魔界のお父さん、お母さん。
いきなりいなくなってごめんなさい。
きっと心配しているのでしょうね。
もしかしたら友達と一緒に、必死になって探しているのでしょうか。こんなどうしようもない親不孝な私を探し回っているのなら……
ごめんなさい。もう諦めてください。
お願いします。
みんなが探してくれていると思ったら、どうしても希望を持ちたくなってしまうんです。
あの暖かい世界へと戻れるのではないか、と。
でも、もう駄目なんです。
私は、地上の魔法使いと契約してしまいましたから。
使い魔になる、と。
召還の強制力に操られるまま。
彼女に真名を晒し、共にあることを誓ってしまいました。
人間の枠を外れた、魔法使いという永遠を生きる種族の下僕に成り下がったのです。立派な悪魔であるお父さんの血を引きながら、下賤な魔法使いごときに忠誠を誓わされてしまった。そんな馬鹿な娘のことなんて忘れてください。お願いします。
……あーあ、こんなことなら昨日素直になるんだったなぁ。
せっかく誕生日のお祝いしてくれたのに。
本当は凄く嬉しかったのに。
面倒だからもうこんなことしなくていい、なんて、強がらなければよかった。
お母さんが作ってくれたケーキ、美味しそうだった……
ああ、食べたかったなぁ。
帰りたいなぁ。
怖いなぁ……
本当に……どうなっちゃうのかな、私。
……ごめんなさい。嘘吐きました。
忘れてなんて、嘘。
探さないでなんて、嘘。
嘘だから、お願い……
助けて、お父さん、お母さん……
助けて……
助けてよぉ……
・
・
・
「……これはひどい」
「……これはひどい」
あまりの展開にレミリアとパチュリーの声がぴたりと揃う。
図書館にこんな禁書が置かれているとは、思わなかったから。
これは何かの嫌がらせの一環だろうか。
まさかパチュリーを陥れる陰謀が影で動いているというのか。
小悪魔が自室で休んでいる間に、たまに自分でも本を整理しようとしたことがいけなかったというのか。
いやいや、もしかしたら読書のし過ぎで目が疲れているだけのかもしれない。
そう思ったパチュリーは、目を擦りながら表紙へと本を戻してもう一度タイトルを確認した。
初心者のための魔術大全 『人間から魔法使いになりたいあなたへ』
間違いない。
茶色い表紙に金色の文字で、重々しいタイトルが描かれている。
魔術の基礎の基礎から久しぶりに確認しようと思って、これを持って来たはずなのだから。
「レミィ。吸血鬼って白昼夢とか見ないわよね?」
「パチェこそ、毎日本読んでるせいで幻覚とか見たりしないよね?」
試しに二人で声を合わせてみても、同じタイトルしか発音されない。
吸血鬼と魔法使い。
そんな異なる種族が同時に幻を見て同じ言葉を発音するなんて、まずありえない。ということは表紙と中身が違う、そう結論付けるのが妥当だろう。。
先ほどは最初の方のページを開いてああなったのだから、今度は真中あたりを選んでみよう。
そう思ったパチュリーは、ちょうどその本の半分くらい。ページ数が見える部分を軽く指で捲り、ちょうど‘200’と書かれた数字を見つけて指を止めた。
ここでいい?
そうレミリアに視線で問いかけると、肯定の頷きが返ってくる。
踏み込んではいけないのではないか、そう心が警告する中。
パチュリーは大きく深呼吸しながら、パサリ、と本を開いた。
――お父さん、お母さん。
偉大なる魔法使い、パチュリー・ノーレッジ様に従属してから、まだ10年しか経っていませんが、とても充実した毎日です。
私は生まれつきドジで、男の子からは『ノロマ』『役立たず』と悪口を言われ……
勇者にやられる『魔物A役』か、魔界のところどころに設置されている『気持ち悪く動く人面樹の中の人』くらいしか就職できない。そうやって後ろ指を差されてきた時代もありました。
パチュリー様によって魔界から呼び出され、使い魔に選ばれたときだって。
偉大なる悪魔の眷属であるこの私が、魔法使いにこき使われるなんて信じられない。
そう、魔法使い如きに!!
……なんて考えたのは、とても懐かしい思い出です。
今ではもう、そんな反抗的な気持ちなんて欠片も湧いてこないのです。
卑しい魔法使いに従わされる。
もう、いかにも小間使い的な立場の使い魔として無理難題を押し付けられる。
そんなことをされる度、小物扱いされていると実感できて、もうたまりません。
ああ、私はなんて幸せなのでしょう。
これぞまさしく小悪魔の喜びといったところでしょうか。
冷めた目をしながら私を呼ぶ、あのパチュリー様のお声を聞くだけで身震いしてしまうほど。
ちょっとした失敗をしただけで、大人気なくスペルカードを撃ってくるご主人様の隠れた攻撃性など、思い浮かべただけで天にも昇る気分なのです。
ああ、ふぁぁぁああああん。
はぁぁぁぁあああああ~~~~~~~~
パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様パチュリー様ぱちゅりぃさまぁぁぁあああ もやしっこぉぉぉぉおおお
パタン……
「……どうしてこうなった」
「……どうしてこうなった」
声を合わせて、迷いなく本を閉じる。
なんだ、200ページの間に何があった。
本のタイトルどおり、これがもし本当に初心者用の書物であるなら、普通はページが進むにつれてやんわりと難易度が上がるはず。それなのに中盤でルナティックとは。
いくらなんでも初見殺し過ぎる。
もしこれを魔界の小悪魔のご両親が見たら、残機がいくつあっても即死するに違いない。
そもそも、10年で200ページって……
「10年間魔法を研究して辿り着いた先には『もやし』が残るという暗号かしら」
「初心者にそんな高度な理解を求めないと思うわ」
「もしくは魔法使いを目指すものは引き篭もりがちだから、もやしでも食べてろという」
「……レミィ、その発言は私以外の魔法使いを敵に回すから気をつけなさいね」
間違っても、パチュリーはこんな書物を片手に勉強などした覚えはない。
むしろ学ぶところがない。
となると、これは間違いなく彼女のカモフラージュ。
種族が魔法使いであるパチュリーが気まぐれでも読みそうにない本の表紙を複製し、過去の日記に入れにしたのだろう。
図書館の司書役である、小悪魔が。
最後のページを開くと、使い魔になってから20年ほど経過した頃の日記が書かれていたので、他の日記もあると考えられる。もちろん、偽装されたタイプの。
「妙に手が掛かることをするねぇ、感心するよ」
「そうね。おそらくは、誰かの日記がこっそりと読まれた事件があって。それで警戒したこぁがこんなことをしたんでしょう」
「へぇ、幼稚な事件ね。でもそんな意地汚い者がこの館にいるとなると、処罰はするべきかしら。たぶん妖精メイドの気まぐれだと思うけれど」
「知識の探求には様々な書物が必要なのよ」
「お前か、犯人」
あっさりと容疑者が自白し、事件は解決した。
スペルカードで表現するなら、禁断『乙女の日記』。
パチュリーにそんな癖があると知ったから、小悪魔が慌てて細工したということか。
「無用心に扉が開いていて、机の上に日記帳があったら読むじゃない、魔法使いなら」
全国の魔法使いの人に謝れ。
乙女の恥ずかしい領域に、『探究心』の三文字だけでずかずか踏み込んでくるのはどうかと。
「気になるけど、私は読まないよ。他人は他人。私は私だから」
「さすがレミィ、館の主の貫禄ね」
「ふふん、当然よ。でもパチェもさすがね、あんな奇怪な日記を見ても喚き立てないのだから」
「そうね、事実は小説より奇なりというけれど。書物の中には現実よりも異質なことはいくらでも起こりえるから。慣れているんでしょうね」
そう言いながら、テーブルに置かれた紅茶を優雅に一口。
何かを思い出すように斜め上へと瞳を動かした。
「咲夜も似たようなこと書いてたしね、耐性がついたわ」
「そういうこと、一度同じようなものを読んだことがあるなら驚きも半減ってとこ――おぃィ!?」
「むしろそっちの方がパンチが利いてたし」
「ちょ、ちょっと、ストップ! すとぉぉぉぉっぷ!!」
「ん? どうしたの?」
「えー、えーっと、もしかして、パチュリーがこっそり読んじゃったのって咲夜の?」
「ええ、千載一遇のチャンスだったから迷わず読んだわ」
びしっ
握りこぶしを作り、親指を天井へと向け、それをレミリアに見せつけるように突き出す。
なんと清々しいガッツポーズだろう。
それより、今の小悪魔の日記よりも凄いって何だろう。
「……愛されてるわね、レミィ」
「日記に何が書かれてたかは知らないけど。そういうことないから。絶っっ対にないから!」
何だろう、魔術の勉強会のはずだったのに。何故こんなことに。
知りたくもない紅魔館の暗部が次々と明らかになっていく。
レミリアは予期できない厄介事のせいで痛み始めた頭を帽子ごと両手で抱え、テーブルの上に突っ伏した。
磐石の態勢だと思っていたのに。
少数精鋭だと思っていたのに。
こんな落とし穴があるなんて。
「癖がある方が楽しいわよ?」
「……平気で心読まないでくれる? まあ、おもしろいというのでは間違いない。でも職務中にまあ、なんというか、いかがわしいこととか考えていると思うと、こちらも信頼が置けないというか」
「なるほど、それはもっともな話ね。じゃあ何か罰を与えるということ?」
「いや、単純な罰を与えるだけというのは、実に私らしくないじゃない」
「あら?」
素っ頓狂な声を上げる親友に向けて、レミリアは意味深な笑みを浮かべたのだった。
◇ ◇ ◇
それから三日後。
パァン パン パァァァン
ワー! ワー!
