八雲紫は空中をヒラヒラと飛んでいた。
弾幕ごっこ中に見せるような飛翔では無い。
爆風に吹き飛ばされていたのだ。
その証拠に、体が不自然にキリモミ回転している。
「ど、どうして‥‥どうして私がこんな目に‥‥」
涙をはらはらと流しながら思い返す。
飛び散る雫が美しい。
あれは確か、三日ほど前の事だっただろうか。
その日、幻想郷に異変が起きた。
否、幻想郷における異変といえば、妖怪辺りが故意に引き起こす騒動である。
今回起きた事件は、怪異とでも呼んでおく事にしよう。
その怪異に真っ先に気が付いたのは、博麗の巫女だった。
いつものように目覚め、いつものように朝食を摂り、いつものように境内の掃除を始めた時。
いつもは無い物がそこにあった。
「な、何よこれぇ!?」
博麗神社の境内、鳥居の横付近に突き刺さっていたのだ。
車が。
「え? ちょっと‥‥な、何これ。いや、本当に」
混乱する霊夢。
自動車など見た事が無いのだから無理も無い。
万一自動車に見慣れていても、この状況ならば同じ反応になるだろう。
そんな彼女の背後から突然声をかける者があった。
「はぁい霊夢。いい朝ね」
「ゆ、紫。なんなのこれ!」
「へ? 何が? ‥‥な、何これ?」
「知らないわよ! アンタの仕業でしょ!?」
「誤解よ誤解! なんでもかんでも私のせいにしないでちょうだい!」
喧々諤々と言い合っているその時、事態を更に混乱させる声が響く。
「れれれ、霊夢! 異変だ! 異変が起きたぜ!」
「紫~、白玉楼の庭に変な物が落ちてるのよ」
「ちょっと霊夢! 紅魔館の屋根に、わけの分からない物が突き刺さってるんだけど! 二つも!」
「霊夢さん! 守矢神社の‥‥」
「永遠亭が‥‥」
「妖怪の山に‥‥」
「ちょちょ、ちょっと待った! これ、これ見て! 私のうちも今まさにそうなってるの!」
続々と集まってくる人妖。
その目が境内に突き刺さる異形に向けられる。
そして次に、霊夢と同じく目をパチクリさせている紫に向けられる。
「なんだ、また紫が何かやったのか」
「んもう、紫ったら。妖夢もビックリしてたわよ~」
「ちちち、違うったら!」
とんだ濡れ衣であった。
「どう? 何かわかった?」
「まあ大体はね」
何とか濡れ衣を晴らした紫は、謎の車を調べていた。
「付喪神って知ってるでしょう? 古くなった道具に魂が宿って生まれる妖怪ね」
「ああ、傘とかの?」
「そうそう。で、これはその途中段階。意思を持ち始めた段階ね。数週間もすれば、立派な妖怪の出来上がりよ」
「ふーん‥‥どうするの?」
「詳しくは面倒だから省くけど、これは外の世界で自動車と呼ばれている乗り物なの。けれど、幻想郷にはまだ自動車は存在していない。自動車の妖怪が誕生するのは、早すぎるわ」
「乗り物? これが?」
「そう。だから今の内に手を打って、妖怪化を防ぐ必要があるわ。で、そのためには‥‥」
そう言いながら、突き刺さっている車体を撫でる。
「この子の未練を断ち切ってあげるのが手っ取り早いわね。恐らく、まだ走り足りないのよ」
「って事は‥‥その自動車とやらが満足するまで、乗り回してやればいいって事?」
「そうね。そう単純だといいんだけれど‥‥」
「へえ、これが乗り物ねえ‥‥」
紫と同じく車体を撫でる霊夢。
車体の後方に立つ、煙突のような部分に触れた時だった。
「こ、これは‥‥私を呼んでるみたい。なんだかこう、ひどく落ち着くっていうか‥‥」
「あら、相性がいいのかしら。わざわざ博麗神社に落ちてきたくらいですものね。乗ってみたら?」
「うん。‥‥あら? なんか違和感があるっていうか‥‥物足りない感じがするわね」
「どういう意味?」
「わかんないけど‥‥」
「あ、あの‥‥」
「あら、どうしたの? 早苗」
「私も乗ってみていいですか? なんだか、そわそわしちゃって‥‥」
「あら、変ねえ。霊夢が選ばれたんじゃないのかしら。まあいいわよ」
「では失礼して‥‥あっ!?」
「こ、これは!?」
早苗が乗り込んだ瞬間、つい今しがたまで地面にめり込んでいた車体が眩く光を放ち、まるで新車のような状態になった。
煙突からはモウモウと煙が上がり、シュッポシュッポとエンジンが稼動している。
「す、凄いぜ! なんだこれ!?」
「どうやら、霊夢と早苗の二人乗りが指名されたみたいね。ま、いいわ。じゃあせっかくだし、そのまま二人で適当に走り回って‥‥」
「ち、違う! そんなんじゃないわ!」
「え?」
「そう! 違うんです! この子が求めているのは、ただの走りなんかじゃない! 私達にはわかります!」
「な、何が? 何がわかったの?」
「この車が私達に訴えかけてくるの! 『ライバル達と戦いたい! 残りの10台に、何としても勝ちたい!』って‥‥」
「か、勝ちたい? つまり、競争をしないと車に残った未練は消えないって事?」
紫の質問に反応するかのように、自動車が汽笛を鳴らす。
自動車なのに汽笛を鳴らす。
「10台ねえ‥‥みんなのところも、似たような状況なのよね?」
「ああ。私のところは、家じゃなくて森に落ちてたんだけどな。だからひょっとしたら、アリスの物なのかも知れないぜ」
「紅魔館には2台よ。長いのが1台と、後ろに小さな紅魔館みたいなのがついたのが1台」
「妖怪の山にも2台ですね。私達の縄張りと、河童の縄張りに一台ずつ」
「私のところは1台だけだったわね。ね? 妖夢」
「永遠亭も1台だけ。朝、姫様の布団に突き刺さってて‥‥」
「それから守矢神社ね。2台ほど足りないけれど‥‥」
「こらー! アンタ達ー!」
威勢よく声を出しながら飛んできたのは、氷の妖精チルノだった。
「なんて事すんのよ! 湖に変な物捨ててさ! 『ふほーとーき』っていうんでしょ!? アタイ知ってるんだからね!」
「‥‥あと1台ね」
「へ? 何? どういう事?」
「いいから湖に帰って、その変な物に乗ってみろ。なんとなくわかるぜ」
「わかった! そうする!」
来た時と同じ速度でビューンと飛んでいくチルノを見送って、残された面々は顔を見合わせる。
「で、どうするの?」
「まあ、乗りかかった船だしね~」
「最近誰かが異変起こす事も無くて記事にも困ってますし‥‥」
「面白そうだし、いっちょやってみようぜ!」
「それじゃ、残りの1台も探さないと」
この日は解散する事になったのであった。
永遠亭
「なるほど。じゃあつまり、誰かがこれに乗って‥‥」
「ええ。競争に出ないといけないそうです」
「へえ、面白そうね。早速誰が乗れるのか試してみましょうよ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「あら? どうしたの?」
永琳と鈴仙が輝夜を見る。
車の下に挟まっている輝夜を見る。
「‥‥多分、姫様じゃないですかね」
「ええ、そんなにジャストミートしてるんですもの」
「あら、私ったら選ばれたのね。うふふ」
「いや、割と笑い事じゃないと思うんですが」
蓬莱山輝夜といえば、元々は姫だった身である。
「そういえば、何だか眩暈がしてきたわね。‥‥助けてぇ~」
それ故に、大変おっとりしているのであった。
「さて、姫様も助けたし、一応試してみます?」
「そうね。よいしょっと‥‥」
「どうです? 霊夢達の場合はなんだかこう、車がビカビカーって‥‥」
ビカビカーッ!
