Coolier - 新生・東方創想話

とある天女のレールガン

2009/10/01 20:52:45
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「ね、衣玖、聞いて聞いて」

 駄々っ子のように手をぶんぶん振りまわしながら天子が言った。
 なんとなくその仕草は、主人に構ってほしそうな犬がしきりに尻尾を振る様子を連想させる。

「なんですか総領娘様。いま忙しいんです。見ればわかるでしょう」

 眉をよじりながら、天子を一瞥すらしないで衣玖は言った。

「忙しいって、何をしてるのよ」

 衣玖はさっきから萃香と二人で四角い機械の前に座って何かしている。
 見る限り、その箱に映し出される映像を見て、なにやら手元に抱えた黒い器具をごちゃごちゃやっているだけだ。
 確かこの箱は八雲紫が持ってきたこんぴゅーたーとか言うやつだ。
 四角い箱の裏側からはにょろっと長い紐が出て、それが衣玖のスカートのお尻の部分に繋がっていた。
 スカートの中がどうなっているかは……まあ別に言わなくても構わないだろう。

「萃香さんと非想天則で対戦しているんです。くぅ、また台風を待ってのJ2A連打!
 きたない、さすが子鬼、汚な……はあん、霧雨でMPPだとう!」
「くくく、君の力はこの程度、ということでいいのかな?」
「ちょっと萃香さん、マジKYなんですけど。卑怯です。高飛びしてないでちゃんと地上に降りて戦ってくださいよ。格闘ゲームなんですから」
「何言ってんの。これだって立派な戦術じゃない。だいたい卑怯とか言うけど、勝負ってのは基本的に相手の嫌がることをするのが鉄則でしょうが。それに、衣玖だって飛翔強いキャラなんだから、自分も対抗して高飛びすればいいじゃない」
「私には元ファンタズム住人としてのプライドがあるから、そんなしょっぱい試合運びはできないんです」
「くくっ、お若いねえ。プライドで熱帯に勝てるのは無印までだよ」
「ねえ、お願いよ衣玖。話を聞いてよ」

 萃香とのトークに夢中になりかけた衣玖の袖を、天子がちょいちょいと引っ張る。

「……ちっ」

 親の敵を見るような憎々しげな視線を天子に向ける衣玖。

「そんなあからさまに不機嫌そうに……。ねえ、ちょっとで済むから、お願い!」

 手のひらを合わせて衣玖にお願いする天子だった。

「何なんですか? さっさとしてくださいよ」

 そう言って衣玖が立ちあがると、天子はニコニコしながら一枚の紙を衣玖に差し出した。
 表に何か書いてある。衣玖はそれを受けとって文面を見た。

「世界の珍味食べ放題・バイキングスペシャル、一名様ご招待、場所:品川プリンセスホテル1Fレストラン?」
「そうよ、すごいでしょ! 食べ放題のチケットよ! 八雲紫と弾幕勝負をして、勝ったから景品としてもらったのよ」
「品川って結界の外じゃないですか」
「そうなの。外の世界で、世界中の珍味が私を待っているってわけよ! これで桃のバンバンジーじゃなくて本物のバンバンジーが食べれる!」

 天界の食材は主に桃なので、天子は飽きているのだった。

「たかが桃の切り身を並べた程度でバンバンジーを名乗るなんて、天界の料理はおこがましいにも程がありますね」
「衣玖は天界に住んでるのに桃食べてないの?」
「私は竜宮勤めですから。その辺に舞っているタイとかヒラメとか捕まえて食ってます」

 リュウグウノツカイは肉食だったのか!
 えっ、でもちょっと待ってそれって、と天子の顔が引きつる。

「それって共食いじゃないの……」

 割とショックなんだけど、それ。
 昔ラーメンマンがブロッケンマンをラーメンにして食べたのを見たときぐらいには。

「小さい魚が大きい魚に食べられるのは自然の摂理です。妖怪だって自分とそっくりな形の人間を捕まえて食べてるから似たようなものですよ」

 そう言われてみれば、そんなものか、と天子はあっさり納得した。
 衣玖はひらひらとチケットを天日に翳して振ってみせる。

「このチケット、有効期限が今日までになってますよ」
「そうなのよ! うっかりしていて、今日が期限だということを忘れていたの! 急いで行きたいのだけど、空を飛んで行っても間に合いそうにないし、あとねー、あの結界を普通に越えるのはいくら私でも苦労しそうなのよ。そこでこれよ!」

 天子が手で指し示した先には巨大な黒い鉄の塊があった。
 いつの間に! 衣玖と萃香は同時に吃驚し、二人で目を丸くしてその塊を見回す。
 がっしりとした土台に良く解らない機械が添えつけられ、その機械からは長大な筒が延びている。
 何となく、空いた口の塞がらない部類の器材を用意してきたのだと衣玖は悟ったが、とりあえず話を進めて見る。

「大砲ですか」
「大砲です。ただの大砲じゃないわよ! これは河童のテクノロジーを駆使して作った幻想郷で唯一の、電磁力で弾丸を発射する大砲なの!」
「要するにレールガンということですか」

 いつの話題をしているんだと衣玖は思った。
 しかしまあ、あの小説は今でも連載しているから時代遅れということもないのかと思い直す。
 そして、衣玖にはだんだんと展開が読めてきた。

「そう! これの中に入って発射してもらえれば、あっという間に品川に辿り着くわ!」
「……それでこれを動かすために私の雷の力が必要だと」
「そういうことなのよ! 察しが良くて助かるわあ、ということでお願い、衣玖」
「でも総領娘様の体は金属じゃないから反応しないのでは?」

 電磁力と言うからには、きっと磁力を通しやすい金属の方が良いのではないか。良くは知らないが。と、衣玖は考えた。

「総領娘様の体は肉です。生臭くて腐って酸化して腐敗した毒々しいタンパク質です」
「生臭いとか言わないでよ! くさ……腐ってないわよ!? ……肉とか! 生々しいわ!……心配ないわ。この比那名居家に伝わる家宝のプレートメイルを着込むから。鋼鉄製だから、きっと十分な加速度が得られるわよ」

 見るとどこからか取り出したのか、ガチャガチャと金属音を立てて天子はプレートメイルを着込みだした。
 その様子を衣玖と萃香は突っ立ったまま呆然と眺める。
 この無骨な西洋風甲冑が家宝になっている比那名居家とはいったいどんなトンチキな家系なのか、疑問は尽きない。
 しかし、突っ込むのも面倒くさいから極力避けたいのだった。

(だけど行きはいいけど、帰りはどうするつもりなんだろう?)

