いているのだろうと、彼は、一瞬だけ空を見上げ……

 愕然とした。

 そして慌てて周囲を見渡し、自分と同じ顔をしている仲間を探す。
 圧倒的な絶望に支配されつつある仲間の顔を。

「ねぇ? 綺麗でしょう? 自信作なのよ」

 一瞬、宙に輝く天の川が降りてきたのかと見間違うほど、それは神秘的な光景だった。夜空の半分以上を埋め尽くし、星すらも飲み込んでしまいそうな輝く蝶の群れ。それが廻り、うねり、一つの意思を持つ生き物のように空で遊んでいる。この蝶たちこそが段々と周囲を明るくしていったのだ。
 自然では垣間見れない蝶の天蓋。
 何も知らなければ、目を奪われる美しい風景でしかないのに。
 感嘆の声を上げることしかできないのに。

 彼らは知っていた。

 あの蝶の群れのたった一匹に触れただけで、命が失われることを。
 それが何百、何千、何万、何十万……
 ここにいる全員の命を吸い尽くしても足りない群れが、闇夜を覆い尽くしている。
 
「……おい、そこの妖怪、私たちの軍勢は、百万を超えるほどの命を保有していたかね?」
「いえ、全部隊を合計しても届きはしないかと……」

 彼の恐れていた想像が、頭の中で明確な映像として浮かび上がる。
 今と同じ蝶を生み出した彼女が、光の波となった集団を解き放つ姿が。
 光に触れるごとにドミノ倒しのように地面に転がっていく軍勢の姿が。
 そんな男の絶望を後押ししたのは、誰でもないその女性の声だった。

「あ、ごめんなさい。今思い出したのだけれど。紫がね、こんなことを言っていたの。十人を止めようと思うなら十人全員に危害を加える必要などないらしいのよ」

 言葉を続けながら右手の中に蒼い火の玉を生み出し、空へと掲げる。
 すると、蝶たちの動きが明らかに変わった。
 空を遊覧していたはずの光の群れが、一斉に大地へと頭を向けたのだ。

「十人のうちの一人でいいんですって。その一人を無残に、圧倒的な力で滅ぼしてやれば、勝手に止まってくれるらしいのよ。素敵でしょう?」

 紫の友人。
 彼女はそう名乗り、一度は無防備に拘束されて見せた。
 今思えばそれが全て餌を誘き寄せるための罠で、彼らはまんまとそこに足を踏み入れてしまった。
 赤い瞳で見つめ続ける、本物の悪魔の眼前に。

「誰でも……誰でもいいから逃げろ! 撤退だ! 今ここで起きた事を本部と魔女に伝えるんだ。早く!」

 命令は再度覆る。
 捕縛から殲滅、そして撤退へと。
 最後だけは、賢明な判断だった。
 いや、そもそも、彼女が冥界の姫と知っていれば。
 西行寺家の名を知っていれば、対策なしで戦闘行為に及ぶはずなどなかった。
 そう、彼らの唯一の誤算は。
 
『出会ってしまったこと』

 彼女は見つめる。
 蜘蛛の子を散らすように、大地を蹴って逃げだす妖怪たちの背中を。
 誰一人として、飛ぼうとしないその姿を見つめ。

 
 本当に、満足そうに微笑んだ。


「っ! 飛べ、全員いますぐ飛べ!」

 男がそう命令したのは、勘でしかなかった。
 このまま地面を走った方が、空の蝶から逃げられる可能性は高い。しかし生き残る可能性をあの女性が残すとは考えられなかったのだ。
 そこで考えた。
 もし今、一番避け難い攻撃は何か。
 空の蝶すら布石にして、もう一段罠が仕掛けられているとすれば何か。
 導き出されたのは、たった一つ。

「ご名答、でも一手遅かったかしら」

 遊ばせていた左腕。
 それを女性は正面に掲げる。
 何気ない、見るものからすればなんてことはない動作だ。しかしその動作を待ちわびていた蝶たちは、一斉に羽ばたき。
 何百、何千、何万、いや何十万の数が――

 大地の中から、飛び上がった。

 その光景はまさしく、光の平原。
 幻想的で、暴力的で、残酷な光は一瞬で大地を蹂躙し。
 空と大地を、光で埋め尽くす。
 
「蛍のような趣はないけれど、なかなかのものでしょう?」

 半球状に空間を覆い尽くす蝶の数匹と戯れ、優雅に舞いながらつぶやく女性の声。
 答えるものは、誰一人としていなかった、
 
 
 
