かろんころん、とベルの音。来客を告げる爽やかな音色に、その場にいた誰もが視線を投げかける。
『いらっしゃいませ』
カウンターから真っ直ぐ、入り口まで向けられるその声は、聞く者の心を無性に落ち着かせる。
再び談笑に戻っていく人々。騒がしさを増す室内。
――― ここは地底に居を構えるバー。その名は”3rd 3y3s”。読みはあなたの思った通り。
基本的に地底に住む酒好きや、寂しさから話し相手を求める妖怪が集う、ちょっぴり洒落た雰囲気の店。
しかしここには、よく地上に住む者も訪れるという。
味は普通に良いが、別段珍しい酒が置いてある訳じゃない。肴だって同様だ。
なら何故か。それは、この店にいる名物バーテンダーの為。
常勤が二人と、週替わりで一人。三者三様の一風変わったマスターが、話を、悩みを聞いてくれるのだ。
単なる話し相手と侮る無かれ。話をした誰もが満足した顔で席を立ち、近い内の再来を誓う店。
それがこの”3rd 3y3s”。
――― さて、今宵の客はどなたかな?
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”1st glass:古明地さとり”
――― あら、こんにちは。いつもありがとうございます。あなたの方から……え、今日はお客さん?
これは失礼。わざわざこんな偏屈な場所まで、ありがとうございます。
あなたに頂いている氷のお陰で、このバーもやっていけてるようなものですから。
え、なんでそんなに丁寧なのって?前会った時と違う?そりゃあ、お客様相手ですから。
――― そういうの、なんていうか知ってるって?え、工事現場?
『公私混同』ですか?それに、逆の意味です。でも、よく知ってますね。
とりあえず何か……っと、その前に。どうやらあなたは、何か悩んでいるようですね。
隠してもダメですよ、私には分かります。私はですね、お客様のお顔を見れば、悩み事が分かるんですよ。
え、ウソだって?ふふ……試してみます?
――― なるほど、なるほど。おバカ扱いされてしまう自分自身に腹が立ってしょうがないと。
驚いてますね。言ったでしょう、私は相手の悩み事が分かるんです。
もっと色々当ててみましょうか。どれどれ――― ふむ。紅白巫女に数学対決で負けて、神社の掃き掃除を二週間やらされたと。
みんなは慰めてくれるけど、みんな自分よりも頭がいいから悔しいし、どうしてもイヤミに聞こえてしまう。
ずっと優しくしてくれたお友達にも辛く当たって泣かせてしまって、そんな自分が嫌いになりそうになって、誰かに聞いてもらおうとここに来た。
――― もうやめて?おっとこれは失礼。大丈夫、誰にも聞こえてません。
そうですね。あなたの悩みはよく分かります。私も色々とレッテルを貼られて、無駄に嫌われた時期もありましたから。
え、とても信じられない?ありがとうございます。嬉しいですよ。まあ今は結構マシになりました。
喉渇いてませんか?どうぞ。ああ、オレンジジュース嫌いだったらごめんなさい。
――― おいしそうに飲みますね。安心しました。おいしそうに食べたり飲んだりする人、私は大好きです。何だかとっても、優しい気持ちになれますから。
飲みながらで構いませんし、聞き流して下さっても構いませんが。少しばかり、喋らせて下さい。
あなたの言うバカというのは、知識の浅い人の事なのでしょう。物を知らない、難しい問題が解けない、詳しくない。
でもその理屈で言うならですね、誰だってバカなんですよ。だって、何もかも知ってる人なんていません。
私だってそうです。確かに、数学なら多少自信があります。けど、私はあなたのように沢山の友達はいません。
素敵な遊びも、愉快なイタズラも知りませんし、地上の美しい風景や吹く風の心地良さ、太陽の温かさだってろくに知りません。
私はそういう意味では、とんでもないバカですよ。誰だってバカなんです。
人間にも妖怪にも、もちろん妖精にだって限りませんけど、沢山のモノを持つにはその身体はあまりに小さすぎます。
だけど、だからこそ――― その小さな身体に持っているモノが、とっても光り輝いて見えるんです。
あなたにも、あるでしょう?私には分かりますよ。
――― 毎日遊びまわるあなたに、飽きずに付き合ってくれるお友達とか。
呆れながらも、イタズラに付き合ってくれる人だっていますし、そんなあなたを叱りながらも頭を撫でてくれる人だっています。
それだけ多くの人を惹きつけたのは、他でも無いあなた自身です。
一時の激昂で言葉のナイフを突き付けてしまったお友達に、今心から謝りたいと思っています。
さっきも、私が『沢山の友達はいない』と言った時。分かってますよ。『あたいでよかったら』って。とっても、嬉しいです。
そんなあなたの優しさも、大切な持ち物の一つです。そんなあなたを、誰がバカと呼べましょう。
あなたの心は、知識の有無だけなんかじゃ決して計れません。もっと自分自身を誇ってもいいと思いますよ。
――― ちょっと、すっきりしましたか?お役に立てて嬉しいです。
けどそうですね、せっかくですし――― 知識の面でも、ちょっぴりお手伝いしましょうか。
”スクリュードライバー”というカクテルをご存じ、ないですよね。子供がお酒にあんまり詳しくなくて当然です。
え、かっこいい名前?憧れる?ふふ、私もそう思います。でもこれ、ドライバーって言えば分かると思いますけど、ねじ回しの事なんです。
ウォッカというお酒と、オレンジジュースを混ぜただけのシンプルなカクテルですが、なんでこんな名前なのか気になりません?
