コネチカット州に住むトム・テレンシーさんは近所でも有名な農家であり、大の牛乳好きとして知られていた。自家用のヘリで牛乳を撒きながら、朝一でとれた絞りたての農薬を飲む。
それが彼の日課だった。
東風谷早苗は毎朝、ラジオ体操を欠かさない。一年の計は元旦にありという言葉を守るかのように、一日たりとて休んだ日はなかった。
そんな二日に一回のラジオ体操。当初はありのままのラジオ体操で満足していたが、さすがに同じものばかりだと飽きる。そこで早苗は独自の手法を混ぜ込み、斬新さと奇抜さを全面に押しだした早苗体操を完成させたのだ。
守矢神社の境内で、毎朝早苗は早苗体操を披露している。その神々しさたるや神に匹敵し、現人神から見の字が抜けて王人神という何だか分からないがやたらと凄そうなものに変化するのではないかと専らの噂だ。
冷たく気持ちいい朝の風を肌に感じながら、抱き起こされた仲間に向かって俺に構わず先に行けという動作を繰り返す。
「今日も朝から頑張るね」
半ば呆れたようにそう言うのは、八坂神奈子。言わずと知れた守矢神社の神様であり、ベストジーニストから選考漏れしたことで有名だ。
「はい。私、元気と頭脳と美しさだけが取り柄ですから」
「それだけありゃ、だけって事は無いと思うけど。まぁ、いいや。それより早苗、そろそろ朝ご飯にしようよ」
体操に夢中で気付かなかったが、時刻はもう七時を越えている。朝食をとるには、些か遅いぐらいだ。
早苗は体操もほどほどに切り上げ、早速朝食の支度にかかる。といっても、大したことではない。ご飯をよそい、味噌汁をつくって、魚を焼くだけ。後はたまに卵焼きを作るぐらいで、朝食にはあまり凝ったものを出さない。
別に何か拘りがあってのことではない。単に朝からあまり凝りすぎると、夜が大変だということだ。肩だけに。
ちゃぶ台の上に朝食を並べていく。
「早苗、なんでお椀が三つあるの?」
「あっ……」
無意識の行動に、言葉を詰まらせる。もう必要ないのに、どうして並べてしまったのだろう。
「諏訪子様は、もういないんでしたね……」
ここで諏訪子が何気ない顔で出てくれば、単なるギャグで終わった。私を勝手に殺すなっての、などと諏訪子が怒り、早苗達が笑う。そういう展開で終わることが出来たのに、現実というのはかくも非情なものである。
神奈子は無表情を装っていたが、早苗には分かった。内心では色々と無理をしていることを。
なにせ、付き合いは早苗よりも長いのだ。失って辛いのは、間違いなく神奈子の方。
なのに、どうして思い出させるような真似をしたのか。これではまるで、神奈子を責めているかのように思える。
沈黙に包まれる食卓。
その静寂を打ち破ったのは、思いがけない人物だった。
「うう、おはよう」
「あ、おはようございます諏訪子様」
「昨日飲み過ぎてさあ、なんか二日酔いが酷い」
「馬鹿だねえ。私みたいに適度なところで止めりゃ良かったんだよ」
そうして、ようやく食卓に三人が揃った。
思いの思いのペースで箸を動かし、朝食がみるみるうちに消えてなくなる。
「そういや早苗、今日も布教しに行くの? 早苗体操」
「勿論です。巫女ですから」
「いや、巫女にはもっとすべきことが私は思うよ。ねえ、神奈子」
「そうそう。例えばさ、早苗の住んでる神社には神様がいるじゃない」
言うまでもなく、神奈子たちのことだ。
「たまにはさ、その神様達について教えてまわるのはどうだろう」
「そっちなら大丈夫ですよ。守矢の神様を崇めませんかって無差別に手紙をばらまいておきましたから」
むしろ逆効果である。
当然のことながら、その日以降信仰は激減した。
「それよりも私は、早苗体操を広めたい! これが幻想郷のみならず外の世界にも広まれば、いずれ早苗体操が国民の体操になるんです!」
力強く拳を握る早苗。手の中のご飯がノリのように圧縮されている。
「早苗体操は美容健康にも良いんですよ。例えばほら、怒りのあまりにちゃぶ台をひっくり返す運動」
