Coolier - 新生・東方創想話

こいしの紅魔館体験

2013/05/20 19:37:51
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 目の前に臨むは紅の館。潜むは夜の王とその血族。この世のものとは思えないほどのプレッシャーを放つ真っ赤なお屋敷は強者以外を拒むある種の結界のようなものを張り巡らせていた。
 豪華な見立てに相応しい門構えも、住んでいるものの権威を象徴しているようだ。……番犬はただいまおやすみ中みたいだけど。

(近くでみるとすごいなぁ……)

 私は、地霊殿の主の妹で、さとりであることを諦めた古明地こいしは紅魔館の門前で呆然と立ち尽くしていた。

(いつかは来てみたいと思ってたけど、いざとなるとやっぱ怖いな)

 地上との交流が少しずつ回復しつつある今日、まだ行き交いは少ないけどそれなりに動きも出てきた模様。私も頻繁に地上に顔を出してはいろんな妖怪や面白い人間と交流するために駆け回っている。
 その分地霊殿に帰ることが少なくなってお姉ちゃんがしょんぼりしがちになっているらしいけどあんまり気にしないでおく。なにせお姉ちゃんは頑固だから私の言い分聞いてくれないし、顔が合わせにくい。でも今のところは支障もないし棚上げしても問題ないだろう。
 しかしその中でこのお屋敷には今の今までその近寄りがたい雰囲気のせいで踏み込むことができていなかった。
 ともかく、ここ紅魔館は魔理沙によると結構オープンなところらしく、一回行ってみるといいなんて聞いたものだからその勢いで寄ってみたのである。

(魔理沙ってよくも平気でいられるね……普通だったら怖くてはいれないよ)

 ここは気軽に立ち寄っていい場所ではないとわかるが、一歩踏み出さなければなにも始まらない。ダンジョンを探検するような気持ちで門番さんに近づいていく。
 ここではあまり見慣れない身なりだ。本で見た大陸の出身だろうか。もしくは中国の熱狂的なファンか、コスプレか。
 豊満なボディと綺麗な赤毛を持ち合わせたこの女性は、背筋に歪みを許さず自信ありげに腕を組んでいる。まともに立ち会えば私も無事じゃないかもと予想できるが、いかんせん就寝中だ。威厳もへったくれもない。

(立ったまま寝てるってすごいじゃん)

 ただ微塵も動かないのは純粋にすごいと思う。お陰で難なく門を通れそうだ。
 私は別に正直にお邪魔しようと思っていない。隠密に、ありのままの日常を覗き見したいだけ。だってその方が面白いし。

(そうだ、この人の夢でも覗こうかな)

 ふと、そんなことを思い付いた。自分の能力のちょっとした応用だ。
 館に入ればさらにいいものがあるだろうし、門番さんをスルーしても構わないがそれでは面白くない。館の人全員が立ち寝をできるわけでもないだろうから、この人みたいな面白そうな人の無意識がどんなものなのかが気になる。こればかりは悪趣味ってわかってるけどやめられない。

(さて、行きましょうか)

 私は、門番さんの無意識の中に飛び込んだ。




(……部屋?)

 どうやら舞台となっているのは何処かの一室らしい。室内は高貴さを感じさせるものの調度品ややたら高そうな装飾品は見当たらない。むしろほとんど私物がない。少し広めな部屋の中央にダブルサイズのベッドが置かれているだけで、ただ寝るだけの所と言わんばかりの質素加減だ。
 私は今夢の中で無意識が補完しているイメージの一つに同化している。物音さえたてなければ背景として彼女からは認識され続けることができる。

「咲夜さん、起きてください。咲夜さん」
「うぅん…………」

 もぞもぞとベッドの表面がうねり、先程の門番さんが身を起こしてきた。私はその姿に目を見開き顎がぶら下がるのを回避することができずにいた。

(なにあれほとんど裸じゃない!)