「わっ! 光った!」
「わあ‥‥」
「姫様? どんな具合ですか?」
「なんだか、凄く楽しくなってきたわ。ここに座っているだけで‥‥走っていれば天国、みたいな気持ちになってくるわね」
「じゃあやっぱり‥‥」
「ええ。この自動車は、姫様を選んだみたいね。しかし‥‥」
「どうしたんですか?」
「なんていうかこう‥‥悪趣味じゃない?」
「た、確かに‥‥全体がピンク色で、正面に顔の模様って‥‥」
「ちょっと二人共。私の愛車に失礼な事を言わないでくれる?」
「す、すみません‥‥」
「でもやっぱり‥‥ぷふっ」
こうして、永遠亭に落ちたマシンのドライバーは蓬莱山輝夜となった。
紅魔館
「‥‥と、いうわけで、我が紅魔館も今回の騒動に参加する事になったわ」
「ですよねー」
レミリアと咲夜の報告を受けた美鈴は、予想が的中していた事に苦笑いを浮かべる。
そんな面白そうな事件を、この主が見逃す筈が無いのだ。
「多分、私はこっちだと思うのよ。後ろに小さい紅魔館っぽいのもついてるし」
「お嬢様が乗るなら、私もこっちですかね」
そう言いながらレミリアと咲夜が乗り込むが、これといった反応は無い。
「おかしいわねえ。霊夢達の時は‥‥」
「ねえレミィ。ちょっといい?」
「ん? どしたの?」
黙って話を聞いていたパチュリーが、車体に備え付けられたミニ紅魔館っぽいものに入っていく。
「‥‥やっぱり。なんだか、凄く落ち着くわ」
「マジで。そんな狭っ苦しいところに?」
「お姉様ー。私もパチュリーと同じところに入りたいよう」
「ええ? 流石にそれは‥‥」
「えいっ!」
すぽん!
「‥‥入っちゃったわね」
「でも光りませんね」
「それじゃあ私も‥‥」
美鈴が車に近付いた時だった。
「きゃっ!?」
助手席に乗っていた咲夜がボヨンと弾き飛ばされ、その途端に車体が光を帯びる。
「おぉー。美鈴だったのね」
「確かに、なんだかしっくりきますね。でも、どうして咲夜さんじゃなかったんでしょうね」
「妖怪用なのかしら。雰囲気も禍々しい感じだし」
わいわいと騒ぎ始める面々を余所に、咲夜は取り残された気持ちになっていた。
「そ、そんな‥‥では私はこっちなのかしら‥‥」
咲夜がもう1台の方を見ると、見慣れない物の存在に浮かれた妖精メイド達の遊び道具になっていた。
「こら、あなた達! これは大事な‥‥え?」
妖精を叱ろうと足を一歩踏み出した瞬間、もう1台の車も力を得る。
「う、嘘っ!? この子達も一緒って事?」
「え? え? なんですかこれー?」
「面白ーい!」
キャイキャイとはしゃぐ妖精は6人。
咲夜を含めて、7人のメイドが乗車する事となる。
しばらく呆然としていた咲夜だったが、車の放つ光を見ているうちに表情が変化する。
「あなた達。‥‥やるからには、徹底的にやるわよ。例え相手がお嬢様達だったとしても、ね‥‥」
その顔は、既にレーサーのそれであった。
その頃、窓から見える湖畔では、チルノが一所懸命に車体と戯れていた。
白玉楼
「ねえ妖夢?」
「はい」
「これ、多分二人乗りよね?」
「そう‥‥みたいですね」
「多分、私と妖夢よね?」
「恐らくは」
白玉楼の庭園に鎮座する車体。
それを眺めながら、二人は確認しあうように話している。
「ねえ妖夢。私って、目は悪く無かった筈よね?」
「はい。問題無かったかと」
「‥‥これ、石よね?」
「石‥‥ですね」
二人の眼前で光を放っているその車体は、見紛う事無き石の塊だった。
「石に乗って走るの? 私達」
「そうなりますね」
「‥‥これ、ハズレよね?」
「大ハズレですね。多分」
二人が覚悟を決めるまで、更に数十分の時間を要する事になる。
魔法の森
ドンドンドン!
