Coolier - 新生・東方創想話

マヨヒガの平凡な一日・好きで一人でいるわけではない編

2010/01/05 23:17:59
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注意、この話には、名前のない個人設定のオリキャラ(?)が少しだけ登場します。
もしもそういった存在が苦手な方や嫌いな方はご注意ください。



















新年を向かえ、親友である西行寺幽々子に新年の挨拶をした後
スキマの大妖怪、八雲紫は春まで冬眠を行なう。

時間にして大体一月上旬から四月の中旬まで冬眠を行なうのだが
その間決して目を覚まさない訳ではない。
熊等の動物の様に食料を食い溜めて脂肪分を増やしているわけでもないので定期的に起きて
食事を行なったり、ずっと寝ているので身体が堅くならぬ様に定期的なマッサージを行う。

そして今日は食事を行なうために紫は目を覚ました。



――



「ん、ふわぁ、あぁ……」

欠伸と共に背伸びを行なう。
ずっと寝ていたため身体のあちこちからポキポキと骨の鳴る音がする。
今回はどれくらい寝ていただろう?
寒さからまだ春ではないと解っている。

お腹の減り具合から十日前後といったところだろうか。

今だ覚醒しきらない頭で大まかな自身の現状を紫は把握した。

「お腹空いた……」

藍はいるだろうか?
買出しや結界の確認に行っていなければいいのだが
思いながら紫は寝床から這い出して居間へ向かう。

寝室の障子を開けて見ると、外は一面銀世界だった。

「うー、寒い寒い」

そんな寒さを感じる長い廊下を身を抱きながら居間へと急ぐ
廊下を歩いている途中で居間の方から良い匂いがしてきた。
明るさから時間帯的には昼過ぎといったところか、丁度良い。
藍や橙もこれから昼食なのだろう。

一歩一歩居間に近づく程に賑やかな声が聞こえてくる。
藍の『コラ』とか『駄目だろ』といった声が聞こえてくる度に頬が緩む。
まったく自分が寝ている間に多少は変わっているだろうと期待していたが
橙にはまだ手を焼いているのだろう。
大体いつまでも藍は橙には甘いから手を焼くのだ、一度ピシッと叱るなりしなければ
いけない時だってあるのに親馬鹿と言うか何と言うか。

呆れるが、まぁ、そこが自分の式の可愛い所でもある。

さて、藍も橙も自分が起きて来た事に気が付いていない様だからちょっと驚かしてやろう。
ただ普通に登場したのでは面白くない。
この気の使い方が、式から慕われる立派なご主人様(自称)になるためのコツだ。
藍はそこがまだ解っていない。
真面目なだけでは駄目なのだ、ユーモアもなくてはいけない。

紫はスキマを展開するとスキマの中から大きな鬼の面を取り出す。
取り出した鬼の面、それはナマハゲの面である。
正月に親の言う事を聞かない悪い子を連れて行く鬼だ。

時期的には少しオーバーしてしまっているが、この時期に子供を驚かすならば
これほど打って付けの物もない。

紫はイソイソと面を被ると

「ご主人様の言う事を聞かねぇ、悪い式はいねぇがぁぁ~~~!!」

考えた文句を叫びながら勢いよく居間の障子を開けた。

「え?」

そして、居間にいる二人の『狐』を見て凍りついた。

「ふぇ?」

「……紫、様?」

片方は自分のよく知っている式である藍だ、だがもう片方を紫は知らない。
尻尾が三本で何と言うか、藍をそのまま小さくした様な外見をしていた。

「え?藍、誰その子?」

てっきり藍と橙がいると思っていた紫は見知らぬ子供に驚き
面を取るのも忘れて藍に説明を求めた。

「え?だ、誰って、私の娘に決まっているじゃないですか」

『何度も会ってるじゃないですか?』と言う藍の言葉が理解出来なかった。
それはもちろん藍の娘だと言う幼狐とは初対面だからである。

「え?」

だから紫の反応は至極当然なものであった。



――



藍はあの後ナマハゲの面にビックリして泣き出してしまった子狐をあやした。
そして泣き止んで眠った頃合を見て紫の食事の準備をテキパキと行なった。

「…………」

紫は呆然としながら出されたお雑煮を食べていた。
その間藍は自分の娘と言った幼狐を抱っこしながらコタツにあたっていた。

紫には何が何だか解らなかった。
目の前で仲良さそうに座っているのは確かに藍だ(小さいのは知藍)。
でも、自分の知る藍は子持ちではなかったはずだ。
主人を裏切って一人勝ち組になる様な薄情者ではなかったはずだ。

