Coolier - 新生・東方創想話

宵闇幻想草紙

2010/01/23 14:32:30
最終更新
サイズ
8.12KB
ページ数
1
閲覧数
1479
評価数
10/27
POINT
1230
Rate
8.96

分類タグ


 汲々とした書生生活を送っていた私にその知らせが届いたのは秋口の事だったと思う。おかげで私は久方ぶりにそういうモノが私にも居たことを思い出したのだ。
 その書状によると、父が鬼籍には入り私には古い貸家が一軒あてがわれたと、詰まる所そういう事であった。
 私の脳裏に今でも思い浮かぶその家。それは古くて暗くて陰気で嫌な建物だった。

  ◆  ◆  ◆

 その昔、私は医者になるというそれなりに立派な若さ故の志を胸に抱いていた。だがそれなりに知識を身に付け、初めて先生の後に付き無縁仏の腑分けに立ち会った時、その、仏の内側でくすんだ色をしている癖にてらてらとひかるそれをみて私は意識を手放してしまった。以来、どうもついでに志も何もかもを手放してしまったらしく、ただただ無気力に時をやり過ごす、そんな毎日を送るしかできなくなってしまった。幸いにして私の実家はそれなりに裕福であった為、そんな生き方でも口に糊して過ごす分には十分であった。知らせがあったのはそんな折だ。
 書状の案内に従い貸家を訪れてみると、それは古く、里の外れにあるとはいえ立派な一軒家だった。売るにしろ住むにしろまずは素性が知りたかったので、私はしばらくその家に棲みつく事に決めた。どうせ他に行く宛もないのだ。

 いざ衣食住が満たされていると成ると改めて働き口を探しに出る気も起きず、気晴らしに掃除がてら押し入れの奥を漁ってみる。それにしてもこの所肩が重い。この年で四十肩でもあるまいに、思うに運動不足が原因であろうか?
 漁った結果ちまりちまり出てくるのは女物の櫛やら鏡やら、それらはまるで意図的に置いていかれたようにも思えるものであった。そういえば私の父と言う人はまぁとにかく家に帰らない人で、と言うより、まぁ、帰る家の多い人であった事を思い出す。大方この家もそうした囲い者に与えた物であるのだろう。
 ただ、まぁその辺りでは流石に食い扶持には足らぬから、もそっと奥の方やら納戸の方やらを探ってみると、祥瑞の茶碗と春屋の墨跡に見えない事もない物が出て来た。これは良い。私は早速これらを適当な所へ持ち込んで今夜の飲み代にでも変えようと目論む。相変わらず肩が重いので物は持つことはせず、空手にて散歩がてら古道具屋を探しにふらりと外へ出た。

 さて、その辺の質屋では支払いに不安があるし、さりとて由緒正しい骨董屋ではこちらの質草の方が心もとない。どこか適当な書画骨董に詳しいふりをしている垢抜けない店はないものか。そこで私はその昔友人より仕入れた話をふと思い出した。
 何でも、あの人里では知らぬものは居ないと評される霧雨店、そこで長年の修行を重ねながら、わざわざ妖怪相手にも商売を行おうとする変わり者、そんな店主が構える古道具屋が森の外れにあるらしいのだと。なるほど、そのような酔狂な店ならばまさにうってつけではなかろうかと思いたった私は、森へと歩みを進める。

  ◆  ◆  ◆

 その古道具屋を遠来より眺めた時に私が抱いた疑問。それは「一体何の店だ」であった。店に入りきらないのか外にまで堆く積まれている何に使うかも判らぬがらくた達。そのがらくたに隠れかけた看板には『香霖堂』と流麗な筆捌きでしたためてある。一応この位置に掲げてあるからにはこれが屋号で良いのだろうか? 私が店に近づき訝しげな目つきで軒先を見つめていると

「何かお探しかな?」

 と、店内より歩み出て私に声を掛けてくる者があった。声の主を見れば年の頃は24、5といった所。しかしその身に纏う空気からは何か超然としたものを感じさせ、側に寄ればどこからか胡散の香りが漂ってくるようである、そんな優男であった。おそらくこの男がこの店の偏屈店主であるのだろう。

「よろしければ中へどうぞ」

 その言葉に導かれるままに戸を抜け中へと入ると、そこに広がるのは外の惨状もかくや、といった光景だった。店の至る所にてんでバラバラに放置されている商品達。それらは私がいくら思考を凝らしたとて何に使う道具かさえも判らぬようなものばかりで、ここがまるで人里とは遠く離れた異界のように感じさせる。
 そんな得体の知れぬ物達に取り囲まれた店主は、まぁ世間一般で言えば「美青年」と称されても良いような人物であった。ただ、ここらでは余りお目に掛かる事もない流れるような銀の髪、自ら変わり者だとでも主張したいのか和とも洋とも付かぬ複雑極まりない服装、若いながらもどこか妙に醒めているという相反するはずの存在を内包した落ち着いた佇まい、その整った顔立ちからはまるで人ならざるものの美しさが醸し出されているよう、といったそれらの要素が相まって、どこか底知れぬものを感じさせる。眼鏡に隠された金の眼には、覗き込めばこちらの魂を吸い込んでしまうのではないかという妖しさが漂っており、思わず私は彼と目を合わせる事を躊躇ってしまう。私が逸らした視線の置き場に戸惑っていると

