紅魔館。
幻想郷の霧の湖付近に佇む悪魔のお屋敷。かつて吸血鬼事件、紅霧異変という災悪を齎した恐怖の館。
人間は無論、屈強の妖怪ですら近寄らない名を馳せたスポットである。
当主にはスカーレットデビル、デーモンロードと呼ばれる吸血鬼が住んでいて、何でも『運命』が見えるらしい。
配下の妖怪や魔女たちも一人一体が一騎当千の化け者で、まず館に入った者は生きて外を見ることができない。そう言われていた。
これはとある昼の、そう、大体秋口といった季節か……そんな真昼間の紅魔館の中での物語。
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どうして太陽の日差しは暑いのだろうか。一体誰にお願いすれば暑くなくなるのだろうか。
そもそも誰がお天道様なんて作ったのだろうか……そんな崇高な考えをするのは無意味なことか。
「くだんない……」
紅魔館地下ヴワル図書館司書室で、司書長小悪魔はぼやいた。
地下という空間は何分そういったものに疎いのか、基本知らんぷりのはずだった。
何故なら、この図書館は館長の大賢者様のおかげで空調は完璧。
夏には山の沢の様に涼しいし、冬には太陽の畑(ゆうかりんランド)の如く温かい。職場衛生としては最高のはず。
はずなのだが……
「あづい……」
その館長パチュリー・ノーレッジが己の研究の為、空調魔法及び館内のその他魔法をカットしてしまっていた。
なんでも魔力一滴たりとも惜しいとのこと。
使い魔たる小悪魔には必要最低限の魔力だけ送って、後は某所の姫様宜しく自らのラボに引き籠ってしまった。
そうなると困ってしまうのは自分達司書であり、ココをサボりの場として穴場にしている不届き者たちである。
「天照のお姉さんを、引っ張り出したのは如何にしてか……」
「あん?」
同館内勤メイド隊副長・アネティス。だらしなく給仕服の前を肌蹴させそう切り出した。。
「稗田阿礼、誦習。太安万侶、撰録。古事記、天の岩屋より。
どうやってこの国(ジャパン)のこのクソ暑い元凶様を引っ張り出したのかってことですわ」
「あー……ポン酒とドラゴン○ールコミック最新巻」
応えるは紅魔館門番防衛隊副長・月花(ユエファ)。
持っていたグラスを飲み干し、はしたない恰好でテーブルに足を乗せ返答す。
「はあ? お話になりませんわ」
「じゃあ、オマエはなんだってんだよ」
「コイツとコイツ」
アネティスは持っていたキンキンに冷えた○ドワイザーとオータムスの内野席チケットを掲げた。
「アホぬかせ。アイツはこの国のお偉いさんだ。好きな酒はコイツに決まってる」
「御託捻てんじゃないわよ。野良妖だったくせに」
「うっせえ。オータムスなんて万年ビリっけつチーム、何処がいいのかわかんねえ」
「秋には巻き返しますわ! そしてDBの新巻なんて永遠に幻想入りするわけ無いじゃない。
あれは42巻で終わってますわ。きちんとそう書いてたでしょうに」
「阿呆。風の噂じゃあ続きがあるらしいんだよ。もし手に入っても見せてやんねえからな!」
お前らは何の話をしているんだ。小悪魔はそう思ったが、だるくて発言するのも面倒だった。
兎に角、蒸し暑い。濡れタオルを頭に敷こうが冷たいバカルディを喉に通そうが涼みの足しにもなりはしない。
おまけに五月蠅い副長コンビまでサボりに来ている為、より一層暑苦しく感じた。
「おい、こあ。オマエは何だと思う?」
「……湖の氷精(チルノ)ちゃん」
「ダメだ。おツムが沸騰してやがる。誰もてめえの願望なんか聞いちゃいねえよ」
沸騰してるのはどっちだ。世界の何処に、ジャパニーズコミックスと野球のチケットなんかで顔を出す神様がいる。
そんな神様はお嬢様に名前を変えられてしまえ。ついでにお前らも改名されてしまえ。心の中で小悪魔はブツブツ愚痴た。
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「かなぁっくしょん!!」
「何、神奈子。オヤジ臭い」
「いや……悪寒が。それより諏訪子。○ッターアークの二巻取って」
「いいけど、そろそろ試合の時間じゃない?行かなくていいの?」
「んあ……おう。行くか」
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「なによ、パチュリー。研究だからって空調魔法の分まで魔力カットしなくていいじゃない」
「てめぇに同感」
前々から二人はココをバーか喫茶店と勘違いしている節がある。
パチュリーがお仕置きしたところで三日もすれば鳥の様に忘れるこいつらに、自分が注意したところで無駄なのだろう。
かという自分もこうして酒盛りに参加してしまってはいるのだが。
小悪魔は空いたグラスに焼酎を注ぎ、夏用のベストを放り投げ、ネクタイを外した。
そういえば、前に会議で月花がレミリアに進言した。
外の世界ではクールビズなるものをやっている。自分達もしてはどうかと。
レミリアの返答はこうだ。
『くだらない。外でやっているからと言ってなんでも取り入れるなんて、私達はどこぞの山の神さまじゃないのよ』とカリスマたっぷりに。
次の日、何処で手に入れたのか、外の月刊雑誌を持って『ねえねえ。この○○ホテルの屋内プールって素敵じゃない?』とのたまった。
そして自分とフランドール専用の地下プライベートプールを紅魔館総出で造らせた。
まあ、その後紅魔館が機能しなくなるほど多くの者が出て行ったが。ざまあみそ。
「それより二人共、仕事はいいの?」
普段なら在られもしない格好で一杯ひっかけている二人に現場責任者が尋ねる。
小悪魔の右には短めの大陸服にブカブカ人民帽、ショートの黒髪狼女。
左には前がはだけたメイド服に眼鏡、金髪ロングのおっぱい魔人……じゃなくてサキュバスがいる。
因みに今はお天道様が天辺にいる時間帯だ。
「んあ。別にぃ……隊長、湖で遊んでるし」
「此方も。レミリアお嬢様が暴力巫女の所へ足を運びましたわ。
無論、咲夜ちゃんも付き添い……小悪魔、氷取って」
隙在らばこれだ。よくこんな連中が紅魔館(ココ)の幹部をやってるもんだと小悪魔は思う。
しかし、残念ながらココで妖精じゃなく妖怪の、しかも手慣れな従者は珍しい。仕方ないな、と苦笑し手前のロックアイスを渡してやる。
後(主)が怖いと考えつつも自分のグラスにも少々注いだ。
「畜生。クーラー利いて無いってわかってたら湖で遊んでたのによぉ。これじゃあ詰所と同じだ」
「館内(上)は何処も一緒ですわ。嫌ならフランドールお嬢様のお部屋をノックなさい。
部屋自体涼しいですし、とびっきりクールなブギを踊れるはずだから」
「は……違いねえが願い下げだよ。阿婆擦れ淫魔」
「二人とも……五月蠅いよぉ」
門番前は遅れてきた梅雨明けによる残暑の攻撃を受けており、紅魔館内は基本窓が少ない為暑かった。
だったら行く場所は決まっている。サボり場には最適で、しかもそこの主様が出払ってるこの図書館は、現在親のいない虎穴だ。
加え、ここの副長だって今や狩人の一人ときてる。
しかし見当は外れ、虎児どころか兎一匹いやしない。
だから狩人達は汗掻きながら慰安を兼ねて自棄酒に走っている、というわけだった。
「「「あづい……」」」
ごちる。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「紅魔館(ウチ)も……平和になったもんですわ」
「……あん?」
胸元のボタンを二つ開けアネティスがぼやいた。
「昔じゃ、図書館でサボりをする余裕すら無かったですもの」
「ん、そうね……誰のおかげかしら? 霊夢さん? それとも魔理沙さん?」
「誰だっていいさ。ただ、為るようになった。それが答えだ」
吸血鬼異変前は殺伐としていた。
産業革命下、ルーマニアより幻想入りした紅魔館。当時外界にて、人間勢力に押されていたスカーレットファミリア。
教会やらハンターやらが近代兵器を駆使し確実に夜族を掃討していた時代。
中でも力のあった祖級の吸血鬼サー・スカーレット(レミリア・フランドールの父)は多額の懸賞金を懸けられ、ヨーロッパ全土から狙われていた。
しかし娘達には手を出させまいと館を丸ごと幻想入りさせた……が当の本人はルーマニアに残り、『各地の傘下とカルテルの面々を助ける』と言い幻想入りしなかった。
共に残った夫人(母)も、美鈴とパチュリーに『娘をお願い』と卿について行った。
「私はあの時はメイド長だったわね……」
「なんで咲夜さんに譲ったの?」
「疲れましたわ……それに、適材適所でしょ」
ウォッカを注ぎながら懐かしそうに話をするアネティス。
「外にいた頃は知らねえな。あたしは『山』から来たからさ」
「まあ、どうでもいいことよ。詮索屋は嫌われますわ」
「ユファが来たばっかりの頃も……荒れてたけどね」
紅霧異変前も殺伐としていた。
幻想入りしたのはいいが、肝心の管理人にアポを取っていなかった。
加えて、幻想郷(コチラ)のルールも知らないまま入って来た為、二匹の吸血鬼は好き放題やり過ぎてしまった。
そして当然悶着。 八雲に目をつけられ、博麗に叩かれ、閻魔からペナルティーを科せられ……
紅魔館総出の喧嘩をしたが、外界とは比べ物にならないほど強い連中が云万といた。
助力を仰いだ『幻想郷(ハザマ)』にある『館』の住人達も、今や所在が掴めない。きっと飛ばされたのだろう。
積極的に狙ってくる莫迦はいないが、そのかわり傍若無人にも振舞えない。
人間と妖怪、生きとし生けるもの全てを許容するが、『許容』の意味を履き違えてはいけない。
それが幻想郷だった。
「凄かったよなぁ! 『山』で一騎当千だった美鈴隊長。あの時惚れて付いてきたんだぜ!
