「食べ放題専門焼肉店“モーモー羊頭狗肉”ただいま開店ですよぉぉぉぉぉ!!」
八雲フーズの経営する焼肉店第一号店がいま、開店した。
1時間50円で食べ放題という格安の広告が功を奏したのか、開店と同時に幻想郷の面々が押し寄せた。
「にくぅぅぅぅぅぅぁあああああ!!」
「肉肉肉肉!! ヒャハーーー!!」
阿鼻叫喚の図で飛び込む面々からは既に料金を前払いしてもらっており、彼女ら任務は食って寝るだけだった。
行列時に渡されたサービスの飴玉を舐めているうち、彼女達の理性はふっとび、思考回路の95%は肉という単語で埋められていた。
(さすが幻想郷最速、私に敵う奴はいないぜっ!)
開店と同時、行列の先頭陣を追い抜き真っ先に入店した者がいた。
My焼肉だれを持参した魔理沙である。
彼女は店の中央、ドリンクバーと厨房に最も近いベスト・ポジション席にムーンサルトしつつ滑り込む。
「さすが最速!」
席に着くと同時、割り箸を片手で割る。
「元、ですけどね」
「!?」
魔理沙がたれを備え付けの皿へと垂らした時、その存在に初めて気づいた。
「さすがまりにゃさもぐもぐん、早もぐもぐれすね」
既に、焼いていた!
魔理沙の目の前、射命丸文は魔理沙が席に着くより早く、彼女の座るであろう席を予測し、占領。
さらに肉を焼いて半生のまま既に食べ始めていたのだ!
その両頬はまるでリスのように膨らみ、冬でも越すんですか? とでも言わんばかりである。
「私の肉がぁぁぁぁぁ!!」
「追加でございます」
「私の肉だぁぁぁぁぁ!!」
藍と書かれたネームプレートを胸にした従業員がすかさず、追加の肉片を持ってくる。
魔理沙はすかさず皿を引ったくり、トングでもって網へと並べる。
五枚目を並べた時、異変に気づいた。
「肉が……増えない!」
試しに1枚置く。
シュッ。
もう2枚。
シュシュッ!
風を切るような音と共に肉が消えた。
「まりははん、ひょっほはひひひ」
文の頬がぱっつんぱっつんだった。
「お前かぁぁぁぁ!!」
文が筆を取り出し、さらさらと何かを書き、差し出す。
「なになに……」
『幻想郷最速は肉の焼き時間もまた、最速なのであった☆』
「えーい☆」
「うぼらぁぁぁはぁ!!」
魔理沙に両手で頬をパッチンされた文は口の内容物を盛大に噴出した。
───────────
「えっと、三名様ですね、こちらへどーぞー」
橙が新たな客を席に案内する。
「てかここ、従業員二人しかいないっぽくない?」
「まさか、さすがにそんなことないでしょう」
「ほら早苗、諏訪子、さっさと焼くわよ」
「お肉でございます」
「「わーい」」
藍が肉の盛られたプレートを持ってくる。
「ありがとう、ところでこれ、どこの部位かしら?」
「牛でいうとカルビですね」
「え?」
「あっ」
「あなたこれ……」
「モーモーカルビがどうかしましたか?」
「牛じゃな「いらしゃっせぇぇぇぇぇ!!」
新たな入店に対応すべく、藍は走る。
残された赤い血滴る肉塊を囲み、お互いを見つめあった後、一同は店を後にした。
「やっぱ神奈子様のお粥は最高ですね!」
「だしょー?」
「もう焼肉なんて食べないよ!」
───────────
「お次にお待ちのお客様どうぞー」
行列の最後尾、サングラスにマスクといった不審な姿の客はそろそろと入店を開始した。
(ふふ、完璧…………パーフェクトゥな変装ね)
(おい、あれ咲夜さんじゃね)
(咲夜さんですね)
(咲夜さん何やってんだろ)
(制服の橙かわいい)
普段の疲れを癒すべく、たまにはパーっとしたかった。
しかし時間を止めながらの休憩は精神的に疲れ、本当の意味での休息にならない。
しかも紅魔館の中では気が抜けない。かといって紅魔館の従者が外でふしだらな格好をするなど言語道断である。
そこで今日は一日休暇をもらい、お忍びで遊びに来たのである。
「さぁ、食べるわ…………よ゙」
トングを掴んだ時、玄関で最も見てはいけない客の姿を見てしまった。
「なんか……咲夜に悪いわね」
「レミィ、そろそろ諦めなさい。 今日は開店セールで安いのよ」
「ねぇ美鈴、やきにくって何?」
「戦争です」
「間違ってませんけど……」
(大丈夫、こんな時のために一番奥の席をとったのよ、kool、koolになれ十六夜咲夜)
「ただ今満席のためこちら相席となりますがよろしいでしょうか?」
「おうふ」
こういう場合、店員はよろしいかと聞きつつ、NOとは言えない雰囲気なのである。
YESしか残ってないなら聞くなよ! って感じなのだが、それが日本のチェーン店クオリティ……
てかなんで焼肉店で相席だっ……仕事しろ店長……!!
