Coolier - 新生・東方創想話

レミリアの宿題

2009/09/02 22:39:24
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「今年の夏も過ぎ去ろうとしている。それなのに、貴女たちのだらけきった様子は何!?」

 そんなレミリアの言葉に、その場に居合わせた一同は顔を見合わせる。
 ここは紅魔館の客室。紅魔館にたまたま数人の来客があったので、こうしてティータイムが開かれている。
 レミリアの言葉に対して、

 霧雨魔理沙は「また始まったよ、我儘吸血鬼の気まぐれが」、
 古明地さとりは「カリスマを自認するならもっと泰然とかまえているべきでは?」、
 鈴仙・優曇華院・イナバは「姫様や師匠に負けず劣らずの唐突ぶり……」、
 パチュリー・ノーレッジは「またレミィの病気が始まった」、
 射命丸文は「ネタになるなら何でもOKです!」
 十六夜咲夜は「お嬢様かわいいですわお嬢様」
 と小さく呟いた。

「そりゃ、ティータイムだしだらけもするぜ」

 魔理沙がやんわりと反論する。
 その瞳は濁りきっているようにレミリアには見えた。

「ティータイムが終わったら、そこのブン屋鴉に負けないぐらいのスピードで、真面目に魔法の研究でも始めるのかしら?」
「いや、それはないな」

 明るい笑顔で魔理沙は答える。
 レミリアは、それみたことかと言いたげな表情で魔理沙を見る。
 もちろん、そんなことで動じる魔理沙ではないわけだが――

「やはり、皆の気の緩みは、もはや看過することができないレベルね」

 レミリアは、額に手を当てて目を瞑りながら呟くと、次の瞬間には目をカッと見開く。
 背中の羽も勢いよく羽ばたき、一瞬レミリアの身体が浮かび上がる。
 そして、力強くレミリアは宣言した。

「この場にいる全員に夏休みの宿題を与えるわ!」

 場が静まりかえった。
 レミリアは、感動のあまり言葉を発することができない状態であると判断した。

「寺子屋に一子相伝で伝わると言われる伝説の修行――宿題。その修行をこなすことによって、初めて子供は大人へと成長できると言うわ。まさに成人の儀ね。当然、貴女たちは軽くこなせるはず」
「ちょ、ちょっと待てよ! 誰もやるなんて言ってないぜ?」

 魔理沙の言葉に咲夜をのぞく4人はうんうんと頷く。
 すると、レミリアはにやりと笑う。

「あら、魔理沙、逃げるの?」
「――な!?」
「弾幕はパワーだぜと威勢がいいことをいつも言っておいて、宿題からは敵前逃亡するとは。自慢のスピードは逃げ足の速さというわけね。へえ~、ふ~ん」
「な、なんだと!? この魔理沙さんが逃げるはずないじゃないか!」
「それじゃ、宿題なんて簡単にこなしてみせるわよね?」
「当り前だ! 何でもきやがれ!」
「人間の魔理沙がこうやって真正面から宿題と対峙するのだから、妖怪の貴女たちだって当然……よね?」

 一同は引きつった笑みを浮かべる。
 レミリアの言に無理があることは分かっていても、彼女たちのプライドが宿題から逃げることをよしとしない。
 4人の妖怪は、この場に居合わせた不運を嘆きながら宿題をやることになったのであった。

「あ……咲夜がいない。自分1人だけ逃げたわね……」

 咲夜がいないことに気づいたパチュリーはいずれ咲夜をギャフンと言わせようと心に誓った。



 こうして、『レミリアの宿題♪』が執り行われることになった。
 救いは、きちんと宿題をこなせば何かしらの見返りを与えるとレミリアが約束したことだ。
 要は退屈しのぎをしたかったのであろう。



1.霧雨魔理沙の場合

「魔理沙、貴女は魔女だというのにいつも研究するのはキノコばかり。他の菌類に見向きもしないのはバランスが悪いことこの上なし。貴女への宿題は、キノコ以外の菌類について研究してみること」

 それがレミリアの宿題であった。
 思っていたよりもまともな宿題であることに安堵したものの、いざ研究を始めようとすると手が止まってしまう。

「キノコ以外と言われてもなあ。カビとか酵母とか趣味じゃないぜ」

 酒好きのくせに酵母が趣味ではないとは何事だという菌たちの声が聞こえるわけもなく、魔理沙は延々と悩む。
 一応パチュリーから色々な菌類のサンプルと菌類に関する本を、拝み(マスパで)倒してもらってきたのだが……。

