妖怪も眠る丑三つ時。
私は、魔法の森の入り口付近に建つ道具屋・香霖堂の前に立ち尽くしていた。
誰かに見られやしないかと周囲の気配が気になってしまうが、私が身に纏うのは黒と白の魔法使い服と、尖った三角帽子だ。
きっと、私の姿はこの暗闇が隠してくれるのだろう。
だから大丈夫。誰にも、見られやしない。
「…………お邪魔しまーす、だぜ……?」
腕に編み籠を下げた私は、そっと香霖堂の扉に手を掛ける。
少しばかり立て付けの悪い扉が、木と木が擦れ合う音を鳴らしながら少しずつ開き、月の灯が店内へそっと差し込む。
相変わらず、店主の趣味の品ばかりを集めた店だと思うけれど……そんな所が、あの香霖らしいと言えばらしいかもしれない。
半分が人間で、半分が妖怪の道具屋さん。
私が惹かれているのは、果たして香霖のどちら側の面なのだろうか。
それとも、私はそのどちらもをひっくるめて、森近霖之助と言う男性の事を好いているのだろうか?
……止めておこう。恋の魔法は迂闊に触ると火傷をする物だと相場が決まっている。
今は、贈り物を届けると言う目的を果さないと。
贈り物――私は香霖に贈り物を届ける為に、こんな夜中に夜這いみたいな事をしているのだ。
籠の中で、宝石箱に入れられた宝石の様に眠っているのは、この日の為にと悪戦苦闘して、どうにか形になってくれたチョコレートケーキ。
私の、手作りの品だ。
香霖の口に合うかは分からないけれど……美味しいと感じて貰えると、私は嬉しいかな。
「…………かなり、時間が過ぎてしまったな……もう、二週間近くのロスタイムだぜ」
店内の壁に掛けられている暦をちらりと見てみれば、既に二月ももう終わろうとしている。
本来ならば――今から、十日ほど前のあの日に渡すべきだったのだろうけれど、私はそれがどうしても出来なかった。
美味しい物を届けたいと思い、どうしても納得の出来る品を作っていたらこんなにも遅刻をしてしまったのだ。
全く……妙な所で職人気質な自分の性格が、ほんの少しだけ嫌いになってしまう。
とにもかくにも、今の私は夜這い同然の行為をしている真っ最中なのだ。
あまり、この場に長居をするべきではないだろう。
早くケーキを置いて、立ち去らなければ――……
「…………………………んっ………………」
瞬間、私の心臓の音が、一際激しく高鳴るのが感じられた。
カウンターの椅子にもたれ掛かり、寝息を立てている香霖を見つけてしまったから。
切れ長の端正な顔立ちなのに、何処と無く幼い少年の様な顔立ちにも見える。
ナイフの様に妖しく煌く銀髪は、窓から差し込む仄かな月明かりを受て輝いていた。
私の金髪は対照的に、その銀髪は何処と無く知的な雰囲気を纏っている様に思えた。
その姿はまるで――駄目だ。適切な言葉が思い浮かばない。
相手は、私を魅了してやまない男性なのだ。
そんな相手を安っぽい言葉で例えるのは避けておきたいから、今はこの気持ちを胸の奥に封じ込めておくとしよう。
何時の日にか――私が、もう少し立派に成長した時にでも、今の景色を思い出してノートにでも綴ればそれで十分だ。
「……はぁ。また読書中に眠ったのか。風邪でも引いたらどうするんだよ?」
再度、香霖の方を伺ってみれば、こんな夜更けだと言うのに普段の服装のままで眠っているではないか。
これじゃあ、夜風に当たって身体を冷やしてしまうかもしれない。
全く……本当に、霧雨店で修行をしていた頃からお前は変わらないんだな。
私も、香霖も。お互いに、何も変わっていない。
そうだ――私が香霖に対して抱いているこの気持ちは、あの頃からずっと変わっていない。
昔から、ずぅっと私は香霖の事が――……
「…………んんっ………………」
「おおっと。そんな事を考えている場合じゃなかったぜ。毛布はっと……」
家捜しをするみたいでほんの少しだけ罪悪感があるけれど、そこは人助けだと言う事で勘弁をして貰おう。
どうせ、妙な所で抜けている香霖の事だ。
そこらに毛布の一枚や二枚、放り出したままにしているに違いない。
暫く探していると、案の定カウンターの足元から毛布は見つかった。
軽く叩いて埃を払い、目を覚まされない様に気を付けながら、私はそれを香霖に被せる。
昔、『僕は半分が妖怪ですから、風邪は引かないんですよ』なんて事を言っていた気もするが……念の為だ。
「よし。これでオーケーと。後は……」
生唾と一緒に緊張を飲み込んだ後――私は覚悟を決める事にした。
そっと、籠の中からチョコレートケーキの入れられた箱を取り出す。
本当は、バレンタインの日に届けたかった。
でも、どうしても納得の行く物を届けたくて、だから――……
いや、それも違う。
私は……そんな理由で、バレンタインの日に必死にチョコレートケーキの研究をしていたんじゃない。
だって……香霖なら、どんなケーキでもきっと「美味しい」と答えてくれるのだから。
だから、ケーキの出来具合なんて二の次なんだ。
私は、怖かったんだ。
香霖が他の女の子からチョコレートを受け取っている現場に遭遇するのが、怖かったんだ。
どうしても――私だけの香霖で居て欲しいと思うから、だから……自分に嘘を吐いて、時期をずらしてまでこんな事をしてしまった。
本末転倒じゃないか?
