・この作品は『かみさまっ!! ~大黒天編~』の続編です。始めにそちらをご覧になってから読まれる事を推奨します。
前回の復習のあらすじ……チルノ、友として。レミリア、母親として。そして神は月へ―――
* * *
―――八雲after。
「あ゛あ゛……やっと九割……」
自室(『八雲藍は―――』シリーズ参照)で事後処理を終え、紫は盛大に項垂れた。
お疲れ様ですと、藍が紅茶を持ってくる。
「糖分と橙分(チェンぶん)が足りない……ちぇえええええんっ!」
「紫様(メリー)。莫迦なこと言って無いで、さっさと終わらせましょう」
「もふもふ」
藍の尻尾に抱きつき、嫌々と駄々を捏ねる少女(?)。
パソコンにて、書類の作成。一番厄介なのを最後に残してしまった……
「らーん。咲夜の件……どうしよう……」
「はぁ。私が如何こう言う問題じゃないでしょうに」
「だって、レミリアもだけど……美鈴とパチュリーが怖いのよ」
今回霊夢に激怒したのはレミリアだけと聞くが……参謀の美鈴と相談役のパチュリーの内心も気になる所。
「怒ったあの二人は裏が読めない分、レミリアより厄介なのよねぇ」
「はいはい。何かあったらお守りしますから」
「あら、嬉しい。藍大好き」
「はぁ」
藍は別件―――マエリベリー・ハーンのマネジャー活動の方に勤しんでいた。
さっさと終わらせて、飯にしたい。
今日は久々に橙がマヨヒガへ顔を出す。早く三妖で鍋を突きたい。
「終わったー!」
「お疲れ様です」
ゴロンと床に転がる紫(メリー)。そのまま転がり炬燵で作業している藍の下へ。
「うわっ」
「えへへ」
「もう、ガキじゃないんですから……」
反対側から潜り込んで、藍の膝に座った。
「何してんの?」
「来週の貴女のプランです……げっ」
「ん? ……ウソ」
一週間、休み無しで埋まっていた。
しかも全て……重要な用事。
「月曜、会社(ボーダー商事)と『NPO』の予算申請。火曜、新作(曲)の収録。水曜、大学の教授会の立食パーティー……」
「木曜、幻想郷定例議会。金曜、『反乱軍』の内通者・協力者調べ。土曜、喫茶店(オストラント)の通常業務……」
そして、日曜……
「うっそ! 来週だったの! 運営会議!」
「ぬらりひょん殿と紅魔卿。ベアード殿に……ああ、貴人も呼ぶんだった。
あと、あ! そこに美鈴来ちゃうじゃないですか!」
「えええ! どうしよう!?」
あたふた。
結局二人は考えるのを止め、橙(娘)と鍋をするという名の逃亡に走った。
仕方ないね。
* * *
―――森近after。
「なあ。何があったんだ?」
「新聞の通りだよ」
香霖堂にて、魔理沙が霖之助に責め寄っていた。
当時、紅魔館の大図書館でパチュリーに足止めされていた魔理沙は外の状況の真意がまるで分からなかったからである。
霖之助は文々。新聞の号外を魔理沙に渡すが、今一納得しない。
「嘘こけ。何が『八雲紫。超巨大怪獣映画の撮影ミス?!』だってーの。
『怪獣を召喚したのは良いモノの、操りきれず!』って莫迦でもわかるって」
「……さぁ」
写真には白面金毛化した巨大九尾と、八岐大蛇、でいだらぼっちの写真が載っていた。
「僕だって店で大人しくしてたんだ。知るわけ無いだろう」
「あーあ。霊夢は何も教えてくれないしなぁ」
霊夢は撮影の最中、だいだらぼっちの大気圏パンチに巻き込まれ超重傷とされている。
現在、永遠亭にて入院中とのこと。
―――カラン。
店に三つの影が入ってくる。
「天満さん……」
「おう」
正装の山伏恰好。天狗の面を腰に下げ、赤いロングマフラーを靡かせていた。
後ろには同じく正装の文と、何時も通りの慧音。
「なあ、文。このデマ新聞なんだよ」
「あやややや。デマとは酷い。写真は本物ですよ」
『写真』は、だ。
「記事だよ記事! ホントは何があったの?!」
「魔理沙、ちょっと……」
「ん? 慧音、教えてくれるのか?」
魔理沙は慧音に連れられて、外へ出て行く。
霖之助は溜息をつき、天魔の巨体を見上げた。
「現状は?」
「萃香さんと勇儀姐さんが復興を手伝ってくれてるから、存外早く終わりそうだ。
情報操作も……もう終わる」
「慧音に手伝って貰ってるわ」
慧音の歴史食い。そして文の『風を操る程度の能力』で『噂』を流し、最後に……
「俺の『能力』で締める、ってな……後味悪いねぇ」
「本当は途轍もないほど負傷者が出てるのに……」
天魔が煙草、文が煙管に火を点けた。
「負傷者が多いのに、よく『老人』達が黙ってますね」
「被害の殆どが……『蟲』達よ」
