「私たちが登場してから、早十年ですね」
「開幕直後からまさかのメタ発言に読者はドン引きよ、咲夜」
ひゅうと流れる風が葉のない木々の先を揺らす、そんな季節。十六夜咲夜はレミリア・スカーレットに午後のティータイムを提供すべくお茶の準備を進ませながら、唐突にそんなことをつぶやいた。
「正確にはあと数ヶ月で、ですが」
「聞いてないわ」
レミリアの言葉を無視して咲夜は続ける。
「十年という月日は短くありません。これまでに数々の勢力が幻想郷で台頭してきました」
「そうね、冥界に八雲の、蓬莱人に山の神社、天狗、地底人に寺、それに最近なにか復活したみたいじゃない。賑やかになったものね」
「そうですね。幻想郷は今やバラエティに富んだネタの宝庫となってます」
「ネタて」
「今や幻想郷真っ盛り。私たちは至るところで、動画や小説、絵や歌の中で主人公となってます」
「なにそれ怖い。いつの間に」
「果てはちょめちょめなども」
「ちょめちょめ?」
「ちょめちょめ」
小首を傾げるレミリア。五百歳児である。
「そんな数ある媒体の中、数ある勢力の中、古参である私たちの人気が衰えないのはなぜでしょうか?」
「さぁ、わからないわ」
「それは、私たちに多様性があるからです」
「多様性」
「そう、多様性。紅魔館にはあらゆるジャンルに対応できる人材が多く存在します。シリアス然り、コメディ然り、ラブロマ然り、果てはネチョ――」
「ちょっと待って」
レミリアは咲夜の言葉を遮る。ナイスなタイミングであった。
「確かに、最初の異変のときは私たちもそれなりに真剣だったからシリアスと呼べると思うけど、コメディとかラブロマはどういうこと? 特にそういった話を聞いたことも――ハッ、まさか私だけ仲間はずれにして愉しいことをしたり、職場恋愛なんてこと……」
「してません」
「そうよね」
ほっとレミリアは胸を撫で下ろした。が、疑問は残る。
「となると、いよいよわからないわ。私たちの日常はコメディでもないし、シリアスでもない。特に恋愛事情なんかもないとなると、なぜ対応できると言えるの?」
「実績がありますから」
「実績?」
「えぇ、先ほども申し上げましたように、幻想郷は多くの媒体にて構成されてます。小説、動画、絵、音楽、などなど。それらを媒体にして色んな属性を持った私たちが活躍しているというわけです」
「なるほど、それを作る人はたくさんいるのね」
「そういうことです。私が吸血鬼ハンターで、お嬢様の命を狙いに来たという話もあったりしますよ」
「やだ、なにそれ怖い」
「私と美鈴がラブラブする話なんかもあります」
「女の子同士で?」
「瑣末な問題です」
そうかしら……、とレミリアは首を捻る。
「他にも美鈴の正体が実は龍だったり、パチュリー様が動かなかったり」
「後者はどこでも同じっぽいわね」
こほん、と咲夜は一つ咳払い。
「つまり、紅魔館の住人一人一人がそれぞれの作品で主役を張れるほど、強力な個性を持っているというわけです」
なるほど、とレミリアは得心がいったようにうなづいた。
「言いたいことはわかったわ。けど、何がしたいのかがわからない。咲夜のことだから、その先に何かあるのでしょう?」
咲夜は満足そうに微笑む。
「さすがはお嬢様。お見通しでしたか」
「十年付き合ってるからね」
用意された紅茶を含むレミリア。
では、と咲夜が口を開いた。
「私が考えたカリスマ値向上のための紅魔ダンスを踊ってください」
「ぶふぅーっ!」
噴き出した。
「お嬢様、ばっちいですわ」
「誰のせいよ! なに紅魔ダンスって!」
「ええとですね、こう右腕を頭上でにょきにょきさせて腰をポールダンスのように振りながらビシャモン、ビシャモンと」
「紅魔ダンスなのになんでビシャモン!? というか、どうせ許可取ってないんでしょそのセリフ、あとで謝っておきなさい!」
「いつものことですわ」
「なお悪い!」
ぷう、と咲夜の頬が膨れる。
「一生懸命考えたのですが、お気に召しませんか」
「いや、お気に召す召さない以前に、それ命蓮寺だから。うち関係ないから。というか、流れがわからない。全然わからない」
「展開が急すぎでしたね。申し訳ございません」
「ちゃんと説明しなさいな」
「かしこまりました」
ごほんと咳払いを一つ、咲夜は人差し指をぴっと立て、説明を始めた。
「いいですか? 言うまでもないことですが、お嬢様は紅魔館の主です」
「言うまでもないわね」
「これだけ個性豊かな人材がひしめく中、そのトップであらせられるお嬢様は、誰よりもカリスマに満ちていなくてはなりません」
「ふふん、良いこと言うじゃない」
「しかし嘆かわしいことに、うーうー可愛らしく笑顔を振りまくカリスマが減退したお嬢様に人気があることも、また事実」
「なんてこと……!」
レミリアは嘆いた。ついでにメロスは激怒した。
「そこで咲夜は考えました。こちらのお嬢様のカリスマを確固たるものにすれば、他の世界のお嬢様にも影響を与えることは可能じゃないか、と」
「なるほど……」
レミリアは合点がいったとうなづいた。
「……でも、あのダンスはないわ」
