Coolier - 新生・東方創想話

鋼鉄紅魔郷-stage4-後編

2009/06/01 02:56:12
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 幻想郷を覆いつつある謎の妖霧。
 その霧は夏の強烈な日差しから幻想郷を覆い隠し、中での弾幕ごっこを妨害する機能を持ち合わせていた。
 博麗神社の巫女さん、博麗霊夢は日光を遮る妖霧をどうにかすべく、事態の解決に出かけ、変な鉄の妖怪の妨害を受けてほうほうの体で逃げてきた。
 同じ頃、魔法使いの霧雨魔理沙は、霧の発生源と思しき湖の島へ様子を見に行き、霊夢と同じく変な鉄の妖怪の妨害に遭って引き上げてきた。
 鉄の妖怪への対抗手段を求めてやってきた古道具屋、香霖堂で二人は店主の森近霖之助から対抗手段の「鉄で出来た式みたいなもの」『博麗』、『霧雨』の二機を受け取り、再び事態の解決に乗り出した。
 神社の境内裏でルーミアの『宵闇』、湖の外周部上空でチルノの『氷雨』と二人は交戦、これを撃破。
 二人はさらに湖の島を目指し、湖の内周部上空で紅魔館門番部隊と交戦。紅美鈴の『華人小娘』と精鋭部隊『ゲートキーパーズ』に苦戦を強いられる二人だったが、辛くもこれを撃破。
 ところどころを損傷した機体を駆り、二人は霊夢の『カン』を頼りに針路をとって、遂に霧の発生源と思われる場所を発見した。
 霧のヴェールを纏った紅く広大なお屋敷――屋敷要塞『紅魔館』である。
 堅牢に守りを固めた紅魔館を相手に、霊夢と魔理沙はたった二機で対要塞戦闘の火蓋を切って落とした。
 彗星の如きの機動で防御陣地を切り崩す『霧雨』。そして光子魚雷『夢想封印』を解禁し一掃する『博麗』。
 守りを貫いた二人は紅魔館の塀を飛び越え、その瞬間何の前触れもなく何処とも知れぬ屋内空間へとワープしていた。
 ワープアウトした先は無数の巨大な本棚が林立する薄暗い図書館だった。
 尋常ではない広さのそこへ招かれた二人はヴワル魔法図書館防衛隊の手厚いもてなしを受ける。
 巨大な本型攻撃トラップを皮切りに、多数の紅魔館主力量産機『サーヴァント(図書館仕様)』、そして毛玉型攻撃機。
『鬼神』と見紛うばかりの戦い振りを見せる『博麗』と勝らず劣らずの強さを見せる『霧雨』はその悉くを撃破し、趨勢を決しつつあった。
 しかし、『リトルデビル隊』――通称『こぁい三連星』――を筆頭とするエース部隊の参戦によって戦況は巻き返される。
『博麗』と『霧雨』は分断され、単騎でエース部隊を相手取る事態に陥った。
 ホーミングミサイルの使用を制限され、連携技『リトルデビルストライク』によって痛撃される『博麗』。
 多数の敵機を『スターダストレヴァリエ』によって一掃するも、撃破を逃れた『エイボン隊』にレーザーガンポッドで踊らされる『霧雨』。
 そして、苦戦を強いられる二人にとどめを刺すように、パチュリー・ノーレッジが愛機にしてヴワル魔法図書館の切り札、『大図書館』が出撃した。

 以上、前回までのあらすじ。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 青いレーザーに翻弄されるように、黒白二色のカラーリングにウィッチハットめいた頭部形状が特徴の機体、『霧雨』が本棚の林を高速で飛ぶ。
 その後方には二機一組単位で四つに分かれたエース部隊――『エイボン隊』の機影があった。
『エイボン隊』の一機が抱えるようにして構えたレーザーガンポッドから青い熱線が疾る。
 短射程だが発射から弾着までコンマ一秒のラグもないレーザー攻撃。それを、魔理沙操る『霧雨』は射線上から逃れる事で辛くもかわす。
「ったく。まるでオペレーションXだぜ。スカーフェイスとZ.O.E.がいれば完璧だな」
 一人のコクピットで魔理沙は不敵な軽口を叩いた。コンソールパネルの隅に表示されたカウントに目をやる。
「あと三十秒」
『スターダストレヴァリエ』でダウンした機体パワーの復調までにかかる残り時間を見て、魔理沙は自身を鼓舞した。
『霧雨』に搭載された近距離掃討兵器『スターダストレヴァリエ』は、強力な一方で機体にかかる負荷も大きい。敵部隊の包囲を切り抜けるためにボムの札を切った魔理沙は代償として『霧雨』に百秒以上のパワーダウンを強いられた。
 しかし、それもあと三十秒で終わる。本来のパワーを取り戻せば戦闘のイニシアチブを取り返せる。そうすれば、殺気で背筋が冷や冷やするタイトロープのようなこの回避劇ともおさらばだ。
「っと」
『霧雨』、右へローリング。一瞬前までいた場所をレーザーが貫く。レーザーの角度から敵機の位置を逆算してミニミサイルマシンガンで反撃。手応えなし。
 魔理沙は舌打ちした。『霧雨』の復調が待ち遠しい。本調子ならば最大推力で後方の敵を振り切って、編隊をかき乱し、各個に撃破できるのだが。
 側方より殺気。ロックオンアラートが鳴る前にパワーダイブ。床スレスレの低空まで高度を落とし、紙一重でレーザーをかわす。
「あと二十秒!」
 降下で得た速度を殺さず、本棚の切れ目へ左折で突っ込んだ。『霧雨』の速度が速過ぎる上に切れ目が狭い。魔理沙の視界に流れていく本棚が迫る。
「く、ぉらっ!」
 あわや接触というところで『霧雨』は本棚を蹴った。ロール一回で反動を逃がし、曲がりきる。
「わあああああああ!!!」
 強引に曲がって『霧雨』を追ってきた『エイボン隊』の二機が曲がりきれずに本棚へ激突した。二機は揉みくちゃになって墜落する。『エイボン隊』残り六機。
「あーあ、ご愁傷さんだぜ」
 コンソールディスプレイの残り時間表示、『あと十五秒』。
 無理に曲がろうとせず、通り過ぎてから切り返して追ってきた六機が『霧雨』の後方についた。レーザー掃射。『霧雨』、ランダム回避でこれを凌ぐ。
「あと十秒!」
 今度は右折する。先の左折時の様に本棚を蹴って曲がりきった。『エイボン隊』は全機急減速。曲がり口で止まりざま、曲がりきった『霧雨』を狙い、機動が直線的になったところを撃つ。殺気に反応した魔理沙は即座に回避機動を取ったが、一秒にも満たない間、レーザーが『霧雨』を灼いた。
「うおっ!?」
『霧雨』のコクピットにアラートが鳴り響く。コンソールディスプレイがダメージ状況を表示。
『背部に被弾。第一装甲貫通、第二装甲に被害。これ以上のダメージは危険』
「くそッ!」
 毒づく魔理沙に『霧雨』が明るい情報を伝えた。『パワーダウンより復調』
「待ってたぜ!」
 魔理沙は即座に推力をマックスまで引き出し、『エイボン隊』を引き離しにかかった。直線の通路は速度を出すのに申し分ない。
 凄まじい加速で『霧雨』が『エイボン隊』を置き去りにする。
『エイボン隊』は射程外に逃すかとばかりに最大推力で『霧雨』を追う。距離を離され、威力が減衰しつつあるレーザーガンポッドを連射。至近弾は出るが命中せず。
 魔理沙は『霧雨』の左手にレーザーライフルを装備させた。『エイボン隊』との距離と相対速度をざっと計算、描いたプランがいけると踏んだ。
「でぃやぁぁぁ!!」
『霧雨』、急速回頭。百八十度反転、進行方向へ背を向け推力カット。『霧雨』は慣性飛行、バックする形で突っ込んでくる『エイボン隊』と正面から相対した。レーザーガンポッドの青い熱線が『霧雨』を照らす。
「墜ちろぉぉっ!!」
 パワーダウンから回復までの鬱憤を晴らすかのように『霧雨』は高速射撃。ミニミサイルマシンガンが吠え、レーザーライフルが光を放つ。
 魔理沙の急な反撃は『エイボン隊』の不意を突く形になった。さらに速度を引き上げていた事が災いし、『エイボン隊』には回避の暇が殆ど与えられなかった。隊長機の「ブレイク! ブレイク!」の叫びもむなしく、散開するより早くミニミサイルと高出力レーザーを浴びせられ、次々と撃破されていく。――『エイボン隊』全滅。
「……梃子摺らされたぜ」
 魔理沙はシートに身体を預けて一息ついた。瞳を閉じて深呼吸。長く息を吐いて、身体を弛緩させる。一、二、三、四、五。
 ぱち、と目を開いて身を起こした。休憩終了。
「さて、霊夢はまだ交戦中か? なら援護に……」
 レーザーライフルをしまい、上方を窺った。レーダー上に表示されたマーカーを頼りに『博麗』を探す。『博麗』がいると思しき空域は濃い煙に覆い隠されていた。『博麗』、確認できず。
「煙幕?」
 魔理沙の見ている前で煙幕が穿たれた。同時に弾着と機体の破砕音が合わせて轟く。煙の中から紅白の機影が墜ちていく。
 博麗霊夢の搭乗機、『博麗』だ。左腕に装着したシールドの半分が千切れてなくなっている。
「霊夢!?」
『霧雨』の警戒システムがアラートを鳴らす。次の瞬間、巨大な鉄槌に殴りつけられたかのような衝撃が『霧雨』を襲った。ウィッチハット状の頭部から、鍔縁にあたる部分の一部が吹き飛び、『霧雨』はもんどりうって床に倒れる。アラートはまだ鳴り終わっていなかった。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 魔理沙が『エイボン隊』と交戦している間、霊夢も『こぁい三連星』と戦っていた。

