昔々、大陸のほうに九尾の尾を持つ狐がおった
その狐は絶世の美女の姿をし、時の権力者たちを惑わし
豪勢な生活と悪行三昧の限りを尽くしていたそうじゃ
じゃがそんな暮らしも長くは続かず、いつしか日本へと渡ることとなった
そしてまた同じ事を繰り返していたのじゃが、正体を見破られて退治されてしもうた
退治された狐は毒石へと姿を変え、死してもなお―――。
「死んで・・・・・・たまるか・・・・・・」
どこかの山中の奥深くで、一匹の狐が倒れていた
「人間風情に・・・この私が、九尾の狐であるこの私が・・・・・・」
体のあちこちは無残に焼け焦げ、その尻尾はすでに一本しか残っていなかった
「・・・死ぬのか・・・こんな、こんな所で・・・」
力が抜け、瞼がゆっくりと閉じてゆく
「・・・・・・・・・・・・」
「わーい、ふかふかー!」
「・・・・・・ん」
妙な尻尾の感触に、閉じかけていた瞼が開いた
「千切っちゃおーっと」
横目で後ろを覗くと一人の少女が尻尾をぎゅっと掴んでいた
「まて・・・千切るな」
「わ!? 生きてた!」
少女は驚き、飛びのく
「・・・・・・ふん、せめて私が死んでから・・・千切るんだな」
そう言い放つと、またゆっくりと、瞼を閉じてゆく
「死にたいの?」
少女が近づき、耳元でつぶやいた
「・・・・・・死にたく・・・ない」
狐は最後の力を振り絞って、そう言い残した
「そう・・・じゃあ―――」
「ん・・・・・・眩しい・・・・・・」
降り注ぐ太陽の光に、しぶしぶ目を開ける
「・・・私は・・・生きているのか?」
ふと体に違和感を感じる、いつの間にか私は人の姿をしていた
「これは・・・一体なにが・・・?」
そのまま上体を起こすと、一本だけ残っていた尻尾にまた妙な感触が走った
「クー・・・スー・・・ムニャ・・・」
見ると、あの少女が私の尻尾を枕代わりに寝ていたではないか
「この小娘は・・・」
結局あれから何があったのか、こいつが何かしたのか?
「ま、久々の食事には丁度いいな…」
しゃきっと爪を立て、ゆっくりと小娘の首へと近づける
「いただきます・・・と」
そしてちょこんと爪が触れる、その瞬間
バリバリバリバリッ!
「あばぎゃっ!」
いきなり体に雷が走り、みょんな悲鳴が上がる
「ぎょぴっ!」
・・・私の尻尾を枕代わりにしていたせいか、小娘も雷をくらったようだ
「こ・・・小娘・・・私に一体何をしたぁ・・・!」
「えうー・・・あひぃー・・・」
前のめりに地に伏した体を起こすと、右手で小娘の頭をわしづかみにし、引き寄せる
「言え、言わないとこの頭を握りつぶすぞ」
そのまま軽く痛みが走る程度にぐっと右手に力を込める
バリバリバリバリッ!
「みぎゃーっ!」
「あきゃっ!」
「式にしちゃいました!」
少女が満面の笑みで答える
「そうか・・・・・・え?」
狐は一瞬、何か不可解な顔をした
「(今、こいつはなんと言った?式だと、式?式、式式式・・・)」
「どうしたの?」
なにかぶつぶつ言っている狐を少女が覗き込む
「この私を・・・式にしただとおっ!」
「うひゃあっ!」
怒りのあまり、目の前の少女を押し倒し、爪を少女の顔めがけて振り下ろす
「はぎゃっ!」
「ぴぎっ!」
「おのれ・・・小娘ぇ・・・!」
「うう・・・電撃にするんじゃなかった~・・・」
どうやら主に危害を加えようとすると決められた罰が与えられるらしい
そしてさっきより強力な雷だったせいか、二人ともプスプスと地面に転がっていた
「くそっ、覚えていろ、この屈辱は忘れないからな!」
狐はさっと起き上がり、少女に背を向けて去っていく
「ちょっと、どこいくの! 私の式なんだからー!」
少女が叫ぶが、意に介さずに森の中へと姿を消していった
「ふん・・・あんな小娘相手にしていられるか・・・」
草が生い茂った森の中を早足でかけてゆく
「人間め、力を蓄えなおして、今度こそ葬り去ってくれんがっ?!」
突然、首が後ろへ引っ張られた
「う・・・なんだ?」
体を左右に動かすが、頭だけが固定されて動かない
「む?」
頭に手をやると、なにやら布の感触がした
「・・・頭巾? ・・・・・・小娘め、一体なぎゃっ!」
途端、その頭巾に引っ張られる
「ちょ、わわわわ!」
ゴスッ!ドガッ!バキバキッ!
