Coolier - 新生・東方創想話

これは運命なのよ

2011/02/14 05:14:42
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「いいじゃないの!ちょっとくらいいいじゃないの!」

「ちょっとあなたいいかげんにしなさいよ!」

まだまだ寒い日が続く中、久しぶりに訪れた小春日和といっていい暖かな日差しがもう春は近いことを予感させる。
そんな博麗神社の境内に罵声が飛ぶ。声の調子からして明らかに非常時であることを伺わせる。
そう、母屋の炬燵の脇では今まさに花も恥らう乙女達による必死の攻防が繰り広げられていたのである。

「もうあきらめなさい霊夢!これは運命なのよ!抵抗は無意味なnギャッ」

「ふざけるな!あんたなんでも運命っていえば許されると思ってるんじゃないの!」

あまりにも理不尽すぎる降伏勧告を霊夢は頭突きで跳ね除ける。
さすがは幻想卿の異変をことごとく解決してきた守護者であるといえよう。
しかしながら現在の戦況はとても良いとはいえなかった。

まず相手が悪い。
永遠に紅い幼き月 レミリア・スカーレット
見かけは幼さの残る少女だ。やもすればその色の白さから、か弱い深窓の令嬢を連想するかもしれない。
しかしその本質はまったく異なる。齢は500を超え、夜の王として君臨する吸血鬼。
その性格は非常に好戦的であり、強引である。ぶっちゃけていってしまえばかなり我侭だ。
単に子供が我侭なだけならまだかわい気もあるというものだが、吸血鬼という種族が持つその力の強さは半端ではない。
その力、魔力、スピードは幻想卿全体で見ても高いレベルでまとまっている。
また、ただ力が強いというだけでなく紅魔館という勢力をその永い経験で培ったカリスマで率い
幻想境で初めてとなるスペルカード方式を使った異変を起こして見せた。
単に強い妖怪ではなく指導者としての力も持ち合わせるレミリアはまさに夜の王といえるだろう。

そして状況が悪い。
手四つの状態で組み合うという超接近戦である。しかも、レミリアが立ち上がっているにもかかわらず
霊夢は不意を突かれた形となり、炬燵から出ることこそできたものの座った姿勢から立ち上がることすらできない。
距離においても不利だ。霊夢の得意とする弾幕戦は中距離から遠距離、接近戦でも遅れをとることはないが組合うまで近づくと
なると話は別になってくる。いくら異変を解決してきたとはいえ拳で解決してきたわけではないのだ。
この状況では霊夢の弱点がもろに現れていた。霊夢とはいえ人間であり、少女であるのだ。
その力はレミリアと比べれば哀しくなるほど小さい。

(・・・やばい!なんか今日のレミリアは本気で来てる!なんとかしないと!)

霊夢は押され始めた現状を打開すべく再び頭突きをくりだそうとした。お互いに手がふさがっているこの状況で
相手の顔面という急所に打撃を与えられる頭突きは確かに有効だ。しかし相手もそれは同じならば早く出したもの勝ちである。
乙女としてその攻撃方法はどうなのかという問題は残るが圧倒的不利を覆すには多くは言ってられない。

「ふふふ・・・霊夢!あなたの考えなんてお見通しよ!さぁ!これるものなら来てみなさい!」

「って! あんた正気なの!」

霊夢の頭突き戦法は急遽中止された。何故か? レミリアが恐るべき方法で攻撃に転じてきたからである。

「霊夢~~~!チュ~~~!チュ~~~しましょ!」

「ひぃぃぃぃ!!!」

レミリアは霊夢の唇を奪いに来たのだ。頭突きなどされても問題はないむしろその隙に貴様ごと頂いてくれるわといったなんとも力押しな
この戦法によりレミリアは霊夢の反撃を封じたのだ。そして霊夢にもレミリアにもこの戦法はこの争いの勝敗を左右するほどの影響力を
持っているといえた。

レミリアの目的は霊夢にキスすることであり
霊夢はそれに抵抗しているからである。

(どうしてこんな目にあわなきゃならないのよ~)

頭突きができなくなった今、じわりじわりと近づくレミリアに抵抗する策を考えねばならない。
霊夢はことの始まりと自分の不用心さを思い出し歯噛みしていた。





朝方の寒さは追いやられ日が高く上り始めれば
冬とは違う暖かい日差しにより、境内の梅の花はすでに咲き誇ってる。
風は少し吹いているが肌寒くはなくむしろ心地よさを増しているように感じられる。
そんな中、のんびりと毎日の日課である境内の掃除の最中に霊夢は大きく体を伸ばして暖かい日の光と澄み切った空気を十分に味わっていた。

「今日は本当にいい天気ね、こんな日はほした布団もフカフカになるわ、今日のお布団は暖かお日様のお布団ね」

こんな天気であればこのまま縁側で寝てしまうのも悪くないという魅力的な考えをなんとか押し止め掃除を続けるものの頭に浮かぶのは
春らしく浮かれた考えばかりで掃除にもまったく身が入っていない。