 紅白二色の機体が、どこかふわふわとした印象を与える機動で地下図書館の薄暗い空を翔る。背部と頭部にそれぞれ大小一対の悪魔を思わせる羽を備え、黒い塗装を施した三機を伴って。
 霊夢が操る『博麗』と三人の小悪魔が操る『小悪魔改』だ。
『小悪魔改』三機がかりの連携攻撃、『リトルデビルストライク』によって本棚の一つへ叩き落された『博麗』は再び空へ舞い上がっていた。右手にはニードルマシンガン、左手にはビームお払い棒をそれぞれ装備し、フォーメーションを組む『小悪魔改』と対峙する。
 先頭に立つのは、接近戦を得意とする『小悪魔改03』だ。
 機体全長とほぼ同等のサイズに、広い身幅を持つ分厚く黒い大剣『ドラゴン殺し』を右手に構え、左手にはスパイクの生えた鉄球と持ち手をチェーンで繋いだ質量兵器『小悪魔ハンマー』を携えている。
 そのやや後方、両翼に、右手にバズーカ、左手にビームライフルを装備した『小悪魔改01』、同じ武装に加えてECM(電子妨害手段)システムを搭載した『小悪魔改02』がつく。
「スプレッドを格闘武器に持ち替えましたか」
『小悪魔改01』のコクピットでモニター越しに『博麗』を見、操縦者の『小悪魔こぁ』は呟いた。
「ばっかだねー。三人相手にするのに格闘モードにしちゃってどーするんだか。こぁ姉、もう一回『リトルデビルストライク』掛けて落としちゃおうよ」
『小悪魔改02』操縦者、『子悪魔ここぁ』が隊長であるところのこぁにきゃいきゃいと進言する。「ふむ」と、こぁは口元に人差し指を当て、ここぁの提案についてしばし黙考した。
「さーど、やれますか?」
『小悪魔改03』操縦者、『小悪魔さーど』に確認を取る。
「問題ないこぁ。むしろ正面からの格闘戦こそ望むところこぁ。だーいじょうぶ、まーかせてこぁ」
 さーどの言葉通り、『小悪魔改03』は前衛担当の機体だ。正面から敵にぶつかる白兵戦においては紅魔館内きっての戦闘能力を有する。
『小悪魔改03』は大丈夫加減を誇示するかのように、右手のドラゴン殺しを縦横に振り回して見栄を切って見せた。
「では、もう一度『リトルデビルストライク』いきますよ」
「ラジャー」
「ウィルこぁ」
 こぁからの指示を受け、三機が一斉に動いた。
『小悪魔改03』は手先でドラゴン殺しを回して、正面から『博麗』へ挑みかかった。『小悪魔改01』、『小悪魔改02』がその後を左右に展開しつつ追従して火力でサポートする。
『博麗』はバズーカからの苦無散弾とビームに回避機動を取りながら、ニードルマシンガンで弾幕を張った。
『小悪魔改』三機は散開気味に回避、『博麗』からの射撃をかわす。高初速により優れた貫通力と威力を併せ持つニードルだが、当たらなくてはその性能は発揮されない。
「苦無散弾とビームを喰らえー」
「バルカンのおまけもつけるこぁー」
 加えて両翼からの苦無散弾とビーム、正面の頭部バルカンの弾幕に晒され、霊夢は照準を定めて撃つ暇もない。こういう状況で頼りになるはずのホーミングミサイルはECMジャミングにより役に立たない。
「ああ、もう!」
 忌々しげに霊夢。鳴り響くアラートが実にやかましい。
『小悪魔改03』が左手の凶器の射程まで詰めた。残りの二機は援護射撃を止め、『博麗』の側方へ展開する。
「こぉーあっ!」
 再三『小悪魔改03』は小悪魔ハンマーを振るった。スパイクの生えた鉄球が唸りをあげて『博麗』を砕かんと迫る。
「そう何回もやられて――!」
『博麗』は自ら後ろへ倒れ込んだ。ハンマーが『博麗』の目の前ギリギリを、上半身があった場所を通り過ぎていく。
「たまりますかっ!」
 左手のビームお払い棒を振るう。ビームの紙垂が光の軌跡を描いてトゲ付き鉄球と持ち手を繋ぐチェーンを焼き切った。
「こぁ!?」
 予想外の回避動作と反撃にさーどが驚愕する。そこを『博麗』の銃口が睨みつけた。
「ッ!」
 近距離からフルオートでニードルがばら撒かれるのと、『小悪魔改03』がドラゴン殺しを盾にするのはほぼ同時だった。
 ニードルが鉄塊じみた大剣に挑みかかり、ことごとく弾かれる。よほど硬い素材を使っているらしい。
 霊夢は構わずに撃ち続けて『小悪魔改03』の視界を塞ぎ、仰向けの姿勢を起こして突っ込む。
『小悪魔改03』のコンソールが接近警報を鳴らし、ドラゴン殺しと針雨の向こうから『博麗』が突っ込んでくることをさーどに知らせる。
 さーどは格闘戦の間合まで『博麗』を引きつけ、
「こぉぉあっ!」
 被弾覚悟で横一閃にドラゴン殺しを振るった。
 ロクに刃も整形されていないドラゴン殺しだが、その質量と『小悪魔改03』のパワーが合わされば、大概の物を文字通りに叩き斬る。
 振り抜かれた大剣。拓かれた視界。その先には両断された『博麗』の姿が――。
「こぁ?」
 なかった。
 それ以前に、手応えがない。
 さーどがきょとんとした刹那、