ならばと考える。
今だ姿を見ていない橙が怪しい。
例えば、自分が目を覚ましたのを藍は本当に気が付かかったのだろうか?
稀に暴走するが藍はかなり頭の良い出来た式だ。
その気になれば今までのデータと照らし合わせて自分が何時起きるのか大まかにだが
計算して予測する事も出来るはずだ。

つまりこれは藍と橙の悪戯だ。
自分を驚かせようとして二人がやっている事に決まっている!!
なかなか可愛い所がる。

紫はそう結論した。

「フ、フフフフ」

「紫様、どうかなさいましたか?」

突然笑い出した紫に藍は心配した様に声をかける。

白々しい。
フフフ、危うく騙されるところだった。
二人が何故こんな悪戯を思い付いたのかは知らないが、私を騙すなんて千年早い。

「藍?」

「はい?」

「そういえば橙は元気?」

「え?橙、ですか?」

橙の名が出て藍の雰囲気が変わったのを紫は見逃さない。

ほら見ろ、もうボロが出た。
甘いなぁ、まぁ、そこがやはり可愛い所でもあるな
紫がそう思っていると

ドタドタと走り音をさせながら

「藍さ、あ、紫様、起きていたんですね!」

「!?」

障子を開けて、『お腹の大きくなった橙』が現れた。

紫の思考は停止した。
誰だアレ?橙?
え?でも、あのお腹って……、え?ええ!?

「こら橙、お前ももう一人の身体ではないのだぞ、もう少し静かにしなさいと何時も言ってるだろう」

「まだ半年過ぎだから大丈夫ですよ、もう藍様は本当に心配性なんですから」

一人の身体ではない?
半年過ぎ?
二人の会話がまるで知らない呪文の様に感じた。
二人はいったい何を話しているのだろうか?

「ち、橙おはよう、貴女のそのお腹って……?」

「いやぁ、流石に半年過ぎると目立っちゃいますよね?でも本当に赤ちゃんがいるんだな
って実感が湧いて嬉しいですけど」

橙は照れた様に頭を掻いた。

その反応は紫を混乱させる。

赤ちゃんって、ええ!?
橙に赤ちゃんとかそれ犯罪じゃないの!?

「…………」

紫は何も言えず間抜けに口を開いていた。



――



その後藍や橙と何を話したのか紫は覚えていない。
他愛のない話だった気がする。
『ダンナが……』とか、『子供が生まれると……』、とか自分には全く解らない話をしていた気がする。
紫はその時の事を本当に何も覚えていなかった。

ただ気が付くと白玉楼に来ていた。

コレは悪夢だ。
忠実な式達がまさか主人を裏切って、勝ち組になるなんて、こんな事あっていいのか?
八雲の名で強い絆で結ばれていたのに(橙はまだだが)、こんなのってあんまりだ。

無意識にココに来たのも親友である幽々子ならばこの気持ちを解ってくれると思ったからだろう。
『あの食う事にしか興味のない女に色恋の話等ないはずだ』と思ったからだ。
程なくして紫の気配を感じたのか、幽々子のシルエットが障子の向こう側に透けて見えた。

「幽々子~~!!」

障子を開けて姿を見せた親友の名を呼びながら、抱きつこうとして紫は足を止めた。




――コイツも腹でけーーーーーーー!!!