何度も木に激突し、枝を折り、地面を引きずられ、そして止まった先には先ほどの少女が立っていた
「おかえり~♪」
「こ・・・小娘ぇぇぇ・・・・・・」
またもや全身ボロボロになった狐が殺気に満ちた目で少女を見上げる
「殺す!いつか絶対殺してやる!」
「えへへ、よろしくね♪」
その目と威圧を意にも介さず、少女は尻尾に抱きついた
「絶対殺してやるからなぁぁぁっ!」
山中奥深くに、かつて九尾の狐として大陸中で恐れられた妖怪の叫び声が木霊した
「で、小娘、私を式にして一体どうするつもりだ」
「小娘じゃないよ、八雲 紫、これでも立派な妖怪よ!」
「・・・貴様なんか小娘で十分だ!」
「・・・・・・えい」
バリバリバリバリッ!
「・・・・・・・・・・・・おのれぇ」
「紫様ってよんでね♪」
「ふ、ふざけるな!誰が貴様なんかを!」
「えいっ」
「あびゃぎゃぎゃぎゃっ!」
~妖狐悶絶中~
「わかりました、わかりましたよ紫様、これでいいんだろ! だから雷はやめてっ!」
「うんうん、それでいいのよ、ああ、それで貴方の名前だけど・・・」
「・・・私の名前?」
「うん、貴方の名前は・・・藍! これで決まりね!」
「・・・・・・・・・・・・」
「何よその嫌そうな顔~・・・えいっ」
「あぎゃぱぱっ!」
「ねー、ご飯まーだー?」
「うるさいな! 料理なんかしたことも無いんだ! もう少し待て!」
「・・・ただの人の丸焼きじゃない」
「黙って食え! 嫌なら自分で作れ!」
「ぷーっ、藍の料理下手ー!」
「なんだと! この小・・・紫様めがー!」
「・・・・・・・・・今、小娘って言おうとしたよね?」
「え、さて、なんのことかな」
「隙間に閉じ込めてやるー!」
「な、なにをするー!」
「藍の尻尾はふかふか枕~♪ あ、尻尾が二本に増えてるー!」
「・・・ふん(力を全部取り戻せばこんな小娘などに・・・)」
「ん~・・・ふっかふか・・・藍、おやすみ~・・・」
「・・・ふ、ふん!(今ぐらいは私の尻尾で暖かくして風邪を引かないように眠るがいいさ!)」
「ん~、藍にもう少しで背が追いつく~」
「ふん、式になっていなければ私の背はもっと高いし、もっと美人だ」
「えー・・・・・・?」
「な、なんだその目は! 時の権力者達をたぶらかしていた昔の私を知らないな!?」
「たぶらかしてても所詮今は私の式よ~♪」
「むきー!」
「きゃー、藍が怒ったー!」
「藍ー、お腹が痛い~・・・」
「紫様、あれほど人間を生で食べるなと・・・何度言わせれば気が済むんだっ!」
「だって~、藍が変に調理するから生で食べたほうがおいしいんだもん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまん」
「え? 今何か言・・・あいたたたた!」
「ほら、静かに寝てろ!」
「う~ん・・・」
「えへへー、ついに藍より背が高くなったわ~!」
「・・・・・・ふん」
「あ、藍がすねてるー」
「す、すねてなどいないぞ!」
「んもぅ、お母さんったらー」
「んぶぅっ!? だ、誰がお母さんだっ!」
「うふふふ、冗談よ冗談」
「まったく・・・・・・ふん!」
「まったく、幸せそうな顔で寝ているな・・・」
