注意、このお話は東方projectの二次創作です。
オリ設定があります。
「むっらさっ!!!」
セーラー服の少女に黒で統一された少女が飛びかかった。
不意を突かれたセーラー服の少女。 そんな事をすれば、どうなるか想像に難くない。
勿論……と言うまでもなく、しっちゃかめっちゃかな状況に陥った。
バランスを崩した為に黒で統一された少女が覆いかぶさる形で倒れてしまう。
そんな状態、彼女達の居る場所…命蓮寺と言う寺中に響かない訳が無かった。
騒ぎを聞き付けて、慌ただしく訪れた住職……聖白蓮の説教を聞かされる等、二人を知る者であれば、そこまで予測の必要もないだろう。
文字通り、お灸を据えられてしまった。
「ぬえ、またお前の所為で聖に怒られただろ!」
「な、なんでだよ。 私は村紗と話しをしたかっただけなのに……」
傍から見れば、男同士の会話にしか聞こえない。
しかし、この場にいる二人は、女性……女の子なのだ。
ぬえからすれば、村紗は大切な友人。 常に傍に居て話をしていたいのだ。
だが、村紗からすれば迷惑際なりない。
ぬえが嫌いと言うのではない。 ぬえは、他の人妖に比べると大分気分屋な面がある。
古くからの友人と言えど、許容出来ない部分もあった。
加えて、今回は聖にまで怒られてしまった。
我慢が出来なくても仕方が無いだろう。
「別に少し位話しをしなくても死なないだろ?」
「な、何だよ? その言い草は!」
普段なら、ちょっとした事。 ただ、今日は、聖の説教の後である。
怒りの矛先がなく、その事が少しだけ二人の間を遠ざける事に……。
「……けっ!」
「おい……ぬえ! ちょっと、待てよ。 ……おい!」
悪態をついたぬえは、村紗の言葉を無視して離れていった。
ドスドス、と大きな足音を立てて、静止する村紗の声など聞こえないふりをしていた。
~~~~~
膨れ面、納得していない顔。 表情を見ただけで何を言わんか分かる態度。
ぬえの数少ない親友。 マミゾウの部屋に転がり込んでいた。
「これは、まぁ……分かり易い事この上ないのう」
普段とは違い、和に身を包んだマミゾウは部屋に戻って来るなり待ち受けていたぬえを見据えた。
長年の友情など関係のなく見て判る態度に、これは何かあったと考えた。
切り出すには、少々口が寂しい状況にマミゾウは煙管入れを取り出して、煙草でも飲もうかと考えた。
酷く機嫌が悪いぬえを余所に口に煙管を咥え……そこで火種が無い事に気付く。
狐火ならぬ狸火でも熾して、火を着けようとも考えたが間抜けな状況に仕方がなく、ぬえに声をかける事に。
「して、どうした?」
「……」
話しかけて欲しい癖に、話しかければ答えない。
どこかの天邪鬼の如く、正直ではない部分が出ていた。
聖に接する時の様に、正直に接すれば在らぬ誤解を生む事も無いのに……。
と考えが浮かび、喉まで上がって来ようとも、口に出す事はなかった。
こういった部分も合わせて、この娘の可愛い所だと長い友情から分かっているからだ。
「聖殿か……それとも、唐傘か……」
目を瞑って膨れているぬえに心辺りがありそうな種族を上げていく。
狸の尋問……とまでは行かないが、流石に理由が分からなければ、何を言ったものかと思った故に。
「……舟幽霊」
ぬえの眉がピクリと反応した。
分かり易い事この上ない。 先にマミゾウが言った言葉そのままであった。
恐らく、答えは出ているだろうと思いながらも、何をしたいかを聞いておく。
面倒好きの化狸が放っておく訳がない。
それが何百年と続く友人が相手なら当然だろう。
「村紗と何かあったな? まぁ、儂には関係ないが……ぬえは、このままで良いのか?」
「良い訳ないじゃない……」
ほう、と顎を撫でる。 とりあえずは脈ありと思い、話しが通じた事を良しとした。