いまだ朝食が鎮座するちゃぶ台に手をかけたところで、二柱の神様が全力を出した。両手を取り押さえられては、さしもの早苗も何も出来ない。
「やめてくださいお二人とも! 私にそんな趣味はありません!」
「私だって無いよ。だけどね、せっかくの朝食を無駄にしようとした奴がいたんだ。止めるのは当たり前だろ」
「何ですって! 私が作った朝食を無駄に!? 誰ですか、そんな不届き者は。ぶん殴ってやります」
自虐趣味も此処に極まりといった感じだ。
「とりあえず、迷惑のかからない範囲で布教しとくれよ」
「だね。それさえ守ってくれるのなら、私達は何も言わないよ」
真摯な神様の言葉に、早苗は深く頷く。
もっとも、何で取り押さえられているのかはいまだに分かっていない。
「安心してください。私だって巫女の端くれ。お二人に迷惑がかかるようなこと、するわけがないじゃないですか!」
そう言って早苗が出て行った後のこと。人間の里で、巫女を押さえつけて嗜虐的な笑みを浮かべる神様二柱という動きが流行った。
などと終わっては、あまりにも神様が不憫。すっかり引きこもってしまった神様を救うべく、早苗は立ち上がった。だがあまりにも勢いよく立ち上がってしまった為に、うっかり大気圏を突破してしまう。
ミラクル的に帰ってきた頃、事態はまったく解決していないことに気がついた。
「八坂様、諏訪子様。いい加減、機嫌を直して出てきてくださいよ」
「神様だって拗ねる権利はあるはずだ!」
「あーうー」
四六時中、この有様だ。何が悪かったのか。
いまだに早苗は理解していなかった。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。神様のいない神社など、パイナップルが入っていない酢豚のようなもの。案外、いらない人は多いけれどそういうことではないのだ。
説得は無意味。ならば、残されたものは一つしかない。
早苗体操。いや、東風谷体操の方が語呂が良い。
東風谷体操を使ったならば、きっと神様達も天の障子戸から出てきてくれるはず。早苗はそう信じていた。
「刑事が容疑者のアジトに乗り込んでいく動きー!」
架空の銃を握りしめ、障子戸を蹴破る。布団にくるまった神様達は、それを呆気にとられた顔で見ていた。
「お二人とも、ようやく出てきてくれたんですね!」
「出てきた違う。早苗、勝手に入ってきた」
何故か片言。しかし早苗は気にしない。
涙ながらに二人を抱きしめようと飛びついた。
そして二人はそれを颯爽とかわし、早苗は念願の布団とのキスを成就させたのである。
激動の朝を終え、空白の昼を過ごし、終末の夜を迎えた。空の星は早苗達を祝福するように、雲で隠れて見えない。月だけは何とか、雲の切れ間から姿を覗かせていなかった。
「もう、お二人とも。そんなに慌てて食べなくとも、まだまだ料理はありますから」
「いや、全く慌ててないんだけど」
「早苗、何か見えちゃいけないものが見えてるの?」
諏訪子の言葉に、早苗が身体を強ばらせる。まさか、本当によからぬ物が見えているのか。釣られるように神様達の間にも緊張が走った。
「実は、その、私……」
真剣な表情で早苗は言う。
「神様が見えるんです」
「な、なんだって!?」
暇だったのか、神奈子は早苗のノリに合わせた。ちなみに諏訪子は二人を無視して、食事に戻ることにした。
「美人で綺麗で優しい神様が見えると?」
「ええ。その神様を表す言葉があるとするなら、立てば毒薬、座れば爆弾、歩く姿はユンゲラーと言ったところでしょうか」
物騒なものばかりだ。
「ただ、神様は二柱おられました」
「ああ、きっともう一人のはやたらと幼い蛙の神様だろ」
自分のことではないので、適当になる神奈子。諏訪子は口を挟まず、食事に夢中だ。
「八坂様も見えるんですね」
「まぁ、一応私も神様だし。あ、ラー油とって」
「はいよ」