「これだけ梅も咲いているし、桜の咲くのもそう遠くはないわね、お花見、お団子、桜餅~♪ 近いうちに宴会もできそうね」

博麗神社ではよく宴会が開かれる。その際の準備や片付けはおおむね霊夢が行わされその他の有志がこれを手伝っていることが多い。
そのため霊夢はよく他人に対して宴会は面倒であるといった態度をとることが多いのだが、霊夢も皆が集まって宴会をすることは結構好きなのである。
霊夢はあまり自分から他人に会いに行くほうではない。その割りに交友関係が広いのはもっぱら異変解決と博麗神社で開かれる宴会のおかげでなのだ。
特に幻想卿では厳しい冬の間、如何に力の強い妖怪であれ魔法の使える人間であれ博麗神社を訪れる回数は極端に減る。
単に寒いから皆出不精になるためではあるのだが霊夢としてはやはりさびしいのだ。
だが、春が訪れ桜の咲く頃になれば宴会や花見で博麗神社に誰も訪れないなどといった日々とはお別れになる。
だから春が近づくにつれ、霊夢がご機嫌になり掃除に身が入らなくなるのも仕方のないことなのだろう。

「久しぶりね霊夢」

「ひゃ!ってレミリア・・・久しぶりね、まったく驚かさないでほしいわ、あら?今日は咲夜と一緒じゃないの?」

うきうきと訪れた春を満喫しているところに不意に後ろから声をかけられ驚かされてしまったが
にやつきながら思いを巡らしていたところを見られずにすみホッとしながら春一番の来訪者と挨拶を交わす霊夢。

「春が近くなったんだしこんなに日も強くなってるわ、吸血鬼のお嬢様は出かけないほうが良いんじゃない
 瀟洒なメイドが日傘を持っててくれれば別なのかもしれないけどね」

確かにレミリアの側をいつも離れることなく仕える瀟洒なメイド長が見当たらずレミリアは自分で日傘をさしている。

「今日は一人よ、咲夜はお出かけしているの、ちょっと用事を頼んだからね、今お邪魔してもかまわないかしら?」

「いいわよ、あなたに日差しの中で立ち話ってのは酷でしょうし、私もちょうどお茶にしようと思ってたところだから」

霊夢は腕を頭の上で組み体を軽く伸ばした。日差しはさらに強くなっており今では少し汗ばむくらいだ。
少し休んでお茶を飲んでも罰は当たらないでしょと軽くひとりごつと霊夢は箒を母屋の壁に立てかけて屋内へと入ろうとした
その時レミリアがなんとも自信ありげに声をかける。

「・・・霊夢、布団と洗濯物はもう取り込んだほうが良いわよ」

霊夢はその言葉の意味を図りかねて首をかしげた。日はまだ強く時刻もちょうど正午になる少し前といったところ
朝から干したのでもう十分に乾き、日の光でフカフカとなってはいるがそう急いで取り込む必要は見受けられない。

「私を信用しなさい霊夢・・・これは運命なのよ」

「じゃあこの後雨でもふるって言うの?」

レミリアはその吸血鬼という種族のもつ特性のほかに、運命を操る程度の能力というものを持っている。
霊夢もそのことは重々承知しているのだが何せこの天気のため流石に半信半疑といったところだ。

「いえ天気は崩れないけど恐らく取り込む暇がなくなるわ、だから今のうちに取り込んでおいたほうが良いってことよ」

「ふぅん?まぁあんたが言うならそうなんでしょうけど暇がなくなるってのが気になるわね
 何か異変でも起こるってこと?あと暇がなくなるといったら宴会かしら?」

「ふふふ、私をもてなすのでとても忙しくなるわよって・・・冗談よ!そんな目で見ないで時間がなくなるのは本当だから!」

あわてて釈明するレミリア、やれやれとレミリアにメンチを切っていた霊夢はひとつため息をつくと脱ぎかけた履物を履き
釈然としない思いのまま布団と洗濯物を取り込み始めた。レミリアの能力は確かだし、なにより十分日の光を吸収した布団を
台無しにすることは避けたかったのだ。

「あんたも少しくらい手伝いなさいよ」

「いやよ、それに日傘を片手に持ってどうしろっていうの」

横で高みの見物を決め込んでいるレミリアに苦言を言うと、レミリアは高貴な身分はそんなことしないのよとでもいうように
ニヤニヤしながらさっさと縁側から屋内に入っていってしまった。なんてやつなのと霊夢は顔をしかめたが妙案が思い浮かんだようである。

「じゃあこれを居間の隣の部屋に運んどいて!」

「ひゃ!」

居間から庭をのんびりと眺めていたレミリアに布団を投げつける。布団は空中で広がり投網のようにレミリアを包み込んだ。
なんか布団の下で文句を言いながらばたばたとしているようだがレミリアが小さいため布団が波打っているようにしか見えない。
屋内なら問題ないでしょと霊夢は洗濯物の取り込みをしにまた庭先へと歩いていった。

「~~~!~~~!!」

後ろのほうで何か抗議の声も聞かれたが完全無視を続けたところ素直にレミリアは布団を運び始めた。
霊夢はちょっと意外に思いつつ、あとで取って置いた羊羹ぐらい出そうか、そもそも忠告してくれたわけだしと考えながら
洗濯物を取り込みはじめたが、ふと最初の疑問へと考えが向かった。

「でも本当になにかおこるのかしら?」

そう思うのも束の間、洗濯物を取り込み、レミリアに放り投げ、レミリアが霊夢の下着を凝視していたところを見つけて
速やかに張り倒して下着を奪取、数を確認、一枚足りない、全てをの過程を飛ばしてレミリアに死刑判決及び執行がされるなどの
些事をこなしたことにより、その疑問は頭の隅へと追いやられていったのであった。
なお、羊羹は煎餅へとランクダウンがなされた。




