Coolier - 新生・東方創想話

博麗霊夢争奪野球大会「紅魔館スカーレッツ」対「魔法の森ゲットバッカーズ」 第参話「衣玖、読まない」

2011/07/18 21:43:03
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「おーい! お前ら一体何しにきたんだ?」
「というか、ついさっきまで試合やっててなんで間に合うんだよ?」
「あの、魔理沙さん? お話が見えませんよ」
「……あ、行っちまった。ただ見に来ただけなのか? まあいいや」
「……実況を続けてもいいですかね? 魔理沙さん」
「よきにはからえ」
「では、実況を再開させていただきます!」


「試合は二回の表裏を終わりました。状況は2対0と、紅魔館が2点をリードしています」
「夏の夜よりなお熱いこの一戦、紅魔館スカーレッツ対魔法の森ゲットバッカーズ、実況はわたくし射命丸文、解説は霧雨魔理沙さんでお送りしております」
「あんまり夏って感じがしないが、確かに夏だったな」
「ええ。夏真っ盛りですよ」
「フェンスにとってつけたような蛍が光ってるし、夏だな」
「アレは蛍じゃないですよ。青と緑を主体としたマジカルカクテルライトが、球場をうす暗く照らしています。夏っぽいですね」
「あ。あれはパチュリーの魔法なのか……。しかしなんだか暗いなー。まあ、妖怪連中にはこの程度の明るさでも問題無いが、人間にはちょっと辛いかもしれないぜ」

「さて、試合の行われておりますこの球場は、紅魔館の庭に作られました特設球場ですが……おっと、今この球場の正式名称が発表されました!」
「正式名称は『クリムゾンレッドスタジアム』、略称は『Kスタ』だそうです! メイド妖精が横断幕を持って、スタンドを飛び回っています」
「試合中にスタジアムの名称が決まるってのはどうなんだ。色々と」
「しかし、その横断幕もこの暗さではいまいち見えにくいのが残念ですが……」

「うおっ。まぶしっ!」
「な、なんですかこの明るさは!? まるで闇夜に突然太陽が出現したような明るさです、球場上空に突如出現したこの巨大な光る球体は何なのでしょうか!」
「こいつは人工太陽……ってやっぱりお前の仕業か!」

「さて眩しさにも目が慣れてきましたが……マウンド上に突如人影出現ーッ! 誰だ一体誰なんだ!」
「長身からたなびく黒髪には緑のリボン、大きな羽根はカラスの黒羽、胸に真っ赤なブローチつけて、振り上げる右腕には無骨で巨大な制御棒! 奴だ、霊烏路空が現れたーッ!」
「いやまあ、お空が出てきたけどな。お前のキャラまで変えるほどじゃないだろ。射命丸文」

「急に明るくなったのでテンションがはっちゃけてしまいましたが、ご容赦ください」
「あれ、お空は人工太陽を打ち上げてそのまま……ドヤ顔で1塁ベンチに行きますね?」
「お空だけではありません。地霊殿のあいつもこいつもゾロゾロと1塁ベンチに歩いていきます。魔理沙さん、これは?」
「……ああ。追加のメンバー登録か」

  紅魔館スカーレッツ 追加登録選手を 発表いたします

  古明地さとり 登録名 さとり
  古明地こいし 登録名 こいし
  火焔猫燐 登録名 お燐
  霊烏路空 登録名 お空

  以上の選手が 出場選手登録されました。

「久しぶりに仕事をしました、夜雀嬢のミスティアローレライ!」
「これが掟破りの幻想野球、プレイボール後のメンバー追加です!」
「さとり、こいし、お燐、お空の4名が、紅魔館のベンチに入ります。魔理沙さん、思いもよらない急展開ですね?」
「QJK(旧地獄)オリンフィールドの野球がノーゲームになっちまったからな。まだまだ暴れ足りないんだろう。主にお空が」
「さっそく一暴れしてくれましたお空ですが、いったいポジションはどこに入るのか? 目が離せません」

