これはある一人の……いや二人の妖怪に関する記録である。
それは秋も終わりに近づき、日に日に寒さが厳しくなってきたとある日の博麗神社でのことだった。
「おっ、もうコタツ出したのか」
挨拶もそこそこに、玄関ではなく縁側から遠慮なく上がり込んできた霧雨魔理沙は、
部屋の真ん中に昨日まで無かった炬燵の存在に目を輝かせた。
「いいタイミングだせ。まったくどんどん寒くなってくるからなぁっっっっうひゃぁ! つめたぁっ」
炬燵に足を突っ込んだ魔理沙が突然悲鳴を上げて飛び上がる。
「なんだなんだこのコタツは。氷でも入ってるのか?」
ガバッと布団をまくりあげる魔理沙。
炬燵の中では何故か氷精の少女が丸くなっていた。
「……おいチルノ……なにやってんだ?」
「……かくれんぼしてる」
「余所でやってくれ」
魔理沙はポイッとチルノを炬燵から放り出した。
「あら、魔理沙来てたの?」
家の奥からめんどくさそうに顔を出したのはこの家の主人、博麗霊夢である。
「なあ霊夢。コタツがあったかくないんだが」
「こんな昼間から使わないわよ。練炭だってタダじゃないんだから」
「冷たいぜ……二つの意味で……」
魔理沙は炬燵の上に置かれた蜜柑に手を伸ばす。
「あたいもみかん食べたい」
部屋の隅で転がっていたチルノが寄ってくる。
「……なんでこの子がいるのよ」
「かくれんぼらしいぜ。霊夢、お茶」
「残念ながらお茶っ葉もタダじゃないのよ」
そういいながらも霊夢はお茶を入れに立ち上がる。
恐らく自分も飲みたかったのだろうと魔理沙は推測した。
と、その時。
――ごめんくださーい。
玄関の方から声がした。
(珍しい事もあるもんだ……)
この家に来る客で、わざわざ声をかけてから入ってくるような客はかなり珍しい部類である。
しばらくして戻ってきた霊夢の後に続いて部屋に入ってきたのは、魔理沙の予想通りやはり珍客だった。
「おや、霧雨の。来ていたのか」
「こんにちは魔理沙さん」
やってきたのは人里を代表する有名人二人、上白沢慧音と稗田阿求である。
「魔理沙さんもいるとは丁度良かったです。次の幻想郷縁起のためにお話を聞きに来たのですが手間が省けました」
「なんだ、幻想郷縁起は少し前に新しいのを出したばかりじゃないか」
「そのあとに色々とあったから調べてるんですよ。神様が引っ越してきたり、お寺が突然出来たり……」
「温泉も湧いたしな。で、慧音は何の用なんだ?」
「私は阿求の護衛だ。ここに来るまでの道もまったく安全というわけではないのでな」
炬燵に足を入れながら、二人は部屋の端でミカンを剥いているチルノに一瞬不思議な生き物を見るような顔をしたが、
この神社では何が居ようとさして珍しい事ではないのを思い出したのか、すぐに視線を戻した。
「このコタツあったかく無いですよ?」
「冬になれば温かくなるわ」
そっけなく霊夢が言い放つ。
結局霊夢は人数分(チルノを除く)の茶碗を用意していた。
「冬かぁ……もうあっというまに秋も終っちゃうぜ」
「そうですねぇ。私は冬はちょっと苦手です」
魔理沙の呟きに阿求が相槌を打つ。
「あたいは冬好き」
阿求の言葉に反応し、急に無邪気な声を上げたのはチルノだった。
「そりゃまあお前は好きだろうな」
チルノに蜜柑をもう一つ渡し、自分も手に取る魔理沙。
「だけど、お前の友達は寒いの苦手なやつが多いんじゃないのか?」
「でも、レティに会えるから冬好き」
「レティ・ホワイトロックですか……彼女も謎の多い妖怪ですね」
突然出てきた一人の妖怪の名に稗田阿求が興味を示した。
「謎というと?」
「あいつに謎なんてあったか?」
慧音と魔理沙の問いに阿求は持参した最新版の幻想郷縁起を広げ、該当する項を開いて見せる。
「ご存知の通り彼女は冬しかその姿を見る事の無い妖怪です。そのため目撃例も非常に少なく、その生態は謎に包まれています」
「そうねえ、夏とかどうしてるのかしらね」
自分の分だけお茶のお代わりを注ぎながら霊夢が疑問を口にした。
「それについては諸説ありますが」
阿求は今度は懐から取材用の備忘録を取り出す。
「が、どれも推測の域を出ていません。面白いものではこちらが夏の間、南半球で冬を満喫しているなんて説や、
外の世界のこんびにとか言う場所でアルバイトをしているなんて説もあります」
「なんだそりゃ……誰がそんなこと言ってるんだ」
「あ、これは早苗さんが……こんびには夏でもエアコンとかいうものが涼しいらしいです」
「あの子の言うことは本気にしちゃダメよ」
「まあ一番有力なのは冬以外はずっと寝ている『逆冬眠説』なんですが」
普通すぎて面白くない説ですが、と付け加え苦笑して阿求は備忘録を懐に戻した。
だが、その阿求の話に意外な反応を示す者がいた。
「……冬眠か……いや、まさかそんな……だがそう考えると……」
「魔理沙? どうしたのそんな顔して」
急に何かを考え始めた様子の魔理沙の顔を霊夢が覗き込んだ。
「なにか思い当たる事でも?」
阿求と慧音も身を乗り出す。
「そうか……そういうことだったのか!!」
――バンッ!