「ご一緒させてもらうわよ」
「え、えぇどうぞ(裏声)」
【図解】
壁
┌─────
壁│咲美小 <逃げられねぇ!
│机肉机
│妹姉パ
│
(落ち着くのよ、こんな時こそ平静に……そう、お肉を食べましょう)
「あ、そこの人、それ焼けてますよ」
美鈴に指摘された肉を裏返すと、確かにいい塩梅であった。
「あ、どうも(裏声)」
肉を掴み、たれを浸け、いざ口に。
べちょ。
「…………」
「あの、マスク外さないと食べられないと思うんですが」
「おうふ」
なんてこと……っ!
完璧で瀟洒で綺麗なメイドのこの私がっ!
しかし、マスクを取るとバレてしまう。
どうすればっ!
「時よ止まれ!!」
マスク発射!
肉を口に放り込み、咀嚼。
「美味しい!」
マスク装着!
そして時は動き出す…………
「あれ?」
「美鈴、そっちのお肉裏返してくれるかしら」
「気のせいか……はぁい」
「ハァハァ……」
なんてことだ、こんなことをしていては埒が明かない。
……そうだ。
「時よ止まれぇぇぁぁ!!」
フルパワーで時間を止める。
これでもう、今日は止められないだろう。
「これでゆっくりお肉が焼けるわね」
トングで肉を掴み、網に乗せる。
乗せる。
乗せる。
待つ。
乗せる。
待つ。
「…………」
しかし、時間が止まっているから肉は焼けなかった!!
「なんて……こと」
完璧で瀟洒で綺麗な若々しいメイドのこの私がっ!
咲夜は失望の余りよろめいた。
横の美鈴のおっぱいまくらが気持ちよかった。
その瞬間、咲夜の脳内の奉仕力が暴走し、メイドとしての本能が爆発した。
もはや、肉などどうでもよい、奉仕こそが私の生きる道なのだから……
「おっぱい!」
そして時は動き出す…………
「おぜう様! そんなにこぼして……ほら、口を拭いますよ」
「あなたっ、咲夜だったの!」
「美鈴、鶏肉はよく焼かないと駄目よ」
「えっ? 咲夜さん?」
「肉食べるのに夢中で気づきませんでしたよ」
「ねー」
「ほらほら妹様、前掛けをしないと……あぁっ、そのお肉は大きいですわ、切って差し上げます」
面々が驚く中、パチュリーだけはニヤニヤして野菜を食べ続けた。
「ゼンゼンキヅカナカッタワー」
「ねー咲夜、いつもの一発芸やってよー!」
「え、妹様、しかしあれは……」
「やってよー!」
「ええいままよっ!」
壁
┌─────
壁│ 美小 咲<影ながら紅魔館の平穏を支え続ける女、スパイダー咲夜!!