「ペニシリンねえ。どうにも薬は永遠亭の薬師の二番煎じのようで趣味じゃないなあ……」
「あー、魔理沙」
「粘菌が迷路を最短通路で解くねえ。地味すぎて性に合わないぜ。そもそも粘菌を菌類と言っていいものか……」
「魔理沙ー、魔理沙ーー、魔理沙ーーー」

 霖之助の声が魔理沙の思考を中断する。
 ここは香霖堂なので、店主である霖之助がいるのは至極当然のことだ。

「何だよ、こーりん、うるさいなあ……」
「店主の僕に何の断りもなく、カビをたくさん広げられても困るのだが」
「いいじゃん、私とお前の仲だろ?」
「こんな時だけ都合よく腐れ縁を持ち出されても困るのだが」
「まあまあ、かたいこと言うなよ~、こ~りん~」
「猫なで声でごまかそうとされても困るのだが」
「なんだよ! 万が一カビが乙女の住む家を蝕んだら困るだろ!」
「逆切れされても困るのだが」
「さっきから『困るのだが』ばっか、こーりんは『困るのだが』村の住人かよ!?」
「そうだ」
「わーお、即答」

 そんな漫才を繰り広げていたら、店に来客が現れる。

「霖之助ー、また何か外の世界のものを見せてー!」

 笑顔で登場したのは土着神の頂点、洩矢諏訪子だ。
 外の世界から来た諏訪子としては、外の世界の道具がわずかながらでも存在する香霖堂は郷愁を感じさせる場所なのだ。

「あ、諏訪子、足元に注意しないと危ないぜ」
「ケロ?」

 勢いよく店内に駆け込んできた諏訪子は、魔理沙の言葉に反応できず、魔理沙が床いっぱいに広げていた菌類コレクションを盛大にひっくり返してしまった。
 カビなどが一面に舞い、3人は思わず咳こむ。

「あっちゃあ、悪いことしちゃったねー」
「いや、別にパチュリーのだから私はいいんだが……って! おい、諏訪子! 何か変だぜ!?」
「あれ……何か身体が……きゅう……」

 魔理沙と霖之助が見守る中、諏訪子の全身にカビのようなものがたくさん生えてきて、ついには蛾の繭みたいになってしまった。
 しばらくの自失の後、慌てて諏訪子らしき繭状の物体を揺するが何の反応もない。
 霖之助は、魔理沙が先ほど見ていた菌類リストに目を走らせる。

「……魔理沙、たぶん、これじゃないか……?」
「なになに、カエルツボカビ? 両生類の感染症であるカエルツボカビ症の原因。致死率、実に90%以上……」

 一瞬、静寂が訪れる。

「なんじゃこりゃああああ!? やばい、やばいよ、諏訪子カエルだぜ?」
「自分でこれじゃないかと言っておいて何だが、馬鹿な! カエルとはいえ一応神のはずだ。まがりなりにも神がそんな感染症にかかるとは……」
「だって現に諏訪子ああなってるじゃん!」
「ここに書いてあるカエルツボカビ症の症状と全然違うぞ!?」
「神様だから症状が違うんだろ、たぶん!」
「と、とにかく、永遠亭の永琳さんに何とかしてもらおう!」
「お、おう、必殺技『助けてえーりん』だな!」



 永琳の適切な治療により、諏訪子は奇跡的に生還を果たした。
 魔理沙は『諏訪子ツボカビ症』というレポートをまとめ、レミリアに提出。
 「よくできた。ほめてやろう」というハンコを押してもらい、商品としてレミリア印のキノコ一カ月分をゲットしたという。



2.古明地さとりの場合

「さとり、貴女は相手の心が読めることを利用してカリスマ的言動をするのが羨ま……もとい、そういうのはカリスマの本分ではないわ。貴女への宿題は、心の読めない相手に的確な言葉を返すようになること」

 そして、さとりは『今夜も紅魔館が眠らせNight』というラジオ番組でることになった。
 河童の技術によりラジオが発明され、幻想郷の一部地域に放送が可能となっている。
 パチュリーの協力もあり、電波が届かないような場所にも魔力を込めたアイテムを媒介にして放送を届けることが可能であり、地底世界でもラジオ愛好者が少なからずいるという。
 ラジオでは視聴者からのハガキを扱うことがあり、それをさとりにやらせようという腹だ。文字から心を読むことはできない。