突如、魔理沙が大声を上げてコタツの天板に平手を打ちつけた。
「私達はとんでもない考え違いをしていたのかもしれない」
「え?」
「レティは初めから姿など消してはいなかったんだ……」
「ど、どういう事ですか魔理沙さん!」
今までの己の研究を真向から否定するかのような言葉に、阿求は自分の耳を疑った。
「姿を消していないのならば、彼女はいったいどこにいるというのです」
「…………」
その阿求の問いに、魔理沙はしばらくの沈黙の後大きく息を吐いた。
「……レティが現れるのと入れ替わるように幻想郷から姿を消す妖怪が一人いる……しかも……冬眠をするという理由で」
「え? ま、まさか……」
「そう、つまり…………」
「八雲紫が冬眠している間に現れる第二の人格。それが『レティ・ホワイトロック』だったんだよ!!」
『な、なんだってーー!!!』
魔理沙の辿り着いた意外な真実に、一同は雷に打たれたような衝撃に襲われた。
「ま、まさかそんなことが……」
阿求の顔色が血の気を失って青ざめる。
「待て、魔理沙! いくらなんでも冬眠の時期の一致というだけでは……」
「……証拠は……まだある」
慧音が叫ぶように声を上げた。
だが、それはすぐに魔理沙に遮られる。
「霊夢は覚えてるだろう? いつまでたっても春が来なかったあの異変のこと」
「ええ、覚えてるわ」
「あの異変……思えば私達がレティと初めて会ったのもあの異変だった」
魔理沙の視線が遠い昔を懐かしむように虚空を見つめた。
「その話なら聞いたことがあります。ですがその異変にはレティ・ホワイトロックは結局あまり関係が無かったのでは?」
阿求が身を乗り出す。
「肝心なのはここからだ。……あの異変は私達以外にも解決に動いた奴が一人いた事を知っているか?」
「確か……紅魔館の……」
「そう、十六夜咲夜だ。そしてレティは咲夜と戦う前に重大な発言をしていたんだ」
「そ、それはいったい!」
「…………………………『黒幕』……レティは自分が黒幕だとはっきり言ったらしい」
ゴクリ。
しんと静まり返った部屋の中に誰かが生唾を飲み込む音が響いた。
「だが魔理沙。あの異変の犯人は西行寺幽々子だったはずだ!」
沈黙を破り最初に発言したのは慧音だった。
「確かに表向きはそうだ。だがその異変の後、再び冥界を訪れた私達の前に立ちふさがった妖怪がいた……」
「八雲……紫」
「そう、あのタイミングで現れた彼女こそ西行寺幽々子を影から操りあの異変の裏で糸を引く真の黒幕!