「あら、紫どうしたの?貴女がこの時期に目を覚ましてるなんて珍しいわね」

「あ、あぁぁ」

「紫?どうしたの大丈夫?」

突然自分の姿を見て絶句している友人を心配して声をかける。
しかし、心配した友人から帰ってきたのは殺気のこもった魂の叫びだった。

「幽々子の裏切り者、不潔だわ!!」

「ちょっ、ちょっと何よいきなり、私達友達でしょ?落ち着いてよ、私は貴女を裏切ったりなんかしないわよ」

幽々子の焦った声に紫は少し冷静さを取り戻した。

「そ、そうねごめんなさい、ちょっとイロイロあったから混乱しちゃってた」

そうだ、よく考えろ、幽霊が子供をその身に宿せるわけ無いじゃないか。
どうせあれだよ、あのお腹はお節の食べすぎとかそんなオチに決まってるよ。
いつもポワポワしてて花より団子の幽々子に色恋沙汰的話がある訳が無いよ。
だから落ち着け、八雲紫、お前らしくも無い!

強く自分に言い聞かせて何とか思考を落ち着かせる。

「もう、何があったのよ悩みならいつでも相談にのってあげるわよ?」

「うん、ごめんなさい、友達を信じられないなんて最低だったわ
でも、しょうがなかったのよ聞いて幽々子、私の式達がね……」

雪の降る中、己の式の裏切り行為を話そうとする二人に声がかけられた。

「ちょっと、幽々子様何をしているのですか!?」

妖夢かと思い声のした方を見て紫は言葉を失った。

「え?」

そこにいたのは妖夢ではなかった。
見知らぬ少年だった。
それもどこか妖夢の祖父である妖忌の面影のある少年だった。

嫌な予感しかしない。

「ゆ、幽々子、あの子ってもしかして……?」

「そう、妖夢の子よ何度も会ってるでしょ?まったくもう、親に似て口煩くて参っちゃうわ」

『妖忌も口煩かったし、魂魄家の血ってああなのかしらね』
と言った幽々子の言葉は紫の頭に入っていなかった。
紫は大きくなっている幽々子の腹に釘付けになっていた。
もしかしたら……

「あの、幽々子……さん?」

「あ、こんにちは紫様、どうぞゆっくりしていってください、お茶の用意を直ぐいたしますので……
それにしてもまったく、幽々子様、何度も言ってるじゃないですが今の時期が母子母体とも
一番重要なのですよ?それなのにこんな寒空の下で話し込んでいては駄目ですよ!」

見た事もない少年が紫の疑問を解消してくれた。
でも本人の口から確認しておきたい。

「そのお腹ってもしかして」

「ええ……、幽霊でも子を宿せるのね、人体の神秘よね」

幽々子は頬を朱に染めて、愛おしそうにお腹を撫でて答えた。

「~~~~~~っ!!!」

その言葉に声にならない声を紫は出した。
もう誰も信じられなかった。

「紫?」

突然変な声をだした紫を心配して幽々子は声をかけるが

「ば……」

「『ば』?」

「ばーか!ばーか!幽々子の裏切り者!!うわぁーん!!」

涙を撒き散らしながらそんな捨て台詞を吐いて紫はスキマに消えた。
残された二人は訳がわからず呆然とした。



――



紫はもはや我を見失っていた。
何時の間に、自分の寝ている間に何があったの言うのか?
藍、橙、幽々子、妖夢、身近にいる者達に、今まで色恋沙汰の話などからっきしだった連中に
何故いきなり子供がいるのだ!?
そして何故自分だけにはいないのだ!?
これではまるで自分一人だけ……、そんな事考えたくなかった。
自分一人だけが『○○○○○』だとは思いたくなかった。

最後の期待を込めて紫は博麗神社に向かった
一人の方が気楽でいいとか考えてそうな霊夢の性格を考えれば、
ってかあんなオンボロ神社に婿に来る変わり者なんているわけがない。
だから彼女だけは、霊夢だけはきっと自分を裏切らないはずだ。
そう思っていた。

そして神社に着いた紫はまたも絶句する。

紫の知る博麗神社は、正月に参拝客なんていなくて、霊夢が一人で暇そうにお茶えお啜っているだけであった。
しかし、今その博麗神社には人がごった返していた。
とても神社の境内になんて近づけそうにもない程の人間で溢れていた。

「…………」

開いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろう。
あの寂れた神社に一体何があったと言うのだ?