 ワイシャツ一枚でなおかつノーブラと来ている。この調子では下もはいてないんじゃないかと疑われる。もう一人いるようだしそんな薄着でいられる間柄なのだからさぞ近しい関係なのだろう。

「おはよぅ、めーりん」
「やっと起きてくれましたか」
(…………うわっ、さらに酷い)

 予想の斜め上だった。咲夜と呼ばれた方は真っ裸だった。…………言いにくいが首輪というおまけ付きだ。

(どんな特殊プレイよ!)

 声に出して突っ込めないので心の中で大声で叫ぶ。あまりにも、あまりにも惨い。妖生で一番引いた瞬間かもしれない。
 咲夜は門番さんに身を預け彼女の首に口づけをする。門番さんは甘えてくる彼女をそっと抱き抱え、そして――――




(…………とっとと中に入りましょ)

 もはや見ていられなかった。延々と続きそうなガチ百合劇場を見る趣味は私にはないので、夢の中から引き上げると門をよじ登り向こう側に辿り着いた。
 ……この先どんなことがあるのか甚だ不安だが、もしかしたらましな存在がいるかもしれない。そいつと仲良くなれるかもしれない。そんな淡い希望をもって、赤く染まっている洋館へと私は足を踏み入れていった。

 後ろで門番さんが私に手を振っているのが尻目に見えたが、振り返ったときは微動だに動いていなかった。たぶん、私の気のせいだろう。




 広い。さすがに広い。というか広すぎではないだろうか。

(こんなに歩いてるのに誰にも会わないなんて異常だわ)

 先程から赤い絨毯の引かれた廊下をずっと歩いているのだが、同じような光景が繰り返させているだけで変化が見当たらない。時折妖精の羽のようなものが見え隠れするのだが、どうも彼女らに会うことができずにいる。話だけでも聞けたならまた違ってくるのに。
 しかも明らかに外観以上に奥行きのある間取りでそれがまた私を混乱させる。ここには感覚を狂わせる魔法でもかかっているのだろうか。

(一階だけでもこの広さ、住んでるやつらの方が大変じゃない?)

 住人はさぞや肉体肉体派なのだろう。でなければ好き好んでこんな所に住むわけがない。そう思いたい。
 それからまた時間が経ち三十分後、ようやく地下に続いていると思われる階段を見つけることができた。

「この先図書館?」

 丁寧に案内板まで書かれている。左右均等に設置されているランプによって足元は照らされ、よく手入れもされていることからよく利用されているのかもしれない。

(もしかしたらいるかもしれないわね、第一住人)

 できれば変態ではありませんように……。そう願いつつ階段を降りていった。




(いたいた……)

 中には妖怪が三人、丸いテーブルに向かい合って座っている。期待通り誰かがいてよかった。
 それにしても物凄い数の本と広さだ。下手したら玄関ホールよりも広いかもしれない。壁に埋め込まれた本棚にもぎっしり、テーブルを囲むように設置されているのにもみっちり、眺めているだけで活字酔いしてしまいそうな量だった。
 三人の内の一人が黙々と本を読み進めている。時々そばにある紙にペンを走らせてまた読書に戻るといったような作業をずっと繰り返していて、二人の会話には参加していない。
 では二人はというと、羽の形を見るに悪魔っぽい。特にちっこい方からは濃密な魔力が感じられるし、背の高い赤毛の方も格は下そうだが青い髪のやつと見かけ上同じ気配がした。

(多分あの小さいやつがここのボスだわ……)

 あれぐらいの強さになると、いかに無意識に入り込んでいても気づかれてしまう時がある。こいつらの実力からして一度に相手をするのは骨が折れるだろう。本棚を利用しながら慎重に近づいていき、どうにか棚一個分ぐらいまで接近することができた。

「お見合いごっこって……他にすることないのかしら」
「二人でできることで咄嗟に思い付いたのがそれしかなかったんですよー」
「咄嗟にそれが思いつくこと自体おかしいと思うのだけれども」
「次点で夜遊びでした」
「なんでそんなのに誘おうとしてたのよ!」
「……だってお嬢様のグングニルが暴れだしそうになってると思って」
「溜まってなんていないしそんな性欲だけで生きてるみたいに言わないでよ!」
「やだぁ、レミリア様ったらぁー」
「自分で言っといて自分で引いちゃうってサイテーよ!」
「まあ半分冗談は置いといて」
「もう半分は!?」

(……赤毛はみんなこうなの?)