天魔様と文さんの二人相手に戦ってたもんな!」
「ハハハ……スペカルールが無かったからね……」
机を叩きながら爛々と語る月花。
捕虜として捕まってたくせに……と小悪魔は口が裂けても言えず、笑うしかなかった。
アネティスはぼんやりとグラスの氷を眺めながら静かに呟いた。
「まあその後、嫌がおうにも大人しくせざるを得なかったけどね……」
そして昨今。
ペナルティーとしてフランドールを監禁され、更に人間を好き放題刈れず、好き勝手領土を広げられないでいた紅魔館……というより『新』当主レミリア・スカーレット。
退屈。
参謀の美鈴も相談役のパチュリーも使用人総括の(咲夜が幼かった為)アネティスも、『今は仕方ない。黙ってよう』とヘタレ腰だった。
そんなイライラが溜まっている時、レミリアは新聞を目にした。
文々。新聞……当時、暇で暇で何でもいいから娯楽が欲しいと購読していた若手の天狗(自分より年上だが)の新聞。
記事としては実が薄いかもしれないが、読み物としては中々良い。それに他の天狗の新聞に比べたら脚色も少ない為、情報収集にもなるっちゃなる。
そしてそれは、ある平凡極まりない日の記事だった。
『博麗の巫女、ついに動く! 地獄と魔界の制圧へ』
莫迦げた記事、しかし興味があった。確かあの時(吸血鬼異変)から博麗は代替わりしていたはず。
今代の名は『霊(靈)夢』と載っていた。十歳そこらの人間のガキ。
それからというもの、定期的にその巫女の特集が載っていた。
『自らの神社の神を退治! 祟り神には容赦せず』
『願いが叶う?! 謎の石板に巫女が挑む!』
『巫女ら、〈幻想郷(ハザマ)〉へ。敵は悪魔?!』
『再び魔界へ! 四名の勇者!』
実に面白い。
我々を追い遣った悪霊と博麗の末裔。更にあの『館』の、双子並に強かった妖怪小町。ルーキー魔法使いはよくわからんが……
……レミリアは言った。『異変よ。異変を起こすわ』と。
「大変だったのよ。参謀と相談役が反対する中、変なところでカリスマックスに訴えてくるお嬢様」
「そういえばそうだったね……まあ、結局お嬢様の仰った『運命』が見事的中なさったけど」
レミリア曰く。『そろそろ運命が動くわ……いつまでも今のままでいたくないじゃないか』とのこと。
「それ以来、腑抜けたけどな」
「まあ、ある程度羽を広げられるようになっただけマシですわ」
それだけ彼女達の功績は大きかった。
博麗霊夢と霧雨魔理沙。
形式上、紅魔館を敗った人間として公に褒められはしないけれども、その後与えた影響として、もはや英雄扱いであってもおかしくない。
当主は幻想郷で顔を上げて歩けるようになったし、妹君も地下自室という名の独房から出れるようになった。
魔女は館外の友人ができ(本人は違うと言うが)、龍と言われた門番も昼寝するほどの余裕ができた。そして―――
「今に至る、と」
グラスの氷が融け、カランと底に落ちた。
「二人が救導主(メシア)様なら私達は囚われの民だったのかしらね?」
小悪魔が首を傾げる。
「違うね。救いも魔王もレミリア・スカーレットという名の可愛い悪魔さ」
「私達は只の信者。あの人間達はただの駒でしかない」
「ふふ。お嬢様の意志から離れた駒だけどね」
これが彼女達の『宗教』だ。イエスや仏、ヤハウェといった大々的な神々ではない。
例え、幻想郷に神がいようがいまいが関係無い。レミリア・スカーレットという悪魔を崇拝する。
レミリア絶対主義。
それが紅魔館のスカーレットファミリアの心得であり、宗教だった。
「ただ君主としてはまだまだ若いかしら。たかが500と少ししか生きてないんですものね」
「私からすれば大分年上だけどね」
「あたしも。アニー……オマエ何歳だよ?」
黙るアネティス。暫くしてボトルごと吟醸をラッパし、叫んだ。
「……少なくとも美鈴と素兎よりは、若いですわ!!」
2000歳以上か……二人は苦笑い。
「んなことはどうでもいいのよ! 私達『妖』は精神体。つまり気の持ち様で幼女にもヘカテェにもなれ なすわ!」
「はいはい。お嬢様のアダルティーな姿なんて想像できないよ」
「ハハハ……まあ、基本幻想郷の住人(女)達は『少女』だからね」
「そう! 小悪魔、いいこと言ったわ! 私だって少女なのよ!」
「へいへい。200も生きてねえ、矮小なあたしにはまだわかりませんねぇ」
「……月花! 表出ろ!」
「やなこった」
既に酔いはマックスに回っていた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
己の館が現在空城同然とも知らず、御当主様は幻想郷東区の神社に向かっていた。
飛ばずに地面を歩くのはこの素晴らしき幻想の世界を目に焼き付け、闊歩する為だ。
勿論野心が無いわけではない。できることならこの世界を我が手中に収めたいものだが……そんなことをしなくても『現状』で十分だ。
ハンターはいない。教会も無い。クサイ言葉を使えば強敵(とも)は沢山いる。
覇者になるべく幻想入りしたものだが、丸くなったものだな、と心で微笑む。
こうして我が最愛の従者で可愛い愛娘と(本人を子供扱いすると怒るが)、散歩できる今が幸せでならなかった。怖いくらいに。
瀟洒な従者は汗一つ掻かず主に影を提供していた。
何故飛ばないのですかと主に問うと、んー……暇つぶしよ、と仰る。
某道具屋(専らよくわからないが)に作らせた特注の傘はどういうわけか軽くて丈夫。
何でも、防弾繊維(ケブラー)使用とか意味のわからないことを言っていたが、『日傘』としては十分だ。私も主もスッポリ収まる。
こうして残暑の中でも涼を得ながら二人で並んで歩けることは幸せだった。他愛無い雑談ができる。
ずっと続けばいいのに……永遠を求めるのは、月の民から言わせれば罪らしいが知ったこっちゃない。
お前らの持論など、犬に喰わせておけ。
数分歩くと山道に入る。
何故この神社は変な構造をしているのか、幻想郷に住む者なら誰でも思う謎であった。階段と鳥居が東向き。
わざわざ獣道を登らなければ神社に着かない。そりゃ参拝客だって高が知れるだろう。
木々が影になってくれる為、一気に駆け上がり神社にを目指す。
博麗神社。
境内には巫女と魔女と小鬼がいた。
「ハロー。素敵な巫女さん」
「あら、白昼夢遊病の吸血鬼さんにそのわんこ。いらっしゃい」
言ってくれる。だが、そこに惚れたのよ。
「おう、レミリア。また茶でも集りに来たのか?」
「アンタと一緒にしないで頂戴。咲夜、茶菓子をくれてやりなさい」
「はい」
咲夜は何処から取り出したか、紙袋を魔理沙に渡した。
「お! ドーナッツじゃん。メイドさんの手作り?」
「そうよ、小鬼さん。お酒には合わないんじゃないかしら」
「ニハハ。魔理沙、頂戴!」
魔理沙と萃香は、お茶だ!と家主の許可を取らず神社の中へ上がっていった。
霊夢は溜息をつき、レミリアにぼそっと注意した。
「まったく、勝手にペットに餌を与えないでよ」
「あら。何時からペットにしたのかしら?」
「何処からか取って来たものを神社に隠すようになってからよ。
自分の家がいっぱいだからって神社(ウチ)に埋めるのは止めてほしいわ……犬じゃあるまい」
「何で私を見るのよ。しかもその理論なら香霖堂だってそうでしょ?」
霊夢がジト目で咲夜を見る。
「アンタくらい忠犬なら私としては嬉しいのにね」
「あら。じゃじゃっ子な犬の方が面白みがあるじゃない」
「私は瀟洒犬がいいわ」
咲夜が困惑する中、赤色コンビはフフフと笑う。
「咲夜……中でお茶してきなさい」
「……畏まりました。何かあれば御呼び下さい」
「ありがと」
日傘を主に渡し、一瞬にして消える咲夜。見慣れたものか、二人は動揺しない。
「さて……巫女さん」
「何よ。嫌らしい御誘いなら、お断りよ。私はか弱い人間だもの」
「『電話』、借りれるかしら?」
「スルーすな……紫の許可は?」
カード状の何かを渡すレミリア。
「……いいわ。来なさい」
「ありがとう、霊夢。お賽銭奮発しちゃうわ」
霊夢はソッポ向いたまま手を上げ、歩き出した。
向かうは鳥居。巫女はあのよくわからない袖(?)から鍵を取り出し、鳥居右足の裏に回った。
何かしているようだがレミリアは見ない。野暮な詮索はしない。それが『博麗』ならば尚更だ。
誰も彼も現状を満足している……まあ、嫌がってるオールド共もいるのだが。
下手な探り合いは平穏を脅かす。幻想郷のバランスが崩れることは殆どの住人が望んじゃいない。
もし刺激が欲しいなら異変を起こせばいい、又は解決すればいい。
兎に角、口火が無い限り異変以上の莫迦は起こさない。それが幻想郷で暮らす上での暗黙のルールだった。
一分弱待った頃、霊夢の声がした。
「―――はい、お久しぶりです。サー……はい、ご令嬢から……はい、今変わります」
裏から顔を出し、目でこっちへ来いと訴えた。レミリアは頷き、霊夢から受話器を受け取る。
霊夢が去り際に、20分よ、と耳打ちした。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「お久しぶり。お父様」
「久しぶりだね、レミリアちゃん。元気してた?」
電話越しから聞こえてくるは、今は会えない父の声。サー・スカーレットその人だった。
「ええ。お父様は?」
