人形でもあるけれど一人の女の子でもある。
そういう扱いを心得てほしいと最近思うようになった。主にアリスに。
今日は髪形を思い切って変えてみたの。リボンを外して
髪を左右にちょこんと結ぶ。ツインテールというらしい。
靴も赤いヒールに。
ちゃんと見てくれるかな? 靴まで。彼女がよく気の利くというか
気が回る性格なのはさんざん知っているが、心配はずっと心配なのだ。
あの子――メディはこの幻想郷(せかい)で一番純真な子だ。白にも黒にも、
どんな色にも染まるとあっという間に染まってしまう。
それについては期待と不安が毎日交錯してしまい落ち着かない。
だからこそ私がしっかりこの子を見てあげなければ――そう思ってしまう
私はかなりのおせっかいか、エゴイズムの塊だろう。
今日は天気がいいので二人でお散歩。
あら、メディ髪がいつもと違うわね。ふふ、元気いっぱいな女の子! って感じ。
それによく見るとちょっと大人っぽいヒール。今日はレディーかしら? くすくす。
「似合ってる、可愛いね」って言われた。
嬉しい。もっと言って! とねだってしまう。
他の子にかける言葉が一言なら私には三言、返事する時も
「はい」、「いいえ」だけじゃなくてもっと長いのをお願いしたいの。
ワガママ? たぶん大きなワガママなんて言ってない……はず。
今日はいつもよりも大人っぽくしようと決めていたけれど、頭を撫でられると
やっぱりいつものように戻ってしまう。
……頭撫でられるのは嫌いじゃなく、大好きなんだけれどね。
この子は全てがまっすぐだ。だから余計な言葉は使う必要が無い。
こっちも思ったままのことを言えばいいから。
玄関前で右手が空いてたので手を繋ぐ。みるみる赤くなるメディの顔。
頬が緩む。本当にこちらが気持ち良くなるくらい素直な子なのよ。
強がってる姿が実にからかい甲斐があって、ついつい意地悪したくなる。
『今日も可愛いね』
耳元で囁こうかと思ったけどやめた。今は繋いだ手の感触を楽しみつつ
二人の時間を楽しむことにしよう。
外に出ると太陽の光が温かい。
――もう春なのね。
こないだの待ち合わせは鈴蘭畑で。
待つ……最初は退屈で、しかし時間が経つごとに大きな不安に変貌した。
アリス、約束を忘れちゃったのかな?
もしかして、アリスの身に何か大変なことが!?
そんな悪いことばかりが浮かぶ。様子を見に行こうかとも思ったが
それで入れ違いになったら本末転倒だ。だから、ずっと待った。
ようやくアリスが来て、私は泣きながら彼女にしがみついた。
『もう待つのは嫌だ』
捨てられた後の数日間の記憶がよみがえってしまった。
「待つのは嫌」
あの日以来、約束事はいつもメディから取り付けてくる。
捨てられた人形といっても、最初は捨てられたなんて思ってなかったはず。
きっと何かの間違いで迎えに来てくれる――最初は思ったはずだ。
思い出させてしまったのだろう、あの日、あの子に。自分の未熟さに
腹が立つ。だが、ますますあの子が愛しくなったのも事実だ。
――今日は何をする? どこか行ってみる? もう、そんな淋しそうな顔
しないの。今行くから、ね?
