主人のお茶請けは、全て人間の里で手に入れている。(自分で作ることもたまに有るが)普段はケーキやクッキーなど、愛らしい装飾を施した菓子を異国風を吹かせる職人から買い求めるが、彼は丹精込めて作った菓子をまさか吸血鬼が味わっているとは思わないだろう。
その職人が、風変わりなものを咲夜に薦めてきた。
薔薇の花びらの砂糖漬け。
瑞々しい香りを砂糖の中に閉じ込めたようなそれを、贔屓にして下さるお嬢様に是非、と。咲夜は快くそれを受け取った。
レミリアは皿に置かれた一輪の薔薇を、まじまじと見詰めていた。
「変わったお茶請けね」
「薔薇の花を砂糖漬けにした物ですわ。いつもお茶請けのケーキやクッキーを作ってくださる方が、お嬢様に是非、と」
にっこりと微笑みかける咲夜に、レミリアが訝しげな視線を向ける。
「どうかなさったのですか、お嬢様」
「……食べ方が分からないわ」
初めて見る食べ物に戸惑っているのだろうか。
長すぎる年月を生きたとは思えないその反応に、今度は咲夜が戸惑う。
「薔薇は見て愛でる物だもの」
「それもそうですわね……」
「咲夜」
椅子に座ったレミリアが、ほんの少しの甘えを隠しもしない瞳で、咲夜を見上げた。
「あなたが食べさせて頂戴」
……ああ、またあの悪い癖か。
咲夜はレミリアに見えない裡側で、やれやれとため息をついた。
場所を、レミリアの寝室に移す。
天蓋つきのベッドに咲夜が腰掛け、その膝の上にさも当然、と言った風にレミリアが座る。
ベッドサイドテーブルには、先ほどの紅茶とお茶請けの薔薇。
咲夜は、その薔薇から、砂糖漬けの花びらを一枚手に取り、レミリアの口元へと運んだ。
あーんと口を開けたレミリアは、彼女の指に摘まれた花びらを咥え、もぐもぐと租借した。
「…………面白い味ね」
またあーんと口を開けて強請られる。彼女の味覚に合うものだったのだろう。
咲夜はまた花びらを指で摘む。
「悪くない味だわ。見た目もいいし。赤くて」
「お気に召していただけたようで、幸いですわ」
咲夜が花びらを指で摘む。レミリアがそれを食べる。時折紅茶を飲む。
それを何回か繰り返す。
膝の上の小さな体を、咲夜は空いた方の腕でしっかりと抱いていた。
この主人がどうして、このような年や力に見合わない甘えた行為を望むのかと、考えながら。
そして、砂糖漬けの花びらをまたレミリアの口元へ運んだ、そのとき。
「……お嬢様、お行儀の悪い事はおやめ下さい」
その花びらごと、レミリアが咲夜の指を咥えた。
白い肌に冴える鮮やかな唇が、咲夜の指を咥えたまま笑う形を作る。
まるで、咲夜の考え事を見透かしているかのように。
「……っ、」
そして、指先に感じる痛み。
「うん……これがいいわ。このお菓子には、これがいい。紅い薔薇のお菓子には紅い物が一番似合うわ」
レミリアは血の滴る彼女の指を吸い上げ、満足そうに微笑んだ。
……ああ、きっとこの行為に理由は無い。
ただ、この人は甘えているだけ。
思考を止めたような答えが出たのは、きっと指先の痛みの所為だろう。
咲夜はレミリアの小さな舌に血を舐められながら、皿の上の砂糖漬けの薔薇を見る。
甘い香りを漂わせるそれは幾枚もの花びらで構成されている。
その花びらの中に、自分と、この主人がいるのかもしれない。
少し恍惚とし始めた意識の中で、咲夜は夢見るようにそんな事を考えていた。
その職人が、風変わりなものを咲夜に薦めてきた。
薔薇の花びらの砂糖漬け。