「そうですか……」
しゅんと肩を落とす咲夜。自信があったということがレミリアには驚きであった。
しかし咲夜もめげない。顔を上げ次なる提案を口にした。
「では、歌にしましょう」
「歌?」
「えぇ、人気のあるものにはテーマソングが付きものです」
ふむ、とレミリアはあごに手を置く。
「確かに、そういう話は聞くわね」
「これが歌詞カードです。これでカリスマ値はうなぎ登りですわ」
「これ咲夜のテーマソングじゃないかーっ!!」
がおーびりびりむしゃむしゃごっくん。
「……おいしいですか?」
「んなわけあるか!」
ぺっぺっとレミリアは憤慨する。
「しかしこれもお気に召さないとなると、あとは正攻法しかないですね」
「これまでが正攻法じゃないという自覚はあったのね……」
レミリアは、なら最初から正攻法を勧めろよ、という言葉を飲み込んだ。突っ込むよりも先に進めた方がいい。そう考えたのだ。
「それで、正攻法って?」
「それは――スペルカードです」
「スペルカード」
「はい。意味もなく無駄にカッコよくスペルカードを連発するのです。意味はないですが」
「意味ない言い過ぎ。それでカリスマ値は上昇するのかしら?」
「おそらくするでしょう、たぶん。カッコよくないよりはカッコいい方がカリスマがあるに決まってますわ」
「なんて雑な作戦なのかしら」
「やらないよりマシですよ。さ、やってみましょう」
「むぅ……」
半ば強制される形でレミリアはその作戦を実行に移すことになった。
こきこきと首をならし、レミリアは精神を集中させる。
「じゃあ、やるわよ」
「お願いします」
すぅ、と息を吸う。
「不夜城レッド! 不夜城レッド! 不夜城レーッド!」
「もっと! もっとです!」
「不夜城レッド不夜城レッドふにゃじょうレッド!ふじゃじょうレッド!」
「噛まないで! もっともっと! 速度が足りない!!」
「なんだかノってきたわ! ふやふやふふふふ不夜城レッ不夜城ふふふふスカーレットシュート! スススススカーレットシュート!」
ぶほ!
咲夜が噴き出した。
「お嬢様! もうやめてください! イヒッヒッ……ブェッ!!」
「まだまだぁー!!」
「きゃー!?」
余りにも連発されたレミリアの魔力は館内に充満。行き場所を失いそして爆発した。
瓦礫の山となった元紅魔館には、やりすぎた……と反省するレミリア、煽りすぎた……と反省する咲夜、呆然と立ち尽くすパチュリーと小悪魔、きゃっきゃと飛び回るフランドール、寝続ける美鈴の姿があった。
「……そういえば、お嬢様」
「……なにかしら?」
「日光はよろしいので?」
「…………ハッ。ぎゃああ!!」
「お嬢様!? お嬢様ぁー!!」
「ドリームか……」
レミリアのカリスマ値向上はこれからだ!!
次回作にご期待ください。
メタい感じを隠そうともしない潔さに喝采であると思います。
歌詞カードの使い方には驚かされました。
でも紅魔館のメンバーは誰もが主役になる事が出来るというのはその通りですね。
無茶な咲夜さんがいい味を出していると思いました。
これは凄いwwwwwwww
そんな貴方に、私からこの歌を捧げます。
照れ臭いほどの 呼び名が似合う
お前はまさしく 創想話の王子様
ユーアー ザ プリンス オブ 葉月
(このコメントはロードローラーされました。)
歌詞カードは卑怯すぎ。「ドリームか」オチも卑怯すぎ。不夜城レッドを噛んじゃうお嬢様が可愛すぎて卑怯すぎ。
いろんな意味で卑怯なSSでした。
テニプリの歌詞の、あのむずむずする感じは何なんだろう
なんというメタッぷりw
いや、でも笑ってしまったので俺の負けです。
メタネタは笑えるか興ざめになるかが境界線ですよね。
そう考えると元ネタの分かる分からないで評価の割れる作品なのかなーとは思います。
てへ!(メゴッ)
>がいすとさん
なんか浮かんでしまいました。
>君の瞳にレモン汁さん
\お家芸!/
>春日傘さん
「叩かれちゃってもいいさ」くらいの勢いじゃないとメタ話は書けません!
ありがとうございました!
>11
ありがとうございます!
>早苗月翡翠さん
やめて! なんかめっちゃ恥ずかしい!w
>17
綺麗なお姉さんくらいですね。すんばらしい。
>とーなすさん
最高の褒め言葉だぁ(汚れた目)
ありがとうございましたw
>さとしおさん
今日、新テニスの王子様を読んできました。
むずむずしながら爆笑しましたw
>22
愉しく書くことができましたw
>27
確かに今回の作品は、わからない人には不親切な感じになってますねー。
人を選ぶことになってしまいました。
>30
へへへ……。
>ふとももさん
愉しんでいただけたようでなによりです。
>33
さすがにちょっとアレかなと思ったけど、みなさんの反応が予想に反してアレだったのでとてもアレでした。
書いてて楽しかったんだろうなぁ
曲名は「赤く染める月」だし歌ってるワカメ野郎は赤い悪魔ですぜ
サンキューアッレ
ノリノリで書けましたー。
>46
そんな曲があるんですね。
今度聴いてみます。
>50
アレしちゃいましたー。