  魔法の森ゲットバッカーズ 追加登録選手を 発表いたします

  聖白蓮
  村紗水蜜 登録名 キャプテン・ムラサ
  寅丸星 登録名 星ちゃん
  ナズーリン
  封獣ぬえ 登録名 ぬえちゃん

  以上の選手が 出場選手登録されました。

「地霊殿が紅魔館に組みするならば、聖輦船は魔法の森に助太刀ということでしょうか! 聖白蓮、キャプテンムラサ、星ちゃん、ナズーリン、ぬえちゃんの5名が魔法の森のベンチに入ります。というかすでに仲良く三塁側ベンチに座っています。さすが聖輦船は礼儀正しい!」

「キャプテンムラサはまあいいとして、星ちゃんぬえちゃんって何だよ」
「注目選手は説明不要の超人こと聖白蓮。そして正体不明のぬえちゃんでしょうか。ぬえちゃんという柔らかい響きは何度も繰り返して口に出したい! ぬえちゃん、ぬえちゃん!」
「お前、やっぱりさっきからなんかおかしいぞ。射命丸」

「さて、両軍追加登録の選手が発表されましたが、誰か交代はあるのでしょうか?」
「紅魔館はレフトを代えてきたな」

  3回の表 守ります 紅魔館 選手の交代を お知らせいたします
  レフト ルーミアに代わり お燐
  レフト ルーミアに代わり お燐 

「ミスティアが選手交代を告げました。早い回ですがまずは守備から新戦力を投入してきた紅魔館、この意図はなんでしょうか? 魔理沙さん」
「まあ、ルーミアの守備はかなり危うかったからな。左中間がだだっ広いこの球場だし、レフトの守備が堅いにこしたことはないぜ」
「なるほど。お燐の守備力に期待ということですね?」
「まあ、走り回れることだけは確かだからな。多少はマシなんじゃないか」

「ルーミアはここでお役ご免、ベンチに下がるということなのか。小粒ながら根強い人気の選手だけに、少し残念な気もいたします」
「いや、なんかやるだろ。たぶん」

「対します魔法の森、攻撃は8番セカンドメルランからですが、特に動きは……ありません」
「おい、なんか三塁ベンチ前で円陣を組んでるぞ」
「微笑みを絶やさない聖を前に円陣を作ります魔法の森。ファイトおーとかけ声をあげて、メルランを打席に送り出します」
「いきなりやってきてあのメンツをまとめちゃうのが白蓮の白蓮たるゆえんだよな。どんな魔法をつかったんだか」
「『やればできる』は魔法の合い言葉。野球においてはやる気こそが勝利を生む魔法なのかもしれません。そのモチベーションを見事に高めた聖白蓮、選手のみならず指導者としても存在感を見せてくれそうです」
「アリスだけ、なんか円陣から外れてたのが気になるんだけどな」
「魔法の森のメンツを一人一人集めてきたそのアリス。自分がチームリーダーのはずが飛び入りの白蓮にお株を奪われ、ややご不満なのかなお嬢ちゃん? というところでしょうか。魔理沙さん」
「3回からそんなに飛ばしてると途中で死ぬぞ? 射命丸」
「正直、私もこの試合の狂気に飲まれかかっている感は否めません」

「さて、3回の表の先頭打者、8番セカンドメルランは左打席に入ります」
「対しますピッチャーレミリアの頭上からは太陽光線が降り注いでおりますが、人工太陽なので吸血鬼にも安心です」
「良かったな。人工太陽で」

「レミリア、背中の羽を伸ばして第1球投げた! ゆる~~いカーブが今やっとミットに入った、ストライク! 1-0」
「人工太陽が球場の真上にあるから、ああいう上から落ちてくるボールはちょっと見えにくいな」