 ――『小悪魔改03』の頭を紅白鮮やかな機体が踏みつけた。

「ぶぎゅるふ!?」
「さーどを!?
「踏み台にしたァ!?」
『博麗』は『小悪魔改03』を足蹴にしざまスラスターを全開。キックの反動と合わせて爆発的に、高くジャンプする。ジャンプの頂点で『博麗』は頭を床へ向けた。天地逆さまの視界に、紅白の機体を銃口で追う『小悪魔改01』と『小悪魔改02』、踏み台にされた勢いで姿勢を崩した『小悪魔改03』が映る。
「邪魔してんのはあんただ!」
 ニードルマシンガンがミサイルジャマーの『小悪魔改02』を睨みつけた。フルオート掃射。
「うええっ!?」
 鉄火の驟雨が降る。貫通力に優れた針状の弾丸が装甲を削り穿ち、敵機を破壊する。
 頭部、右肩、バックパックを破壊され『小悪魔改02』が炎を吐いた。その機能を停止し、力なく墜ちていく。
「ああ! ここぁ姉がやられた!」
「落ち着いてさーど! まずは敵に集中して!」
 姿勢を崩した上に、『小悪魔改02』が落されたことにうろたえた『小悪魔改03』を狙って、『博麗』はホーミングミサイルを六発同時発射。
 ECM搭載機の『小悪魔改02』が落されたことにより、ホーミングミサイルは正常に作動した。ロックオンした『小悪魔改03』を狙って追尾を開始する。
「こぁくそっ!」
 鳴り響くアラートに急かされ、『小悪魔改03』は下がりながら頭部バルカンの火線でミサイルを撃ち落す。
 ミサイルが『小悪魔改03』を引き受けている間に『博麗』は残る『小悪魔改01』を狙った。ばらまくようにニードルを撃ちかけ、さらにビームの紙垂が眩いお払い棒を矢の如く投げつける。
 妹分が落とされた事に、こぁも内心動揺していたのか、『小悪魔改01』は回避機動を誤った。火線の空白に逃れたところを時間差で放たれたビームお払い棒が射抜く。
「クッぅ!」
『小悪魔改01』は咄嗟にバズーカで受けた。瞬時に赤熱化する砲身を捨てて、弾薬の誘爆から逃れる。
 だが続くビームの紙垂からは逃れられなかった。誘爆を目くらましに突っ込んできた『博麗』が、すれ違いざまに回収したビームお払い棒で『小悪魔改01』を舐めていく。
 避け損ねた左腕がビームライフルごと光の中に融けて消えた。
『博麗』は宙を滑るように旋回、切り返して『小悪魔改01』と対峙する。ミサイルを処理した『小悪魔改03』が、中破した『小悪魔改01』を庇うように割って入った。
「こぁ姉、大丈夫こぁ?」
「大丈夫じゃないですね。武器がありません」
 バズーカは爆散し、ビームライフルは左腕と共に消滅した。内蔵兵装の頭部バルカンが残っているが気休めにもなるまい。
「下がって態勢を立て直したいところですが……」
 下がれない。下がればパチュリーの『大図書館』が来るまでの時間が稼げなくなる。それに『博麗』が下がらせてくれないだろう。
「こぁ、さーど、ヤツの足を止めて」
 物静かな声が通信回線を通して小悪魔二人に聞こえた。
「「パチュリー様!」ご主人!」」
 待ちに待った真打の登場である。
「ギリギリ間に合ったみたいね。後は引き受けるから二人は下がっていいわよ」
「今どちらに?」


「貴女達の後ろ。後方遥か。レーダーレンジの外だから分からないでしょうけど」
 主戦場から遠く離れた後方に、パチュリーとその乗機『大図書館』は居た。
 霊夢の視界に入っているが、レーダーレンジの外であることに加え、その巨体が米粒に見えるほどの距離では、敵機であるとは認識できまい。
 本棚の森林より胸部から上を覗かせ、『大図書館』はその偉容に見合った弩級の火器を本棚に載せて構えていた。
 紅魔館主力量産機である『サーヴァント』並みの全長。フォアグリップに覆われた、火器ではなく鈍器といっても差し支えないほど重厚で長大な砲身。そして五連装のシリンダーを二つ横並びに配した機関部。その後ろにはトリッガーとピストルグリップ、ストックが続いている。『大図書館』専用兵装、多目的ランチャーシステム――『ヴワル』。
『大図書館』は背中を見せている『博麗』と『エイボン隊』を相手に銃火を放つ『霧雨』をそれぞれ砲撃射程内に収めていた。
「『エメラルドメガリス』で落とすわ。紅白の足を止めて」
「了解、フラッシュバンを使います。さーど、スモークスタンバイ。三、二、一で全て撃ちつくして。二人とも自分の目を潰さないように」
「うぃるこぁ」
 パチュリーは装填符の組み合わせから『エメラルドメガリス』を選択。五連装シリンダーがそれぞれに稼働し、装填された属性符を組み合わせる。
 標準サイズの機体なら握り潰せそうな『大図書館』の手がグリップの上に設けられた装填ボルトを引き、土と金の魔力を薬室内に送り込む。
「三」
『博麗』を第一、『霧雨』を第二目標として狙いを定め、フラッシュバンに備えてモニターの輝度を調整。
「二」
 二機の『小悪魔改』が両の大腿部に備えたスモークディスチャージャーを稼働、発射状態へ移行させる。
「一!」
『小悪魔改01』が『小悪魔改03』の影から右腕を伸ばし、腕部のグレネードポッドからフラッシュバンを放った。さらに一瞬の差で二機はスモークディスチャージャーを発射。
 強烈な閃光が立て続けに起こり、地下大図書館の一角を白く染め上げる。続いて発生した煙幕が一帯を覆い、包み隠した。
 目くらましと煙幕を味方に、『小悪魔改』は急降下、低空を滑るように『博麗』から離れていく。星が一つ落ちた『こぁい三連星』は戦域より撤退した。
 閃光の残渣が『博麗』のシルエットを煙幕に浮かび上がらせる。
(さっきと位置は動いていない)
 パチュリーは照準器越しにそれを認めると引き金を引いた。
 雷鳴の如き砲声と共に、土と金の魔力で編まれた超束積高魔力弾が撃ち出される。
 反動で浮き上がる砲身をいなしながら『大図書館』は装填ボルトを引いて次弾を装填。『エイボン隊』を撃滅し、周囲を見渡す『霧雨』に照準をつけ、すかさず放った。