そして黒幕といえばレティ!! ここまで来ると偶然ではない……もはや『必然』!!」
「だ、だが魔理沙。八雲紫とレティ・ホワイトロックでは体型や髪型など違いすぎる」
「紫の能力があればそんなものどうとでもなる……あるいは……髪はズラなのかもしれん……」
「なんという事だ……」
呆然と慧音が呟く。
「私達は八雲紫の手の平の上で踊っていたにすぎないというのか……」
「ああ、この幻想郷で起こる不可思議な出来事は、そのほぼすべてが紫の仕業と言っても過言じゃない」
阿「で、では次々と新たな妖怪が現れて私の調査が進まないのも!」
「当然、紫の仕業だ」
慧「私が変身するとキモイとか言われるのも!」
「もちろん紫の仕業だ」
霊「お賽銭が入らないのも!」
「それは……別に不可思議じゃない……」
霊「くっ……」
何故か悔しそうに唇を噛みしめる霊夢だった。
紫の仕業だったら殴りこみにでも行くつもりだったのであろうか。
「そうだ、チ、チルノ。お前なら!!」
部屋の隅で奇跡的に大人しくしていた氷精の存在を思い出し、慧音は駆け寄ってチルノの肩を揺さぶった。
「お前ならレティの事を詳しく知っているんじゃないのか!?」
「……あたいにだって……わからないことぐらい……ある……」
「……そ、そんな……」
再び静寂が部屋の中を支配した。
「あ、ちぇんだ!」
突然チルノの口から発せられたその名前に、全員が一斉に縁側の方を振り返った。
「チルノちゃん。いつまで隠れてるの? かくれんぼもう終わったよ」
「そっか。じゃああたいもう行くね~」
「あ、ああ……」
湖の方角へと飛んでいったチルノと橙を見送り、一同は深いため息をついた。
「紫の話をしているときにその関係者が来るなんて心臓に悪いぜ」
「まったくだ。ところで魔理沙、今の話の続きだが……」
「くっくっくっ。なんだ慧音は本気にしたのか。冗談にきまってるだろ」
「なっ!」
今まで少し青ざめていた慧音の顔が、魔理沙に担がれていたのだと気付いてたちまち真っ赤に染まる。
「まあそうだと思ったわ」
「ふふっ、ですよねえ」
霊夢と阿求が慧音の表情の変化を見て笑いだす。
どうやらこの二人は途中から魔理沙の冗談だと気が付いていたようである。
「いやぁ、お前みたいな真面目な奴はからかい甲斐があるぜ」
「魔理沙! 貴様!」
「おっと、そういえばアリスの家に用事があるんだった。私はこれで帰るぜ」
と、言うが早いか魔理沙は縁側に立てかけてあった箒にまたがると、あっという間に飛び去った。
「コラァ、降りてこい!!」
幻想郷の空に慧音の怒声が響いた。
「いやあ、その場の思いつきで言った事だが結構面白かったなぁ」
神社からの帰り道。
アリスの家に行くというのは話を切り上げるための彼女の口実である。
だが、このまま自宅に真っ直ぐ帰るのもつまらないと思った魔理沙は、香霖堂にでも顔を出していこうと箒の先を向けた。
「お? 珍しい奴がいたぜ」
その途中、進路状に何者かが浮かんでいるのが魔理沙の視界に入った。
そのシルエットは遠目でも見間違えようがない特徴的なものである。
ふさふさとした9本の尻尾はこの季節とても温かそうだ。
「橙ならチルノと湖の方に行ったぜ、藍」
「ああ、魔理沙。いや橙を探していたわけじゃないよ」
「そうか、なら結界の見周りか? ご苦労な事だぜ」
「いや……」
八雲藍はそこでいったん言葉を切り魔理沙の方を見つめた。
正確には、魔理沙の背後に大きく口を開けていた両端をリボンで結ばれた空間の裂け目を……。
「君を探していたんだよ…………魔理沙……」
「ヨウ……レイム……」
「ま、魔理沙!! あなた、一ケ月も行方がわからなかったのに……一体どこに行ってたの!!」
「ユカリノイエニ、アソビニイッテタゼ……」
「そ、そう……なんか紫に変な事されたんじゃないでしょうね」
「ユカリン、チャントトウミンシテタヨ」
「……ならいいけど……」
「ユカリン……トウミンシテタヨ……」
「なんで二回もいうのよ?」
「……ダイジナコトダカラ、ニカイイエッテ……」
それは秋も終わりに近づき、日に日に寒さが厳しくなってきたとある日の博麗神社でのことだった。
「おっ、もうコタツ出したのか」
挨拶もそこそこに、玄関ではなく縁側から遠慮なく上がり込んできた霧雨魔理沙は、
部屋の真ん中に昨日まで無かった炬燵の存在に目を輝かせた。
「いいタイミングだせ。まったくどんどん寒くなってくるからなぁっっっっうひゃぁ! つめたぁっ」
炬燵に足を突っ込んだ魔理沙が突然悲鳴を上げて飛び上がる。
