Coolier - 新生・東方創想話

蓮子「10年ぶりくらいにメリーから連絡が来たから会いに行ってみた」

2013/05/14 21:52:27
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秘封倶楽部活動拠点第3号室、またの名をフレンズは、個人経営の喫茶店だ。
カウンター5席、テーブルが3つ、各テーブル間にはしっかりとした仕切りがある。
その仕切りで隔たれたテーブル席で顔を寄せ合い、声を落として密談するのだ。

ギャングエイジが秘密の遊び場所を作るような。
そんな気分を、大学生である私たちは味わっていたのかもしれない。

扉を開ける。懐かしいな。店内は10年前と何も変わっていない。
ママは変わらず綺麗で、挨拶もそこそこ。
事前に連絡はしておいた。世間話はそこで済ませている。

そして奥のテーブル席からひょこっと顔が現れる。
ブロンドの髪、白い肌、高く伸びた鼻に、褐色の目。そしてあの笑顔!
大学時代のほぼすべての時間を共に過ごした相棒、マエリベリー・ハーン!

「おー! きたね! こっちこっち! まあすわれすわれ!」
「わはははは! 10年ぶりだねメリー! ん? ……メリー? メリーだよね?」

の筈だが、えらくちっこい。そして幼い。
ぱっと見の年齢は、第二次性徴が始まる位だろう。
小学生高学年の女児、という感じだ。

メリー(?)の向かいに座り、荷物は傍らに置き、顔を覗き込む。
見れば見るほどメリーにそっくりだが、なんでこんなに小さくなっちゃたんだろう?
座高は私の鳩尾くらいまでしかない。顔の半分も隠れるコップを両手で持ち、牛乳を飲んでいる。

「――ぷはぁ! で、大学卒業してからは何やってんのー?」
「え? あ、わたし? 私は、えっとね。えーっと」いきなり切り出されてしどろもどろに答える。
「私は、院に行ってね。JAXAの宇宙開発科で研究職と、母校の大学教授を掛け持ちでやってる」
「へー! 大学かぁ! あたしも来年から大学に行くんだぁ! 今は結界の勉強してるところー!」
「あ、へえ、メリーも大学に行くんだ? ふーん。一体どうしてまた大学へ?」
「だって小学校つまんないんだもーん。大学に行きたいって言ったら、ママが良いよってね!」
「え? 小学校? それに、ママ?」
「うん! ママ! 今日は宇佐見に会いに行くから早く起きなさいって言ってさ!」
「ふむ? それで? 早く起きてからはどうしたの?」
「朝はママが焼いてくれた目玉焼き食べたんだ! ベーコンのが好きなんだけどねー!」
「うん、じゃあちょっと耳をふさいでてくれる? おっきな声出すからね」
「分かった! はい! いいよ!」
「メリー! 出て来なさい! これどういう事よ!」
「あちゃあ、ばれちゃったか。もうちょい行けると思ったんだけどね」

隣のテーブルからメリーが出てきた。
両手を上げたホールドアップの姿勢である。

「Sit down」
「Yes」
「Next, explain」
「……My child」
「ごめん、もう一度言って」
「私の子」
「あなたの子?」
「うん、私の子」
「これ、あなたのママ?」
「うん、あたしのママ」
「これ、あなたのママ? ほんとに? ママの子はあなた?」
「うん、あたしのママ。ママとパパの子があたし」
「ねえメリーママ、相手はだあれ?」
「八雲 圭」
「え? 八雲 圭って、あの圭?」
「うん、京都の結界師で有名な、八雲家の次男」
「圭が?」
「私の夫」
「あたしのパパ」
「あなたは?」
「パパとママの子」
「――へぇ、なるほど。――ねえフレンズのママさーん、包丁貸してー?」
「え、蓮子、どこ行くの?」
「圭のタマを取りに行く」
「や、やめてください! 死んでしまいます!」
「だまらっしゃい! この作品は終わりよ! もうすべて終わりだわ! 秘封の華であるメリーをオリキャラで穢して無事でいられるわけないじゃない! 10点評価を暴風雨の様につけられて読者に叩き潰されるんだわ! それか、閲覧数は10とかでぴたりと止まって、合計ポイントは0点とかになるんだわ! そしたら作者のSAN値は急転直下で発狂エンドよ! うわああああああ! 終わりだああああああ! まだ三作目なのに! まだこのシリーズが始まって一か月もたってないのに! もうすべてが終わりだああああああうわああああああ!」
「お、落ち着いてって蓮子!」
「おちついていられるかあああ! うわああああああ!」