│机肉机
│妹姉パ <アッハッハー
│
紅魔館組は今日も平和です。
───────────
「…………」
「…………」
向かい合う二人、名は妹紅、輝夜。
「いくわよ」
「あぁ」
網を囲んで睨み合った二人の時間は、輝夜の手のトングによって動き出す。
「リバースミートオープン! 霜降り4のモーモーロースを召喚!!」
「甘いな輝夜! この甘ダレより甘い! 私のトラップベジタブル発動! 生焼けピーマン!!」
「青臭っ、青臭ぁっ!!」
「さらにトウモロコシを一粒一粒丁寧に抜き出し、コーンサラダを作ったぜえええええええ!!」
「美味しいわ!」
「ありがとう!」
「だが死ねぇい!!」
「そ、それは……生焼け椎茸!! もぐもぐ……ぐはぁ!」
※椎茸を生で食べるのはやめましょう
「いやぁ、すみませんうちの輝夜が」
「いえいえ、もこたんは不死身ですから」
「ささ、お酒でもどうぞ」
「やや、これはこれは……おっとっと」
保護者二名と連れ二名が盛り上がってる最中、隣で肉の苦手な二人はもそもそとニンジンを齧っていた。
「ねぇ鈴仙」
「んー? あ、ニンジン後50人前追加で」
てゐの目がキラーンと光る。
「厨房に遊びにいこーや」
「え、えぇー……」
「だーいじょーぶだって」
「何か嫌な予感しかしないのよね……」
二人はドリンクバーに行くふりをして席を立ち、その足で厨房へと向かう。
「……何か聞こえない?」
「はぁ、弱虫にもほどがあると思うよ」
「……いや、そういうのじゃなくて」
「────!! ────!!」
「……何あれ」
「……ね?」
奥に近づくにつれ、ビシッ、ビシッと鞭で打つような破裂音が大きくなる。
さらに奥へと歩を進めると、何やら人と、動物のようなものの叫び声が聞こえてきた。
そして二人は解放厳禁と書かれたドアの少し開かれたスキマからその光景を目撃する。
「…………」
「…………」
紫のボンテージを着た金髪の女王様が牛のようなものを滅多打ちにしていた。
「この卑しい家畜め!! 動物め!!動物め!!」
「アニモー!!英語だとアニモー!!」
「…………」
「…………」
「あら、おかえりなさい。 遅かったわね」
「…………」
「…………」
「?」
「まぁまぁ、永琳先生も一杯」
「あら、どうも」
「ニンジンうめぇ……」
「うめぇ……」
───────────
藍が玄関に駈けつけた時、橙が誰かと話していた。
「店長呼びなさい店長を!」
「ですから、困りますぅ……」
「どうしたの、橙」
「あ、藍様ぁ」
「ん、誰かと思えばどこぞの巫女か」
「何がミーコだミート寄越せこらぁぁ!!」
「なんなのこれ……」
「それが、何か排気孔の前で御飯片手に居座ってて、他のお客様から苦情が……」
「あぁ、この焼肉の炭火の匂い、これだけで御飯三杯はいけるわ」
「50円くらい払え」
「そんな大金があるか!」
「あの……50円なら私があげますから……居座らないで下さい」
「橙様!!」
「橙、いいのよ出さなくて」
「このド腐れ狐がっ!」
「私が払うから」
「藍様!!」
(面白い……)
「その代わり、ちょっと厨房で働いてもらうよ」
「それくらいなら、お安い御用よ!」
「ですって、紫様」
「霊夢ゲットォォォ!!」
「え、ちょ……」
霊夢の断末魔が聞こえるより早く、スキマは閉じた。
「さぁ……仕事に戻ろうか」
「はい」
「私達はようやく登りはじめたばかりだからな。
このはてしなく遠い焼肉坂をよ……」
未完!!
なんという車田オチ。
もはや笑うしかないではありませんか。
しかし読んだ後にこれほど焼肉を食べたいと思わせない焼肉ネタは初めてだ……
言われてみればその通りだったので削除しました
迂闊でした
そしてこの疾走感!焼き肉食った後のコテコテした口の中みたいな満足感がありました。
おもしろかった!!
未完だ・・と・・?
続編期待!!!
飯三杯用意するんだったら50円払ったほうが安いだろww