本に描かれたお姫様を迎えに白馬に乗った王子様が現れるシーン。
思い切ってアリスにお馬さんをねだってみる。
冷静に考えると子供っぽくて笑われるようなお願いにも関わらず、「いいわよ」と
いつもの優しい顔で引き受けてくれた。
私はワガママかもしれない。そう思ったら叱ってね。
「白いお馬さん」の要望。まるで王子様を待つお姫様だ。なぜか照れくさいが、
それを表情には出さず依頼を受ける。
三日かけて白馬の人形を作り、早速披露。飛び乗り彼女を後ろに乗せて
森を駆け回った。自分で飛ぶのよりもずっと気持ち良い。風も心地よかった。
後ろでしがみつきながらはしゃぐメディを見て、私はもちろんお馬の人形も
喜んだ。
私のことをわかってほしい。それこそ1から10まで。
そう思ってしまってる自分がひどく醜い。
……悲しいけれど、私はあの子の全てはわかってない。
人形としても、女の子としても。
魔理沙、霊夢。幽香やパチュリー。
他にもアリスにはたくさん知り合いの子がいる。仲もいい。
楽しそうに話してるのを見るのはちょっと辛いけれど、我慢する。悪い子だと
思われたくないという一心。きっとできる、私はできる。
だから、置いていかないで。ね?
他の子と話してる時に目にする拗ねた瞳。これには苦笑いを浮かべ、
話を切り上げてあの子のもとへ向かい頭を撫でてやる。
大丈夫、一生懸命我慢してるって、わかるから。
「私だけのお姫様になってほしい」
いきなりそんなこと言われても、どうすればいいの!?
本の中だけのものだと思っていた憧れの世界が今、現実に、
目の前にあるのだ。
動転し、逃げだすように走ってしまう。横から気配が。あれは春の妖精、
信じられない速さだ、駄目、ぶつかる――!
――っ?
急に腕を掴まれたと思ったら引き寄せられ、アリスに抱きしめられる。
そんな、えっ?
「轢かれる、危ないわ」
ますます強く抱きしめられるが、苦しいよりも温かかった。
「私だけのお姫様」
私は人形を家族だと思っている。しかし目の前の子……
メディスン・メランコリーをもう人形として見れそうにない。
なぜなら彼女は一人の女の子になってしまったからだ。
走りだしてしまった彼女を慌てて追う。いきなり告白してしまったから
混乱させてしまったのだろう、ああもう。
なぜか春の妖精が低空飛行で突っ込んでくる。きっと離陸前の加速ね。
無我夢中でメディの腕を掴むとそのまま抱きよせる。小さく細い体。
あらゆる障害から守るように強く抱きしめた。
私はしばらくぼーっと眺めていた。私だけの王子様の顔を。やがて気付く。
王子様とお姫様がすることは一つだ、と。もう混乱の心配はない。アリスに
身を委ねて私は静かに目を閉じた。そして待つ。――王子様のキスを。
この子を一人ぼっちにさせない、させるものですか。王子様というのは
柄ではないけれど……今この時はメディの王子様になってみせよう。
私は身をまかせてきた小さく可愛いお姫様の唇にそっと自分のを重ねた。
だっせぇオマケ
アリスが風邪をひいた。桜が咲いたのと同時にだ。リリーの仕業なんかでなく、
単なる徹夜を重ねて体調を崩しただけだ。あれほど無茶するなと言ったのに、
私がいないといつも彼女は無理を無意識でやってしまう。こまりものです。
看病を続けて3日後のこと。
「ねえメディ、花見に行きましょう」
「花見?」
インドア派のアリスがこんなことを言うなんて。やっぱり症状が悪化しているのだろうか?
と最初に思ってしまったことを許してほしい。
「一緒に……ね?」
「でもアリス、まだ熱はあるんだし、まずはしっかり風邪を――」
「お弁当を持ってね、河原に行くの」
華麗にスルーされた。
「だから――」
「メディの好きな物をたくさん入れて、鈴蘭の花柄模様のシートを広げて食べるのよ」
聞けよ……。
「時間は夜がいいわね。私、夜桜好きだし」
いや、初耳だわ。
「何より私達のことが人目につくことがないわ」
妖怪って夜行性のが多い気がするんだけど。いろいろツッコミをいれる私を無視し、
最後にアリスは私を見てニコリと笑った。
「一緒に気持ち良くなろうね?」
そいつはすげぇや!
