夜の博麗神社。
熱い鼓動が、私の胸を強く叩く。
これから霊夢に告白する。
そのことを考えるだけで、今にも胸が張り裂けそうだった。
「霊夢、私は…」
ドクン・・・ドクン・・・
心臓の音が一際強くなり、声が掠れる。
ええい、静まれ私の心臓。
一言喋るのが、そんなに怖いか夜の王。
「私は…どうしたのよ?」
心底不思議そうな顔で首を傾げる愛しき霊夢。
ああ、きっとこの娘はわかっていない。
これから私が話す内容を。
「あ、あのね…」
弱気な声が出る。
ああ、そうさ。私は霊夢に告白することを恐れている。
だって、視えるから。
これから、霊夢に…振られる運命が。
「迷惑かもしれないのだけど…」
でも、伝えずにはいられない。
それほどまでに、この想いは強まっていた。
五百年間生きてきて、初めて生まれた感情なのだ。
だから伝える。
絶対に失恋するとわかっていても。
「私は、あなたが好き。あなたを、愛して、います」
後半はもう声になっていなかったかもしれない。
でも、霊夢の目を見ながら告白できたことが、素直に嬉しい。
「……そう」
霊夢の反応は淡白だった。
私から視線を外し、夜空を見上げる。
対する私は、返事を待つ。
漠然と、振られることはわかっていてもどのように振られるかまではわからないのだ。
霊夢のことだから、何事もなかったかのように振舞われるかもしれないし、そもそも、私の告白をいつもと同じ感覚で捉えられて、軽く流されるかもしれない。
もしかしたら、もう来るな、と拒絶されるかも…しれない。
不安が心中を駆け巡る。
「私ね……」
静寂を打ち破り、霊夢が口を開いた。
「紫のことが好きなのよ…… だから…ごめん」
…私の味方だと思っていた運命というものは、予想以上に残酷だったらしい。
・・・・・
あの告白の日から三日経った。
私は三日二晩、泣き腫らした。
たぶん、今の私はひどい顔をしているのだろう。
「お嬢様」
咲夜の声が部屋の外から掛けられる。
私が部屋に篭ってから、初めてのことだ。
この三日間、咲夜はじっと部屋の外に待機していた。
彼女なりの優しさなのだろう。
今だけは、そんなさりげない気遣いが何よりも嬉しかった。
気遣いしてくれていたのは、何も咲夜だけではない。
パチェも、美鈴も、あのフランでさえも、私の様子を咲夜に何度も尋ねに来ていた。
(つくづく、私は恵まれているのよね…)
ともすれば、目から零れ落ちそうな涙を拭う。
本当は、もう一晩泣いていたいが、あいにく私は夜の王。
吸血鬼なのだ。
そろそろ、館の主に戻らなくてはならないだろう。
私は着替えを終えて扉を開ける。
「おそようございます、お嬢様」
「おそよう、咲夜。 今夜もいい月がでてる」
「今日は曇りですが」
「私、目の良さには自信があるのよ」
「そうでしたね」
いつものようなやり取り。
ただ、いつもと違うのは、このどこか心優しきメイド長の目の下にあるクマと、私の赤くなった目。
「三日二晩、泣いたわ」
「さようですか」
「普通の乙女だったら、三日三晩はかかるのよ?」
「それはそれは、さすがお嬢様です」
「夜の王だからね」
「これからはお嬢様じゃなく、王女様にしますか?」
時には大仰に、時には丁寧に、咲夜は相槌を打ってくれる。
おかげで、自分のペースを取り戻せそうだ。
「いや、今までどおりでいいよ。それより、何か用事があったんじゃない?」
「ええ… それなのですけど」
・・・・・
「…で、何の用かしら?」
私は単身で、冥界―――白玉楼にやってきていた。
目の前にはここの主、西行寺幽々子が座っている。
「わざわざ足を運んでもらってごめんなさいね」
「別にいいよ。 こっちもこんな夜分遅くに失礼しているわけだしね」
お互いにお茶をすすり、お茶菓子に手を伸ばす。
「しかし、おまえが私を呼び出すなんて珍しいね」
「そう、ね」
咲夜から渡されたのは、幽々子からのお茶会への招待状だった。
しかし、私はそこそここいつとは長い付き合いだが、二人きりのお茶会なんてこれが初めてだ。