「最近ちょっと太ってね……母さんのご飯がおいしいのがいけないんだよ」
万年バカップルが……周りが引くほどアツアツである両親二人。
「フランちゃんは? 変りない?」
「まあ、以前より社交的になったかしら。外に出たがるから大変よ」
「ククク、困った子だ。父さんが多額の慰謝料、八雲さんから搾られるからいい子にしてくれと伝えてく れないかい?」
「自分で言って頂戴。お母様は元気?」
「うん。昨晩もなかなか寝かせてくr」
「そこまで! 娘に聞かせる話じゃないわ……この歳で二人目の妹なんて、周りにどんな顔されるかわか んないから止めてよ」
頭を抱える手が空いて無いので、鳥居に頭をぶつける。
「それで、レミリア。本題はなんだい?」
「あ、ええ。忘れるところだったわ。定期報告です……大頭領」
「うん。いつものようにファックスでよろしく。お金には困ってないかい?」
「多少……此方の住人が定期的に館に大出力魔法ぶっ放してくれるので。
加え、フランのやんちゃ代です」
「わかった。予算を見直すよ。こちらは余裕あるから」
卿は軽く言う。
「外の事業はどうなってるの?」
「ああ。まあ地元(ルーマニア)は、ヨーロッパ連合入ったから隠れ蓑には向かなくなったね。
中国やロシアの方で成功してるからいいんだけど……イタリアの連中がいい顔しないね」
「ローマの?」
「いいや。パレルモ(シチリア)の連中らさ。私のシマで薬を売りたいらしい。無論、門前払いだがな。
……レミリアちゃん! 薬はダメだよ!」
「はいはい、わかってるわ。『薬』は薬屋にお任せしてるから。アメリカ大陸には?」
「まあ……夜の生き物にとっては鬼門だからね。ネイティブの妖怪達、最近ヨーロッパ圏やアジア圏に疎 開してるんだよ。
まったく……昔は住みやすいと思っていたんだがね。
事業の方でしか顔出さないよ。極力居たくない。アメリカ亀の手裏剣が怖いからね」
くだらないジョークが聞こえる。
「そういえばドバイにホテルを建てたんだ。いつか皆で遊びにおいで。
君の言う『娘』さんにも会ってみたいからね」
「ええ……あの子が生きているうちに外にいけたらね」
「ああ。美鈴やパチュリー君も変わりないかい?」
「アニーとパチェは相変わらずだけど……美鈴は変り過ぎよ。昔からああなの?」
「どんなんだい?」
「昼寝過ぎ。平和ボケしすぎ」
「ハハハ! 彼女らしい」
「ったく、人事だと思って……」
「わかった。本人に手紙を出しておくよ」
大陸にて、八雲の九尾と同等に恐れられていた大妖……と思えないほどのグータラ。
「近いうち、日本に行くから。八雲さんにお土産、預けるよ」
「日本に? どうして?」
「ああ……ベアードの旦那と御大将殿が会合するらしくてね。八雲さんも同席するらしいけど」
「ぬらりひょん? なんで?」
「さあ? ま、近くなったら手紙を送るよ」
それから暫く談笑した。
お母様のこと。執事長のこと。フランドールのこと。咲夜のこと。北欧の神々へ挨拶に行った時の話。館の増強工事の予定。車を買い換えたこと。
ギリシャ政府から海賊退治の依頼が来たこと。携帯電話のプランを変えたということ。
他にも他愛も無い話を時間いっぱいまで続けた……
数分後、霊夢が向かってくるのが見えた。
「―――そう。お母様によろしくね」
「うん。フランちゃんにもよろしく。手紙を書くよう言ってくれ」
「分かったわ……じゃあ、巫女に」
電話を霊夢に渡した。
「どうも。お話は以上で?……ええ、はい。レミリアさんもフランドールお嬢さんも良い子です。
幻想郷に来る御予定は……ええ……はい。わかりました。それでは、いつもの口座に……はい。
ごきげんよう、サー」
霊夢は声色を変え、『電話』を切った。
「ああ、肩凝る。どうしてこう貴族連中は高飛車な話し方するのかしら」
「道化を演じられる貴女も……なかなか、どうして、ね。やはり、幻想郷(ココ)と外とじゃ、お勝手が 違うのかしら? 博麗さん」
「……探り屋は、長生きしないわ。お嬢ちゃま」
一向にレミリアの顔を見ず低い声で淡々と言葉を投げる霊夢。
「オーライ。帰るわ」
「宜しい……お布施があると尚宜しい」
「貴女の所の神様には一杯どころか煮え湯を飲まされたのだけど……それでもかしら」
無言で賽銭箱へ向かう二人。
霊夢は何も言わない。皮肉を込めてあの悪霊の話をしてやったのはいいが、癪に障ったか。
数歩、また数歩……霊夢は賽銭箱に腰掛けて人間の声でこう言った。
「莫迦言わないで。アイツはウチの神でも無ければ、悪霊ですら無い。最早、只の『精神』よ。
私はね……今、いない、奴の話をされるのが大っ嫌いなの」
まるで、白木の杭を八方から突き付けられている気分だった。
霊夢の甘い声で何でも無い……悪意の無いナイフを突き立てる何かは、レミリアの頬を撫で、のたまった。
「貴女がするお布施は、『私』に対して。そこから如何お布施が進むかは貴女の知る所じゃ無い……
それ以上でも 以下でも無いわ。
それとも行き先のわからない電車の切符は買いたくないかしら?」
「……『博麗』には関わるな。いや、手を出すな。だったっけ?」
「ふふ。珍しい。ブルってるの? お得意の『運命』にでも頼れば?」
「……もういい」
これ以上、この蟲惑的な何かの声に踊らされたくは無かった。
人間の癖にやけに化け物じみている。そう感じるのは幻想郷の妖、神、幽霊、宇宙人……殆どだろう。
レミリアは咲夜、と一言呟き我が屋敷のある方角を向いた。数秒もしないうちに従者が現れる。
口の周りにドーナッツの残り滓が付いて無ければパーフェクトなのだが。
「帰るわ……適当に賽銭入れてきなさい」
「はあ……じゃあね、霊夢。早く行かないと全部食べられちゃうわよ」
咲夜が来た途端、けろっと笑顔に変わり自分の口元を指差し、咲夜のドーナッツ滓を指摘してやる霊夢。
瞬間、口周りは綺麗になっていたが真っ赤になっているメイドさん。
どうも、と賽銭箱にお札を何枚か入れてやった。
「毎度♪ じゃあね。レミリア、咲夜。お気をつけて」
「……グッバイ。シャーマンさん」
ニヤニヤ笑う霊夢の視線が、気持ち悪く感じられて仕方なかった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
一方、図書館ではまだ酒盛りが続いていた。
「でさぁ……みすちーったら、空飛ぶ円盤見たって五月蠅くてさぁ」
「チルノちゃんもダイダラボッチ見たって言ってたわ」
「おツムが足りない連中はしつこいですわねぇ」
まず知的には見えない。ベロンベロンになっている三名。
在られも無いこの姿を上司が見たら一体どう思うだろうか。
「いやー……でも、ジャスティスはマリアリなんだって」
「パチュリー様に決まってるでしょ。ぶっ飛ばすわよ」
「貴女達まるでわかってませんわ……こあ、火を」
「ん……あれ」
一体何の話をしているのだ?
アネティスが煙草を咥えたまま火を要求するが、小悪魔は机に突っ伏したまま後ろの壁紙を指差した。
『館内火器及び弾幕厳禁。特に妹様・黒白byぱちゅりぃ』。
無駄にクオリティーの高いポスターがデカデカ壁一面に貼ってあった―――
チチチチチチチチチチチ……
―――が、次の瞬間……高速で弾が小悪魔の頬をグレイズし、続いてポスターがぶっ飛んだ。
「……」
「Hey please(寄こせ)。」
渋々、魔法で火を点してやる小悪魔。
「はぁ……二人とも。もう日が落ちて来たんだけど、仕事はいいの?」
「……あぁ。忘れった」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
更に所変わって、図書館よりさらに地下。
少女はベットに転がりながら考える。楽しいことを。
頭の中で遊ぶ。お外を想像する。お姉様とお茶をする。パチュリーに面白い本を借りる。咲夜に新しい服を買ってもらう。美鈴とお散歩する。
魔理沙の箒に乗せてもらう。霊夢の膝の上に乗る。アリスに可愛い人形を貰う。一枚だけ、としつこい文を追っ払う。
外の世界のお父様とお母様の顔を思い出す……
そして……飽きる。
「魔理沙、来ないかなぁ」
前に持ってきてもらった漫画面白かったな。外の世界は空飛ぶ車が行き来するようになったのかな。
そういえば、魔理沙は意外に少女漫画が好きなんだっけ。ガサツに見えるけどキチンと乙女してるんだから。
相手は……パチュリーかな? アリスかな? やっぱ霊夢……いや、実はあのナヨナヨした香霖堂店主かもしれない。
私だったら……なわけないか。
くだらない妄想も飽きる。
「パチュリーに借りた本は……」
『君主論』。『幻想を捉える』。『古事記再編』。『楽しく創ろうラ○ダーシステム』。『任せて安心!魔界神』。
……全部読んじゃった。
「そうだ! 図書館、行こう」
手に持っていたぬいぐるみをブン投げ、ベットから飛び起きた。そのままいつもの杖を持ち扉へ向かった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「ただいま……美鈴。ああ、わかってる。みなまで言うな、シエスタだな。
ん? 今日は仕方ないから? 暑かったですし、チルノ達と湖で遊んできて疲れたのか……
何故謝る? 悪気があるのか? え?