「成程。スラム扱いか」
妖怪の山にも様々な妖がいる。
中でも『蟲』は多くを占めているのだが……地位が低い。圧倒的地位を誇る天狗から見れば、文字通り『虫』が踏まれたようなモノなのだ。
加え、山を巣食っていた蟲が減って良かったじゃないかと喜ぶ莫迦天狗もいた。
「……リグル(蟲姫)は」
「慰労訪問を兼ねて、土蜘蛛と一緒に『山』に来た……泣いてたな」
多くの蟲が死んだというのに、何もしてやれない自分を悔やんでいたらしい。
それは天魔の仕事だというのに。
「神奈子様は社が直るまで、永遠亭の方に御隠れになってるわ」
文が煙で輪を作った。
「霊夢が心配だな……ところで、慧音?」
霖之助が呟く。ドアから二人が戻ってきた。
「なんだ。あれ、新しい非想天則と雲山の変身だったのか。文も大袈裟だぜ」
「……あやや」
後ろの慧音が頬を掻く。『歴史』を弄ったのだろう。
一人空回りをしている魔理沙に一同は苦笑し、適当に夕飯を取る事にした。
* * *
―――永遠亭after。
終わってみると実際危うい状況だったのだと、鈴仙は冷や汗が出た。
建見名方や大国主の様子を見るに永遠亭(此処)の所在を月にばらす様な事はしないだろうが、それでも心配だった。
師匠と姫は大丈夫と笑っていたが。
しかし、翌朝……―――
「師匠ぉ。師匠っ!」
オカシイ。何時も日が昇る頃には台所で姫の朝餉を準備する永琳が、現れない。
鈴仙は『立入禁止』の永琳の部屋(ラボ)まで、足を運ばせた。
横戸をノックする。
「師匠。朝ですよ。どうされました?」
いないのか……いや、波長はキャッチできる。部屋にいる。ただ、ノイズが多い。
体調が悪いのか……この人に限って、ありえない。
「ウドンゲ……」
「師匠?」
やたら低い声。
「ゴメン。今日調子悪い……全部任せた」
「え、あ……はい」
「水だけ、お願い」
一体何が。昨晩、ラボに訪れていたてゐと何かあったのだろうか。
疑問を持ちながらも、水差しとコップをラボまで持って行った。
「持ってきました」
「ありがと……置いといて」
なんだか、不気味だ。鈴仙は勇気を出して、永琳に尋ねてみた。
「あの、師匠……何かあったのですか?」
「詮索するな、と教えたはず……よね」
「……」
「……ああ、ゴメン。何でも無い……てゐに、聞いて」
「てゐに?」
そして何も言わなくなる。少し戸が開き永琳の細い腕が水差しを引いていった。
間から見えたラボは、薬品をぶちまけた酷い臭いと、粉々になった研究器具が散らばっていた。
とりあえず言われたとおり、てゐの自室に向かう。
彼女も自称健康マニアなので早寝早起きなのだが、今日は遅い。
「てゐ。起きてる?」
ノック。返事は無い。
鈴仙はゆっくり戸を開いた。一応、自分の方が『上司』なので遠慮はしない。
そこには―――
「ッ!? てゐ!」
―――布団を被り、ガクガクブルブル震えるてゐの姿があった。
「てゐ! てゐ、どうしたの?!」
「れ、鈴仙、ちゃん……」
目を真っ赤にし、寄って来た鈴仙の顔を見上げる。
「え、えりん、えーりんが……」
「師匠? 師匠が何かしたの?!」
何も言わず、ポロポロ泣き出すてゐ。
「これ……」
「これって……紙?」
バラバラになった紙クズを両手に持っていた。少し湿っている。
「大国主、様から……渡されたのに……」
「師匠が、破いた……の?」
コクコクと頷く。
鈴仙はそれを受け取り、てゐを寝かせた。『眼』を使って、強制的に。夜通し泣き続けていたのだろう。あっさりと眠りについた。
それから、自室に戻り紙を繋げてみようと……
「イナバぁ……」
「あ、姫。忘れてた」
「忘れてた。じゃねーよ……飯は?」
「それどころじゃ……」
「ぁんッ?!」
……仕方ない。姫も一緒にやらせるか。
鈴仙は今までの流れを一通り輝夜に話し、共に居間へ来るよう頼んだ。輝夜はダルそうに、顔を洗ってから、居間に来た。
「……まず、茶」
「はいはい」
鈴仙が輝夜と自分の分の茶を注いだ。
「はい」
「ん」
「……」
茶を受け取ると同時に、文を鈴仙に渡してきた……復刻状の。茶を入れている間に、須臾の能力を使ったのだろう。
この姫、如何いう時に本気出すか分からないから困る。
「こりゃ……永琳、ブち切れるわね」
「え?」
輝夜は平静を装ってはいるが、米神から汗が出ていた。
なんなのだろう。目を通す……
「……一枚目は、普通にお礼の挨拶ですよ」
「二、三枚目よ……多分、貴女じゃ理解できないわ」
二枚目を見る……何だ、これは。何かの……調合図?