「・・・ごめんなさいってば~霊夢~機嫌直しなさいよ~~
 あれはね?ちょっとしたジョークなのよ?ほら、久しぶりに会うんだし空気を和ませる意味で・・・
 それに霊夢も悪いのよ?あんなふうに自分の下着を投げつけてくれば、もう振りとしか思えないじゃない?
 だから私はやらざるを得なかったのよ?ねぇ聞いてるの霊夢?」

霊夢の隣ではなにやら必死な様子でレミリアが弁解を試みている。当の霊夢は傍目には涼しい顔でお茶を飲んでいるが
レミリアにお茶を出す際にドンッと大きめな音を出しながら湯飲みを出したり、まったくレミリアと視線を合わさないあたり
今回のことでかなり機嫌を損ねてしまったと見て取ることができる。まぁ自分の下着を盗られたりすればそうなるのかもしれないが、
だが本当のところ霊夢はそれほど機嫌が悪くなっているわけではない。
ただここで怒っておかないとレミリアはどんどん増長して自分に対しておかしなイタズラを繰り返すと思ったのである。

(・・・そもそもなんで下着なんて盗ろうとしたのかしら?)

霊夢は言い訳を続ける吸血鬼を無視しながら考えを巡らせていた。上等なシルクであろうとこの吸血鬼なら難なく手に入るであろう。
自分の下着のようなものをわざわざ手に入れずとも良いではないか。では別の目的なのだろう。
そうだ紅魔館のあの魔女だ。あの魔女が新しい呪術を開発したのかもしれない。その術式に恐らく相手の下着が必要なのだ。
そう考えが行き着くと隣に座るこの必死に取り繕おうとする吸血鬼の少女も全く油断できないものに見えてくる。

「・・・あなた私の下着とってどうするつもりだったの?」

「自分で穿くのよ?」

今まで言い訳してた内容は何だったのかと言いたくなるほどの即答でレミリアは返した。対する霊夢の思考は混乱を余儀なくされる。
自分で穿くってことは・・・いやいや、人のを使いたいって発想がわからない、もしかしたら何か意味が込められているのかも知れない。
ほら、呪術とか吸血鬼の風習とかでそういうのがあるのかもしれない。早とちりは禁物と自分に言い聞かせ霊夢は心を落ち着ける。

「何で?」

「前にも言ったでしょ?私が霊夢のこと好きだからよ」

いやいやいやいや、霊夢は頭を振って自分の思考を整理しようとした。
確か以前、レミリアの起こした異変を解決した際にレミリアと対決した。そして辛くもレミリアを降すことができたのだが
どういうことなのかその時、レミリアにやたら気に入られたのだ。珍しく力の強い人間、自分の言うことを聞かない稀有な存在、紅白であること。
そういったことがレミリアの気を引いたのかもしれない。それからというもの確かにレミリアからのアプローチは多いと言えた。
だがそれは高貴な吸血鬼らしく上品なものであり、今回のようなことはなかったはずである。
霊夢は結論に達した。

(今日のレミリアはなんか変だし、早めに帰ってもらったほうが良さそうね)

だとすればこの会話を長く続けるよりは、今日来た用件を聞く、もしくは適当にお茶を飲みながら話し、さっさとお引取り願うのが良策である。
霊夢もそう考え、この話題を早々に切り上げて妙な感じになっているこの空気を変えようと試みた。

「ところでレミリア、今日久しぶりに会いに来てくれたのは春のご挨拶ってところなのかしら?」

「それは違うわ霊夢、今日は記念すべき日だから来たのよ」

記念すべき日、この言葉に霊夢は何の話だろうと首をかしげた。今日のレミリアは本当に言うことが突飛もない。
ちなみに幻想卿には祝日といったものなどあるわけもないのでそういったことではないはずだ。
レミリアの性格からして言いそうな霊夢と初めて会った記念日とかだったら、もう数ヶ月先の初夏のあたりである。
だったら時期的にこれしかないだろうバレンタインって思った奴・・・そんなんじゃねーぞ。リア充爆発しろ。

「う~ん記念日?ちょっと何のことかわからないわ、今日って何かあったかしら?」

「まぁ確かに霊夢がわからなくても無理はないわ」

いくら考えても思いつかず霊夢は首をかしげてレミリアに尋ねるが、レミリアは相変わらず要領の得ない返答をするばかりである。
それでいてその目はまるで霊夢を逃がさないとでもいうように霊夢からひと時も離れることがない。

「う~ん降参、教えなさいよ」

霊夢は座っている炬燵の上に倒れこむように腕と頭をつけてさっさと降伏宣言をする。霊夢の経験上、力の強い妖怪がこういった
よくわからないことを言い始めたときは大体面倒くさいことを思いついているときなので、さっさと会話を終わらせるにかぎるのだ。

「まぁもう少し考えてみなさい、お茶も残り少ないことだし霊夢が考えている間に私がお茶を淹れてきてあげるわ」

レミリアは霊夢の降伏宣言をやんわりと受け流して急須を持って台所へと歩いていった。
後に残された霊夢はその後姿を横目にしつつ、吸血鬼のお嬢様がお茶を淹れてくるというおかしな状況に少し笑ってしまう。
レミリアが博麗神社に何度か来た頃、あんたもお茶くらい淹れてみなさいと教えてやったのがきっかけなのだが最初の頃は酷いものだった。
お茶の葉を急須に一杯入れてしまったり、湯飲みに並々とお茶を注いできたりと大変なものだったのだ。
本人曰く多いほうが霊夢も喜ぶと思ったとのことなのだが霊夢から直接指導を受けた結果、今では見事にお茶を淹れてみせるようになったのである。
もちろん霊夢の飲むお茶は日本茶であるため日本茶に限るのだが。