そういう扱いを心得てほしいと最近思うようになった。主にアリスに。
今日は髪形を思い切って変えてみたの。リボンを外して
髪を左右にちょこんと結ぶ。ツインテールというらしい。
靴も赤いヒールに。
ちゃんと見てくれるかな? 靴まで。彼女がよく気の利くというか
気が回る性格なのはさんざん知っているが、心配はずっと心配なのだ。
あの子――メディはこの幻想郷(せかい)で一番純真な子だ。白にも黒にも、
どんな色にも染まるとあっという間に染まってしまう。
それについては期待と不安が毎日交錯してしまい落ち着かない。
だからこそ私がしっかりこの子を見てあげなければ――そう思ってしまう
私はかなりのおせっかいか、エゴイズムの塊だろう。
今日は天気がいいので二人でお散歩。
あら、メディ髪がいつもと違うわね。ふふ、元気いっぱいな女の子! って感じ。
それによく見るとちょっと大人っぽいヒール。今日はレディーかしら? くすくす。
「似合ってる、可愛いね」って言われた。
嬉しい。もっと言って! とねだってしまう。
他の子にかける言葉が一言なら私には三言、返事する時も
「はい」、「いいえ」だけじゃなくてもっと長いのをお願いしたいの。
ワガママ? たぶん大きなワガママなんて言ってない……はず。
今日はいつもよりも大人っぽくしようと決めていたけれど、頭を撫でられると
やっぱりいつものように戻ってしまう。
……頭撫でられるのは嫌いじゃなく、大好きなんだけれどね。
この子は全てがまっすぐだ。だから余計な言葉は使う必要が無い。
こっちも思ったままのことを言えばいいから。
玄関前で右手が空いてたので手を繋ぐ。みるみる赤くなるメディの顔。
頬が緩む。本当にこちらが気持ち良くなるくらい素直な子なのよ。
強がってる姿が実にからかい甲斐があって、ついつい意地悪したくなる。
『今日も可愛いね』
耳元で囁こうかと思ったけどやめた。今は繋いだ手の感触を楽しみつつ
二人の時間を楽しむことにしよう。
外に出ると太陽の光が温かい。
――もう春なのね。
こないだの待ち合わせは鈴蘭畑で。
待つ……最初は退屈で、しかし時間が経つごとに大きな不安に変貌した。
アリス、約束を忘れちゃったのかな?
もしかして、アリスの身に何か大変なことが!?
そんな悪いことばかりが浮かぶ。様子を見に行こうかとも思ったが
それで入れ違いになったら本末転倒だ。だから、ずっと待った。
ようやくアリスが来て、私は泣きながら彼女にしがみついた。
『もう待つのは嫌だ』
捨てられた後の数日間の記憶がよみがえってしまった。
「待つのは嫌」
あの日以来、約束事はいつもメディから取り付けてくる。
捨てられた人形といっても、最初は捨てられたなんて思ってなかったはず。
きっと何かの間違いで迎えに来てくれる――最初は思ったはずだ。
思い出させてしまったのだろう、あの日、あの子に。自分の未熟さに
腹が立つ。だが、ますますあの子が愛しくなったのも事実だ。
――今日は何をする? どこか行ってみる? もう、そんな淋しそうな顔
しないの。今行くから、ね?