 
 
 闇を取り戻した平原で、女性は静かに瞼を閉じていた。
 反魂蝶の群れを消し、ただ静かに待つ。
 過ぎ去る風に、破れた衣服とそこから覗く白い肌を晒して。

「妖忌、首尾は?」
「先に出た伝令を二人、切り伏せて参りました」
「そう、ありがとう。この程度なら妖夢も連れて来て上げれば良かったかしら。お弁当も準備して」
「……お戯れが過ぎますぞ。今の言といい、その服装といい」
「あら、怒られてしまいましたわ。でも、今日の服は私の霊体から作り出したものだから。解釈によっては服を纏っていない状況でしょう? だから気にすることはないわ」

 物理的干渉を完全に断つため、事前に作り出したその服は。彼女そのもの。実体化しようと思えば、服もそれに従い、逆もまた叱り。
 音もなく姿を見せた髭を蓄えた老剣士。彼に衣服の乱れを指摘され口元を手で隠して笑う。

「わざと実体化して、破らせたと聞こえますが?」
「……そういうところが嫌いなのよ」
「お褒めに預かり光栄です。誘いに使うためと受け取ることもできますが、あなた様はこの場に来てすぐ、地面を触っておられた。あの段階ですでに誘い込みの準備は完了していたのでは?」
「だって、警戒されるより、か弱く美しい乙女を演じた方が集まるじゃない」
「…………」
「そこで黙らないでよぉ……」

 微笑みかける主を無視して、妖忌の視線は足元へと落ちていた。
 もちろんそこにはおびただしい数の亡骸が並んでいる。その多くには共通点があった。彼が感慨にふけるだけの、重みがあった。

「さぞや無念だったでしょう。敵に背を見せて倒れるとは」
「あら、あなたもそんな言葉を口にするのね」
「いけませんか?」
「いえ、あなたも中々感情豊かだと感心したまで、だって、ねぇ?」

 妖怪たちが倒れる風景の中心で扇子を取り出した女性は、地平線に這わせてその手を動かし、その場で一周して見せる。

「死は、単なる結末でしかない。それに意味を持たせるのは生き残った者だけですもの。犬死も、勇敢なる死も、寿命でさえ結果は同じ。それに至る過程で、周囲が判断するんだものね。それはまだ自分たちが生きているという優越感から? それとも罪悪感から? あなたはどう?」
「さあ、私はそういった哲学的な問題には疎いもので」
「……もう、あなたのそういうところが苦手ね。本当に固いのだから」
「それでは、幽々子様はどうお考えで?」

 振り返り際に投げかけられた、何気ない問いかけ。
 しかし幽々子は目を丸くし、頭の中で質問の意味をじっくりと吟味した。その後で、口元を手で押さえてみるが。
 空気を勢い良く吐き出し、体をくの字に曲げてしまっては何の意味もない。
 そうやって童心に返ったかのように大笑いする幽々子、しかしそれを見つめる妖忌の瞳は真剣そのもので。

「ありがとう、なら、そういうことにしておきましょう」

 問いに答えず、感謝だけを返す。
 亡霊となった彼女に、生者に関する質問を真顔でぶつけてきたのだから。
 『あなたは生きている』と、強い意志で突き付けるが如く。

「あぁ、笑ったらお腹が空いてきたわね」
「お言葉ですが、霊体なら飽きるほどお召し上がりになったのでは?」
「わかってないわねぇ、霊体と料理は別腹よ」
「……初めて聞きましたが?」
「初めて言ったもの」
「……では、戻りましょう。妖夢も首を長くして待っているでしょうし」
「ええ、そうしましょうか」

 二つの影がその場から退場し、こうして一夜の事件が幕を閉じた。
 その次の日、吸血鬼は一向に連絡の取れない配下に痺れを切らし、魔女へと偵察任務を与えた。陣地確保に何を手間取っているのか、詳しい内容を調べさせるために。命を受けた魔女が館を出たのは、朝食の後。しかし、警戒しながら進む彼女が作戦予定地の上空へと到着したのは、昼前だった。
 太陽が高く昇り始めたその場所で、彼女が目にしたのは。