『博麗』は周囲を煙幕に包まれた状態で動けずにいた。
「周りが、見えない……!」
 全周囲モニター、ホワイトアウト。
 フラッシュバンにより『博麗』は目を潰されていた。
 人型で知恵を持つ存在は往々にして外部情報の取得の大半を視覚に頼っている。一部の例外があるにせよ、視覚を失ってはほんのわずかな距離を動く事さえおぼつかない。そして動く事に伴う危険を理解している本能が潜在的な恐怖で縛り、動かせてくれない。
 強大な機体でも動かしているのは、乗っている人間、妖精、あるいは妖怪だ。操っているのが搭乗者である以上、機体の動きもそれに準じることになる。
 機械仕掛けの機体は、視覚以外にも各種のセンサーで外部情報を収集することが出来たが、今その機能は失われていた。
 周到な事に『小悪魔改01』の放ったフラッシュバンには各種のセンサーに対する撹乱効果が備えられていたらしい。
 唯一、音響センサーが生きているが、聴覚だけでは動けない。
 攻撃に備えて霊夢は身を固くした。
 敵はどうくる?
 見えない恐怖が霊夢にまとわりつき、その心を脅かす。モニターはまだ回復しない。
「いっそ一思いにやりなさいよ……!」
 コンソールに表示されたモニター復旧までのカウントを睨みつけ、霊夢は歯噛みした。今攻撃されれば終わりだ。半端に音が聞こえる事が逆に恐ろしい。
 閃きが稲妻のように霊夢の背筋を貫いた。異変、戦闘、危機、あらゆる状況で垣間見せる天才的なカンが、楽園の素敵な巫女に告げる。
「後ろ!?」
 ――後方から狙われている、と。
 盲目の『博麗』が振り向く。その瞬間、緑の砲弾が煙幕を貫いて陰陽のマークが印されたシールドに着弾した。
「ッあ!」
 あらゆる攻撃に耐えてきた鉄壁の盾が千切れ飛ぶ。シールドの丸みに滑った砲弾は衝撃波で『博麗』を殴りつけてその真横を突き抜けていった。
 弾着の衝撃と衝撃波に機体を揺さぶられ、霊夢は失神した。コントロールを失った『博麗』が墜ちていく。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 照準器を通して弾着の結果を見、パチュリーはレコーダに戦闘記録を残すべく声を発した。
「初弾命中、撃……いえ、耐えたわ。次弾は、少し逸れた。大破ならず。火器管制システムの調整が完全じゃない」
 煙幕の中から墜ちていった『博麗』はその原型を留めていた。
 超束積高魔力弾『エメラルドメガリス』の直撃なら、被弾箇所を中心にばらばらに吹き飛んでいるはずだ。
 かすっただけか、シールドに当たったか、いずれにせよ直撃ではなかったということだ。
 次弾は煙幕のカーテンがない分、詳細に確認できていた。照準通りに砲弾を送り込めていない。
 パチュリーは『霧雨』の中心を狙って撃ったのだが、初弾で温まった砲身が熱でわずかに歪み、照準に誤差を生じさせていた。
「全く。レミィが計画を前倒ししたせいだわ。射撃管制プログラムのテストが完全じゃないって言ったのに」
 文句を言いつつ、パチュリーは照準器をマニュアルで調整する。
「今の射撃データを解析すれば射撃プログラムの修正はできるけど、それじゃ今日の分には間に合わない」
 調整の合間にかたわらの本のページを捲り、さっと内容に目を通す。
「ある程度、勘でやるしかないわね」
 最近悪くなった目を細めて、パチュリーは照準器を覗き込んだ。
 墜ちた『博麗』、倒れた『霧雨』はどちらも本棚の森林に姿を消していた。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 紙一重で撃破を免れた魔理沙の反応は早かった。『霧雨』を起こしながら、衝撃が来た方向を元におおよその敵の方位を割り出し、遮蔽物となりうる本棚の影へと飛び込む。
 モタモタしているとトドメを刺されかねない。
「霊夢! 大丈夫か! 霊夢!」
 通信越しに墜落した霊夢へ呼びかけつつ、魔理沙はレーダーに表示された『博麗』へと本棚の森林を急ぐ。
「……ええ、なんとかね」
 弱々しいが聞きなれた声が返ってきた。魔理沙がほっと息を吐く。
『博麗』は仰向けで大図書館の床に倒れていた。
 搭乗者の霊夢が意識を失い、姿勢を立て直して着地する事こそできなかったが、機体保護機構が作動。墜落の間際にスラスターを噴射し、落下速度を大幅に緩和していた。墜落によるダメージは皆無だった。
 合流した『霧雨』の前で『博麗』がその紅白の身体を起こす。全システム復調。各部の被弾箇所とシールドの上半分がなくなっている以外はその形状を殆ど保っていた。
 二機の音響センサーが遠雷のような音を拾う。
「今のが発射音?」
「らしいな。ずいぶん遠くから撃ってきやがったみたいだぜ」
「そうね。レーダーにも引っかからない。どうしたもんかしら」
 霊夢の言葉に魔理沙は思考をめぐらせる。霊夢が天性のセンスとカンを武器に戦うのに対し、魔理沙は持ちえた才能を努力で強化し、ロジックを武器にして戦うタチだった。
『霧雨』を得てから潜り抜けてきた戦いの中、幾多の敵と銃火を交わしてきたが、今回のは飛び切りの強敵だ。戦い方を誤れば勝ち目はない。
 逆に言えばやりようを間違えなければ勝ち目はある。
「まずは敵を見つけるところからだな」
「んなこと言ったって、こっちが見えないところからあっちは撃ってくるのよ? 近づけないわ」
「いや、お前みたいにホーミングを使うやつなら話は別だが、遠距離砲撃なら動いていればまず当たらない」
 言葉のやりとりを交わして、魔理沙は戦い方を模索する。
「そうなの?」
「ああ。離れればそれだけ敵に弾が届くまで時間が掛かるし、照準にも正確さが要求される。正確に狙いをつけても相手に動かれたら当てられない。遠距離攻撃ってのは難しいんだぜ」
 訳知り顔で魔理沙が話すのを霊夢は静かに聞いていた。なんとなくで荒事を切り抜ける霊夢は論理だった行動を導き出すことが出来ない。今回のような状況ではその弱点が如実に浮かび上がる。だから霊夢は魔理沙に頼る意味でその言葉を聞いていた。
「動きを先読みして攻撃を送り込まれたらやっかいだが、敵さんと私達は初対面だ。そう簡単に読まれやしないだろ。つまりランダムに機動してればむこうの攻撃は当たらない」
「そして向こうが撃ってくればこっちはより正確に位置を把握できる」
「そうだ。『霧雨』が撃たれたのは今の位置から見て……だいたい十時から一時の方向。移動してるかもしれないが、とりあえず今はそっち側を目指すしかない」
「オッケ、そうしましょ」
 砲撃を受けても取り落とすことのなかったビームお払い棒を武装ラッチに収め、『博麗』はニードルマシンガンを両手で保持する。
「二手にわかれていくぜ。その方が効率がいい」
 ミニミサイルマシンガンを握り直し、『霧雨』がその目を光らせる。
「『博麗』、ホーミングミサイル。索敵モードで発射」
 霊夢のコマンドワードを認識して『博麗』がバックパックから六発のミサイルを撃ち放つ。ミサイルは垂直に上昇して本棚の森林を抜けると、敵がいると思しき一帯へ飛翔していった。
「索敵モード?」
「敵を勝手に探して攻撃してくれるのよ」
「いつの間にそんな機能を見つけたんだ?」
「ん~、なんとなく? それより行くわよ」
「ああ」
 なんとなくで見つけた新たな機能で先行するホーミングミサイルを露払いに、紅白と黒白の二機は前進を開始した。


『大図書館』のモニターに、飛翔炎を曳いて迫るホーミングミサイルが映る。敵機の見せた動きにパチュリーは本のページから視線を上げた。
「来たわね……。魔女の戦い方を教育してやるわ。『メタルファティーグ』、装填」
 武骨な音を立てて『ヴワル』のシリンダーが動き、『大図書館』の手がボルトを操作する。巨大な二本の足からホイールの回転音を立てて地を滑った。
 ローラーダッシュで後退しながら、仰角を取り、曲射で対機動敵用榴弾を立て続けに発射する。
 ホーミングミサイルに捕捉されるや、急機動をかけてそれをかわす。モード変更により本来の追尾能力をいくらか軽減させていたミサイルは、下がる『大図書館』を追い切れず、床に突き刺さり爆発する。周囲に弾着の上がる中、ボルトアクションを行い、パチュリーはおおよその見当で『メタルファティーグ』を撃った。
 元より当たると思っての砲撃ではない。せいぜい至近弾がいいところだろう。だが敵の姿が見えない以上、これが限界だ。そして今はそれで充分だ。
 本棚の森林よりさらにホーミングミサイルが現れる。
「ふふ。追ってきてるわね。結構結構」
 薄笑みさえ浮かべてパチュリーは後退した。
 魔女は敵機を誘っていた。遮蔽物の少ない、自身に有利な戦場へと。