あとは、言葉巧みに誘導して籠絡し仲を取り成せば終わり。
天邪鬼だが正直者でもある。 そういった所を誰よりも知っている故に扱い方は良く分かっていた。
だが、そう何度も思い通りにいく訳でもない。
見た目が可愛らしい少女であっても、中身は大妖怪。
マミゾウと同じく底が知れないのは、当然の事であろう。
「そうだよ。 良い訳が無い!」
「ぬ、ぬえ?」
「ありがとうマミゾウ」
「お……おう……」
突如立ち上がったぬえは、マミゾウの部屋から出て行った。
部屋に残ったのは、遠くに去っていくぬえの足音だけ。
「お? おっと……」
それと、煙管を咥えたままのマミゾウ。
間抜けにもずっと咥えたままであった煙管を手に取り、煙管入れに仕舞うのであった。
~~~~~
勢い良くマミゾウの部屋から出たまでは良かった。
このまま、村紗の所に行って謝れば許してくれるかもしれない。
村紗は意外と表裏のない人物だから、と淡い期待に思いを馳せた。
だが、このままで良いのか? とも考え、勢いが段々と落ちていく。
先に村紗が怒ったのは、普段から付き纏い過ぎた為ではないか? と思う。
実際は、村紗の言葉に怒った為であったが、時が経てば経つ程に、ぬえの心にも不安が芽生え始めていく。
偶然、廊下の曲り角に消える村紗を見つけたというのに、声をかける事を戸惑ってしまう。
完全に機を逸した。 そう思った所で出鼻を挫かれてしまえば、そのまま行動する訳にもいかない。
一先ず、柱に寄りかかり、次の機を待ち策を考える事にした。
「ねぇ、何してるの?」
「おわぁ!」
完全に意識の外であった。
肩に顎が乗せられると、不意を突かれた事もあり、普段からは思いもよらない声が上げられた。
女の子らしい実に可愛らしい悲鳴だ。
「何だ……小傘か……」
自分のお腹を撫でて、ぬえを驚かせた事による軽い膨満感に満足する。
それと同時に何だ呼ばわりされた事を少々不満に思った。
「何だって何よ」
「いや、悪い悪い」
「で、何してるの?」
何かしている訳ではない。 あえて言うなら、村紗と仲直りをしたいと思っている。
とは言え、そんな事を馬鹿正直に言う程、ぬえは正直者でもない。
強き者は、決して他人に弱みを見せ無いものだ。 通常ならば、だが。
「……小傘は、喧嘩する事はあるのか?」
「あるよ、それぐらい。 私だって、良い餌場を取られたら死活問題なんだからね」
縄張り争いか……。 ぬえはそう思った。
結果としては、上手く話しの矛先が変わったから良しとしたが、自分の知りたい話とは違う気がした。
「違う違う。 ……って、それならマミゾウに化かす術でも聞いた方が早いんじゃないか……」
そこまで言ってハッとした。 同時に自分の考えがとても素晴らしいものだと気付く。
気味の悪い微笑を浮かべると、さっそく実行に移す事にした。
「小傘、ありがとうな。 早速使わせて貰うぜ」
「え? ちょっと……何だか分からないけど、質問に何の意味があったのよ」
小傘の質問も虚しく。 その場に一人残されてしまった。
角を曲がるぬえを見送り、その場に立ち尽くすしかなかった。
~~~~~
「マミゾウ程ではないが……」
相手が思い描く様に姿を変える正体不明の種。
自分にそれを植え付けた。 条件を指定する事で変化対象を思うままに変える事が出来る。
勿論、変化上手な妖怪や正体が割れてしまった場合は効果が無いが。
それでも、並の者にとっては、正体が分からない事は変わらない。
条件を指定したぬえは、その姿のまま、村紗の元を訪れる事にした。
「こんにちは」
「誰かと思ったら、一輪か……」
一輪。 確かに村紗は、そう言った。
ぬえは、内心安心した。 この姿なら話を聞いてくれる。
後は、ボロを出さない様に慎重に話をして誘導するだけだ。