「どう報告しろというの、この状況を……」

 放射状にその身を横たえた妖怪たちの一体一体が黒ずんだ花弁となり、平原の上に折り重なる。


 黒染めの妖華であった。






 確実と思われた、制圧作戦。
 それを圧倒的な力の差で潰された吸血鬼陣営の中に、和平の二文字が浮かび。
 一気に妖怪の命を失う力を目の当たりにした管理者は、スペルカードの製作を始めるにあたった。
 けれど、歴史には西行寺の名は残らず。
 ある、力のある妖怪がやってのけたこととされている。


 けれど、歴史を識る稗田家は彼女の詳細が記された文面の中に、こう刻んだという。
『危険度:極大』
 出会ってはならぬ、と。
 人を食らう妖獣、妖怪を差し置いて、最高最悪の評価を下した。


 蓬莱人以外に、彼女の相手をできる者などおらず。
 スペルカードバトル以外で交渉を行ってはいけない。
 その存在自体が脅威である彼女。

 しかし、今、西行寺幽々子は、窮地に立たされていた。
 逃げ道などなく、無駄に時を過ごせばいずれ強大な力に押し潰されることとなる。命の期限はもう24時間を切り、滅びのカウントを刻みつづけていた。
 そう、彼女を死の淵まで追い込んでいるものこそ……


「墨汁なのよ」

 文房具である。
 消耗品であり、雑貨でもある。

「……幽々子、もう一回」
「墨汁、なのよ……」

 白玉楼の執務室、その畳の上。泣き崩れる主が発したのは、何度聞いても同じ二文字。しかも二回目は涙声で、微妙なビブラートが生かされていた。ただ、何度聞いてもはっきり自信を持って言えるのは、まったく理解できないということ。
 この質疑応答だけで、大切な時間を半刻も利用していた。

「あ、あの、お話は終わりました?」
「会話が成り立っていないものを『話』と認めていいのなら継続中ね」

 と、そこに現れたのは天の助け。正座しておずおずとフスマを空けたのは、庭師兼指南役。ほぼ指南役は意味を成していないと不名誉に有名な、凛々しくもあり可愛らしくもある半人半霊であった。追い込まれると精神的に弱い一面があるものの、追い込まれすぎてほぼ単語しか発しない主よりはマシだろうと、紫は自らの隣に妖夢を呼び寄せた。

「お茶受けは何が良いか窺いにきただけなのですが……」
「お茶なんて今はどうでもいいから、この状況を説明してくださらない? 朝にいきなり『たすけて』と意味深な内容のメモを天狗経由で送りつけたと思ったら、これですもの」
 
 これ、と発言すると同時に隙間から閉じた扇子を取り出し、幽々子の頭部あたりを指す。その横で正座する藍も、無言ながら苦笑を浮かべていて。どうにかして欲しいと訴えていた。

「えっと、ですね。私から説明しますけど、よろしいですか? 幽々子様?」

 その言葉を聞いてやっと少しだけ顔を上げた水色の塊が、こくり、と頭を下げる。それを確認してから妖夢は少しためらいがちに、ある人物の名前を口にする。

「あのですね、明日の早朝……閻魔の四季様がいらっしゃるわけで……」
「帰るわよ、藍!」
「待ってぇ~、話を聞いてぇ~」

 帰ると紫が言った途端に執務机を飛び越えて紫にフライングボディプレスを決める幽々子。そのまま寝技に持ち込み、二人の体で十字を切る形を作り出した。完璧な横四方固めである。そんな元気があるならさっさと説明しろと怒鳴りたくなるほどの、なんと無駄な行動力か。
 ただし、豊満な二人が身体を絡ませる姿を見せつけられ、今度は耐性のまるでない妖夢が追い詰められ、顔を真っ赤にして右往左往し始めた。

「はいはい、続きをどうぞ」

 しかし落ち着いた様子の藍が二人と妖夢の間に入り、体でバリケードを作った。そのおかげで多少落ち着きを取り戻し、咳払いをして言葉を続ける。

「その、訪問される理由がですね。半期の業務に関わる監査。つまり点検のようなものらしくて、昨日幽霊の出入りで記載漏れがないか確認作業を二人でしておりまして……」
「重大なミスがあったのかな?」
「いえ、特に何も」