バレンタインに贈り物をするからこそ意味があると言うのに、私は臆病のせいでそれを逃してしまったんだ。
博麗の巫女やら、紅魔館の従者やら、山の巫女やら――あるいは、他の連中やら。
皆、私なんかよりもずぅっと魅力的な存在だ。
あんなのが香霖にチョコレートを贈っている現場に遭遇してしまえば、私はもう立ち直れなくなるかもしれない。
だから、私はバレンタインから逃げてしまったんだ。
もしかすると、こんな私には恋をする資格なんて、無いのかもしれない。
勝負のフィールドに上がる事を恐れ、試合終了後のロスタイムになってようやくフィールドに上がったのだから。
これじゃあ、臆病者で卑怯者じゃないか。
だから……私は、香霖に対して何かを伝えようとは思わない。
バレンタインデーならチョコレートを贈りつつ告白の一つでも出来るのかもしれないが、今日はバレンタインデーではない。
贈り物を置いて、それでお終い。
私には……それで、十分だ。
私の手作りのチョコレートを香霖が食べて、ほんの少しだけでも幸せになってくれれば、それで――……
「……でもまあ、籠にこっそりとイニシャルで「M・K」って名前を入れておくくらいは許してくれるよな?
恋の神様だって、そこまでガチガチなお方じゃあるまいしさ」
後は、香霖がこのイニシャルに気付いてくれるかどうかだが……
それこそ、神のみぞ知るとでも言った所か。
過度の期待は禁物。果報は寝て待てだ。
「じゃあな、香霖。風邪は引くなよ? あとそのケーキ、きちんと食べるんだぞ?」
そして、私は香霖堂を後にする。
未だに夜の闇は深いままだ。せめて恐ろしい妖怪に遭遇しない様に気を付けないと。
「………………………………んんっ…………」
戸を開けた事で吹き込んだ風が、香霖の頬を撫でている。
本当はもう少しだけ一緒に居たいのだけど……もう、帰る時間だ。
私は、そっと扉を閉めて――
「…………ん………………まり……………………」
「……へっ?」
「……………………………………………………」
さっきのは……私の聞き間違い、なのだろうか?
それとも……もしかすると私の夢を……?
いや、考えるのは止めておこう。
その答えは――来年のバレンタインまで、じっくりと考えれば良いさ。
「…………ふふっ、バレンタインはこれからか……」
そして、私は香霖堂を立ち去る。
贈り物も出来たし、最後の最後に思わぬ寝言も聞けたのだから――こっそりと忍び込んで良かった。
夜の風が私の金髪を優しく撫でてくれている。
来年のバレンタインまでの間、じっくりとチョコレートケーキの修行をしないとな。
来年は、もっともっと素敵な男性になって――そして、愛しの香霖のハートを手に入れるんだから。
「はぁ……香霖ってば本当に格好良いよなあ……
私の店で修行をしていた時から、ずぅっと変わっていないんだから……はふぁ……」
私は、魔法の森の入り口付近に建つ道具屋・香霖堂の前に立ち尽くしていた。
誰かに見られやしないかと周囲の気配が気になってしまうが、私が身に纏うのは黒と白の魔法使い服と、尖った三角帽子だ。
きっと、私の姿はこの暗闇が隠してくれるのだろう。
だから大丈夫。誰にも、見られやしない。
「…………お邪魔しまーす、だぜ……?」
腕に編み籠を下げた私は、そっと香霖堂の扉に手を掛ける。
少しばかり立て付けの悪い扉が、木と木が擦れ合う音を鳴らしながら少しずつ開き、月の灯が店内へそっと差し込む。
相変わらず、店主の趣味の品ばかりを集めた店だと思うけれど……そんな所が、あの香霖らしいと言えばらしいかもしれない。
半分が人間で、半分が妖怪の道具屋さん。
私が惹かれているのは、果たして香霖のどちら側の面なのだろうか。
それとも、私はそのどちらもをひっくるめて、森近霖之助と言う男性の事を好いているのだろうか?