このお酒はですね、外の世界のとある工場で働いていた作業員さんが考えたそうです。考えたというか、喉が渇いたからとりあえず作った、らしいですけど。
で、その時に作ったカクテルを混ぜるのに使ったのが、スクリュードライバー ―――ねじ回しだったんです。
だから、こんな名前になったんですよ。どうです、一つ賢くなれたでしょう?
お友達にも、教えてあげて下さいね。きっと、すごいって言われますよ。お酒に詳しいって、とっても大人っぽく見えますから。
私はまだまだ子供ですけどね。じゃあせっかくですし、飲んでみます?
――― 今日の一杯、スクリュードライバーです。どうぞ。
おいしい?それは良かった。オレンジジュース多めにしましたし、元々飲みやすい事で知られるカクテルですから。
ただ、このお酒には”レディキラー”という異名がありましてですね。ああ違います、雪女さんじゃありません。レディです、レディ。女性の事ですよ。
なんでも、女性にも飲みやすいけれどその割にアルコール度数が高い、きついお酒だからという事でですね。
あらら、大丈夫ですか?え、もっと?とりあえず今は一杯だけにしておきましょう。
それよりほら、私の他にもあと二人いますから。もし良ければ、そちらのお話も聞いてみてはどうでしょう。
きっと、あなたの身になりますよ。大丈夫です、お酒が回って眠ってしまったら、お布団敷いてあげますから。
ええ、ええ。お待ちしてますよ。
――― お燐、いる?客間にお布団敷いてくれるかしら?今すぐじゃなくていいから―――
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”2nd glass:河城にとり”
――― や、いらっしゃい。え、何で私かって?
発明品とかの縁で最近、地底のみんなと仲良くなってさ。時々やらせてもらってるのさ。
細かい事はいいじゃないか。それより顔赤いけど大丈夫かい?ほれ、水飲む?
ああ、そんなに慌てて飲まなくても。こぼしたよ、言わんこっちゃない。
子供がお酒なんて飲むもんじゃないね。子供扱いするな?ははは、悪かったよ。
――― んで、さとりとは何の話をしてたんだい?その様子だと、悩みはちっとは取れたみたいだけどさ。
え?しちきがほしい?なんだって?ああ、知識か。要は豆知識な話か。
さっきはなんか、ドライバーがどうのとか聞こえたね。んじゃ、私もそんな話をしよっかな。聞く?
ん、ありがと。
――― さてと。ドライバーって言えば当然、ネジを回す道具さね。
色んな種類があるのは知ってるだろ?プラス、マイナス、六角、辺りは有名だけどさ。
他にトルク、インパクト、ショック、ラチェット、コア――― んお?ああ、図書館の司書見習いさんは関係ない。core。核。
まあ、私もしょっちゅうお世話になる道具だからね、知ってて当然だし、お前さんが知らんのは無理ない話だ。
で。今回話題にすんのは有名な方。マイナスドライバーだ。
これってさ、えっと――― あったあった。こんな風に、先が平べったくて細長く、鋭い。
なんで持ってるのかって?そりゃ河童だからさ。工具はいつだって持ってる。
続けるよ。こんな風な形だからさ、他のドライバーだって当然そうだけど、危ないよね。武器になる。
まあそんな物騒な話じゃなくて、これってのみとか、たがねにも似た形だ。え、分からない?
ほら、これ。上からガンガンって叩いてさ、木とか石とか削ったり叩き割ったりする道具さ。
まあ要するに、そういう用途にも使えるって事さ。勿論、本来とは違うからホントはやっちゃいけないけどね。
道具は使いよう、って事だ。上手に使えば、本来のレベルを遥かに超えた使い勝手を発揮する。
この考え、道具に限らないよ?柔軟な発想は大事だ。お前さんみたいな子供は、その点本当に優れてると思うよ。
――― だけどさ、こいつをダメな方向に向ける輩だっている。
知ってるかい?まあ知るわきゃないが、外の世界の話さ。
東の最果てにある島国――― つかアレだ、日本。山の上の神様らがいた所だな。
そこでは、マイナスドライバーを外で持ち歩いてたら捕まるらしいんだ。
なんでって?そりゃ気になるよね。こいつをさ、人様の家のカギこじ開ける為に使うバカがいたからだってさ。
どうしてそんな事するかって?そりゃ、泥棒する為さ。そんなんが何回も起こったから、大工さんとか以外じゃ持ち歩きを禁止したんだと。
私らみたいに、ドライバーを手足と使うモンからしたら冗談じゃない話だ。そこらで工作も出来ないなんてまっぴらさ。
え?外の世界にいる河童がかわいそう?ありがとね。まあきっと上手くやってるさ。
お前さんも、道具は正しく使ってこそ便利になるんだ。アホな方向に向けたりして、お仕置きされたりするなよ?
うん、いい子だ。
おっと、喋りっぱなしでごめんよ。なんか飲みたいよね。
そうだな――― 日本の話題が出たし、ほれ。ほうじ茶。きゅうりの浅漬けもつけたげる。
お酒じゃないのって?子供がお酒を呑み過ぎると怖いぞ?お茶飲め、お茶。
まあいつか、にとりお手製のきゅうりカクテルでも振る舞ってあげるさ。
あ、きゅうり一つだけもらっていい?