 萃香が気になって衣玖に耳打ちした。
 どうやって外の世界から戻ってくるつもりなのか。

(さあ? 何にも考えてないんじゃないですか? 本人が吹っ飛びたいと言っているのだから、盛大に吹っ飛ばしてあげましょう)

 めんどくさそうに衣玖は返した。

 万事滞りなく進み、天子は全身鎧を着込み終えると、砲塔の中に入るために梯子をよじ登って砲筒の先端部分に足を掛けた。
 そこでふと、天子の手の先に握られている見覚えのあるブツに気付く衣玖。

「その剣はなんですか?」

 見上げて声を掛けると、

「よくぞ聞いてくれました!」

 聞かれたことが嬉しいのか、天子はニッコニコになった。ものすごく嬉しそう。ほっぺに向日葵が咲いている。

「いくら私でも大砲から発射されて、そのままの速度であの結界に頭からぶつかったら、大怪我してしまう! そこで名案! この緋想の剣を構えた対空必殺技ポーズなら、最初に結界に当たるのはこの剣の先になる。私の得意技で大結界をぶち破ってみせるわ!」

 何であんなに得意気なんだろう、と衣玖も萃香も一緒に首を傾げる。
 とにかくもうさっさと天子の用事を済ませて対戦に戻りたいと二人とも心底思った。
 衣玖は砲塔の根元にすたこらと歩いて行くと、天子が砲の中にすぽんと収まったのを特に確認しないまま、多分電源と思われるケーブルを握り、全力でびりっとやった。
 バシュン、という風切音がしたのは一瞬のことだった。
 砲の先端が白く染まったかと思うと、豆粒のような光がきらめいた、と思うと空の奥の方でガシャンと盛大な音がした。
 たぶん天子が結界に当たって破けたのだろう。
 天子と思わしき豆粒が空の中に消えるまで、しばらく様子を眺めていた衣玖と萃香。
 そのうち気付いた。
 そういや照準とか特に定めているプロセスがなかったけど、一体あの大砲で撃ったものはどこへ飛んで行くのだろう?




 飛んで38万4千キロメートル。
 月面であーる。

「ものすごい音がしたと思ったら、庭にクレーターが開いているとは」
「新しい隕石でも降ってきたのかしら……」

 都の郊外にわんさかと生えている桃林に出てきたのは、月の貴族、綿月依姫と豊姫の姉妹。
 ちなみに最初に喋ったのが依姫で、後に喋ったのが豊姫だ。

「見てお姉様、クレーターの中に人がいるわ」
「訳の分からない格好をしているわね」

 半分土に埋まった体を自ら掘り起こし、がちゃがちゃと音を立ててプレートメイルを脱いでいる天子を見下ろしながら、姉妹はひそひそと話し合った。

「どうしましょう。月じゃ見かけない格好だから、もしかして穢い地上人かしら?」
「またこの前みたいに月に攻めてきたの? 懲りないわねー」
「きたないとは失礼ね! 私は天人、高貴な生れよ! 月? ここは品川じゃないの?」
「品川? 芸人の名前かしら……」
「お姉様、話題が古いですね。ここは月の都、綿月家の領内ですよ。貴方は地上の貴人の方なの?」
「そうよ、地上の天人の中でも、最も地位の高い総領娘なんですから!」
「あらそれは大変なお方。天人と言うと、神様に近いですから、どっちかと言うと私達に近いですわね。では、おもてなしの準備をしましょうか」
「やった! 品川には辿りつけなかったけど、月のご馳走が食べれる! ウフフ、この人たち、とても高そうな服を着ているからきっと相当なお金持ちに違いないわ。いったいどんな料理が出てくるのかしら!?」

 月の都の郊外、綿月家の別亭に通された天子は応接間で料理の準備ができるまでしばらく待った。
 やがて、奥から膳を持った綿月姉妹が廊下を歩いてやってきた。

「粗餐ですが、月面の名産を用意しました」
「きたきた! わあ、すごい量! 名産品、大歓迎!」

 どうぞ、と添えて差し出された膳を前に、ご馳走を期待して天子は大いにはしゃぐ。

「桃のお吸い物に桃の佃煮、桃のお刺身、桃の天麩羅、桃のバンバンジーです」


「…………・」


 がっくりと額を机の上に着けると、天子は動かなくなった。











参考図書:ジュール・ヴェルヌ作「月世界旅行」



nig
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コメント



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3.100名前が無い程度の能力削除
天子、残念だったな!だったら家に来い!
6.70名前が無い程度の能力削除
桃だらけww
9.80名前が無い程度の能力削除
これは笑ったw
13.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
15.90名前が無い程度の能力削除
そうか月も桃だらけだったなwww
ワロタ
34.100名前が無い程度の能力削除
お嬢ちゃん、おいしいものあげるからついておいで
38.無評価名前が無い程度の能力削除
てゆーかどんな味するんだ?
45.100名前が無い程度の能力削除
なぜかくそわろた