「ラジオの前の皆さん、『今夜も紅魔館が眠らせNight』始まりますよー。メインパーソナリティーは、いつもの通り小悪魔でーす」

 小悪魔が水を得た魚のように生き生きと喋っているのに対し、マイクの前に座っているさとりは所在なさげにしている。

「実はですねー、今日はスペシャルゲストをお招きしています。地底にある地霊殿のトップにして、あのジト目で見下されながらトラウマをつつかれまくりたいと一部マニアックな方々に大人気な、古明地さどりさんでーす!」
「いえ、さどりじゃなくてさとり……」
「さどりさん、こんばんは! 本日はよろしくお願いしまーす!」
「いや、だから、さどりじゃなくて……」
「それでは! 『今夜も紅魔館が眠らせNight』大人気コーナー、視聴者から寄せられた質問や悩みに私が答える『こあにお任せ♪』です。今日はスペシャルゲストのさどりさんに答えてもらおうと思います。名づけて『さどりんにお任せよ』! さどりさんに答えてもらうコーナーも後であるのでお楽しみにー♪」
「……#」
「それではさどりさん、ここに山と積まれたハガキから好きなものを選んでください!」

 さとりはハガキをわしっとつかむと、トランプのように華麗にシャッフルする。右手にあったハガキの束が、次々と左手に向かって飛んでいく。
 小悪魔は感嘆の眼差しで見ていただけなので、さとりが目の前を飛ぶハガキをまばたきもせず睨んでいたことに気づかなかった。
 そして、さとりは数枚のハガキを選ぶ。

「ラジオの前の皆さんにもぜひお見せしたかったです! さどりさんの華麗なシャッフルにより、ランダムに選ばれたハガキたち。さあ、気になる1枚目は!?」
「ラジオネーム、月月火水木金金の魔女さんからのおハガキです。『小悪魔さんの誰にも知られたくない失敗談が知りたーい』」
「えっとー、誰にも知られたくないという言葉がついている時点で、他の人に語るような……」
「『昨日、パチュリー様にお出ししたゼリエース、実は作るのに失敗しました。でも、見た目が似ている魔界ナメクジの肉をやけっぱちで出したら気づかれませんでした。チョロイもんです』」
「ああ!? 私の心が読まれましたー!?」

 驚愕する小悪魔。
 対して、さとりは黙々と自分の仕事を続ける。

「ラジオネーム、そこまでよ!さんからのおハガキです。『小悪魔さんの誰にも言えない恥ずかしい秘密が知りたーい』」
「ちょ!? ま、待ってください、さどりさん!?」
「『服を着る時、羽が邪魔になってあられもない格好で転ぶなんてことは絶対に知られないようにしないと』」
「き、きゃーっ!?」

 さどり、もとい、さとりはさらに続ける。

「ラジオネーム、紫キノコさんからのおハガキです。『小悪魔さんの弱点が知りたーい』」
「さどりさん! 勘弁してくださーい!!」
「『耳とうなじが弱点だなんてことを知られたら明日からどんな顔をして幻想郷を歩けばよいのやら』」
「CM! CMです!! CMの後はゲストの裏話を聞く『さどりさんの秘密』を……」
「CMはありません。続いてはラジオネーム、ラクトガールさんからの……」
「こ、こあ~~~っ!!??」



 後日、レミリアから「宿題の意図とは異なるけど、なかなか楽しめたわ。こんなことなら、あの時だけ小悪魔のかわりに霊夢をパーソナリティーにすべきだった……」と言われ、商品として『妹とパーフェクトコミュニケーションする666の方法』という本をゲットしたという。



3.射命丸文の場合

「『清く正しい』だけでは片手落ち。幻想郷一のブン屋を自称するならば、『清く正しく美しい』と言い切りなさい。貴女への宿題は、『清く正しく美しい』というイメージを定着させること」

 文は頭を抱えていた。
 いくら何でもハードルが高すぎやしないかと。
 そもそも、ブン屋と美しいがどう繋がるのか分からない。字面だけ見ると、まるで自分が美しいとアピールをしているようだ。
 自分の器量が悪いとは思っていないが、さすがに「美しい」と言い切るだけの厚かましさは持ち合わせていなかった。

「はあ、難題です……。しかし、すぐに諦めるのも私の沽券に関わりますし……」

 とりあえず、実演をしてみることにした。
 いつものようにカメラをぶらさげ、メモ帳を片手に元気よく!

「どうも! 清く正しく美しい射命丸です!」

 ヒュ~ッと風が吹いたような気がした。
 別に自分が風を操ったわけではない。しかし、場の雰囲気がそう感じさせたのだ。
 こんなことを言う姿を見られたら何を言われるか分かったものではない。悔しいが、この宿題は諦め……。

 気づいたら、犬走椛が大きい目をますます大きく見開いて文を見ていた。

「あ、文様……」
「も、椛? 違うんです、これは、いや、違わなくはないんですが……」
「文様!」
「は、はい!」

 椛は真剣な表情で文を見ている。
 感情のあまりか、握りしめる拳がぷるぷると震えている。
 可愛がっている白狼天狗から何を言われるのかと覚悟すると――

「そうです! 文様は美しいです!」
「ごめんなさい、調子に乗っているような台詞で、って、ええ!?」
「私は常々思っていました。なぜ文様は『清く正しい』でキャッチフレーズを止めてしまっているのだろうと。『清く正しく美しい』と言ってこそ真のキャッチフレーズだと! そして、文様はそのキャッチフレーズに相応しい方です!」
「あややや、私が……美しい?」
「はい!」

