Coolier - 新生・東方創想話

カマイタチ戯談

2013/02/25 02:49:37
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 新年を迎え、祝いだなんやと浮かれていた幻想郷もいつしか落ち着きを取り戻していた。新春とはいうが新暦でこの時期は春の気配も感じない。
晴れていたが空気は冷たく空もやはり小春も感じない寒空だった。
 そんな空の下、神社に三人が寄って縁側に並んで座り、話し合っていた。三人とも位置は違うが足に包帯を巻いている。


「実は昨日、強い風が吹いて。突然何かに転ばされて、気がついたら足に切り傷があったの。大したこと無かったけどね」
 霊夢は包帯の巻いてある足をぷらぷらとさせた。
「私もだ。強風の後、転んで別に石にぶつかった訳でもないのに、スパっとな」
 魔理沙は少しスカートを捲って分かりやすく包帯を見せた。
「私も、風が強いなーと思ってたら転んでしまって……風祝が面目丸つぶれです」
 早苗も軽く足を上げて包帯を見せた。

「これって絶対カマイタチよねぇ……。冬はカマイタチの季節とは言え、こう近いうちに何人も被害に合うのは目に余るわ」

 三人はお互い顔を見合って頷く。ここ数日、カマイタチが出るという噂は幾らかあった。
その噂を裏付けるように三人は足に傷を負ったのである。挑戦的とも言えるその現象を解決しようと神社に集結したのだ。

「カマイタチって事は名の如く、鎌・鼬、鼬の仕業に違いないわね。鼬ってすばしっこくて……」
 霊夢は身を乗り出して二人に言った。
「いや、カマイタチと言えば三兄弟の悪神だろ?一人目が転ばして、二人目が斬る、三人目が薬塗るって奴じゃないのか」
 魔理沙は遮るように手の平を縦にして振り下ろした。
「ちょっと待ってください」
 早苗がそれを更に遮る。
「二人ともちょっと古いですね、カマイタチの正体は強風や旋風で、真空状態ができる事によって皮膚が切れてしまうのです!ブラックジャックで見ました!」
「ぶ、ブラックジャック?なんだそれ」
「外の世界のお医者さんの名前ですけど」
「医者はチンプンカンプンな事言うものよ」


 三人とも思い描くカマイタチにズレがある。各々に自分の言うことは曲げず誰も正体を見たわけではなかったので、結局三人の意見が纏まる事は無かった。


「この寒いのに、水掛け論してる場合じゃないわ。普通に考えてやっぱり獣でしょう、私はちょっと森にでもへ行ってみるわ」
 霊夢はぴょんと縁側から降りた。
「なら私はまず里に行ってちょっと話を聞いた後に山辺りを探すか。神なら何かしら知っている奴が居るかもしれんしな」
 魔理沙も続くように縁側から降りる。
「きっと人為的に起こされている旋風が有るはずです。誰かが何処かで何か良からぬ事を考えているに違いありません!私は怪しい人を見つけに行きます」
 早苗はファイティングポーズを作り意気込んだ。
「それはアバウト過ぎるだろ」


 三人は集まったにも関わらず、それぞれが思うカマイタチを探すべく別れた。


 霊夢はまず妖怪の山の麓辺りをざっと調べた、冬の葉を落とした木々も探し易くはあったが結局何も見つからない。
紅魔館も近いが関係無さそうだし行かなくても良いだろう、山に登るのも良かったが天狗がうるさいかもしれないと、霊夢は一先ず別の所を探すことにした。
次に向かったのは魔法の森。魔法の森に妖獣が住むとも思わないが……鎌鼬は魔獣と呼ばれることが有る。もしかしたら魔繋がりでいるんじゃないか。霊夢は安直に少し調べてみたが結局そこにも手がかりはなかった。
 そのうち魔法の森から出てしまった、また山を調べようか悩んでいると見知った店が霊夢の目に入った。
「香霖堂の所まで来ちゃったのね、ちょっと暖まって行こうかしら」
 どうせお客も居ないだろうし、と霊夢は香霖堂へ降りた。