「それでは、ただいまより――『明日の紅魔館の司書は君だ! チキチキパチュリー様のお世話するぞ大会~』を開催いたします」
ワー! ワー!
「わぁぁぁぁぁって! な、なんです、これ! どういうことです!?」
盛り上げ焼くの妖精メイドと。進行役というプレートを胸に付けた咲夜。そしていつもと同じように図書館のテーブルで読書し続けるパチュリーを順番に見渡しながら、小悪魔は声を張り上げた。
それはそうだろう。
早朝、小悪魔がいつもと同じように本の整理を始めた途端。
いきなり妖精メイドたちがワラワラと図書館に入ってきて、入り口の近くに観客席というテーブルを並べ始めるわ、かと思ったら廊下側には参加者用入り口という訳のわからない立て看板まで設置したのだから。それなのに、普段図書館周りを弄られることを嫌がるパチュリーが、不機嫌な顔一つしない。
これは何かあると小悪魔が警戒しているところで咲夜がやってきて、急に開会を宣言したというわけだ。
これでどう理解しろというのか。
「ふふふ、その質問。私が直々に答えてやろう!」
「こ、この声は! 一体どこから!」
不意に図書館の中に響きわたる、少女独特の高い声。
それでも声に魔力を乗せているせいで、威圧感と威厳を肌が直接感じ取ってしまう。こんなことを容易にできるのは紅魔館の中でも、あの人しかいない。けれど声が反響しているせいで、図書館のどこから声を上げているのかすら――
そんなとき小悪魔の周りにいた妖精メイドたちが急に騒ぎ出した。
「ド、ドコニイルノ」
「タシカニ コエハ キコエタハズナノニー」
「ミ、ミンナ、ウエヨーウエヨー!」
――仕込みをするなら、もう少し練習してほしいものである。
棒読みをしながら天井を指し示す妖精の指先、小悪魔はそれを脱力しながら辿って行き。
「ふはははは、私はここだよ!」
最終的に視線が行き着いた場所には、紅い吸血鬼がいた。
笑い声を漏らすその唇を笑みの形に歪め、鋭い眼光で周囲を見下ろす。
まさしく、主たる威厳を示す存在だ。
それを羨望の眼差しで見詰める妖精たちは声を合わせて――
「レ、レミリア、オジョーサマー、イツノマニー!」
「レ、レミリア、オジョーサマー、イツノマニー!」
「レ、レミリア、オジョーサマー、イツノマニー!」
「ふふふ、昨日の夜からよ!」
妖精A、B、Cの演技を何とかしろと言うべきか。
お嬢様そんな時間から天井で何してるんですと言うべきか。
突っ込みどころがあり過ぎて、小悪魔は脱力した肩をさらに落とす。背中の羽も力なく下へと向けられており、今にも床に触れてしまいそう。
もうそこまで滑るとカリスマなどマイナスぶっちぎりかと思うのに……
シャンデリアの上で胸を張る姿はどこか引き寄せられそうな雰囲気を纏っており、結局のところプラスマイナスゼロになるのだから不思議だ。
それでも、レミリア本人は『すべて格好良く決まっている』そう思い込んでいるに違いない、
そんな自身満々のレミリアは眼下で棒立ち状態の小悪魔を、びしっと指差したのだった。
「小悪魔、あなたは使い魔として、司書としてパチュリーの下で働きながら。妄想の中で主を貶めることを考えたことがあるわね? しかも最近は毎日といって良いほど」
ビクッ!
小悪魔の体が大きく震え、脱力していたはずの羽が肩の高さまで持ち上がる。その反応だけ見ても自白しているのは明白なのだが。
「な、何をいきなりおっしゃいますやら、レミリアお嬢様。私は使い魔として精一杯パチュリー様に尽くしているだけで…… た、確かにその大切に想う気持ちがそう勘違いして受け取られることがあるかもしれませんが! それは誤解です!」
「なるほど、それはあくまでも忠誠心の延長上と言いたいのかしら?」
「はい、当然です! それ以外の何ものでもありません!!」
好意と忠誠心。
仲間として行動する際、その二つは似た部分があるのは確か。
けれど、まったく異なる部分だって当然ある。例えば好意だけで縛られる間柄なら自分の嫌な行為を跳ね除けることができるが、忠誠心の場合自分にどんな被害があろうとも主の命令は絶対、死を伴う行動ですら拒否権はない。
パチュリーと小悪魔の場合は、主と使い魔という契約によって制限を受けている状態なので。確かに彼女のいうとおり限りなく忠誠心に近い関係と言っていいだろう。
「その言葉に偽りは?」
「あ、ありませんとも!」
「よろしい…… パチェ、アレを」
パチンッ
レミリアがそうやって指を鳴らすと。パチュリーはそれまで読んでいた本をテーブルの隅に追いやり、身近にあった一冊を何気なく開いた。しかしその本の題名は。
楽しい火属性魔法 ~入門編~
普段のパチュリーなら絶対に選ぶことのない。
あまりに簡単すぎる、魔法使いの卵が好んで読む書物。
進行役をしろと言われていたが、詳しいことを聞かされていない咲夜は、その行動が理解できず眉を潜め。
完全に理解した小悪魔は、石像のように身を固くする。
そして全身をガタガタと震えさせ、何かにすがるように空中に手を泳がせた。
「パ、パチュリー様、まさか、それは」
彼女は答えない。
ただいつものように本を開き、内容に目を通していく。ただ、唯一いつもと違うのは彼女が音読を始めたこと。
「○月×日―― 今日もぱちゅりぃ様と――」
「や、やはりそれは私の!」
それは、巧妙に隠された小悪魔の、しかも最新の日記帳。
パチュリーが気まぐれでも読みそうにない初級の魔法書表紙を使い、紛れ込ませてあったもの。
本来ならこのような場で、少女の心の内を公開するものではない。
しかし……
「○月×日―― 今日もぱちゅりぃ様とにゅふふぅ~であにゃぁぁ~~んなことを、うふふ」
「だめ……駄目です!」
「○月△日―― ぱちゅりぃさまぁぁぁぁぁん かぁぁいぃぃにょぉぉおおおぺろぉお~~」
「そ、そんなところまでっ!?」
「○月□日―― はぁはぁはぁ…… こぁこぁこぁ……」
「やめて……もうやめてください、パチュリー様ぁ……」
泣き崩れる小悪魔と、それを見てヤレヤレと言った様子で日記のようなものを閉じるパチュリー。その二人を眼下に捉えるレミリアは腕を組みその様子を静かに眺めていた。それだけ見ていると、舞台の上のワンシーンのようにも見えるが。
……日記?