――― 飲みながらでいいよ、聞いておくれ。
お前さんさっき、バカにされたくないとか話してたよね。
けどね、これを覚えといて欲しいんだ。
バカと一口に言っても色々いるんだ。例えば私は発明バカだ。けど全然悪いとは思わない。
知ってると思うけど、私の友達には奉仕バカもいる。人の為に、嫌がる役を進んで買って出るようなヤツだ。
本当にいい子でさぁ、もう見てるだけで――― こ、こほん。話が逸れた。
他にも秋バカ、将棋バカ、新聞バカなんてのもいるね。でも、どれも素晴らしいと私は思う。
ここで言いたいのはそういうバカじゃなくて原義――― 本来の意味だ。
本来の、まあお前さんが言いたいバカってのは、勉強が出来ない者の事じゃない。愚か者の事を言うんだ。
私の話で言うなら、さっきのドライバーの話。便利な道具を、泥棒する為に使うような輩の事さ。
ああいう奴のせいで、多くの人が迷惑を被る。そういう事をする奴は愛せない、本来の意味でのバカだろう。
お前さんは違うよ。さっき、外の河童を心配してくれただろ?道具は正しく使うものだって、ちゃんと分かってるだろ?
――― なら大丈夫。お前さんはバカなんかじゃないさ。私が保証するんだ、胸を張りなよ。
どう、ちょっとは安心できた?そりゃ良かった。
もういい時間だけどどうする?でもまあ、せっかくだからもう一人のバーテンにも話を聞きなよ。
結構エキセントリックな話を持ってるみたいだし、目も覚めるんじゃないかい?
うん、うん。また来ておくれよ。ここにいない時は川にいるからさ。
・
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”3rd glass:古明地こいし”
――― いらっしゃいませ!こいしちゃんのドッキドキカクテルバー”Close your 3y3s”へようこそ。
え、なんか名前が違う?気のせい気のせい。
睨んでる?お姉ちゃんが?無意識だからわっかんないもん。
ま、ま。そんなコトよりさ、二人と何の話してたの?
スクリューとかドライバーとか、ねじるとか回すとか聞こえたけど。
にとりのコイビトの話?くるくる回ってる人。え、違う?
どしたの?にとりがグラス落っことして割った?もう、ドジだなぁ。
そうだなー、それじゃ。私もそんな感じの話でもしよっかな。
せっかく来たんだし、聞いてってよ。
――― さあて。スクリューと言えばもちろん、コークスクリューだよね!
え?って顔しないでよ。コークスクリューブロー。知らない?こう、ねじってドーンって。
カッコいいよね、まさに必殺の一撃ってカンジ。あ、わかる?へへー、何だか嬉しいな。
でさ、私も外の世界の話になるんだけど。これって元々必殺技って感じだけど、これを得意としたボクサーがいたんだって。
名前は忘れちゃったけど、本当に強かったらしいよ。その国じゃほぼ負け無しだったくらい。
憧れる?だよね、いつも最強になりたいって言ってるもんね。
相手の攻撃を全て受け止め、受け流し、隙ができたと見るやドーン!それだけで相手を沈めるくらいの一撃だよ。ロマンだよねー。
しかも、普通に打つバージョンだけじゃなくてもう一つ、必殺技用に特化させたコークスクリューもあってさ。
普通は顔とかを狙って打つんだけど、こっちはなんと相手の心臓目がけて叩き込むんだって。ここ、ここ。胸のあたり。
こんな所に超強力な一撃を打たれたら、痛いだけじゃなくて心臓そのものを少しの間止めちゃうらしいよ。
ほら、心臓っていつも動いてるじゃない。止まったら息ができなくなって死んじゃうし。
それを、ほんの少しでも止めちゃうくらいだからすごいよねー。しかもこの技には名前もついてるの。
その名も『ハートブレイク・ショット』!かっこいー!まさにハートをも打ち砕く渾身の一撃って感じ。
わたしも練習しようかなぁ。ハートブレイクだなんて名前もわたしにピッタリじゃない?
で、えっとぉ――― そうそう。その人が強いってのは分かったと思うけれど。
この人、生涯で二回だけ負けちゃったコトがあって、しかもそれはどちらも同じ人に負けたんだ。
その時の世界チャンピオン。つまり、世界一強い相手にはどうしても勝てなかったんだって。
え、じゃあ自分より強いのって?そうかもねー。幻想郷含めていいかは分かんないけど、少なくとも外じゃ一番強かったんじゃない?
一回目に挑んだ時は、それはもうひどい負け方だったらしいよ。歯が立たない、って言葉がピッタリ。
他にも不幸なことがあって、精神的にひしゃげちゃったから一度は引退したけれど、色々あってもう一度復活。
あっという間に当時の強さを取り戻し、再び挑戦したんだ。今度は前よりずっと強くなってたけれど、逆に相手も本気を出しちゃって。
あちこち骨を砕かれながらも必死に戦って、喰らい付いたんだけど――― ここ一番のハートブレイク・ショットも手の骨が砕けてたせいで打てなくて。
そのまま負けちゃったんだって。最後の最後まで頑張ったけど、とうとう敵わなかったの。
ああ、でもね。わたしが言いたいのはそんな暗いコトじゃなくってさ。
一度は完膚なきまでに、つまり圧倒的に負けた相手に、ここまで頑張って戦えたってスゴイことじゃない?