「アリスー! 開けてくれよー! アリスってばー!」
「嫌よ! なんで私が、そんなわけ分からない物に乗って、わけ分からない事件に巻き込まれなきゃいけないのよ!」
「意地悪するなよぉ。これ、多分二人乗りなんだよぉ」
森へ戻った魔理沙が車に乗り込んでみると、先の霊夢と同じく、物足りなさを感じた。
そこで魔理沙はその足で、同じく森に住むアリスの元へとやってきたのだった。
「あーけーろーよー」
「嫌だってば。他にも色々いるでしょ? 誰か別の人を当たりなさいよ」
「乗れる奴が決まってるんだって。他の奴じゃ無理だよー」
「知らないわよ。とにかく、私を巻き込まないでちょうだい」
聞いたところによれば、此度の一件には霊夢を始め、レミリアや幽々子、紫といった面々が顔を揃えていると聞く。
そんなラスボス級が蠢いている中に突っ込んで行けと言うのか。
冗談では無い。
それがアリスの考えだった。
必死にドアを押さえつけ魔理沙の進入を拒み続けていると、けたたましく鳴っていたドアのノック音が途絶える。
「ん? やっと諦め‥‥」
「この車、妖怪になりかけてるんだってさ」
突然声のトーンが変わった事をアリスは不審に思う。
「見た事も無い大きい機械に宿る魂なんだ。きっとそれなりに力があるんだろうな」
「そ、そうかもね」
「乗った途端に、あの霊夢の精神にすら影響が出るんだもんな」
「そうね」
「そんな危険な物に、アリスを巻き込めないよな。うん、私一人で何とかしてみるよ」
「うっ‥‥」
「‥‥もしも、万が一私に何かあったらさ、アリスに借りてる本、家に取りにきてくれよ。ちゃんと綺麗に並べてあるからさ」
「うう‥‥っ!」
「じゃあな。迷惑かけたな」
「ま、魔理沙! ちょっと待ちなさ‥‥!」
開いたドアの先には、涙目の魔理沙が満面の笑みで立っていた。
妖怪の山
「これはこれは、にとりさん。やっぱりあなたが乗る事になりましたか」
「ありゃ、天狗の。そっちも?」
「ええ。今は慣らし運転中です。それにしても、外の世界の技術は凄いですね。これなんて、ちょっとの間なら空を飛べるみたいですよ」
「なんのなんの。これなんか‥‥ほら」
にとりがスイッチを押すと、乗っていた車の形がガシャガシャと変わっていく。
最終的には船のような形になってしまった。
「あややや、これは凄い」
「でしょ!? しかもさ、これが幻想入りしたってんだから、外の世界での最先端って言ったら、どんななんだろうね!」
「そうですねえ。‥‥ところでにとりさん?」
「はいはい?」
「この車‥‥私が乗り始めてから、ちょっと形が変わってるんですが。始めは真っ赤だったのに、黒くなってきてますし」
「ああ、そういえばこっちもだ! なんか、少しずつ運転しやすくなっていってるよね」
「ですよね。どういう事なんでしょう」
「詳しくは調べてみないとなんとも‥‥まあ今は、この相棒達を優勝させられるようにお互い頑張ろうよ!」
「それもそうですねえ」
守矢神社
「へえ、この車がねえ」
「うーん、僅かにだけど、霊的なものを感じるね」
「そうなんですよ。凄かったんですから」
早苗は博麗神社から一度帰っていた。
神奈子達に現状を説明するため。
そして‥‥
「ではお二人とも。私は今日から博麗に泊まりますので」
「はぇ? そりゃまたどうして?」
「合宿ですよ。なんだか、あの車をどうしても優勝させてあげたくなってきちゃって‥‥」
「ふーん? まあいいけどさ。それじゃ、こいつは私達用って事なんだね?」
「はい」
「しっかし諏訪子。これって‥‥アレ、だよね?」
「うんうん! 私も思ってた!」
「え? お二人とも、ご存知なんですか?」
「ああ、早苗はまだ生まれてなかったかな。再放送とかはしてた気がするけど」
「早苗のお母さんくらいの時代に流行ったんだよ。11台のマシンが激戦を繰り広げる‥‥」
昔話をする神奈子と諏訪子。
その傍らでは、巨大な車体が砲身を鈍く光らせていた。
それぞれメンバーが決まった頃、紫もまた住処へと戻っていた。
この件は思っていたよりも大事になるかも知れない。
まずは残る1台を探し、その後更にドライバーも探す必要がある。
早速藍に手伝わせて‥‥
「ええええっ!? 何これ! なんで私の寝床に突き刺さってるの!?」
紫の思考は止まった。
目の前、つい先ほどまで自分の寝ていた場所に、流線型のボディが突き立っているのだから。
「あ、紫様! 紫様が出かけた直後にこんな物が‥‥」
「そ、そう‥‥まあ、探す手間が省けたわね」
「これは何なんですか? はっ! また何かイタズラを‥‥」
「だから、私のせいじゃないんだってば!」
濡れ衣再び。
「ははあ、なるほど。付喪神ですか」
「しかも複数でやってくるんだから、厄介よねえ」
「それでこれが紫様の‥‥なんだか、悪者みたいな見た目ですね」
「ねえ。どっちかと言えば紅魔館っぽいわよねぇ」
「とりあえず乗ってみたらどうです?」
「そうしましょうか。よいしょっと」
「‥‥どうですか?」
「んー、なんだか違和感が‥‥藍、ちょっとあなたも乗ってみて」
「え? 私もですか? 言われてみれば、心なしか引き付けられているような。では失礼して‥‥」
藍が尻尾を丸めて乗り込んだ瞬間、他のものと同じく、車が覇気を取り戻す。
しかし、今回は様子がおかしかった。
「ら、藍‥‥」
「なんでしょうか‥‥」
「私、なんだかすっごく‥‥悪い事したくなってきた」
「奇遇ですね。私も‥‥他の車をバラバラにしたくて堪りません」
「‥‥と、とりあえず降りておきましょうか!」
「そ、そうですね!」
慌てて車から離れる二人。
ホッと一息つくと、他のメンバーに情報を伝えに行く事にした。
『各自、三日後までに車を万全の状態にしておくように』と。
かくして三日後、妖怪の山の麓にて、その時が訪れた。
どこから噂を聞いたのか、関わりの無い人妖までギャラリーとして集まってきていた。
そのどれもが、初日とは姿が変わっている。
持ち主の性質に合わせて変化しているようだった。
例えば、レミリア達の愛車は後部の建物が完全に紅魔館のミニチュアに。
幽々子と妖夢の乗る車体は、石では無く、人魂の集合体になっている。
「これはどういう事なのかしらね?」
「さあ。でも、妖怪化してるっていうなら不思議は無いんじゃない?」
「待たせたわね。竹林を出るのに手間取っちゃって」
その時だった。
全てのマシンが一斉に光り輝き、勝手にスタート地点へと向かう。
それと同時にどこからともなく声が響いてくる。
「さぁー、いよいよ始まるよ。
幻想郷中から命知らずのレーサーが集まった、ZUNZUNマシン猛レース。
今日のレースは妖怪の山特設コース。
優勝者には、お米1年分と次回作の自機の座が与えられるよ!