「やはり日差しが眩しいのか。メルランはいつもの帽子をちょっと目深にかぶりなおします」
「レミリア第2球投げた! 高め直球これは? 入った! 2-0と追い込みます」
「帽子を深くかぶりすぎると高めは逆に見えにくいんだけどな。今のところ環境を味方につけてるのはレミリアのほうだぜ」

「随所に見せる勝負の駆け引き。深紅のカリスマが本領を発揮してきたのか? 第3球投げた! 外角直球見て、2-1」
「何を投げても討ち取れそうだけど、とりあえず様子見で外したな。お子様のくせに意外と冷静だぜ」

「そして次が勝負か。第4球投げた! 外角スライダー引っかけた! 高いバウンドはショート小悪魔の頭上を越えるか? いやフランドールがジャンプ一番もぎ取った! 空中一回転してファースト送球、きわどいが!? セーフ!」
「躁の音色を操るメルラン、走力を活かして出塁です。先頭打者が出てノーアウト1塁、魔法の森は追い上げるチャンスか」

「放送席からも背中のキラキラが人工太陽に反射して美しかった今のプレー。フランドールがすさまじい動きを見せましたが、惜しくもアウトにはなりませんでしたね? 魔理沙さん」
「まあ、ショートが普通の守備位置なら打球を捕っても深すぎて一塁セーフだし、超前進守備の小悪魔ではワンバウンドで頭を越されちまう打球だったな。もしアウトにするならフランがもぎ取って一塁に投げるしかないんだが、フランは内野手なのに左投げだから、体を回転させてから投げないといけない。だから送球がワンテンポ遅れて、一塁は間一髪セーフだったんだぜ」
「なにか、久々にきちんとした技術的解説を聞いたような気がいたします」
「最初からずっと技術的解説をしてるだろ。何言ってんだよ」

「2点ビハインドからどう追い上げていくのか魔法の森。9番サードリリカが右打席に入ります」
「お、バントの構えか」
「おっと? バントの構えにレミリアがキレた! 何か叫んでいるので読唇術をお願いします。魔理沙さん」
「『アウトになるために打席に入ってんじゃないわよ! 正々堂々勝負しなさい!』だな。レミリアらしいというかなんというか」
「まさに傲慢というかわがままそのもののレミリア嬢。球審上白沢もこの注文付けには注意を……おや、注意しませんね?」
「まあ、正々堂々やるってのは慧音の趣味でもあるだろうし、特に怒りはしないと思うぜ」
「わからない! わけがわからないぞ球審上白沢。やはり自分がルールブックでなければこの魑魅魍魎を裁ききれないのか」

「結局リリカはヒッティングの構えに戻す。レミリア第1球投げた! 直球低め空振り、おっとメルランが完璧なスタートを切っている! これは二塁ゆうゆうセーフ、キャッチャー美鈴も送球はムダと見て投げるそぶりもありません。盗塁成功! カウントは1-0,ノーアウト二塁と変わりました」
「レミリアはランナーが出ても大きな投球フォームを変えないからな。ある程度の走力があれば、盗塁するのは難しくないぜ」

「ノーアウトから背負った得点圏のランナーにもレミリアは涼しい顔。変わらないフォームから第2球投げた! リリカ三塁線へのバント、サードのフランドール反応が遅れている! 慌てて拾って一回転、一塁送球するが、これも間に合わない! セーフ!」
「リリカはレミリアの恫喝にも負けずにバントして、結局内野安打になりました。状況はノーアウト1塁3塁と変わります。魔法の森は8番9番の下位打線で思わぬチャンスを作りました」
「フランはバントが来ると思ってなかったな。というか、バントそのものが何かわかってないとは思うんだが。打球に気づいてからの反応速度はさすがだったが、やっぱり左投げではワンテンポ送球が遅れるんだよなー」
「これは、何らかの対策を講じないとサードを狙い打ちにされますね? 魔理沙さん」
「ま、そういうことだな。吸血鬼はたしかに身体能力がズバ抜けてるが、レミリアの大きな投球フォームもフランドールの左投げも、細かい野球をされると弱点になるってことだ」