「さっき、ぬえを見たけど」
「ああ? ぬえ?」
見るからに嫌な顔を見る。 少し胸の奥がズキリと痛んだ。
だが、表に出す訳にはいかない。 そう、これは村紗を傷つけた罰だと堪える事にした。
「少しは話しを聞いてあげたら? 村紗を探していたわよ」
「そうか?」
バツが悪いのか、それとも本当に不機嫌なのか、一輪(ぬえ)と目を合わせようともしない。
もしかしたら本当に嫌われてしまったのか、表に出してしまいそうな程に不安が込み上げて来た。
それでも、ここで引く訳にいかない。
一輪なら一歩踏み込むだろうと思い、もう一言だけ踏み込んで言う。
「ふぅ、あんたも意固地ね」
「誰がだよ」
「仲直り、したいんでしょ?」
「ばっ……誰があいつなんか、正直じゃないし、気分屋だし、まったく……冗談……」
顔色を変えて、楽しそうにぬえを罵る村紗。
いつも、ぬえが好きであった表情そのままに話していた。
先まで喉に詰まる様な不快感がスッと消えた。 だが、この喜びも表に出してはならない。
そうすれば、忽ち騙していた事が露見し、再びお互いが険悪な仲に戻ってしまう。
グッと堪えると、何事も無かった様に告げる。
「そう楽しそうに話すのね。 そう言えば、さっき会ってね。 部屋に居るんじゃない? って答えたけど良かったかしら?」
「……」
「今度は会ってあげるの?」
答えが返って来ない。 少々押し過ぎたか? と再び不安が込み上げて来る。
だが、そんな不安は杞憂であった。
「はぁ、仕方が無いな……待つ事にするよ」
溜息を一つ吐いた村紗は、一輪(ぬえ)の言葉を信じる事にした。
何でもない風を装い、部屋に居る態度をしていた。
「そう、じゃあ私は自分の事に戻るから」
上手く信じてくれたと、部屋を出て行くぬえ。
後は、少し時間が経った後に村紗の部屋を訪れて、素直に謝るだけだ。
成功を確信していた。
流石にすぐには元には戻らないかもしれないが、そんなものは時間が解決してくれる。
村紗と仲の良い状態に戻る未来を想像しては、心の中で高笑いをしていた。
「村紗、入るよ」
ぬえが、村紗の部屋に入った様子が一輪に見られるまでは……。
~~~~~
とは言え、村紗の機嫌を損なったのは、自分の所為であると解っている。
そこは、間違いなく反省している。
申し訳なさそうに部屋に入ると、先まで思い浮かべていた尊大な面は何処にもなかった。
「あの村紗……」
「何だ? 何か言いたい事でもあるのか?」
「その……さっきはごめんね」
溜息を吐いたのは村紗だ。 ビクと肩を震わすぬえ。
目を瞑って、俯き加減で村紗の次の言葉を待っていた。
「いや、私も悪かった」
「村紗!」
おお、仲直りの抱擁。 何と美しい光景であろうか。
ぬえが子供の様に抱き着き、涙さえ浮かべている。
村紗も村紗で罪悪感から悪かった表情が見る見る内に晴れていく。
良かった。 非常に良かった。
こうして、二人は仲直りをして平和な日常に、騒がしい一頁が……。
「失礼」
入って来たのは一輪(本物)である。
用件があって、訪れたのは間違いが無いが、状況が悪い。
「一輪、さっきはありがとうな。 おかげでぬえと仲直りが……」
「さっき? 私は今日、村紗の元を訪れるのは初めてよ」
抱き合っている二人を余所に一輪は、用件を簡潔に伝えようとする。
そうこうする間に、ぬえの背中に回されていた両手に力が込められていく。
「あ、あの水蜜さん?」
「聖様から”鵺さん”に用件があると言われて探していたのだけど」
ギシギシと背骨が軋んでいく。 錨を振り回す腕力から逃げおおす事は出来ない。
何より、さっきの美しい抱擁がそのまま攻撃に変わるとは考えが及ばなかった。
「ぬうぅぅぅぅぅぅえええええええ?」
「は、はい?」
「死ねえええええええええええ!!!」
バキッ!!!