「ねぇ~そろそろ教えてくれても良いんじゃない?」

「そうね、そろそろ教えてあげるわ」

霊夢としては大して聞きたくもないのだが恐らくこれを聞かなければこいつは帰るまいと考えたのであえて多少興味があるように尋ねる。
そんな霊夢に対して戻ってきたレミリアは仕方ないといった口調で新しくお茶を淹れた急須を炬燵の上に置き、霊夢の横に立ったままで
無い胸を張りつつ説明を始めた。霊夢もそれを横目に見ながら適当に相槌を打つ。

「今日はね」

うんうん、今日は?

「霊夢がね」

うんうん、私が?

「私のものになる日なの」

うんうん、レミリアのものになっちゃうのね





「・・・え?」

適当に相槌を打っていた霊夢の動きが止まる。それはまさに硬直、凍りついたといっていいような止まりかたである。
霊夢は隣で立っているレミリアを見返す。レミリアは相変わらず霊夢に対して笑いながら話しかけてくる。
だがその目は先ほどと同様、霊夢から片時も離れることは無い。決して逃がさないというかのように。

「これは運命なのよ、というわけで霊夢おめでとう今日からあなたは私のものよ」

「え?え?」

「全く今日は記念すべき日ね、これだけ素晴らしい日なら私達の記憶に刻まれ永遠に残り続けるわ」

「え?え?え?」

「さぁ霊夢!私のものになった証をあげる!口付けをしてあなたは私のものだって教えてあげるわ!あなたの運命はそれで確定するのよ!」

話しているうちにレミリアの声の調子は変わり、声量は大きくなり、だんだん芝居がかったものになってきている。
目はすでにぎらぎらと輝き、先ほどまでの無邪気な笑顔はどこへやら明らかに邪な表情になっている。
対する霊夢はいまだ混乱から立ち直れない。さっきまで適当に相槌打ってさっさと帰ってもらおうとだけ考えていたのだ。
こんな展開になるなんて考えてもいなかった。でもレミリアのテンションは有頂天だ。何とかしなければいけない。
必死に状況を整理する。

(・・・やばい!)

状況を整理したうえでその絶望的な条件に霊夢は舌打ちする。まずレミリアとの距離が近すぎる。何とかして離れなくてはいけない。
この距離では懐に常備してある退魔針とお札では対処できない。出そうとしてもその瞬間に大きな隙ができるため相手も当然そこを突いてくるであろう。
そして、いつも手元にあるお払い棒!あれさえあればまだ何とかなるのに!さっきまですぐそばの壁に立てかけてあったのに!なんで無い!
レミリアが声高に霊夢は俺の嫁宣言をする中、動揺を悟られぬよう必死に平常心を装いつつ横目でお払い棒を探す。

「霊夢、あなた・・・あの棒切れを探してるでしょう?」

唐突に言い放たれた言葉に霊夢は思わずレミリアを見返してしまう。
今まさにレミリアは単なる少女では持ち得ない夜の王、吸血鬼にふさわしい禍々しい笑みを浮かべつついかにも楽しそうに話し続ける。

「あれはね、ここには無いわよ、だって私が隠してしまったもの」

「!!!」

「そんな顔しないでドキドキしてきちゃうわ、全くあなたってのんきよね、夜の王がただお茶を淹れに立ったなんて思っているの?」

霊夢は言葉も無くレミリアをにらみつけるばかりだ。いや、にらみつけるというよりは驚愕でレミリアを見返しているだけといったほうが正しいのかもしれない。
おかしい!いつも自分が異変のときに発揮してきた勘の鋭さが発揮できていない!
博麗の巫女の強さはその力だけではない相手の弾幕、思惑、敵意、奪い取る金品の予想査定額を瞬時に理解する勘の鋭さが霊夢の強さの一因でもあるのだ。

「何で!私が感づかないなんて!」

「霊夢、あなたは気づいてないのかもしれないけどあなたの勘って相手が悪意や敵意を持っていないと働かないのよ?」

なんですかその超設定

「って酔っ払った隙間妖怪が教えてくれたわ、愛を持った覗き見ならばれないのよって
 もちろん私も霊夢に悪意なんてあるわけ無いわ、だって霊夢を幸せにしてあげたいんだもの」

隙間妖怪への殺意を固める霊夢。次にあいつが冬眠から覚めて会いにくるとき、それがあいつの命日になるだろう。
しかしこの状況を打開しない限り、隙間妖怪への挨拶の言葉が「こんにちは死ね!」から「こんにちは苗字変わったわ!」になりかねない。
まぁ霊夢を溺愛している隙間妖怪のことである後者のほうが致命傷になりうるとも考えられるが、そんなことより現状打破である。
何とかしてこの場から逃げ出さなければと霊夢が意を決して立ち上がろうとした瞬間をレミリアが逃すはずも無かった。