「なんだなんだこのコタツは。氷でも入ってるのか?」
ガバッと布団をまくりあげる魔理沙。
炬燵の中では何故か氷精の少女が丸くなっていた。
「……おいチルノ……なにやってんだ?」
「……かくれんぼしてる」
「余所でやってくれ」
魔理沙はポイッとチルノを炬燵から放り出した。
「あら、魔理沙来てたの?」
家の奥からめんどくさそうに顔を出したのはこの家の主人、博麗霊夢である。
「なあ霊夢。コタツがあったかくないんだが」
「こんな昼間から使わないわよ。練炭だってタダじゃないんだから」
「冷たいぜ……二つの意味で……」
魔理沙は炬燵の上に置かれた蜜柑に手を伸ばす。
「あたいもみかん食べたい」
部屋の隅で転がっていたチルノが寄ってくる。
「……なんでこの子がいるのよ」
「かくれんぼらしいぜ。霊夢、お茶」
「残念ながらお茶っ葉もタダじゃないのよ」
そういいながらも霊夢はお茶を入れに立ち上がる。
恐らく自分も飲みたかったのだろうと魔理沙は推測した。
と、その時。
――ごめんくださーい。
玄関の方から声がした。
(珍しい事もあるもんだ……)
この家に来る客で、わざわざ声をかけてから入ってくるような客はかなり珍しい部類である。
しばらくして戻ってきた霊夢の後に続いて部屋に入ってきたのは、魔理沙の予想通りやはり珍客だった。
「おや、霧雨の。来ていたのか」
「こんにちは魔理沙さん」
やってきたのは人里を代表する有名人二人、上白沢慧音と稗田阿求である。
「魔理沙さんもいるとは丁度良かったです。次の幻想郷縁起のためにお話を聞きに来たのですが手間が省けました」
「なんだ、幻想郷縁起は少し前に新しいのを出したばかりじゃないか」
「そのあとに色々とあったから調べてるんですよ。神様が引っ越してきたり、お寺が突然出来たり……」
「温泉も湧いたしな。で、慧音は何の用なんだ?」
「私は阿求の護衛だ。ここに来るまでの道もまったく安全というわけではないのでな」
炬燵に足を入れながら、二人は部屋の端でミカンを剥いているチルノに一瞬不思議な生き物を見るような顔をしたが、
この神社では何が居ようとさして珍しい事ではないのを思い出したのか、すぐに視線を戻した。
「このコタツあったかく無いですよ?」
「冬になれば温かくなるわ」
そっけなく霊夢が言い放つ。
結局霊夢は人数分(チルノを除く)の茶碗を用意していた。
「冬かぁ……もうあっというまに秋も終っちゃうぜ」
「そうですねぇ。私は冬はちょっと苦手です」
魔理沙の呟きに阿求が相槌を打つ。
「あたいは冬好き」
阿求の言葉に反応し、急に無邪気な声を上げたのはチルノだった。
「そりゃまあお前は好きだろうな」
チルノに蜜柑をもう一つ渡し、自分も手に取る魔理沙。
「だけど、お前の友達は寒いの苦手なやつが多いんじゃないのか?」
「でも、レティに会えるから冬好き」
「レティ・ホワイトロックですか……彼女も謎の多い妖怪ですね」
突然出てきた一人の妖怪の名に稗田阿求が興味を示した。
「謎というと?」
「あいつに謎なんてあったか?」
慧音と魔理沙の問いに阿求は持参した最新版の幻想郷縁起を広げ、該当する項を開いて見せる。
「ご存知の通り彼女は冬しかその姿を見る事の無い妖怪です。そのため目撃例も非常に少なく、その生態は謎に包まれています」
「そうねえ、夏とかどうしてるのかしらね」
自分の分だけお茶のお代わりを注ぎながら霊夢が疑問を口にした。
「それについては諸説ありますが」
阿求は今度は懐から取材用の備忘録を取り出す。
「が、どれも推測の域を出ていません。面白いものではこちらが夏の間、南半球で冬を満喫しているなんて説や、
外の世界のこんびにとか言う場所でアルバイトをしているなんて説もあります」
「なんだそりゃ……誰がそんなこと言ってるんだ」
「あ、これは早苗さんが……こんびには夏でもエアコンとかいうものが涼しいらしいです」
「あの子の言うことは本気にしちゃダメよ」
「まあ一番有力なのは冬以外はずっと寝ている『逆冬眠説』なんですが」
普通すぎて面白くない説ですが、と付け加え苦笑して阿求は備忘録を懐に戻した。
だが、その阿求の話に意外な反応を示す者がいた。
「……冬眠か……いや、まさかそんな……だがそう考えると……」
「魔理沙? どうしたのそんな顔して」
急に何かを考え始めた様子の魔理沙の顔を霊夢が覗き込んだ。
「なにか思い当たる事でも?」
阿求と慧音も身を乗り出す。
「そうか……そういうことだったのか!!」
――バンッ!