─カランカラン─

 扉を開くと、ストーブで熱せられた空気が顔に当たり霊夢は思わず目を瞑る。
「お邪魔するわ。はー、ここは暖かくていいわ……」
 霊夢が目を開けると霖之助の他に二人居るのが見えた。
「あら、妖夢……と、なんで魔理沙がこんな所にいるの?」
 ストーブの前に魔理沙と妖夢が居た。
「私は休憩中だ、里に行ったんだが特に収穫もなくてな」
「ちょっと霊の先導をしに来たけど休憩で……」
 霖之助が少し眉をひそめながら応えた。
「二人共寒いから暖まりにきたそうだ。霊夢も一人目のお客じゃなくて三人目だろう、此処は一応店なんだが」
「私は店じゃなくてストーブに用があって来たんだもん、ストーブは温まる為の物なんでしょ?良いじゃない」
 そうだそうだと魔理沙が同調する。さっとストーブの傍に寄って妖夢と魔理沙の間に入った。

「カマイタチは見つかったか?探して来たんだろ」
 魔理沙が霊夢に聞く。
「全然見つからない、普通の鼬も見なかったし……そっちはどう?」
「こっちもだ、三人組なら目立ちそうだと思ったが……。最近何とかさん見かけないねーとか、そろそろバレンタインとか、そんな世間話しかできなかった」
「本当に探してたのか疑問なんだけど」
「カマイタチってあのいつの間にか切れてるってあれ?」
 妖夢が不思議そうに聞いてきた。
「そう、どうやら最近出るらしくてね。私や魔理沙も被害者なの、転んだと思ったらスパっと。でも姿は見てなくて」
「霊夢は獣だって言うんだが、私は三人組の神だと思っている。早苗は風とか真空とか言ってたんだが……妖夢はどう思う?」
 二人は包帯を見せながら妖夢に聞く。
「私はカマイタチって構太刀の訛りって聞いたけど。見えない風神や鬼の持っている刀に当たってしまった時に起こるとか」
「えー?」
「これ以上ややこしくするなよ」
「聞かれたから言ったのに……」

「何の話かと思ったら、そんな話をしていたのか」
 霖之助は三人の後ろで腕を組みながら言った。死角から話しかけられ三人は驚き振り返る。
「盗み聞きは悪趣味じゃないか香霖」
「こんな姦しい状況で盗み聞きも無い。ちょっと前に面白い雑誌を拾ったから見せてあげよう……これだ」
 霖之助はごそごそと傍にあった小さめの雑誌の束を弄り、中から一つ引きぬくと霊夢に渡した。
「なになに、『気象』NO.160。お天気関係の会報みたいなのかしら?」
 霊夢はパラパラと中身を見た、魔理沙と妖夢も両側から覗きこむ。
「あ、カマイタチのページが少しある……なになに、気象書から消したまえ?」

 そのまま霊夢はじっくり読んでみた。読み進めて行くと段々と霊夢の顔は不満に満ちていく。


「これには、カマイタチっていうのは自然現象でもなくて、乾燥した肌が衝撃で切れただけの生理現象と書いてあるけど。霖之助さんは私達が乾燥肌って言いたいのかしら?」
 読み終わった雑誌をまだ読みたいと言う妖夢に渡し、霖之助の方をキッと見据えた。
「その通りだよ」
「まだまだ潤いはあるつもりなんだがな」
 魔理沙はペチペチと頬を叩いてみせる。
「原因なら君たちの前にあるだろう」
 霖之助はやれやれとストーブを指差した。
「え、これが有ると乾燥するの?」
「火があるんだから当たり前だ。冬はただでさえ乾燥するらしいのに寒いからって此処に入り浸ってるからそういうことになる」
「香霖だって入り浸ってるじゃないか」
「僕は君たちみたいに転んだりはしない、足も出してないし」
 霖之助は涼やかに笑った。