「なんですか、これ?」
「蓬莱の薬……」
「へ?!」
そりゃ、理解できない筈だ。しかし、姫は更に続けた。
「てゐが言っていた事を思い出して、ゾッとしたわ……確かに奴(大国主)は永琳より薬師としいては、上」
「……まさか。だって師匠は、月の頭脳でしょう」
「『薬師としては』って言ったでしょ。それに野心家としても……ずっと上。多分、月夜見オジよりもね」
「王より……意味が分かりません」
輝夜は溜息を吐き、コレと最後の三枚目を指差した。また調合図だ。
「コレは、何です?」
「蓬莱の薬、の……対」
「『つい』?」
「不老不死を……打ち消す、クスリよ」
「ッ!!?」
信じ難い。いや、信じたくない。あってたまるか。
「昔……永琳が『想像』した事がある。あくまで仮の話。打ち消し(キャンセル)だけのものだったわ。
でもコレは……存在消滅(ソウル・アウト)の効果まである」
「ッ!!? 何故、こんなものを」
「野心家、というより奴の考える事は理解できないわ……兎角、コレは私が預かる。永琳とてゐには内緒よ」
「わかりました!」
鈴仙は息を呑み、通常業務に移った。師匠とてゐがいない分、今日はしっかりしなくては、と。
輝夜は鈴仙が消えたのを確認し、隠していた『もう一枚』を開いた。
「母親、失格……か。言ってくれるじゃない、あの変態国津神」
永琳に宛てた一言。
あの八意永琳が蓬莱の薬の『対』の調合図を見て、動揺くらいはしても取り乱すわけが無い。
それよりも、もっとエグイ事が四枚目には書いてあった。
「私は何もできないわ、永琳。コレは貴女と、レミリアと……『 (咲夜)』の問題」
部屋を出て、空を見上げる。何か起こりそう……嫌な風が吹いていた。
「近いわね……日蝕が」
ふと『母親』の顔を思い出してしまった。
* * *
―――月after。
月面大内裏、月詠宮。
今、上級の神々が此処の大広間に集まり『王』の姿を待っていた。
「月夜見王の御成っ!」
男神は片膝をつき、女神は正座し首を下げた。
『王』―――月夜見が王座に座る。
「……表を上げろ」
一同は立ち上がり、王へ向き直る。
「ウズメ、準備はいいのか?」
「はい。呼びますか?」
側近の天鈿女の問いに頷く王。
「ホオリ、ホデリ! 連れて来い!」
「「はっ!」」
前に『罪人』二名を伴って、山幸彦と海幸彦が入室した。
その様子を綿月姉妹、そして建見名方が不安そうに見つめている。
「……豊姉。純血派は大丈夫なのか?」
「多分、ね。何かあっても、あの神(ヒト)が護ってくれるはずだから」
豊姫は山幸彦(旦那)に目を向けた。一応、彼は味方だ。
心配も束の間、王が口を開く。
「……久しいな。大穴牟遲」
「今は、大国主ですよ。叔父上殿」
「ふん。しかし、良く逃げんかったなぁ」
「なに、無意味でしょう……私は『義父上』とは違う」
「戯言を」
双方睨み合い。不穏な空気が流れていた。
大国主が先手を取る。
「今回の一件。私を慕うモノが起こした騒ぎらしいが……」
「そうだな」
「どうやら天津神の一部が、彼らを唆したらしいと云う」
辺りがざわめく。
「大胆に出たな」
「よっち(依姫)。親父殿が何か仕出かそうとした時は……手伝ってくれ」
「やるのか?」
「ああ……雷(建雷)のとっつぁんにも頼んである」
中央を挟んで反対側、巨大な剣に負けないぐらいの巨躯を持った武神、建雷と目があった。
互いに頷いた時、王が話し始めた。
「それは噂だろ。証拠はあるのか?」
「……豊玉姫」
大国主が豊姫の方を向いた。
「豊。真か?」
「……はい。その噂は本当です。主犯グループの数名を綿月亭にて捕えております」
「ふむ……」
王の質問にはっきりと応える。元より自分は被害者だ。奴ら(純血派)に情をかけるつもりなどサラサラない。