骨が砕ける綺麗な音が、寺中に響き渡った。
怒り覚めやらぬ村紗、意識を失うぬえ。
頭を抱えたのは一輪だった。
「聖様には、体調不良で休んでいると伝えるわね」
そう言いながら静かに障子を閉め、静かに一輪は去って行くのであった。
余談であるが、寝込む事になったぬえを看病したのは村紗である。
色々、過程はあったものの、久方ぶりに二人きりで話をする機会を貰い、喜んだぬえであった。
オリ設定があります。
「むっらさっ!!!」
セーラー服の少女に黒で統一された少女が飛びかかった。
不意を突かれたセーラー服の少女。 そんな事をすれば、どうなるか想像に難くない。
勿論……と言うまでもなく、しっちゃかめっちゃかな状況に陥った。
バランスを崩した為に黒で統一された少女が覆いかぶさる形で倒れてしまう。
そんな状態、彼女達の居る場所…命蓮寺と言う寺中に響かない訳が無かった。
騒ぎを聞き付けて、慌ただしく訪れた住職……聖白蓮の説教を聞かされる等、二人を知る者であれば、そこまで予測の必要もないだろう。
文字通り、お灸を据えられてしまった。
「ぬえ、またお前の所為で聖に怒られただろ!」
「な、なんでだよ。 私は村紗と話しをしたかっただけなのに……」
傍から見れば、男同士の会話にしか聞こえない。
しかし、この場にいる二人は、女性……女の子なのだ。
ぬえからすれば、村紗は大切な友人。 常に傍に居て話をしていたいのだ。
だが、村紗からすれば迷惑際なりない。
ぬえが嫌いと言うのではない。 ぬえは、他の人妖に比べると大分気分屋な面がある。
古くからの友人と言えど、許容出来ない部分もあった。
加えて、今回は聖にまで怒られてしまった。
我慢が出来なくても仕方が無いだろう。
「別に少し位話しをしなくても死なないだろ?」
「な、何だよ? その言い草は!」
普段なら、ちょっとした事。 ただ、今日は、聖の説教の後である。
怒りの矛先がなく、その事が少しだけ二人の間を遠ざける事に……。
「……けっ!」
「おい……ぬえ! ちょっと、待てよ。 ……おい!」
悪態をついたぬえは、村紗の言葉を無視して離れていった。
ドスドス、と大きな足音を立てて、静止する村紗の声など聞こえないふりをしていた。
~~~~~
膨れ面、納得していない顔。 表情を見ただけで何を言わんか分かる態度。
ぬえの数少ない親友。 マミゾウの部屋に転がり込んでいた。
「これは、まぁ……分かり易い事この上ないのう」
普段とは違い、和に身を包んだマミゾウは部屋に戻って来るなり待ち受けていたぬえを見据えた。
長年の友情など関係のなく見て判る態度に、これは何かあったと考えた。
切り出すには、少々口が寂しい状況にマミゾウは煙管入れを取り出して、煙草でも飲もうかと考えた。
酷く機嫌が悪いぬえを余所に口に煙管を咥え……そこで火種が無い事に気付く。
狐火ならぬ狸火でも熾して、火を着けようとも考えたが間抜けな状況に仕方がなく、ぬえに声をかける事に。
「して、どうした?」
「……」
話しかけて欲しい癖に、話しかければ答えない。
どこかの天邪鬼の如く、正直ではない部分が出ていた。
聖に接する時の様に、正直に接すれば在らぬ誤解を生む事も無いのに……。
と考えが浮かび、喉まで上がって来ようとも、口に出す事はなかった。
こういった部分も合わせて、この娘の可愛い所だと長い友情から分かっているからだ。
「聖殿か……それとも、唐傘か……」
目を瞑って膨れているぬえに心辺りがありそうな種族を上げていく。
狸の尋問……とまでは行かないが、流石に理由が分からなければ、何を言ったものかと思った故に。
「……舟幽霊」
ぬえの眉がピクリと反応した。
分かり易い事この上ない。 先にマミゾウが言った言葉そのままであった。
恐らく、答えは出ているだろうと思いながらも、何をしたいかを聞いておく。
面倒好きの化狸が放っておく訳がない。
それが何百年と続く友人が相手なら当然だろう。
「村紗と何かあったな? まぁ、儂には関係ないが……ぬえは、このままで良いのか?」
「良い訳ないじゃない……」