「急に、あなたの顔が見たくなったのよ」
「急に、ねぇ…」
もちろん、これは建前だろう。
仮にも冥界を束ねるものが、そんな気まぐれで行動するわけはない。
だが、他に思い当たることもなかったので深くは追求しないことにした。
…つもりだった。
「しかし… ヒドい顔をしてるわねぇ。 …まるで、何かあったみたい」
その幽々子の一言を聞いた瞬間、手の中にあった湯飲みにヒビが入った
「何のことだい?」
「あらあら、とぼける必要はないんじゃないかしら?」
コイツのニヤニヤ笑いが癇に障る。
ああ、そうか。そういうことか。
「フン、私のことを笑おうというわけか」
本当に回りくどいヤツだ。
私がそんなに滑稽なら、最初から笑えばよかっただろうに。
「そんなに愉快なら、笑えばいいじゃないか。 私は帰る」
ヒビの入った湯飲みを置き、私は席を立った。
「ちょっと待ちなさい」
私が帰ろうと背中を向けると、背後から殺気。
とっさに振り返ると、目の前まで弾が迫ってきていた。
「ッ?! 危ないわね…」
「笑えるわけ、ないでしょう」
ゆらりと起き上がった幽々子は私に向かって純粋な”死”の篭った殺気をばら撒く。
普通の人間なら息どころか存在そのものが消え去ってしまうほどの瘴気。
「なんであなたがそんなに怒っているのよ? あなたには、関係のない話でしょう?! 私と霊夢の話じゃない!!」
私は、徐々に興奮を強めながら叫んだ。
しかし、幽々子はお構いなしに弾幕の嵐を吹き荒らす。
…なにやら知らないが、コイツは私のことが気に食わないらしい。
私は別にどうとも思ってはいないが、黙ってやられるつもりは毛頭ない。
「仕方ない… 最近不幸続きで機嫌が悪いんだから、覚悟しなさいッ!」
私は神槍グングニルを呼び出し、幽々子の弾幕の中へと飛び込んでいった。
・・・・・
「おい、霊夢ッ! 大変だ!」
「何よ、そんなに慌てて」
突然、神社の境内に突っ込んできたのは魔理沙。
いつもの光景だ。
「冥界で、レミリアと幽々子が弾幕りあってるんだよ!」
「別にそれくらい、普通のことじゃないの?」
別に殊更、騒ぎ立てるほどのことではないだろうと思う。
いまや、人間の子供だって弾幕を張ることはできるのだ。
魔理沙が大げさなのだ、とこのときは思っていた。
「いや、それが……スペルカードルールじゃないんだ」
一瞬、魔理沙の言葉を理解できなかった。
数瞬して、ようやく事態を飲み込む。
「つまり、本気、ってこと?」
私の口調も固くなる。
汗が一筋、背中を流れた。
「ああ。 なまじ二人の力が強い分、どちらかが…いや、両方とも消滅する事だってあるかもしれない」
「……そう」
私は唇をかみ締めた。
「霊夢…… もしかして、何か知ってるのか?」
「…えっ?」
魔理沙が私の目を見つめてくる。
「その唇を噛む癖… お前が何か隠し事をしてるときの癖だぜ」
魔理沙の目が……私の全てを見透かしているような気がした。
・・・・・
「はぁっ…… はぁっ……」
「ふぅ…… ふぅ……」
やはり幽々子は強い。
既にグングニルも消え去っている。
一足先の運命を読むことによって致命傷は避けているが、あいつの攻撃は全て私の武器や魔力には命中している。
物質も魔力も死に誘われるのでは、こちらは攻撃の手段がなくなっているといっても過言ではない。
しかし、無論私だって何も出来ないでいたわけではない。
破壊された武器の破片が効率的に幽々子にダメージを残すような運命を辿り、攻撃してきたのだ。
互角ではあるが、このままではジリ貧だ。
「ねぇ、今更だけど…」
口を開く。
硬直させるのは、得策ではないと思ったからだ。
幽々子も、無言ではあるが私に先を言うように促している。
「何故、あなたがこれほどまでに怒るのよ? さっきも言ったけど、これは私と霊夢の問題なのよ?」
先程よりは冷静に、私は言った。
幽々子が顔をゆっくりと上げる。
「違うわ」
静かに、だがはっきりと幽々子が言い切った。
「これは、紫の問題でもあるのよ」
紫?