更に、と大国主が声を荒げる。
「知っての通り、『八岐大蛇』を使役したこちらの曲神。
彼女もまた、天津神の一部に利用されたらしいのですが。如何です、王」
フェムト・ファイバーの錠で拘束されていた諏訪子を指差す。
そちらの件は既に王の耳にも入っていた。
「確かに。その件の犯人は『既に』処罰したが……聞く処によると、そこな曲神。
そいつも、利用されただけでは無いのではないか? 自分の意志で行ったと聞くぞ?」
諏訪子を睨む。
「……諏訪子君」
「……ああ。私の意志だ」
再び辺りがざわめく。タケルはあっちゃ~と顔を覆った。
あの莫迦……
「しかし、未練は無い。この身の処遇、『貴様』に任せるさ。月夜見」
「……口の聞き方を知らんようだな」
「自分が唯一神と勘違いしてるんじゃないの。元より『諏訪』はアニミズム思想でね。
いや……違うな。日本全土だって、其の筈だった」
ざわめきは増す。
「此処に居る神々共は月こそが唯一と謳っているらしいじゃないか」
「その通りだが?」
「阿呆共。地球(現実)から目を背けたヘタレ共の集まりじゃない」
タケルは倒れそうになった。
「何言ってんだアイツ。幻想郷に帰りたくないのかよ……」
「た、タケル。アイツ本当にお前の友達なのか?」
「強敵(トモ)だよ……」
今、この場に居る神全てを敵に回す発言を繰り出す諏訪子。
「……井の中の蛙が。偉そうに」
「井の中ァ? はんッ。違うね。それはお前ら。
私は『大海(地球)』の蛙だよ。『井の中(月)』に甘んじた神と一緒にするな」
「そんなに……『消えたい』か?」
王はゆっくり立ち上がり、小さな土着神を睨んだ。
「器の小さい奴」
「……良く言った」
剣を抜く。瞬間、タケルが飛び出した。
「お、王! 御待ち下され!」
「建見名方ァ……立て付くか?」
「「タケル!」」
幾許かの神が目を伏せた。
「お、遅ばせながら、彼の地、『幻想郷』より親書がございまする!」
「親書、とな」
「何卒、先に其の方を御読みになってから処罰を!」
「……寄こせ」
恭しく二つの書簡を手渡す。
王は『八雲』の印が入った文を紐を解き、目を走らせた。因みにタケルも綿月姉妹も手紙は読んでいない。
「ふん。このような媚び(リップサービス)……え」
王が、固まった。
暫く呆然とし、急に今読んでいた書簡を投げ捨て、もう一つの……『真・八雲』の印の文を開いた。
「……な」
ボトリと、手紙を落とす。
一同は何事かと王を見た。
「た、た、た、建見名方ァ!!」
「は、はい!」
直立不動になるタケルに、王、いや『月夜見』が走って責め寄って来た。
「この書簡を、誰から受け取ったッ!」
「げ、幻想郷の管理人にございまする!」
バッと落ちた書簡を広げて見せた……汚い字。
「だったらなんで、須佐の印が押してあんの?! ねぇッ!」
「ハァ?! 爺さんの!?」
月夜見は既に、王という立場を忘れ、行方不明の姉弟の中間といった顔になっていた。
「『月読、元気か? 俺は元気だぞ……』って……何ですかコレ?」
「お・れ・が! 聞いてんの!! 何やってんの、あの莫迦!」
最早、カリスマが崩壊してしまってる月夜見に大国主が近寄った。
「何々……『詳しい事は分かんないけど、許してやれよ。頭でっかち。そのうち、姉貴と帰るから』か。
義父上らしいな」
「頭でっかちって! 脳筋野郎に言われたく無ぇよ!」
大声を上げ、頭を掻きむしる月夜見。
見るに見かねたウズメが『王』の下へ寄って行く。
「王」
「ああ、もうなんで……姉上も莫迦須佐も……」
「王」
「親父も御袋も肝心な時に居ないしよぉ」
「王」
「こうなったら、八雲のスキマ女取っ捕まえて居場所吐かせてやれば……」
―――バシッ!