「さぁ!私のものになりなさい!」

「ちょっと!やめなさいよ!」

そして冒頭からのレミリアが霊夢に組み付き、それを何とか抑える霊夢といった姿勢になったのである。





「さぁ!霊夢~!チュ~~!!!!」

夜の王といった肩書きが泣き出すような台詞を吐くレミリア、しかしその目は一片の曇りも無い。奴は本気だ。
腕を抑えあっただけの体勢では頭突きは防げない。それと同時にこの恐るべきチュ~チュ~戦法も防ぐことはできない。
霊夢は瞬時にそれを悟り、すぐさま手をレミリアの両肩へ移す。なんとしてもこの恐ろしい突進を防がねばならないのだ。
しかしそれは同時に抑えていたレミリアの両手がフリーとなることを意味していた。

「ふふふ、霊夢ここまでやったことはほめてあげる、でもこれ以上の抵抗はもはや無意味よ!でも私も誇り高き吸血鬼
 無理強いであなたをものにするのは少し気が引けるわ、だからあなた交渉する機会をあげる」

「くっ・・・どういうことかしら?」

両者とも必死にお互いを牽制しながらの会話だ。レミリアはチュ~チュ~戦法を続行中であり、霊夢も顔を真っ赤にしてなんとか耐えている。
話をしてはいるものの一瞬たりとも手は抜けない。そんな中ある程度余裕を見せるレミリアから交渉を持ちかけたのだ。

「・・・条件は?」

「今抵抗をやめるならディープキス30分で勘弁してあげる!拒否なら続きは夜伽でごらんくださいよ!」

おい馬鹿やめろ

「さぁ返事を聞かせてもらいましょうか!」

「NOにきまってんでしょ!!!っていうか額とか頬にキスくらいで妥協するべきとこじゃないのそこは!」

最初から交渉する気があるとは思えない条件に霊夢は即答する。そもそもその選択肢ではどちらを選んでも創想話では打ち切りモードである。
そして霊夢はただ交渉拒否したわけではなく、現状の体勢が有利であることに気づいたから拒否したのである。
レミリアは霊夢と比べ小柄な体格をしている。つまり腕も短い。腕同士を組み合う体勢ならば腕力があるレミリアが有利だが
今のように肩に手を当てて抑えてしまえば相手は近づきようも無いのだ。
その証拠に自由となったレミリアの両手は霊夢の体に届かず空をかくのみである。
一度は霊夢の袖をつかんだのだが、残念ながら脱着式だったため脇巫女をノースリーブ巫女に変えただけとなった。

(よし!これなら何とかいけそうだわ、このまま立ち上がりさえすれば体制の不利は覆り、距離もとれ・・・)

霊夢の顔に一条の希望の光がさす。しかし、目前の悪魔はその希望を吹き飛ばすかのように邪悪に微笑んだ。

「・・・残念だわ霊夢、ここで折れることがあなたにとって最良であると思ったんだけどね
 霊夢は初めてだろうし最初は手加減してあげようと思ったけど気が変わったわ・・・」

「30分のどこが最良なのよ!」

「そんなことはもうどうでもいいわ霊夢、だってあなたは選んでしまったのだもの、さぁ!覚悟しなさい!」

その瞬間、霊夢の目論見は消し飛んだ。レミリアが自由になっている腕を効果的に使ったとき
リーチの差という僅かな有利など無くなってしまうことを察知できなかったのだ。レミリアが行ったこと!それは!

「それーこちょこちょこちょ~」

「ちょ!ちょっとやめて!レミリア!この卑怯者!」

夜の王レミリア・スカーレットのチュ~チュ~戦法に続く第二弾!脇コチョコチョ戦法である!
何ということだろう!ノースリーブがここで仇になるとは!見事な伏線回収だ!
かっこよく紹介したつもりだが全く様にならない。しかしながら脇属性を持つ霊夢にこうかはばつぐんだ!

「ほーれほーれ無駄な抵抗はやめろ~」

「あははっちょっとやめてお願い、レミリアふざけないで!ほんとやめて!」

霊夢はできる限り怖い顔をしてレミリアを怯ませて止めさせようとするがそんなもので止めるくらいならこんなことにはなっていない。

「ほらほら~これでも抵抗するの~?」

「アッァン ちょっと やめ お願ヒァン」

なんだか会話だけだと変な方向に向かっているように取られかねない、これはくすぐられているだけである。
しかし恐るべきはレミリア・スカーレット完全に霊夢の抵抗を無力化しつつある。
この戦法がもし胸でももんでいたとしたら間違いなく打ち切りであった。そのあたりの配慮も夜の王たる所以なのであろうか。

「ふざけないで!これ以上好きにされてたまるもnキャ!」

それに耐え何とか抵抗しようと全神経を奮い立たせレミリアを押し返そうとしたそのとき
霊夢は決定的なミスを犯すことになってしまった。バランスを崩し後ろに倒れこんでしまったのだ。

(しまっ・・・やばい!このままじゃやばい!すぐはなれないと!)