……止めておこう。恋の魔法は迂闊に触ると火傷をする物だと相場が決まっている。
今は、贈り物を届けると言う目的を果さないと。
贈り物――私は香霖に贈り物を届ける為に、こんな夜中に夜這いみたいな事をしているのだ。
籠の中で、宝石箱に入れられた宝石の様に眠っているのは、この日の為にと悪戦苦闘して、どうにか形になってくれたチョコレートケーキ。
私の、手作りの品だ。
香霖の口に合うかは分からないけれど……美味しいと感じて貰えると、私は嬉しいかな。
「…………かなり、時間が過ぎてしまったな……もう、二週間近くのロスタイムだぜ」
店内の壁に掛けられている暦をちらりと見てみれば、既に二月ももう終わろうとしている。
本来ならば――今から、十日ほど前のあの日に渡すべきだったのだろうけれど、私はそれがどうしても出来なかった。
美味しい物を届けたいと思い、どうしても納得の出来る品を作っていたらこんなにも遅刻をしてしまったのだ。
全く……妙な所で職人気質な自分の性格が、ほんの少しだけ嫌いになってしまう。
とにもかくにも、今の私は夜這い同然の行為をしている真っ最中なのだ。
あまり、この場に長居をするべきではないだろう。
早くケーキを置いて、立ち去らなければ――……
「…………………………んっ………………」
瞬間、私の心臓の音が、一際激しく高鳴るのが感じられた。
カウンターの椅子にもたれ掛かり、寝息を立てている香霖を見つけてしまったから。
切れ長の端正な顔立ちなのに、何処と無く幼い少年の様な顔立ちにも見える。
ナイフの様に妖しく煌く銀髪は、窓から差し込む仄かな月明かりを受て輝いていた。
私の金髪は対照的に、その銀髪は何処と無く知的な雰囲気を纏っている様に思えた。
その姿はまるで――駄目だ。適切な言葉が思い浮かばない。
相手は、私を魅了してやまない男性なのだ。
そんな相手を安っぽい言葉で例えるのは避けておきたいから、今はこの気持ちを胸の奥に封じ込めておくとしよう。
何時の日にか――私が、もう少し立派に成長した時にでも、今の景色を思い出してノートにでも綴ればそれで十分だ。
「……はぁ。また読書中に眠ったのか。風邪でも引いたらどうするんだよ?」
再度、香霖の方を伺ってみれば、こんな夜更けだと言うのに普段の服装のままで眠っているではないか。
これじゃあ、夜風に当たって身体を冷やしてしまうかもしれない。
全く……本当に、霧雨店で修行をしていた頃からお前は変わらないんだな。
私も、香霖も。お互いに、何も変わっていない。
そうだ――私が香霖に対して抱いているこの気持ちは、あの頃からずっと変わっていない。
昔から、ずぅっと私は香霖の事が――……
「…………んんっ………………」
「おおっと。そんな事を考えている場合じゃなかったぜ。毛布はっと……」
家捜しをするみたいでほんの少しだけ罪悪感があるけれど、そこは人助けだと言う事で勘弁をして貰おう。
どうせ、妙な所で抜けている香霖の事だ。
そこらに毛布の一枚や二枚、放り出したままにしているに違いない。
暫く探していると、案の定カウンターの足元から毛布は見つかった。
軽く叩いて埃を払い、目を覚まされない様に気を付けながら、私はそれを香霖に被せる。
昔、『僕は半分が妖怪ですから、風邪は引かないんですよ』なんて事を言っていた気もするが……念の為だ。
「よし。これでオーケーと。後は……」
生唾と一緒に緊張を飲み込んだ後――私は覚悟を決める事にした。
そっと、籠の中からチョコレートケーキの入れられた箱を取り出す。
本当は、バレンタインの日に届けたかった。
でも、どうしても納得の行く物を届けたくて、だから――……
いや、それも違う。
私は……そんな理由で、バレンタインの日に必死にチョコレートケーキの研究をしていたんじゃない。
だって……香霖なら、どんなケーキでもきっと「美味しい」と答えてくれるのだから。
だから、ケーキの出来具合なんて二の次なんだ。
私は、怖かったんだ。
香霖が他の女の子からチョコレートを受け取っている現場に遭遇するのが、怖かったんだ。
どうしても――私だけの香霖で居て欲しいと思うから、だから……自分に嘘を吐いて、時期をずらしてまでこんな事をしてしまった。
本末転倒じゃないか?