 一点の曇りもない瞳で椛は力強く返事した。

「文様は美しいです!」
「いや、でも、さすがにそこまで言い切るのはどうかと……」
「文様は美しいです!!」
「えー、でも……」
「文様は美しいです!!!」
「…………」
「文様は美しいですっ!!!!」
「……そっかー、私は美しいのですねー」
「そうです!!」
「分かりました、椛。私は高らかに宣言しましょう! 私は! 清く! 正しく! 美しい!! 射命丸文です!!!」
「文様美しいー!!!」

 そんな妙なテンションのまま、幻想郷最速を自認する文は、幻想郷中に最新の文々。新聞をばらまいた。
 一面記事の見出しは『清く正しく美しい射命丸です!』



 後日、この世の終わりのような表情をした文は、レミリアから「確かにイメージは定着したわね。清く正しく美しい(笑)射命丸と幻想郷中で評判とか。妬ましい」と言われ、激レア商品である『清く正しく美しい射命丸文』フィギュア(制作:アリス・マーガトロイド 参考資料提出:犬走椛 キャストオフ可)をゲットしたという。



4.鈴仙・優曇華院・イナバの場合

「兎たちのリーダーを務めながら、兎たちにロクに命令を聞いてもらえない指導力のなさ。貴女への宿題は、兎たちを自分の意のままに動かせるようになること」



「全体ー、整列!」

 鈴仙は目の前にずらっと並んだ兎たちを見回す。
 まだ人に変化することもできない兎が大半だ。兎たちが何を話しているかはわからないが、「面倒ー」「それより遊ぶ?」「遊ぼー」「草うめえ」「眠いー」といったところだろう。
 きちんと整列できていたのは1分に満たず、丸まって眠るもの、横になるもの、地面の草を食べるもの、とりあえずぴょんぴょん飛び跳ねてみるもの、などが入り乱れるようになる。

「お願いだから言うこと聞いてよ……」

 泣きそうになる。
 飴と鞭を使い分けることができればいいのだろうが、生来の性格で厳しく当たることがどうにもできない。
 軍隊のように守るべき規律というものがなく、基本的に自由な永遠亭。そんな兎たちをまとめるのは並大抵のことではない。
 それこそ、てゐのような大長老でもない限りは。

「師匠の薬を使うわけにもいかないし……」

 以前、師匠である永琳が、言うことを聞かない兎たち相手に苦労している鈴仙を見て、自爆以外ならどんな命令も聞くようになるという怪しい薬を持ってきたことがあるが、薬に頼るわけにはいかない。
 いっそのこと、イリュージョナリィブラストで辺りをなぎ払って自分の実力を見せつけるかとも思ったが、以前それをやったら「どうやったら目からビームが出せるようになるの?」と付きまとわれて難儀した記憶が蘇る。

 クイックイッ
 気づいたら、数匹の兎が、遊ぼうという表情で鈴仙の靴を鼻で押している。
 鈴仙はため息をつくと、少しでも兎たちと距離を近づけるために誘いに乗るのであった。

 ――プリズムリバー三姉妹宅

「もう! 少しは言うことを聞いてくれたっていいじゃない!」

 鈴仙はにんじんをかじりながら吐露する。

「そもそも、人語を理解できる兎自体少ないしー、所詮私は異端の月の兎だしー、てゐほど長生きしてないしー、耳だってくしゃってしてるしー」
「まあまあ、鈴仙の耳、私は好きよ?」
「ルナサ……」

 ひたすら愚痴を言う鈴仙をルナサが慰める。
 従者兼ペットとして色々気苦労を重ねる鈴仙は、こうしてルナサに慰めてもらうのを習慣にしている。

「無理してその宿題とやらをやることないんじゃない? どうせ、あの吸血鬼の気まぐれでしょ?」
「そりゃそうなんだけどさ。一応私にも面子ってものはあるし、これで諦めたら永遠亭の名を汚すことにもなるし。それが師匠にバレたらどんなお仕置きをされるやら……」

 ブルッと身を震わせる。
 面子も永遠亭の名もどうでもよく、永琳のお仕置きが心底怖いのが正解だろう。

「はあ……、どうしよう……」

 へこんでいる鈴仙を見て、ルナサは何とかしようと色々と考えてみる。
 だが、狡知に長けるリリカならともかく、どうにも思いつかない。とはいえ、鈴仙のために何かしたい。
 そして、ルナサは一つの結論に達した。