勝利の栄冠を手にするのは、だーれかなぁー?
一斉にスタートラインに向かったぁ」
軽快な男の声。
聞いた事は無い筈なのに、どうにも耳に馴染む。
そして、そのまま自然とレースの心構えができてしまったのだ。
「まずは『サイキョーM9』チルノちゃん。
10番、魔理沙とアリスは『ウィッチスペシャル』で勝負。
6番、狙いを定める『キャノンGT』には神奈子様とケロちゃん。
続いて7番『メイドセブン』は十六夜軍団。
そして独創的な発明家、河城にとりの『サイエン3』。
おやおや? お次はみんなのアイドル、お姫様の輝夜ちゃ~ん。
『プシーラビット』可愛いねぇ。
ゆゆ様と妖夢は1番『ボウレイオープン』。
2番、お化け屋敷の『ヒュードロコーマ』。
軽やかに続く、烏天狗の『シャメイマルスポーツ』。
それから8番、暢気にやってきたのは、いつもマイペースな霊夢と早苗さんの『ミッコSL』。
そしてドン尻には?
最も性質の悪い二人組!
妨害専門の『スキスキマシン』に乗った、八雲紫と相棒のランランだ。
おやぁ~? 今日もお得意の汚い手を使うらしーぃぞぉ」
まるで、全ての行動を事前に仕込まれているようだった。
綺麗に列を成す10台のマシン。
その列から外れるように車を動かす紫。
そして藍は、匍匐前進のようにヒッソリと、他の車にチェーンを繋いでいた。
「さあスタート!
‥‥と思ったら進まない。
そりゃあそうだ。
鎖で繋がれてるんだもん。
優勝するためには、無い知恵絞って邪魔をしろ!
ユニークなマシンが11台!
ZUNZUNマシン猛レース、始まりだぁ!」
「うふふふ! チャンスよ藍! 今の内に距離を稼ぐわよ!」
思い切りアクセルを踏み込む紫。
しかし、スキスキマシンの車体は勢いよく後ろへ下がっていき、チェーンの繋がれた鉄柵に激突する。
その衝撃でチェーンは外れ、各車は飛び出していく。
そこからは、抜くか抜かれるかの大乱戦であった。
「アリス! 道の通りになんか走っていられないぜ! 森を突っ切ろうぜ!」
「そうね!」
ウィッチスペシャルは、丈夫な車体と魔法で出来た刃のタイヤを活かして悪路を突き進む。
かと思えば‥‥
「諏訪子! 目標は前を走るサイエン3! うてーっ!」
「うつーっ!」
ドーン!
「こーんなの、ホイホイホーイっとね」
砲弾を撃ち込むキャノンGTと、それを投げ返すサイエン3。
「あら、どうしましょう。橋が壊れてて川を渡れないわ」
「あややや! 残念でしたね! 私は飛べるのでお先に失礼しますよ!」
ブィーン!
「んもう、失礼しちゃうわね」
「アタイが川を凍らせるから渡れるよ!」
「あら、ありがとう。優しい人って大好きよ」
橋の無い川をそれぞれの方法で渡っていく、シャメイマルスポーツ、プシーラビット、サイキョーM9。
「霊夢さーん。こんなにゆっくりしてていいんですかね?」
「大丈夫よー。それより、何か食べ物でも持ってくればよかったわねぇ」
「そうですねー」
シュッポシュッポとのんびり走るミッコSL。
「美鈴! 離されてるわよ! パチュリーエンジンで一気に巻き返しましょう!」
「はい! よいしょっと」
ミニ紅魔館の屋根裏から、パチュリーの魔法で炎を吹き出し加速するヒュードロコーマ。
それを見たメイド7は。
「あなた達! お嬢様の車に負けるわ! アレ行くわよ!」
『はーい!』
『せーの‥‥イチニサンシ! ニニサンシ! サンニサンシ! ヨンニサンシ!』
床にから自分達の足を突き出し、根性で加速していく。
「幽々子様」
「なぁに?」
「なんか、こう‥‥お互いの頭を叩いたら加速できそうな気がするんですが」
「ええ!?」
「御免! たあっ!」
ガツン!
「いったぁ~い!」
「ほら幽々子様! やり返さないと加速できませんよ!」
「痛くってそれどころじゃないわよぉ!」
一部、 設定に無理がある人達もいた。
さて、何故か、いつの間にか、どういうわけかトップに躍り出ていた紫と藍‥‥
否、パープル魔王とランランは、ゴール直前にある、崖に挟まれた細い路地で待ち伏せをしていた。
「いい? ここでこの爆薬を起爆する。ってぇと、この崖がガラガラと崩れる。ってぇと、他の連中は通れなくなる。つまり、優勝は私達がイタダキって寸法なのよ!」
「そう上手くいきますかね」
「ほら、きたきた! いくわよ~、せーの‥‥」
ブーン! ブーン! ブーン! ブーン!
爆弾の上を次々に通り過ぎていく他のマシン。
「何よ! 全然爆発しないじゃないの! この! この! この!」
紫が爆弾の埋まった地面の上で飛び跳ねた瞬間。
ドカン!