バレンタインに贈り物をするからこそ意味があると言うのに、私は臆病のせいでそれを逃してしまったんだ。
博麗の巫女やら、紅魔館の従者やら、山の巫女やら――あるいは、他の連中やら。
皆、私なんかよりもずぅっと魅力的な存在だ。
あんなのが香霖にチョコレートを贈っている現場に遭遇してしまえば、私はもう立ち直れなくなるかもしれない。
だから、私はバレンタインから逃げてしまったんだ。
もしかすると、こんな私には恋をする資格なんて、無いのかもしれない。
勝負のフィールドに上がる事を恐れ、試合終了後のロスタイムになってようやくフィールドに上がったのだから。
これじゃあ、臆病者で卑怯者じゃないか。
だから……私は、香霖に対して何かを伝えようとは思わない。
バレンタインデーならチョコレートを贈りつつ告白の一つでも出来るのかもしれないが、今日はバレンタインデーではない。
贈り物を置いて、それでお終い。
私には……それで、十分だ。
私の手作りのチョコレートを香霖が食べて、ほんの少しだけでも幸せになってくれれば、それで――……
「……でもまあ、籠にこっそりとイニシャルで「M・K」って名前を入れておくくらいは許してくれるよな?
恋の神様だって、そこまでガチガチなお方じゃあるまいしさ」
後は、香霖がこのイニシャルに気付いてくれるかどうかだが……
それこそ、神のみぞ知るとでも言った所か。
過度の期待は禁物。果報は寝て待てだ。
「じゃあな、香霖。風邪は引くなよ? あとそのケーキ、きちんと食べるんだぞ?」
そして、私は香霖堂を後にする。
未だに夜の闇は深いままだ。せめて恐ろしい妖怪に遭遇しない様に気を付けないと。
「………………………………んんっ…………」
戸を開けた事で吹き込んだ風が、香霖の頬を撫でている。
本当はもう少しだけ一緒に居たいのだけど……もう、帰る時間だ。
私は、そっと扉を閉めて――
「…………ん………………まり……………………」
「……へっ?」
「……………………………………………………」
さっきのは……私の聞き間違い、なのだろうか?
それとも……もしかすると私の夢を……?
いや、考えるのは止めておこう。
その答えは――来年のバレンタインまで、じっくりと考えれば良いさ。
「…………ふふっ、バレンタインはこれからか……」
そして、私は香霖堂を立ち去る。
贈り物も出来たし、最後の最後に思わぬ寝言も聞けたのだから――こっそりと忍び込んで良かった。
夜の風が私の金髪を優しく撫でてくれている。
来年のバレンタインまでの間、じっくりとチョコレートケーキの修行をしないとな。
来年は、もっともっと素敵な男性になって――そして、愛しの香霖のハートを手に入れるんだから。
「はぁ……香霖ってば本当に格好良いよなあ……
私の店で修行をしていた時から、ずぅっと変わっていないんだから……はふぁ……」
えーーーー?!
点数悩んだ。
一流の釣り師としての風格を感じる
嘘だと言ってよバーニィ
今更普通の魔理沙×香霖は出てこないかなとは思ったけど、魔理ノ輔っておい!
150kgのメタボ体型で金髪女装ってこええよ!!ホラーだな、うん。
ちょいwwwおまwwwwwwww
ただの変態じゃねーかwww
これほどまでに後書きを先に読まなくて良かったと思ったのは初めてだww
普通に美中年とかなら全然問題ナッシングだったのにぃ!
僕は君に敬意を表するッ!
これはひどい。
なに、この…なに?
ただの変態じゃん!!
あとがき読んだ後に読み返したら吐き気が……
体重とか細かい設定載せるなww
メタボ体型で金髪女装のショタ好きオヤジって・・・オリキャラ話というより、それはむしろグロテスクホラーじゃね?
これはひどいw
悪い事が
あるんじゃないかと
おもうんですが
畜生、点数が高くても低くても負けた気がする
ここで違和感があると思ったら魔理沙じゃなかったのかよ・・・
俺の純情を返してw
・・・そりゃ家出するよ。
それを惜しげもなく無駄にできるのが実力の表れなのか?
うーん……
見事に引っかかったわこの野郎wwwww
あれ?