なぜ、ここで紫が出てくるんだ?
あいつは…
あいつは、それこそ霊夢と…
「あなたには… 鞘当に勝ったあなたにはわからないのよ」
話は終わり、と言わんばかりに再び幽々子から死の気配が強まる。
私も眷属から作り出したナイフを構える。
「その勝負、待ったッ!!!」
その言葉と共に、私たちは大量の御札に包まれ、私は意識を失った……
・・・・・
「…う…んっ?」
思いのほか、目覚めは快調だった。
枕が非常に気持ち良い。
「あ…… 目、覚めた?」
目を覚ますと目の前に霊夢がいた。
「…ここは?」
「神社よ。 博麗神社」
急激に意識が覚醒してくる。
えっと… 私は冥界で幽々子と弾幕りあって…
そうだ!幽々子はッ?!
起き上がろうとした私を霊夢が慌てて止める。
「ああ、幽々子も今は落ち着いてるから、安心しなさい」
「あ…… そう?……って」
気がついてみれば、私は霊夢の膝を枕にして眠っていた。
「れ、霊夢?! ご、ごめんなさい!迷惑かけたわね!?」
振られてしまった相手の膝枕で眠っていたとは恥ずかしいにもほどがある。
そう思い、飛び起きて謝る私に霊夢が頭を下げてきた。
「ごめん、レミリア」
「え? えっ?」
混乱する。
何で霊夢が私に謝ってるんだろう?
「わたし、レミリアに嘘ついてたのよ」
「……嘘?」
「紫のことが好きだっていう話よ」
え?それって…
寝起きで回らない頭にそんなことを言われても理解が追いつかない。
そんな私に霊夢はゆっくりと語り始めた。
・・・・・
私は、魔理沙に全てを話していた。
三日前の昼に、紫に『レミリアが好きだから』と断ったこと。
三日前の夜に、レミリアに『紫のことが好きだから』と断ったこと。
「なんで…… なんでそんなことしたんだよッ!」
「だって… 私は、人間なのよ? その上、博麗の巫女でもある。 妖怪と付き合っていけるわけ、ないじゃない……」
私が喋り終えるのと同時に魔理沙が固めた拳で私の右頬を思いっきり殴りつけてきた。
「馬鹿ッ! お前は馬鹿野郎だッ!」
魔理沙が叫ぶ。
それはいつものこの少女の姿。
私には、ないもの。
「なんで…… なんで嘘を吐いたんだッ!? あいつらは……あいつらは本気だったんだぞ?!」
「それは……」
魔理沙の言葉が激しくなればなるほど、右頬の痛みが強くなってくる。
「嫌いだったら、嫌いだって言えばいいさ! でもな、お前ももう、気がついてるんだろ?! お前がそんな半端な答えを言うなんてのは、もうあいつらのことが気になってるんだ!!」
「……」
「痛いか?! でもな、あいつらはその痛みすら感じさせてもらえなかったんだぞ!? お前が空っぽな答えを渡しちまったから!!」
「魔理沙・・・」
目が覚めた気がした。
そうだ、ハッキリ、伝えるべきだったんだ。
曖昧にお茶を濁して、私は何を守りたかったんだろう?