「円陣を組んだだけに、魔法の森の打線がうまく回り始めました」
「もう一回言ってみろ。射命丸」
「そ、その円陣の中心となったのはいつもにこやかな聖白蓮ですが……おっと? 珍しく表情が曇っている。なにか心配そうな顔をしていますね」
「よくわからないな。これは」

「魔法の森の送り込む打者は、1番に返ってライトの橙。左打席に入ります」
「ここは俊足の橙ですから、色々と作戦も考えられますか? 解説の魔理沙さん」
「橙は左打者だから、3塁ランナーメルランの動きは美鈴からは良く見えるんだよな。だから普通はスクイズはやりにくいんだ。でも、ここまでのフランの守備を見ると、サードに転がせばスクイズ成功どころか一塁もセーフになりそうな雰囲気もあるし、あえて仕掛けるのも面白いな」
「ショート小悪魔がさらに前進守備、ほとんどピッチャーとサードの中間に陣取っています。深く守っていた咲夜が前進、通常のセカンドの守備位置にもどりました」
「ま、スクイズ封じにはこうするしかないか。でもこれだとショート後方はガラ空きだから、軽く合わされたら簡単にヒットになるぜ」
「では、橙の狙いとしては流して左方向への打球ということですか?」
「いや、確実に1点取るなら右にゴロだな。パチュリーも守備範囲が相当狭いし、セカンドゴロかファーストゴロなら1塁フォースアウトがせいぜいだろ。ショートが2塁のカバーに入れないからゲッツーもないし、実質的なスクイズみたいなもんだ」
「な、なるほど……」
「良くわからなかった奴は紙にダイヤモンドを描いて、選手の位置を書き込んでみような」

「どこへ向けてのコメントかはわかりませんが、ピンチを迎えたレミリア、第1球投げた! 外角スライダー切れる! 決まってストライク!」
「まあ、やはり外から入ってきたな」
「橙に引っ張らせたくはない、ということですか?」
「あのお子様もこういうところは天才的だからな。理屈はわからなくても外中心に組み立てるはずだぜ」

「注目の第2球、投げた! これも外角スライダー、見極めてボール! 1-1です」
「同じコースに同じ球種の連続では、ちょっと見極めやすいな」

「レミリア第3球投げた! 内角打ちに行くが、空振り! 魔理沙さん、一転して内角にきましたが、これは?」
「内角からえぐるスライダーだな。この試合で左打者に何度も投げてる球だが、内角の甘いところから外角まで、思いっきり曲げてきやがった。アレを引っ張ろうとしたら空振りするのは仕方ないぜ」

「追い込んだレミリア、第4球投げた! 内角直球のけぞって避けた、ボール! ちょっと危ない球で2-2となりました」
「橙は追い込まれて打ち気になってるぶん、避けるのがちょっと遅れたな。危なかったぜ」

「内角外角と投げ分けているレミリア、次が決め球になるのか? 第5球投げた! あっとゆるーいボール……真ん中見逃し三振! 1アウト」
「橙はちょっと呆気にとられたか、バットを持ったまま微動だにせず。金縛りにあったかのような見逃し三振でした」
「橙は内角直球と外角スライダーの両方を待ってたんだろうが、ここでゆるいカーブとはな-。この配球は私も想定外だぜ。お手上げだ」
「解説の魔理沙さんをもうならす一球に、スタンドから湧き起こる大歓声! レミリアのカリスマがまた高まった」
「あ、なんか盗塁されてるぞ」
「……失礼、今の三振の間にリリカが二塁に盗塁、1アウト2塁3塁と変わりました。この抜け目ないプレーにベンチの聖白蓮もにっこり……にっこりしていませんね。むしろ哀しげです」
「あ、もしかしてこういう細かい野球が嫌いなんじゃないのか。聖輦船の連中は」
「しかし、盗んだり殺したりするのが野球ですからね。神だろうと仏だろうと野球のルールまでは変えられません」