「あのー、でもこれってそんなに古い話じゃないんじゃ……。五十年経ってない様です、幻想郷ならこれ以前の物がまだ存在する可能性の方が高いのでは?」
 妖夢が本の奥付を見ながら霖之助に質問する。
「そうよ、外でこうなってるだけで実際は違うんじゃないの」
「確かにそうだ。でも元々カマイタチ自体、由緒ある大古参の妖怪でもないんだ。昔は漠然とした魍魎の仕業の一つとされていたんだが、僕の考える限り江戸の中頃カマイタチという名がついたんじゃないかと思う。人は名前が付くと原理も判明させないと気が済まない、だから色んな話が出てきたというわけさ。そして今も出来続けている」

「これじゃない物がもう出ているって事?」
 霊夢は腕を組み、頭を傾けながら聞いた。
「僕はその可能性が高いと思ってるよ、構太刀や三人組の悪神という神だというのも、鼬という獣の仕業なのも、風による真空という気象現象だって
きっと一時は外で猛威を振るっていた本物のカマイタチだったのさ。乾燥肌が原因なのもまたカマイタチの一つの正体として存在したに違いない。犯人が見つからないのならこの可能性だって十分にある」

「でも今は外の世界で今は別になってるとは言えないのでは」
「気象に関して、外の進歩は近代目覚ましいものが有るようだ。なんでも今は何時にどの位の確率で雨が降るかすら示す、この雑誌も内容が幻想的すぎて幻想郷に流れてきたのかもしれない」
「天気予報は河童も見習ってほしいな」
「カマイタチの正体は手が届いたと思ったら別の物が見えてくる、まさに鼬ごっこの様な妖怪なんだよ。目撃したって話は元々少ないし、正体なんて探すだけ無駄とも言える」
「泣き寝入りしろってこと?」
「ストーブ目的で此処に来るのは控えてくれと言っているんだ」

 そんなことを言われながらも、霊夢達はしばらく香霖堂の中でゆっくりしていた。
 三人とも身体の芯まで温まった頃、妖夢は霖之助の目も口を開く。
「十分温まったし私はもう帰ります、お邪魔しました」
 今度雪降ったら雪かき手伝うくらいはしますので、と霖之助に言い残しそそくさと出て行った。
「さあそろそろ帰るか」
 魔理沙も続けて店を出ようとする
「もうカマイタチの調査しないの?」
「香霖の言ってる事もそうかもしれないし。私は少し様子見することにした」
 また暖まりに来るから、とだけ言って霖之助が何か言い返す前に二人は香霖堂を出た。魔理沙はキノコを探しながら帰ると言い魔法の森へと姿を消した。
 

 霊夢は未だに納得出来ていない。
 いくら何でも乾燥肌で切ったとは、思いたくはない。そもそも早苗も切られていたし、よく考えなくても霖之助さんの言うことは怪しい。
 でもカマイタチに色んな種類が有るのは本当にそれだけ可能性があるのだろう。こう短期間に度々となると同一犯と考えた方が自然だけど、動物に拘る必要は無いのかもしれない。
 早苗の方は何か見つけただろうか、でも何処に行ってるか分かったもんじゃないし。仕様が無いから取り敢えず山でも探そう。