 藍の頭の上に、ハテナマークが浮かんだ。
 書類に問題がないのなら、そのまま監査とやらを受ければいい話だと素直に思ったからである。

「書類には、何も不備はなかったのです。しかし一晩かけて作業を続けたせいで気が付けば周囲が明るくなっていて、朝食を取ってから一休みすることとなりました。それで私が部屋を出ようとしたとき幽々子様が、『今日はここで食べよう』とおっしゃっいまして……机の上を整理していましたら……硯が、幽々子様の肘に……」
「……まさか」
「気づいたときにはもう遅く、整理した書類の上に黒い雫が降り掛かりまして……」

 しかし、しかしである。
 硯に入る墨の量ならたかが知れている。それが染みたところで犠牲になる紙はそうそう多くないはず。
 
「その後、慌てた幽々子様が墨汁入れさえ倒さなければ……」
「まさか私の死を操る能力が、書類の命さえ奪うとは……」
「冗談を言う余裕があるなら退いてくださらない?」

 重要書類の死亡確定。
 ということは……
 部屋に入ったときから藍が気になっていた、部屋の隅の書物はもしかすると……
 なんだか表紙がおもいっきり黒くなっているのが、膝の高さあたりまで積み上がっているのは、まさか……
 
「あれが、被害‘書’たちです」
「冗談、だろう?」
「瞬きをした後、何度幻想であるように祈ったことか」
「……幻想郷は、すべてを受け入れる、それはとても残酷なことですわ」
「それが私の物真似だとするなら、ぐーで殴らせて」
 
 つまり、どういうことかというと。
 こういうことである。
 
「ねえ、紫なら、紙と墨の境界を分けたりとか……」
「白紙に戻していいならできるわよ?」

 あの書類を元に戻すのを手伝ってほしいということだ。
 後、一日以内に、閻魔様がやってくるより早く。

「あー、うん、妖夢? こう言ってはなんだが、一度はしっかりまとめたんだろう? それを素直に閻魔様に伝えれば、いくらなんでも……」
「……書類に不備があった場合、問答無用で白玉楼に支給されている食費を半分削減すると」
「なんてことを……」
「ええ、まあ、幽々子様にとって食という楽しみを奪われるのは、死に等しいわけでして」
「そーなのよーゆかりぃ! なんとかしてぇ!」

 押さえつけて頼むことではないのだが、気が動転している幽々子にはこれが精一杯。珍しく涙目を見せる古い知り合いの姿に、紫は諦めたように全身の力を抜く。

「はぁ、わかりましたわ。つまり書類を元に戻すためにもう一度同じ内容を書いてしまえばいいのでしょう?」
「うん、そうなのだけれど……」
「それくらい素直にいいなさいな、ほら、早く体を浮かしなさい」
「……逃げない?」
「逃げません。ちゃんと手を尽くして差し上げますわよ」

 何度も、何度も紫の顔色を伺い、その身を宙に浮かせて畳の上へ。重りから開放された方はその場で膝を付き親友の頭を撫でた。
 頬を濡らし、瞳を潤ませる幽々子に大丈夫だと言い聞かせるように無言で見詰め合う。
 何も言葉など交わされていないのに、藍と妖夢には二人の信頼関係が手に取るようにわかった。大人の美しい友情に魅せられ、うんうんっと、首を縦に振り出したとき。

「書類なんて、力を併せればあっという間よ。だから、諦めないで。こちらも全力を尽くすから」
「紫……」

 涙を止めた幽々子にもう一度微笑みかけ、紫はぽんっと、肩に手を置いた。
 激励の意味を含んだ、その合図を送る。

「……書類整理にとても強い、藍が」
「え゛っ!?」

 自らの式の肩に。
 尻尾の毛をすべて逆立てて、反論を口にしようと腰を浮かした直後。

「ごめんなさい、幽々子。私、霊夢と結界についてお茶を交わしながら語らう最重要会議があるから、私の代わりに藍が二人分がんばってくれるって、じゃあ♪」
「ま、待ってください! あの量は私でもっ! ゆ、紫様ぁっ!」

 紫は即座に開いた隙間に身を隠し、そのまま気配を消してしまう。
 追いかけようと手を伸ばした空間には、すでに切れ目などなく。
 
 がしっ

 後ろからは、しっかりと尻尾を掴む存在が一つ。
 その後、藍という心強い味方を得た白玉楼では、神がかった速度で書類の作成作業が実施され、それが終了したのはなんと、閻魔がやってくる予定時刻のわずか半刻前。
 真っ白に燃え尽きた従者二人組が畳の上で『白い紙怖い』と連呼する中で、たった一人。幽々子だけが部屋の中で飛び回り、書類の完成を喜んだという。軽くダウンしていた二人の中にも、言い知れない達成感だけは残っていたので幽々子の喜びようは仕方のないものだと、そう思った。

 思っていた。


 がしゃり、と。


「あっ……」
「えっ……?」
「はは、はははははははははははははははっ……ゆかりさまぁ……」


 黒い墨汁を机の上に撒き散らすまでは……















 ――はい、なんです?
 いいですよね、紫様は、私たちが努力している最中、一人でお楽しみだったんですから! 私、庭仕事が忙しいので今日はお話とかそんなことをする気分じゃないんです。早く藍さんのところにいってきてください!