しかも、相手はその時よりも強くなってたんだよ。全身ボロボロなのに、何度でも立ち上がるの。
わたし、そういうのって本当にカッコいいなって思うんだ。最後まで決して諦めない、不屈の精神。
あなたも戦って負けちゃうこと、結構多いと思うけど。イヤな気分になったらごめんね、でもそうじゃなくて。
何度負けたってあなたは、そのたびに立ち上がって再び挑む。あなたにも、彼のような並々ならぬ精神力が備わってるんじゃないかなって。
その人も負けたとは言え、彼の戦いぶりに見ていた多くの人々、果ては彼を負かしたチャンピオンまで彼を称えたらしいよ。
単純な勝ち負けじゃはかれない、その人の強さや価値がきっとあると思うんだ。
わたしはね、あなたにもそういうのがあるんじゃないかなって。
頭がいいとか、力が強いとか。目に見える尺度の価値ももちろんスゴイことだよ。
だけど、それが劣っているからってダメなんてことはないんだよ。
わたしだって、お姉ちゃんよりも弾幕は強いけど――― お姉ちゃんの方がね、ずっと立派だと思うんだ。えへへー。
え?お姉ちゃんが顔真っ赤でグラス割った?もー、なにやってんの。珍しく褒めたらコレなんだから。
二人合わせて一日に二個も割るなんて。わたしをもっと見習いなさーい!
えーっとぉ、何のハナシだっけ?ごめん、何が言いたいかよく分かんなくなっちゃった。
まあとにかく、コークスクリューはカッコいいってことと、必殺技を持とうっていうお話。でいいのかな?
あ、そうだ。なんか出さなきゃ。お姉ちゃんはカクテルで、にとりはお茶?んー。
じゃあ――― はいコレ、鉄アレイ!3kgからいってみましょー。
やっぱカラダ鍛えなきゃね。ほら持って持って!はいうえー、したー。
重い?もっと頑張んなきゃ。わたしに貸しなさーい。
ほらいーち、にーぃ……んぅ、さぁー、んっ……ふぅぅ。
あっ、何その目!き、今日はちょっと調子が悪いの!もー、ばかぁ!
次はあなたの番だよ。はい、いーち、にーぃ。
そうそう、いい感じ。ま、イヤなことは運動でもしてさっさと忘れるに限るよ。
勉強で負けたなら、スポーツとかで見返してあげればいいの。いっそボクシングでも挑んだら?
わたしも強そうな必殺技調べて、教えてあげるからさ。あ、でもハートブレイク・ショットはわたしのだからね。ダメー。
せっかくだし、キャプションも考えてみよっかな。
『相手のココロをシャットアウト!ハートブレイクファイター・古明地こいし』とかどう!?うーん、かっこいー!
え?あたいのも考えて?うーん、どうしよっかなー。
じゃあさ、わたしの話にもっと付き合ってくれたら考えてあげる!地霊殿の外の人と話せる機会ってあんまりないからさ。
もっとお話しようよー。ジュースもう二、三杯くらいタダにしてあげるからさ。ねーねー、いいでしょ?
え、なにお姉ちゃん。もうすぐ閉店?しるかー!
じゃあこの子泊めてくもん!ついでに旧地獄も冷やしてもらえばいいじゃない!
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今夜の”お客さん”は、夜通しバーテンの一人と語らい、ジュースを飲み過ぎて何度もトイレの世話になりつつ店で夜を明かした。
子供に徹夜は少々堪えたようであったが、明け方から昼過ぎまでぐっすりと地霊殿の客間で眠り、目を覚まして帰っていく彼女の顔はとても晴れやかだった。
右手は少々筋肉痛のようだけれど、悩みなんて微塵も感じられない明るい表情に、彼女の悩みを聞いた者達も心からの笑顔でそれを見送った。
きっと彼女は、近い内にまた訪れるだろう。互いに顔を見合わせ、満足げにもう一度笑ってから開店準備。
夜になれば、店内は再び妖怪を主とした酒好きの賑やかな声で満たされる。
けれど、中にはちょっぴり浮かない顔をした者もいる。
彼女達は今日も、誰かの悩みをカクテルにしてすっきり飲み干させてくれるだろう。
――― さて、今宵の客はどなたかな?
『いらっしゃいませ』
カウンターから真っ直ぐ、入り口まで向けられるその声は、聞く者の心を無性に落ち着かせる。
再び談笑に戻っていく人々。騒がしさを増す室内。
――― ここは地底に居を構えるバー。その名は”3rd 3y3s”。読みはあなたの思った通り。
基本的に地底に住む酒好きや、寂しさから話し相手を求める妖怪が集う、ちょっぴり洒落た雰囲気の店。
しかしここには、よく地上に住む者も訪れるという。
味は普通に良いが、別段珍しい酒が置いてある訳じゃない。肴だって同様だ。
なら何故か。それは、この店にいる名物バーテンダーの為。
常勤が二人と、週替わりで一人。三者三様の一風変わったマスターが、話を、悩みを聞いてくれるのだ。
単なる話し相手と侮る無かれ。話をした誰もが満足した顔で席を立ち、近い内の再来を誓う店。
それがこの”3rd 3y3s”。
――― さて、今宵の客はどなたかな?
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”1st glass:古明地さとり”
――― あら、こんにちは。いつもありがとうございます。あなたの方から……え、今日はお客さん?
これは失礼。わざわざこんな偏屈な場所まで、ありがとうございます。
あなたに頂いている氷のお陰で、このバーもやっていけてるようなものですから。
え、なんでそんなに丁寧なのって?前会った時と違う?そりゃあ、お客様相手ですから。
――― そういうの、なんていうか知ってるって?え、工事現場?
『公私混同』ですか?それに、逆の意味です。でも、よく知ってますね。
とりあえず何か……っと、その前に。どうやらあなたは、何か悩んでいるようですね。
隠してもダメですよ、私には分かります。私はですね、お客様のお顔を見れば、悩み事が分かるんですよ。
え、ウソだって?ふふ……試してみます?