ほう、と顎を撫でる。 とりあえずは脈ありと思い、話しが通じた事を良しとした。
あとは、言葉巧みに誘導して籠絡し仲を取り成せば終わり。
天邪鬼だが正直者でもある。 そういった所を誰よりも知っている故に扱い方は良く分かっていた。
だが、そう何度も思い通りにいく訳でもない。
見た目が可愛らしい少女であっても、中身は大妖怪。
マミゾウと同じく底が知れないのは、当然の事であろう。
「そうだよ。 良い訳が無い!」
「ぬ、ぬえ?」
「ありがとうマミゾウ」
「お……おう……」
突如立ち上がったぬえは、マミゾウの部屋から出て行った。
部屋に残ったのは、遠くに去っていくぬえの足音だけ。
「お? おっと……」
それと、煙管を咥えたままのマミゾウ。
間抜けにもずっと咥えたままであった煙管を手に取り、煙管入れに仕舞うのであった。
~~~~~
勢い良くマミゾウの部屋から出たまでは良かった。
このまま、村紗の所に行って謝れば許してくれるかもしれない。
村紗は意外と表裏のない人物だから、と淡い期待に思いを馳せた。
だが、このままで良いのか? とも考え、勢いが段々と落ちていく。
先に村紗が怒ったのは、普段から付き纏い過ぎた為ではないか? と思う。
実際は、村紗の言葉に怒った為であったが、時が経てば経つ程に、ぬえの心にも不安が芽生え始めていく。
偶然、廊下の曲り角に消える村紗を見つけたというのに、声をかける事を戸惑ってしまう。
完全に機を逸した。 そう思った所で出鼻を挫かれてしまえば、そのまま行動する訳にもいかない。
一先ず、柱に寄りかかり、次の機を待ち策を考える事にした。
「ねぇ、何してるの?」
「おわぁ!」
完全に意識の外であった。
肩に顎が乗せられると、不意を突かれた事もあり、普段からは思いもよらない声が上げられた。
女の子らしい実に可愛らしい悲鳴だ。
「何だ……小傘か……」
自分のお腹を撫でて、ぬえを驚かせた事による軽い膨満感に満足する。
それと同時に何だ呼ばわりされた事を少々不満に思った。
「何だって何よ」
「いや、悪い悪い」
「で、何してるの?」
何かしている訳ではない。 あえて言うなら、村紗と仲直りをしたいと思っている。
とは言え、そんな事を馬鹿正直に言う程、ぬえは正直者でもない。
強き者は、決して他人に弱みを見せ無いものだ。 通常ならば、だが。
「……小傘は、喧嘩する事はあるのか?」
「あるよ、それぐらい。 私だって、良い餌場を取られたら死活問題なんだからね」
縄張り争いか……。 ぬえはそう思った。
結果としては、上手く話しの矛先が変わったから良しとしたが、自分の知りたい話とは違う気がした。
「違う違う。 ……って、それならマミゾウに化かす術でも聞いた方が早いんじゃないか……」
そこまで言ってハッとした。 同時に自分の考えがとても素晴らしいものだと気付く。
気味の悪い微笑を浮かべると、さっそく実行に移す事にした。
「小傘、ありがとうな。 早速使わせて貰うぜ」
「え? ちょっと……何だか分からないけど、質問に何の意味があったのよ」
小傘の質問も虚しく。 その場に一人残されてしまった。
角を曲がるぬえを見送り、その場に立ち尽くすしかなかった。
~~~~~
「マミゾウ程ではないが……」
相手が思い描く様に姿を変える正体不明の種。
自分にそれを植え付けた。 条件を指定する事で変化対象を思うままに変える事が出来る。
勿論、変化上手な妖怪や正体が割れてしまった場合は効果が無いが。
それでも、並の者にとっては、正体が分からない事は変わらない。
条件を指定したぬえは、その姿のまま、村紗の元を訪れる事にした。
「こんにちは」
「誰かと思ったら、一輪か……」
一輪。 確かに村紗は、そう言った。
ぬえは、内心安心した。 この姿なら話を聞いてくれる。
後は、ボロを出さない様に慎重に話をして誘導するだけだ。
「さっき、ぬえを見たけど」
「ああ? ぬえ?」
見るからに嫌な顔を見る。 少し胸の奥がズキリと痛んだ。
だが、表に出す訳にはいかない。 そう、これは村紗を傷つけた罰だと堪える事にした。
「少しは話しを聞いてあげたら? 村紗を探していたわよ」
「そうか?」