「1アウト2塁3塁となおも追加点のチャンス、ここで打席には空気を読めるバッター、永江衣玖が右打席に入ります」
「ま、確実に同点にする打撃を期待したいところだな」
「紅魔館の守備陣形は、先ほどとあまり変わりません。衣玖の狙いとしては、やはり右方向へのゴロということでしょうか?」
「まあ、衣玖の狙いは右へのゴロ、レミリアの狙いは三振か内野フライってとこだな」

「要警戒のバッターと見たか、レミリアもやや長い間合いを取る。投球動作に入って第1球投げた! 内角直球引っ張った当たりーっ! レフト前にライナー落ちるか! お燐がダイブ! 捕球! そしてキャット空中三回転して、見事に着地決まった! これで2アウト!」

「……ああっと? 3塁ランナーのメルランが、帰塁するどころかもうホームベースを走り抜けている。これは完全に戻れない。サードにゆっくり送球されて、3アウトチェンジ! 魔法の森チャンスを逃しました!」

「あー。お燐が捕ったのを確認してから走っても、メルランの足なら完全にセーフなんだけどなー。状況を読めよなー」
「バッターの衣玖は、ヒット性の惜しい当たりでした。しかしお燐の好守に阻まれましたね」
「衣玖もやっぱり右に転がさないとな。空気を読めよ。空気を」

「ネクストバッターとして控えていましたアリス、なんだか呆然と立ち尽くしています。弾幕も野球もブレインという彼女の信条とは180度真逆の拙攻、これにはちょっとガックリ来るかもしれません」
「次の投球に響かないといいんだけどな。アリス」

「一方、聖白蓮その他聖輦船のメンバーは、ベンチに戻ったメルランと衣玖にドンマイと暖かな声をかけています。このへんは野球観の違いということでしょうか?」
「まあ、積極的なプレーを否定しないってのは一つの考え方だけどな。同じチームで考え方が違う連中が混ざると、ちょっと野球としてまとまりがなくなるぜ」

「魔法の森は追いつく絶好のチャンスを逸して無得点。対して、紅魔館は守備から入ったレフトお燐が見事なプレー。選手交代が見事にハマりました」
「これで流れはぐっと紅魔館に引き寄せられた感じだからな。魔法の森はよっぽど慎重にこの裏の攻撃をしのがないといけないぜ」

「3回の表を終わりました。得点は2対0、紅魔館が2点をリードしています」

「さて、攻守交代の間に応援メッセージをご紹介します。白玉楼在住の『ゆゆこ☆ちゃん』から」

『何をやってるかよく知らないけど、頑張るのよー。妖夢をそっちに行かせるから、良かったら使ってあげてねー』

「魔法の森のファンだという『ゆゆこ☆ちゃん』から、熱烈なメッセージをいただきました!」
「どこにもそんなこと書いてないだろ! ……妖夢も来るのか。しかし」
「半人半霊の庭師は一体いつ到着するのでしょうか」

「さて試合は3回の裏、紅魔館の攻撃は打順良く1番センターにとりから」
「チャンスのあとにピンチあり、が野球だからな。アリスもそのへんはわかってると思うが、先頭打者はきっちり抑えたいところだな」

「第一打席はいきなりの3塁打で先制のチャンスを作りましたにとり、この打席もチャンスメイクなるか? アリスはセットポジションから第1球投げた! これは外に大きく外れる緩い球……ストライク? 上白沢の右手が挙がった」
「どう見てもベースの外の球だな。にとりも振ってないし、なんだこりゃ?」