突如、魔理沙が大声を上げてコタツの天板に平手を打ちつけた。
「私達はとんでもない考え違いをしていたのかもしれない」
「え?」
「レティは初めから姿など消してはいなかったんだ……」
「ど、どういう事ですか魔理沙さん!」
今までの己の研究を真向から否定するかのような言葉に、阿求は自分の耳を疑った。
「姿を消していないのならば、彼女はいったいどこにいるというのです」
「…………」
その阿求の問いに、魔理沙はしばらくの沈黙の後大きく息を吐いた。
「……レティが現れるのと入れ替わるように幻想郷から姿を消す妖怪が一人いる……しかも……冬眠をするという理由で」
「え? ま、まさか……」
「そう、つまり…………」
「八雲紫が冬眠している間に現れる第二の人格。それが『レティ・ホワイトロック』だったんだよ!!」
『な、なんだってーー!!!』
魔理沙の辿り着いた意外な真実に、一同は雷に打たれたような衝撃に襲われた。
「ま、まさかそんなことが……」
阿求の顔色が血の気を失って青ざめる。
「待て、魔理沙! いくらなんでも冬眠の時期の一致というだけでは……」
「……証拠は……まだある」
慧音が叫ぶように声を上げた。
だが、それはすぐに魔理沙に遮られる。
「霊夢は覚えてるだろう? いつまでたっても春が来なかったあの異変のこと」
「ええ、覚えてるわ」
「あの異変……思えば私達がレティと初めて会ったのもあの異変だった」
魔理沙の視線が遠い昔を懐かしむように虚空を見つめた。
「その話なら聞いたことがあります。ですがその異変にはレティ・ホワイトロックは結局あまり関係が無かったのでは?」
阿求が身を乗り出す。
「肝心なのはここからだ。……あの異変は私達以外にも解決に動いた奴が一人いた事を知っているか?」
「確か……紅魔館の……」
「そう、十六夜咲夜だ。そしてレティは咲夜と戦う前に重大な発言をしていたんだ」
「そ、それはいったい!」
「…………………………『黒幕』……レティは自分が黒幕だとはっきり言ったらしい」
ゴクリ。
しんと静まり返った部屋の中に誰かが生唾を飲み込む音が響いた。
「だが魔理沙。あの異変の犯人は西行寺幽々子だったはずだ!」
沈黙を破り最初に発言したのは慧音だった。
「確かに表向きはそうだ。だがその異変の後、再び冥界を訪れた私達の前に立ちふさがった妖怪がいた……」
「八雲……紫」
「そう、あのタイミングで現れた彼女こそ西行寺幽々子を影から操りあの異変の裏で糸を引く真の黒幕!