本に描かれたお姫様を迎えに白馬に乗った王子様が現れるシーン。
思い切ってアリスにお馬さんをねだってみる。
冷静に考えると子供っぽくて笑われるようなお願いにも関わらず、「いいわよ」と
いつもの優しい顔で引き受けてくれた。
私はワガママかもしれない。そう思ったら叱ってね。
「白いお馬さん」の要望。まるで王子様を待つお姫様だ。なぜか照れくさいが、
それを表情には出さず依頼を受ける。
三日かけて白馬の人形を作り、早速披露。飛び乗り彼女を後ろに乗せて
森を駆け回った。自分で飛ぶのよりもずっと気持ち良い。風も心地よかった。
後ろでしがみつきながらはしゃぐメディを見て、私はもちろんお馬の人形も
喜んだ。
私のことをわかってほしい。それこそ1から10まで。
そう思ってしまってる自分がひどく醜い。
……悲しいけれど、私はあの子の全てはわかってない。
人形としても、女の子としても。
魔理沙、霊夢。幽香やパチュリー。
他にもアリスにはたくさん知り合いの子がいる。仲もいい。
楽しそうに話してるのを見るのはちょっと辛いけれど、我慢する。悪い子だと
思われたくないという一心。きっとできる、私はできる。
だから、置いていかないで。ね?
他の子と話してる時に目にする拗ねた瞳。これには苦笑いを浮かべ、
話を切り上げてあの子のもとへ向かい頭を撫でてやる。
大丈夫、一生懸命我慢してるって、わかるから。
「私だけのお姫様になってほしい」
いきなりそんなこと言われても、どうすればいいの!?
本の中だけのものだと思っていた憧れの世界が今、現実に、
目の前にあるのだ。
動転し、逃げだすように走ってしまう。横から気配が。あれは春の妖精、
信じられない速さだ、駄目、ぶつかる――!
――っ?
急に腕を掴まれたと思ったら引き寄せられ、アリスに抱きしめられる。
そんな、えっ?
「轢かれる、危ないわ」
ますます強く抱きしめられるが、苦しいよりも温かかった。
「私だけのお姫様」
私は人形を家族だと思っている。しかし目の前の子……
メディスン・メランコリーをもう人形として見れそうにない。
なぜなら彼女は一人の女の子になってしまったからだ。
走りだしてしまった彼女を慌てて追う。いきなり告白してしまったから
混乱させてしまったのだろう、ああもう。
なぜか春の妖精が低空飛行で突っ込んでくる。きっと離陸前の加速ね。
無我夢中でメディの腕を掴むとそのまま抱きよせる。小さく細い体。
あらゆる障害から守るように強く抱きしめた。
私はしばらくぼーっと眺めていた。私だけの王子様の顔を。やがて気付く。
王子様とお姫様がすることは一つだ、と。もう混乱の心配はない。アリスに
身を委ねて私は静かに目を閉じた。そして待つ。――王子様のキスを。
この子を一人ぼっちにさせない、させるものですか。王子様というのは
柄ではないけれど……今この時はメディの王子様になってみせよう。
私は身をまかせてきた小さく可愛いお姫様の唇にそっと自分のを重ねた。
だっせぇオマケ
アリスが風邪をひいた。桜が咲いたのと同時にだ。リリーの仕業なんかでなく、
単なる徹夜を重ねて体調を崩しただけだ。あれほど無茶するなと言ったのに、
私がいないといつも彼女は無理を無意識でやってしまう。こまりものです。
看病を続けて3日後のこと。
「ねえメディ、花見に行きましょう」
「花見?」
インドア派のアリスがこんなことを言うなんて。やっぱり症状が悪化しているのだろうか?
と最初に思ってしまったことを許してほしい。
「一緒に……ね?」
「でもアリス、まだ熱はあるんだし、まずはしっかり風邪を――」
「お弁当を持ってね、河原に行くの」
華麗にスルーされた。
「だから――」
「メディの好きな物をたくさん入れて、鈴蘭の花柄模様のシートを広げて食べるのよ」
聞けよ……。
「時間は夜がいいわね。私、夜桜好きだし」
いや、初耳だわ。
「何より私達のことが人目につくことがないわ」
妖怪って夜行性のが多い気がするんだけど。いろいろツッコミをいれる私を無視し、
最後にアリスは私を見てニコリと笑った。
「一緒に気持ち良くなろうね?」
そいつはすげぇや!
読みやすいー
二人がえらく可愛く見えて良いですw