恐慌状態に陥る。絶叫を上げテーブルをがたがたと揺らしていると、右頬に衝撃。
ぱちくりとして正面を見ると、メリーが腕を振りかぶるところだった。
手の平をパーにして、耳の隣まで大きく腕を上げ、そして鞭のごとく撓らせた。

パァン! 自分で言うのもなんだが、快音である。

「あいたぁ! って、あれ? 痛くない?」
「秘封ビンタは健在よ。落ち着いた?」
「二発目は余計だった気がするけれど」
「もう一発必要かしら」
「ごめんなさい結構です」

メリーはアイスコーヒーをストローでちゅーっとやり、両目を閉じたすまし顔。
隣に座るメリーチャイルドもコップを両手で掴み、飲む。
私は、佇まいを直し、ビンタでふっとんだ帽子を拾い上げ、埃を払った。

「いやいや、でもさ、私ショックよ? だって、10年ぶりに会ったと思ったら」
「結婚していて、しかも子供がいた?」
「10年前はあなた、男は嫌だって言ってたじゃん」
「うん、ゴキブリを100倍汚くしたのが男だって、言ったね」
「圭ってやつ、相当イケメンなの? あなたにべた惚れとか」
「んー、見た目は普通かな。っていうか私、今でもレズっ気があるって自覚してるし」
「圭も男でしょ?」
「圭はゲイよ」
「え? ゲイ? 男の同性愛者ってこと?」
「そそ」
「でも、抱かれたわけでしょ?」
「いんや、今でも手さえつないだことも無い」
「えー?」
「体外受精、体外妊娠だから」

メリーはさも何でもない事のように言う。

一昔前までは技術が危うく、流産のリスクがあった。
しかし今は科学技術の進歩で、受精卵を体内に移植する必要もなく。
また母体の健康状態の影響を受けない為、健康な子供が生まれるのだ。

「それで生まれたのが、この子。紫色の紫って書いて、ゆかりって読む」
「紫ちゃんか。ふぅん。でもなんだかなぁ。大学時代のメリーしか知らないとなぁ」
「やっぱりショック? まあ、これから慣れていくしかないね」
「慣れていく? ――まあもちろん、私子供好きだけど、どういうこと?」
「順を追って話そうか。その前に蓮子、なんか飲み物頼めば?」

私はフレンズママへアメリカン・ロースト・コーヒーを頼んだ。

「私は大学四年間あなたと秘封倶楽部をやってね、一つ気づいたことがあるの」
メリーは、自分の眼を指差し、言う。「この能力の可能性を、私で終わらせる訳にはいかないって」
「メリーのお母さんにも同じ能力があるけど、そこまで強力じゃないよね」
「そうね。世間一般的な“霊感がある”くらいしかない。境界が霧みたいにうっすら見えたりするくらい」
「あなたはそれがはっきり見えるからね」
「無意識でも良いならば、操作することもできるし」

ここでいう無意識とは、夢の中の事である。

「だから私は、子供を残そうと決心した。だけど私はレズだし、男嫌いだし」
「探したのがゲイか」
「いいえ、先に調べたのが、八雲家」
「なるほど。自分の好みより子供の未来を先に、ね」
「そしたら八雲 圭がヒットした。四年間の経験が無かったら難しかったかもね」