飽きてきたらしく、神奈子も食卓に向き直る。しかしラー油を何にかけるというのか、疑問だ。全て和風で整えられた食事だというのに。
「早苗も何かいる?」
「あ、じゃあ石油とってください」
「何処から!?」
「地下からですよ」
「掘れと?」
「八坂様、ガンバ!」
「五月蠅いよ!」
今日も食卓は賑やかだ。
風呂上がり。何故か早苗は、何度も何度も深呼吸を繰り返していた。
「ひょっとして、それも早苗体操の一つなのかい?」
だとしたら、随分とまともな動きがあったものである。てっきり、きわもの大集合だとばかり思っていたのに。
深呼吸を終えた早苗は、よし終わり、と言い切って神奈子の方を身体ごと向く。
「違います。正確には、東風谷体操のうちの一つみたいなものです。本当の意味での東風谷体操はもっと長いんですよ」
「へえ、じゃあ早苗……東風谷体操ってのはもっと凄いもんなのかい?」
早苗は首を傾げた。何を言ってるんだお前は、という顔である。
「そうですけど、八坂様達にはお見せしたじゃないですか」
一日の記憶を遡る。さて、どれが東風谷体操なのだろう。
幾つか見てきたけれど、どれもさして長くはない。
「悪いけど、分からないよ。良かったら、もう一度見せてくれないかい?」
神奈子の頼みに、早苗は難しい顔だ。
「それは無理ですよ。もうこんな時間ですし」
言われてみれば、確かに夜。これから体操という時間じゃないし、気分でもないだろう。無理を言ってしまった。
頭を掻きながら、じゃあ明日見せてくれよと頼み、神奈子は寝室へと足を向ける。それを聞いていた諏訪子が、ふと早苗に尋ねる。
「ねえ、早苗」
「何ですか?」
「ひょっとしてさあ、朝からさっきの深呼吸までの一連の動きが東風谷体操ってわけじゃないんでしょ?」
早苗は笑顔で言った。
「大正解です」
崩れ落ちる諏訪子。どうやら明日も、今日と同じぐらい疲れるらしい。
東風谷体操、恐るべし。
では?
読後感よくないんだけど、楽しいです。
出オチすぎるw
かつてこれほどまでにひどいSSがあっただろうかというほどひどい
いいぞもっとやれ
神様連中を蹂躙するがごとき非常識。痛快だぜ。
トムの健康が気がかりなんだが、彼の半生に関するSSは次回作で期待していいのか?
既に常識どうこう言えるレベルじゃねーw
お い
だって常識が(ry
まあ笑ったけどさwww
この早苗さんには間違いなくブレーキが付いてませんねw
戻ってきて早苗さん
ここが殺人鬼すぎるwwwww
いや、笑ったから負けなのかもしれないけど。
でもこんなに読後感がすっきりしないのも珍しいのでプラマイで半分くらいで失礼。
これしか言えないwww
どんどんギャグレベルがあがってるなぁという素直な感想
そしてそれに輪をかけてぶっ飛んだ八重結界さんの脳が心配です。(無論誉め言葉
多分全然穏やかでは無いのだろうけれど。
早苗さん頑張れ。ミラクル的に頑張れ。
・・・・・ん?
「目を合わせちゃいけません!!」
常識に捕らわれないことと非常識を履き違えてるんですね、わかりませんww
……あれれ?
………………あれっ?
作品がおかしいww
ところで「毎朝、ラジオ体操を欠かさない」と「二日に一回のラジオ体操」ってどっちだよwwwww
ほれたwww
最高っす
カオスw
何て恐ろしいSSでしょう。
もうギャグとかそういうレベルじゃない。つっこみは無数にあるが割愛。
最初で死亡したww
え、いや数行前の展開はどこにw
無謀編とかを思い出します
ところどころに付随するギャグ成分。
お見事!!
自分は立てば毒薬、座れば爆弾、歩く姿はユンゲラーに爆散しましたw
てかトムさん農薬のんでも兵器なのか
笑ってしまったことは確かだ
ちくしょうwwwwww
もってけ一万点!
ただひたすらに
こわい
何が正しくて何が間違っているのかすらわからない。
毎日こんな生活なんだろうなあ!
んで何でそれを書いちゃったのwww