「・・・・・・ムニャ」
「ふん、私を散々こきつかっておいて自分だけ毎日のんびりと・・・まったく、手間のかかる」
「・・・藍・・・・・・ありが・・・と・・・・・・スー・・・」
「・・・・・・・・・ふん」
「・・・ケホッ!ケホッ!」
「まったくもう・・・藍が風邪引いてどうするのよ」
「真冬に湖に飛び込ませて魚を取ってこさせたどこかの式の主が言えた言葉かっ!」
「もう、悪かったって言ってるじゃない、ほら、おかゆよ」
「まったく・・・・・・・・・まずっ! な、なんだこれは!」
「え、おかゆ・・・」
「こんな黄土色したおかゆが・・・コホッ!ケホッ!」
「えー? おかしいなぁ」
「ここは白玉楼、死者たちの住まう処、たとえ妖怪といえども通すわけにはいかぬ」
「妖忌・・・やはり、私のことは覚えていないのね・・・藍、彼の相手をお願い」
「・・・・・・ああ」
「ここは通さぬといったはずだ! 未来永劫斬っ!」
「紫様の邪魔はさせん! 十二神将の宴!」
「紫様、まーた幽々子様と飲んできましたね」
「うふふ~・・・幽々子ったらお酒つよい~・・・」
「あれほどあの暴食魔人と飲み比べはやめてくださいと」
「んー、藍~・・・ふかふかー・・・」
「はぁ、まったくもう・・・大きくなっても何も変わってないな・・・」
「ねぇ、藍」
「どうしました、紫様?」
「藍、貴方はいつまで私と一緒にいてくれる?」
「どうしたんですか、急にそんなこと」
「・・・ううん、なんでもないわ、おやすみ、藍」
「紫様・・・おやすみなさいませ」
「・・・今更、離れるわけが無いじゃないですか」
「これが、博麗大結界・・・」
「ええ、外の世界と幻想郷とを分かつ壁」
「もう外の世界に私たちが存在できる場所は・・・無いんですね」
「・・・そうね」
「・・・・・・帰りましょう、そろそろ夕食の時間です」
「あら、今日の晩御飯は何かしら?」
「黄土色のおかゆの予定です」
「ねえ、藍、ずっと前から聞き――「藍様っ!」
「・・・・・・ん?あ、あぁ・・・橙か」
「藍様がお昼寝なんてめずらしいですね」
「そう・・・だな、懐かしい夢を見てたよ」
「へぇー・・・あ、藍様、今日の昼食は私が作ったよー!」
「ああ、もうそんな時間だったのか、手間をかけさせてすまないな、橙」
「えへへー♪」
「よし、それじゃ橙のおいしいご飯をいただくとしようか」
「うん!」
「ねえ、藍、ずっと前から聞きたいことがあったの」
「何ですか、紫様?」
「今の貴方なら、式を解くことも、私を――」
「紫様、今更貴方を一人にしたら心配で夜も眠れませんよ」
「藍、でも・・・」
「寂しがりやでぐーたらで、料理は下手だし、寝るとすぐに布団をどっかにやるし
枕はよだれでだらだらにするわ、酒飲んで酔いつぶれるわ、そのまま風邪を引くわ
しかも無駄に大食いだし、足はくさいし、こんなのをほっておいたら百害あって・・・・・・ハッ!」
「・・・・・・・・・えいっ」
「あぎゃぱぱぱぱっ!」
ほのぼのしました..
って言うか何この無邪気少女……
若いときの紫と九尾藍を見てみたい。やっぱり昔の藍はこうでなくちゃ。
で、実際の年齢(弾幕結界チャーミング
暖かいお話でした。
根に持ってたのか?w