 レミリアの方は常識人っぽいが、赤毛の方は病人だ。悪魔は悪魔でもそっち系の方らしい。あまり近づきになりたくないタイプだ。
 そういえば確かお燐も猫だがうちに秘めているのは猛獣だとお姉ちゃんがいっていた。恐るべし、赤毛。

「……でもお見合いごっこも面白そうね。いつか霊夢ともしなきゃいけないだろうし」
「そうですよ、予行演習だと思えばいいんです」
「そうと決まれば早速やろうじゃない……えーっと、ご趣味はなにかしら?」
「触手です」
「性癖を聞いたんじゃないの! 趣味を聞いたの!」
「そうですか……エロゲです」
「堂々と言わないでよ……じゃあなにかスポーツはやってたの?」
「乗馬を少々」
「……小悪魔が言うとあっちにしか聞こえないわ」
「私からも質問いいですか?」
「いいわよ。……変な質問はしないで頂戴」
「大丈夫です。……何人まで経験されましたか?」
「けいっ……ち、ちょっ、何が大丈夫だったの?!」
「え、どこか変でした? 私たちの中ではこれが初対面の相手にする普通の挨拶だったんですけど」
「あんたら変態と一緒にしないでよ!」
「しょうがないですね……。あ、そういえば親戚に五百人切りを成功された方がいてですね」
「もう黙れよお前……」

 へなへなと脱力し机に力無く崩れ落ちる館のお嬢様。無理もない。私だって疲れる。というか逃げる。その点では彼女はとても忍耐強いと思う。我ながら変なところで感心してしまっているが。

(でも楽しそうだな……)

 ここまでのやり取りを見て、一つわかったことがある。読書に集中していると思っていた彼女もまた、そばで騒がれているのに少し辟易しながらも二人の会話に耳を傾けていたのだ。その証拠に少し頬が緩んでいる。
 そんな彼女にレミリアが気づいたのか、お前の使い魔なんだから少し抑えさせろとか文句を言うが、本の虫と化している彼女は私は何も聞いてませんでしたと顔に浮かべて受け流した。

「さあさあ、始まったばかりですよ……次の質問はなんですか? ハリー、ハリーハリーハリー!」
「…………はぁ」

 被害に遭っている側を考えてみると少しかわいそうに思えるが……。
 ともかく、ここの人々はとても愉快なのはわかった。それだけでも十分な収穫だ。

(今度はちゃんと来ようかな)

 魔理沙にでも連れてきてもらおう。さすがに正面から見知らぬ客人をホイホイ入れるわけもないだろうし、彼女の招待ならきっと大丈夫なはずだ。

(それで魔理沙にちゃんとみんなを紹介してもらって、それで友達になれたらな)

 静かに、私は図書館を後にした。その時になぜかお姉ちゃんやお燐たちの顔が浮かび上がって、胸が痛んだ。

(もしかしたら、私たちもあんな風に……)

「あんた誰」
「……………………えっ」

 空白。一瞬の思考停止状態。状況の認識を行うまでの間、私に対して投げ掛けられた言葉に返事をすることができなかった。
 図書館から出て、来た階段を昇っていたはずだった。ところが能力を解いていないはずなのに、後ろから声をかけられて……ということは私の姿が見えているのか?
 振り向いた先にいたのはさっきのレミリアによく似た女の子だ。ただ違っていたのは背中に生えている羽。七色の宝石をつけている異形の羽だった。

「どっから入ってきたの?」
「…………ちゃんと玄関からよ」
「ふぅん、珍しいわね。妖怪がここに来るなんて」
「…………そういうあなたは誰? なんで私がわかるの?」
「私はフランドール、ここのお屋敷の持ち主の妹よ。変なやつがいるからって見に来たの」
「そう、奇遇ね。私もそんな感じなの。私も姉がいて、お屋敷の主人やってるわ」
「へぇ、じゃああなたも地下室に?」

(地下室? どういうこと?)