二人を傷つけたくなかった?いや、違う。
自分が傷つきたくなかったんだ…
「魔理沙、左も殴ってもらって良いかしら?」
「ちなみになんでだ?」
「わたしが傷つけたのは、2人でしょ? まだ1人分よ」
「わかった。 思いっきり、いくからな?」
バシンッ、と神社に良い音が響いた。
・・・・・
「……で、鬼も真っ青になって逃げ出すようなアンタと幽々子の戦いを止めにいったのよ」
私は話を聞きながら、霊夢の頬っぺたを見つめていた。
よくよく見れば結構腫れている。
相当強く、気合を入れられたようだ。
「で、レミリア。そんな弱い私だけど、そんなヒドい女だけど、まだ私のことが好きだったりする?」
「ほえ?」
いきなりの質問に面食らう。
しかし、霊夢の目は真剣だった。
「……もちろん。 簡単に諦められるんだったら、三日二晩も泣かないわよ」
「じゃあさ、私が博麗の巫女引退するまで待ってもらっても良い? 返事はそのとき出すから」
「良いに決まっているじゃない。たとえあなたがしわくちゃのお婆ちゃんになっていても、私はあなたが欲しいのよ」
私が言い終えるのと同時に唇にやわらかい感触。
「れ、れ、れいむ? い、今のは…」
「ん? 待ってもらうから先払い。 足りなかった?」
私はもちろん、真っ赤になっていると思うが、淡々と答えているように見える霊夢も、若干顔が赤くなっている気がした。
「足りない、なんてものじゃないけど、お楽しみは手に入ってからにするわ」
霊夢は微笑んで去っていった。
きっと、四日四晩くらい泣き腫らした紫にも同じ事を伝えてくるのだろう。
「でも……」
思わず、顔がニヤけてしまう。
もし、あの時失恋を恐れて踏み出さなかったら。
きっと、この運命には辿りつけなかったのだろうから。
紫も、霊夢と頻繁にパートナーになったりしてるし、強敵だ。
でも、きっと私は戦っていける。
この、愛しい霊夢の争奪戦を。
熱い鼓動が、私の胸を強く叩く。
これから霊夢に告白する。
そのことを考えるだけで、今にも胸が張り裂けそうだった。
「霊夢、私は…」
ドクン・・・ドクン・・・
心臓の音が一際強くなり、声が掠れる。
ええい、静まれ私の心臓。
一言喋るのが、そんなに怖いか夜の王。
「私は…どうしたのよ?」
心底不思議そうな顔で首を傾げる愛しき霊夢。
ああ、きっとこの娘はわかっていない。
これから私が話す内容を。
「あ、あのね…」
弱気な声が出る。
ああ、そうさ。私は霊夢に告白することを恐れている。
だって、視えるから。
これから、霊夢に…振られる運命が。
「迷惑かもしれないのだけど…」
でも、伝えずにはいられない。
それほどまでに、この想いは強まっていた。
五百年間生きてきて、初めて生まれた感情なのだ。
だから伝える。
絶対に失恋するとわかっていても。
「私は、あなたが好き。あなたを、愛して、います」
後半はもう声になっていなかったかもしれない。
でも、霊夢の目を見ながら告白できたことが、素直に嬉しい。
「……そう」
霊夢の反応は淡白だった。
私から視線を外し、夜空を見上げる。
対する私は、返事を待つ。
漠然と、振られることはわかっていてもどのように振られるかまではわからないのだ。
霊夢のことだから、何事もなかったかのように振舞われるかもしれないし、そもそも、私の告白をいつもと同じ感覚で捉えられて、軽く流されるかもしれない。
もしかしたら、もう来るな、と拒絶されるかも…しれない。
不安が心中を駆け巡る。
「私ね……」
静寂を打ち破り、霊夢が口を開いた。
「紫のことが好きなのよ…… だから…ごめん」
…私の味方だと思っていた運命というものは、予想以上に残酷だったらしい。
・・・・・
あの告白の日から三日経った。