 霊夢は早速飛んで妖怪の山の麓にまで来た。さあ上を調べようと深呼吸し気を引き締めたその時、冬には見慣れない後姿を見つけた。
 あまりにそぐわないので少し声を掛けてみた。
「こんな時期に珍しい、あんたって秋の神様じゃなかったっけ。焼き芋売ってるとか?」
 霊夢が見つけたの秋穣子だった。冬の景色にそぐわない茜色の帽子を揺らし穣子は霊夢の方を向く。
「ん?赤い巫女じゃん。冬でも巫女服着てるんだね、秋は馴染むけど……冬だとその色なんか目立つ」
 それはあんたもね。そう言いながら霊夢は穣子の傍に降りる。
「野暮用だよ、別に悪巧みしてるわけじゃないから……」
「ふーん?何か怪しいわね……」
「べ、べつに怪しかないって」
 穣子は手をブンブン振って否定した。
「まあ邪魔しないなら良いけど。ってあんたそれ何?」
「あ、いや」
 霊夢が見た穣子の右手には、木の持ち手に片刃の刃の付いた小さな鎌があった。霊夢は目を細めて穣子に躙り寄りながら問い詰める。
「分かったわ、最近のカマイタチ騒ぎの犯人はあんただったのね!そわそわしてたし」
「違う違う!私じゃないって!」
 穣子は後ずさりしながら否定する。
「ならその手に持った鎌は何、それが証拠じゃなくて何なのよ!」
 霊夢はじりじりと詰め寄る。
「疑われると思ったらこそこそするって。私じゃなくて、この鎌自体が犯人なの!」
 穣子もそれに合わせて後ろに下がっていく。
「持ってた鎌が勝手になんて誰も信じないわ」
「あーもう、この鎌が化けてたんだって……」
「鎌が?付喪神ってこと?そこまでオンボロにも見えないけど」
「まあ付喪神だよ、野鎌っていう妖怪」
「妖怪ねぇ、何で妖怪と秋の神様が一緒に居るのかしら。私だって怪我したんだから、共犯なら許さないわよ」
「まあ落ち着いてって。じゃあ御呪い教えてあげるよ。『仏の左の下のおみあしの下の、くろたけの刈り株なり、痛うはなかれ、はやくろうたが、生え来さる』って言うと───ぎゃっ」
 穣子は霊夢に寄られて後ろに下がり続け、足元にまで頭が回らずバランスを崩し尻餅をついてしまった。
「言うと……転ぶの?その後鎌で切るのね」
「違うってばー……」


 流石に脅してるだけでも仕方ないと霊夢は穣子の手を引っ張って立たせる。何処に行こうとしてたのかと穣子に聞くと穣子は里に行く途中だったとお尻をはたきながら応えた。
 犯人が本当に穣子の手にある鎌なら悪さすることもないだろう、一緒に里に向かいながら話を聞くことにした。
「んで、さっきの呪文は何なの」
「野鎌に切られた時に言う呪文みたいなもん、治りが早くなると思うよ」
 ふーん、と相槌を返し霊夢は傷に意識を向けてみたが、元々大した怪我で無いからか特に何も感じない。
「じゃあその鎌が犯人っての詳しく聞かせなさいよ」
「野鎌っていうのはさ、山のお墓……ちゃんとしてない亡骸を埋めただけのお墓とかね。そういうのに挿したり置いたりする鎌が化けた物なんだ。逆に置いてかないで持って帰っても化けちゃうんだけど」
「なんだか色々よく分からない話ねぇ、何で墓に鎌挿すのよ」
「山の土葬にしかしないよ。よく死体の懐に小刀を忍ばせたりするだろう?それと似たような物」
「ああ、猫又が死体を起き上がらせないようにするあれ……山は動物が掘って死体を使うから防いでるのね」
「そうそう、そのまま七日置いとく。それ以上でも以下でも駄目。直ぐ持って帰ると死体が危ないから、持って帰っても化けるってされてるんだろね」
「でも何でその鎌が化けるのよ、ミイラ取りがミイラ状態じゃないそれ」
「人間が鎌を怖がるから。捨てられて野鎌になる鎌もいるけど……とにかく落ちてる鎌を不気味がる奴が多いから直ぐに妖怪になる」

「自分で置いたのに怖がってちゃ世話無いわね」
「そういうやり方を知らない奴が見るから怖いんだろね、風習みたいなもんだし。時代が変われば余計に……」
「私は鎌なんて落ちてても怖くないけどなぁ」
 霊夢は分からなさそうに首を傾ける。
「皆あんたみたいに毅然としてたらいいんだけどね」
 穣子は少し口元を緩ませて言う。でも、と続けた。
「ちょっと長くなるけど……鎌ってのも山仕事用から収穫用やら草刈り用まで色々あって、とにかく百姓達の生業に必要不可欠な道具だったんだよね。
百姓ってのは徴税される人達で、支配者は百姓達には無理を言ったとしても大人しくしていて欲しい。だから武器を持つことを禁じたりする。
でも必要不可欠な農具は没収することが出来なかったんだ。だから徴税が厳しくて反乱するときは鍬とか鎌とかもって一揆しちゃう」

