Coolier - 新生・東方創想話

八雲紫の幻想郷拡張計画

2010/02/05 16:59:34
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中心に大学があるだけの、小さな街。人口も少なく、目立った名産もない。そんな街。
それが近頃、どうも不思議なことが起きている。ふらっと人が居なくなるのだ。居なくなるのは20~30歳位の人で、たまに10代。皆トラブルに巻き込まれた形跡もなく、居なくなる時も出かけたきり帰ってこない、というものが多い。毎日のように迷人の放送が流れ、いよいよ警察も本気で捜査を始めるほどだ。偶然にしては、あまりに数が多すぎる。しかし捜査の検討もつかず、街のおばさん達は現代で起きる神隠し、と昼下がりの話題で盛り上がっている。大学の帰り、そんなことを思い出しながら歩いていると、中学生くらいの奇抜な少女が三人、建物に入っていくのが見えた。今まで気付かなかったが、どうやら喫茶店だったようだ。
「今日はあそこにするか・・・」
授業で出されたレポートを片付けなければいけない。いつも通り下宿先の近くにあるファストフードでも良かったのだが、友人との話題にも上がったことの無い喫茶店を見つけたのならせっかくだから、とドアをくぐる。
「ああ、いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
店員は初老の男性だけで、客もさっきの少女たちと数人程度だった。適当な席に座り、必要な資料や筆記用具を取り出す。
「それでね、お姉様ったら・・・」
少女達の会話が聞こえてくる。目を向けると、一人は金髪に赤い瞳、赤い服の少女。子猫のような目はくるくると表情を変えて楽しそうに話している。話を聞いているのは黒髪、黒とも赤ともつかない瞳、黒い服の子。日本人のようにも見えるが、どこか不気味な妖艶さがある。スタイルはぺったんなのだが。もう一人は・・・帽子を横に置いて机に顎を載せた、薄く水色がかった銀髪に、緑の瞳、服の上は黄色でスカートは緑の少女。話に興味を示すこともなく、たまにオレンジジュースをすすってはくわえたストローで遊んでる。不思議な色の髪の毛だな、染めたのか?と見ていると、ふいにその子と目が合った。
「おわっ・・・」
驚いて小さく声を上げてしまった。。なんでもない、とジェスチャーで取り繕う。ちょうど頼んだコーヒーが運ばれてきたので、ミルクを溶かしながらレポートに向き合う。
「それにしても、紫だっけ?あの人はまだ外を諦めていなかったんだね」
「外に出してあげるから、怪異を起こしてこいだなんて。お姉様が心配していたわ」
「そもそも私達は、外の世界から追い出されてあそこにたどり着いたっていうのにね」
「あら、私のいた国ではまだ吸血鬼は信じられているのよ?」
おおかた何かの物語になぞらえて、夢の世界の話でもしているんだろうと思いながらペンを動かす。
「そういえばこの間の兵隊さんはどうしたんだい?ずいぶんとお気に入りだったみたいだけど」
「彼?こいしと一緒に愛し合ってたのだけど、この間壊れてしまったわ。だから咲夜に頼んで、紅茶とケーキにしてもらったのよ。この世界で最高の恋の味がしたわ!」
「他のところ、わたしの家のエントランスに居るよ?毎日一緒に居たんだけどね、お燐に取られてたら嫌だな」
「はあ、そう・・・」
年頃の女の子の会話にしては物騒だな、と横目で彼女たちを見ると、また不思議な髪の色の子と目があってしまった。
「それにしても、不思議なことってさ、どうやって起こしたらいいの?」
「戦争で皆壊してしまっても、誰も不思議に思わなかったわ」
「こいしが気に入った人間を連れて行く時点で、昔だったら十分騒がれるはずだけどね。どうも本当に私たちの入る
余地が無いみたいだ」
「目に見える物だけを信じているなんてかわいそうだわ。ねえ、ぬえ。目に見えない物こそ素晴らしいのに」
「こっちの人間は、皆一人だよ。一人なのに皆と繋がってる。不思議だよね」
「あら、こいしはさとりお姉様と違って心は読めないんじゃなかったから?」
「んー、お姉ちゃんは考えていることがわかるの。私は、無意識を操れるから、考えてないことがわかるの」
「操れるっていうことは、わかっているっていうことかな。でも本当に、どうやったら私たちを信じてくれることやら。とりあえずこのまま続ける予定ではあるけど」
そういえば、と顔を上げる。今日は平日の昼間だが、なぜ中学生くらいの子がこんなところに居るのだろう。祭日でもないし、長期休暇でもない。周りの客やマスターは気にしていないようだが、この時間に彼女たちは合わない。
「ところで、今度京都に行きたいんだけど、どうだい?二人は」
「もしかして、あの人のお墓に行くのかしら?私はもちろんご一緒させてもらうわ。一人を見つめ続けるのは寂しいけれど、だからこの美しいと言えるもの」
「ありがとう、フランドール。こいしは?」
「いいよ。ねえ?だって親友の願いだもん」
話が噛み合っているのか噛みあっていないのか、なんとも言い難い会話だ。内容もやはり少しおかしい。もしかして、この子達は本当にこの会話をしているのか。そう思うと、とたんに不気味に思えてくる。失踪者が多発しているこの
街で、こういう話題はより恐ろしさを覚える。広げた資料やレポートを片付けて会計を済ませ、店を出ようとすると、何故か、もう一度目が合った。