状況のわからない妖精メイドたちは、難しい顔をしながら一斉に首を傾けていた。まったく理解できないが、日記と呼んではいけないものだと本能的に感じたのかもしれない。それでも小悪魔がこれを日記と判断しているのだからしょうがない。その張本人はというと未だ立ち直ることが出来ていないようで、床に手をついたまま肩を震わせている。
「ふ、ふふふ、そうですよ。レミリアお嬢様。今の日記をお聞きになってわかったでしょう……? お前これ火属性じゃなくて卑猥の方の卑属性だ、と 入門ってそういうことなのか、と」
「……え? そんな際どい内容だったの、これ? 解読すらできなかったんだけど」
「惚けないでください! もう、知れてしまったことです。そう、私は職務中に何度もパチュリー様と、もっと親密になりたい! と願ってしまった。 それだけじゃありません、後ろから抱きついてみたい。髪の毛を撫で回してからクンクンしてみたい。頬をすりすりしてみたい。たわわな果実に顔をうずめてみたい。そう、純粋に何度思ったことか! 乙女の胸を何度悩ませたことか!」
「うん、それ純粋でもないし、乙女でもないし、単なるエロ親父の発想だし」
「けれど、パチュリー様を思う気持ちは本物です。確かに昔は無理やり親と引き離されたから、反抗したこともありましたけど、今は忠誠心などで計れないほど、私の心はしっかりパチュリー様と繋がっているはず! 私のすべてはパチュリー様のもの! そしてパチュリー様は私のもの!」
「一番言っちゃ駄目なことだと思うわよそれ」
予想の斜め上にも程がある。
確かに日記の内容を軽く除いたらいろいろ支離滅裂で、『迷走する乙女心』というイメージなのかなと凄く友好的な解釈はしていたけれど。まさしく迷走。あっさりとレミリアの思考を振り切った場所にいるようだ。到達してはいけない高みまで、猛ダッシュで。
ただ、それに加えて、レミリアには気になることがもう一つ。
チラリと咲夜を盗み見たときのこと。
何故か彼女が、小悪魔の発言の度に小さく頷いていたのだ。常人では理解できないあの日記の内容を解読しているかのように。
……ブルータスお前もか。
まあ、それは一旦置いておくとして……
さすがに今のカミングアウトにはパチュリーも落胆しただろう。
皆が見守る中、席を立ったパチュリーは何も言葉を発しないまま泣き崩れる小悪魔の側へと歩み寄って行く。そんな主に小悪魔は捨てられた子犬のような目を向け……
お願い、と訴える。
切実な願いを受け止めたパチュリーは、頭の上にすっと、優しく左手を乗せてやる。
穏やかな笑みを向けられ、小悪魔、期待で表情を輝かせ――
「クビ♪」
「いやぁぁぁぁああああああ!!」
外道過ぎる。
まさに外道のお手本と言ってもいいくらいの、解雇宣言。
にこやかな笑みを浮かべながら、右手の親指を下に向けスーっと横に引っ張るという、動作での追い討ち付きで。
「冗談よ、あなたの忠誠心しっかり伝わったわ」
「さすがパチェね、絶対冗談を言ってはいけない場面であっさり言う」
あれが忠誠心かどうかは別にして、どうやら小悪魔の意思はパチュリーに届いたようである。
冗談を言われたことに対する怒りすら忘れ、感極まってパチュリーに抱きつこうとする彼女を。
くるっ
喘息持ちとは思えない動きで綺麗に避ける。
さすがにあの日記の後で体に触れるのを許すほど寛大でもないらしい。
「はぅ!?」
べたん
てっきり受け止めてくれると期待した小悪魔は、前のめりで床に倒れ込んでしまう。しばらくうつ伏せでじっとしていた彼女だったが、急にじたばたと四肢を動かしてパチュリーに起こしてと訴える。
抱き付きが許されなかったから……せめてこれくらい。
手を引いて起こすくらいして欲しい。
そんな希望を訴えているようだった。
けれど、その程度で気を抜いてもらっては困るのだ。
「ふふふ、どうやらパチェは認めたようだけれど。この館の主は誰か、忘れたかしら?」
「……レミリアお嬢様です」
「そうね、では、話を戻すけれど。私が治めるこの場所で、仕事そっちのけで主とベタベタするような従者がいたとしよう。それは私が命じたことではないけれど、外から見たらどうかしら。その館の主の恥として騒がれるはずよね? 自分の責任で名を貶められるなら甘んじて受けるが。
部下の怠惰で私の――スカーレットの名を汚されるのは我慢ならない。
私はあなたがパチェの使い魔だから何も言わず滞在を許していたけれど、これを機に考えを改めることにした。やはりこの世は実力主義。もし現時点であなたより優秀な司書候補がいたら、あなたの紅魔館への立ち入りを制限する必要がある、とね」
「あ、あの、それは……どういう」
「実力を伴わないものは紅魔館には必要ない。そういうことよ。ねぇ、咲夜?」
「……そのとおりです、お嬢様」
「そ、そんな……」
つまり、精神的条件だけでは不十分ということ。
力の無い者は排除する、実にレミリアらしい考え方だ。どうしてもパチュリーの近くに居たければ、紅魔舘の塀の外で野宿でもしろと言っているようなもの。きっと咲夜へと話を振ったのは、その実力ある従者としての例を示すため。
「この日のために、各拠点における従者に来て貰ったわ、司書なんてまったく経験したことのない人たちをね。彼女たちよりあなたが劣るようなことがあれば、どうなるかわかる?」
「……で、でも! そんな急に!」
「紅魔館のすべての決定権限は私にある、私がやれと言っているのだから。拒否するということは、無条件敗北とする。それでいいなら構わないけれど」
遊びなのか、それとも本気なのか。
その真意はわからない。
冷静な思考を与えられることなく、小悪魔は窮地に立たされていた。
けれど、ここで首を横に振ることだけはできない。
「……やります。やらせてください」
主の、パチュリー・ノーレッジの横には自分が立っていたいから。
「よろしい。欲しい物は自分で勝ち取る。実に魔の眷属らしいじゃないか」
満足そうに笑うと、レミリアはシャンデリアの上から飛び上がり、ふわり、と音を立てずに咲夜の側へと降り立つ。
「さあ、開演よ。咲夜」
主の声を合図として。
ついに小悪魔の運命を決める争いが始まったのだった。
◇ ◇ ◇
空気を震わせ、鳴り響く轟音。
視界を覆い、網膜を焼き尽くしそうな閃光。
美しさの中に残酷さを秘めた光弾が、床を、壁を、天井を穿つ。
彼女が争うことに、理由などなかった。譲れない意地があっただけ。負けられないという信念が、彼女を支えていた。
翼はもう動きそうもない、震える膝は体重を支えることを拒否し続ける。
けれど――
彼女は、飛ぶ。
命を賭してっ!
「――っていう展開が一番燃えるんだけどね」
「それは……、いくらなんでもパチュリー様がお許しにならないのでは?」
「うん、あっさり反対された」
最初、パチュリーにガチバトルを提案したら、図書館では絶対にやらせないと断固拒否された。
司書に弾幕的な能力はまったく必要がないから、と痛い反論付きで。
「確かに変わった勝負方法だし、興味もあるけれど……地味なのよね。こう、血が踊るような刺激がないと。なんというか盛り上がりきれない。ちょっとくらい私の意見取り入れてくれてもいいのにさ」
「お嬢様は相変わらず華やかなものがお好きなのですね」
俗にいえば派手好き。
比較的闘争本能の強い吸血鬼である以上、仕方ないのかもしれないが。
「まあいいわ、咲夜。眠気覚ましに紅茶を入れて頂戴。まったくもぅ、パチェって意外と頑固なんだから」
入り口から邪魔にならないところ、観客席と白い紙が下げられた小さめのテーブル。
そこで咲夜に紅茶を要求しながら、少しだけ愚痴を零した。
自分の意見を取り入れられなかったのが多少不満のようである。
そんなレミリアの近くには咲夜以外の人影はない。レミリアの盛り上げ役の妖精メイドたちは図書館から姿を消し、通常の業務に戻っている。ほとんど遊んでいるだろうけれど。
なのでこの部屋の中には、咲夜、レミリア含めて、本を読んでいるパチュリー、部屋の隅で表情を暗くしている小悪魔と……それと……
合計5名。
――あれ? 一人多い。
「ねえねえ、そんなところでくつろいでないで。さっさと勝負方法とか教えて欲しいんだけど」
紅茶で不機嫌さを紛らわせているレミリアの正面。
ちょうど入り口から十歩ほど中に進んだ場所に、この館ではあまり見慣れない妖獣がいた。薄紫色の長い髪を目細めながら指先でいじり、ウサギのように長い耳を左右に揺らす。丈の短いスカートからすらりと伸びた足の先を、一定のリズムでタンタンっと床に叩きつけている事から判断しても、さっさと始めてほしいという意思が伝わってくる。
――ということは。
「咲夜、一人目ってあのウサギ?」
「ええ、そうなります。彼女は永遠亭の中では診療所の補助員のような立場ですから。参加資格はあるかと思い、案内状を送付しました」
小悪魔を試すため、他の場所の従者と競わせる。
その従者の選別は、レミリアから依頼された咲夜が行った。
『幻想郷の中で、咲夜とか小悪魔的な立場の集めるように』という、大分アバウトな命令で。おそらく事前に参加者を知っていると心から楽しめないから、このような手段を取ったのだろう。
「いいねぇ、いいねぇ。確かにあのウサギなら身体能力も高そうだし、期待できる」
「良いとか悪いとかじゃなくて、何でもいいから早くして。この後人里で薬を配らないといけないんだから」
「あらら、お客様は相当お急ぎと見た。あの医者の下で働いているならしょうがないか。咲夜、さーっと説明してあげて」
「はい、では、不肖ながら」
命を受けた咲夜は、観客席の端に置かれていた紙を手にとり淡々と読み上げ始める。
「あなたの右斜め後ろで本を読んでいるパチュリー様が読みたい本を10冊、持ってきていただく、ただそれだけです」
「え? それだけなの?」
「はい、パチュリー様がメモで指示を出すと思いますので。それに従うままで。例えば『14-上2-左3』そして本の題名が書いてあれば、『14』と側面に書かれた本棚の、上から『2』段目、左から『3』冊目付近にある同じ題名の本、という意味になります。それと、今、何冊かパチュリー様の前に積み上げてありますが、もしすでにテーブルの上に読みたい本があった場合、それで一冊分の成功といたしますので」
「つまり10冊持ってこなくてもいいときがあるかもしれないってこと?」
「はい。しかし、膨大な量の中で10冊ですし」
「それもそうね、期待するだけ無理ってことか」