平和だからですよ……だと。ほう、それならば久しぶりに稽古をつけてくれないか。
肉弾戦じゃない、弾幕戦でだ。私は人間にすら勝てないからなぁ、教育係殿。咲夜も一緒にだ。
いや、土下座なんて一銭の価値も無いんだよ。頭を上げろ。
あと……伝言だ。『美鈴、減俸。どうせ使ってないんだろうから構わないよね?』。
え? 涙が出るほどうれしいか! そうかそうか……じゃあ、夜勤『も』頑張ってくれ。
シフトじゃない? 知らないよ。とりあえず、後は咲夜よろしく」
レミリアは門番に労いの言葉を告げ館へ入って行った。
西日が強くてイライラしていたが、それよりなにより巫女から頂いたプレッシャーが芯の臓に絡みついていてムカムカしていた。
後ろからソプラノ歌手が狂ってシャウトしたような悲鳴が聞こえたが、気にしない。
さて、この後はどうしよう。
「そういえば、今日はまだフランの顔を見てないわね」
基本朝型の吸血鬼のレミリアに比べ、規則正しい夜行性のフランドール。本人らは別に何時行動しようが問題ないが、いつからか習慣づいてしまった。
決して、妹が寝てる間笑顔を見てニヤニヤしたり、ドロワーズをクンカクンカする為ではない。
とりあえず夕方くらいには共に起きている。フラン分を摂取しに行こう。夕飯まで時間はある。傘立てに傘を置き、地下へ――――――
ドー――ーンッ……
―――ああ、今日はフラン『あの日』かしら……レミリアは頭を抱えた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
数分前。
「パチュリー。お邪魔するよ」
フランドールは階段を上り図書館の前にいた。読み終えて返してなかった本と杖を抱えて。
薄暗い廊下だが吸血鬼の眼はそんなの関係無い。数分歩けば図書館に着く。
返事を待たずに館へ入った。
「パチュリー。こあ。居ないの?」
いつもパチュリーが座っている執務テーブルには誰もいなかい。辺りを見渡し、司書室の方に三つ熱源反応を見つけた。
フランドールはそこに向かってテクテク歩いていった。
そこにいたのは……なんともふざけた格好の副長達だった。
「こあ……本を……」
声をかけていいものか悩んだが、フランドールは小悪魔を呼んだ。
「ん……おかしいな。フランドール様が見える」
「おいおい。莫迦言え。テキーラ一気飲みなんかするからだ……あれ?」
「貴女達、頭沸いたの? フランお嬢さまがいる……いらっしゃい、ます、わ、ね」
場が凍る。
小悪魔は酔った頭で考える。
今現場責任者は私。パチュリー様に見つかるならまだしも、何故フランドール様に。
もし、咲夜さんにばれたら……いや、お嬢様にばれるやもしれない。お説教で済まされないかも。
もしかしたらお仕置き?いや、直接フランドール様が手を下されるかもしれない。
命に関わるじゃない!? どうするどうしよう私。
フランドールは考える。
見るからに際どい恰好の三人。テーブルの上に散らかってるのは、どう見てもお酒と吸殻。
えっと……こういう時はどうしたらいい。怒るべきか……いや、頭ごなしに怒っても普段迷惑かけている私がそんなことできない。
でも、ここ図書館よね。誰かに言うべきなのかしら……でもそんな告げ口する嫌われ生徒みたいなことしたくないし
……どうするどうしよう私。
「ふ、フラン様!」
「はい!」
月花の声に敬語で答えるフランドール。兎角、四者皆パニクっていた。
「あの! 一杯如何です!?」
苦し紛れにも程がある。小悪魔とアネティスはダメだ……と頭を抱えた。
が。
「え……いいの?」
「「え?!」」
予想外。
無論、フランドールにとっても予想外だった。まさか自分に酒を勧めてくるとは微塵も思っていなかったのである。
普段レミリアと一緒に少量のワインくらいしか飲まない。
たしかに他の酒にも興味があるが……一番の理由は、あまり事を大きくしたくなかった。故に月花の言うことを聞いた。
「も、勿論! な。お前ら!」
「え、ええ。ドレになさいます?」
「ワインぐらいしか飲んだこと無いかな……アニーに任せるよ」
果たしていいのだろうか……小悪魔は余計混乱した。
アネティスはフラフラ新しいグラスを持ってきて焼酎水割りを作った。
「白ワインみたいな色だね」
「ま、まあそういうお酒ですわ。安酒ですが、どうぞ」
フランドールはグラスを受け取った。一口チビっと……
「苦い……」
「すいません! おい! アニー、てめぇフラン様のお子様舌考えろ!」
「ユファ……本人の前で……」
しかし、折角だ、とそのまま飲み続けるフランドール。三人はハラハラが収まんなかった。
「うー……ごちそうさま」
「お、おお! フラン様イケる口ですね! まだまだイケますか!?」
「ちょっと! ユファ!」
「そ、そうかな? じゃあ、もう一杯だけ」
小悪魔は嫌な予感がしてならなかった。
例えるなら……新入生の歓迎会で粋がっているDQNを、悪乗りした先輩が無理やり潰そうとしているような。
何を考えてるのかわからないだろうけど、私も酔っていて何を思考しているかわからないよ、的な予感。
今度は月花が甘めの果実酒をロックでフランドールに渡した。
「綺麗な色だね」
「美鈴隊長から頂いたお酒です! 隊長が作ったそうですよ」
「へえ、メイが……さっきのよりお酒臭くないね」
今度はすんなり喉を通った。
「うん。甘いね。でも粘っこくない」
「流石フラン様! 良い飲みっぷり!」
「あらぁん、レミリアお嬢様よりも強そうですわ」
アネティスまで拍車をかける。
小悪魔は気付いた。こいつら、酔わせて忘れさせるつもりだな。
自分は乗るべきか、反るべきか……小悪魔の頭上で善い悪魔と悪い悪魔が戦っていた。
「あ、あの。フランドール様? それで御用があったのでは?」
「ん?」
……ぎりぎり理性(善い悪魔)が勝った。
「あ。そうだった……なんだっけ?」
「パチュリー様に用があったのでは?」
「あ! 本を返しに……」
「まぁ! フランお嬢様、グラスが空いていますわ。次はどんなお酒が御所望で?」
「こあ……オマエも呑もう……ナァ?」
貴様ら! やはりその気か!
小悪魔は負けじとフランドールが持ってきた本を拾う。
「随分溜まってましたね! えっと、今回はどのような本がいいでs……んが!」
「ほら! 呑めっつてんだろ!」
「はい、フランお嬢様。ちょーっと強いかもしれませんが、どうぞ」
「う、うん。ありがと……こあ、いいの?」
月花が小悪魔の口にウィスキーのボトルを突っ込んだ。
抵抗するも所詮内勤の司書使い魔風情が、外勤の体力勝負妖怪に勝てるわけがなかった。
キュー……と目を回し、バタっと倒れた。
「ったく……気にしないでください、フラン様。こいつ酒弱いんでっさ」
「それよりフランお嬢様の一気、見てみたいですわぁ」
「え?」
「お! いいですね!」
一気。確か一気飲みのこと。
お姉様曰く、あんなの下賤な愚民がする行いよ、らしいが……
「でも……お姉様は静かに風情を楽しみながら呑むのがお酒だって……」
「ワインとグレープジュースの割合、1:2のレミリアお嬢様とこれだけお酒を飲む私達……」
「どちらが正しいとは言いませんが……できたら、黒白も褒めてくれるだろうなぁ」
「え……魔理沙が?」
「はぁい! あの子だって一気くらいしますわ!」
「そ、そう? じゃあ……一回だけね?」
「「ええ! 是非!」」
アネティスと月花は、しめしめとコールを送る。
フランドールは、あの程度のお酒で酔っ払って(悪魔でフランドール主観)自分のスカートの中にダイブしてくる姉と、
これだけの酒をミルクのように飲み込む二人を比べた。
確かに、お酒についてはこいつらの方が上だ。何より魔理沙もしたことあるなら……
フランドールはコップを両手で持ち、一気に傾けた。
「うお! 良い飲みっぷり! ……ところでアニー」
「何」
「何飲ませた?」
「ん」
ボトルを掲げる。
『鬼殺し』。
「おめえは阿呆か!! 吸血『鬼』に何飲ませてんだ?!」
「純粋種の鬼じゃないから大丈夫でしょ? 仮にも祖の血縁よ」
「でもなぁ……」
フランドールを見る。
別段以上は無いようだが……
「っぱぁ!……っく……うー……頭痛い」
「お、おお! フラン様! お見事!」
「だ、大丈夫ですか?」
不安になったアネティスがフランドールの様子を確認した。
「あれ? アニーが二人いるよ……ユファも二人……」
「フランお嬢様。少し飲み過ぎましたわ。お部屋までお連れします」
「ベットで横になれば気分も良くなりますよ」
当初の予定通りにはなった。あとは小悪魔を起こし、此処を片づけねば……
「私も人数合わせるね」
「「え?」」
――――――禁忌「フォーオブアカインド」――――――
フランドールが四人となりました。
「いやいやいや! フランお嬢様! もうお片づけしますから!」
「やべえぞアニー……フラン様、スラムのジャンキー並に眼が危ねえ」
嘘だろと動揺を隠せない二人。
「何だかね……」 「最ッ高に……」 「ハイなの……」 「あのねえ……」
「「「「遊ビマショ?」」」」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
研究が一段落し、アルコールランプの火を消した。
何時間経ったか……今日は朝から没頭していたから喉が渇いた。少々お腹も空いている。
そういえばいつだか薬師に言われた。
私達研究者ってのはどうも缶詰が好きらしい。だからって食も缶詰で済ましちゃいけないわよ……只でさえ、貴女貧弱なんだから、と。
余計な御世話だ。貧弱なんじゃない。生まれつき喘息なだけだ。腹筋を見せてやろうか。月のイルナメイトくらい堅いぞ。
パチュリー・ノーレッジは誰がいるわけでもないのにブツブツ唱えた。ふと、自分の腹の虫が鳴いているのに気付く。小悪魔に何か持ってこさせるか。
「こあ……ん?」
おかしい。魔力供給(パス)が歪んでる。
「こあ。どうしたの?」
やはり返事は無い。仕方ないなと席を立ち、己が足でラボから図書館へ向かおうとした―――
ドー――ーンッ……
―――が、とっても嫌な音がした。
「……お仕置きが、必要かしら。莫迦悪魔」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「おいおい、どうするよ……こいつぁお仕置きじゃすまねえかもよ」
「口はいい。まず頭を動かしなさい」
案の定、妹様は性質が悪い酔いかたがをされる方でした。
フランドールは四体となり、うふふ……と不気味に笑ってる。偶にしゃっくりしながら。
二人は考えた。まず今すべきことは何か。
第一優先、フランドールを刺激しないこと。第二、部外者に気付かれないこと。第三、テーブルの上のボトルの山を隠すこと。
となると……片方が囮だ! 両者手を振り上げる。
「ジャンケン―――」
月花、グー。
アネティス、グー。
「あいこで―――」
月花、パー。
アネティス、パー。
フランドールA、グー。
フランドールB、グー。
フランドールC、グー。
フランドールD、グー。
「「……」」
「私の負けね?」 「じゃあ……」 「私達が鬼!」 「30……29……28……27……」
まさか、なんで……どういうことなの……
フランドールDがカウントを続ける。アネティスは叫んだ。
「フランお嬢様! これは遊びではないのですわ! ちょっと、役割分担を―――」
「RPは大事よね?」 「私は悪役!」 「19……18……15……17……20……あれ? 今なんだっけ?」
ダメだ。言葉が通じない。加えてまともにカウントできてない。
二人は目を合わせた。逃げるか? いや、被害は広げるべきではない。パチュリーには悪いがヤるならここで!
刻一刻と死のカウントが進む中、覚悟を決めた。
「6……10……ああ、もういいや。5、4、3―――」
「フラン様! 御免仕る!」
「先手必勝ですわ!!」
――――――銃剣「バレルオブナイフ」――――――
アネティスが符を告げ、同時に月花が弾幕を張った。ドサクサに紛れてテーブル周辺も全て吹っ飛ばす。
正直、フランドールとまともにヤって勝てるわけがない。だったら、汚いも糞も無い。
一気にコンティニュー不可にする。
クナイ、ばら撒き、レーザー、中弾……辺り一面弾幕一色。
「……どうだ?」
「まだですわ! 本棚を盾に、攻撃を休めない!」
煙が晴れる。
ゆらりと、ゆらりと、B級映画宜しく可愛い吸血鬼が近付いてくる。
一人は消せたのか、三人のフランドールが二カっとわらった。
「酷いなぁ……ルールは守らなきゃ。ね?」 「ああ! いつの間にか二人ともイッパイ増えてる!」 「2、1……はーじめ!」
フランドール三体は、せーの、と弾幕を撃ってきた。いくらか在らぬ方向にも撃ってるが。
「畜生! おい、小悪魔! 起きろ! 死ぬぞ!」
「月花! 前見なさい! 知らないうちにピチュっちまいますわ!」
「ああ! フラン様! パチュリー様に怒られます! ゲームはまた今度……」
「だめー! コインは何枚?」 「それ! 大玉だ!」 「あはははははははは!!」
月花は半ベソかいた。アネティスはFuckと煙草を咥えた。
本棚をバリケードにし、隠れては撃ち、本棚を壊されては積んだ。フランドールの攻撃が休まる気配は無い。
月花は腹を括った。
「アニー! 前に出る! 二体分キープしろ!」
「無茶を!」
「抑えるだけでいい! 確実に潰したら次の一体行くから!」
「Shit! 行きなさい! 体力莫迦!」
「応! ヘヴィなロックで援護頼むぞ!」
フランドールの大玉が前列の本棚を吹っ飛ばしたのと同時に、月花が飛んだ。
「フラン様! メタルはお好きで!?」
「あはは! ユファ! お得意の格闘希望?」「いいわ。乗ってあげる!」
「おっと残念。先着一名でさ!」
「それじゃあ私が! 幼稚園児のお遊戯会レベルだったら、ドカーンだからね?」
一人のフランドールが喰いついてくる。月花はスペルを宣言した。
――――――拳符「中鵬拳」――――――
掌でフランドールの顎をグレイズさせる。フランドールは驚き後ろへバックステップを取った。
「ちぃ!」
「勘弁! さあ、紅美鈴が一番弟子! 門番隊副隊長、月花! 推して参る!」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
妖精さんが私を呼んでいる。
え? 待ってよ妖精さん。どうして服を着てないの? 妖精は生まれた時から裸だよ……だと?!