――― なるほど、なるほど。おバカ扱いされてしまう自分自身に腹が立ってしょうがないと。
驚いてますね。言ったでしょう、私は相手の悩み事が分かるんです。
もっと色々当ててみましょうか。どれどれ――― ふむ。紅白巫女に数学対決で負けて、神社の掃き掃除を二週間やらされたと。
みんなは慰めてくれるけど、みんな自分よりも頭がいいから悔しいし、どうしてもイヤミに聞こえてしまう。
ずっと優しくしてくれたお友達にも辛く当たって泣かせてしまって、そんな自分が嫌いになりそうになって、誰かに聞いてもらおうとここに来た。
――― もうやめて?おっとこれは失礼。大丈夫、誰にも聞こえてません。
そうですね。あなたの悩みはよく分かります。私も色々とレッテルを貼られて、無駄に嫌われた時期もありましたから。
え、とても信じられない?ありがとうございます。嬉しいですよ。まあ今は結構マシになりました。
喉渇いてませんか?どうぞ。ああ、オレンジジュース嫌いだったらごめんなさい。
――― おいしそうに飲みますね。安心しました。おいしそうに食べたり飲んだりする人、私は大好きです。何だかとっても、優しい気持ちになれますから。
飲みながらで構いませんし、聞き流して下さっても構いませんが。少しばかり、喋らせて下さい。
あなたの言うバカというのは、知識の浅い人の事なのでしょう。物を知らない、難しい問題が解けない、詳しくない。
でもその理屈で言うならですね、誰だってバカなんですよ。だって、何もかも知ってる人なんていません。
私だってそうです。確かに、数学なら多少自信があります。けど、私はあなたのように沢山の友達はいません。
素敵な遊びも、愉快なイタズラも知りませんし、地上の美しい風景や吹く風の心地良さ、太陽の温かさだってろくに知りません。
私はそういう意味では、とんでもないバカですよ。誰だってバカなんです。
人間にも妖怪にも、もちろん妖精にだって限りませんけど、沢山のモノを持つにはその身体はあまりに小さすぎます。
だけど、だからこそ――― その小さな身体に持っているモノが、とっても光り輝いて見えるんです。
あなたにも、あるでしょう?私には分かりますよ。
――― 毎日遊びまわるあなたに、飽きずに付き合ってくれるお友達とか。
呆れながらも、イタズラに付き合ってくれる人だっていますし、そんなあなたを叱りながらも頭を撫でてくれる人だっています。
それだけ多くの人を惹きつけたのは、他でも無いあなた自身です。
一時の激昂で言葉のナイフを突き付けてしまったお友達に、今心から謝りたいと思っています。
さっきも、私が『沢山の友達はいない』と言った時。分かってますよ。『あたいでよかったら』って。とっても、嬉しいです。
そんなあなたの優しさも、大切な持ち物の一つです。そんなあなたを、誰がバカと呼べましょう。
あなたの心は、知識の有無だけなんかじゃ決して計れません。もっと自分自身を誇ってもいいと思いますよ。
――― ちょっと、すっきりしましたか?お役に立てて嬉しいです。
けどそうですね、せっかくですし――― 知識の面でも、ちょっぴりお手伝いしましょうか。
”スクリュードライバー”というカクテルをご存じ、ないですよね。子供がお酒にあんまり詳しくなくて当然です。
え、かっこいい名前?憧れる?ふふ、私もそう思います。でもこれ、ドライバーって言えば分かると思いますけど、ねじ回しの事なんです。
ウォッカというお酒と、オレンジジュースを混ぜただけのシンプルなカクテルですが、なんでこんな名前なのか気になりません?
このお酒はですね、外の世界のとある工場で働いていた作業員さんが考えたそうです。考えたというか、喉が渇いたからとりあえず作った、らしいですけど。
で、その時に作ったカクテルを混ぜるのに使ったのが、スクリュードライバー ―――ねじ回しだったんです。
だから、こんな名前になったんですよ。どうです、一つ賢くなれたでしょう?
お友達にも、教えてあげて下さいね。きっと、すごいって言われますよ。お酒に詳しいって、とっても大人っぽく見えますから。
私はまだまだ子供ですけどね。じゃあせっかくですし、飲んでみます?
――― 今日の一杯、スクリュードライバーです。どうぞ。
おいしい?それは良かった。オレンジジュース多めにしましたし、元々飲みやすい事で知られるカクテルですから。
ただ、このお酒には”レディキラー”という異名がありましてですね。ああ違います、雪女さんじゃありません。レディです、レディ。女性の事ですよ。
なんでも、女性にも飲みやすいけれどその割にアルコール度数が高い、きついお酒だからという事でですね。
あらら、大丈夫ですか?え、もっと?とりあえず今は一杯だけにしておきましょう。
それよりほら、私の他にもあと二人いますから。もし良ければ、そちらのお話も聞いてみてはどうでしょう。
きっと、あなたの身になりますよ。大丈夫です、お酒が回って眠ってしまったら、お布団敷いてあげますから。
ええ、ええ。お待ちしてますよ。
――― お燐、いる?客間にお布団敷いてくれるかしら?今すぐじゃなくていいから―――
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”2nd glass:河城にとり”
――― や、いらっしゃい。え、何で私かって?
発明品とかの縁で最近、地底のみんなと仲良くなってさ。時々やらせてもらってるのさ。
細かい事はいいじゃないか。それより顔赤いけど大丈夫かい?ほれ、水飲む?