これが、ここ数日で紫の身に起きた事の全てだ。
当然ながら優勝は逃した。
今回の優勝者はシャメイマルスポーツだったようだ。
霞む意識の中、その結末を聞いた紫は決心した。
「次こそ優勝はイタダキよ! どんな汚い手を使っても、勝てばいいのよ! ねえ藍!」
「シシシシシシ!」
弾幕ごっこ中に見せるような飛翔では無い。
爆風に吹き飛ばされていたのだ。
その証拠に、体が不自然にキリモミ回転している。
「ど、どうして‥‥どうして私がこんな目に‥‥」
涙をはらはらと流しながら思い返す。
飛び散る雫が美しい。
あれは確か、三日ほど前の事だっただろうか。
その日、幻想郷に異変が起きた。
否、幻想郷における異変といえば、妖怪辺りが故意に引き起こす騒動である。
今回起きた事件は、怪異とでも呼んでおく事にしよう。
その怪異に真っ先に気が付いたのは、博麗の巫女だった。
いつものように目覚め、いつものように朝食を摂り、いつものように境内の掃除を始めた時。
いつもは無い物がそこにあった。
「な、何よこれぇ!?」
博麗神社の境内、鳥居の横付近に突き刺さっていたのだ。
車が。
「え? ちょっと‥‥な、何これ。いや、本当に」
混乱する霊夢。
自動車など見た事が無いのだから無理も無い。
万一自動車に見慣れていても、この状況ならば同じ反応になるだろう。
そんな彼女の背後から突然声をかける者があった。
「はぁい霊夢。いい朝ね」
「ゆ、紫。なんなのこれ!」
「へ? 何が? ‥‥な、何これ?」
「知らないわよ! アンタの仕業でしょ!?」
「誤解よ誤解! なんでもかんでも私のせいにしないでちょうだい!」
喧々諤々と言い合っているその時、事態を更に混乱させる声が響く。
「れれれ、霊夢! 異変だ! 異変が起きたぜ!」
「紫~、白玉楼の庭に変な物が落ちてるのよ」
「ちょっと霊夢! 紅魔館の屋根に、わけの分からない物が突き刺さってるんだけど! 二つも!」
「霊夢さん! 守矢神社の‥‥」
「永遠亭が‥‥」
「妖怪の山に‥‥」
「ちょちょ、ちょっと待った! これ、これ見て! 私のうちも今まさにそうなってるの!」
続々と集まってくる人妖。
その目が境内に突き刺さる異形に向けられる。
そして次に、霊夢と同じく目をパチクリさせている紫に向けられる。
「なんだ、また紫が何かやったのか」
「んもう、紫ったら。妖夢もビックリしてたわよ~」
「ちちち、違うったら!」
とんだ濡れ衣であった。
「どう? 何かわかった?」
「まあ大体はね」
何とか濡れ衣を晴らした紫は、謎の車を調べていた。
「付喪神って知ってるでしょう? 古くなった道具に魂が宿って生まれる妖怪ね」
「ああ、傘とかの?」
「そうそう。で、これはその途中段階。意思を持ち始めた段階ね。数週間もすれば、立派な妖怪の出来上がりよ」
「ふーん‥‥どうするの?」
「詳しくは面倒だから省くけど、これは外の世界で自動車と呼ばれている乗り物なの。けれど、幻想郷にはまだ自動車は存在していない。自動車の妖怪が誕生するのは、早すぎるわ」
「乗り物? これが?」
「そう。だから今の内に手を打って、妖怪化を防ぐ必要があるわ。で、そのためには‥‥」
そう言いながら、突き刺さっている車体を撫でる。
「この子の未練を断ち切ってあげるのが手っ取り早いわね。恐らく、まだ走り足りないのよ」
「って事は‥‥その自動車とやらが満足するまで、乗り回してやればいいって事?」
「そうね。そう単純だといいんだけれど‥‥」
「へえ、これが乗り物ねえ‥‥」
紫と同じく車体を撫でる霊夢。
車体の後方に立つ、煙突のような部分に触れた時だった。
「こ、これは‥‥私を呼んでるみたい。なんだかこう、ひどく落ち着くっていうか‥‥」
「あら、相性がいいのかしら。わざわざ博麗神社に落ちてきたくらいですものね。乗ってみたら?」
「うん。‥‥あら? なんか違和感があるっていうか‥‥物足りない感じがするわね」
「どういう意味?」
「わかんないけど‥‥」
「あ、あの‥‥」
「あら、どうしたの? 早苗」
「私も乗ってみていいですか? なんだか、そわそわしちゃって‥‥」
「あら、変ねえ。霊夢が選ばれたんじゃないのかしら。まあいいわよ」
「では失礼して‥‥あっ!?」
「こ、これは!?」
早苗が乗り込んだ瞬間、つい今しがたまで地面にめり込んでいた車体が眩く光を放ち、まるで新車のような状態になった。
煙突からはモウモウと煙が上がり、シュッポシュッポとエンジンが稼動している。
「す、凄いぜ! なんだこれ!?」
「どうやら、霊夢と早苗の二人乗りが指名されたみたいね。ま、いいわ。じゃあせっかくだし、そのまま二人で適当に走り回って‥‥」
「ち、違う! そんなんじゃないわ!」
「え?」
「そう! 違うんです! この子が求めているのは、ただの走りなんかじゃない! 私達にはわかります!」
「な、何が? 何がわかったの?」
「この車が私達に訴えかけてくるの! 『ライバル達と戦いたい! 残りの10台に、何としても勝ちたい!』って‥‥」
「か、勝ちたい? つまり、競争をしないと車に残った未練は消えないって事?」
紫の質問に反応するかのように、自動車が汽笛を鳴らす。
自動車なのに汽笛を鳴らす。
「10台ねえ‥‥みんなのところも、似たような状況なのよね?」
「ああ。私のところは、家じゃなくて森に落ちてたんだけどな。だからひょっとしたら、アリスの物なのかも知れないぜ」
「紅魔館には2台よ。長いのが1台と、後ろに小さな紅魔館みたいなのがついたのが1台」
「妖怪の山にも2台ですね。私達の縄張りと、河童の縄張りに一台ずつ」
「私のところは1台だけだったわね。ね? 妖夢」
「永遠亭も1台だけ。朝、姫様の布団に突き刺さってて‥‥」
「それから守矢神社ね。2台ほど足りないけれど‥‥」
「こらー! アンタ達ー!」
威勢よく声を出しながら飛んできたのは、氷の妖精チルノだった。
「なんて事すんのよ! 湖に変な物捨ててさ! 『ふほーとーき』っていうんでしょ!? アタイ知ってるんだからね!」
「‥‥あと1台ね」
「へ? 何? どういう事?」
「いいから湖に帰って、その変な物に乗ってみろ。なんとなくわかるぜ」
「わかった! そうする!」
来た時と同じ速度でビューンと飛んでいくチルノを見送って、残された面々は顔を見合わせる。
「で、どうするの?」
「まあ、乗りかかった船だしね~」
「最近誰かが異変起こす事も無くて記事にも困ってますし‥‥」
「面白そうだし、いっちょやってみようぜ!」
「それじゃ、残りの1台も探さないと」
この日は解散する事になったのであった。
永遠亭
「なるほど。じゃあつまり、誰かがこれに乗って‥‥」
「ええ。競争に出ないといけないそうです」
「へえ、面白そうね。早速誰が乗れるのか試してみましょうよ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「あら? どうしたの?」
永琳と鈴仙が輝夜を見る。
車の下に挟まっている輝夜を見る。
「‥‥多分、姫様じゃないですかね」
「ええ、そんなにジャストミートしてるんですもの」
「あら、私ったら選ばれたのね。うふふ」
「いや、割と笑い事じゃないと思うんですが」
蓬莱山輝夜といえば、元々は姫だった身である。
「そういえば、何だか眩暈がしてきたわね。‥‥助けてぇ~」
それ故に、大変おっとりしているのであった。
「さて、姫様も助けたし、一応試してみます?」
「そうね。よいしょっと‥‥」
「どうです? 霊夢達の場合はなんだかこう、車がビカビカーって‥‥」
ビカビカーッ!