「人を傷つける道具にしたって事?」
「平たく言えばね。だからいつの間にか鎌って道具自体も怖がるようになっちゃったんだと思うよ。不気味なイメージもついたせいで口裂け女も鎌持ってるとか」
「だからって妖怪になって人に被害を出すのは許せないわ」
「まあね、でも支配者も人が怖くてやるんだろうし、道具は本来の使い方をしないといけないとは思うんだけどなー」
 穣子は言いながら下の方に目線をやった。

「でも何であんたがその野鎌とやらを持ってるのよ、そこが重要なんだけど」
 言いながら霊夢もつられて下の方を見る、正月飾りが捨てられていた。妖精が遊ぶのか時々おかしな所に落ちている。
「旧正月の松の内頃かな、鎌止めとか鍬止めって言って、鎌や鍬を使わない日が有るんだ。山の神、まぁ田畑の神含む祭りだね。本来は鎌止めも山の神を祀る上での礼儀だけど、鎌自体も祀る……そうすると野鎌に会わないとも言うんだ。この鎌も祀って抑えた、祀るっていうか小豆上げたんだけど」
 穣子は手の鎌を見せた。
「ははぁ、さてはあんたを信仰してる人達はちゃんと祀ってたから。その人達が野鎌に切られないように自分で解決してたのね」
「巫女が妖怪退治してるのは知ってるけど、私の面目躍如の為に今回は見逃してよ。嫌われはしないだろうけど、万が一切られて信仰が無くなるのは心もとなくてさ」
「まぁ、今回は私も空回りだったしいいや。その持ってる鎌はどうするつもり?」
「今日は穏便だね?この鎌は化けさせた奴とっ捕まえて返す、ちゃんとしてれば野鎌が出ることも無いんだ」
 穣子は両手を腰に当ててむくれた。

「大体わかったわ、私は里に用も無いしそろそろ帰る」
 霊夢が言い終えると里はもう近かった。
「ご苦労さん。ところで今日は弾幕ごっこしなかったね、怪しいとかって出会い頭に攻撃されると思ったけど……」
 穣子は帽子を揺らして霊夢に聞く。

「あー、うーん……弾幕あたった衝撃とかで……切れたら嫌だなーって」
 ばつが悪そうに霊夢は応える。
「そうなんだ……?」
 穣子は再び帽子を揺らした。



 野鎌というのもカマイタチの一つの姿なんだろう。霊夢はそんな事考えながら帰路についた。
 私達を切った犯人かは分からないけど、やったと考えられる奴が居たし、今は取り敢えず様子を見よう。
 野鎌はどうやら人間が問題の妖怪だったようだ。だからと言って妖怪は妖怪。勿論同情はできない。
 その原因は墓に置くべき鎌を持って帰ってしまったから、それ以前に道具を本来の目的で使わなかった事、さらにその原因は人の人に対する恐怖……?
結局誰が悪者でもないのかもしれない。だから、妖怪が悪い。シンプルな話だ。
 でも道具は本来の目的で使う、その位は意識したほうが良いのかもしれない。つまらない理由で妖怪になってしまったら誰も得をしないから。
 化けさせず傷つけさせず、道具にとっても人にとってもこれが一番幸せな本来の形だ。



翌日



 魔理沙は神社の座敷に上がっていた。キノコをお裾分けだと帽子からコロコロと座卓の上に放流する。
 霊夢はそれを眺めながらお茶をすする。それから昨日の顛末を掻い摘んで魔理沙に説明した。