内容を理解した鈴仙は、その程度のことは朝飯前だと言うように鼻で笑う。その程度のことを勝負事にもってくるとは、紅魔館も程度が低い。心の中でそう思ったのかもしれない。
「で? 一応参加してあげるけど、ちゃんと参加賞は貰えるんでしょうね。約束どおり」
「確か永遠亭への商品はにんじん100本でしたか。はい、間違いなく準備いたします」
「でも、例えば、一番早く本を持ってきたりとかしたときの優勝商品とかそういうのはないのよね」
「はい、ただし手を抜いた様子が確認できた場合、紅魔館で患者を見捨てたとかそういうあることないこと流言します。主に、あなたの師匠の目の前で」
咲夜は、やると言ったらやる。
もし手を抜いた場合、時間を止めてすぐ永遠亭まで駆け込み。鈴仙の立場を悪くする情報を真顔で報告するに違いない。そうなれば、彼女に待っているのは……
「なんて厄介なメイドかしら……わかったわよ。本気でやるわよ」
紅魔館としては、本の出し入れを小悪魔以外にやらせたらどうなるかというデータを得ることができ。
鈴仙はたった10冊持ってくるだけで、妖怪兎たちの好物を手に入れられる。
情報と物質、得られるものは差があるが。両方に利点があると言っていい。
「じゃあ、早速はじめますが、よろしいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
レミリアが不敵な笑みを浮かべる中、鈴仙はパチュリーがいるテーブルへと近づいていく。
その机の隅の小さなメモを目指して。
◇ ◇ ◇
タンッ
図書館に響く、弾むような音。
けれど音がした場所にはすでに何もなく。
そこにあるのは、少女の虚像と残り香だけ。
軽く一歩踏み出したかに見えた少女。
しなやかな動きで飛び上がった鈴仙は、すでに図書館の天井近くまで到達しているのだから。
「へぇ、なるほど、軽く踏み込んだだけでこれか。感嘆に値するじゃない。そう思わない咲夜」
「そうですね。あの短いスカートで平然とあの高さまで飛び上がるとは、恐ろしい」
「……人間と吸血鬼ってやっぱり感性が異なるのかしら」
種族の理解の差なら仕方ない。
血の違いを実感するレミリアの視界の中には、もう鈴仙の影は映らない。もう彼女の身長の三倍はありそうな本棚で隠れて見えなくなってしまっていた。
「あの、お嬢様」
「何、咲夜?」
「先ほどから部屋の隅で棒立ち状態だった小悪魔が、今の跳躍を見て……泣きながら床に『の』の字を書き始めたんですが」
「身体能力の差なんて埋めようもないと思うんだけどね」
確かにあの速度なら、場所さえわかればすぐ本を持ってこれるだろう。
あとは難しい背表紙の文字を正確に合わせることができるか。それに時間を有したとしてもほんのわずかな時間でしかない。
本を読む速度と、持ってくる速度を比較すればどちらが早いか。
「見ているだけではつまらないのではないですか?」
やはり咲夜も常識的に考えて、取りに行く側が早いと判断したようだ。
10冊読む間にどれほど退屈な時間が流れてしまうのか。そのせいでレミリアが不機嫌になってしまうのではないか、
そんなことを邪推しているのかもしれない。
「ふふ、そう思っていると驚かされるわよ。まあ見てなさいな」
その言葉のすぐ後に鈴仙は本を持ってパチュリーの元へ戻ってくる。
これでまず一冊。
本を受け渡したのだから当然それを読む時間が必要なはず。そう判断した鈴仙は背伸びをしてからテーブルを離れようとしたが。
そのとき、すっ、とパチュリーの右手が動く。
当然それには次の本の場所と名前が書かれており。
鈴仙は驚きの表情を作ったまま、それを受け取った。まさか、すぐ取りに行けと態度で示されるとは思っても見なかったから。
「……読むスピードが桁外れに早いということでしょうか?」
「そう、咲夜でもわからないなら、こんな例え話をしよう。もしも、あなたが甘いものが嫌いだったとしましょう。そんなあなたの前に生クリームたっぷりのケーキが出てきたとき、どうするかしら?」
「お嬢様に差し上げます」
「やったー! うー☆ じゃないわよ。そういう答えじゃない。食べるか、食べないか」
「おそらく、食べないと思いますわ」
何かの引っ掛けかと思い、自信なさ気に回答を示す。
いつも完璧な立ち回りをする咲夜の弱気な態度を楽しみつつ、レミリアは椅子の背もたれに体を預けて腕を組んだ。
「そう、それが正解よ。じゃあ甘いものは苦手だけどイチゴだけは凄く好き、という条件をあなたに付加したとする。そこでイチゴの乗ったケーキをあなたの前に出したらどう?」
「レミリアお嬢様に土台のケーキを差し上げて、最後にイチゴだけ口移しでいただきます」
「……最後の行動いらないよね?」
「何をおっしゃいます、一番大切なことですわ」
「コホンっ……ま、まあ、いいわ。とにかく、イチゴだけを食べようとするでしょう?」
「そうですね、無理して必要ないところまで食べることは―― そういうことですか」
咲夜が理解したと同時に、ぱたんっと本が閉じる音が響く。
ほんの数十秒しか経っていないというのに、パチュリーが本を置いたのである。内容量は500ページを超えそうな厚さだというのに。
なぜこんなに早いかというと、理屈は簡単。
全部を読んでいるわけではないから。
そう、その日の研究に必要な項目しか読まないから。
いうなれば、辞典で文字を調べることを、書物単位でやっているのである。
知りたい部分しか読まないので、一冊のうち多くても一章分しか目を通さない。
酷いときだと一段落、数行の記述のために本を変えることだってあるのだから。
「え、ちょっと早すぎっ!?」
だから、パチュリーのことを疑い。
スタートダッシュを遅らせた鈴仙が間に合うはずがなく。
「ほら、次」
不機嫌そうに、メモを差し出すパチュリーの視線を受け止める鈴仙は。
驚きで目を丸くすることしかできなかった。
その後、なんとか速度を上げて10冊目までパチュリーの元へ持ってきた鈴仙だったが、魔法使い兼研究者であるパチュリーの変則的な本の読み方に始終翻弄され続けていたという。
◇ ◇ ◇
「ふ、ふふん! だ、だから私しかパチュリー様に使える司書はできないと言ったのです! ウサギモドキなんて相手になりませんよ」
「……何急に復活してきてるわけ?」
観客席の右斜め後ろ。
レミリアから3歩ほど離れた位置で、小悪魔が息を巻いていた。
身体能力が高い鈴仙が失態を犯したことにより、多少自信が蘇ったということろか。
「まあ、身のこなしだけは多少マシでしたけどね! 私の次くらいに!」
「あらそう? あれ以上の動きができるのなら、今度私のお相手をお願いしようかしら♪」
「……ごめんなさい、ゆるしてください、ちょうしにのりました」
その鈴仙には引き続き観客席で会話と紅茶を楽しんでもらう予定だったのだが、『診療所の手伝いを疎かにはできない』と言い残し、そそくさと帰ってしまったのだから仕方ない。急いで帰った理由には仕事という部分も確かにあったかもしれないが、最初に簡単だと大見得切って失敗した恥ずかしさもあったのだろう。
「別に発言を禁止してるわけではないからいいけれど、言葉使いには気を払うことね」
「はひ、すみません……」
とりあえず、静かにしろ。
後ろを振り向いたレミリアに睨み付けられ、小悪魔は身を小さくする。喜んだり落ち込んだり、ころころと表情を変えるのが面白いので、もう少しだけいじめてやろうかとも考えたが。
「咲夜、あなたから見て、あの子の動きはどう?」
「メモを受け取ってからの初速は目を見張るものがありますが、それだけですわ。それ以外の純粋な動きの速さでいえば鈴仙に劣るかと」
今は二人目の挑戦者の動きを観察する。
それが優先事項なのだから。
「それでも姿勢の良さ、真摯な態度。主を引き立てる要素は十分ありますので、従者としては素晴らしいと思います」
「なるほど、礼儀作法を心得ているというところか。実力主義もいいけれど、そういうのも悪くないかもしれないね」
礼節を重んじる剣士、魂魄妖夢。
白玉楼の従者である彼女が二人目の挑戦者であった。参加賞として、白玉楼の一日分の料理を代理で作る、と咲夜が約束したら、喜んで引き受けてくれたそうだ。どれだけ食に縛られているのだろう。
「で、でも! でもですよ! ほら、パチュリー様が本を待っている間に読み終わってしまっています!」
「そうね、やはり速度は問題か。お手本のような動作なのに、勿体無い」
動きは綺麗だけれど、わずかながら速さが足りない。その差のせいでパチュリーが先に本を置くことの方が多いように見える。側に浮かぶ半霊を上手く使えれば結果は違ってくるかもしれないが、そこまで器用ではないのだろう。
そして、綺麗な動きのまま本を運び続けるということは。
波乱も盛り上がりもないということで……
「……さすがに、飽きるわね」
妖夢が8度目の指示を受ける頃には、レミリアの口から本音が漏れてしまっていた。
そのせいで自然に目付きが鋭くなってしまったのだろうか。咲夜が気を利かせて『これで終わりにしますか?』と尋ねてくる。それを手を払う動きだけで拒否して、レミリアはそれ以上の不満を零さず様子を見守る。別にルールを厳守したかったわけではない。
何か、妙なのだ。
能力は押さえ込んでいるから、その瞳が未来の運命を覗くことはない。が、自然と漏れるその力の欠片が何かを警告している。
何かが大きく動く、と。
しかし、この閉鎖空間で急な変化など起こりえるはずがない。唯一暴れだしそうなもう一人の吸血鬼は、美鈴に相手をするよう命令してあるし。
可能性があるとすれば予期せぬ来客くらいだろう。
でも、今日は面会できないという内容の文言を咲夜に書かせ、貼り紙をさせた上で門を閉ざした。
過去の異変のときでもないのに、その張り紙を見ても入ってこようとするやつなんて。
紅魔館に無遠慮に入ってくる者など――
――まさか。
レミリアがあることを思い出すのと、妖夢が動いたのは同時だった。
八冊目の本を置いたとき、次のメモを受け取らず、いきなり図書館の入り口のほうへと歩いていったのである。
その躊躇い背中は、引きとめようとするパチュリーの言葉すら止めさせた。
何も語らず、ただそれが必然であるかのように。
「む、職務放棄なんて、許されませんよ! しっかり最後まで本を持ってきてください!」
主人に対する無礼が我慢できなかったのか、小悪魔は妖夢を指差し怒鳴り声を上げる。
けれど、彼女が背中の刀に手を伸ばした瞬間。
ぴたっと咲夜の陰に隠れてしまう。しかし妖夢はそんなもののために刀を握ったのではない。
かちゃり、と刃と鞘が擦れる音が静かな図書館に響き。
ドンッ!