うふふ、じゃあ本来、大ちゃんやチルノちゃんも……え? あ! 大ちゃん!
丁度よく貴女のことを想っていたの! こっちおいで! どうして逃げるのかな?
そうだ! 飴ちゃんあげよう。ほら。そういえばね……
妖精さんは服を着ちゃいけないんだってよぉ。どうして大ちゃんは素敵なおべべを来ているのかな?
きっと悪いお兄さん(又はお姉さん)に着せられたのね! こあちゃん許せない!
今その拘束具を小悪魔お姉さんが剥がしてあげるよ……え? 私は偉大な精霊だからだって?
いやいや嘘はいけないよ、大ちゃーん。妖精さんは悪戯好きだからしょうがないかぁ。
よし! お仕置きしなくちゃね! とりあえずそのサイドポニーを降ろそうか。
そして流れるような翠の髪をクンカクンカ……あれ? 紫?
おかしいな? 確かに大ちゃん華奢だけど、こんなにガリマッチョなモヤシ体系だっけ?
それに着やせボインなわけが……
「起きろこの妄想夢色情変態淫売悪魔。何時まで寝っ転がってるつもりなの?」
……紫モヤシの罠か!?
「フンッ!!」
図書館館長から現場責任者へ攻撃。ボトルで殴る。
ボトルにクリティカルヒット。ボトルは粉々になってしまった。
小悪魔はアバロンから現実へ引き戻された。
同時に目の前が真っ暗に……なりそうだったが、上司がエクソシスト教本を構えているので出来る女モードに切り替わった。
「パチュリー様。大変なことになってしまいましたね……」
「じゃかあしい。何で他人ごとなの? 現場責任者」
状況を確認。
フランドールが三体。副長二人が応戦中。
月花が一人に格闘戦、アネティスが残りを弾幕で牽制。
図書館……半壊。
「……どういうことなの」
「あの、ですね。これには小学校低学年用プールより深いわけが……」
パチュリーが近くに転がっていたグラスを拾った。
「何かしら、これは? 此処でコレを呑るなと……言い付けてたはずよね?」
「Ya,Yes!Mam!」
「こあ……貴女達、フランにお酒をヤッタノ?」
小悪魔は少々チビった。
「ふん。まあ、今はいい。コイツをどうにかなさい!」
「え、あ、はい! あの……パチュリー様は……」
「私に貴女の汚いお尻を拭かせるつもりかしら?」
「いやん」
「ていっ!」
パチュリーはグラスを投げつけた。小悪魔はゴキブリのように避けた。
「避けるな!」
「無茶な!」
―――コンッ!
「痛!」
とても小さな音がした。しかし背筋が凍るような声もした。
小悪魔はギギギと音を立てながら後ろを向く。
「あ、こあ見っけ!」 「パチュリーもいた!」
「「……」」
「こあ! 何やってんの! 早く手伝いなさい!
パチュリー、申し訳ないけど今は何も言わず手伝ってくださいまし!」
一体のフランドールがこちらに近づいてきた。
パチュリーは盛大な溜息をついた後、フランドールに向き直った。
「……おはよう。妹様」
「あら? 今はもうこんばんわよ。パチュリーったら間抜けね」
「どうして、『私の』図書館が『私が』居ないうちに、こんなことになってるのかしら?」
「んー……なんでだっけ? あはは」
「質問を変えるわ。何故、図書館へ来たのか―――」
「えっと、確かね……本を……本を……あれ? 思い出せな―――」
「―――あらよっと。拘束魔法(バインド)」
きったねえ、この魔女。小悪魔は心の中で軽蔑した。
「さて、続き。本をどうしたの?」
「酷いよ! パチュリー!」
パチュリーは水符をチラつかせた。フランドールは小さく、ヒッ、と悲鳴を上げた。
「応えなさい、フラン。Hurry!」
「え、えっと……返しに来たの!」
「本を……そう。じゃあ何故、弾幕ごっこしてるのかしら?」
「み、みんながいっぱいに見えて……それで……楽しくなって……」
「壁紙は見えなかったかしら」
「そんなの無いよ……」
莫迦な。壁一面サイズだぞ?
パチュリーは壁を見た。見事に無くなっている。何やら下に焼け焦げた『何か』が有るが……
「こあ……」
「え、その……てへ☆」
小悪魔が宙を舞った。
パチュリーはフランドールに向き直る。
「……おしまいよ。『みんな』で此処、片づけなさい」
「……やだ」
「は?」
次の瞬間、拘束していたフランドールが消えた。
「ばーか! 悪魔『小悪魔シールド』!! なんちゃってぇ」
吹っ飛ばしたと思っていた四体目のフランドールが上から奇襲をかけて来た。
事もあろうか一寸前アッパーカット喰らわせた小悪魔を盾に。
舌を出し挑発する酔っ払い吸血鬼。その様子に二人も気付いた。
「こあ!」
「小悪魔!」
「あら、余所見は……」 「……いけないよ!」
「「クッ!」」
月花もアネティスも自分のことで手一杯。手助けできる余裕など持ち合わせていなかった。
「ははは! これじゃ攻撃できないでしょ!」
「……ク」
パチュリーはダンマリ決め込んでいるように見えた。
「それじゃあパチュリー! さっきの仕返しよ! 本当に怖かっt―――」
「ふふ…ククククク……あははははっははは!」
「―――パチュリーが壊れちゃった……」
今や、絶滅種の三段笑いを決めるパチュリー。
苦労と部下に恵まれ無さ過ぎて、頭がジャンクになっちゃったのか……とフランドールは同情した。
「フラン……いえ、妹様。美鈴の兵法の授業、真面目に聞いてましたか?」
「は?」
「三つ」
パチュリーは指を三本立て、符を構えた。
「一つ。奇襲をかける時は声を出すな。気付かれたら、Miss」
「……だっけ?」
指を一本曲げ、浮遊する。
「二つ。FourManCellならリーダーは……ココで言うのは本体です。姿を現してはいけない」
「え! なんでわかったの?!」
「やっぱり」
「か、カマかけたね!」
「それだけじゃないですよ。妹様のことだから、私が出てくるまで本体を温存しておきそうだなと。
まあ、確かに『切り札』の切り方としては及第点ですね」
「ちいッ!」
更に一本曲げ、詠唱を開始する。
何故か奥から月花とアネティスの声がした。
「フラン様! こあ! 逃げろ! この……邪魔すんな、分身が!」
「―――小悪魔! 起きてるんでしょ! 脱出なさい!」
フランドールは混乱した。何故、逃げろと? 優勢なのは人質を取っている此方のはず!
「……フランドール様」
「こあ、起きてたの? 一体これは何?!」
「三つ―――」
「それはですね―――」
小悪魔は涙を流しながらパチュリーとシンクロした。
「「人質を取る時は……二人以上いない場合、相手にとって重要か否か判断して決めること」」
あまりのハモリっぷりにヒいた。更に言葉続く。
「「その莫迦(私)は、私(あの鬼畜魔女)にとって便所の糞を貪るゴミ虫より劣り、
かけ無しのカリスマにしがみ付く貴女の優柔不断な姉のプライド並に使えない、
『私』の胸や下腹部ばかり凝視する変態痴女淫乱悪魔なの(だそうです)。
おまけに、仕事はできない。人の判断を仰がなければ行動できない。すぐサボる。
召喚したのはいいが、例えるなら○スターボールで捕まえたコ○ッタのような、そんな存在。
クーリングオフできるなら倍払ってでも魔界へ返品してやりたい。
入れる紅茶はヘドロの様。入れるコーヒーは鉄錆びの味。作るお菓子は神でも殺せるほど。
戦略的価値と言ったら、それこそ敵の犬の下の世話でもさせなければ……犬に失礼だ。
ミンチにしてハンバーグにでもしてやれば敵の軍、いや国を滅ぼせる。
兎角、そいつ(私)は―――」」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
フランドールは逃げていた。同じ空間にいるキチガイ二人と同じ空気を吸いたくなかった。
「「―――残念。貴女の負けよ(です)、フラン(フランドール様)」」
「へ?」
――――――水符「プリンセスウンディネ」 ――――――
パチュリーは水符を発動した。
何処からともなく湧いてきた水はフランドールの本体を見事にぶっ飛ばした。
「きゃあああ!」
同時に分身達も消える。月花とアネティスはその場にへたり込んだ。
小悪魔は地面に落ちる寸前に浮遊。衝撃を免れた。
「はぁ……疲れた……」
「フー……眼鏡が割れましたわね」
「うにゃあ……」
只でさえ蒸し暑い図書館の中、本棚から昇る煙で余計暑くなった。
おまけに酔った勢いとはいえ、フランドールと熱く弾幕ごっこをした。もう、水風呂にでも入りたくてしょうが無かった。
パチュリーはフランドールに駆け寄り、様子を見た。
「……うゥ。気持ち悪いよぉ」
「大丈夫かしらね……ったく」
「パチュリー様ぁ。やっぱりパターンⅢは酷いですよぉ」
「あら。でも随分上手に自虐できてたわよ」
ぱっちぇとこあちゃんプラン・パターン。略してPPP(読み方、さんぴい)。
その三番目たるパターンⅢ……実はパチュリーが指を三つ立てた時、プランが発動していた。
勿論、フランドールの兵法は失敗だったが今回は敢えて『3』という数字を使った。
パターンⅢ。どちらかが捕まった時に使う精神的ブラフ攻撃。小悪魔が捕まった時は先のセリフを一字一句間違えず同時に発言する。
まず、相手は人質を捨てて逃げ出すようになっている。実は後十行ほど続くのだが、今回は控える。
もし、本当にもしもだが、パチュリーが人質に取られた場合、逆に溺愛主従を演じて精神攻撃をかける。
最悪、小悪魔が後追いするふりをして見せる。といったものだ。
「で……今回主犯はどいつ?」
ホッとしたのも束の間、審判の声がした。
「そ、その……」
「パチュリー。これは事故ですわ!」
「別にワザとじゃないんで……」
「そう……じゃあ、仕方ないわね」
三人は安心する―――
「しかし、貴女達……なんだか暑そうね。冷やしてあげるわ」
「「「え゛!」」」
―――できるわけがなかった。
「フラン以外の生命反応オートロック。本は濡らさないようにっと……さて、覚悟はいいかしら?」
「いやぁあああ!」←Lock...