仰向けになりかけながら片手でレミリアを牽制し、もう片手で後ろへと下がりつつ体勢を立て直す!
瞬時の状況判断とその行動の的確さは流石は博麗の巫女と言えるだろう。レミリアはといえば楽しむかのような目つきで
後ずさりする霊夢を追ってくる。一瞬たりとも隙は見せられない。

(早く体勢を立て直さないと・・・隣の部屋の襖にぶつかっちゃ・・・)

霊夢の心配は杞憂に終わった。襖は開いていたのだ。
なぜ襖が開いているのか、普段は居間に寒気が流れ込むのを嫌って閉めているはずだ。何故なのか。
しかしそんなことを考えている余裕は無い。レミリアはいまもすぐ目の前に迫っているのだ。
そのまま後ずさりしながら、敷居を越えて隣の部屋へ移った霊夢は手と膝に畳とは違った感触を感じ取り初めて周りの様子に気がついた。

「な、なんで、なんで布団が敷いてあるのよ・・・」

霊夢は綺麗に敷かれた布団の上にいたのだ。しかもその部屋の襖からは僅かながら魔力が感じ取れる。
恐らく全ての襖に魔力がかけられているのだろう。自分が入ってきた居間と接する襖以外は締め切られ昼間だと言うのに薄暗い。
布団の横には火の灯った行灯が柔らかな明かりをだし、ご丁寧に霊夢の好きな匂いの香まで焚かれている。

「レ、レミリアもしかしてあなたが・・・」

「気に入ってくれたかしら?結構気を使ったつもりなのよ?・・・じゃあ霊夢続きをしましょうか!」

後ろ手に襖を閉め、レミリアが飛びかかってくる。その様子はまさに伝説の大怪盗を彷彿させる見事なものであった。
そんな中でも霊夢は冷静に状況を分析する。襖は恐らく魔力で固められている。開けるのには時間がかかりそうだ。
部屋にこの吸血鬼と閉じ込められた。すでにレミリアは飛びかかってきている。これをなんとか防いだ後、距離を稼ぎ
弾幕戦に持ち込む。その際狙いはレミリアとその後ろの襖。どちらに当てようともチャンスは訪れる。
なんとかその状態へ持っていかなければ!
助かりたいときは神に祈ってはならない。最後まで諦めずに行動する。
これが霊夢の弾幕戦に限らず全てにおいての考えだ。立派なことこの上ないがお前は本当に巫女なのか。

飛び掛ってきたレミリアを手で押さえ、曲げた足をその間に何とかねじ込みレミリアを引き剥がしにかかる。
人間とはいえ足を使い全身のばねを活かせば不自然な体制でしがみつくレミリアを引き剥がせるはずだ。

「むぐぐ~霊夢いい加減に諦めむぎゅぎゅ~」

「諦めるわけ無いでしょ!」

霊夢はレミリアの顔に足を押し付け、思い切り引き剥がしにかかった。可愛そうにレミリアの端正な顔立ちも足で押さえつけられ
凄まじいことになっている。レミリアに仕えている咲夜などが見たら卒倒ものであろう。
しかし、レミリアのほうもここが正念場と全く諦める様子が見れない。その腕力をフルに使い霊夢にしがみつく。

「いいかげんに!離れなさいよ!」

「むぐぐぐ~絶対いや!霊夢は今日私のものになるの!」

その拮抗に変化が訪れた。少しづつレミリアが引き剥がされ始めたのだ。
レミリアはもう必死だ。今までの余裕は無い。ここまで来て諦められない。長い間下準備をしてきたのだ。今日しかないのだ。
ここで逃げられてしまえばきっともうこんなチャンスは巡って来ない。夜の王も紅魔館の主も関係ない。
今レミリアを支えるのはただ霊夢を愛する思いであった。格好いいことをいっているが今の潰れた顔で台無しなのは否めない。

目の端にはもう涙を浮かべ、顔も真っ赤にし、必死の形相で霊夢にしがみつく。
それを見て霊夢も多少思うところはあるのだろう。少し躊躇いの表情を見せる。しかしこの状況から逃れるためには仕方ない。

「レミリア、あなたのことは嫌いじゃないけど、こういう強引なのはお断りよ」

「ふぬぬぬ~むぎゅ~うぅぅ」

「じゃあいくわよ!」

霊夢はレミリアに引導を渡すべく、全身の力を入れ一気に引き剥がしにかかった。
そこで誤算が起きる。レミリアを引き剥がそうと力を込めた足が勢いが余ったか、レミリアの必死の汗が生んだ奇跡か、いわゆるお約束というやつか、
霊夢の足が滑ったのだ。

「・・・え?」

思わず霊夢は声を上げる。霊夢の足はレミリアを引き剥がすことなく、レミリアの顔を両膝に挟む形で止まってしまったのだ。
霊夢は瞬時に状況を判断した。もう一度足を曲げてレミリアとの間に入れられるか?無理だ。すでにレミリアは足を手で押さえてる。
それよりも・・・そんなことよりも・・・この体勢はやばい!レミリアの接近を防ぐのが難しいばかりか・・・

「霊夢~~~!」

このままいけばレミリアの顔が霊夢の花園まっしぐらである。
既にレミリアはその状況を把握したらしい凄まじい力で押してきている。霊夢も必死に足を閉じて防ごうと試みるがとても長くは耐えられない。
霊夢は判断した。お手上げである。

「レ!レミリア!ちょっと待ってお願いだからちょっと待って!」

「フゥーッフゥーッどうしたの霊夢、この期に及んで言葉はもう必要ではないわ!」

霊夢の膝に顔を挟まれつつ視線を上げるレミリア、その目は既に霊夢を見ておらずどこか違うところを見ているようにすら見える。花園的な意味で、

「降参よ!降参するわ!さっきの条件でいいからもう許して!」

今度は霊夢のほうが必死だ。目には涙を浮かべ、顔は真っ赤である。
それを見てレミリアも多少思うところはあるのだろう。少し戸惑いの表情を見せる。しかしこの状況から逃がしはしない。