「音楽しかないわ」
「え?」
「音楽は幽霊、妖怪、人間、神、その他もろもろ、すべてに通じる共通言語よ。いい音楽があれば、兎たちも言うことを聞くに違いないわ」
「でも、私、楽器はピアニカぐらいしか……」
「歌よ」
「へ?」
「歌は世界を救うわ。歌で戦争が終結することすらあるというわ」



 こうして、鈴仙は歌で兎たちを統率することにした。
 幾日かのルナサとの特訓の末、今日が兎たちへのお披露目の日。
 ルナサは妹二人も演奏のために呼んでいる。自分だけが演奏すると、波長の影響を受けない鈴仙以外の兎たちが、欝の音色に影響されるからだ。

「ルナサ姉さんは、本当に鈴仙に甘いんだから……」
「はいはい、ぼやかない、リリカ。鈴仙の歌は今日初めて聞くことになるけど、場合によっては私たちプリズムリバー楽団の目玉の一つになるかもしれないわよ?」
「そーかなー?」

 リリカは姉を取られたようでいまだに鈴仙に対して敵愾心を抱いているが、鈴仙自体は嫌いではない。
 だからこそ、鈴仙のためという今日のイベントにも参加したのだが、どうにも素直に鈴仙を認めることができないでいる。
 そんなリリカを、ルナサやメルランは温かい目で見守る。それがまたリリカにとってはどうにも居心地悪い。

「二人とも、そろそろ始めるわよ。鈴仙、準備いい?」

 鈴仙の前には期待に満ちた目で見ている兎たちが大勢いる。
 鈴仙は一瞬気後れするが、しっかりと大地を踏みしめてマイクを取る。

「兎たち! 私の歌を聴けえ!」

 そして、プリズムリバーの演奏が響きだす。

「ひれ伏しなさい 永遠亭の兎たち
 ひれ伏しなさい 地べた這いつくばれ
 ひれ伏しなさい 地上の兎たち全て
 ひれ伏しなさい 玉兎の弾幕 くらえ」

 パクリかよ! と普段のリリカなら心の中でつっこんでいただろう。
 しかし、今のリリカにはそんな余裕がなかった。

「な、何よ、この歌……!?」
(歌声が多重に響いて、き、気持ち悪い……!?)←トランペット演奏中
『う、うさ~!?』
「素晴らしいわ、鈴仙……」

 気持よさげに歌う鈴仙は、リズムを取る時に無意識に波長をいじってしまっている。
 その結果として歌声の波が微妙にずれながら重なりあって多重に響いているのだ。
 始末が悪いことに、音の高低まで変わっているので、耳に届く歌はもはやカオス。
 鈴仙のすべてを肯定しているどっかのヴァイオリン騒霊以外はパニックだ。メルランとリリカは騒霊の意地にかけて演奏を続けているが、兎たちはもはや身じろぎひとつすらでいないほど精神にダメージを負っている。

「次は『突撃ウサハート』よ!」
『う、うさ~!?』

 悪夢の鈴仙ライブは2時間続き、兎たち全員失神という結末を迎えた。
 鈴仙は、自分の歌に心打たれて失神までするとはと感激し、兎たちも自分の歌を聴けばきっと言うことを聞いてくれるだろうと確信した。
 こうして、兎たちは鈴仙が歌いだす前にきちんと言うことを聞こうと心に決めるのであった。



 後日、レミリアの希望で、兎たちが言うことを聞くようになったと評判の鈴仙ライブを紅魔館で開くことになった。
 結果として、妖精メイドたちが気絶することとなった。
 ここで、あえて「貴女の歌はもはや凶器!」と忠告するのが役目かと思ったレミリアだったが、同席していたフランドールがやたら鈴仙の歌を気に入ってしまったため、引きつったような笑みを浮かべるしかないのであった。
 どのような形であれ宿題をこなしたということで、紅魔館の庭の一区画に鈴仙用の人参畑(管理:美鈴)をゲットしたのであった。



5.パチュリー・ノーレッジの場合

「いつも図書館で自分一人知識をためこむだけではよくないわ。その知識、他人のためにも使いなさい。貴女への宿題は、人里の寺子屋で幻想郷の未来を背負う子供たちに貴女の知識を授けること」

 本当はこのような面倒なことはしたくなかった。
 魔理沙たちのようにむきになる性分でもない。
 無視しようと思ったのだが、レミリアの泣きそうな表情を見て重い腰をあげることにした。レミリアには甘いのである。