「師匠(コーチ)! 助けてぇ!」←Lock...
「……Amen」←Lock...
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
音は地下からだ。まだ上に来てない様子。パチュリーが応戦してるのか?
レミリアは地下へ急いだ。
運命を見る暇も惜しい―――この時、見ていれば痛い目見なかったかもしれないが―――ので全力で飛んだ。
さっきから、音が小さくなっている。もしや、パチュリーが喘息で!
図書館の扉が見えた。下か、此処か……瞬時に戸の隙間から煙が上がっているのを確認し、蹴破って中へ突入した。
「パチェ! 大丈夫か!?」←Lock...
――――――水符「ベリーインレイク」――――――
「へ?」
レミリアは目の前に迫ってくる水柱が何なのか理解する前に呑込まれた。
「「「「ぎゃあああ……」」」」
そのまま、四名は地下のレミリア&フランドール専用の地下プライベートプールへ流された。
「『水葬』完了っと……やっぱりあのプール作ってから水符使いやすいわね。
さて、咲夜……さくやちゃーん!」
「なんだい、ぱっちぇん」
突然現れるメイド長。何故か帰り血が付いている。
「うむ二秒か……ごめん、片付けといてもらえる? ある程度でいいわ。残りはこあ達にやらせるから。
あと、フランをお願い。酔っちゃてるみたい」
「わかりましたが……お酒を?」
「莫迦三匹が無理やり飲ませたの……ったく。仕置きはいいわ。もうしたから」
「はい。ただ、あのサイズの本棚は私では無理かと……」
倒れている小ビルサイズの本棚を指差す。
「美鈴でも使いなさい。どうせ今日も一日中遊んでたんでしょ? 給料分は働かせなさい」
「畏まりました。フランドール様? 歩けますか?」
「んん。しんどー」
「では、失礼」
俗に言うお姫様抱っこ。何故か帰り血が増えていたが咲夜は瞬時に消えて、刹那に現れた。フランドールの代わりにスプラッタ映画の第一被害者の様な美鈴を持って。
「……生きてる?」
「うまい具合に急所を外してくれる辺りが咲夜さんの優しい所だと思うんですね……」
「やーねぇ、美鈴ったら。他人の前で恥ずかしいわ。褒めても何も出ないわよ?」
「……まあいい。美鈴、本棚立てといて。終わったら、残りは副長共にやらせるから」
美鈴は辺りを見渡す。
「……ラグナロク?」
「似たようなもんよ。私も研究片づけて、また来るわ。
あ、そうそう。咲夜ごめん、何も食べてなかったの。何か作ってもらえる」
「はあ。魔女でもお腹が空くんですね」
「人間のペースに合わせたがる当主様の所為で、定期的に何か入れないと調子悪くなるのよ」
「では……美鈴。此処任せたわ」
「ヤー」
各自作業に取り掛かろうとした時、咲夜が言った。
「そういえばパチュリー様」
「ん? できれば肉は止してね」
「はい。じゃなくて、お嬢様見ませんでした?」
「レミィ?」
はて……見覚えないな。美鈴は既に二つの棚を直していた。
「わからないわ。自室じゃない?」
「いや……地下に行った気がするんですが……気のせいかな」
「よいっしょ!っと……もしかしてプールで泳いでらっしゃるかも」
「フフフ、まさか」
浮き輪無しじゃ入れない癖に、と笑うパチュリー。
フン!と八つ目を起こしにかかる美鈴。
「ま、多分、お腹空いたらひょっこり出てくるわ。じゃ、野菜炒め丼キムチ味で宜しく」
「はい……では……あ。アニーは?」
「ドザえもん」
「アイヤ!……月花は?」
「ドザ・ザ・キッド。因みにこあはドザニコフ」
レミリアが王ドザであることは気付いて無い三人だった。
半分終えた美鈴は面倒になったか、逆ドミノの要領で大鵬拳をぶちかまし、見事全て並べた終えた。
「お疲れ。そろそろ、下のドザえもんズ引き上げて来て。あと、フランの様子もお願い」
「アイマム」
十分後、死神に三文払う手前だったレミリアを大急ぎで永遠亭に運んだのでした。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
後日。
パチュリーの紅魔館労働条約見直しにより、副長陣と美鈴は減給及び二週間の奉仕活動を命じられた。
御当主様は全治三週間の大火傷だった為、永遠亭に二週間のお泊まりコースとなってしまった為、当主代行としてフランドールが当主席に座っている。
本人は嫌だと言っていたが、パチュリーが上を立てておかないと他所から嘗められるから我慢しろ、と説得した。
事が過ぎてから一週間くらいが経過した日、フランドールは紫に頭を下げて姉の見舞いにいけるようお願いした。
すると―――
「あら、礼儀正しい。それに、その頭を下げられる勇気。貴女姉よりも頭に向いてるかもしれませんわね」
―――と笑われた。
兎角、スキマ経由で永遠亭に運んでもらった。
医者に挨拶をし、病室へ向かう。その医者(永琳)にも―――
「姉とは違って、純粋で可愛らしい吸血鬼ちゃんね。お姉ちゃんは別の意味で可愛いけど」
―――と言われた。そんなに似てないものか? 自分ではよく分らない。
紫は永琳とお茶してるから行ってきなさい、と診察室の椅子に座った。
一羽の兎に案内され、お見舞いの品を持ちレミリアのいる病室の前に着いた。
「しつれいしm」
「おい輝夜、今ズルしたろ! 何で2コマも動いてんのよ?」
「言いがかりもいいとこね。将棋じゃあるまい。チェスでそんなズルできないわよ……はい、王手」
全身包帯吸血鬼はスウェットの莱人とボードゲームをしていた。
「今度は何を懸けるのかしら? 門番のレンタルは一ヶ月になったし、貴女の妹のドロワーズは五枚目に なったわ。そんなモノ貰っても困るんだけど」
「何?! 咲夜や美鈴は喜んで貰うぞ!」
「ちょwww紅魔館オワタwww」
持っていたフルーツバスケットの取っ手を握りつぶすフランドール。
「ま、待て。ここはレミリアルールに則り、相手は死ぬべきだと……」
「はいはい。早くしてね。これから彼氏(もこたん)とデート(殺し愛)なんだから」
「くそー……ここで、チェス盤を引っ繰り返すぜ!」
「ひょい」
チェス盤を引っ繰り返し、輝夜にぶつけようとしたレミリアだが案の定回避された。
そして、バシッ!と扉の前に立っていた、麗しの妹君に当たった。
「「……」」
「……お姉様。これは新手の弾幕と捉えていいのかしら?」
硬直。
次の瞬間、何を思ったかレミリアは輝夜をホールドし盾にした。
「な、何やってんのよ?! 私まで巻きぞいじゃない!!」
「ふ、ふ、フラン! やれるもんならやってみなさい。コイツを傷つけたら外交問題よ」
「レミリア! 貴女、今自分がやってることが和平行為に思えるの?!」
確かに、面倒だ。
フランドールは溜息をつき、床に落ちた果物を籠に戻した。そして患者用テーブルにそれを置く。
「お見舞いにきたよ。大分、元気そうね。
……これは輝夜姫、御機嫌麗しゅう。姉がお世話になっております」
「え、あ……おほほ。こんにちわ。ミス・フランドール。お姉様と違って礼儀ができていますのね」
「フラン。こんな奴に頭を下げる必要は無いぞ」
肘をついてソッポを向く姉。
「文献にて、その御高名は聞き存じております。
今日は忙しいご様子ですので、いずれ御前の御話をお聞かせ下さい」
「……レミリア。この娘、ホントに貴女の妹?」
「多分……ねえ、先月私がかぶったフランのドロワの枚数は?」
「一二枚。内、二枚は破って、五枚は鼻血でおじゃん」
「本物よ」
輝夜はドンビキ。
「もっと、こう……やんちゃな性格だって聞いてたんだけどね」
「そちらの方が宜しいですか……では。
色々姉が迷惑かけてごめんなさい。パチュリーや魔理沙からお話は聞いてるよ。
これからよろしくね。輝夜お姉ちゃん」
どっきゅん。
「レミリア。この子、私に頂戴」
「ざけんな! フラン。ダメよ。こいつは雌狐だから。
おい。そろそろ彼氏のとこ行け」
「もう、意地悪ね。フランちゃん。いずれまた、お話聞かせてあげるわ」
「はい。楽しみにしてるよ」
バイバイと手を振り、部屋から出て行った。
「やれやれ……どうやってきたの?」
真面目な顔を作り(包帯でわからないが、雰囲気的に)フランドールに向き直るレミリア。
「ゆかりんに許可を貰って、送ってもらったよ」
「ゆかりんて……そう。貸し作っちゃったわね。館の方は? 変りない?」
「ええ。一応は」
籠からリンゴを取り出し、爪で剥きだすフランドール。
「あの……お姉様」
「ん?」
「三人のこと、怒らないでね」
「……なんだ?」
俯く妹。ああ、お酒のことかとレミリアは考えた。
「私が欲しいって言ったの。こあは止めてくれたんだけどね。
悪いのは私なの。ごめんなさい……」
「そう……わかったわ。どうせアイツらパチェにしぼられたんでしょ?」
「うん」
フランドールは剥き終えたリンゴを姉に渡す。
ありがと、と殆ど芯しかない果実を頬張るレミリア。
「今日はありがと、フラン」
「え?」
「妹にお見舞いに来てもらえるなら、入院もいいかな」
「もう……早く良くなってね。また、お茶しましょう」
「うん」
満面の笑みを姉に向ける妹。
姉も微笑み返す。包帯が鼻血で染まらなければ完璧だったが。
その後、少々雑談をして姉妹二人きりの時間を過ごした。
一時間もした頃、病室の戸が開いた。
「フランドール。そろそろ時間ですわ」
「あ、はい。じゃ、お姉様。安静にね?」
「ああ……フラン。ちょっと薬師の所へ行ってなさい」
「うん……じゃあね」
「ええ。一週間もしたら帰るわ」
フランドールは一礼し、部屋から出て行った。
フランドールが座っていた椅子に腰かけ、紫が切り出す。
「いい子ね」
「当り前だ。誰の妹だと思ってる」
「姉より礼儀正しいし……外交には貴女より向いてるわね」
「ふん」
再びソッポを向く包帯吸血鬼。
「今日は、ありがと。嬉しかったわ」
「あらら、意外ですわ」
「私だって礼ぐらい知ってる。兎に角、貸し一だ」
「ふふ、返してくれますの? 期待しないで待ってますわ」