 本棚の林立する中を『博麗』と『霧雨』は往く。上空から対機動敵用榴弾が降り、二機の周囲に炸裂する。だが近くにこそ落ちるものの、直撃はしない。魔理沙の分析通りだった。
 魔理沙は榴弾の方位と曲射弾道を併せて『霧雨』に敵機の位置を計算させる。
“鉄で出来た式のようなもの”が指示に従ってデータを解析し、得られた数値から敵機の位置を絞り込み、知らせる。
「霊夢、そこからちょい左だ」
 指示のあった方へ『博麗』がホーミングミサイルを放つ。再三索敵モードで放たれた誘導兵器がより正確に敵機を捕捉。弾着の煙を上げる。
 煙の中、霊夢は敵機の発砲炎を視認した。
「見つけた! 十一時!」
 発見した標的へ向かい、二色の機体たちは突き進む。各々が携えた主兵装の射程に捉えるべく。


 本棚の列がなく、開けた広間を砲撃エリアに定め、『大図書館』は後退を停めた。自身はより後方にある本棚の森林に身を潜め、その一つを盾に『ヴワル』を構える。
「門番隊を落としてここまでくるだけの事はあるわね。機体はウチの第三世代級。搭乗者の腕も平均的な水準より上……ハード級ってところかしら」
 的確な戦術を取り、迫る二機にパチュリーは所見を述べた。
「でもまだ未熟ね。セオリーじゃここは通れないわよ。……『アグニシャイン』装填」
 シリンダーが稼働、火符を装填位置へ送る。手順を踏み、大図書館は砲撃の準備を整えた。
「さて、これは通じるかしら?」
 砲口より発砲炎を吐いて広域焼夷榴弾『アグニシャイン』が撃ち出される。装填を置いてさらにもう一発。
 二発の砲弾が森林から砲撃エリアに入った二機へと向かった。


 これまでの曲射でなく、水平射での一弾。
 霊夢は砲弾の曳光を見ざま、機位を変えた。
 超束積高魔力弾なら外れ、対機動敵用榴弾でもカス当たりな位置に移った『博麗』だったが、今度放たれたのは広域焼夷榴弾だった。
『博麗』の前方で『アグニシャイン』の信管が作動、炸裂。火焔地獄が顕現し、『博麗』をその進路諸共飲み込まんとする。
「こんな子供騙し!」
 燃えさかる炎の中へ霊夢は僅かの躊躇もなく突っ込んだ。
 火焔が『博麗』にまとわりつき、装甲を灼く。
 だがそれだけだ。
 生身であれば骨までローストする高熱も、鋼の機体には通用しない。
 物理的な壁として機能しない地獄を、紅白の機体が突き抜けた。装甲に貼りついた炎の残滓が流れて消える。
 火焔地獄は『霧雨』の前にも顕現した。灼熱の業火が猛烈な勢いで広がり、突き進む機体に顎を開く。
「うおっ!?」
 包むように迫る炎。
 魔理沙は反射的に急制動を掛けた。逃れる間もなく顎が閉じ、炎が装甲に貼りついて『霧雨』を灼く。全周囲モニターが揺らぐ赤に塗り潰された。
 機外1200度。
 炎のにおいにむせるように『霧雨』が身体を丸める。
 モニター越しの炎熱が本能的な恐怖を呼び起こし、魔理沙から冷静を蒸発させた。
「うわあああ!」
 足を止めた『霧雨』を『大図書館』が狙う。超束積高魔力弾『エメラルドメガリス』。
「魔理沙! 止まっちゃダメ!」
 霊夢の声が魔理沙を恐慌から立ち戻らせた。
 再び動きだした『霧雨』は、皮一枚の差で直撃から逃れる。身体を丸めていた事が幸いし、砲弾はシールドをかするにとどまった。
「こ、こなくそぁっ!」
 衝撃でよろめいた機体を立て直し、スラスターを全開に。『霧雨』は止まった分を取り戻すように大図書館を翔る。


「外した? ……いえ、かわしたのね」
 さしたるダメージもなく高速で機動する『霧雨』を見、パチュリーは薄笑みを浮かべた。未熟者にしてはやるじゃない。
 接近する二機と『大図書館』の距離はかなり狭まっていた。砲撃を行うのであれば、これ以上接近されるのは拙い。
 砲撃には適正な距離というものがある。遠ければ照準は容易になるが、敵機の機動予測を筆頭とする様々な要因により、命中させるのは難しい。近ければそれらの影響をある程度軽減できる一方、照準を合わせるのが困難となり、やはり命中させ辛い。
 三機の相対距離は既に適正距離を割り始めていた。このままではそう遠くないうちに適正距離の内側に入られてしまう。
 距離を稼ぐべく、パチュリーは『大図書館』を後ろへ大きくジャンプさせた。空中から砲弾を送り込み、着地。地を蹴って再び空へ上がり、砲撃する。風のエレメントを組み込んだフライトユニットが『大図書館』に見掛けとは裏腹の足回りを与え、地下図書館を跳ね回らせる。
 軽快な動きを見せる『大図書館』だったが、距離は離れるどころか縮まる一方だった。
『大図書館』には『博麗』や『霧雨』ほどの速度はない。
 しかし、パチュリーは慌てる事なくジャンプ機動と砲撃を繰り返した。この状況は魔女の想定内にある。うろたえる理由はどこにもない。
 ついに『博麗』が自機の射程内まで迫った。通常モードで放たれたホーミングミサイルがその追尾性能を遺憾なく発揮し、空中の『大図書館』を捉えた。衝撃に揺さぶられるも、パチュリーは巨躯をしっかりと制御する。床を踏みしめたところへ浴びせられたニードルマシンガンが『大図書館』の装甲に火花を散らした。
「追いつかれたか」
 ぽつ、とつぶやき、傍らの本に栞を挟んで閉じる。ここからが勝負どころだ。