「目、覚めました?」
「……う、うむ。すまない」
何処から取り出したかは分からないが、スリッパで王の頭を一叩き。
実は大体の神々が見慣れている光景だった。
「何処のカリスマも、ギャップがあってこそよね」
「御姉様。自分に言い聞かせるように……何を仰ってるのですか?」
「気にしない気にしない」
王は床に落ちた書簡を部下に拾わせ、王座に戻った。
「……文は読んだ。しかし、スサノヲが親書を寄こしたからといって、お前の罪が消えるわけではない」
「ほお。叔父上殿は義父上と喧嘩なさる御積りで?」
「な……そういう事言ってんじゃないの。ただ……」
「ただ?」
「……何でも無い」
王は言えなかった。体裁あるけど純粋な喧嘩しても勝てない、とは。
大国主は勿論、その程度の事は見通していた為、内心ニヤリと微笑んだ。
「ねぇ。結局、私はどうなるのさ」
「ちと、黙っておれ」
「殺すなら殺せ。帰すならはよ帰せ」
「減らず口を……」
諏訪子は胡坐を掻きながら、口を尖らせた。
「ったく、ホント、王の器じゃないわね」
「……誰かソイツ、黙らせておけ」
海幸彦が諏訪子の口に布を巻こうと試みたが、この時ばかりは抵抗した。
「最後まで言わせろ。もし、もしもだ!」
「ホデリ、早くしろ」
「し、しかし暴れて……」
諏訪子はこの場に、核を落した。
「この中で……須佐乃皇と『姉上』さんが戻ってきたら、何柱がそいつ等に『付く』かな」
場が、凍った。
「ふっ。諏訪子君、面白いな君は」
「お前はツマンナイのよ。革命家かぶれ」
諏訪子と大国主だけが笑っていた。
「お、おい、タケル……」
「依姫。タケルったら、立ったまま気絶してるわ」
もう知らんと言わんばかりに、意識を手放していた。
一方、王は……
「……決定。島(星)流し。木星行き」
やっちまった。
「おい! タケル! 寝てる場合じゃないぞ!」
「はっ! な、如何なった!?」
「曲神、星流し……だって」
なんて事だ。折角、爺さんが親書を書いてくれたというのに。
諏訪子は最早、抵抗する気無しだし。大国主も苦笑しているだけ。
斯くなる上は……
タケルは秘密回線(念話)で部下に信号を送った。
(『保険』を、落せ!)
(了解!)