ああ、そんなに慌てて飲まなくても。こぼしたよ、言わんこっちゃない。
子供がお酒なんて飲むもんじゃないね。子供扱いするな?ははは、悪かったよ。
――― んで、さとりとは何の話をしてたんだい?その様子だと、悩みはちっとは取れたみたいだけどさ。
え?しちきがほしい?なんだって?ああ、知識か。要は豆知識な話か。
さっきはなんか、ドライバーがどうのとか聞こえたね。んじゃ、私もそんな話をしよっかな。聞く?
ん、ありがと。
――― さてと。ドライバーって言えば当然、ネジを回す道具さね。
色んな種類があるのは知ってるだろ?プラス、マイナス、六角、辺りは有名だけどさ。
他にトルク、インパクト、ショック、ラチェット、コア――― んお?ああ、図書館の司書見習いさんは関係ない。core。核。
まあ、私もしょっちゅうお世話になる道具だからね、知ってて当然だし、お前さんが知らんのは無理ない話だ。
で。今回話題にすんのは有名な方。マイナスドライバーだ。
これってさ、えっと――― あったあった。こんな風に、先が平べったくて細長く、鋭い。
なんで持ってるのかって?そりゃ河童だからさ。工具はいつだって持ってる。
続けるよ。こんな風な形だからさ、他のドライバーだって当然そうだけど、危ないよね。武器になる。
まあそんな物騒な話じゃなくて、これってのみとか、たがねにも似た形だ。え、分からない?
ほら、これ。上からガンガンって叩いてさ、木とか石とか削ったり叩き割ったりする道具さ。
まあ要するに、そういう用途にも使えるって事さ。勿論、本来とは違うからホントはやっちゃいけないけどね。
道具は使いよう、って事だ。上手に使えば、本来のレベルを遥かに超えた使い勝手を発揮する。
この考え、道具に限らないよ?柔軟な発想は大事だ。お前さんみたいな子供は、その点本当に優れてると思うよ。
――― だけどさ、こいつをダメな方向に向ける輩だっている。
知ってるかい?まあ知るわきゃないが、外の世界の話さ。
東の最果てにある島国――― つかアレだ、日本。山の上の神様らがいた所だな。
そこでは、マイナスドライバーを外で持ち歩いてたら捕まるらしいんだ。
なんでって?そりゃ気になるよね。こいつをさ、人様の家のカギこじ開ける為に使うバカがいたからだってさ。
どうしてそんな事するかって?そりゃ、泥棒する為さ。そんなんが何回も起こったから、大工さんとか以外じゃ持ち歩きを禁止したんだと。
私らみたいに、ドライバーを手足と使うモンからしたら冗談じゃない話だ。そこらで工作も出来ないなんてまっぴらさ。
え?外の世界にいる河童がかわいそう?ありがとね。まあきっと上手くやってるさ。
お前さんも、道具は正しく使ってこそ便利になるんだ。アホな方向に向けたりして、お仕置きされたりするなよ?
うん、いい子だ。
おっと、喋りっぱなしでごめんよ。なんか飲みたいよね。
そうだな――― 日本の話題が出たし、ほれ。ほうじ茶。きゅうりの浅漬けもつけたげる。
お酒じゃないのって?子供がお酒を呑み過ぎると怖いぞ?お茶飲め、お茶。
まあいつか、にとりお手製のきゅうりカクテルでも振る舞ってあげるさ。
あ、きゅうり一つだけもらっていい?
――― 飲みながらでいいよ、聞いておくれ。
お前さんさっき、バカにされたくないとか話してたよね。
けどね、これを覚えといて欲しいんだ。
バカと一口に言っても色々いるんだ。例えば私は発明バカだ。けど全然悪いとは思わない。
知ってると思うけど、私の友達には奉仕バカもいる。人の為に、嫌がる役を進んで買って出るようなヤツだ。
本当にいい子でさぁ、もう見てるだけで――― こ、こほん。話が逸れた。
他にも秋バカ、将棋バカ、新聞バカなんてのもいるね。でも、どれも素晴らしいと私は思う。
ここで言いたいのはそういうバカじゃなくて原義――― 本来の意味だ。
本来の、まあお前さんが言いたいバカってのは、勉強が出来ない者の事じゃない。愚か者の事を言うんだ。
私の話で言うなら、さっきのドライバーの話。便利な道具を、泥棒する為に使うような輩の事さ。
ああいう奴のせいで、多くの人が迷惑を被る。そういう事をする奴は愛せない、本来の意味でのバカだろう。
お前さんは違うよ。さっき、外の河童を心配してくれただろ?道具は正しく使うものだって、ちゃんと分かってるだろ?
――― なら大丈夫。お前さんはバカなんかじゃないさ。私が保証するんだ、胸を張りなよ。
どう、ちょっとは安心できた?そりゃ良かった。
もういい時間だけどどうする?でもまあ、せっかくだからもう一人のバーテンにも話を聞きなよ。
結構エキセントリックな話を持ってるみたいだし、目も覚めるんじゃないかい?
うん、うん。また来ておくれよ。ここにいない時は川にいるからさ。
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”3rd glass:古明地こいし”
――― いらっしゃいませ!こいしちゃんのドッキドキカクテルバー”Close your 3y3s”へようこそ。
え、なんか名前が違う?気のせい気のせい。
睨んでる?お姉ちゃんが?無意識だからわっかんないもん。
ま、ま。そんなコトよりさ、二人と何の話してたの?
スクリューとかドライバーとか、ねじるとか回すとか聞こえたけど。
にとりのコイビトの話?くるくる回ってる人。え、違う?
どしたの?にとりがグラス落っことして割った?もう、ドジだなぁ。
そうだなー、それじゃ。私もそんな感じの話でもしよっかな。
せっかく来たんだし、聞いてってよ。
――― さあて。スクリューと言えばもちろん、コークスクリューだよね!