「わっ! 光った!」
「わあ‥‥」
「姫様? どんな具合ですか?」
「なんだか、凄く楽しくなってきたわ。ここに座っているだけで‥‥走っていれば天国、みたいな気持ちになってくるわね」
「じゃあやっぱり‥‥」
「ええ。この自動車は、姫様を選んだみたいね。しかし‥‥」
「どうしたんですか?」
「なんていうかこう‥‥悪趣味じゃない?」
「た、確かに‥‥全体がピンク色で、正面に顔の模様って‥‥」
「ちょっと二人共。私の愛車に失礼な事を言わないでくれる?」
「す、すみません‥‥」
「でもやっぱり‥‥ぷふっ」
こうして、永遠亭に落ちたマシンのドライバーは蓬莱山輝夜となった。
紅魔館
「‥‥と、いうわけで、我が紅魔館も今回の騒動に参加する事になったわ」
「ですよねー」
レミリアと咲夜の報告を受けた美鈴は、予想が的中していた事に苦笑いを浮かべる。
そんな面白そうな事件を、この主が見逃す筈が無いのだ。
「多分、私はこっちだと思うのよ。後ろに小さい紅魔館っぽいのもついてるし」
「お嬢様が乗るなら、私もこっちですかね」
そう言いながらレミリアと咲夜が乗り込むが、これといった反応は無い。
「おかしいわねえ。霊夢達の時は‥‥」
「ねえレミィ。ちょっといい?」
「ん? どしたの?」
黙って話を聞いていたパチュリーが、車体に備え付けられたミニ紅魔館っぽいものに入っていく。
「‥‥やっぱり。なんだか、凄く落ち着くわ」
「マジで。そんな狭っ苦しいところに?」
「お姉様ー。私もパチュリーと同じところに入りたいよう」
「ええ? 流石にそれは‥‥」
「えいっ!」
すぽん!
「‥‥入っちゃったわね」
「でも光りませんね」
「それじゃあ私も‥‥」
美鈴が車に近付いた時だった。
「きゃっ!?」
助手席に乗っていた咲夜がボヨンと弾き飛ばされ、その途端に車体が光を帯びる。
「おぉー。美鈴だったのね」
「確かに、なんだかしっくりきますね。でも、どうして咲夜さんじゃなかったんでしょうね」
「妖怪用なのかしら。雰囲気も禍々しい感じだし」
わいわいと騒ぎ始める面々を余所に、咲夜は取り残された気持ちになっていた。
「そ、そんな‥‥では私はこっちなのかしら‥‥」
咲夜がもう1台の方を見ると、見慣れない物の存在に浮かれた妖精メイド達の遊び道具になっていた。
「こら、あなた達! これは大事な‥‥え?」
妖精を叱ろうと足を一歩踏み出した瞬間、もう1台の車も力を得る。
「う、嘘っ!? この子達も一緒って事?」
「え? え? なんですかこれー?」
「面白ーい!」
キャイキャイとはしゃぐ妖精は6人。
咲夜を含めて、7人のメイドが乗車する事となる。
しばらく呆然としていた咲夜だったが、車の放つ光を見ているうちに表情が変化する。
「あなた達。‥‥やるからには、徹底的にやるわよ。例え相手がお嬢様達だったとしても、ね‥‥」
その顔は、既にレーサーのそれであった。
その頃、窓から見える湖畔では、チルノが一所懸命に車体と戯れていた。
白玉楼
「ねえ妖夢?」
「はい」
「これ、多分二人乗りよね?」
「そう‥‥みたいですね」
「多分、私と妖夢よね?」
「恐らくは」
白玉楼の庭園に鎮座する車体。
それを眺めながら、二人は確認しあうように話している。
「ねえ妖夢。私って、目は悪く無かった筈よね?」
「はい。問題無かったかと」
「‥‥これ、石よね?」
「石‥‥ですね」
二人の眼前で光を放っているその車体は、見紛う事無き石の塊だった。
「石に乗って走るの? 私達」
「そうなりますね」
「‥‥これ、ハズレよね?」
「大ハズレですね。多分」
二人が覚悟を決めるまで、更に数十分の時間を要する事になる。
魔法の森
ドンドンドン!