私は三日二晩、泣き腫らした。
たぶん、今の私はひどい顔をしているのだろう。
「お嬢様」
咲夜の声が部屋の外から掛けられる。
私が部屋に篭ってから、初めてのことだ。
この三日間、咲夜はじっと部屋の外に待機していた。
彼女なりの優しさなのだろう。
今だけは、そんなさりげない気遣いが何よりも嬉しかった。
気遣いしてくれていたのは、何も咲夜だけではない。
パチェも、美鈴も、あのフランでさえも、私の様子を咲夜に何度も尋ねに来ていた。
(つくづく、私は恵まれているのよね…)
ともすれば、目から零れ落ちそうな涙を拭う。
本当は、もう一晩泣いていたいが、あいにく私は夜の王。
吸血鬼なのだ。
そろそろ、館の主に戻らなくてはならないだろう。
私は着替えを終えて扉を開ける。
「おそようございます、お嬢様」
「おそよう、咲夜。 今夜もいい月がでてる」
「今日は曇りですが」
「私、目の良さには自信があるのよ」
「そうでしたね」
いつものようなやり取り。
ただ、いつもと違うのは、このどこか心優しきメイド長の目の下にあるクマと、私の赤くなった目。
「三日二晩、泣いたわ」
「さようですか」
「普通の乙女だったら、三日三晩はかかるのよ?」
「それはそれは、さすがお嬢様です」
「夜の王だからね」
「これからはお嬢様じゃなく、王女様にしますか?」
時には大仰に、時には丁寧に、咲夜は相槌を打ってくれる。
おかげで、自分のペースを取り戻せそうだ。
「いや、今までどおりでいいよ。それより、何か用事があったんじゃない?」
「ええ… それなのですけど」
・・・・・
「…で、何の用かしら?」
私は単身で、冥界―――白玉楼にやってきていた。
目の前にはここの主、西行寺幽々子が座っている。
「わざわざ足を運んでもらってごめんなさいね」
「別にいいよ。 こっちもこんな夜分遅くに失礼しているわけだしね」
お互いにお茶をすすり、お茶菓子に手を伸ばす。
「しかし、おまえが私を呼び出すなんて珍しいね」
「そう、ね」
咲夜から渡されたのは、幽々子からのお茶会への招待状だった。
しかし、私はそこそここいつとは長い付き合いだが、二人きりのお茶会なんてこれが初めてだ。
「急に、あなたの顔が見たくなったのよ」
「急に、ねぇ…」
もちろん、これは建前だろう。
仮にも冥界を束ねるものが、そんな気まぐれで行動するわけはない。
だが、他に思い当たることもなかったので深くは追求しないことにした。
…つもりだった。
「しかし… ヒドい顔をしてるわねぇ。 …まるで、何かあったみたい」
その幽々子の一言を聞いた瞬間、手の中にあった湯飲みにヒビが入った
「何のことだい?」
「あらあら、とぼける必要はないんじゃないかしら?」
コイツのニヤニヤ笑いが癇に障る。
ああ、そうか。そういうことか。
「フン、私のことを笑おうというわけか」
本当に回りくどいヤツだ。
私がそんなに滑稽なら、最初から笑えばよかっただろうに。
「そんなに愉快なら、笑えばいいじゃないか。 私は帰る」
ヒビの入った湯飲みを置き、私は席を立った。
「ちょっと待ちなさい」
私が帰ろうと背中を向けると、背後から殺気。
とっさに振り返ると、目の前まで弾が迫ってきていた。
「ッ?! 危ないわね…」
「笑えるわけ、ないでしょう」
ゆらりと起き上がった幽々子は私に向かって純粋な”死”の篭った殺気をばら撒く。
普通の人間なら息どころか存在そのものが消え去ってしまうほどの瘴気。
「なんであなたがそんなに怒っているのよ? あなたには、関係のない話でしょう?! 私と霊夢の話じゃない!!」
私は、徐々に興奮を強めながら叫んだ。
しかし、幽々子はお構いなしに弾幕の嵐を吹き荒らす。
…なにやら知らないが、コイツは私のことが気に食わないらしい。