「もし」

 と、その言葉と共に店主がその艶やかな指先をのばして私の顎先に触れてくる。ごく近い距離にて交錯する互いの視線。その金眼に見据えられ妙に高鳴る鼓動をどう考えるべきかと私が思っていると

「近眼ですね」
「は?」

 思っても見なかった言葉に思わず私は間抜けな声を上げてしまう。

「いや、店の前で見かけた時、眉間にしわ寄せて藪を睨んでいたのが気になりましてね」

 そういえば最近肩が凝ってしょうがないのであった。その事を店主に伝えると

「ああ、それは思いっきり重症ですね……そういえば丁度良い素材が手に入ったのですよ。どうです? この際に造ってみませんか? 眼鏡」

 なるほど、眼鏡か……この肩こりと始終付き合っていくのも癪である。これも何かの縁であるしそれも良いだろう。私が了承の旨を伝えると、店主は嬉々としてがらくたの山より様々な物を引っ張り出してきた。どうやら彼はこの店の一体どこに何があるかを逐一把握しているらしい。ますます以て妙な輩である。
 さて、準備が出来たらしく店主は私に語りかけてくる。

「この視力検査に使われる環はランドルト環と言ってですね……」

 しかしこの後彼が何を述べていたのかは私の記憶からは霧消してしまっている、と言うよりもあの店を訪れた事柄自体でさえ今では朧にしか思い出せないのだ。大方私の理解を超える話が繰り広げられた為、脳が憶える事を拒否してしまったのだろう。

  ◆  ◆  ◆

 ふと気付けば帰路の途についている私が居た。その時私の手元には確かに店で造ったと思われる証拠が有った為、どうやら狐狗狸の類に化かされたわけではないらしい。せっかくなのでとその眼鏡を着けてみると、今まで霞掛かっていた世界がやにわに広く見え、私は感動さえ覚えた。これは良い買い物をしたかもしれん。
 この眼鏡の一件で私はあの古道具屋へと質草を持ち込む事に決め、その晩は飲み歩く事もせず真っ直ぐに寝ぐらへと戻った。

 さて、ところが件の眼鏡のおかげかどうにも目が冴えてしまいすぎ眠れやしない。こうなると一人暮らしにこの家は広すぎる。帰り掛けに寝酒の一つでも買ってくるべきであったと私は軽く後悔した。
 どうしたものかと考えあぐねていると、私はふとレンズの端に『何か』が居るのを感じた。得体の知れぬ『何か』が。千々に乱れそうになる心を抑えながらそちらの方へ目を向けてみれば、そこに居るのは一人の女であった。これがただ迷い込んできた、あるいは泥棒だったとしても良い、女であれば話も違ったであろう。だが、月明かりに照らされながら、今にも消え入りそうな風体で佇む女は、一見してこの世の存在ではないと判るものであった。

「――。――」

 女はその口を動かし、しかし私の耳には全く届かない、何かを呟きながらこちらの方へじりじりと寄ってくる。次第に近付いてくる女を見詰めながら、私は何故か一歩も動けずにいた。頭の方は十二分にも回ってくれるのだが、そのくせ足の方は一向に回ろうとしないのだ。やがて女が私にその両の腕を伸ばしてくる、最早逃げられようにない状況に至って初めて私は気付いた。この女が呼んでいるのは私の『父』の名だと。
 私がこれまでかと観念したその時

「フムン、彼女が押しつけてきた素材は『人の情念が見える』との触れ込みだったが、なるほどこういう事か」

 何故かあの店主の声が私の耳へと飛び込んでくる。殆ど動かない目を何とかして声の方に向けて見れば、何時の間にやら障子を開け放ち家へと上がり込んで来た店主が立っている。月光を背に立つその姿は、昼間見た時と比べ幾倍も幻想的であった。それで私は、あぁこれが噂に聞いた人生を遡る走馬燈という奴か、それにしたって昼間に会った店主の事から思い返していたら最後までは一体どれだけ掛かるのだ、等とやけに暢気な事を考えてしまった。

「さて、すまないがお客さん。その眼鏡は返してもらえないだろうか。なに、代わりは店に来て頂ければすぐに造りますよ」

 店主は女などまるで眼中にないかのように私へと近付いて来た。そして彼は女と鏡写しにでもなったようにその両手を私に向けて延ばしてくる。果たしてこれは夢か現か……私の頭は既に思考する事を放棄しかけている。そして女のものとも店主のものとも判らぬ艶めかしい指が私の顔へと触れたその時、私はかつて志を失った時と同じように意識を手放した。