「けっ。言うねぇ」
籠からブドウを取り出し、一つまみする紫。
レミリアも籠から梨を一つ掴んだ。
「で、何用?」
紫がフランドールを部屋から出した理由を聞く。
レミリアは梨をバスケットボールのように人差し指で回した。
「まあ、雑談だ」
「ほう。何かしら?」
「外はどうなってる」
「相変わらず。平和なところは平和。酷い所では殺し合い」
「違う」
回転している梨に爪を添える。
「外界の妖怪だ」
「……何故?」
レミリアの鋭い爪が皮と実の境界に滑り込み、見事に丸裸の梨を作り上げた。
「ベアードとぬらりひょん」
「……何処でそれを?」
「お父様から」
紫は掌に溜めていたブドウの種の有無の境界を弄る作業を辞めた。
レミリアの瞳を見る。
「……貴女には関係ありませんわ」
「月の……この前の一件が関わってるんじゃないだろうな」
「……違うわ。悪魔で『親睦会』よ」
レミリアは先の、俗に第二次月面戦争と呼ばれる、月への遠征を思い出した。
もしや、あれが月の民を刺激しすぎたのではなかろうか。幻想郷だけではなく外の世界まで迷惑をかけているのでは……そうなると非常に拙いことになる。
「もしかして、さっき輝夜とその話をしていたのかしら?」
「まあ、一つはな。どうなんだ?」
「月の連中はあの件を子供の遠足程度にしか見てないわ。貴女が気に病む必要は無いのよ」
「……今はオマエを信じる。何かあったら教えろ」
レミリアは剥き梨を均等に切り、手近の皿に乗っけ紫に渡した。
紫も種の無くなったブドウをレミリアの口へ放ったやった。
「兎に角、お大事に。暇ならこれでも読んでなさい。また来るわ」
「……来んでいい。じゃあな。フランをよろしく」
「ええ。任されて」
紫は立ち上がり『世界のUMA図鑑:二〇〇五年度版』をレミリアに渡した後、扉へ向かった。
「じゃ」
「おう」
部屋には一人、レミリアだけが残った。
……淋しいものだ。
「こほっ……」
咳をしても一人。
火山だか種だか言うこの国の詩人がそんな詩を謡ってたな、と外を見る。
紅魔館が恋しい。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
フランドールは館に戻り、自室のベットに寝っ転がった。
色々考えた。考えようとした。
でも、何も浮かばなかった。
時計の針だけが動いていた。
「はあ……」
溜息。
特に意味は無い。
ただ何かが自分の中から漏れた。
時刻は昼時。
そういえば、この前もこんな時間だったと振り返る。
当主代行といえど執務は全てパチュリーと美鈴に任せている。自分はお飾りだ。
お姉様は凄いな。ああ見えて、やる時はやるんだもの。
自分はお酒に踊らされて莫迦やって……なんだか悲しくなってきた。
お姉様は私に遠慮してる。お見舞いの時もそう。
もっと腹を割って話をして欲しいけど……無理だろうか。
―――トントン。
ノックの音が聞こえた。
「はい」
「失礼します」
小悪魔を先頭に月花、アネティスが部屋に入ってきた。
小悪魔はオドオドしていた。
「どうしたの?」
「あの……先日はすいませんでした!」
「いいよ、もう。パチュリーに尻叩かれたんでしょ」
「ですが……」
月花が前に出た。
「しかし、フラン様のお咎め無しではあたし達も納得がいきません」
「いいよ。私も悪いし」
「フラン様は悪くないです! 自分が無理やり飲ませたから……」
今度はアネティスが話し出す。
「多分、レミリアお嬢様もフランドールお嬢様が何もしなければ処罰を下しませんわ。
罰じゃなくとも何かしらのご命令を頂けませんか?」
「でなければパチュリー様にも許してもらえません! お願いします!」
「あたしらもできる限り実行しますから!」
三人は頭を下げた。
これだから狂信者はめんどくさい。しかし、姉も恵まれているな。
フランドールは考えた。如何な処分を下すか。どうせここで何も無しならまた喰いついてくるに違いない。今結論を出そう。
当主代行は三人の従者に向き直り―――
「あのね……」
―――審判を下した。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「世話になったわ」
「またいらっしゃい」
「二度と来るか……咲夜。行くぞ」
「はい。では」
永琳と輝夜に見送られレミリアは永遠亭を後にした。
「悪いな、咲夜。こんな時間に」
「いえ。問題ありません」
日が沈む頃、瀟洒な少女は日傘を持って主を迎えに来た。
「何も問題は無かったか?」
「ええいつも通り。ただ門番は真面目に仕事をし、参謀殿は書類に追われてました。
ああ、妹様は何やら頑張っていましたよ」
「そう……ならいいわ」
横殴りの夕日を避けながらゆっくり飛ぶ。
久しぶりの空は、夜で無いにしろ気持ちが良かった。
「迷惑かけたわね」
「全然です。寧ろ私達従者一同が失礼を」
「気にするな。いい経験になった」
「申し訳ございません」
使用人総括として責任を感じているのか、咲夜の声のトーンが暗かった。
そんなに気に病む事は無いというのに。レミリアは苦笑した。
この子もフランも私に気を遣いすぎだ……もっと家族として接してほしいのだが。
数分も飛んだら紅魔館が見えた。
門番は珍しく起きているようだった。
「お帰りなさい。お嬢様」
「ただいま、美鈴。変りないか?」
「ええ。やっと安心して居眠りできます」
「言ってくれるじゃない……当主代行はしっかりしてた?」
「はい。このまま主のままでも差支えないくらいです」
「ククク……そりゃ大変。とりあえずまた夕飯時に」
「ヤー」
門から館までは歩いて進む。我が城。紅き悪魔の館。
ふと思う。
数年前までは、踏み入れば二度と生きて空を拝めないと恐れられた紅魔館も、今では気軽に妖怪、妖精、更に人間までも足を運ぶ洋館に変った。
従者達も常に緊張する必要も無くなって……少々、垢抜けし過ぎだが、朗らかになった。
愛しき妹を縛っていた鎖もいくらか緩めることができた。
誰のおかげとは言わないが……本当に感謝してもしたりないものだ。
「運命か……」
「はい?」
斜め後ろを歩く咲夜が首を傾げる。レミリアは微笑んで誤魔化してやった。
「何でもないわ。入りましょう」
「え、はい」
館の玄関を開く。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
―――パーンッ!
「へぁ?!」
突如鳴った炸裂音にレミリアは素っ頓狂な声を上げた。
今度は咲夜が後ろでクスクス笑い、主の呆けた顔を見つめていた。
上を見上げる。
普段の玄関ホールとは違う。普段から派手ではあるが、何と言うか……寺子屋の子供たちがクリスマス会の時に飾る子供じみた装飾。
そして吹き抜けの二階ロビーに、お世辞でも上手と言えないが力強く『お帰りなさい! お姉様!』と紙が貼ってあった。
「え……あ?」
「お姉様!」
フロアに従者一同が並んでいる。先頭には堂々と麗しの妹が立っていた。
「お帰りなさい。お姉様」
「あ、うん。これは?」
未だに戸惑いの色が隠せない当主殿。
フランドールの横に立っている我が親友が口を開いた。
「フランがね。どうしても、お姉様の退院パーティーをしたいからって。
まったく……いい妹を持ったもんね」
「退院、パーティー?」
「うん」
よく、わからない。開いた口が塞がんなかった。
「……あれ? お姉様?」
「あ、はい」
何故か敬語になってしまった。
「ねえ、こあ。本当にあってるの、これで?」
「フフフ、あってますよ。ね? パチュリー様」
「ん……まあね」
「ねぇ、フラン。どういうことなの?」
レミリアはフランドールに現状を確認した。
「どういうって……まんまだけど。人間は退院でお祝いをするんでしょ?」
「人間じゃなくてもしますよ。フランドール様」
ネジが止まってしまっているレミリアを見て、従者はクスクス笑った。
「さて!」
フランドールの後ろにいたアネティスは手を二回叩いた。
すると従者達は八方に散り、テーブルやら料理やらをフロアに準備した。
「咲夜……」
「先日、妹様にお姉様がどうやったらもっと自分を頼ってくれるか、と聞かれました」
「え……」
準備が着々と進む中、主と従者長は並んで立っていた。
「私は言いました。私も同じ考えでございます、と」
「……」
「お嬢様。私も妹様も紅魔館(ここ)の一員でございます。
お嬢様が私に、『黒い』仕事をさせないのは……させたくないのはわかっております。
フランドールお嬢様にあたっては、『黒い』部分すら気付かせたくない。違いますか?」
「……美鈴か? それともアニーかパチュリーに聞いたのか?」
「自分で、気付かせて頂きました。妹様も然り」
レミリアは思った。
なんだ、うち明けてないのは自分の方ではないか、と。
そしてやるせなくなった。
隠していたことが、妹と娘にばれたこと。そして、自分が無能であること。
何がカリスマだ……
しかし、うれしくもあった。
自分は無能だが、フランドールと咲夜はこんなにも立派じゃないか。
ふと、何故か判らないが……涙が出た。
「お嬢様。まだ何処か痛みますか?」
「……いや。不思議な涙だよ」
「……そうですか」
咲夜はただ私の横で直立していた。レミリアに何も言わず。レミリアも何も言わず。
「お姉様?」
「ん、あ、ごめんごめん。大丈夫よ……ありがとうね。フラン」
「ふふ! さあ、こっちへ!」
フランドールは姉の手を引き、特等席に連れて行った。そして、咳払いをし―――
「では……レミリア・スカーレット。
これは退院パーティーでもありますが、普段頑張っている貴女への慰労パーティーでもあります。
今日は当主ではなく、ゲストとして、レミリア・スカーレット個人としてパーティーを楽しんでくださ い。では……グラスを」
―――立派なスピーチをしてのけた。
ああ、流石私の妹ね……レミリアは杯を持った。
フランドールはち続ける。
「みんな、グラス持った?