バツが悪いのか、それとも本当に不機嫌なのか、一輪(ぬえ)と目を合わせようともしない。
もしかしたら本当に嫌われてしまったのか、表に出してしまいそうな程に不安が込み上げて来た。
それでも、ここで引く訳にいかない。
一輪なら一歩踏み込むだろうと思い、もう一言だけ踏み込んで言う。
「ふぅ、あんたも意固地ね」
「誰がだよ」
「仲直り、したいんでしょ?」
「ばっ……誰があいつなんか、正直じゃないし、気分屋だし、まったく……冗談……」
顔色を変えて、楽しそうにぬえを罵る村紗。
いつも、ぬえが好きであった表情そのままに話していた。
先まで喉に詰まる様な不快感がスッと消えた。 だが、この喜びも表に出してはならない。
そうすれば、忽ち騙していた事が露見し、再びお互いが険悪な仲に戻ってしまう。
グッと堪えると、何事も無かった様に告げる。
「そう楽しそうに話すのね。 そう言えば、さっき会ってね。 部屋に居るんじゃない? って答えたけど良かったかしら?」
「……」
「今度は会ってあげるの?」
答えが返って来ない。 少々押し過ぎたか? と再び不安が込み上げて来る。
だが、そんな不安は杞憂であった。
「はぁ、仕方が無いな……待つ事にするよ」
溜息を一つ吐いた村紗は、一輪(ぬえ)の言葉を信じる事にした。
何でもない風を装い、部屋に居る態度をしていた。
「そう、じゃあ私は自分の事に戻るから」
上手く信じてくれたと、部屋を出て行くぬえ。
後は、少し時間が経った後に村紗の部屋を訪れて、素直に謝るだけだ。
成功を確信していた。
流石にすぐには元には戻らないかもしれないが、そんなものは時間が解決してくれる。
村紗と仲の良い状態に戻る未来を想像しては、心の中で高笑いをしていた。
「村紗、入るよ」
ぬえが、村紗の部屋に入った様子が一輪に見られるまでは……。
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とは言え、村紗の機嫌を損なったのは、自分の所為であると解っている。
そこは、間違いなく反省している。
申し訳なさそうに部屋に入ると、先まで思い浮かべていた尊大な面は何処にもなかった。
「あの村紗……」
「何だ? 何か言いたい事でもあるのか?」
「その……さっきはごめんね」
溜息を吐いたのは村紗だ。 ビクと肩を震わすぬえ。
目を瞑って、俯き加減で村紗の次の言葉を待っていた。
「いや、私も悪かった」
「村紗!」
おお、仲直りの抱擁。 何と美しい光景であろうか。
ぬえが子供の様に抱き着き、涙さえ浮かべている。
村紗も村紗で罪悪感から悪かった表情が見る見る内に晴れていく。
良かった。 非常に良かった。
こうして、二人は仲直りをして平和な日常に、騒がしい一頁が……。
「失礼」
入って来たのは一輪(本物)である。
用件があって、訪れたのは間違いが無いが、状況が悪い。
「一輪、さっきはありがとうな。 おかげでぬえと仲直りが……」
「さっき? 私は今日、村紗の元を訪れるのは初めてよ」
抱き合っている二人を余所に一輪は、用件を簡潔に伝えようとする。
そうこうする間に、ぬえの背中に回されていた両手に力が込められていく。
「あ、あの水蜜さん?」
「聖様から”鵺さん”に用件があると言われて探していたのだけど」
ギシギシと背骨が軋んでいく。 錨を振り回す腕力から逃げおおす事は出来ない。
何より、さっきの美しい抱擁がそのまま攻撃に変わるとは考えが及ばなかった。
「ぬうぅぅぅぅぅぅえええええええ?」
「は、はい?」
「死ねえええええええええええ!!!」
バキッ!!!
骨が砕ける綺麗な音が、寺中に響き渡った。
怒り覚めやらぬ村紗、意識を失うぬえ。
頭を抱えたのは一輪だった。
「聖様には、体調不良で休んでいると伝えるわね」
そう言いながら静かに障子を閉め、静かに一輪は去って行くのであった。
余談であるが、寝込む事になったぬえを看病したのは村紗である。
色々、過程はあったものの、久方ぶりに二人きりで話をする機会を貰い、喜んだぬえであった。
これからも楽しみにさせていただきます!
ホモぉ?