「デケェ……まるでクジラだ」
 高空へ舞い上がり、敵機――『大図書館』の全容を視認した魔理沙は思わずそう漏らした。
 ただそこに在るだけで見る者を圧倒する巨体。携えた火砲でさえ『霧雨』に匹敵するサイズだ。『霧雨』、『博麗』に数倍する白い巨躯は、クジラとするならモビーディックか。
 先んじて食らいついた『博麗』が、蝶のように舞いながら白鯨へ銃火を降らせた。貫通力を重視した細い弾丸が雨のように降り注ぐ。
「そこの紅白! 私の書斎で暴れない」
 集中豪雨の如き掃射を浴びながらも、『大図書館』はたじろぐことなく滑走した。強固にしてぶ厚い装甲でニードルを弾き、『ヴワル』を撃つ。
「書斎?(紅白?)」
 一瞬早く射線から逃れて砲火をかわし、霊夢は一般回線で入ってきた声に言葉を返した。
「書斎っていうより図書館だな。後で、さっくり貰っていこ」
 回線を通した会話に魔理沙が加わる。後ろ半分にパチュリーが敏感に反応した。
「持ってかないでー」
「持ってくぜ」
 譲らない魔理沙にパチュリーは超束積高魔力弾で答えた。一発で機体を屠る砲弾を魔理沙はひらりとかわす。
「ところであなたが、ここのご主人?」
 魔理沙は置いておいて霊夢が話しかける。
「お嬢様になんの用?」
 パチュリーは敢えてレミリアの名前を伏せた。敵に与える情報は多くないに越したことはない。
「霧の出しすぎで、困る」
「じゃぁ、お嬢様には絶対会わせないわ」
 威圧のように『大図書館』が装填ボルトを引く。
「邪魔させないわ」
 対抗とばかりに『博麗』は左手でスプレッドガンを抜いた。
「……ところで、あんた、誰?」
「霧雨魔理沙。魔法使いよ」
「本人の前で人の名前を騙るなよ」
 霊夢の返答に突っ込んで、魔理沙は低空へと機体を滑らせた。
 通話終了。戦闘再開。
 ローラーダッシュで図書館を駆ける白い巨躯へニードル、スプレッド、ミニミサイルの複合弾幕が浴びせられる。
 今までで最大火力の攻撃だったが、悉く装甲に防がれた。有効弾なし。
「弾が効かない……!」
 霊夢はさらにホーミングミサイルを上乗せして火力を上げるも、まるで通じない。恐ろしく頑強な装甲である。
 跳弾の火花がイルミネーションのように機体を飾る中、『大図書館』が『ヴワル』を連発する。だが命中しない。敵機の移動速度が『大図書館』の照準速度を越えている。この間合いでは当てられない。
 ミニミサイルマシンガンが効かないと見て取るや、魔理沙はレーザーライフルへ持ち替えた。こちらの方が点に対する威力は高い。
 だがどこを撃つ?
 装甲を貫けるか未知数である事に加えて『大図書館』は見上げるほどに大きい。レーザーライフルの口径は小さくないが、これだけのサイズとなると有効打を与えるにはそれなりに狙う必要があった。ただ当てるだけではダメだ。装甲が薄く、一射で充分なダメージを与えられる場所を撃たねば……。
 背部スラスターが吠え、黒白の機体がグンと加速する。
 がむしゃらに連発される超束積高魔力弾を避け、『大図書館』の横を抜けて追い越し、『霧雨』は背後に回り込んだ。機速を維持したまま反転し、レーザーライフルを向ける。
 発砲。僅かに緑を帯びた白い光線が『大図書館』を撃つ。左膝が後ろから貫かれ、装甲内部から爆ぜた。『大図書館』の左足が千切れ飛ぶ。
 ピンポイントで放ったレーザーは『大図書館』から機動力を奪い取った。
「むきゅ!?」
 片足を失って『大図書館』は派手にバランスを崩した。背中から転倒し、ローラーダッシュの勢いで床を滑る。
 どのような機体であっても装甲を施せない、あるいは薄くなる部分が存在する。関節部やスラスターノズル、砲口といった箇所がそうだ。魔理沙はそこを突いた。
『霧雨』がエネルギーチャージに入ったレーザーライフルを背中の武器パックに戻し、替わりに機体サイズの竹箒を抜いた。ビームの光が穂先を覆う。『霧雨』の格闘兵装、ビームブルームだ。
「いくら装甲が厚くたって、こいつを突き立てられりゃ無事じゃ済まないだろ」
 どれほど厚く強固な装甲であろうと、決して無限ではない。高出力のビーム兵器を一点に突き込めば、いずれは抜ける。
 仰向けに倒れ、動く脚を失った『大図書館』に、後方の死角から『霧雨』が近づき、上空からはビームお払い棒を手にした『博麗』が迫る。
 傍から見て絶体絶命の状況でありながら、コクピットのパチュリーは微塵もうろたえていなかった。百年の魔女がこの程度のシチュエーションを想像していないわけがない。
「木符、火符装填。発射後FCS――火器管制システム――レンジを近距離へ」
『ヴワル』のシリンダーが動き、ボルトが前後する。装填弾種を切り替えるが早いかパチュリーは天井へ向けて発射した。
 砲弾は『博麗』より高空で展開、内包していた子弾と火炎弾を雨のようにバラ撒いた。無数の子弾が降り注ぎ、同数の小爆発が一帯に咲き乱れる。さらに火炎弾が尾を引いて降った。
 こけおどし程度の威力しか持たない子弾だったが、その数が尋常ではなかった。数え切れない小爆発に揺さぶられ、『博麗』と『霧雨』が竦む。
 自身も爆撃を受けながら『大図書館』は両の脚部を付け根から分離した。同時にフライトユニットの出力を全開へ。脚を捨てて『大図書館』が起き上がる。白いスカートアーマーの内がバーニアの炎を吐いた。
 火炎弾で揺らぐ霊夢の視界の中、『ヴワル』のシリンダーが回る。霊夢の背筋に悪寒が走った。こいつはヤバい。
「下がって! 魔理沙!」
 叫び、霊夢はニードルマシンガンを放つ。だが『大図書館』には通じない。
 牽制にすらならない銃火を浴びながら、脚のない『大図書館』は『博麗』を狙った。近距離に切り替えられたFCSが今までとは裏腹の照準速度で紅白の機体を捉え、連動した『ヴワル』の砲口が水色の弾とビームを拡散状に放つ。質量光学複合弾『プリンセスウンディネ』。予想外の砲弾が『博麗』を襲い、地上へ叩き落した。
「霊夢!」
 続けて『大図書館』はその場でターン。先よりも俊敏な動きで『霧雨』へ肉薄する。
「う、うぉぉ!」
 モニター一杯に映る白い巨体に魔理沙はたじろいだ。
『大図書館』が左腕を振り被り、無造作にパンチを繰り出す。格闘戦に不慣れな事がありありと分かる動作。だがその質量とパワーは不慣れを補って余りある。
 動けぬ『霧雨』に巨大な鉄拳が叩き込まれる。インパクトの瞬間、組み込まれたアームパンチ機構が作動。カートリッジの爆発力で前腕部を射出し、さらに威力を上乗せした拳が『霧雨』を打ち抜いた。黒白の機体は砲弾のように撃ち飛ばされ、彼方の本棚へ激突。その場へ崩れ落ちた。
「足なんて飾りよ。未熟者にはそれが分からなかったみたいだけど」
 パチュリーは事も無げに言い捨てた。『大図書館』の左前腕から飛んだ空のカートリッジが床の上を跳ねて転がる。
 白い装甲を速射の針が叩いた。『大図書館』が頭部を向けると、身を起こした『博麗』が右手の長物を乱射していた。
「当たりが浅かったか」
 元の位置に戻った左手で『ヴワル』のフォアグリップを掴み、再び『プリンセスウンディネ』を放つ。『博麗』はスラスターを噴かし、下がりながらこれをかわした。バックパックのミサイルを火線に加え、攻撃しつつ後退する。
「逃がさないよ」
 攻撃の全てを装甲で受け止め、『大図書館』は本棚の間を逃げる『博麗』の追撃に掛かった。