「いやあ、まさか貴女が授業をしてくれることになるとは思いもしなかった。貴女の知識、ぜひ子供たちに伝えてやってほしい」

 上白沢慧音は上機嫌だった。
 寺子屋はほぼ慧音一人が切り盛りしているので、授業がどうしてもワンパターンになるのが問題だ。授業中、寝る子供が出てくるのも当然だと常に心を痛めていたのだ。
 知識の魔女と呼ばれるぐらいなのだから、どのような知識が披露されるのか。悪魔の館に住む魔女が授業をするという情報で、子供たちは大興奮だ。そして、子供だけでなく慧音もわくわくしてしまう。
 パチュリーの邪魔にならないよう、ドアの向こうで授業を聞くことにするのであった。

「本日、授業をすることになったパチュリー・ノーレッジよ……」

 パチュリーの声は小さく聞き取りづらい。
 子供たちは、パチュリーの話す言葉を聞き洩らすまいと身を乗り出すように聞き入る。

「まずは、基本から。マリアリについて勉強をしてみるのがいいかしらね……。マリアリとは魔理沙×アリスのことで、魔理沙がアリスに対して……」
「そこまでだ!」

 ドアをバーンッ!と開けて怒れる慧音が現れた。

「貴女は一体何を教えようと……」
「幻想郷においてはわりと大切なことよ」
「子供たちにはまだ早い!」
「幻想郷で常識にとらわれていたら負けよ。どっかの風祝もかつてはそうだったでしょ」
「それとこれとは……!」

 パチュリーはやれやれと肩をすくめる。
 そして、持参した水を一口飲むと、改めて子供たちと向かい合う。

「それでは、けねもこについて……」
「そこまでだ!」

 ドゴンと頭突きを入れる。
 今はハクタク状態ではないのでダメージは小さいが、むうっとした表情でパチュリーは慧音を睨む。

「むきゅ……じゃあ、私は何を教えればいいのよ」
「頼むから真面目にやってくれ……」
「真面目にやったら子供には理解不能よ。生半可なことでは魔法使いの講義を理解することはできないわ」
「そ、それなら、子供が質問することに貴女が答えるというのはどうだ?」
「うーん、まあ、いいわよ」

 授業は、急遽『なぜなにパチェさん』へと変更された。
 子供たちのささやかな疑問に対してパチュリーは答えていく。

「博麗の巫女って何であんなに強いの?」
「脇を露出しているからよ」
「悪魔の館って、何であんなに赤いの?」
「赤がリーダー、主人公というのが世界の常識だからよ」
「あの門番の綺麗なお姉さんは何て名前なの?」
「中国よ」

 流れるように答えるパチュリー。
 ようやく授業っぽくなったことに、慧音は満足そうに頷く。
 その時、利発そうな顔をした少年が質問をした。

「パチュリーはタミール語なのに、ノーレッジは……」
「そこまでよ!」

 本家本元の「そこまでよ!」に教室中は拍手喝采雨あられ。
 もはや授業どころではないといった状態になりかけたが、パチュリーが真剣な表情でゆっくりと子供たちを見まわすと、喧騒は次第にひいていった。
 そのことに満足したパチュリーは、残された時間で怖い話をすることにした。

「いるはずのない存在がいつの間にかいるという話があるけれど、その反対に、いたはずの存在がいなくなっているのに誰も気づかないという話もまたよくあるわ。たとえば、そこの席は誰も座っていないわよね。そういうのを見て、あれ、確かそこに座っていた奴がいたはずだ、とふと思ったことない? そう、あるのね。大抵は気のせいなんだけど、実は気のせいじゃないということもあるの」

 静かに語るパチュリー。
 日が落ちてきたのか、周囲が暗くなってきている。

「寺子屋でのお仕置きと言えば、ワーハクタクの頭突き。いくら手加減しているとはいえ、半分妖怪の力を持つ者による頭突きだからかなり痛いわよね。さっき私がくらった頭突きも相当痛かったわ。でもね、いつも手加減に成功すると思う? 時には、力加減を間違えて頭突きが致命傷になるなんてことは決して起こりえないわけではないの。え? そんなことがあったら里中大騒ぎ? 確かにそうね。でも、彼女は歴史を食べる程度の能力保持者。自分に都合の悪い歴史を食べて隠すことなんて造作もないのよ」

 子供たちの一部は震えながらゴクリと唾を飲み込む。
 その音が妙に大きく感じて、慌てて周囲を見回してしまう。
 あれ? 慧音先生どこ?