「アリスー! 開けてくれよー! アリスってばー!」
「嫌よ! なんで私が、そんなわけ分からない物に乗って、わけ分からない事件に巻き込まれなきゃいけないのよ!」
「意地悪するなよぉ。これ、多分二人乗りなんだよぉ」
森へ戻った魔理沙が車に乗り込んでみると、先の霊夢と同じく、物足りなさを感じた。
そこで魔理沙はその足で、同じく森に住むアリスの元へとやってきたのだった。
「あーけーろーよー」
「嫌だってば。他にも色々いるでしょ? 誰か別の人を当たりなさいよ」
「乗れる奴が決まってるんだって。他の奴じゃ無理だよー」
「知らないわよ。とにかく、私を巻き込まないでちょうだい」
聞いたところによれば、此度の一件には霊夢を始め、レミリアや幽々子、紫といった面々が顔を揃えていると聞く。
そんなラスボス級が蠢いている中に突っ込んで行けと言うのか。
冗談では無い。
それがアリスの考えだった。
必死にドアを押さえつけ魔理沙の進入を拒み続けていると、けたたましく鳴っていたドアのノック音が途絶える。
「ん? やっと諦め‥‥」
「この車、妖怪になりかけてるんだってさ」
突然声のトーンが変わった事をアリスは不審に思う。
「見た事も無い大きい機械に宿る魂なんだ。きっとそれなりに力があるんだろうな」
「そ、そうかもね」
「乗った途端に、あの霊夢の精神にすら影響が出るんだもんな」
「そうね」
「そんな危険な物に、アリスを巻き込めないよな。うん、私一人で何とかしてみるよ」
「うっ‥‥」
「‥‥もしも、万が一私に何かあったらさ、アリスに借りてる本、家に取りにきてくれよ。ちゃんと綺麗に並べてあるからさ」
「うう‥‥っ!」
「じゃあな。迷惑かけたな」
「ま、魔理沙! ちょっと待ちなさ‥‥!」
開いたドアの先には、涙目の魔理沙が満面の笑みで立っていた。
妖怪の山
「これはこれは、にとりさん。やっぱりあなたが乗る事になりましたか」
「ありゃ、天狗の。そっちも?」
「ええ。今は慣らし運転中です。それにしても、外の世界の技術は凄いですね。これなんて、ちょっとの間なら空を飛べるみたいですよ」
「なんのなんの。これなんか‥‥ほら」
にとりがスイッチを押すと、乗っていた車の形がガシャガシャと変わっていく。
最終的には船のような形になってしまった。
「あややや、これは凄い」
「でしょ!? しかもさ、これが幻想入りしたってんだから、外の世界での最先端って言ったら、どんななんだろうね!」
「そうですねえ。‥‥ところでにとりさん?」
「はいはい?」
「この車‥‥私が乗り始めてから、ちょっと形が変わってるんですが。始めは真っ赤だったのに、黒くなってきてますし」
「ああ、そういえばこっちもだ! なんか、少しずつ運転しやすくなっていってるよね」
「ですよね。どういう事なんでしょう」
「詳しくは調べてみないとなんとも‥‥まあ今は、この相棒達を優勝させられるようにお互い頑張ろうよ!」
「それもそうですねえ」
守矢神社
「へえ、この車がねえ」
「うーん、僅かにだけど、霊的なものを感じるね」
「そうなんですよ。凄かったんですから」
早苗は博麗神社から一度帰っていた。
神奈子達に現状を説明するため。
そして‥‥
「ではお二人とも。私は今日から博麗に泊まりますので」
「はぇ? そりゃまたどうして?」
「合宿ですよ。なんだか、あの車をどうしても優勝させてあげたくなってきちゃって‥‥」
「ふーん? まあいいけどさ。それじゃ、こいつは私達用って事なんだね?」
「はい」
「しっかし諏訪子。これって‥‥アレ、だよね?」
「うんうん! 私も思ってた!」
「え? お二人とも、ご存知なんですか?」
「ああ、早苗はまだ生まれてなかったかな。再放送とかはしてた気がするけど」
「早苗のお母さんくらいの時代に流行ったんだよ。11台のマシンが激戦を繰り広げる‥‥」
昔話をする神奈子と諏訪子。
その傍らでは、巨大な車体が砲身を鈍く光らせていた。
それぞれメンバーが決まった頃、紫もまた住処へと戻っていた。
この件は思っていたよりも大事になるかも知れない。
まずは残る1台を探し、その後更にドライバーも探す必要がある。
早速藍に手伝わせて‥‥
「ええええっ!? 何これ! なんで私の寝床に突き刺さってるの!?」
紫の思考は止まった。
目の前、つい先ほどまで自分の寝ていた場所に、流線型のボディが突き立っているのだから。
「あ、紫様! 紫様が出かけた直後にこんな物が‥‥」
「そ、そう‥‥まあ、探す手間が省けたわね」
「これは何なんですか? はっ! また何かイタズラを‥‥」
「だから、私のせいじゃないんだってば!」
濡れ衣再び。
「ははあ、なるほど。付喪神ですか」
「しかも複数でやってくるんだから、厄介よねえ」
「それでこれが紫様の‥‥なんだか、悪者みたいな見た目ですね」
「ねえ。どっちかと言えば紅魔館っぽいわよねぇ」
「とりあえず乗ってみたらどうです?」
「そうしましょうか。よいしょっと」
「‥‥どうですか?」
「んー、なんだか違和感が‥‥藍、ちょっとあなたも乗ってみて」
「え? 私もですか? 言われてみれば、心なしか引き付けられているような。では失礼して‥‥」
藍が尻尾を丸めて乗り込んだ瞬間、他のものと同じく、車が覇気を取り戻す。
しかし、今回は様子がおかしかった。
「ら、藍‥‥」
「なんでしょうか‥‥」
「私、なんだかすっごく‥‥悪い事したくなってきた」
「奇遇ですね。私も‥‥他の車をバラバラにしたくて堪りません」
「‥‥と、とりあえず降りておきましょうか!」
「そ、そうですね!」
慌てて車から離れる二人。
ホッと一息つくと、他のメンバーに情報を伝えに行く事にした。
『各自、三日後までに車を万全の状態にしておくように』と。
かくして三日後、妖怪の山の麓にて、その時が訪れた。
どこから噂を聞いたのか、関わりの無い人妖までギャラリーとして集まってきていた。
そのどれもが、初日とは姿が変わっている。
持ち主の性質に合わせて変化しているようだった。
例えば、レミリア達の愛車は後部の建物が完全に紅魔館のミニチュアに。
幽々子と妖夢の乗る車体は、石では無く、人魂の集合体になっている。
「これはどういう事なのかしらね?」
「さあ。でも、妖怪化してるっていうなら不思議は無いんじゃない?」
「待たせたわね。竹林を出るのに手間取っちゃって」
その時だった。
全てのマシンが一斉に光り輝き、勝手にスタート地点へと向かう。
それと同時にどこからともなく声が響いてくる。
「さぁー、いよいよ始まるよ。
幻想郷中から命知らずのレーサーが集まった、ZUNZUNマシン猛レース。
今日のレースは妖怪の山特設コース。
優勝者には、お米1年分と次回作の自機の座が与えられるよ!
勝利の栄冠を手にするのは、だーれかなぁー?