翌日、大学に行き早々にレポートを提出する。期限はまだ一週間あるのだが、面倒事はすぐに片付けるほうがいい。食堂へ行くと友人が居たので、向かいに座り昨日あった話しをする。今思えば、昨日の子達はたぶん創立記念かなに
かで休みだったのだろう。会話もやはり何かの小説のネタなのだろうし、あのくらいの歳だと自分が吸血鬼だと言い張ったりする子もいる。自分がそうだった。そんなことを話しながら、ロリコンではないが美少女なら多少痛い子でも許せるよな、とくだらない話をする。ふと、視界の隅に赤い服が見えた気がした。
「ん・・・?」
「どうしたんだ?」
「いや、今・・・」
あたりを見回す。まさかここは大学の構内だ。いくらなんでも居るはずが無い、と視線を友人に戻す。
「って、なんで居るんだよ・・・」
「おい、どうしたんだよ、一体」
友人の後ろ、奥の席に、昨日の三人娘が座っていた。購買の菓子パンとペットボトルのジュースを机に置き、そのまま昨日の通りに談笑している。
「いや、さっき話してた・・・なんでこんなところにいるんだ?」
友人が振り返って、三人を見る。
「ああ、お前が言ってたの、あの子たちか。たしかにかわいいな。三人とも相当レベル高いぜ」
「なんで大学にいるんだ。流石に教授とか警備員に止められるだろ。それに二日連続で創立記念日か?」
「なにが不思議なんだ?別に大学に中学生がいてもおかしく無いだろ」
友人は全く不思議に思っていない。それどころか、周りの学生や教授、職員までもがそれを普通として受け止めているようだ。時たま女子が可愛いねなどと声を掛けているが、そこに彼女たちが居ることにはなんの疑問も抱いていない。
「・・・悪い、用事があったわ」
おかしい、ここはおかしい。
「おい、次の講義どうするんだ?」
「サボるわ。できたら代返よろしく」
鞄を持って食堂を出る。まただ。また目が合った。
「一体なんだよ、くそ・・・」
明らかにおかしい。彼女たちは後ろに、背中側にいたハズだ。それがなぜ目が合ったと感じるのだろう。部屋に戻ってPCをつけ、適当なページを眺めて気を紛らわす。しかしどうしても恐怖は拭えず、気がついたら朝になっていた。