「この寺小屋の床下を掘ると、歴史に隠された無数の白骨が埋もれているとか……」

 パチュリーは、すぐに「なんてね、ふふ……」と言うつもりだった。
 しかし、すぐ後ろから驚くほど低い声が聞こえてきて、思わずかたまるのであった。

「そこまでだ……」



 後日、レミリアから「評判よかったそうじゃないの。さすがパチェね」と声をかけられ、『半日メイド長を自由に使うことができる券』をゲットした。
 自分がどんな授業をしたか、最後の数分の記憶だけがまるでないのが少し気になったパチュリーであったが、次の瞬間には本を読むことに没頭して忘れるのであった。





 宿題を無事終わらせた5人は、また紅魔館に集まってもう日が落ちているがティータイムと洒落こんでいた。
 とはいえ、5人ともどこか疲労の色が濃い。特に、文はいまだに立ち直っていないようだ。

「最善の形ではないとはいえ、5人とも立派に宿題を果たせたことは僥倖僥倖」

 にやにや笑いながら紅茶を飲むレミリアに5人は剣呑な視線を向ける。

「おいおい、レミリア。お前も宿題をこなしてみろって。そんな簡単なものじゃないぞ」

 文句を言う魔理沙に残りの4人も同調する。
 文は色々被害が大きかったが、残りの4人はそれほど大きな被害はない。特に、さとりは大した苦労はしていないし、鈴仙は結果的には兎たちを統率しやすくなった。
 とはいえ、一方的に面倒なことをさせられたのは確かだ。
 言いだしっぺのレミリアにも何かしらの宿題をさせるということは、むしろレミリアが宿題について言い出した時にレミリアに振るべきだった。

「いやよ、めんどくさい」

 しかし、レミリアの答えはノータイムで簡潔なものであった。

「この吸血鬼、言い切りやがった!?」
「なんと自分勝手なことを言うんですかね。私などダメージからいまだに立ち直れていないというのに……」

 咄嗟に文句を言う魔理沙と文。
 レミリアは相変わらずにやにやしながら言葉を続ける。

「今回の宿題、私は何も考えずに出したわけじゃないわ。白黒魔法使いには、研究の幅を増やす視点。覚妖怪には、自分の能力に頼りすぎることへの戒め。ブン屋鴉には、新聞への認知度を高めるために記者本人への関心の増加。月の兎には、部下に対する統率能力。パチェには、ためこむだけではない知識の活かし方。それぞれ、貴方たちには必要なものを選んだはずよ」

 レミリアはゆっくりと5人を見まわす。

「私の能力は『運命を操る程度の能力』。貴女たちをより高い次元へ導くのも、幻想郷を支配する強き妖怪としての使命なのよ」

 そう得意げに語るが、5人の視線は冷たい。
 レミリア・スカーレットがそんな殊勝な性格をしているはずがないことは百も承知だ。

「『ただ暇つぶしをしたかった。思った以上に笑えて大成功よ、さすが私。あ……そういや、覚妖怪がいるんだっけ』」

 さとりが冷たい表情でレミリアの心を読み上げる。
 それと同時に全員ゆっくりと立ち上がる。
 次の瞬間、5人のスペルカードが同時に発動するが、レミリアは高い身体能力ですべてをギリギリでかわしていく。

「あはははは! 多勢に無勢だからここはひとまず退散させてもらうわね! アデュー!!」

 そして、レミリアは紅魔館の外へ飛翔する。
 文と魔理沙がいるからスピードで逃げ切れるとは思っていない。
 こういう状況なら、咲夜が時間稼ぎをするはずと考えたのだ。
 しかし、次の瞬間には、レミリアは5人がいる部屋の中央に戻っていた。

「あ、ありのまま今起こったことを話すわ。貴方たちから離れようと思ったら、いつのまにか貴方たちの目の前にいるわ。な……何を言ってるのか分からないと思うけど、私も何をされたのか分からな……」

 そこまで言ってレミリアの視線がメイド長にいく。

「まさか、咲夜……」
「ええ、私が時を止めてお嬢様を元に戻しました」
「な――!? まさか咲夜が私を裏切るなんて!?」
「今回のお嬢様は少しやりすぎです。悪い子にはお仕置きなんですよ、めっ」
「私は子供じゃない!!」

 そんなやり取りをしている間に、レミリアは怒れる5人に囲まれていた。

「おっと、次は逃がさないぜ」
「天狗の名にかけて、もう逃がしませんよ」
「レミィ、ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたいね」
「温厚な兎も怒るときは怒るんですよ」
(『ああ、皆にこれからあんなことやこんなことをされるであろうお嬢様――! 考えるだけでぞくぞくするわ!!』は今は黙っておきましょう。弱味ノートには後でメモっておきますが)

 レミリアは肩をすくめると、スペルカードを取り出す。

「ふん、貴方たちへの慈悲のつもりだったのにね。5人まとめて返り討ちにしてあげるわ!」

 結局、レミリアは善戦したものの、さすがに5人がかりでは分が悪く、3人倒した後、4人目と相討ちになった。
 「満月だったら……」とブツブツ文句を言うレミリアを縛りあげ、怒れる5人は――