 もしかして自室が地下にあるということなのだろうか。もしもそうならば、私はどう答えればいいのだろうか。館そのものが地下にあるのだから。

「……広義的にはそうかもしれないわね」
「…………そ。まあそれはいいとして、何しに来てたの?」
「見学ってとこね、社会科見学」
「こんなところで学べることなんてそうないと思うのだけれども」
「そんなことないわ。学習なんて所詮主観の問題よ。人によって差があるのは当然だもの」
「そんなもんかしらね」

 そう言ってフランドールは私に背を向け歩き出した。その先にはレミリアたちの喧騒が待っている。

「あなたも姉がいるのよね」
「……まあね」

 フランドールは顔を向けもせず問いかけてきた。彼女がいったいどんな表情をしているのか見えないのがもどかしい。心を覗こうとは、思わないけど。
 そんな彼女の真意が知りたくて、私も一つ彼女に質問をしてみる。

「やっぱり苦労しているの?」
「そりゃあもう。あいつは私の気持ちをわかっちゃいない。だから、私から伝えにいってやろうかと思ってさ」
「…………そう」
「もしあなたも同じならそうした方がいいわ。足踏みしてるだけじゃ始まらないもの」
「まるで自分のことみたいにいうのね」
「……アハハッ」

 おっかないメイドに気を付けることね、私も言われて気がついたもの。という言葉を残してフランドールは去っていた。

(メイドねぇ…………)

 遭遇はしていないが、まだ一人いるらしい。いるものなら一回会ってみたいが、とりあえず今日はここまでにしよう。久しぶりに地霊殿にも帰りたくなった。

(それで、お姉ちゃんともう一度)

 姉と第三の目について話したのは大分前だ。しかもあのときは喧嘩別れになってしまったし、それ以降長らくタブーとして身内で話すことなどなかった。
 でももう一回、ちゃんと向かい合って話すのもいいかもしれない。

 紅魔館を後にする前に、私はもう一度館の前に立ち止まりその全体像を目に写した。門番さんはまだ寝ている。
 彼女たちを表すとしたら家族、という言葉がぴったりだと思う。そばにいるだけで暖かみが感じられたし、それと同時に疎外感や排他的空気も存在していた。
 彼女らに負けないぐらいの関係を作ることができたら、フランドールに自慢してみよう。彼女もまた、私にしてくるかもしれない。それがいつになるかは知らないけど。

「……あれっ、なんだこれ」

 気がつくと木製のバスケットを抱えていた。さっきまでは何もなかったし、これは私のものでもない。突然現れたとしか考えられない。もしくは時が止まって、その間に誰かが持たせたとか……。

『今度はちゃんと門番を通してから来なさい。レミリア・スカーレット以下紅魔館一同』

 バスケットの中には、たくさんのビスケットと一緒にこんな手紙が入っていた。

「ああ、そういうことね」

 しばらくして、フランドールの言っていた意味がわかり、私は思わず笑ってしまった。
「お姉ちゃん、夜に遊ぶことの何が悪いの?」
「!? な、何を言い出すのかしらっ!」


ハーメルン辺りに(ry
八衣風巻
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コメント



0.640簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
こいしの視点による紅魔館と言う、私にとって非常に興味深い題材であり、同時に家族と言うテーマの対比も巧みに思えました。
キャラクターも、愉快に崩壊していて、読んでいて面白かったです。
6.90名前が無い程度の能力削除
紅魔館ほど家族らしさがある空間はないですからね。ホームシックにあてられることもあるでしょう。
そして美鈴自重。
9.90名前が無い程度の能力削除
おそるべし赤毛
もしかして小町も…?
14.90名前が無い程度の能力削除
いわゆる「桃魔館」の要素を押し出しつつも、それのみに終始することなくキャラクター毎に見せ場が設けられていて、作者様の愛を感じました。

素敵です。
20.80奇声を発する程度の能力削除
それぞれが良い感じに出てて良かったです
21.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ、面白かったです。
さとりとこいしのセットで紅魔館に訪問、なんて展開に続くと非常に俺トクなんですが、それもこの紅魔館故になんでしょうね。
自作も期待してます。
22.803削除
赤毛はえろい、覚えました
23.80名前が無い程度の能力削除
こいしかわいい。