「邪魔するぜ!」
新たな音が、それを掻き消した。
図書館内の視線が一点に集中する中。
大きく開かれた扉のところに、箒に跨ったままの普通の魔法使いがいた。
そしてそのまま勢いをつけ、疾風が翔けるように図書館へと踏み込んだが。
「あっ……」
自分を見つめる多数の視線に気付き、素早く本棚の方を見た。
そこに逃げ込めば、下手な攻撃はないと思ったのだろう。
本棚の方に人影がないことを確認した魔理沙は、地を這うような高度を維持しながら、箒の先端を無理やり振り回して鋭角に方向転換。
成功したかのように見えるが、おもいつきで起こした無謀な行動なのだ。
勢いを殺しきることができず、横に転がりそうになってしまう。それをドンッと床をおもいっきり蹴り飛ばすことで無理やり押さえ込み。不恰好ながらも神懸り的なターンを決めた。
だが――
そんな努力をしたところで、今日は分が悪すぎる。
なぜなら、咲夜がここにいるのだから。いくら方向を変えようが遠くに逃げようが。時を止めてしまえば同じこと。
部外者には早々に立ち去ってもらおうと、咲夜は懐中時計を握り締めようとした。
その刹那。
「ちょ、どけっ! あぶなっ!」
魔理沙の進行方向に、素早く妖夢が回り込んだ。
鞘が固定されたままの刀を腰溜めに構えて。
されど、魔法使いは急に止まれない。
このままではまとも正面衝突することになる。
もう数歩しかない間合いでは下手に方向を変えることも不可能だ。
魔理沙はうまく避けてくれることだけを願ってそのまま直進し。
対する妖夢は左足を軸にし、大きく体を捻った。
それでもまだ避けるには不十分。
身を引きながら突っ込っこむ箒の先端が、妖夢の体に触れたように見えた。
もう駄目だ。
そう思った魔理沙が瞳を瞑ったそのとき。
妖夢の体が竜巻のように回転する。
がづっ!
硬いものがぶつかる音が響いた直後。
一人の少女――魔理沙の体だけが空中に投げ出されていた。
彼女が握っていたはずの箒は、その体のどこにもなく。突っ込んだ勢いのまま、前方へと吹き飛ばされていた。
「ほぅ、斬るだけが剣術ではない。そういうことか」
箒は確かに図書館の中にある。
レミリアが思わず口元を緩めてしまうような場所に。
それは……
振り抜かず、寸止めのをした妖夢の刀の中腹あたり。
鞘がついたまま刀の中心に、箒は止められていた。
箒の先端だけが刀に触れた状態で。
剣士の一瞬の集中力とはなんと恐ろしいものか。
妖夢は直進してくる箒の先端のみに鞘による打撃を当て、箒が進もうとする力を打ち消した。その結果、箒に乗っていた魔理沙の体だけに強い慣性力が働いた。それに耐えられず魔理沙が手を離したため、綺麗に空中で二つに分かれたというわけだ。けれど、主人がまだ上に乗っていると主張するかのように、箒は空中に浮き続けていた。
だが、重力というものは必ずそこに存在する。
魔力が切れた箒は、地面に引かれるままパタンッと静かに床の上に転がった。
そして、その主はというと――
「う、うわあああああああ…… っお?」
吹き飛ばされた先で床と盛大な口付けを交わす直前、空中で何かに受け止められる。
「ははは、一応、感謝しとくぜ……」
それは、妖夢とまったく同じ姿をした人型。
妖夢はとっさに姿を変えた半霊で、魔理沙を受け止めたのだ。それだけなら、彼女もここまで不満気に声を漏らさなかっただろうが。
「感謝ついでに、できればこの腕も離してくれると助かるんだが?」
受け止めてからすぐ、魔理沙を床に転がし背中から押さえ込んでしまっていた。
魔理沙の問い掛けに妖夢は少し恥ずかしそうに頬を掻く。
「……す、すみません、敵意のような何かを感じてしまい、つい泥棒用の対応を」
「失礼なやつだな、私は泥棒じゃない。借りてるだけだ」
どの口がそういうのか。パチュリーが近くにいれば無言で魔法を放っていたかもしれない。しかし魔理沙の泥棒癖をそこまで詳しく知らない妖夢は、どうしたものかとレミリアたちの方を振り返る。
「うっかり捕まえてしまいましたが…… 開放した方がよろしいのでしょうか」
そんな妖夢の問いかけに、一瞬だけ図書館の中に静寂が訪れ。
「リリースで」
「キープで」
「キープで」
「キープで」
「キープで」
民主主義は残酷である。
魔理沙は美鈴と同じ、フランドールのお世話役に任命されたという。
◇ ◇ ◇
「半霊をあそこまで自由に使いこなせるとは、なかなかね。咲夜とも似ているタイプだし。正直私の部下にも欲しいくらいね」
「いえ、半霊を完全に実体化できるのは長くて数分程度ですし、私などまだまだ。幽々子様は実体と幽霊体の変化を自由に行えますからね。あの方の域に辿り着くにはいつになることか」
それでも褒められて悪い気はしないだろう。本運びを終えた後、レミリアの横に案内された妖夢は紅茶に口を付け頬を染める。紅茶の温かさで赤く染まった。そうやって誤魔化すように。
「……妬ましい」
さらに妖夢の横に付くように何故か小悪魔もちゃっかり席についていた。黒いオーラを妖夢に向けて放出しながら。このままだと別の妖怪に変化してしまいそうなほど。
「ふ、ふふん、で、でもですよ。本を運ぶ動作だけならまだダメダメですからね! あんな、たまたま、偶然、奇跡的に、魔理沙さんがここにやってきたからあなたが認められただけで! パチュリー様の専属司書としては不十分なんですからね!」
どうしても、自分の方が上だとアピールしたいようだ。それに対してどうやって反応していいのかわからない妖夢はただ苦笑いだけを浮かべていたが。そんな子供じみた強がりに聞き耳を立てる紅魔館の主は、楽しそうに笑みを零す。
「あらあら、では小悪魔、その偶然と言うのは十日間で何回ぐらいあるのかしら?」
「え、えーっと……そ、それは……ですね。1回くらい」
「本当に?」
「え、えと、実は2回……」
「あら? そういえばこの前も来ていた気がしたけれど」
「う~、3回ですよ! 3回も! 3日に一回くらい! どうせ一回も妨害できませんよ! 妖夢さんと違いますよ! 役立たずな従者ですよっうぁぁぁぁぁん!!」
テーブルの上に突っ伏し、どんどんっと叩きながら涙で袖を濡らす。
どうフォローしていいのかわからない妖夢は、とりあえず背中を撫でていた。
「まあ、それでも小悪魔がパチュリーにストレスを与えないように本の出し入れができるのなら。見劣りしないかもしれないわねぇ」
「で、ですよね! やっぱり一般業務ですよね!」
さっき泣いたと思ったらすぐ笑う。
慰めてくれていたはずの妖夢の手を弾く勢いで体を起こし、瞳に炎を再燃させた。
実に、素早い復活である。
「さて、小悪魔の調子も元にもどったところだし、咲夜。次の参加者呼んできて」
「はい、しかし次の方で最後になりますが」
「3人しか呼んでないの?」
「申し訳ありません。もう少し一人一人に時間が掛かると思っていましたので」
今まで、二人がパチュリー専属の司書として動いたわけだが、二人合計したとして半刻も経過していない。もちろんさきほどの大捕り物を抜きにしての時間だが、それにしても早い。
「まあいいわ、それを含めてあなたに任せたんだもの。構わないから呼んでちょうだい」
「はい、ではしばらくお待ちください」
そうやって一礼した咲夜の姿が一瞬でレミリアの前から消え去る。時間を止めて参加者を呼びに行ったのだろう。そこまでしなくてもいいと思うのだが。お嬢様を少しでも待たせられないという彼女なりのプライドがあるのかもしれない。
「時は金なり、時間は大切だと言うけれど。私たちのように永遠に近い生を持つものにとっては、どれだけ有意義に時間を使えるかが大切だというのに」
「でも、速いことは良いことですよ。好感が持てます」
「けれど時には立ち止まることも必要では―― いつからいたのかしら?」
比較的近くの本棚の上。
そこから声が聞こえたかと思って視線を動かせば、そこにはもう姿はなく。ばさりっという羽音と共に、レミリアの真後ろに立つ影が一つ。
「そうですね。先程魔理沙さんが突撃した騒動のときに、こっそりと。妖夢さんのおかげで面白い写真も取れましたし。賞品である取材をする権利というのはもういらないかもしれませんな」
「……まさか、あなたが従者として参加というわけ?」
「いやー、正確にいうと天狗社会では天魔様以外は全て従者扱いになるとは思うんですが。今日は付き人ですよ。ほら、私がここに居るということは大体察しはついているのでしょう?」
確かに、天狗の中で文と関係した従者といえば、一人しか思い浮かばない。
それに文が参加者であるのなら、待機部屋にいなかったとすぐに報告に戻ってくるはずなのだから。そして案の定。
「お嬢様、最後の参加者となります。犬走 椛さんです」
丁寧なノックの音の後で図書館に入ってきたのは、やはり狼のような尻尾と耳を持つ天狗。天狗の山の従順な従者ということで、咲夜に連れられてきたと言うわけだ。文はレミリアの背後から椛の隣に移動して、頭をくしゃくしゃと撫でる。
「というわけで面白みのない子が参加ということですな」
「え!? 面白さを求められてるんですか! 何も芸とかできないんですけど……」