「ただこいつは……ちょっとばかり見えすぎたようだ」

 闇に落ちる刹那、そんな店主の声が聞こえた気がした……

  ◆  ◆  ◆

 これが、私があの家を嫌な建物と呼ぶに至った経緯だ。あの後私はすぐに家を出て別の場所に流れ着いた。父親の痴情の縺れに巻き込まれて被害を被るなどたまったものではない。げに恐ろしきは女の情念と言う事だろうか。
 あとこれは全くの余談なのだが、あれ以来私は新しい眼鏡を造ってはいない、と言うより造る気になれないのだ。何故なら人には分相応というものがある。余計なものを見なくて済むのならばそれに越した事はないのだ。何せ私はなんの力もないただの人間なのだから。
 お久しぶりの方、こんにちは。そうでない方には初めまして、鈴月です。今回の元ネタは八房龍之助さんの「宵闇眩燈草紙」から拝借しています。少女に振り回される霖之助を見る機会が多いので、誰かを振り回す霖之助も見てみたいと思い立ち執筆してみました。今回、漫画から文章を起こすに当たって「絵を文章にする」というのは思ったよりも大分難しいものなのだと実感しました。

追記:皆様貴重なご意見ありがとうございます。皆様の仰る通りキャラを入れ替えただけで話の展開自体が何ら変えなければ、それは『パクリ』に相違有りません。私の考えが幼稚すぎました。この拙作は明日には削除し、今度は私自身の作品を書き上げる努力を重ねたいと思います。皆様には不快な思いをさせてしまった事を重ね重ねお詫び申し上げます。

更に追記:皆様ご意見ありがとうございます。嫌だからと言って消すのは逃げ、それではなんの成長もない、皆様の仰る事は御尤もです。それらを真摯に受け止め考えた結果、拙作だからと言って消す事は取り止めにしようと思いました。前言を撤回するのは不実な態度と思われるでしょうが、この作品を皆様の言葉と共に置いておく事で自らの反省に繋がるようにしたいと思います。
鈴月
[email protected]
http://bellm00n.blog108.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.750簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
常識人ぶっている店主も、なるほど一般人から見れば、まったくもって怪しい奴ですね。
妖しい雰囲気と近代小説のような空間が非常によく出てて面白かったです。
ただ、惜しむらくは、読点の少なさによって若干読みづらい所が多々あったことでしょうか。
9.10名前が無い程度の能力削除
元ネタっていうか、ほぼ第一話まんまだよね、これ。
語り手とこーりんのからみに違和感が・・・
10.10名前が無い程度の能力削除
本当に「宵闇眩燈草紙」のエピソードの一つを文章に起こしてるだけ。
作者のオリジナル要素も全く無く何故こんなものを平気な顔をして投稿できるのかが判らない。

……タイトルで期待してたら真逆完全パクリだとは思いもよりませんでした。
12.10名前が無い程度の能力削除
これはダメでしょう、完全なパクリじゃないですか。セリフは原作通りで、地の文も原作通りで本当に文章に起こしただけ……パクリとパロディは別物ですよ?
13.無評価名前が無い程度の能力削除
展開がまんま云々の批評は、前の方々が散々仰っているので作者さんも理解できたと思います。よってここでは割愛。店主の外見を語る下りは確か原作に無い部分だと思うのですが、店主の妖しさが出ていて良かったと思います。ただ句読点の関係か読み辛くも感じました。
とりあえず作者さんがオリジナルを書けない人では無いのは、過去の投稿作を見ればわかります。ここは次回作に期待してます。
15.10名前が無い程度の能力削除
何故パクりなんてしたんでしょうねぇ
神経を疑いますよ。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
叩かれたから消すってのはどうなんでしょうね
嫌なことから逃げたいのはわかりますが、個人的に消して欲しくないです
上で書かれているコメントだって消えるわけですから
19.無評価名前が無い程度の能力削除
恥ずかしいからと言って消していたらなんの成長もないと思います
21.80名前が無い程度の能力削除
何故堂々としないんでしょうねぇ
情熱を疑いますよぉ
22.70名前が無い程度の能力削除
いいんでないかい。
23.100名前が無い程度の能力削除
作品の良し悪しに言及せず元ネタの有るか無しかで判断するのは、
本当に正しい評価と言えるのか。
批判の内の何人が便乗かは知りませんが、
もっと作品自体を評価するようにして欲しいです。
29.10名前が無い程度の能力削除
作品の善し悪しを語る以前に元のマンガからコピー&ペーストした作品なんか話にならんだろ。
30.100nop削除
いいね