天井に隠れていた部下が、紫から渡された『袋』を落す。
因みにこれまたタケルは『中身』を確認してない。
―――ドーン……
「な、何事だ!?」
一同、部屋の中央に落ちた袋に目を向けた。動いている……何か入っているようだ。
「あー……めんどくさいの、連れて来ちゃった」
諏訪子が脂汗を流す。
「誰か、開けろ!」
王が叫んだ。が、しかし……諏訪子が止めた。
「やめときな。そいつは『天災』なんてモノじゃないよ」
「……貴様の指図は受けない。ホオリ!」
「……はい」
山幸彦は『袋』の占め紐を切った。
『中身』は動き回るのを止め、のっそりと立ち上がり―――
「フー……フー……ユウウウウゥカアアアアァリイイイイィッ!!!」
―――咆哮を上げた。
「か、か、風見幽香だぁ!!」
誰かが叫ぶ。
月で知らない者はいないほどの大妖怪。地上の穢れオブ地上の穢れ。
戦向きでは無い神は後ろに下がり、戦える神は幽香を取り囲んだ。
「……何よ、アンタら。私、今最高に機嫌悪いわよ」
鬼神の様な睨み。並の精神力なら気絶モノだろう。
「王! 御下がりください!」
「でやあああ!」
「御縄につけ!」
先走った若い衆が、幽香に飛び掛かる。が……
「ウザい」
前から突っ込んで来た神の手首を掴み、そのまま後ろの神に投げつけた。
横の神には上段回し蹴りを喰らわせる。
「くっ……」
「依姫! 出るな!」
「し、しかし……」
「あら」
袋の中から傘を取り出し、優雅に開いた。
「誰かと思えば、諏訪子。アンタなんで捕まってんの?」
「……周り見て把握しろ」
多少冷静になった幽香は辺りを見回した。
「……何処此処?」
「……月。王宮」
「あら。確かに……見たことある顔が数名」
しかし、一番強いのがいなかった。
「自称、『最強さん』は?」
「そりゃオマエさんだろ……スサノヲなら行方不明だってさ」
「そ。で?」
もう一度、一周視。
「暴れていいの?」
「さぁ」
鬱憤晴らしがしたいらしい。
タケルは無い頭をフル回転させ、ベストアンサーを出した。
「豊姉! 幻想郷に『繋げろ』!」
「ッ! わかった!」
「とっつぁん! 手伝ってくれ!」
「何か考えがあるんか?」
「豊姉! 十秒でいいな?」
「はい!」
建雷は幽香に突進した。
「はん! アンタは覚えてるわ! 十束剣のデカブツね!」
「ベッピンさんに覚えててもらえちょるってのは嬉しいが……此処で暴れさせるにはいかんのじゃ!」
自分の倍はあろう剣を傘で受け止める幽香。
「後ろが空いている! 降神―――『天手力男』様!」
「あら。あの(第一次月面戦争)時、泣かせたガキね」
「くっ! 泣いてなどいない!」
背中から天の岩戸をも持ち上げる『拳』が迫った。にも拘らず、幽香は余裕を崩さない。
「ほっ」
「ヌッ!?」
傘の片方から手を離し、身を剃らせる。建雷は体勢を崩して尚、幽香に突進する。反対側からは依姫。
「うりゃ」
「きゃ!」
「うごっ!」
両腕を真横に伸ばす。ただそれだけでも、神二柱を吹っ飛ばした。
「化け物、が!」
「やっぱ手応え無いわね……三貴柱いないの?」
一同は一斉に『王』の方を向いた。
「え、あ、いや……俺、文官だし」
「アイツじゃなくて……」
プライドは傷ついたが、内心ホッとする月夜見。
一方、タケルと豊姫。
「まだか!?」
「……いいわ! やっちゃって!」
「よし!」
豊姫は自分の後ろに、人一人入れるほどの『スキマ』を作った。
タケルは位置を確認し……走り出した。
「依姫! とっつぁん! 退け!」
「「っ?!」」
「あら。アナタ初見ね」
巨大御柱を具現させる。そして、振り抜いた。
「んぎぎぎぎぎッ!!」
「何処狙ってる……え?」
明後日の方向……諏訪子がいた。
「え、あ、な! ちょっと、待っ」
―――ブゲラッ!
「ダゲル……覚えでやがれ……」
「ちょ!」
諏訪子は無抵抗のまま御柱に弾き飛ばされ、幽香に向かってライナーとなり飛んで行った。
幽香は受け止めるしか無く、勢いのまま後ずさる。
「親父殿!」
「……やれやれ。お前も中々の策士だよ……フンッ!」
更に大国主が飛び込み、『諏訪子』の上から幽香を蹴り込んだ。
勿論、豊姫の開いた『定員一名のスキマ』目掛けて。
「お前ら、親子……覚えでろよ……」
「チッ……また何時か、ヤリましょ。月の皆さん……」
そして、『スキマ』が閉じた。
大広間は何事も無かったかのように静かになった。
「……な」
王はただ、口をあんぐり開け力無く王座に座りこんだ。
そんな王の姿を見て、大国主はスタスタと部屋の中央へ戻る。
「さて、話の続きを」
「え、あ……うむ……の前に」
我に返り立ち上がる王。
「一旦、休みを入れる。半刻後、再開だ」
大股で部屋から出て行った。