「にとりが上白沢に抗議しますが……。あ、何か説明されて渋々バッターボックスにもどります。魔理沙さん、読唇術はできましたか?」
「バッチリだぜ。上白沢が言うには『お前はあそこに手が届くんだから、ストライクでいいだろう』だな。ま、腕が長い選手のときは多少外角のストライクゾーンを広く取るのは仕方ないな」
「そ、そういうものなのでしょうか?」

「さてアリス第2球投げた! 外角直球振って空振り! 2-0と追い込みます」
「まあこれもコースはさっきと同じだが、ボールが速いぶん振り遅れたな。腕を伸ばして打つのはどうしても速いスイングにはならないから、あそこに直球を続けられると厳しいぜ」
「なるほど。河童の能力を逆手に取った投球ということですね? 魔理沙さん」
「アリスも得点チャンスを逃して動揺があるかと思ったが、今のところは冷静だな」

「追い込んだアリス、セットから第3球投げた! 内角にカーブ、空振り三振!」
「にとりは慌ててバットを出していきましたがカスりもしません。1アウト」
「河童打法の最大の弱点の外角いっぱいの速球を続けていくと見せかけて、内角にカーブか。一度伸ばした腕をあわてて畳んでも、もう間に合わないぜ」
「河童打法を完全に攻略した感のあるアリス。クールな表情の中にもやや笑みが浮かんでいます」

「1アウトランナー無しと変わった紅魔館。バッターは2番セカンド咲夜」
「ランナーがいないから、咲夜は出塁を狙ってくるな」
「瀟洒な打撃の神髄を見られるか。アリスはセットから第1球投げた! 内角に変化球、見送ってボール」
「魔理沙さん。アリスが初めて投げる球のように見えますが、先ほどの球種は?」
「シンカーだな。右打者には難しい球だが、これを打てるかどうかで真価が問われるぜ」

「さ。アリス第2球投げた! 内角続けて、今度はストライク。今の球もシンカーですか? 魔理沙さん」
「シュートに近い、球速のあるシンカーだな。アリスも器用に投げ分けてくるが、これを打てるかどうかで咲夜の真価が試されるぜ」
「瀟洒なメイドの実力やいかに? アリス第3球投げた! 外角にカーブ、見て……ストライク! 2-1と追い込んだ」
「内角外角、緩急の変化と両方使って的を絞らせない投球だな。というか射命丸、2つ続けたらどっちか返せよなー。やってらんないよなー」

「お手本のようなスクエアスタンスで構える咲夜に、アリスは技術の限りで立ち向かう。第4球投げた! 高め直球見て、ボール。2-2です」
「人が命を削る思いで真価がどうこう言ってるんだからさー」

「アリス第5球投げた! ここで落とした! 咲夜が見極める! 2-3でフルカウントになりました」
「そこはもう、反応しないと。人としてさー。まあ天狗だけどな。お前」

「第6球投げた! 打ってファウル、一塁線右に転がっていきます」
「今のボール、少し変化しましたが何でしょうか? 魔理沙さん」
「そうやって変化球ばっかり投げてればかっこいいとか思ってるのか? 射命丸。会話のキャッチボールはもっとこう、直球をビシっとだなー」

「第7球投げた! 内角打ってサード正面への当たり、リリカ取って一塁へ送球、2アウトです」
「咲夜、粘りと選球眼を見せましたが、出塁はなりませんでした」
「最後の球はシンカーが抜けて甘くなっちまったんだが、逆に頭の中にないボールだったみたいでつい打ち損じたな。咲夜も」

「魔理沙さんも帰ってきたところで、状況は2アウトランナー無し。迎える打者は3番サードのフランドール、先ほどは地面ごと打ったワンバウンドのボールがフェンスを越えるという規格外のホームランでしたが、この打席はどうか」

「とんとんとマウンドを踏みならしてからセットに入るアリス、第1球投げた! 外角直球振って空振り! フランドールの大きなスイングも空を切りました」
「コースは完全にボール球で様子見なんだけど、フランが振っちまったな。まあ、フランが振り回してくるのがわかってるだけに、アリスもまともなストライクは投げないんじゃないか?」