え?って顔しないでよ。コークスクリューブロー。知らない?こう、ねじってドーンって。
カッコいいよね、まさに必殺の一撃ってカンジ。あ、わかる?へへー、何だか嬉しいな。
でさ、私も外の世界の話になるんだけど。これって元々必殺技って感じだけど、これを得意としたボクサーがいたんだって。
名前は忘れちゃったけど、本当に強かったらしいよ。その国じゃほぼ負け無しだったくらい。
憧れる?だよね、いつも最強になりたいって言ってるもんね。
相手の攻撃を全て受け止め、受け流し、隙ができたと見るやドーン!それだけで相手を沈めるくらいの一撃だよ。ロマンだよねー。
しかも、普通に打つバージョンだけじゃなくてもう一つ、必殺技用に特化させたコークスクリューもあってさ。
普通は顔とかを狙って打つんだけど、こっちはなんと相手の心臓目がけて叩き込むんだって。ここ、ここ。胸のあたり。
こんな所に超強力な一撃を打たれたら、痛いだけじゃなくて心臓そのものを少しの間止めちゃうらしいよ。
ほら、心臓っていつも動いてるじゃない。止まったら息ができなくなって死んじゃうし。
それを、ほんの少しでも止めちゃうくらいだからすごいよねー。しかもこの技には名前もついてるの。
その名も『ハートブレイク・ショット』!かっこいー!まさにハートをも打ち砕く渾身の一撃って感じ。
わたしも練習しようかなぁ。ハートブレイクだなんて名前もわたしにピッタリじゃない?
で、えっとぉ――― そうそう。その人が強いってのは分かったと思うけれど。
この人、生涯で二回だけ負けちゃったコトがあって、しかもそれはどちらも同じ人に負けたんだ。
その時の世界チャンピオン。つまり、世界一強い相手にはどうしても勝てなかったんだって。
え、じゃあ自分より強いのって?そうかもねー。幻想郷含めていいかは分かんないけど、少なくとも外じゃ一番強かったんじゃない?
一回目に挑んだ時は、それはもうひどい負け方だったらしいよ。歯が立たない、って言葉がピッタリ。
他にも不幸なことがあって、精神的にひしゃげちゃったから一度は引退したけれど、色々あってもう一度復活。
あっという間に当時の強さを取り戻し、再び挑戦したんだ。今度は前よりずっと強くなってたけれど、逆に相手も本気を出しちゃって。
あちこち骨を砕かれながらも必死に戦って、喰らい付いたんだけど――― ここ一番のハートブレイク・ショットも手の骨が砕けてたせいで打てなくて。
そのまま負けちゃったんだって。最後の最後まで頑張ったけど、とうとう敵わなかったの。
ああ、でもね。わたしが言いたいのはそんな暗いコトじゃなくってさ。
一度は完膚なきまでに、つまり圧倒的に負けた相手に、ここまで頑張って戦えたってスゴイことじゃない?
しかも、相手はその時よりも強くなってたんだよ。全身ボロボロなのに、何度でも立ち上がるの。
わたし、そういうのって本当にカッコいいなって思うんだ。最後まで決して諦めない、不屈の精神。
あなたも戦って負けちゃうこと、結構多いと思うけど。イヤな気分になったらごめんね、でもそうじゃなくて。
何度負けたってあなたは、そのたびに立ち上がって再び挑む。あなたにも、彼のような並々ならぬ精神力が備わってるんじゃないかなって。
その人も負けたとは言え、彼の戦いぶりに見ていた多くの人々、果ては彼を負かしたチャンピオンまで彼を称えたらしいよ。
単純な勝ち負けじゃはかれない、その人の強さや価値がきっとあると思うんだ。
わたしはね、あなたにもそういうのがあるんじゃないかなって。
頭がいいとか、力が強いとか。目に見える尺度の価値ももちろんスゴイことだよ。
だけど、それが劣っているからってダメなんてことはないんだよ。
わたしだって、お姉ちゃんよりも弾幕は強いけど――― お姉ちゃんの方がね、ずっと立派だと思うんだ。えへへー。
え?お姉ちゃんが顔真っ赤でグラス割った?もー、なにやってんの。珍しく褒めたらコレなんだから。
二人合わせて一日に二個も割るなんて。わたしをもっと見習いなさーい!
えーっとぉ、何のハナシだっけ?ごめん、何が言いたいかよく分かんなくなっちゃった。
まあとにかく、コークスクリューはカッコいいってことと、必殺技を持とうっていうお話。でいいのかな?
あ、そうだ。なんか出さなきゃ。お姉ちゃんはカクテルで、にとりはお茶?んー。
じゃあ――― はいコレ、鉄アレイ!3kgからいってみましょー。
やっぱカラダ鍛えなきゃね。ほら持って持って!はいうえー、したー。
重い?もっと頑張んなきゃ。わたしに貸しなさーい。
ほらいーち、にーぃ……んぅ、さぁー、んっ……ふぅぅ。
あっ、何その目!き、今日はちょっと調子が悪いの!もー、ばかぁ!
次はあなたの番だよ。はい、いーち、にーぃ。
そうそう、いい感じ。ま、イヤなことは運動でもしてさっさと忘れるに限るよ。
勉強で負けたなら、スポーツとかで見返してあげればいいの。いっそボクシングでも挑んだら?