私は別にどうとも思ってはいないが、黙ってやられるつもりは毛頭ない。
「仕方ない… 最近不幸続きで機嫌が悪いんだから、覚悟しなさいッ!」
私は神槍グングニルを呼び出し、幽々子の弾幕の中へと飛び込んでいった。
・・・・・
「おい、霊夢ッ! 大変だ!」
「何よ、そんなに慌てて」
突然、神社の境内に突っ込んできたのは魔理沙。
いつもの光景だ。
「冥界で、レミリアと幽々子が弾幕りあってるんだよ!」
「別にそれくらい、普通のことじゃないの?」
別に殊更、騒ぎ立てるほどのことではないだろうと思う。
いまや、人間の子供だって弾幕を張ることはできるのだ。
魔理沙が大げさなのだ、とこのときは思っていた。
「いや、それが……スペルカードルールじゃないんだ」
一瞬、魔理沙の言葉を理解できなかった。
数瞬して、ようやく事態を飲み込む。
「つまり、本気、ってこと?」
私の口調も固くなる。
汗が一筋、背中を流れた。
「ああ。 なまじ二人の力が強い分、どちらかが…いや、両方とも消滅する事だってあるかもしれない」
「……そう」
私は唇をかみ締めた。
「霊夢…… もしかして、何か知ってるのか?」
「…えっ?」
魔理沙が私の目を見つめてくる。
「その唇を噛む癖… お前が何か隠し事をしてるときの癖だぜ」
魔理沙の目が……私の全てを見透かしているような気がした。
・・・・・
「はぁっ…… はぁっ……」
「ふぅ…… ふぅ……」
やはり幽々子は強い。
既にグングニルも消え去っている。
一足先の運命を読むことによって致命傷は避けているが、あいつの攻撃は全て私の武器や魔力には命中している。
物質も魔力も死に誘われるのでは、こちらは攻撃の手段がなくなっているといっても過言ではない。
しかし、無論私だって何も出来ないでいたわけではない。
破壊された武器の破片が効率的に幽々子にダメージを残すような運命を辿り、攻撃してきたのだ。
互角ではあるが、このままではジリ貧だ。
「ねぇ、今更だけど…」
口を開く。
硬直させるのは、得策ではないと思ったからだ。
幽々子も、無言ではあるが私に先を言うように促している。
「何故、あなたがこれほどまでに怒るのよ? さっきも言ったけど、これは私と霊夢の問題なのよ?」
先程よりは冷静に、私は言った。
幽々子が顔をゆっくりと上げる。
「違うわ」
静かに、だがはっきりと幽々子が言い切った。
「これは、紫の問題でもあるのよ」
紫?
なぜ、ここで紫が出てくるんだ?
あいつは…
あいつは、それこそ霊夢と…
「あなたには… 鞘当に勝ったあなたにはわからないのよ」
話は終わり、と言わんばかりに再び幽々子から死の気配が強まる。
私も眷属から作り出したナイフを構える。
「その勝負、待ったッ!!!」
その言葉と共に、私たちは大量の御札に包まれ、私は意識を失った……
・・・・・
「…う…んっ?」
思いのほか、目覚めは快調だった。
枕が非常に気持ち良い。
「あ…… 目、覚めた?」
目を覚ますと目の前に霊夢がいた。
「…ここは?」
「神社よ。 博麗神社」
急激に意識が覚醒してくる。
えっと… 私は冥界で幽々子と弾幕りあって…
そうだ!幽々子はッ?!
起き上がろうとした私を霊夢が慌てて止める。
「ああ、幽々子も今は落ち着いてるから、安心しなさい」
「あ…… そう?……って」
気がついてみれば、私は霊夢の膝を枕にして眠っていた。
「れ、霊夢?! ご、ごめんなさい!迷惑かけたわね!?」
振られてしまった相手の膝枕で眠っていたとは恥ずかしいにもほどがある。
そう思い、飛び起きて謝る私に霊夢が頭を下げてきた。
「ごめん、レミリア」
「え? えっ?」
混乱する。
何で霊夢が私に謝ってるんだろう?