 え? ……はぁ?

 今の、幽々子様、ですか?
 そうですね、ときおり何を考えているかわからなくて、私を試す不可思議な問い掛けをなさる程度ですね。それ以外のときは、縁側でよくお茶を楽しんでいらっしゃいます。とても穏やかで、お優しい方ですよ。

 ……? 変わった?

 昔から、幽々子様は今のような様子だと思いますが。
 それは確かに、一度は異変を起こされましたが……
 それでも、信じているのです。

 もし、周囲が愕然とするようなことをおっしゃっても、
 どれだけ、無謀な命令だったとしても、
 私は幽々子様を最期まで信じ、お仕え続ける、と!


 あ、な、何で笑うんですか!
 真剣なんですよ! 私は本当に……あ、もうそうやってすぐ逃げるんですから。




 それにしても……

 『あなたたちの半分ずつが、蝶を繋ぎ止めた鎖』とは……

 紫様も妙なことをおっしゃる。
 
 そう思いませんか、師匠……
 
 たぶん、カードなしならこれぐらい酷いと思ったりした。

 おつきあいくださりありがとうございます。

 タイトルについてなのですが

 前半は、告死蝶
 後半は、黒死帳

 二つの意味を持たせてみました。
 まあ、それだけなんですけど……

 最期にゆゆ様が、スペルカードなしで暴走しないことを心から祈って。

>誤字を若干修正しました。遅くなって申し訳ありません
pys
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コメント



0.1780簡易評価
10.100名前が無い程度の能力削除
最初はシリアスだったのにっwww
11.50名前が無い程度の能力削除
前半と後半のギャップが激しすぎて、ちぐはぐな印象を受けました。どちらか片方だけなら100点なのに残念です。
15.100名前が無い程度の能力削除
なんだよwwwなんなんだよwwww
18.90名前が無い程度の能力削除
まだまだ師匠の域には達していないということかww頑張れ妖夢ww
25.100名前が無い程度の能力削除
カリスマ溢れる幽々子に惚れ惚れしていたらこれだよ!
前半と後半のギャップ酷すぎるwww
どっちも楽しめたので100点持ってけ!
28.90名前が無い程度の能力削除
まさに妖艶、そして幽雅なる舞を見せて頂き眼福です
こういうifストーリーがあってもいいかもしれないですね
タイトルうまいと思います
34.100名前が無い程度の能力削除
これは良いゆゆ様SS
38.80名前が無い程度の能力削除
スペカなしなら、確かに幽々子は強そうですねw

誤字的な何か
隙間から望む表情→隙間から覗く表情(?)
だけど判断した→だけと判断した(?)
資金距離で→至近距離で
横に凪げば→横に薙げば
裂けることが→避けることが
倒れ付した→倒れ伏した
目で終えない→目で追えない
雲の子を散らす→蜘蛛の子を散らす
感でしかなかった→勘でしかなかった
破れたい服→破れた衣服(?)
着てすぐ→来てすぐ
硬いのだから→固いのだから
太陽が高く上り→太陽が高く昇る
お使え続ける→お仕え続ける
顔色を伺い→顔色を窺い
私の変わりに→私の代わりに
他にもあると思いますので、どうか今一度ご確認を
44.90名前が無い程度の能力削除
幽々子チート過ぎだろ…
後半がギャップ有り過ぎてワロタwww
とても楽しめました。
46.90名前が無い程度の能力削除
あらためて幻想郷の能力持ちは反則レベルだとわかった。
とんでもなくとんでもない程強いな、ゆゆ様。
スペカ無しなら全技即死効果とか、マジチート。
52.無評価名前が無い程度の能力削除
ああいう過去が在って、今はこう。みたいな王道展開好きですよ。
妖夢ちゃんがほっこり纏めたので終わり良し。