「誰もそんなの求めてないわよ。それにあなたのような不器用そうな子に面白いことを求めてもねぇ」
「椛でもお手とか、おかわりくらいならできますよ?」
「あぁ~~、やぁ~~、さぁ~~、まぁ~~!!」
「おお、こわいこわい」
がるるるる……
っと、唸り声を上げて文を追い払う。と、それを見計らって咲夜の説明が始まった。本を運ぶだけ、という内容を聞いた椛は自身なさ気に尻尾を垂らす。
「やるだけやってみますけど、私のこと見ててもつまらないと思いますよ?」
「それはこちらが判断することで、あなたが判断することではない。あなたは精一杯パチェに協力することだけを考えて行動すればいいのだから」
「んー、わかりました、とりあえずやってみます」
盾と剣を咲夜に預け、椛はゆっくりと本を読むパチュリーのテーブルへと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
武器と防具、それを預けたのだから妙な行動はとらない。
そんな油断がレミリアにあったのかもしれない。
パチュリーに近づいた椛は、説明を受けたとおりメモを受け取る――振りをして。パチュリーの後ろに回りこみ、長い袖に隠していたナイフを首に押し当てる。椛とは思えない流れるような動きに一瞬見とれたその場の全員が反応すらできないうちに……
咲夜の首筋にはナイフが。
そしてレミリアの胸の前には、白木の杭を握る手があった。
何の違和感もない自然な動作で、咲夜ですら時間を止める猶予がない。
「おっと、能力を使いそうだと私が判断した瞬間、その首は体から離れることになります。それでもよろしければどうぞ」
油断していたとはいえ相手の本拠地で、しかも吸血鬼の根城である紅魔館でこのような暴挙にでるなど、誰が予想できたか。妖夢は浮き足立ち、小悪魔はあまりのことに気を失いかけている。
「何が望みだ?」
「あなたの血です。レミリアさん。その吸血鬼の身体能力の元である、血をいただきに。それを取り込めば天狗は鬼に脅えることなく山を支配することができますからね。まさかこうも簡単に行くとは」
「そう、そのために咲夜とパチュリーを抑えたか」
「ふふふ、そのとおり。さあ、覚悟してもらいましょうか、レミリア・スカーレット。天狗の策略、その身を持って味わいなさい!」
「……そのおしゃべりが、命取りだ、天狗」
けれど、それを簡単に許すレミリアではない。
吸血鬼の弱点である杭をわざと体へと、心臓ではない部分へと躊躇いなく押し込む。そのあまりの常識はずれな行動に文は完全に裏をかかれた。予想外の出来事に文の思考がわずかに遅れ、それが致命的な隙を生む。
無防備な腹部へと、吸血鬼の身体能力に魔力を乗せた蹴りを受けた文は、無理やり咲夜から引き離され。床を転がる。そのダメージが思いのほか大きかったのか。床の上を回転する勢いを利用して距離を取り、一旦空中へと逃げようとする、文。
がしっ
しかし、レミリアはそれを許さない。
蹴り飛ばした直後、羽で空気を打って文の身体を追い。
飛び上がるために広げられた、文の黒い羽を捕まえる。そしてそれを掴んだまま無理やり地面に叩きつけ、背中から馬乗りになった。
「あ、文様!!」
「椛、私のことはいいから早くその魔法使いを連れて逃げなさい!」
「さて、そこの犬にそれができるかな? 主の運命は私が握ったのだから。パチュリーを離して立ち去るもよし。お互い失うもよし。さぁ、好きな方を選べ」
そして、視線と視線がぶつかる中――紅魔館を掛けた争いが今――
「――なんて事は、ないわよね?」
「何故いきなりそんな波乱が発生するのやら……」
「だって、直前にあんなものを見せられてはね。少々手荒いことを考えてしまう」
妖夢の泥棒退治を間近で見せつけられ、気分が高揚してしまい。吸血鬼の残虐性が顔を出してしまった。一度血が滾ると異様に破壊衝動が強くなるフランドールと違い、レミリアはその吸血鬼としての本能を押さえ込むことができる。
しかし押さえられると言っても、思考が片寄ってしまうのはどうしようもない。久しぶりに霊夢と弾幕勝負でもしてみようか、そんな考えも浮かんでくるのだから。
「確かにあれは、華やかでした。『剣術』とは言いますが、技術はある一定まで高めると芸術に変わるという話ですし。あの手際は限りなく芸術に近い、それに比べたら椛は天と地。月とすっぽん。いや、比べるだけ失礼ですね」
「……聞こえてるんですけど」
「聞こえるように言ったもの、当然じゃない。誰かさんもそれぐらい精進してくれるといいんですけどねぇ。大将棋してる時間があるなら自分磨きをするとか」
「うう、文様の意地悪……そっちだって新聞なんて趣味やめればいいのに。良いお年なんですから、そろそろ嫁入り修行でも始めれば、そちらのお婆様もご安心に……」
ぼそり、椛がそうつぶやいた瞬間。
閉鎖的な図書館の中に、本を吹き散らすほどの風が、ごうっと巻き起こる。いきなり背から風を受けたことで前につんのめって倒れそうになる椛だったが、なんとか足の力で押さえ込みそれを耐えた。
けれど、掴もうとしていたパチュリーのメモはどこかに吹き飛んでしまう。
初手を妨害された椛は、眉を吊り上げたまま振り返ると。
「……なにか?」
天狗の扇を手に持ったまま、腕を組む文と椛の目が合った。
椛は、一度視線をパチュリーの方へ戻し、大きく深呼吸してから、てもう一度振り返る。
「文様、もしかして……聞こえてたり?」
「ん? なんのことです?」
「い、いえ、なんでもありませんので、気にしないでください」
言葉を詰まらせながら、答える椛は安堵の息をついて。本棚の奥へと飛んでいったメモを探しに行こうと一歩を踏み出し。
「そうね、行き送れかもしれないけど♪ 気にしないことにするわ、椛♪」
「…………きゅぅぅん、きゅぅぅん」
踏み出した方向をあっさりと変え。
近場の本棚の陰に隠れ、高い声を出して許して欲しいと訴える。
身を隠した本棚がカタカタと小さく揺れているのは、おそらく椛がおもいっきりそれを掴んでいるから。
そうやって隠れつづける椛に、文は顔に営業スマイルを貼り付けたまま静かに告げる。
「ほら、椛。ちゃんと与えられた仕事はこなさないと、パチュリーさんのご迷惑でしょう? 今はそれに集中すること」
「あ、は、はい! もうしわけありません!」
「……それと、後で、滝の裏まで来るように♪」
「はぁぃ……」
元気のない返事を返し、足取り重く本棚の方へと消えていく。
そんな二人のやり取りを見ていたレミリアは、ふむふむ、と納得し。
「絶対的に上の立場である者による圧迫、か。紅魔館ではこういう緊張感が足りないのかしら」
「そうでしょうか、私はレミリアお嬢様の威厳を感じないときはありませんが」
「あら、咲夜からの言葉なら素直に受け取っておこうかしら」
「はい、そうしてくださると光栄です」
そう、今更紅魔館の方針を変えたところで妖精メイドたちが今以上の仕事をするわけでもないし、咲夜がいればなんとかなるのだから。レミリアは誉め言葉を素直に受け取り、気分良く紅茶を口に運ぶ。
そうしている間にも無事メモを探し出した椛が、パチュリーに本を手渡し。その場で新しいメモが出るのを待っていた。
「しかし、やはり椛は遊びがないですねぇ、真面目というかなんというか」
「そうね、真面目さでいうなら咲夜や妖夢に近い。業務に真面目というのは好感が持てるのだけれど」
メモを受け取ると、本棚の方へと駆け出し。
見つけて戻ると、パチュリーのすぐ後ろに立って終わったとアピール。
「うふふ、あんなぴったり後ろに立たれたら、パチェが落ち着いて読めないというのがわからないのかしら。真面目ゆえに盲目ってところかな、ねぇ、小悪魔?」
そういう相手の悪い部分を見つけたら、すぐ指摘し自分の方が優れていると騒ぎ出すはず。そう思ったレミリアがわざと小悪魔に話のネタを提供するが。
彼女は真剣な表情をしたまま、無言で椛の動きを追っていた。
その間にも、椛は新しいメモを受け取り、その場から素早く飛び上がる。高い位置から図書館を見渡し、目標まで一直線に急降下。本棚の影に消えたかと思うと、瞬く間にパチュリーの背後へと移動し、そしてメモが出てくるのを待つ。
そこでレミリアも気が付いた。
何故小悪魔がこんなにも集中して椛の動きを追っているかが。
「なんで、どうしてっ!」
それ瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれている理由が、やっとわかった。今までの二人はパチュリーが読み終える前に新しい本を準備できないことがあったのに、椛にはそれがない。むしろ余裕で戻ってきている。
躊躇なく正確に求められている一冊を手に入れ、持って来る。
「ね? だから最初にいったでしょう? 遊びがないって。早く持ってくるだけなら、あの子には簡単すぎるんですよ」
白狼天狗は山の見張り役。怪しいものを即座に発見しなければいけないため、足が速いだけでは務まらない。目の良さや、上司に報告するための瞬間的な記憶力も必要になる。
そんな業務を常にこなしている椛にとって、動かない本を探すのはあまりに単純。
「だって、いろんな言語が背表紙に書かれているのに……」