「結局私達は全員ハズレだったということだな」
 魔理沙は関心したが、少しつまらなさそうな顔で総括した。

「御免下さい」
 縁側から声がして二人が振り向くと咲夜が居た。
「あら、咲夜じゃない。何か用?」
「今度パーティーでもしようとお嬢様が言うので、お誘い」
 咲夜は庭の所で軽く言った。直ぐ他にも誘いに行くのだろうと霊夢は思った。
「うん?お前もカマイタチにやられたのか?」
 咲夜の足にも布が巻いてあった。
「ああ、これは昨日霊夢じゃない方の巫女が来た時にちょっとね。ロケット打ち上げたから風が──とか何とか言って襲いかかってきたから返り討ちにしたの」
「早苗は紅魔館に居たのね」
「あいつ自身が鎌鼬になってたなんて驚きだなぁ」

「それはさておき一戦やるか?」
 魔理沙はさも当然だと言う感じで箒を持って縁側に出る。
「あ、ちょっと待った!!」
 霊夢は強く呼び止め魔理沙に寄って行った。
「な、なんだよ霊夢」
「あんたも大変よね……」
「どうした、熱でも出たか……」
「魔理沙に言ってるんじゃないわ。箒よ、ホ・ウ・キ」
「ほうき?」
 霊夢は箒をじっと見てから魔理沙の顔に詰め寄った
「箒は人を殴ったり体当りするものじゃなくて掃くものだから、ちょっと境内掃除しなさい」
「昨日の話のせいか、こいつはまずったぜ」
 魔理沙は苦笑いして、適当に地面を掃いてるような動きをし始めた。
「やらないの?」
 不思議そうに咲夜は手に構えたナイフを降ろした。
「あ、それも!」
 霊夢は今度は咲夜の方に詰め寄る。
「人を傷つける物じゃないんじゃないの?」
「これは……調理にも使える凶器ですから」
「うーん?なら、いいや」
 霊夢が少し考えて言うと魔理沙はせっせと手を動かしながら寄ってきた。
「え、そういう話だったのか?」
「そういう話」

「ついてけないなぁ、このこのっ」
 魔理沙は乱暴に箒で地面を掃きだす。
「痛っ!ちょっと小石が飛んでくるんだけど!」
「私は庭を掃いてるだけだ、そいつもカマイタチの仕業に違いないな」
 魔理沙が笑うと穏やかな風が神社の庭を吹き抜けた。
三作目です~
もっと自分をさらけ出して書いてみたらこのような感じに。蘊蓄のような物が暴走し過ぎかもしれません。
取り敢えず思ったのが早苗ってなんだかブラックジャックとか好きそうという事!
ことやか
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コメント



0.1880簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
そういう薀蓄ってどっから学んでくるのかなあ
今回も面白かったです。
6.100たぬきつねこ削除
この作品のような民間伝承を題材にした話は大好物です。
8.80奇声を発する程度の能力削除
おお、良いですね
面白かったです
11.100名前が無い程度の能力削除
これは、非常にらしい話で面白いですね。
普段あれでも流石は神様な穣子様も良かったです。
魔理沙の箒は、枝が伸びたり成長したりと、既に通常の箒としての役割は残ってない気もしますね。
17.100名前が無い程度の能力削除
面白かったですよ
19.100パレット削除
 面白かったです!
20.100名前が無い程度の能力削除
「構え太刀」由来説は知ってたけども、人外の刀に触れると…ってのは初耳で御座る
これは辞典を書き換えねば
24.80名前が無い程度の能力削除
良い
26.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
29.80名前が無い程度の能力削除
たまに知らない説が出てくるとへぇ~ボタンが欲しくなります
38.90名前が無い程度の能力削除
癖になる文章。
40.100名前が無い程度の能力削除
毎回読むのが楽しみになった。
セリフもストーリーも面白い。
41.80名前が無い程度の能力削除
ロケット云々で笑った。
早苗さんwww
46.703削除
なんだか小粋な作品でした。
最後の魔理沙のセリフが、なんともらしいですね。
47.100名前が無い程度の能力削除
ただの薀蓄話に終わらずきちんと物語になっているのは見事です
和やかな雰囲気ながらどこか得体の知れない寒さが流れているようで
それが幻想郷らしさを高めているように感じられました