そして黒幕といえばレティ!! ここまで来ると偶然ではない……もはや『必然』!!」
「だ、だが魔理沙。八雲紫とレティ・ホワイトロックでは体型や髪型など違いすぎる」
「紫の能力があればそんなものどうとでもなる……あるいは……髪はズラなのかもしれん……」
「なんという事だ……」
呆然と慧音が呟く。
「私達は八雲紫の手の平の上で踊っていたにすぎないというのか……」
「ああ、この幻想郷で起こる不可思議な出来事は、そのほぼすべてが紫の仕業と言っても過言じゃない」
阿「で、では次々と新たな妖怪が現れて私の調査が進まないのも!」
「当然、紫の仕業だ」
慧「私が変身するとキモイとか言われるのも!」
「もちろん紫の仕業だ」
霊「お賽銭が入らないのも!」
「それは……別に不可思議じゃない……」
霊「くっ……」
何故か悔しそうに唇を噛みしめる霊夢だった。
紫の仕業だったら殴りこみにでも行くつもりだったのであろうか。
「そうだ、チ、チルノ。お前なら!!」
部屋の隅で奇跡的に大人しくしていた氷精の存在を思い出し、慧音は駆け寄ってチルノの肩を揺さぶった。
「お前ならレティの事を詳しく知っているんじゃないのか!?」
「……あたいにだって……わからないことぐらい……ある……」
「……そ、そんな……」
再び静寂が部屋の中を支配した。
「あ、ちぇんだ!」
突然チルノの口から発せられたその名前に、全員が一斉に縁側の方を振り返った。
「チルノちゃん。いつまで隠れてるの? かくれんぼもう終わったよ」
「そっか。じゃああたいもう行くね~」
「あ、ああ……」
湖の方角へと飛んでいったチルノと橙を見送り、一同は深いため息をついた。
「紫の話をしているときにその関係者が来るなんて心臓に悪いぜ」
「まったくだ。ところで魔理沙、今の話の続きだが……」
「くっくっくっ。なんだ慧音は本気にしたのか。冗談にきまってるだろ」
「なっ!」
今まで少し青ざめていた慧音の顔が、魔理沙に担がれていたのだと気付いてたちまち真っ赤に染まる。
「まあそうだと思ったわ」
「ふふっ、ですよねえ」
霊夢と阿求が慧音の表情の変化を見て笑いだす。
どうやらこの二人は途中から魔理沙の冗談だと気が付いていたようである。
「いやぁ、お前みたいな真面目な奴はからかい甲斐があるぜ」
「魔理沙! 貴様!」
「おっと、そういえばアリスの家に用事があるんだった。私はこれで帰るぜ」
と、言うが早いか魔理沙は縁側に立てかけてあった箒にまたがると、あっという間に飛び去った。
「コラァ、降りてこい!!」
幻想郷の空に慧音の怒声が響いた。
「いやあ、その場の思いつきで言った事だが結構面白かったなぁ」
神社からの帰り道。
アリスの家に行くというのは話を切り上げるための彼女の口実である。
だが、このまま自宅に真っ直ぐ帰るのもつまらないと思った魔理沙は、香霖堂にでも顔を出していこうと箒の先を向けた。
「お? 珍しい奴がいたぜ」
その途中、進路状に何者かが浮かんでいるのが魔理沙の視界に入った。
そのシルエットは遠目でも見間違えようがない特徴的なものである。
ふさふさとした9本の尻尾はこの季節とても温かそうだ。
「橙ならチルノと湖の方に行ったぜ、藍」
「ああ、魔理沙。いや橙を探していたわけじゃないよ」
「そうか、なら結界の見周りか? ご苦労な事だぜ」
「いや……」
八雲藍はそこでいったん言葉を切り魔理沙の方を見つめた。
正確には、魔理沙の背後に大きく口を開けていた両端をリボンで結ばれた空間の裂け目を……。
「君を探していたんだよ…………魔理沙……」
「ヨウ……レイム……」
「ま、魔理沙!! あなた、一ケ月も行方がわからなかったのに……一体どこに行ってたの!!」
「ユカリノイエニ、アソビニイッテタゼ……」
「そ、そう……なんか紫に変な事されたんじゃないでしょうね」
「ユカリン、チャントトウミンシテタヨ」
「……ならいいけど……」
「ユカリン……トウミンシテタヨ……」
「なんで二回もいうのよ?」
「……ダイジナコトダカラ、ニカイイエッテ……」
幻想郷の識者達の間でまことしやかに囁かれる流説である。
〝這い寄る混沌〟たる紫様に対し、レティ・ホワイトロックは〝膨れ女〟の顕現とされる。
〝月に吼ゆるもの〟と〝魔物の使者〟が式と式の式、両名を指す事は言うまでもないであろう。
何故私がこの深淵に触れても尚生かされているのか?
それは白痴の主神アザトートの化身、チ×ノ様を崇拝しているが故である。
……そんなわきゃねえ! 面白かったです。以上!
レティの正体が紫だというのなら納得がいくな
ところでさっきから家の周りが騒がしいなぁ。迷惑だから文句言ってくr
そーすると、彼女がゴスロリを着ているのは書物娘に対抗する為?
あ、宅配便だ。判子をださなk
もしかしたら皆神隠しにあって読んでないかもしれませんが・・・