残された神々は戸惑いつつも、各々散開した。
「……タケル。王にはなんて言い訳するんだ?」
依姫が溜息交じりに問う。
「ま、『不為者(風見幽香)』を退治する為に『罪神』を使いました……これでいいんじゃないか?」
「しかし、王が既に判決を下した後よ」
「……うーん」
しまった、といった顔でタケルは頬を掻く。
そんな中、山幸彦と海幸彦に連れられた大国主が近寄って来た。
「御困りの様だな」
「親父殿……俺の寿命を減らす様な真似は止めてくれ。気絶したじゃないか」
「なに、オマエも十分デンジャラスだよ。話を戻すが先の件、簡単じゃないか」
サングラスを持ち上げ、微笑んだ。
「地球は……『穢れ』なのだろう? 良い『罰』じゃないか」
一同は呆気に取られ、苦笑。月夜見王が提唱した『地上の穢れ』。にべもないだろう。
「しかし、親父殿の裁きは……」
「気にするな。私にも『カード』はあるよ。まあ、当分お前達の下には帰れないだろうがな」
「……それ」
『八意』の印が入った文を懐からチラつかせる。
「ふっ……それよりも、諏訪子君が良い発破を掛けてくれた。『先』の発言で、心が揺れ動いた神々は多い」
あくまで身内だから言えるモノの、トンデモ無い事を言ってる。
「トヨタマヒメ。タマヨリヒメ。タケルを頼むよ。頭は弱いが、良い男だ」
「……言われなくとも、分かっておりますよ」
「やれやれ、嫌われたモノだな。御父上(海神)によろしく。では」
兄弟に案内され、別室に移動する大国主。
「タケル。お前の身柄は綿月が保証している。王といえども、易々と如何こう出来ぬ。安心しろ」
「……よっち」
「大丈夫。貴方は『曲神』と『不為者』を『堕とした』英雄よ。
それに……何かあったら神奈子(義妹)に申し訳立たないモノね」
「豊姉……すまねえ」
タケルは深々と頭を下げた。
その後、今一度大国主の裁判が行われたが―――トンデモ無い事が起きてしまった。
* * *
―――守矢神社after。
新しい守矢神社がこけら落しとなった。
がしかし……やはりと言うべきか、今の今まで集めてきた信仰は振り出しとなっていた。
おまけに守矢『二柱』が今は……『一柱』。
「……」
「早苗……」
永遠亭から神社へと戻って来た一人と一柱(二人きり)は暗い日々を送っていた。
早苗は必要最低限の行動だけし、あとは引籠り気味。魔理沙やにとりが遊びに来ても、追い返す仕舞いだった。
神奈子も神奈子で、何時も通り『山』の会議には参加するモノの、今までイエスマンだった『老人』天狗共が掌を返す様に素っ気無くなった。
「神奈子様」
「っ! ど、どうした?」
二人っきりの食卓で、久しぶりに早苗が口を開いた。
「……諏訪子様は、何時、御戻りになるのでしょうか」
「あ……えっと……」
分からない。最悪……星流しの刑だったら、早苗が死んでも、帰ってこれない……
「霊夢さん……泣いてました。なんでかな……」
「……その話は、止めなさい。私達には関係ないの」
文面でしか読んだ事は無いが、吸血鬼条約『特秘』事項。それに博麗の巫女は触れた。
「……ごちそうさま、でした」
「まだ半分も食べてないじゃないか」
「食欲、無いんです」
食器を持ち、台所へ向かう早苗。
神奈子は最後の味噌汁を掻き込むように飲み干し、溜息をついた。
『神奈子。その飲み方、オヤジ臭いから止めてよ』
「……うるせえ」
幻聴まで聞こえてくる。
再度溜息をつき、食器を流しに置いて縁側に向かう事にした。
旦那が置いて行ってくれた香港産の拙いハッカ(メンソール)煙草に火を点け、夜空を見上げた。
『あ! また煙草吹かしてる! 早苗に言うぞ! ……言われたく無きゃ、一本寄こせ』
「お前のキャラじゃ、ヤバいだろ……チビ蛙」
煙を幻影に吹きかけ、空を見上げた。十六夜月は見えるが、今にも降り出しそうな雲々。
『よっしゃ! 雨乞いだ!』
「早苗が洗濯物干せないって嘆くだろ……阿呆」
口に出して、虚しくなった。
早苗はあの調子だし。自分の立場も今やお飾り。
「……ざまあ無いね。お前は笑うかい?」
好き勝手やり過ぎた結果の、リバウンド。未練は無いが、多くの後悔が残ってしまった。
ポツポツ。
大粒の雨が落ちてきた。
「ケロ、ケロ……か」
火を消そうと……灰皿が無い事に気付く。仕方なく、宙に放り、弾幕で消滅させた。
何も、残らない。
「……諏訪子」
『乙女チックな神奈子は似合わないの!』
莫迦者。八坂刀売乙女だぞっての……どうでもいいか。
冷えてはいけないと立ち上がり、ふと月を見上げた……何故か、隠れていなかった。
「スキマか……紫?」
妖力(?)が辺りに満ちる。よく見えないが、月の方に『スキマ』が開いた。
「紫、じゃない……ってことは!?」
豊姫(義姉貴)だ!