間抜けにポカンと口を開けて神社を遠巻きに眺めていると知った声が後ろから聞こえた。

「……紫?」

「霊夢!?」

確認をするような言葉にとっさに振り向き、そして安堵した。
そこには紫のよく知る霊夢が立っていたからだ。
隣や後ろに知らない子供なんていない、もちろんお腹だって膨らんでいない。
記憶の中にある博麗霊夢がそこには立っていた。

「れ、霊夢~」

「うわ!?ちょっと何よいきなり抱きつかないでよ!」

紫は半泣きで霊夢に抱きついた。
よかった、霊夢は、霊夢だけは変わらずいてくれた。
彼女は自分と同じだった、彼女だけは裏切ってはいなかった。

紫は暫くの間人目も気にせずに霊夢に抱きついていた。



――



「まったく、いきなり抱きついてきて何なのよアンタは」

「ごめんなさい、貴女だけは私を裏切っていなかったから嬉しくてつい」

「?、さっきから何よソレ?」

人の多い所でいきなり抱きつかれたままでは外聞きが悪いので霊夢は堪らず
紫を神社内に案内した。
そして今の行動についての追求を行なっていたのだが先程からニコニコと笑って
『貴女だけは私を裏切らなかった』『大好き』『嬉しい』等としか言わず
まったく理由を答えなかった。

「それにしても、ごめんなさいね」

「何がよ?」

「だって、こんなに人がいて忙しそうな時に私に構ってたら参拝客の方が可哀相でしょ?
私はもう大丈夫だから霊夢は彼らの相手をしてきてあげて」

何があったか知らないが博麗神社に今は人が溢れている。
それはつまり神社にとっての稼ぎ時と言う事でもある。
そんな中で妖怪である自分ばかりを構って参拝客を蔑ろにしては評判も悪くなるだろうし
何より貴重な収入が減ってしまう。