友人は来なかった。

連日行方不明者は増え続け、それでもニュースやワイドショーでは報道されない。警察も動いているのかいないのか、もはやわからなくなっている。近所のおばさん達も、最初は怖いわねえ等と言っていたのだが、最近では日常になった行方不明者になんの感慨も抱かないのか、話題にすらなっていないようだ。
まるで世界からこの街だけ切り取られたかのように。世界からこの街が見えていないかのように。そして行く先々で、あの三人の少女を見かける。最近では外に出ることすら恐ろしくなってきていた。しかしどうしても外に出ないといけない。食料だって買わなければいけないのだ。何かが壊れた、自然に不気味を受け入れている街を歩き、近くのスーパーへ向かう。
「ねえ、お兄様」
びくり、と体を震わせる。
「そこのお兄さんだよ。ちょっといい?」
振り向くと、少女達がそこに居た。
「な、なんだ?」
「お兄さん、珍しいね。なんで私の力が効かないのかしら。ぬえの力が効かない人はいたけね、私の力は人間には絶対のはずなのに」
「力って・・・行方不明の事件はやっぱりお前らの仕業なのか!?」
「まあ私たちはオマケに近いけれど。ああ、自己紹介が遅れたね。私は封獣ぬえだよ」
「私はフランドール・スカーレット。よろしくね、お兄様」
「わたしは古明地こいしだよ、一粒の愛で100m走れるの」
オマケに近い、と言っていた。しかしやはりこの事件は、作為的に行われたものだったのか・・・。
「お兄様の名前は?きっと素晴らしい名前なのよね?」
「な、名前?」
「ええ。ぜひ教えて欲しいわ」
「・・・×××××」
「いい名前じゃないか。さて、どうしてお兄さんはこの世界を受け入れられないか、だけど」
「スキマ妖怪にも誤算があったんだね。無意識すら操れない人間がいたなんて」
「あら、その人はむしろ嬉しい誤算ですわ」
どこからか声が聞こえてくる。
「あら、紫おばさま。いらっしゃったの?」
フランドールが声を上げると、空間に亀裂が入り中から長い金髪の女性がでてきた。今までは見た目で何かがあったわけではないが、目の前で怪異が起こるともはや何も言えなくなる。
「フラン、ゆかりお姉様と呼びなさいと言っているでしょう?」
「貴女は年齢不明すぎるんですよ。で、嬉しい誤算って?」
「彼は心の底、それこそこいしの言う無意識の領域から、怪異や幻想がこの世界に有る、と信じているの。本人は気づいて無いみたいだけどね。というか、本当は無いだろうと諦めている。」
「それならすぐにこの世界に順応しそうなものだけど?」
「いいえ、その逆。例えば色盲の患者が、自分のみている赤は青だということを知っているとしましょう。その人に本当に赤い色を見せて、それが赤にきちんと見えた時それを信じることができる?」
「できないでしょうね。でも例えが分かりづらすぎる。彼は理解していないようですよ?」
「しなくてもかまわないわ。ところで貴女達、もうこの街では何も隠さなくても大丈夫よ」
「そっかー。よかった」
こいしは嬉しそうに、ぬえはやれやれと言った感じで、フランは伸びをするかのように各々の本質を表す。青い管が伸びる、閉じた目。異形のオブジェのような、左右非対称の翼。宝石が実った木のような、きらめく羽。
「お前らなんの話をしているんだ!?それに、その・・・」
「もっと感動してよ。お兄さん。お兄さんが恋焦がれた、幻想の住人だよ?無意識が早く出してって、叫んでる」
「お兄様はずっと私達に恋をしていたのね?ならこれは運命の出会いだわ!私も会いたかった。お姉様にも会わせてあげるわ。きっと喜ぶと思うの」
「お兄さんは結局、こちらの世界では狂人だったわけか。ならこいし、はやく楽にしてあげたらどうだい?」
「いえ。彼は本当の意味で幻想の住人になって貰いましょう。貴方なら、上手くやれば私たちと同じにすらなれるかもしれないわよ。普通のこちら側の人間を幻想にしても、里の人口が増えるだけだもの。貴方みたいな素材はめったに手に入らないわ」
「勝手に話を勧めるな!説明しろよ!」
話にまったくついて行けない。そして説明する気など完全に無いようで、ふたたび訳の分からないことを言い始める。
「お兄様、私の館に来ない?お兄様と同じ人間も居るわよ。たまに泥棒が入るけど、そういえば彼女も人間だったわ」
「わたしのペットなんてどうかな?灼熱地獄でのんびり温泉にでも入ろうよ。にぎやかで楽しいよ。ねえ?」
「命蓮寺できちんと修行を積んだらどうかな。まあ私はあまりオススメしないけどね」
「さて、心の準備はいいかしら。まあできてなくても送るけれどね。案ずるより産むが易し。鶏も卵も結局は同じものだもの。鶏は卵しか産めないし、卵は鶏にしかなれないわ。まあ目玉焼きにしちゃってもいいのだけど。また幻想郷で。未来のお仲間さん」
「おい、まだ何も聞いて・・・!!!」