しかし、小悪魔は納得できない。
千里を見通すというその能力と、天狗という速さはわかるとしても。背表紙でまったく迷わずに持ってこられるのが、理解できなかった。
しかし隣に座る文は、さも当然と言うように椛の動きを瞳で追い続け。
「白狼天狗は、不審者を見つければその外見を手早く、簡潔に、上司である大天狗に伝えます。椛の場合は、私が仲介することがありますが、その構造は基本的に同じ。その際、不審者の顔が毎回同じなんてことはありえませんから……もう、おわかりですね?」
そう、椛は文字の意味を理解しているのではなく、形だけを暗記し、それに一番近いものを持って行っているのだ。だから言葉の意味で迷うことなど最初からない。さらに目が異常に良いため本に近づかなくても確認作業が行える。それで時間を大幅に削減でき、簡単に本を準備できているというわけだ。
そのまま、なんの危なげもなく十冊を運び終えた椛は……
「じゃあ、椛とちょっとだけお話しがあるので、妖怪の山に戻らせていただきますね」
「た、助け、誰か助けてぇぇっ!」
笑顔の文に抱えられ、仲良さそうにじゃれ合いながら妖怪の山へと戻っていったのだった。
そんな明るい声が小さくなっていく中で……
テーブルに無言で突っ伏す小悪魔が、重い空気を背負っていたという。
◇ ◇ ◇
「あんなのむりですよぉぉっ! かてるわけないですよぉっ!」
「だ、大丈夫です。きっといつもどおりやれば、大丈夫」
「……だって、いつもはパチュリー様、ほとんど指示なさらないし」
椛の動きに打ちひしがれて、居酒屋で駄々をこねる客のようにテーブルから動こうとしない。妖夢に慰められてもまるっきり動こうとせず、服の袖を涙で濡らすだけ。
「妖夢さんは、良いですよ。泥棒を捕まえられるんですから。私なんて、泥棒撃退も駄目、一般業務で天狗以下、もう解雇確定じゃないですか!」
「おやおや、この程度のことで諦めるなんて、あなたの執念はその程度ということね。やはり試してみて正解。私の紅魔館にこんな負け犬根性の塊なんていらないもの」
「レミリアさん、いくら主でも同じ屋敷の中で暮らす仲間にそのようなっ!」
突き放すような言い方に、妖夢がバンッとテーブルを叩いて抗議する。同じ従者として共感できる部分もあったからか、今の一言が許せなかったようだ。しかしそんな彼女の気持ちを受けても……
「いいんです。私が悪いんですから」
どうしても、椛の動きに勝てるイメージが湧かないのか。力無く妖夢の方に手を置くと左右に首を振った。けれど、小悪魔に同情の念を抱いているのは妖夢だけではない。同じ従者という立場が、ここにもう一人いるのだから。
「お嬢様、やはりこれは種族を限定して、再度行うべきでは……」
それに彼女は、これに参加する従者を選んだ。詳細を知らずただ言われるままに行動したのには間違いない。けれど、もし自分が気を利かせて能力の低い者を選んでいれば、そう苦悩し、自責の念に駆られてしまっているのだろう。
「責任を感じることはないわ、咲夜。あなたは私の『従者を連れてくるように』という命令に従っただけ。あの椛という白狼天狗を従者だと見て連れてくるのは、何の過失もないのだから。責があるとすれば、それは全てこの私――レミリア・スカーレットにある」
恨むなら、私を恨みなさい。
自分の胸に軽く手を添えるレミリアの姿はそう訴えていた。納得できないなら悪魔らしく力で証明してみなさい、と。妖しく輝く紅の瞳を向けられ、小悪魔は思わず目を背けてしまう。
「少し。パチュリー様とお話をさせてくれませんか?」
そのときどんな気持ちで小悪魔がそう言ったのか、レミリアにはわからない。
でもこんなに弱々しい姿を見たのは初めてだった。
だからわかってしまう。
今から小悪魔は、謝りにいくのだろう。
天狗の動きに絶対勝てないから、司書を退任しないといけない。
それを告げにいこうとしているのだ、と。
「ええ、気の済むまでやりなさい。願わくば、あなたに悔いが残らぬことを」
反対の声はない。
ただ、立ち上がろうとする小悪魔の腕を撫でるように、妖夢が引きとめようとしたのを彼女は軽く振り払い。
愛しい主の下の前へと、立った。
◇ ◇ ◇
「……パチュリー様読書中に失礼します」
「うん」
「あの、先ほどの天狗や妖夢さんから比べたら、私ってやっぱり、足が遅かったりしますよね?」
「うん」
「運動神経も、ないですよね」
「うん、すぐ転ぶしね」
「あはは、そういえば……最初の頃はいくつも本を破損させちゃいましたっけ」
「ええ、空を飛んで移動した方が安全だと言うのに歩くから」
「だって、私、歩く方が好きですから」
「飛んだ方が、速いのにね」
「だって、もし飛んだときの勢いで埃が立ったら、パチュリー様大変です」
「大丈夫よ、死ぬほど苦しいだけで、死なないから」
「それは、大丈夫じゃないと思いますよ」
「そう、じゃあ私の感性が多少ずれているのね。でも魔法使いとしてはそれを喜ぶべきかしら」
「ええ、パチュリー様は立派な魔法使いですから。ほら、天才と呼ばれる人は普通の人と考え方が違うともいいますし、きっと本来パチュリー様のお世話をするのも優れた一面を持つ者が適しているのでしょう。
器用で手際が良くて、どんなものからもお守りできる強さを持つ。そんな特別な子が必要なのでしょうね」
「…………」
「で、ですから、ほら良く転ぶどんくさい子も……いくら飛べと行っても飛ばない物分りの悪い子も……いりませんよね?」
「…………」
「あの魔法使いすら追い払えない、悪魔なんて名ばかりの……そんな駄目な子なんて……」
「こぁ、あなたに問うわ。私が本当に天才だと思う?」
「……ぇ? は、はいっ!」
「馬鹿だと思ったことはない?」
「もちろんです!」
「その言葉に偽りはない?」
「はい、この命に賭けて!」
「なら、自分で考えなさい、こぁ。あなたの言う天才である私が、あなたが言う無能な悪魔と何十年も共に過ごすと思うの?」
「……え?」
「あなたの言う、天才だという魔法使いが。使い魔として無能な悪魔を召還したのが、最初から失敗だと? その出会いをすべて否定すると?」
「…………そんな……ことは」
「そう、そんなことはない。その魔法使いは、自分の意志で選んだ。彼女がいい、と。彼女しかいない、そう思って契約したの。確かに外見は頼りない。そうそう強力な悪魔ではないかもしれないけれど、私が、このパチュリー・ノーレッジが選んだのよ」
「パチュリー様……」
「こぁ、誇りなさい。自分の名を名乗れないなら、私の名で。魔法使いパチュリー・ノーレッジの使い魔であることを。今はその名を笑う人がいるかもしれないけれど、私が連れて行ってあげるから。誰も手の届かない知識の高みまで、共に」
「はぃ…… はいっ! パチュリー様!」
「……うん、いい返事。なら、やることはわかるわね」
「はい、わかりますとも! わかったら、ちょっとムカっとしてきましたし!」
「レミィや私に対して?」
「いえ、この程度のことで立ち止まっていたさっきの私自信に」
「なら見せ付けてあげなさい。いつものあなた自身を」
「それがパチュリー様のお望みですか?」
「ええ、そうよ。私の使い魔の凄さを示す必要があるでしょう?」
「ならばっ! 不肖この小悪魔。一瞬で勝負を決めて見せますっ!」
◇ ◇ ◇
「暗かった小悪魔さんがあんな笑顔に、あれが主従の絆というものなのでしょうか」
「あの二人の場合は、無言で分かり合うというより。言葉で意識を確かめ合う方があっているからね。面倒な性分だ、本当に」
「それでも、お嬢様はあの二人のそんなところがお好きなのでしょう?」
「ふふ、言うまでもない」
咲夜と妖夢の二人と会話を楽しんでいると。
「お嬢様ぁっ! 私やっぱりやります! やってみます!」
小悪魔から参加希望の声が上がる。それを受けたレミリアは、くすっと珍しく息を漏らして笑い、快諾した。そもそも誰のためにやったことなのかを忘れているのではないだろうか。パチュリーの横でやる気満々に準備運動を始めているところからして、頭からすっかり抜け落ちているのかもしれない。
「そういえば小悪魔さんの身体能力ってどれほどなのでしょう? やはり悪魔ですので基礎的な地力は私より上でしょうか。それとも幽々子様のように普段は人間とあまりかわらないとか?」
「人間よりはましな程度かな。鍛錬を積んだ人間なら純粋な力だけでも十分渡り合える。咲夜でもなんとかなるんじゃない?」
「いえ、少なくとも私よりは上かと。先日食料の運び入れを手伝ってもらった際は、私がやっと持ち上げられる重さの荷物を軽々と運んでおりましたし」
「そう、じゃあ私が考えるより力持ちということか」
「レミリアお嬢様をお姫差抱っこする耐久レースがあれば、鬼にすら負ける気はしませんが?」
「……そんなレースが開かれないことを切に願うわ」
おどけた台詞を繰り返しても、咲夜の瞳は静かに小悪魔へと向けられていた。
同じ紅魔館の従者として、感じることがあるのだろう。
けれど油断なく真一文字に結ばれた口元から感じ取れるのは、不安、心配。人間よりも身体能力は高いといっても、椛や鈴仙ほどではないと理解してしまっている。
故に何か一つ、必要なのだ。