紫は霊夢が皆の様に突然子持ちになっていない事を確認できただけでもう十分だった。

「私はまた日を改めてくるから、その時は『二人で一緒』にお酒でも呑みましょ?」

言って帰ろうとする紫を霊夢は止める。

「別に気にしなくても大丈夫よ、私以外にちゃんと働いてる子達はいるから」

その霊夢の言葉に、スキマを目の前に展開していた紫は動きを止める。
冷汗が背中を伝う。
嫌な寒気だ、嫌な予感と言い換えても言い。

「え?それはどういう……」

紫の言葉は最後まで発せられなかった。
何故なら突如背中の方にある障子が勢いよく開き

「お母様!私とお父様だけ働かせて何サボってるんですか!!?」

九歳くらいの霊夢によく似た見知らぬ少女が現れたからだ。

「あぁ、ちょっと違うのよ、私の友達が来てたから挨拶していたのよ」

「お友達?」

突如現れた少女は紫の方を見て止まる。

「(オカアサマ?オトウサマ?ジャア、コノコハモシカシナクトモ、レイムノ……)」

紫も信じられない物を見る様な目で固まっていた。

「な、何ですかこの馬鹿げた妖気は!?」

とっさに思考を取り戻し戦闘態勢に入る娘を霊夢は捕まえる。

「はいはい、殺気立たないの、貴女は初めて会うけど、この妖怪は私達と一緒に
博麗大結界の管理をしている妖怪なのよ」

少女は霊夢のその言葉に目をむく。

「で、ではこの方が、八雲紫様ですか!?」

「そうよ、貴女なんかじゃ逆立ちしたって勝てないんだから大人しくしてなさい」

八雲紫の名を聞いて少女は青ざめる。
自分は何て人(妖怪)に無礼を働いてしまったのか、と

そして紫も顔を青ざめている。
霊夢まで私を裏切ったのか、と

「ごめんね紫、この子まだ世間知らずだから許してあげてね?ほらアンタも謝りなさい」

「す、すみませんでした」

親子そろって頭を下げるがその姿や声は紫に伝わってはいなかった。

「……レ、レイム?」

「何?」

「この子は貴女の子なのね?」

「ええ、さっきこの子が言ったでしょ?」

「って事は夫もいるのね?」

「当たり前でしょ、神社にここまで人が来るようになったのはあの人のおかげだし
それに、女だけで子供が出来る様な聖人じゃないわよ私は」

唯一裏切り者ではないと思った存在すらも勝ち組と言う裏切り者だった。
その事実を紫は受け止める事が出来なかった。

「……うそ、……嘘よね?皆で私をからかってるのよね?
いきなり子供とか言われても信じないからね!!」

「ど、どうしたのよ紫?」

「だって貴女は絶対『一人の方が気楽だ』とか思ってるはずでしょ?それがいきなり何よ子供とか馬鹿じゃないの!?
私はそんな貴女絶対認めないわ!!」

「いや、アンタに認められなくても現実にいるんだからしょうがないじゃない?
それに確かに昔はそう思ってたけどさ、やっぱり何時までも一人ってのは、ねぇ?」

言いながら紫の発言に少し腹が立っていたのか霊夢は冷ややかな視線を紫に向ける。
そして、頭に血が上っている紫もその霊夢の発言と視線にさらに気持ちを高ぶらせる。

「な、何よその言い方、馬鹿にしてるの?馬鹿にしてるのね私の事!?」

二人のやり取りに霊夢の娘が思った事を口にする。

「え?お母様、紫様ってもしかしてまだ未婚なのですか?」

「ぐふぁっ!!」

それは紫の心を抉る一言だった。
無邪気な言葉だった分、紫が受けたダメージは計り知れない。

「ええ、そうなの、まぁ、妖怪だから寿命は長いし、結婚の価値観何て人それぞれだけど
貴女はあんな風になっちゃ駄目よ?」

ダメージを受けた紫を見ながら、霊夢は自分の娘の頭を撫でる。
そして

「いつまでも一人だとその内周りから、行き遅……」



――



「それ以上は言わないで!!!!」

紫は叫びながら飛び起きる。
寝汗が酷く、寝巻きが身体に張り付き不快だった。

飛び起きた紫は二度三度と辺りを見渡して今いるのが自分の寝室だと確認し
今のが夢であったのだと気付く。
まったく正月早々になんて夢を見てしまったんだ。

荒い息を整えながら、紫は今見た夢を反芻した。
よく考えればおかしな所だらけだった。
展開が急だったし、所々場面が欠けていた、藍の娘や妖夢の子は自分を知っていて
何度も出会っている様だったが自分の記憶には二人の姿はないし、この間幽々子の所に
挨拶にいったばかりだ、その時にだって見ていない。
そして何よりも霊夢の外見が今とまったく変わっていないのに
九歳くらいの娘がいる時点で気が付くべきだった。

「はぁ……」

紫は溜息をつくともうすっかり自分の気持ちが収まったのを感じた。
お腹も空いたし気持ちを切り替えて食事でもしよう、紫が寝床から起き上がろうとした時

「紫様、どうしました?」

外から藍の声が聞こえた。
多分自分の叫び声に驚いて駆けつけたのだろう。

「ああ、藍なんでもないわ、ごめんなさい」

「そうですか、あ、あとお食事の用意が出来ていますがいかがしますか?」

「……いただくわ」

ほらな、藍はやっぱり自分の起きて来る周期をある程度計算している。
彼女は自分が起きる事を忘れるような子ではない。
その事を確認して、さっきのは所詮夢だなと紫は思った。