「フランドールの怪力を技術でかわす、そんな投球になるのでしょうか。アリス第2球投げた! 内角カットボールこれも強引に打った! バットが根元から折れたが打球はファウル、バックネットのはるか上を越えていきます」
「折れたっていうか、フランのパワーにバットが付いてこられなかったって感じだな」
「素振りでバットを折ったというウワサはやはり本物だったのか? 当たったらどこまで飛ぶかわからない恐ろしさを秘めています」

「新しいバットを持ってきたのは先ほどベンチに下がったルーミア、そしてまたベンチに下がり……ません。一塁の手前で立っていますが、これは?」
「一塁走塁コーチのつもりなんだろ。ルーミアは」
「やはり横に手を広げたいというこなのか。ルーミアらしい新しいポジションを見つけたようです」

「新しいバットも届いたところで、気分も新たに試合再開です」
「2-0と追い込んでいるアリス、第3球投げた! 落としてワンバウンド、ボール……ではない! 打って打球がピッチャー返し、センターの前に抜けた! 打ったフランドールは一瞬きょとんとしていましたが、一塁にとことこと走ります」
「第一打席も地面すれすれの球を打ち上げてたわけだし、フランは別に低い球を苦手にしてるわけじゃないんだ。そもそも、フランにストライクゾーンって概念はないはずだし、どんなボール球が来ても打ちたければ打つんだから、最後の1球は不用意だったな-。んー」

「やはり、第一打席のあとのホームランの談話をアリスに聞かせておきたかったですか? 魔理沙さん」
「まあ、その辺は勝負のアヤだから仕方ないな。フラン相手には長打を打たれなければオッケーだろ」

「2アウト1塁と変わって迎えるのは4番ピッチャーレミリア。先ほどは軽打してのセンター前ヒットでしたが、ここは長打を要警戒ですね? 魔理沙さん」

「第一打席はフランがはしゃぎすぎたあとで空気が悪くなってたからな。レミリアも本気を出せなかったところがあるんだろうが、ここは遠慮無しに打ってくると思うぜ」

「左打席でオープンスタンス、小さな体を腕も羽根もめいっぱいに伸ばして構えるレミリアに、アリスはどう向かっていくのか。第1球投げた! 外に小さな変化、見送ってストライク! レミリアは初球をまず見てきました」
「長打を警戒すれば、当然引っ張らせたくはないからな。右中間がバカ狭くて左中間がバカ広い球場だから、左打者には外角中心ってのが基本だぜ」

「アリスセットポジションから第2球……一塁に牽制しましたが、フランドールはベースの上から動いていません。アリスに手を振っています」
「フランは盗塁とかそういうのがわかってないんだから、牽制してもムダなんだけどなー。アリスもそろそろ気づけよ」

「やや集中を削がれたか、頭のカチューシャをちょっと直したりしているアリス。セットポジションから第2球投げた! 内角これは打った瞬間! 大きな当たりが人工太陽を撃ち抜くようにセンターバックスクリーンへ、あっという間に見えなくなった! 文句なしのホームラン、2ランホームランです!」
「あー。もう完全な逆球だな。外を狙ったんだが抜けて内角に甘く入ったぜ。アレを見逃すレミリアじゃないな」

「小さなお手々をぐっと握ってグラウンドを一周するレミリア、アリスはマウンドにがっくり膝を突いて立ち上がれません! これは完璧に打ち砕かれたかアリス、紅魔館に大きな追加点が入りました、4対0!」

「直接フランに打たれたわけじゃないんだが、アリスはやっぱりあの牽制のあとおかしくなったな。第一打席もレミリアのベンチからの声かけでフランが救われてるし、なんだかんだで仲がいいよな。あの姉妹」