瑞々しい香りを砂糖の中に閉じ込めたようなそれを、贔屓にして下さるお嬢様に是非、と。咲夜は快くそれを受け取った。
レミリアは皿に置かれた一輪の薔薇を、まじまじと見詰めていた。
「変わったお茶請けね」
「薔薇の花を砂糖漬けにした物ですわ。いつもお茶請けのケーキやクッキーを作ってくださる方が、お嬢様に是非、と」
にっこりと微笑みかける咲夜に、レミリアが訝しげな視線を向ける。
「どうかなさったのですか、お嬢様」
「……食べ方が分からないわ」
初めて見る食べ物に戸惑っているのだろうか。
長すぎる年月を生きたとは思えないその反応に、今度は咲夜が戸惑う。
「薔薇は見て愛でる物だもの」
「それもそうですわね……」
「咲夜」
椅子に座ったレミリアが、ほんの少しの甘えを隠しもしない瞳で、咲夜を見上げた。
「あなたが食べさせて頂戴」
……ああ、またあの悪い癖か。
咲夜はレミリアに見えない裡側で、やれやれとため息をついた。
場所を、レミリアの寝室に移す。
天蓋つきのベッドに咲夜が腰掛け、その膝の上にさも当然、と言った風にレミリアが座る。
ベッドサイドテーブルには、先ほどの紅茶とお茶請けの薔薇。
咲夜は、その薔薇から、砂糖漬けの花びらを一枚手に取り、レミリアの口元へと運んだ。
あーんと口を開けたレミリアは、彼女の指に摘まれた花びらを咥え、もぐもぐと租借した。
「…………面白い味ね」
またあーんと口を開けて強請られる。彼女の味覚に合うものだったのだろう。
咲夜はまた花びらを指で摘む。
「悪くない味だわ。見た目もいいし。赤くて」
「お気に召していただけたようで、幸いですわ」
咲夜が花びらを指で摘む。レミリアがそれを食べる。時折紅茶を飲む。
それを何回か繰り返す。
膝の上の小さな体を、咲夜は空いた方の腕でしっかりと抱いていた。
この主人がどうして、このような年や力に見合わない甘えた行為を望むのかと、考えながら。
そして、砂糖漬けの花びらをまたレミリアの口元へ運んだ、そのとき。
「……お嬢様、お行儀の悪い事はおやめ下さい」
その花びらごと、レミリアが咲夜の指を咥えた。
白い肌に冴える鮮やかな唇が、咲夜の指を咥えたまま笑う形を作る。
まるで、咲夜の考え事を見透かしているかのように。
「……っ、」
そして、指先に感じる痛み。
「うん……これがいいわ。このお菓子には、これがいい。紅い薔薇のお菓子には紅い物が一番似合うわ」
レミリアは血の滴る彼女の指を吸い上げ、満足そうに微笑んだ。
……ああ、きっとこの行為に理由は無い。
ただ、この人は甘えているだけ。
思考を止めたような答えが出たのは、きっと指先の痛みの所為だろう。
咲夜はレミリアの小さな舌に血を舐められながら、皿の上の砂糖漬けの薔薇を見る。
甘い香りを漂わせるそれは幾枚もの花びらで構成されている。
その花びらの中に、自分と、この主人がいるのかもしれない。
少し恍惚とし始めた意識の中で、咲夜は夢見るようにそんな事を考えていた。
どう食べるのかは分からないけど頭からムシャリとはいかないんだろうな。
短いですけど、微笑ましいというか結構良い雰囲気だったと思います。
話も良かったと思いますし、これからも頑張ってください。
と思ってしまえる、よさげな吸引力がありました。
それだけにボリューム不足なのが惜しまれるというかもう少し堪能させて欲しかったです。
それにしても綺麗な文体で、短いながらもすごく完成された雰囲気のSSでした
アドバイスもありがたいです、本当に・・・これからの参考にさせていただきます。