「じゃあ、藍先に行って用意してもらっていいかしら?私はちょっと着替えてから行くわ」

安堵して、一先ず汗を吸って張り付く寝巻きを着替えようと考えた紫の耳に
『お待ちください』と言う藍の言葉が入る。

「どうしたの?」

「実は紹介したい奴がいます、入ってもよろしいでしょうか?」

「……紹介、いいわ入ってきなさい」

背中に冷たい汗を感じた、何故だか物凄く嫌な予感がした。

「では、失礼します」

言いながら藍は障子を開ける。
冷たい空気が室内に入ってくるが、背中に感じる冷たさはそれだけではない。
紫の勘はそう告げていた。

「ほら、出ておいで」

藍は優しい声で自分の背中の方に声をかけた。
藍の声が響いて数秒後、モジモジした感じで小さな尻尾が九本の尻尾の横に生える。
そして

「……ゆ、ゆかりさま、はじめまして」

幼い可愛らしい声でその幼弧は自分の名を呼んだ。
勘は当たった、藍の後ろから出てきたのは夢で見たのと同じ藍をそのまま小さくした様な幼弧だった。

「私の娘で名を『翠』と言います。もうずっと前に生まれてはいたのですが、最近になって
変化が出来るようになったので正式に紫様に紹介しようと思いまして……」

「…………」

紫は目を見開いて微動だにせず『翠』と紹介された幼弧を見つめていた。
一言も発さずに紫は信じられない物を見る目で見つめていた。

「……く、ぷ」

「ぷ、くす」

そして、その紫の姿に藍と翠の二人は思わず噴出してしまう。
その拍子に翠の身体が消え白い煙と共に橙が現れた。

「くははは、駄目じゃないか橙、笑って変化を解いてしまっては、これでは紫様は驚いてくれないぞ?」

「あははは、だ、だって藍様だって笑ってるじゃないですか?」

「すまんすまん、紫様の驚いた顔があまりにも面白くてな」

二人は腹を抱えて大笑いをつづける。

ちょっとしたドッキリのつもりだった。
藍の計算で紫の起きる時を大まかに計算して、橙の変化の術を使って驚かせる。
普段の紫ならまだしも、寝起きであれば橙の未熟な変化でも気が付かれないだろうと思い
二人で計画して実行してみたが、まさかここまで上手く騙されるとは思わなかった。

紫は先程から表情一つ変えず固まっている。
こんな紫の顔など早々見れるものではない。

「はー、はー……、紫様、いかがでしたか?橙の変化も中々上達したものでしょう?」

藍は笑いすぎで酸欠になりながら今だに固まったままの紫の肩をポンと叩く。
しかし、紫は固まったまま動かない。

「……アレ?」

その反応に藍は『やりすぎたかな?』と反省した。
自分達はちょっとした冗談のつもりでも主人はそう感じなかったかもしれない。

「あ、あの紫様?私達は軽い冗談のつもりでしたが、……不愉快でしたか?」

藍は心配そうに言葉を発したが紫はそれでもまったく動かない。
『それ程不愉快だったのだろうか?』と思い、いやと訂正する。
いくらなんでも紫はそこまで性格は悪く無い。
むしろこういった事を楽しむタイプのはずだ。

藍は異変を感じて紫の身体を揺らす。

「紫様、紫様!?」

何度か藍が紫の身体を揺すると、ツーっと無表情の紫の口から赤い線が延びてきた。
藍はその赤い線を不審に思い掬い取り、言葉を失った。

「げ……」

赤い線、それは紛れも無い紫の血であった。

「橙!!急いで紫様を竹林に運ぶぞ!!この人舌噛んでる!!!」

藍と橙のドッキリに対して紫がとった行動は、その言葉を信じられず、また夢だと思い
覚醒するために舌を噛むだった。

静かだったマヨヒガがいっきに慌ただしくなる。

しかし、これもまたマヨヒガの一日の一つにすぎない。
多少特殊であるが、平凡な一日でしかない。
新年一発目がコレか……、24度目です。

知藍(しらん)と幼弧(ようこ)は一応誤字ではないです、はい。
マヨヒガの平凡な一日、四作上げたいと意気込んでいたのですが秋の話が
どうしても思いつきませんでした。

ひとまずこれでマヨヒガシリーズは終りますが、マヨヒガはまた何か思い付いたら投稿しようと思うので
その時は見て頂けると幸いです。

そして、今回出てくる名前のない子供達
藍の子はきっと母親に似ず自由奔放で悪戯好き。
妖夢の子は母親似のクソ真面目。
霊夢の子は母親に似ず真面目、でもどっか抜けてる。
そんな勝手なイメージです、夢の中の存在って事で名前すらないですが(ぉ

最後に、紫様酷い扱いでごめんなさい、あ、間違えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今年も投稿し続けますのでよろしくお願いします。


1様
なるほど、なら夢の中ですから、よりありえない女同士の子供ってのもありかもしれませんね
となると、藍橙、幽々子妖夢、霊夢は早苗だろうか?
それはそれで面白いかもしれませんね?