「フランドールがまたはしゃごうとしていますが、レミリアが必死に羽交い締めして抑えています。うるわしきかな姉妹愛、しかしやっていることは羽交い締めだ! 強烈な羽交い締めだ!」
「仲いいよなー。やっぱ」

「ホームランの余韻さめやらぬ中、5番ファーストパチュリーが右打席にすでに入っています。アリスはどうか? ……今やっと立ち上がりました。天子、ルナサ、早苗あたりが声をかけますが、アリスは軽くうなずいています」
「アリスの表情はかなり青ざめていますね。魔理沙さん」
「正直動揺はあるんだろうが、ここであきらめたら試合終了だからな」

「紅魔館相手に4点のビハインドを背負った魔法の森。厳しい展開ですが、ここから追い上げていかなければ勝利はありません」
「アリス、第1球投げた! 真ん中打った、ぼてぼての当たりがショートへ、ルナサ拾って一塁送球、早苗捕ってこれは余裕のフォースアウト、3アウトチェンジです」
「紅魔館はこの回2点を追加で4対0。リードを4点として攻撃終了です」

「あ、今やっとパチュリーが一塁に着いたな」
「おっと! のたのたとてとてと一生懸命走っていたのかパチュリーノーレッジ! アウトになってから5秒ほど経って一塁ベースを駆け抜けていったが、スタンドからこの全力疾走に大きな拍手!」
「やっぱ愛されてるなー。パチュリーは」

「愛されパチュリーと愉快な仲間達は、このまま一方的なペースで試合を展開していくのか? 3回の裏終了、4対0と紅魔館のリードです!」

【続く】
【次回予告】
チームリーダーの座を白蓮に奪われ、投手としても4点を奪われたアリス。
全てを失ったかに見えたアリスに残された最後の希望とは?
続々と登録される新選手たちは試合の流れを変えられるか?
そして魔理沙を中心に交錯する女達のクロスプレーは?

博麗霊夢(以下略) 第四話「萃香、割る」
  ※番組の内容は断り無く変更される場合があります※

【突発!Kスタクイズ】
作中の「クリムゾンレッドスタジアム」の元ネタになっている紅い球場こと日本製紙クリネックススタジアム宮城(通称「Kスタ宮城」)では、かつて試合中にマウンドから意外なものが発掘されたことがあります。それはなんでしょうか?
ヒント:固いです。紅魔館の庭にもたくさんあるはず。
屋敷犬
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コメント



0.660簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
「やればーできーる」はー、魔法ーの合言葉ー。
7.90名無し程度の能力削除
毎度楽しく読んでます。
アリスが立ち直れるのか、気になりますね。
ただフランドールは二回とも回転しなくても捌ける気がするのですが…

骨かな
9.無評価屋敷犬削除
>>6 素晴らしい明日が、まってるーかーらー。
魔法学園こと愛媛済美高等学校の学園歌ですね。優勝したことよりあの歌が甲子園で流れたことのほうが驚きでした。
>>7 左投げのフランが一塁側に強く送球するには、捕球後に一度動きを止めてから右足をぐっと踏み込んで投げるか、捕球の勢いでくるっと回って投げるかのどっちかになります。
空中で捕球したメルランの打球は足場が使えないので回転するしかない、という解釈でお願いします。リリカのバント処理はそもそも動き出しが遅かったということでご容赦を……。
13.90名前が無い程度の能力削除
相変わらずの面白さグッジョブです。
さて、ここからどう反撃していくか見ものですね。
ところで、試合に出ているメンバーは一人一人実在の選手がモデルになってるのかな?

Kスタのは、多分レンガかな。
18.100Dark+削除
やっぱりこういう形式は個人的に好きです。面白かった。

次も期待してます。
20.100名前が無い程度の能力削除
アリスはダル並の制球力ありそうなんだが、力負けしてるな~

マウンドから煉瓦が出土した試合はリアルタイムでTV観戦してました。
21.100名前が無い程度の能力削除
実況解説の微妙な空気がすげえリアリティあるわあ