八雲 圭は今代八雲家の次男で、結界術の研究をしている。
先祖代々由緒正しい結界師だが、今はその能力も衰え、まあ結界の資料が沢山ある血筋、と言った感じ。

「長男はもう結婚して、子供がいる。次男は結界と境界の研究に没頭するゲイ」
「次男のダメっぷりがうかがえるわね……」
「でも頭脳派よ? 結界省の研究科に勤めてるから、研究費には困らないし」
「ふうん。ゲイは良いんだけど、紫ちゃんはいいの? 圭は遊んでくれる?」
「あたし、遊びなんかで時間を無駄にしないの!」
「それで圭に相談したの。能力も打ち明けて、協力してほしいって」
「その結果が、この八雲 紫ちゃんか。メリーはどう?」
「どうって、なにが?」
「あなたは幸せかってこと」
「…………蓮子は幸せ?」
「私は、幸せ」
「なんで?」
「だって、宇宙の研究が出来るんだもの。周りも宇宙好きばっかりだし」
「それじゃあ、私も幸せよ」
「説明してほしいな。心配だよ」
「私ね、自分が見えてる物がどんなものか、全く分からなかったの。境界ってなに?」
「さあ、わからない」
「結界ってなに? 説明できる?」
「できない。説は色々あるけど、明らかになってないし、第一、使える人がもういないし」
「それを調べられるの。きっと、あなたと同じ。研究が出来るから、幸せよ」
「……、それじゃあさ、なんか生活してる中で不便してない?」
「まったく。毎日境界の資料が読めて快適ね。家事はお手伝いさんがやっちゃうし」
「へえ、お手伝いさんって何人いるの?」
「5人くらいかな? 全員男よ」
「Oh…」

メリーがアイスコーヒーを飲む。
そして「次は紫の話ね」と言った。

「紫は生まれつき知能の発達が早くてね。来年蓮子の大学に入るからよろしく」
「え? 紫ちゃん今いくつ?」
「八歳! 八歳と四か月!」
「八歳で大学生? 試験はどうだった?」
「うーん、問題を作成した教授がロリコンだってことは分かったかなー」
「ああ、問題を作成するのも教授だから、仕方ないね」
「でも良い大学だね。手取り足取り教えたがる教授が作った、良い問題だと思ったよ」
「メリー、この子頭いいね」
「さっきの答えでそれを判断するの!?」
「あ、牛乳おかわりしてもいいー?」
「うん、いいよ。それで最後にね蓮子、私の目的は能力の遺伝だったけれども」
「ああ、やっぱり紫にも能力が?」

そこで、牛乳の入ったピッチャーを持って来たフレンズママである。
と思ったら、なんと空中でそのピッチャーを傾けるではないか。

「え、ちょ」と止める間もなく、ピッチャーから落ちた牛乳は――。
――空中でその流れを途切れさせ、紫の前に置かれているコップに注がれた。
まるで牛乳の流れが空中で切り取られ、コップの上に縫い付けられているかのようだった。

「これが紫の能力。良く分からないけれど、空間を操ってるのかしら?」
「なんだそりゃ、この出入り口ってもっと広げられるの?」
「ああ、まだ直径30センチくらいまでしかムリみたい。紫は“口”って呼んでる」
「対応する二つの口を繋げるって感じかなー」

私は、牛乳を注ぎ終えた“口”を観察する。

何もない空間にファスナーのような切れ目がある。
切れ目の向こう側には、コップが見える。どこでもドアの空間固定型、って感じか。

「なんだか色々と応用できそうね。片方を遠くに離すのは出来る?」
「5メートルくらいまでなら何とかって感じー」
「片方を閉じたら、もう片方は?」
「残ったままだよー」
「引っ張ると痛い?」
「ちょっと蓮子、まあそれくらいにして、さ」
「ああごめんごめん。でも良い子だね。ちょっと礼儀知らずだけど」
「うん。それで生活も慣れてきたし――」