『スキマ』から影が、神社に向かって吹っ飛んできた。そして―――
ド―――zンッ!!
―――石畳にクレーターが、出来上がる。
流石に早苗も何事かと、境内に身を顕わした。
境内には……
「……幽香。何故」
諏訪子では、無かった。
「痛……」
「幽香さん……何か御用ですか」
早苗が、尻もちついている幽香に力無く尋ねる。
幽香は濡れたスカートを絞りながら、どうでもよさそうに応えた。
「用なんて無いわよ。ったく……トンだ月旅行だったわね」
「月、だと?!」
「……お土産よ」
クレーターになった落下地点に手を突っ込む幽香。
そこから、襤褸雑巾のような『幼女(神様)』を引き上げた。
「……だだいま」
「「……っ!」」
早苗と神奈子は雨など気にせず、一目散に駆け出した。
「諏訪子!」
「諏訪子様!」
「痛い……抱きつくな」
あまりの事態に何を言っていいか分からない。
早苗と神奈子は泣き出し、諏訪子はヤレヤレと苦笑した。
「……」
バサリ。
雨に打たれながら固まる三人を見た幽香が、何も言わず傘を被せた。丁度三人、ピッチリ入るくらいの大きさ。
傘で見えないが、何時の間にか幽香は消えていた。多分、紫と喧嘩しに行くのだろう。
「お前ら、重いよ」
「うううぅ……だって、すわござま、がえっでごないかど」
「早苗、鼻水……まず神社入ろ。ね」
しかし、一向に動かない二人。
「神奈子」
「ッ……私が……悪かったぁ……ゴメン」
「いいよ、今更。これからやり直そ」
「うん……うんっ……」
「まったく、だから乙女っぽいのは嫌いなんだよ……」
照れながら頬を掻く諏訪子。
思う。
失った信仰は大きいが、取り戻せた絆はもっと大きい。
これから、やり直せる。
私達が守矢である為、幻想郷の住人である為、そして……家族である為に。
立ち上がり、三人で社へ向かう。
「0からスタートだね」
「はい……頑張りましょう」
「いいさ。私達なら、やれるよ」
玄関を開ける。新しい、我が家。
そこで、早苗が『あ』と声を上げた。
「忘れてました」
「ん……そうだな」
「へ?」
早苗と神奈子は諏訪子へ振り向く。そして―――
「「おかえりなさい」」
―――微笑んだ。
(帰る場所がある……嬉しいね)
諏訪子もはにかみ、今一度―――
「ただいま!」
―――二人に飛び付いた。
残酷ながらも、全てを受け入れる幻想郷。
土着神の頂点は本当の意味で、ようやく……幻想郷(此処)に、家族の下に戻って来た。
なのに、際限なく広がっていく世界が見えるのは……ああもう、その技量に感服です。
全く、あなたはどんなに広い世界をお持ちなのですか?
期待せざるを得ない。
そしてあなたの想う幻のすべてに、光あれ。
ギャップこそカリスマ・・・いい時代になったものだ
あなたの作品はやはりやめられないです。
私はただ…!ひたすら…ざわ…ざわ…して待ってますっ…!
「なにィィィィィ!?」
って言ったかわからないです
紫と幽香の喧嘩。紫の橙分過剰摂取タイムに影ですね。
藍様とラブラブな紫様たまらんです
マンキョウさんの作品をすべて見て分かってきたのは、この幻想郷では各勢力がスタンドアローンに見えて、
実はかなり危ういバランスで成り立ってるように見えますねwww
>ユウウウウゥカアアアアァリイイイイィッ!!!
って叫んでるところで、「ユウウウウゥカアアアアァリイイイイィ『ン』ッ!!!」って読んじゃいましたww
ぬらりひょんやベアード様にどんなカリスマがあるのかwktkしながら待ってます。
でもぬらりひょんが孫バカならぬ橙バカだったらどうしようww