妖夢のように書籍泥棒を追い払える力、というような付帯的な要素が。
それがなければ、本を運ぶ要素だけで小悪魔が勝利を収めることなど不可能だと、咲夜は推測する。そして結論を導き出した彼女は、チラリっと手の中にある懐中時計に目をやろうとする。
しかし手元を見ようとしたその瞬間、咲夜の視線と、それを見上げるレミリアの視線がぶつかった。
しばらくお互いの瞳と瞳を見つめ合う中、レミリアはうっすらと笑みを浮かべる。
まるで彼女の心を読み取ってしまったかのように。
「咲夜、時を止めての助力はなし。わかるわね?」
「……もちろんでございます。私がそのようなことをするとでも?」
「ええ、私の知っている咲夜なら十分可能性があると思うのだけれど」
「お戯れを……」
けれど、それをレミリアは許さない。
下手な干渉をされては困るから。
やっと自分を取り戻した小悪魔が、どうやって本を持ってくるか。パチュリーの親友であるレミリアだけが理解していた。
「咲夜、あなたが図書館へ立ち寄ったとき、小悪魔が忙しそうに走り回っているのを見たことがあるかしら?」
「いえ……紅茶を入れていたり、本を整理していたり」
「そうよ、それが答え」
主人の謎掛けに咲夜が頭の上に疑問符を浮かべる。そんなやり取りをしているうちに、とうとう小悪魔が動いた。
ゆっくりと亀のような、さきほどの椛と比べようもない速度で本棚へと歩いていく。
しかもメモすら受け取っていないというのに。
緊張のあまり、ルールを忘れてしまったのだろうか。
「あの、お嬢様、もし、本当に他のものより劣ると判断した場合は……」
「当然追い出す。無能はいらないと言っているでしょう?」
パチュリーは顎に手を付いたまま、届かない本を待ち続けている。
落ち着いているのは、やはり自分の使い魔を信じているからか。
それとも諦めきっているからか。
この場で慌てているのは――胸の前で手を組み、心の中で応援する妖夢と。無関心を装いながら、レミリアの隙を伺い時と止めようとしている可愛らしいメイドだけ。
小悪魔が、犬走椛に勝てる見込みはない。
咲夜と妖夢はそう思っているから。
なんとか救いたいと思っているようだが、それは違う。
レミリアからしてみれば、前の参加者たちの方が不十分。
圧倒的に足りない。
魔法使いという、ほとんど睡眠を取らなくても良いパチュリーと丸一日を過ごさないといけないのに、あれでは本を運ぶことだけで一日が終わってしまう。しかし当然その間に図書館の掃除や本の整理は必須。パチュリーに不満を与えず、その上で本を運ぶ以外の動作を行うには、一体どうすればいいか。
答えは簡単。
子供でもわかる。
どさりっ
パチュリーのいるテーブルのところから、重々しい音が響いた瞬間。
「えっ!?」
「えっ!?」
重い音に続き、咲夜と妖夢の驚きの声が静寂を打ち破った。
まったく想像していなかった映像に咲夜は続く言葉も浮かんでこない。
どう反応するべきか、それを頭の中で探り……
やっと思い出した。
咲夜自身が最初のルール説明で何と言っていたか。
『すでにテーブルの上に読みたい本があった場合、それで一冊分の成功とする』と。
説明するルールの中にそう記載してあるから、読み上げただけ。
膨大な、何万、何十万という単位で保管される本の中から、読みたい10冊だけを持ってくる。そんなルールの中で、偶然や奇跡でもなければ起こりえないこと。
だから誰もその条件を利用する参加者なんていない。
あの奇跡を操れる、常識はずれの守矢の巫女くらいでなければ。
「えぇっとぉ。とりあえず20冊ほど持ってきてみたんですが。読みたい本何冊あります?」
「そうね、これと、これ、ああこの2冊もいらないから。16冊かしら」
「あら……4冊もいらないのが混ざっちゃいましたね」
「駄目ね、いくら緊張しているからといっても誤差は一割程度じゃないと。二割だなんて」
そう、一冊持ってくる速度で間に合わないなら。
読みたい本を一気に持ってきてやればいい。
あの重い音は、小悪魔が両手に抱えていた本を一気に置いた音。
その20冊の本を何の感慨もなく見上げ、パチュリーはいらない本を指差した。すると小悪魔は山の中から器用にそれを引き抜き。パチュリーが読みたい順番に本を並べる。
その数は、パチュリーの言葉どおり『16』。
10冊という目標などまるで眼中にないように。
あっさりと目的を達成した小悪魔は、ぺこり、とレミリアに一礼してから、図書館の業務を続ける。その背中はまるで。
『これで文句ないでしょう?』
そうやってレミリアに訴えているようだった。
悪魔らしく実力で示してやった。
これで満足か、と。
それを見守りながら、レミリアは席を立つ。
「咲夜、お客様をお見送りなさい」
状況を把握できず、おろおろする妖夢を咲夜に任せ、レミリアはゆっくりと図書館を後にした。
◇ ◇ ◇
コツコツコツ……
廊下を進む、小さな足音。
そんな可愛らしい音に、同じ歩幅の音が不意に重なる。
急に現れたその気配に驚くことなく、レミリアは片目を閉じて肩を竦めた。
「――理解したかしら、咲夜。確かに、一冊一冊持ってこないといけない勝負なら、圧倒的な大差であの子は敗れていた。けれど、小悪魔はね、何十年もパチェと一緒に暮らしているの。直前にパチェが読んだ本さえわかれば、次に何が欲しいか、それが大体わかるのよ」
「本の内容を覚えて、繋がる内容の本を探すということでしょうか」
「半分正解ね。あの子は本の内容だけでなく、パターンを覚えているのよ。この本を選んだ流れなら次はこれ、次はこれ。というようにね。一見、まるで法則性のないパチェ好みの順序を暗記してしまっている」
咲夜にとって信じられないことだった。
人間が一生を終える程度の時間を、すべてパチュリーの本選びのための知識として活用してきたというのだから。他人がくだらないと思えるようなことを誇りを持って繰り返し、誰にも真似できないことを平然とやってのけている。
本来なら、そんな特技を持つ仲間を称えるべきなのだろうが。
「……それは、羨ましい事ですわ」
咲夜は思わず嫉妬してしまう。
それほどの時間を自分が重ねられないとわかっているから。
妖怪から見れば本当にちっぽけな、有限な時間しか持たない自分が。主の一挙手一投足まで先を読んで行動出来るようになる頃には、きっと……
寿命という二文字が、目の前にぶら下げられているはずだから。
「お嬢様は、それをお分かりになっていたからこそ、策を使って小悪魔の想いを確かめさせたのですね。勝負だというのに最初から小悪魔を部屋に入れっぱなしにしたのは、パチュリー様が読む本の順番を見せるため。少しでも勝率を上げさせるために」
「本を運ぶ、という単純な仕事に見えて大変だからね。それを一人でやっているということに自信を持たせる意味もあるし。色恋で職務怠慢にならないよう、テコ入れをした意味もある。そして何より大切なものは――」
「お嬢様が楽しめること、ですわ」
「そう、わかっているじゃない。さすが私の従者ね」
自分のために完璧であろうという咲夜が、種族の壁で苦悩していること。
レミリアはそれを痛いほど知っている。
知っていうからこそ、彼女はそれを口にしない。
その一線が、どれだけ重いか知っているから。
今はこの心地よい日々を重ねるだけ。
「一見無駄に見えるかもしれないけれど、楽しいということはとても重要なことよ、咲夜。私たち妖怪は心に引きずられるから。この場所に存在したいという意思に繋がる事は、とても有意義なこと」
「一日でもお嬢様がそう思えるよう、お世話をさせていただく所存です」
親しい仲でも、一線を越えてはいけない。
それを越えてしまえばもう。
従者として。
主として。
それだけでは足りなくなってしまうから。
「咲夜。そういえば私に対して尊敬の念を抱くと言っていたけれど、例えばどんなときかしら?」
「常に、という答えが不満でしたら……そうですね。どんな強大な敵の前に立っても、色褪せすることのない高貴さ」
「……それから?」
「幼い外見ながらも、人を惹き付ける魅力。厳しさと遊び心を併せ持ち、私たちを大切に思ってくださるところ」
「当然ね」
「それに……」
「それに?」
「着替えるときに羽を消し忘れたままシャツを着ようとして四苦八苦するところや、鏡に映らない自分の姿が決して幼児体系ではないと思い込もうとするお姿、それにあの安らかな寝息を立てる中で、妹様の名を呼ぶときのあのお顔、ああ、今思い出しても威厳に溢れ過ぎております」
「……とりあえず、鼻から溢れ出た赤い液体を止めなさい」
間違っても、この癖が治らない限りは、一線を越えることはなさそうだ。
鼻から溢れでる忠誠心が多すぎる気もしますが。
最後の空は不意打ち過ぎたw
だが、紅魔館の従者達は色々自重すべきだw
椛の仕事ぶりも納得でした。欲を言えば地霊殿の二人のどたばた司書っぷりとか見てみたかったです。
地霊はお燐が、とも思いましたがパチュリーの顔色見たら死人と間違えて運んでいきそうですね。
これは良いぱちぇこぁ
まぁ小悪魔は可愛いから、それだけで傍に置いておくには十分だと思いますがねw
勢い重視でしたが読んでて楽しい作品でした。