「霊夢、さっきの条件はもう使えないわ、状況も変わってるなら条件も変わるのよ?今のレートでいうならば・・・」

「・・・いうならば?」

「私と1日デートしてもらうことになるわね」

それくらいならばと考えを巡らす霊夢に追い討ちをかけるかのようにレミリアは天使のような笑みを浮かべつつ言い放つ

「ただし!デートの開始時間!場所!シュチュエーション!条件の全ては私が決定するわ!そしてデート中に私の要求にNOは許されない!」

「そんなの無理よ!今すぐ24時間おいしく頂かれちゃうだけじゃない!」

契約に関することについては流石悪魔といったところだろうか全く抜け目が無い。しかしそれは同時に霊夢の逃げ場が無いことを意味する。
今となっては30分ディープキスという条件が慈悲深く感じるほどだ。あの時妥協しておけばと後悔するも既にとき遅しである。

「それは仕方が無いわ霊夢、悪魔っていうのは自分の不利になる取引は絶対しないの
 それにね?霊夢がこれを断れば後々さらに条件は悪くなるのよ?」

「どういうことよ!」

霊夢は身を振るわせるこれ以上の条件とはいかほどのものなのか想像もできなかったからである。もはや勝ち誇った笑いを浮かべるレミリアを
恐怖と怯えの入り混じった表情で見つめる。レミリアにはその表情すら心地よいものなのだろう。
ああ、今こそ霊夢が自分のものになる。一体いくつもの夜、霊夢への想いをはせながら過ごしただろう。今日という日が訪れるのを私はずっと待っていたのだ。
もうレミリアのテンションは有頂天を超え、成層圏を軽々貫き、月にまで到達する勢いだ。月まで届けおぜうのテンション。月人は迷惑そうですが。

「あと数分後には、私と結ばれて第1子の名前を二人で幸せに考えるところまでいくわ
 ちなみにもう私は考えてあるのよ? 私たちの子だし、くりむぞん・スカーレットなんて格好いいと思わない?」

「そんなDQNネームらめぇぇぇ」

霊夢はもう既に抵抗することもできない。レミリアはすでに両足の間に体を入れており、仰向けになった霊夢を上から押さえつけている。
レミリアの顔も霊夢の顔のすぐ上にまで来ている。もう逃げ出すことは不可能だ。誰か助けて、そう考えたとき霊夢の思考はまた回り始めた。
そうなのだ。確かにまだ春先とはいえレミリア以外誰もこないというのはおかしい。今日みたいに暖かい日であれば2、3人訪れてもおかしくないのだ。
霊夢はそこに淡い希望を寄せ、レミリアと交渉を図ろうとする。

「あなた・・・こんなことをしても誰か来さえすれば」

「誰も来ないわよ」

「え・・・」

「絶対に誰も来ないわ、明日の昼ごろまで私たちは二人きりよ」

レミリアは芝居がかった口調で話し始めた。いつもそうなのだ。力の強い妖怪がこういったよくわからないことを言い始めたときは
大体面倒くさいことを思いついているときなのだ。普段の霊夢なら適当にあしらいさっさと追い払うだろう。でも今の霊夢には
レミリアの話を聞くこと以外できることはなかったのである。

「あなたと出会ってからずっと準備してたの、本当に苦労したわ、準備が終わりそうになるたびに新しい要素が加わって台無しに
 してくれるの、それをひたすらに耐えて少しずつ調整したわ、いくら私に運命を操る能力があると言ってもたいしたことはできない
 だから今回の状況を作り上げるためには少なからず他人の手を借りることになったわね、あの子達には感謝しないとね」

「・・・どういうこと?」

「今現在、
 隙間妖怪は冬眠中、その隙間に霊夢の監視を任されている式は咲夜に外の世界のお料理を教えてるところよ
 白黒魔法使いは私の館でフランとお茶でも飲んでるわ
 七色魔法使いはパチェとお出かけ妖怪の山に行ってるの、機械とかいう魔法を見学させてもらうためよ
 きっと山の神にも天狗にも挨拶するだろうからあちらとしても手が離せないでしょうね
 竹林は人里でいんふるなんとかっていう流行り病が出てるせいで忙しい
 いつもここにいる鬼はうちの門番を鍛えてくれてるのよ?頑張ってほしいところね・・・他にもあるけどまだ聞きたい?」

「もういいわ・・・」

既に詰んでいたのだ。レミリアが今日、私の前に現れた時点で詰んでいたのだ。今まで必死に抗って来たのが馬鹿らしい。
霊夢は既に捨て鉢状態になっていた。もうどうでもいい好きにすればいい。力及ばずこの吸血鬼に手篭めにされてしまうのだ。
必死なレミリアを引き剥がそうとした際に少し可哀想と感じた自分が嫌になる。こいつは結局妖怪だ。自分を攫って好きにするのだ。
そんな奴に人間らしい感情を求めるべきではなかったのだ。

「好きにしなさい」

そっぽを向きながら霊夢は言い放った。レミリアは少し驚いた顔をするがすぐに勝ち誇った笑みを取り戻す。

「じゃあ私の提示した条件を受け入れるってことでいいかしら?霊夢を1日私の好きにさせてもらうわよ?」

「・・・1児の母じゃないのね」

「まだそれほど時間は過ぎてないもの、でもさっきとは少し違うわ、悪魔は契約に関することには細かいのよ」

「変なとこで律儀なのね・・・わかったわそれでいい受け入れる、もう好きにしなさい」

ぶっきらぼうに言い放つ霊夢にレミリアはクスクスと面白そうに笑う。その表情は無邪気でまさに天使のようだ。
実際は吸血鬼であること、そしてこれから自分を好き勝手にしようとしている張本人であることさえなければ
霊夢はその笑顔に惹きこまれるであろうと認めざるを得なかった。