「魔理沙! 返事して、魔理沙!」
 複合弾幕の中、霊夢は魔理沙へ呼びかける。応答は返ってこない。
 だが、やられたわけではない。『博麗』は『霧雨』の信号を魔理沙のヴァイタルサインと併せて受信していた。『霧雨』は健在。魔理沙は気絶しているだけだ。
「……こんなの一人でどうしろって言うのよ」
 しかし、それは霊夢一人で『大図書館』と戦わなければならないことを意味していた。
 ニードルマシンガンは抜けず、スプレッドガンは弾かれ、ホーミングミサイルは通じない。ビームお払い棒は有効だが、あの弾幕を相手に飛び込むのは無謀すぎる。
 攻撃の悉くが無力な相手に霊夢はどう立ち向かうのか。
「『博麗』、何か手はない?」
 動きを制限するビームとその合間から迫る実弾を避け、愛機に問う。
『博麗』は搭乗者の問いにコンソールへ文字を表示して答えた。
『1.光子魚雷『夢想封印』の使用
 2.装甲のない部位への攻撃』
 霊夢は『プリンセスウンディネ』をあしらいつつ、文面に目を走らせた。
『夢想封印』は『博麗』の切り札だ。他の武装と比べて頭二つ抜けた威力を持つが、装弾数は僅かに三発しかない。館内突入前の戦闘で一発撃っているため、残りは二発。
『大図書館』の後に“お嬢様”とやらが控えている事を考えれば、使うかどうか悩むところだ。となると――
「装甲のない部位ってのは?」
『大図書館』の四面――上、下、前、横――が表示され、そのうちの下から捉えた図が光る。
「スカートの中か」
 巨大なバーニアノズルを備えたそこなら確かに装甲がない。問題はどうやって攻撃を送り込むかだが……。
「もぐってやるわよ」
 霊夢には考えがあった。『博麗』は『大図書館』に背を向けて全力運転。推進剤の粒子を散らし、最大速で引き離しに掛かった。
 殆どの機体は背面にメインスラスターを備えている。『博麗』もそうだ。そして後退よりも前進の方がスラスター配置の関係上速度が出る。
 脚部の排除により『大図書館』の速度は向上していたが、それでも全力で機動すれば『博麗』の方が早い。
「逃がさないって言ったでしょ」
 引き離されまいと、パチュリーは愛機が備える全ての兵装を立ち上げた。『大図書館』の正面装甲が各部で開き、内蔵式のレーザー砲、速射砲を多数展開。一斉に火線を開いた。
 ビームと実弾の複合弾幕に、挟み込むように迫る赤青二色のレーザーと速射砲弾が上乗せされる。
 背後を窺った霊夢は「うわ」と感想を述べた。まるでハリネズミだ。
 弾幕の中を紅白が舞う。『博麗』はくるくるとよく動き、向けられた火線の脅威を悉くかわして見せる。
 追撃するパチュリーは気づいていなかったが、霊夢は逃げながら僅かに高度を上げていた。それは直線機動で『博麗』を追う『大図書館』の高度も徐々に上がっていく事を意味していた。
「っく。もうちょい、もうちょい……」
 弾幕ごっこならグレイズの火花が散る際どさでレーザーを捌き、至近距離で炸裂する速射砲弾の衝撃を浴びながら、霊夢は待つ。
『大図書館』と床の間に、充分な隙間が開く時の訪れを。
「ちょこまかとよく動くわねこの紅白。……紅白? まさかあの機体、“博麗の巫女”?」
 火器管制に意識を集中していたパチュリーは自らの言葉に反応した。照準もおざなりな射撃が装甲を叩き、衝撃で『大図書館』を僅かに揺らす。
「まあ、敵に変わりはないけど」
 嘯いて『ヴワル』の一弾を返す。『博麗』は大きく切り返して弾幕を避けると、突然機動を変えた。今まで直線で逃げていた本棚の通路を右折、横道へ飛び込む。
 パチュリーは舌打ちして速度を緩め、機体を捻った。ドリフトのように宙を滑り、後を追って横道へ入る。
 コクピットにミサイルアラートが鳴るが早いか、六発のホーミングミサイルが『大図書館』の頭部に正面から命中した。
 モニターが爆発に埋め尽くされ、ミサイルの威力にセンサー系統が一時的に馬鹿になる。
 メインカメラを筆頭としたセンサーの集合体である頭部を直撃され、束の間『大図書館』は外部情報を遮断された。
「子供騙しを……!」
 だが致命弾ではない。頭部は胴体よりも装甲が薄いものの、防御力そのものは決して低くない。事実ホーミングミサイルの直撃にも損傷なく耐えてみせた。
 ……しかし。
「しまった……」
 その束の間に、『大図書館』は『博麗』を見失った。モニターには碁盤の目のように区画された本棚の路地が映るばかりで、センサーにも反応がない。
「どこへ……」
『大図書館』が紅白を求めて頭部をめぐらせる。
 このとき既に『博麗』は『大図書館』の真下に居た。
『博麗』は横道に入るなり正面へホーミングミサイルを放って急降下、床へ伏せていたのである。
 センサーの大半を頭部に集中した『大図書館』は、足元の死角に位置していたこれを見落とした。さらにUターンしてきたホーミングミサイルがセンサーを一時的に潰し、『博麗』がスカートの下へもぐり込む僅かな時間を稼いだのだ。
 バーニアの影響が及ばない程度の距離を挟んで、『博麗』は両手に火器を構えた。背中の発射口も開き、ホーミングミサイルをスタンバイする。
 これだけの火力を装甲のない無防備な箇所へ浴びせられれば、如何に『大図書館』とて沈む。
 喉元に刃を突きつけられた状態である事に気づかず、パチュリーは『博麗』を探す。霊夢はアラートによる察知を警戒してノーロックのマニュアルで『大図書館』を照準していた。
 トリガーに掛かった霊夢の指に力が篭る。スプレッドガンとニードルマシンガンが火を噴き、ホーミングミサイルが間断なく撃ち込まれる。
「スカートの下!」
 その直前、『大図書館』のコクピットに女の声が飛び込んだ。同時に『博麗』のコクピットでロックオンアラートが鳴り、続いて背後から銃撃が浴びせられる。
 装甲を穿つ掃射に紅白の機体がよろけ、コンソールがさらに『大図書館』からのロックオンアラートを鳴らす。パチュリーに位置が露見した事で霊夢は攻撃のチャンスを失った。さらに続く掃射に追い立てられ、離脱を図る。
 スカートの下から飛び出た『博麗』へ『大図書館』が鉄槌のように『ヴワル』を放つ。だが咄嗟の事で照準が合わず、さらに近すぎて『プリンセスウンディネ』が拡散しきらない。至近弾の衝撃に殴りつけられ、床へ接触しながらも『博麗』はバランスを立て直し、目くらましにミサイルをばら撒いて最大速で逃げを打った。
 紙一重でパチュリーを救ったのは、小悪魔こぁだった。高機動バックパックとアモボックスを背負い、ヘヴィーマシンガンを右手にやってきた『小悪魔改01』が『博麗』を阻止したのだ。隣には小悪魔さーどが愛機『小悪魔改03』の姿もあった。
「こぁ! さーど!」
 星を一つ落とされ武器も失って撤退したこぁい三連星が、再び戦場へ戻ってきた。
「世話を焼かれるのに慣れすぎですよ、パチュリー様」
 勇ましくも世話好きなお姉さんを思わせる声音で言い、こぁは『大図書館』の前に出た。へヴィーマシンガンを掃射し、さらに放たれたホーミングミサイルを撃ち落していく。
「待たせたこぁ! パチュリーご主人!」
 機体全長をゆうに超えるシールドを左手に『小悪魔改03』も正面に陣取った。右手のビームライフルを二連射、ミサイルの爆発を盾に迫る『夢想封印』を撃ち抜いた。破壊された弾頭が炸裂し、高密度エネルギーの光で地下大図書館の空を塗り潰す。
「ボム潰しは中ボスの仕事こぁ!」
 さーどは自らの役割を声高らかに叫んだ。
『大図書館』と入れ替わりに下がった二人の小悪魔は、地下大図書館の格納庫に帰還。武器弾薬の補充と損傷した機体の修理を行い、さらに高機動バックパックを筆頭とした専用オプションを装備、再び出撃した。
「パチュリー様、状況を」
 紅魔館地下大図書館が誇る巨人機、『大図書館』が出撃するまでの時間稼ぎが任務であった事を考えれば、彼女達が再出撃する必要はない。
「黒白は潰したわ。あとは紅白だけ」
 だが彼女達は戦場へ戻ることを選んだ。