一斉にスタートラインに向かったぁ」
軽快な男の声。
聞いた事は無い筈なのに、どうにも耳に馴染む。
そして、そのまま自然とレースの心構えができてしまったのだ。
「まずは『サイキョーM9』チルノちゃん。
10番、魔理沙とアリスは『ウィッチスペシャル』で勝負。
6番、狙いを定める『キャノンGT』には神奈子様とケロちゃん。
続いて7番『メイドセブン』は十六夜軍団。
そして独創的な発明家、河城にとりの『サイエン3』。
おやおや? お次はみんなのアイドル、お姫様の輝夜ちゃ~ん。
『プシーラビット』可愛いねぇ。
ゆゆ様と妖夢は1番『ボウレイオープン』。
2番、お化け屋敷の『ヒュードロコーマ』。
軽やかに続く、烏天狗の『シャメイマルスポーツ』。
それから8番、暢気にやってきたのは、いつもマイペースな霊夢と早苗さんの『ミッコSL』。
そしてドン尻には?
最も性質の悪い二人組!
妨害専門の『スキスキマシン』に乗った、八雲紫と相棒のランランだ。
おやぁ~? 今日もお得意の汚い手を使うらしーぃぞぉ」
まるで、全ての行動を事前に仕込まれているようだった。
綺麗に列を成す10台のマシン。
その列から外れるように車を動かす紫。
そして藍は、匍匐前進のようにヒッソリと、他の車にチェーンを繋いでいた。
「さあスタート!
‥‥と思ったら進まない。
そりゃあそうだ。
鎖で繋がれてるんだもん。
優勝するためには、無い知恵絞って邪魔をしろ!
ユニークなマシンが11台!
ZUNZUNマシン猛レース、始まりだぁ!」
「うふふふ! チャンスよ藍! 今の内に距離を稼ぐわよ!」
思い切りアクセルを踏み込む紫。
しかし、スキスキマシンの車体は勢いよく後ろへ下がっていき、チェーンの繋がれた鉄柵に激突する。
その衝撃でチェーンは外れ、各車は飛び出していく。
そこからは、抜くか抜かれるかの大乱戦であった。
「アリス! 道の通りになんか走っていられないぜ! 森を突っ切ろうぜ!」
「そうね!」
ウィッチスペシャルは、丈夫な車体と魔法で出来た刃のタイヤを活かして悪路を突き進む。
かと思えば‥‥
「諏訪子! 目標は前を走るサイエン3! うてーっ!」
「うつーっ!」
ドーン!
「こーんなの、ホイホイホーイっとね」
砲弾を撃ち込むキャノンGTと、それを投げ返すサイエン3。
「あら、どうしましょう。橋が壊れてて川を渡れないわ」
「あややや! 残念でしたね! 私は飛べるのでお先に失礼しますよ!」
ブィーン!
「んもう、失礼しちゃうわね」
「アタイが川を凍らせるから渡れるよ!」
「あら、ありがとう。優しい人って大好きよ」
橋の無い川をそれぞれの方法で渡っていく、シャメイマルスポーツ、プシーラビット、サイキョーM9。
「霊夢さーん。こんなにゆっくりしてていいんですかね?」
「大丈夫よー。それより、何か食べ物でも持ってくればよかったわねぇ」
「そうですねー」
シュッポシュッポとのんびり走るミッコSL。
「美鈴! 離されてるわよ! パチュリーエンジンで一気に巻き返しましょう!」
「はい! よいしょっと」
ミニ紅魔館の屋根裏から、パチュリーの魔法で炎を吹き出し加速するヒュードロコーマ。
それを見たメイド7は。
「あなた達! お嬢様の車に負けるわ! アレ行くわよ!」
『はーい!』
『せーの‥‥イチニサンシ! ニニサンシ! サンニサンシ! ヨンニサンシ!』
床にから自分達の足を突き出し、根性で加速していく。
「幽々子様」
「なぁに?」
「なんか、こう‥‥お互いの頭を叩いたら加速できそうな気がするんですが」
「ええ!?」
「御免! たあっ!」
ガツン!
「いったぁ~い!」
「ほら幽々子様! やり返さないと加速できませんよ!」
「痛くってそれどころじゃないわよぉ!」
一部、 設定に無理がある人達もいた。
さて、何故か、いつの間にか、どういうわけかトップに躍り出ていた紫と藍‥‥
否、パープル魔王とランランは、ゴール直前にある、崖に挟まれた細い路地で待ち伏せをしていた。
「いい? ここでこの爆薬を起爆する。ってぇと、この崖がガラガラと崩れる。ってぇと、他の連中は通れなくなる。つまり、優勝は私達がイタダキって寸法なのよ!」
「そう上手くいきますかね」
「ほら、きたきた! いくわよ~、せーの‥‥」
ブーン! ブーン! ブーン! ブーン!
爆弾の上を次々に通り過ぎていく他のマシン。
「何よ! 全然爆発しないじゃないの! この! この! この!」
紫が爆弾の埋まった地面の上で飛び跳ねた瞬間。
ドカン!
これが、ここ数日で紫の身に起きた事の全てだ。
当然ながら優勝は逃した。
今回の優勝者はシャメイマルスポーツだったようだ。
霞む意識の中、その結末を聞いた紫は決心した。
「次こそ優勝はイタダキよ! どんな汚い手を使っても、勝てばいいのよ! ねえ藍!」
「シシシシシシ!」
僕がオクラホマの片田舎でガンマンごっこに興じていた頃を思い出すような、そんな作品だね。
だけど残念、この作品はケリーおばさんの作ったフランスパンみたいな味がするんだ。
つまり……長さが足りなくて、あっさり味で、ペコペコのお腹には量が少ないんだ。
ニヤニヤ笑いのトーテム像もご機嫌斜めさ。
もう少し量があると、僕は嬉しかったかな。
特に、呑気な巫女さん達はノンビリして終わっただけに見えてとても残念なんだよ。
ああ、姫様はとってもキュートだったよ!
私ももうちょっと量が欲しかったです…物足りないよ…
上の方々と同じで、レースからもっと膨らんでも良かったなあと。
次も楽しみにしています。
そして、男は黙ってガンセキオープン。
妖夢と幽々子による楼観剣と白楼剣でのぶっ叩き合いを見れなかったのが返す返すも残念。
作者様の気が向いたらグヤとモコーが仲良く喧嘩するお話を書いて頂けると当方感激です。
なーんて言っちゃったりしちゃって
後半の各車のデッドヒートのシーンと、
悪役コンビが最後の自滅をド派手にするシーンも、もっと描写が欲しかった
あと、やっぱりにとりはアレかww・・・元ネタのあの車体好きだったなw
とにかく、幻想入りした海外アニメネタで笑わせて頂きました