あ、メイ。まだ門前いるの? 咲夜、二秒で連れてきなさい。
……はい。ジャスト。ユファ、グラス渡して。よし、全員ね。
では……レミリア・スカーレットに!」
「「「「「「「「Spate de milioane de ani, Remilia!」」」」」」」」
一斉に杯を掲げる従者一同。ここまで統率のとれた組織は幻想郷に無いだろう。
レミリアは感極まった。そして、己も立ち上がり高らかに言った―――
「紅魔館よ! 永久に!」
「「「「「「「「Forever Scarlet!」」」」」」」」
紅き姉妹と、その従者達はグラスを傾けた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
後日。
昼間から図書館に三人、副長達が懲りずに溜っていた。
ボロボロになったテーブルは美鈴が新しく作り直してくれた。
先日から一転、急に気温が下がり、館内は総衣替え。門番隊も統一のジャケットが配布された。
「くっそぉ……天照の姉ちゃんは何処行ったんだ」
「莫迦ね。兄ちゃんでしてよ。所在は稗田の娘っ子に聞きなさい」
「どっちでもいいじゃない。で……なんでいるの?」
「「暇潰し」」
小悪魔は頭を抱えた。
今日は普通にパチュリーも執務テーブルにいるというのに。こいつらは……
「美鈴さんは?」
「焚き火たいて焼きイモやってる。フラン様とチルノ達も一緒」
「……お嬢様は?」
「溜っていた書類仕事。あと御館様(スカーレット卿)に手紙を書いてますわ。
咲夜ちゃんは永遠亭に定期診断」
「……はぁ」
パチュリーも執務テーブルに入るが、今日は魔理沙とアリス、珍しくにとりも来ているので、魔女達(?)のお茶会とやらを開いている。
菓子は各自折り持って来ているので、小悪魔の仕事は紅茶の御替わりの準備だけだ。
つまり、自分も暇だった。
アネティスは相変わらずテーブルに足を乗っけ新聞を読み、月花はだらしなく漫画を読んでいる。
小悪魔は口から幸せを逃がし、ミルクティーを啜った。
「ほら! 見なさい! オータムス、プレーオフの枠まで来たわよ!」
「はいはい、よーござんした。
こあ、この○ぐらしって漫画どういう順番で読めばいいの?
あとこのオヤ○ロ様ってスキマじゃね?」
ここで息吹鬼ばりの合法幼女だってばらしてやってもいいと考えたが、丁寧に順番だけ教えてやった。
「で、気になってたんだけど……アレ何?」
アネティスが新聞から目を離し、図書館内の上に浮いている毛玉の様な何かを指差した。
「ん……アニー。煙草喫ってみて」
「いいの?」
「いいから」
疑心になりながら、アネティスは煙草を咥え火を点けた。
「ふう……」
お構い無しに煙を吐く。次の瞬間―――
―――ピィーッ!!
「は?」
煙草の先が……切れた。
「パチュリー様がね、火器厳禁のポスター貼っても聞かない眼鏡妖怪がいるからって特別作ったの。
毛玉型ウォーターカッター。通称水玉一号。因みにパチュリー様の意志とは別に機能してるからね。
あれ、金剛石まで切れるらしいよ」
「……」
「ぶあははは! ざまあみろ! これを機に禁煙でもするかケツで煙草喫う練習でもするんだな!」
高らかに笑う月花。
アネティスは癪に障ったのか、毛玉と紅いジャケットを着た狼女に弾を放った。
月花は軽々回避したが、水玉くんのは直撃した。
プスプスと煙を上げ、床にポトリと転がった。
「ああ! 何してんの?! 怒られるじゃない!!」
「……ふん。ざまあみろですわ」
アネティスは再び踏ん反り、堂々と紫煙を点した。
暫時、奥から『小悪魔!!』と怒鳴り声がした。
小悪魔は泣き泣き、フラフラとパチュリーの方へ飛んでいった。
「ああ、可哀相に」
「いい気味よ」
二人はのほほんと手元の読み物に目を戻した。
「なあ」
「何?」
「……何でも無い」
「……あっそ」
館内にはパチュリーの説教と魔理沙の莫迦笑いだけが響く。
「平和だな」
「平和ね」
しみじみと、紅茶とほうじ茶を啜る二人。
「館内禁酒だっけ」
「ええ」
「今日終わったら、夜雀のとこいかねぇか」
「夜勤じゃなかったの?」
「代わった。明後日、隊長と」
「そ。いいですわ……仕方ないから小悪魔に一杯奢ってやりましょ」
「あたしにもな」
「莫迦言わない」
「お願い! アネティスお姉様!」
「Fuck’n」
他愛も無い日常。されど、波乱万丈。それが紅魔館クオリティー。
「アネティス! ちょっと来なさい!」
「……陰険魔女様が御呼びだ」
「Shit……厄日ですわ」
「いってらっしゃーい」
「貴女も来る!」
「なんで……ぐへっ! 首を引っ張るな!」
どんとはれ。
****************************************
「あれ? 咲夜さん、月花は?」
「ミスティアの所に」
「へ?」
「今日貴女と代わったって言ってたわよ」
「は?」
「ほら。勤務表」
……え? 代わってる。
「それより……今日私と呑みの約束してたわよね」
「……アイヤ」
「最低」
「ちょ! 咲夜さん! さーくーやーさん! 私悪くない!」
「知らない!」
「待ちなさいって、咲夜! おーい、さくやちゃーん!」
ヒソヒソ……また隊長、メイド長泣かせたの?
ヒソヒソ……そーなのか?
ヒソヒソ……ほんと、酷いわね。女泣かせ。
ヒソヒソ……また、お嬢様の所に泣きに行くんじゃない? 今月、何回目?
ヒソヒソ……咲夜さん可哀相。
ヒソヒソ……あたい。
ヒソヒソ……隊長固まってるわ。ホント、鈍感。
「な! ……月花アァァッ!!」
「中国! うるせえ! 森まで聞こえらあ!」
「ごめんなさい……じゃなくて、咲夜さん! さくやちゃん! お嬢様には言わないでぇ!」
「館内放送、館内放送。美鈴、至急お祈りを済ませ、何度目になるかわからない遺書を持って、私の所までいらっしゃい」
「……オワタ」
ぶっちゃげ書いてる本人は楽しいんだろうなあ、と感じました。それ以上のものはありませんでした。
ちなみにどうでもいいですが、公式的にヴワル図書館=紅魔館の図書館、と言うのは間違いだと思われます。
本当によくある間違いなので無理もないと思いますが…詳しい理由は調べてみましょう。
それだけでもジャスティスを共有できるのは嬉しいです。
いかんせんほのぼのしすぎて盛り上がりに欠けるのと、改行めちゃくちゃあるせいか中だるみが酷すぎるかな
許容できる人ならばそれにもめげずに読むことだろうけど、お話を書く以上、万人に受け入れやすくするのは大事だと思う
この手の話にありがちだけど、ぶっちゃけこの話のあらすじとかPR書けとか言われると困るんじゃない?
書き手も読み手もね
あと、オリジナル要素が少しはりきりすぎてる感があるんで
別の話で少しずつ出して面白みの分散を避けて、話の品質を高めた方がいいんじゃないかなとか思ったり
あくまで個人的な感想だけども
次に期待
ですがその設定の中で既存のキャラもオリキャラもしっかりと地に足を着けた動きをするので、
悪いところさえも飲み込む楽しさがありました。
かなり長めの作品だと思いますが、中だるみ等も無く、軽快に読み進めることが出来ました。
オリキャラもそれなりにキャラ立ちしていていい感じだったと思います。
ただ、贅沢を言えば、話が単調で先が読めてしまう点を改善していただければと思います。
加えて、霊夢との会話が何かの伏線になっているのかと思いきや、思いっきりスルーだったのが
個人的には気になりました。
お嬢様が、カリスマダダ漏れで、家族愛に溢れているのは、個人的には大好物です。
もっとやってください。
いい作品だったと思いますが、今後への期待を込めてこの点数です。
紅魔卿(郷じゃないよ)については、自慰行為に等しい設定だったのですが……意外です(オイw
図書館については、自分でもよくわかっていません。
調べたっちゃあ調べたんですが、何分紅魔館の中にパチュリーとこあのいる図書館があるってことしか。
ヴワルってのは名称なのかどうなのか……神主のみ知るのでしょう。
伏線やらオリキャラやらは、今後に繋げていきます。どうか根気よく見てやってください。
次からは長くなるようなら、前後編で分けていきます。
では(たぶん)、次回もよろしくです!
ちなみに「吸血鬼は水に濡れると焼ける(溶ける)」というのも間違いで、厳密には「吸血鬼は流れ水を渡れない」――つまり、自然界のサイクルの一端として動いている水(河川・海・雨等)には清い力が満ちており、吸血鬼にとっては結界となってその行く手を阻む、というのが吸血鬼伝承における基本です。「吸血鬼は中から招かれないと初めて訪れた家には入れない」と似た原理のようですね。『テリトリー』という概念が強いんですよ、吸血鬼伝承って。
また良く言われる「水に濡れると力が抜ける」というのは、後のホラー作家達が考え出したフィクションのようです。先に述べたように、流れ水には自然の清い力が宿っており、吸血鬼の始末の仕方として「心臓に杭を打ち、日光に晒して灰と化さしめ、然る後に流れ水に流せ」という物まであるので、「水に触れただけでダメージを負う」という誤解が生じたのではないでしょうか。
ついでに、この作品内で使われている「水に濡れると焼ける(溶ける)」という設定ですが、日本においてこの誤解の大元になったのは故・手塚先生の「ドン・ドラキュラ」なんじゃないかなぁ、考えています。
勿論、これは多少のオリジナル設定が許される二次創作作品ですし、原作である東方シリーズが本来の吸血鬼伝承に準じていると明言されている訳でもありません。つまり本作品の設定として「レミリアは水に触れると火傷する」があっても良い訳です。ですが、そういった自己世界特有の設定を描写しているにしてはあまりにも説明が無く、「ヴワル」同様にただ知らないが故にそう書いている、という印象を受けます。
我流自己流を持ち味にするのは良いのですが、原作に準じた部分とオリジナルな部分の書き分け的な整理がついていないと、どうしても好き放題に書き殴っただけのように見えてしまいます。
紅魔卿が健在設定も大好きです。
もうシリーズ化してほしいくらい。
読み始めは何ともといった感想を抱きましたが、マフィアなファミリーと家族なファミリーを足して3で割った位なファミリーとしての話だと思えば案外楽しめました。
個人的に感じる、嘘臭さの無い雰囲気が大好きです。
いい