メリーは紫の頭を撫で、肩を抱くようにして言った。

「10年前はごめんね。勝手にいなくなっちゃたりして。
 でも、これで、紫を入れた三人で、10年前の倶楽部の続きをやりましょう」
「部長はだれ?」紫が聞く。
「もちろん、蓮子よ。10年前も同じ」
「私は別に、だれがやってもいいんだけどね。紫ちゃん、やってみる?」
「ちゃんとか宇佐見、子ども扱いしないでくれる? できるわよそれくらい!」
「呼び捨てすんな! あなたなんて永久に紫ちゃんよ!」
「あら、それじゃあ蓮子の許可も出たし、部長は決定ね」

メリーがくすりと笑った。私は呼び捨てにされてムッとしていた。
だけど、これで続きが出来るのだ。結界暴きとその越境を目的とした、ロマンの活動が。

「さあ、新生秘封倶楽部の発足よ!」







蓮メリ、そしてロリ紫の笑い声を聞きながら、私はアメリカン・ロースト・コーヒーを一口。
テーブル席は三つある。蓮子とロリ紫、メリー、そして私である。
身を隠すのは上手く行ったが、しかし、――血の涙を流しながら思った。

ちゅっちゅ成分が少ない、と。
メリー「どう? 幻想郷の暮らしにはもう慣れた?」
紫「うん。この間は博麗の巫女が吸血鬼をやっつけてね」
蓮子「紫ちゃん、いっつも霊夢の話してるよね」

秘封倶楽部破滅ルートが多すぎてそのフラグをつぶすのに必死。
それはそうと、メリーが結婚しようと子供ができようとなんだろうと、秘封倶楽部は不滅です。

5/14 23:43
英文修正。お恥ずかしい限りでございます……。
サラリーマンの居場所を示すため、最後の段に一文追加。
赤ペントラー獲得の為に犠牲になったボム
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コメント



0.1120簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
続きが気になる……
2.100名前が無い程度の能力削除
「では説明せよ」"Now, explain." "And explain." ("Next, explain.")
大学卒業しちゃって、メリー/蓮子が結婚しちゃって、取り残された私はうわぁぁぁ、系の話があまりにもありふれている中、正面きって不幸フラグを叩き割りに来た作品でした。またありそうでなかった紫とメリーの関係にも驚嘆します。これがいったいどうしたら前作、前々作の流れにつながっていくのやら。今後に最大級に期待です。
そしてサラリーマンいないなーと思ってたらまさかの。
3.100小説を読む程度の能力削除
なんだこれw
5.90名前が無い程度の能力削除
最後の最後に登場しておきながらサラリーマンの存在感が異常。これは面白い。
6.70名前が無い程度の能力削除
この秘封民リーマンは幻想郷にまでついてきそうだな
8.80名前が無い程度の能力削除
秘封民は遠くから静かにちゅっちゅを愛でるのが鉄則
三位一体のにゅーちゅっちゅを堪能すりゃいいんだよ!
9.100リペヤー削除
カオスだww
12.100名前が無い程度の能力削除
ああもう素晴らしい
14.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
17.100名前が無い程度の能力削除
小説ってのは仮の世界 IFの世界を見れるのが長所の一つですが
まさに新たな世界を見たような気がします (そういやこういう夫婦ってアメリカに実際にいるんだっけ)将来、このような夫婦がうまれるのでしょうか そしてそれは幸福なのか正しいのか・・
ともあれそれも秘宝故やむなしw
19.100KASA削除
八雲なにがしを抹殺せんとしてJRの駅で京都行きの切符を購入したところ体外受精かつゲイということでとりあえず切符は払い戻しました。駅員さんありがとう。
しかしながら、メリーはどうせ子供作るなら蓮子の遺伝子とかもらって子供作ればいいのに!未来ならそーいう技術あるでしょ!っと憤りを拭えないところではあります。
なので減点して100点!
30.803削除
突然のメタネタやめいw
このシリーズがどこに落ち着くのか楽しみですね。