 廊下を歩いていた美鈴は、廊下をスキップしているのが咲夜であることに気づくと目を見張った。
 満面の笑みを浮かべている咲夜は、心なしか肌もツヤツヤしているようだ。

「さ、咲夜さん、何かいいことでも?」
「ごちそうさまでした」

 それだけ言うと、再び咲夜はスキップを始めるのであった。

「何かおいしいものでも食べたのかな?」

 美鈴はそう呟くと、台所へと歩みを向けるのだった。
漫画などでは宿題は8/30ぐらいからやるのが王道ですが、実際にそんな危ない橋を渡る人がいるのでしょうか。
とはいえ、締切のある仕事を本気でやり始めるのは締切の直前。そんな僕が言う資格はないですね。
百ノ夢
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コメント



0.2250点簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力 削除
ウドンゲは4面ボスじゃなーい。
7.100点むらさきかもめ 削除
すこしうだうだ感があった以外、展開や発想はかなり面白かったので、あとはギャグのパンチ力ですね!

それにしても、諏訪子ツボカビwww
11.無評価百ノ夢 削除
>>2
しまった、永夜抄4面ボスの魔理沙を入れておいて何をミスしてるんだ、僕はorz
ご指摘、ありがとうございます。

>>7
ありがとうございます。
最初はパチェとうどんげをのぞく3人で書いていたので、そちらの方がよかったかも。
くどいのは自覚していましたが、その2人も書きたかったのですよ……。

話は変わりますが、日本のカエルはカエルツボカビに耐性を持っているようです。どうやら、カエルツボカビは昔のアジア発祥の可能性があるとか。まあ、まだ仮定なのでそれは無視しましたが。
18.100点七人目の名無し 削除
『妹とパーフェクトコミュニケーションする666の方法』をさとりに渡したと言う事はレミリアにはそれが必要ないくらい妹とコミュニケーションが取れてると言う事ですよね?
21.100点名前が無い程度の能力 削除
ハガキが全部パッチェさんだwww
面白い話でした。
22.60点あ 削除
勢いのある展開に最後は後味よく終わる、王道的なお話でした。
25.100点奇声を発する程度の能力 削除
けーねさん????
いや…まさかね……。
30.100点名前が無い程度の能力 削除
そこまでよって現地でもポピュラーなのかw
34.80点名前が無い程度の能力 削除
利発そうな男子生徒の台詞が緑川で脳内再生された上に
良い所で「そこまでよ!」されて
気恥ずかしいんだがどうしてくれるw
40.100点名前が無い程度の能力 削除
テンポがすごくいい。楽しめました
小悪魔も舞い上がりすぎてさとりんの地雷を踏んだのが運のツキでしたねw
42.100点名前が無い程度の能力 削除
テンポがよかったです。やはり小悪魔はああいう役どころが似合ってしまいますね。
49.80点名前が無い程度の能力 削除
もう10年以上前のことですが、始業式一日前から宿題を始めたことがありますね。
自分にとって人生初の徹夜となったのでよく覚えています。

話はとても面白かったです。
もう少し絞ってもよかったかもと思う反面、もっと見たかったかなとも思いました。
53.無評価百ノ夢 削除
コメント、ありがとうございます。

>>18
むしろ、作者がレミリアです。

>>21
はい、全部パチェです。ラジオを聞いて一番ニヤニヤしていたのはこの魔女でしょう。

>>22
王道が大好きです。というか、変化球が書けません……。

>>25
真相は深い闇へ。

>>30
きっと、そこまでよ!ごっこが子供の間で流行ってます。

>>34
完璧ですな。ビバビバビバ。

>>40 >>42
こあはああいう役回りがお約束ですな。

>>49
そ、それはすごい。一日前から始めるなんて勇気あることはさすがにできません。
55.100点名前が無い程度の能力 削除
椛がさり気に怖い……
56.無評価百ノ夢 削除
目がぐるんぐるんになってます、はい。
57.100点名前が無い程度の能力 削除
そもそも課題は提出しなかった
58.無評価百ノ夢 削除
>>57
ちょ!? まあ、それもありということで。
67.100点名前が無い程度の能力 削除
突発的なイベントは面白いですよねえ
やらされる方は苦労するでしょうが
69.90点ミスターX 削除
>>18
レミリア「中身は全部頭に叩き込んであるんでね」
>>25
1000万パワーの牛男は、頭突き一発で幼子を七つにバラすという…

>3人倒した後、4人目と相討ちになった。
順番がすごく気になる