わたしも強そうな必殺技調べて、教えてあげるからさ。あ、でもハートブレイク・ショットはわたしのだからね。ダメー。
せっかくだし、キャプションも考えてみよっかな。
『相手のココロをシャットアウト!ハートブレイクファイター・古明地こいし』とかどう!?うーん、かっこいー!
え?あたいのも考えて?うーん、どうしよっかなー。
じゃあさ、わたしの話にもっと付き合ってくれたら考えてあげる!地霊殿の外の人と話せる機会ってあんまりないからさ。
もっとお話しようよー。ジュースもう二、三杯くらいタダにしてあげるからさ。ねーねー、いいでしょ?
え、なにお姉ちゃん。もうすぐ閉店?しるかー!
じゃあこの子泊めてくもん!ついでに旧地獄も冷やしてもらえばいいじゃない!
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今夜の”お客さん”は、夜通しバーテンの一人と語らい、ジュースを飲み過ぎて何度もトイレの世話になりつつ店で夜を明かした。
子供に徹夜は少々堪えたようであったが、明け方から昼過ぎまでぐっすりと地霊殿の客間で眠り、目を覚まして帰っていく彼女の顔はとても晴れやかだった。
右手は少々筋肉痛のようだけれど、悩みなんて微塵も感じられない明るい表情に、彼女の悩みを聞いた者達も心からの笑顔でそれを見送った。
きっと彼女は、近い内にまた訪れるだろう。互いに顔を見合わせ、満足げにもう一度笑ってから開店準備。
夜になれば、店内は再び妖怪を主とした酒好きの賑やかな声で満たされる。
けれど、中にはちょっぴり浮かない顔をした者もいる。
彼女達は今日も、誰かの悩みをカクテルにしてすっきり飲み干させてくれるだろう。
――― さて、今宵の客はどなたかな?
私は行くよおおおぉぉぉ!!!
続編も見てみたいです
さとりさんがお悩み相談するのはよく見かけますが、こいしちゃんは初めて見たかも。
にとりもこんなところでバイトしてるとはw
三者とも、相談の合間の小話がいい感じでした。ところで、紅いお嬢様がこいしちゃんに対して対抗心を燃やしていますが大丈夫ですか?
「外の世界」は目に見える尺度で"しか"測らない。
心がすり減る日常の中、こんなバーにお世話になることが出来たら……
ちょっくらバーを求めて地底へ行ってきます
それはともかく、お酒の飲みたくなる話でした。全然強くないですが。
ワイワイした飲み会も楽しいですけど、こういう雰囲気で飲むのもまた、趣があって良いですね。
なるほど心の薬を摂取できますね…カプセル譜面だけに。
幻想郷は固定観念が少なくのびのびと思索にふけれそうないい場所ですよねぇ^^
えーと、週末は空いてたかな
いや、むしろ空ける
ネコロビヤオキさんの書くお話は、毎回楽しんで読ませていただいております。
自分もまだまだ頑張ってみようかなと感じさせてくれる、心暖まる良いバーですね。
素敵なお話でした。本当にありがとうございます。
>>名前が正体不明である程度の能力様
いつも有難う御座います。是非いらして下さいませ。
真ん中は週替わりなので気になるバーテンがいらっしゃればお早めに……。
>>奇声を発する程度の能力様
ぜひぜひいらして下さい。従業員一同、心よりお待ちしております。お客さんも可愛いのが特徴。
>>保冷剤様
うおおおおう、力作長編をぶった切ってしまって本当に申し訳ありません。そして有難う御座います。
こういったキャラ毎の特徴が見えるようなお話は、大変ではありますが書いててとっても楽しいです。第二弾、書こうかなぁ。
>>BAR ヨヨヨ 様
閉店時間になってしまったので……>Ex glass
こいしたんもそれなりに人生経験豊富?なので。お子様だけど。
紅いお嬢様とのネーミングセンス対決。個人的にも気になる。
>>10様
目に見えない部分も大事だけれど、なかなかそれを分かってもらうのは難しい。
嗚呼通いたいなァこんなBAR。まさに理想郷。
>>11様
もしや未成年のお方?大丈夫、ジュースもあります。カクテルって結構色んなジュース使うので実は豊富に置いてあったり。
>>13様
バーテンじゃない従業員相手でも、暇そうならお話を伺う事は可能です。赤い猫さんとか、うにゅうにゅ言ってるカラスさんとか。是非。
>>14様
自分含め、皆様疲れておられる……どこかに無いものか、こんな癒しの場(BAR)。
>>ワレモノ中尉様
いつも有難う御座います。あれは灰でもう限界……いやいや。
このお話を書いてからというもの、どこか落ち着いたBARとかでカクテルを飲みたい衝動が収まりません。いきたひ。
>>キャリー様
いつも有難う御座いますです。心のカゼを退治しちゃうよ、とはこいしたんの弁。カルテは領収書。
常識に囚われない、なんて台詞もありますが程々ならそれはとっても大事だと思ったりも。
>>21様
『ムリっす、葵さん……』
いや勿論喜んでお出ししますが、ビンの中に氷とライム入れるのはムリっす。
>>過剰様
お暇な時に是非。それなりに年中無休です故。
曜日によって訪れている他のお客さんの顔ぶれも変わります。土曜は天人の日。
>>立ちスクリューができない程度の能力様
またしても有難う御座います。ようやくこいしたんのお話の元ネタが分かる方がいらっしゃって嬉しい。
こちらこそ読んで頂けて感謝の極み。これからもそう言って頂けるよう頑張りますネ。
>>28様
わぁい!('(゚∀゚∩
そんなしみじみとした感想がこのお話には似合う気もします。
穴は閉店以前の問題…、目指せ皆伝!