「じゃあ霊夢」

ほらきなすった。

「キスさせてね」





朝の寒気がまだ引かぬ中、鳥達の鳴き声で目が覚める。襖を通して見えるのはまだ弱いが確かに春のおとずれを感じさせる日の光。
「おい!朝チュンかよ!」「描写なしかよ!」「責任者を呼んで来い!」
そんな声がどこからか聞こえる。そんないつもの朝、いつもと違うのは霊夢の腕の中にレミリアが居ることだろうか。
霊夢はまだ覚醒しきっていない頭で腕の中のぬくもりについて考えていた。

そう昨日私はレミリアにキスをされた。しかしそれだけだったのだ。
その後、確かに一緒に料理したり食事したりと一緒に過ごしたわけではある。その間レミリアはべったり霊夢に寄り添い離れることは無かった。
だが霊夢が危惧したような危険は全く訪れなかったのである。それは何故なのか?霊夢は思考をめぐらせた。
あれだけ時間をかけて準備したと言っていたのだ。それに見合う結果を求めるのが普通である。
私が捨て鉢になったから嫌気がさした? 直前になって私への想いが色褪せた? やはり一番有力なのはレミリアがヘタレで・・・

「なにか失礼なことを考えてるわね」

突然眠っていたとばかり考えていたレミリアが口を開く。実はずいぶん前から起きていたのだろうか。
考えを言い当てられ、いきなり声かけをされた驚きはできるだけ顔に出さずに平静を装った態度を取り繕い霊夢も返す。

「起きてるならさっさと言ってよ、布団から出られないじゃない」

「出なくていいのよ、しばらくこうしていたいの
 まだあなたの飲んだ条件である1日は過ぎてないのよ?」

何も言い返せず霊夢は口を閉じるしかなかった。そして先ほどの疑問にまた考えを巡らす。
腕の中のレミリアはぴったりと寄り添い霊夢を見つめている。何がおかしいのかニヤニヤしながら、
なんとなく負けじと見つめ返したが気恥ずかしくなった霊夢はこちらから会話を切り出すことにした。

「あなたのことだし、もっととんでもない要求をしてくるのかと思ってたわ。」

「例えば?」

「第1子の名前を考えるとかよ、あれだけのことをしてきたからある程度覚悟してたけどなんだか拍子抜けだわ」

その言葉を聴いてレミリアはさも満足したとの顔になる。その顔を見た霊夢は少し後悔をした。
まだレミリアの出した条件である時間は過ぎていない。レミリアがその気になりさえすればいつでも霊夢を好きにできるのだ。
しかし、レミリアが発した台詞はまたしても突飛も無い言葉であった。

「私は霊夢が好きなの、その霊夢に嫌われることをするわけ無いじゃない」

ほう、あれだけ昨日追い詰めておいてそう抜かすか。
霊夢が殺意の波動に目覚めようとしたとき、レミリアはその様子に全く臆することなく言い放つ、

「それにね霊夢」

「・・・?」

「前にも言ったでしょ?悪魔っていうのは自分の不利になる取引は絶対しないのよ」

「・・・? どういうこと話が読めないわ」

「運命にはきっかけが必要なのよ、昨日のキスみたいなものがね」

全く要領を得ない霊夢を眺め面白そうに笑うレミリア、
全く吸血鬼の癖に天使のようだ。と改めて霊夢も認めざるをえない。
だがその笑みも次の瞬間には邪なものへと変わり果てる。やれやれほめたとたんにこれだ。
霊夢はため息をつきつつ、この運命を司る悪魔に伺いを立てることにした。

「じゃあそのきっかけとやらはこれからどう働くって言うのよ?」

「そうね・・・例えて言うなら・・・
 そろそろ第2子の名前を考える必要があるわね」

「・・・え?」

「さぁ霊夢、素敵な朝よ目覚めのキスが欲しいわ」

「え?え?」

「もう諦めなさい霊夢、これは運命なのよ」

「え?え?え?」

既に詰んでいたのだ。レミリアが昨日、私の前に現れた時点で詰んでいたのだ。
腕の中の運命は天使のような顔で邪悪な笑いを浮かべていた。
初犯なんです!許してください!
悪気は無かったんです!
素敵なまことさん
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コメント



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2.60名前が無い程度の能力削除
幻想卿×
幻想郷○

このあたりの誤字は本当に多いので気をつけたほうがいいのかも…
4.100名前が無い程度の能力削除
なにこれ面白い
レミリアらしい言い回しが良かったです。
霊夢は・・・既に惚れていて目が曇っていた?

続きがあるのなら、読んでみたいです。

とりあえず、どんなヴァンピーラが生まれるか楽しみです。
7.100名前が無い程度の能力削除
許した
11.100名前が無い程度の能力削除
ジャスティスキタコレ
13.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
14.100名前が無い程度の能力削除
久々に霊レミ、捗るな…
16.100名前が無い程度の能力削除
だが許す。
17.100名前が無い程度の能力削除
作者のせいでレイレミ中毒患者になってしまった 責任取りなさいよね
19.100名前が無い程度の能力削除
レミ霊はデスティニーだと再確認
24.80名前が無い程度の能力削除
小兎姫「続きは署の方で聞かしてもらいましょうか」