「紫様、このような事、本当にしてよかったのですか?」
「あら藍。なんの事?」
「外の街の常識を少しずつ崩していって、まるごと幻想にしたことですよ」
「仕方ないじゃない。里はある程度管理しないと人間が滅びてしまうし、せっかくだから近代風の街も少しは欲しいじゃない」
「そんな理由で、ですか・・・。影響は大きいと思われますよ。なんせ街が一個無くなるのですから」
「別に土地ごと持ってきているわけでは無いから大丈夫よ。それに、どうせ外の世界の人間は勝手に理由をつけてしまうわ。お得意の「科学」でね」
「はあ・・・」
「少し前までよくあったじゃない。村人が全員失踪とか。だから何も不思議じゃないわ」
「他の賢者達には話したのですか?」
「あら、やだわ。それが藍の仕事じゃない」
「・・・は?申し訳ありません、もう一度お願いします」
「藍は歳かしら?だから、今から藍が行って説得してくるの。事後承諾ってやつね」
「・・・・」
はじめまして、凍花と申します。まず舞台は現代で、主人公というか視点は「あなた」としていただけたら嬉しいです。東方ベースというより、現代ベースの東方ホラーと言いますか、東方成分は30%くらいしかありません。そのため完全に東方ベースでないと受け入れられない方や、これは東方じゃねえ!と叫ぶ方は読まない方がいいです。ごめんなさい。
また作中で一人書かれない登場人物が居ますが、それは「EX三人娘」の1stスレに出来心で投稿した時の人です。知らなくても問題ありません。
最後に、読んでも読まれなくても、この作品に興味を持ってくれた方にお礼を。ありがとうございます。
凍花
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コメント



0.710簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
妹樣が紅茶にした人間の話をしてる所で…よくや古いアニメや映画で女の子がやる、左右の手の指を組んで1つの握り拳を作るやつ…アレを想像してしまった。もしくは胸の前で手を組んでいらっしゃるのかしら。
まぁともかく面白かったですよ。
8.80名前が無い程度の能力削除
あとがきは、冒頭で説明して欲しかったかなと。
ありそうで無い、そんな感覚で読んでました。

ただ、なにか足りない気がしてならない。
面白かったですよ。

コメ下手ですみません。
11.80名前が無い程度の能力削除
三人娘はほのぼのが多いので、偶にはこういった作風も良いですね。
所々文章に荒削りな所が見受けられるのが少し残念でしたが、それを差し引いても面白いお話でした。
個人的にはまた読まさせていただきたいので、次回に期待しております。
15.60名前が無い程度の能力削除
ふむ……なかなか。
荒は見直せばいいので度外視として。
発想、目のつけどこ、キャラ…どれもいい感じでした。
16.90名前が無い程度の能力削除
「一粒の愛で100m走れるの」がツボった。なんというグ〇コ…
17.90名前が無い程度の能力削除
主人公がキョ〇みたい
シリアス三人娘もなかなかいいですね~
面白かったです
18.70名前が無い程度の能力削除
これは面白い。けど確かに少し荒いかな。口調とか、ちょっとした矛盾とか。
誤字も見直したらいいのでは。
あと、あとがきのは文章の前に注意書きとして置いても構わないと思いますよ。
19.80名前が無い程度の能力削除
これは……面白い。
続編があるならば期待大です。
出来れば現代側にも幻想郷側に一矢報いる展開があったりして欲しいですね。
21.無評価名前が無い程度の能力削除
外の街の常識を少しずつ崩していって、まるごと幻想にする・・・
実際は出来ないんだろうがな。たかが一妖怪が人間の常識を崩すなんて無謀すぎるwww
22.80名前が無い程度の能力削除
なかなか面白い着想
24.70ずわいがに削除
なかなかダークな感じじゃあないですか。嫌いじゃないですね。