「わたし、レミリアに嘘ついてたのよ」
「……嘘?」
「紫のことが好きだっていう話よ」
え?それって…
寝起きで回らない頭にそんなことを言われても理解が追いつかない。
そんな私に霊夢はゆっくりと語り始めた。
・・・・・
私は、魔理沙に全てを話していた。
三日前の昼に、紫に『レミリアが好きだから』と断ったこと。
三日前の夜に、レミリアに『紫のことが好きだから』と断ったこと。
「なんで…… なんでそんなことしたんだよッ!」
「だって… 私は、人間なのよ? その上、博麗の巫女でもある。 妖怪と付き合っていけるわけ、ないじゃない……」
私が喋り終えるのと同時に魔理沙が固めた拳で私の右頬を思いっきり殴りつけてきた。
「馬鹿ッ! お前は馬鹿野郎だッ!」
魔理沙が叫ぶ。
それはいつものこの少女の姿。
私には、ないもの。
「なんで…… なんで嘘を吐いたんだッ!? あいつらは……あいつらは本気だったんだぞ?!」
「それは……」
魔理沙の言葉が激しくなればなるほど、右頬の痛みが強くなってくる。
「嫌いだったら、嫌いだって言えばいいさ! でもな、お前ももう、気がついてるんだろ?! お前がそんな半端な答えを言うなんてのは、もうあいつらのことが気になってるんだ!!」
「……」
「痛いか?! でもな、あいつらはその痛みすら感じさせてもらえなかったんだぞ!? お前が空っぽな答えを渡しちまったから!!」
「魔理沙・・・」
目が覚めた気がした。
そうだ、ハッキリ、伝えるべきだったんだ。
曖昧にお茶を濁して、私は何を守りたかったんだろう?
二人を傷つけたくなかった?いや、違う。
自分が傷つきたくなかったんだ…
「魔理沙、左も殴ってもらって良いかしら?」
「ちなみになんでだ?」
「わたしが傷つけたのは、2人でしょ? まだ1人分よ」
「わかった。 思いっきり、いくからな?」
バシンッ、と神社に良い音が響いた。
・・・・・
「……で、鬼も真っ青になって逃げ出すようなアンタと幽々子の戦いを止めにいったのよ」
私は話を聞きながら、霊夢の頬っぺたを見つめていた。
よくよく見れば結構腫れている。
相当強く、気合を入れられたようだ。
「で、レミリア。そんな弱い私だけど、そんなヒドい女だけど、まだ私のことが好きだったりする?」
「ほえ?」
いきなりの質問に面食らう。
しかし、霊夢の目は真剣だった。
「……もちろん。 簡単に諦められるんだったら、三日二晩も泣かないわよ」
「じゃあさ、私が博麗の巫女引退するまで待ってもらっても良い? 返事はそのとき出すから」
「良いに決まっているじゃない。たとえあなたがしわくちゃのお婆ちゃんになっていても、私はあなたが欲しいのよ」
私が言い終えるのと同時に唇にやわらかい感触。
「れ、れ、れいむ? い、今のは…」
「ん? 待ってもらうから先払い。 足りなかった?」
私はもちろん、真っ赤になっていると思うが、淡々と答えているように見える霊夢も、若干顔が赤くなっている気がした。
「足りない、なんてものじゃないけど、お楽しみは手に入ってからにするわ」
霊夢は微笑んで去っていった。
きっと、四日四晩くらい泣き腫らした紫にも同じ事を伝えてくるのだろう。
「でも……」
思わず、顔がニヤけてしまう。
もし、あの時失恋を恐れて踏み出さなかったら。
きっと、この運命には辿りつけなかったのだろうから。
紫も、霊夢と頻繁にパートナーになったりしてるし、強敵だ。
でも、きっと私は戦っていける。
この、愛しい霊夢の争奪戦を。
改変が全て悪いとは言いませんが、その辺りをハッキリさせてください。
もし、無許可に人様の作品を改変・転載してるだけなら、それだけで評価外。
というか著作権侵害です。
あと、せめて匿名希望ではなく名前を書いて欲しかった……
内容的には、何故に紫本人では幽々子が出張ってるのか、理由が分かりません。
幽々子ではなく紫がレミリアに喧嘩を吹っ掛けた方が違和感がないように思います。
何らかの理由があったのなら、その辺りをもう少し描写して欲しかったです。
内容だけで点数をつけるとしたら50点で、ただ上記の件が絡んでるのでフリーレスで。
まあ、レミリアの思考が同じ程度ですが。