8様
ありがとうございます、またそう言っていただける様に今年も
がんばろうと思います。

12様
その気持ち、物凄く解ります。

14様
ありがとうございます、本当はもうちょっと早く三日くらいには上げたかったのですが……
実際本当に一人や二人いても、ねぇ……?

17様
ではではまた次回もそう言っていただける様にがんばります!

24様
最近コメディ系ばかりなんでその内シリアスも書いてみようと思っています。
笑う角には福来る。笑ってください、幸せになってください。

26様
ただ知らぬのは主人のみ
私はペットとか飼っていないので知りませんが、
猫とかって放し飼いだと増えるらしいですね春とかに……

27様
きっと可愛いですよ、かなり、もう凄く可(ry
寝起きドッキリ程ビビルもんもないですよね?

30様
ありがとうございました。
……マジっすか?
え?ずっとマヨヒガで生活してるもんだと思ってました。
で、ではこれもほらオリ設定の一つって事でご勘弁を……

ぺ・四潤様
博麗の巫女はきっと無自覚どS
胃に穴が開く、成る程その考えはなかったですが、これなら確かに即効で穴開きそうですね?

37様
ありがとうございます。
今年はコメディ系だけでなくシリアスも面白いと言っていただける様に頑張ろうと思っています。

41様
流石の式も主人の夢の内容までは計算する事は出来なかった……
あー、やっぱりマヨヒガには住んでいないのですか
や、やはりここは、オリ設定って事で一つ……
くそぅ、何処に住んでんだスキマバ(※スキマに送られました

46様
ありがとうございます。
今年はもっとイロイロ書いてみようと思いますのでまた見てください。

ずわいがに様
私は悲劇より喜劇が好きなタイプですが、なるほど改めて考えてみると確かに紙一重ですね
ありがとうございます。このコメントはその事を気付かせてくれました。

コメントありがとうございました。
H2O
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コメント



0.1640簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
…なんだろう、夢落ちなのに不快感が残る。

ああ、俺が百合好きだからか…
8.90名前が無い程度の能力削除
面白かった
12.90名前が無い程度の能力削除
ちっさい藍を
愛でたい
14.90名前が無い程度の能力削除
オチが秀逸だwww
まあ、藍も橙も結構生きてるでしょうから実際にいても……ww
17.100名前が無い程度の能力削除
面白かった
24.100名前が無い程度の能力削除
いやー笑いました。面白かったです
26.100名前が無い程度の能力削除
教訓:実は結構うまいことやってるんです
ってかw
27.80名前が無い程度の能力削除
橙が化けた幼弧って……死ぬほど可愛いんでしょうね……。
夢見た後の寝起きって錯乱状態に近いから、この上ないリアリティを感じたんだろうなあw
30.100名前が無い程度の能力削除
すごい面白かったw
細かいことを言うと紫達が住んでるのはマヨヒガではないと思う。
32.90ぺ・四潤削除
「貴女はあんな風になっちゃ駄目よ?」
霊夢がトドメ刺したwwそんなの聞いたら紫様再起不能だろwww
口から血で胃に盛大な穴開けたまま魂抜けたのかと思ったww
37.90名前が無い程度の能力削除
面白かった
41.90名前が無い程度の能力削除
あんな夢見た後にこんな悪戯されると流石に堪えるかwwww
30番が言うように、たしか橙がマヨヒガ辺りに住んでいて、紫と藍は別の場所だった気がする。
何所かは知らないw
46.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
50.100ずわいがに削除
悲劇と喜劇は紙一重ww