「一機ですか。――行きますよ、さーど。ここぁの弔い合戦です」
「こぁ! パチュリーご主人! てだしむようこぁ!」
 高機動バックパックからスラスターの光を吐いて『小悪魔改01』が突撃する。『小悪魔改03』も『大図書館』から離れ、『博麗』へと向かっていった。
 まだ死んでないわよ、とパチュリーは二機の背中に言葉を投げた。
『小悪魔改01』はへヴィーマシンガンで牽制射を掛けながら『博麗』へと迫った。応射の火線を高機動バックパックで強化された推力に物を言わせて引き離し、さらに左手のビームライフルを返す。『博麗』に破壊されたはずの左腕には『サーヴァント』のものが取り付けられ、さらにシールドがマウントされていた。
 重機関銃弾とビームが気を引いている隙に『小悪魔改03』が『博麗』の側面へと回り込む。
「こっちも忘れんなこぁ!」
 十字砲火の形に捉え、ビームライフルを速射する。横からのロックオンに反応した『博麗』は俊敏に下がった。ビームの光が粒子を散らして紅白の軌跡を貫く。命中せず。
 反撃にばら撒かれたホーミングミサイルをさーどは頭部バルカンで撃ち落し、さらにビームを送り込む。横合いからの攻撃に踊らされる『博麗』。その上方に『小悪魔改01』が十字砲火の位置関係を維持したまま移動し、へヴィーマシンガンを撃ち下ろす。五発に一発の割合で込められた曳光弾が尾を引き、吸い込まれるように『博麗』を撃つ。『博麗』の装甲は『サーヴァント』のマシンガンやライフル程度なら受け付けない強度を持っていたが、へヴィーマシンガンを防ぐには少し足りなかった。鉄の雨が装甲を削っていく。
「ああもう!」
 苛立たしさを露わに霊夢は上へニードル、横へスプレッドを放った。三機を二機にしたものの、敵の連携はなおも健在だった。厄介なことこの上ない。火線は振り解こうと機動する『博麗』へ蜘蛛の糸のように執拗に絡みつき逃そうとしない。そして着実にダメージを与えていく。コンソール上に次々に損害状況が表示されるが、霊夢に見る余裕はなかった。このままではいずれやられる。
『博麗』は思い切った動きを見せた。『小悪魔改03』へ足止めのホーミングミサイルを放ちざま、シールドを前面に『小悪魔改01』へと突進する。
 回避を捨て銃口に向かう突撃に『小悪魔改01』は距離を保つべく、射撃を継続しながら下がった。ヘヴィーマシンガンは射撃戦なら強いが、その長銃身からくる取りまわしの悪さで接近戦には不向きなのだ。
「逃がすか!」
 シールドに弾着の火花を咲かせる『博麗』がホーミングミサイルを放ち、シールドの影からニードルマシンガンを撃つ。
 正面からはニードルの高速射撃。両翼からは挟み込む軌道で迫るミサイル。
『小悪魔改01』は射撃を中止、回避に集中する。大きく動いてニードルをかわし、推力をさらに引き上げて全力運転。ミサイルを振り切ろうとする。だが高機動バックパックによる強化があっても、ホーミングミサイルからは逃げられない。
「ちぃっ!」
 普段の彼女からは珍しい舌打ちをして、こぁはマシンガンのようにビームを激しく連射する。照準の甘さを数で補ったビームがミサイルを撃ち落とした。
 だが全力運転中にビームを連発したことで機体に不調が生じた。高機動バックパックが咳き込み始め、そして停止。『小悪魔改01』のコンソールがアラートを鳴らし、メッセージを表示した。
『過負荷によりジェネレータに不調。
 高機動バックパックへのエネルギー供給が不安定』
 オプション装備である高機動バックパックは『小悪魔改』のジェネレータから稼働に必要なエネルギーを得ている。ビームライフルも同様だ。バックパックが高稼働状態でビームを連射したために、ジェネレータの出力を消費量が上回ってしまったのである。さらにエネルギー供給の優先順位はビームライフルの方が上だった。これらが重なって高機動バックパックへのエネルギー供給が断続的に途絶、稼働に必要なエネルギーを得られなくなったバックパックは自動的に停止したのだ。
 推力を強化していた高機動バックパックが止まった事により、『小悪魔改01』の速度が目に見えて落ちる。
 こぁはすぐさまバックパックの再始動に掛かった。しかし立ち上がりが悪い。始動に必要なエネルギーが安定供給されない。ジェネレータの不調が原因だ。
 そしてホーミングミサイルは落としたが、こぁへ喰らいつこうとするのはミサイルだけではない。左手をビームお払い棒に持ち替えた『博麗』が『小悪魔改01』へ迫る。
「くっ、ジェネレータ出力にふらつきが。頑張って、ぼろエンジン。デーモンの名が泣きますよ」
 足の鈍ったところへ撃ち掛けられたニードルをこぁは辛うじてシールドで受けた。だが続くビームの紙垂からは逃れられない。下から掬い上げるような軌道でお払い棒が来る。
 ビームが黒い胴体を舐める寸前に、横合いから『博麗』へもう一機の『小悪魔改』がショルダータックルを喰らわせた。さらに勢いのまま駒のように回り、右足でのソバットを見舞って紅白の蝶を蹴り飛ばす。
「仕方ないこぁ。ロードじゃないから」
 デーモンの上位エンジンであるデーモンロードを搭載したアッパーカスタム機『小悪魔改03』、さーどだ。ホーミングミサイルの足止めで連携を邪魔され、ギリギリでカバーに入ったさーどは大型のシールドを前面にこぁの前に位置する。霊夢にしてみればあと数秒でいいから遅れて欲しかったところだろう。
『博麗』は姿勢制御スラスターを煌めかせて制動を掛け、体勢を立て直す。
「こざかしいわね」
『博麗』に対抗しうるだけの性能を持ち、綿密な連携をとる二機を相手に霊夢は攻めきれずにいた。三機の時には意表を突いて落とすことができたが、今の二機を相手にそれは難しい。現にさっきの強襲が失敗に終わっている。
「なんとか連携を断たないと……あぁもぉ! いつまで寝てんのよ魔理沙!」
 通信回線越しに怒鳴るも、魔理沙の声は返ってこない。
『小悪魔改』二機の後には『大図書館』がいる。霊夢一人、『博麗』一機ではこの三機は相手にしきれなかった。今のところ『大図書館』が高みの見物を決め込んでいるから凌げているが、これが動けばお手上げ――動かなくともこのままでは時間の問題だ。
『博麗』は射撃戦の間合いを挟んで、高機動バックパックの再始動に手間取る『小悪魔改01』、その前に庇うように位置する『小悪魔改03』と対峙する。
 不意に『博麗』のコンソールが搭載兵装の一覧を表示した。霊夢が操作したわけでも命じたわけでもないのに。
 残弾数も併せて表示されたそれを見て、霊夢の脳裏に反撃の糸口が閃いた。
「そっか、まだアレがあったわね」
 コンソールから『小悪魔改』二機へ視線をやり、動く様子がないことを見て取ると、霊夢は操縦レバーから手を離した。両手の白い手袋を掴み、深く嵌め直す。
 再び操縦レバーを握る霊夢の表情は、それまでとは変わっていた。静かに結んだ唇。細く鋭利な目つき。
 今までの闊達とした雰囲気はなりをひそめ、霊夢は破邪の小太刀を思わせる空気を纏う。畏怖と敬意をもって語られる博麗の巫女がそこに居た。
 高機動バックパックを再始動させ、『小悪魔改』が動き出す。二手に別れ、またしても十字砲火を狙う構えだ。
『博麗』はビームお払い棒をスプレッドガンに持ち替えるとカメラアイを光らせた。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 赤い絨毯敷きの床が占める全周囲モニターと、点滅するコンソールがぼんやりとした視界に映る。
 薄い胸を圧迫する感覚に魔理沙は意識を取り戻した。うつ伏せに倒れた『霧雨』のコクピットの中、シートベルトに吊られる形で小さな身体が浮いている。
 状況が理解できない。
「わたしは、どうしたんだ……?」
 魔理沙は呻いて機体を起こした。『霧雨』が立ち上がり、圧迫感から解放される。胡乱な頭が途絶した記憶を辿った。
「たしかあのデカいのがまた動き出して……そうだ、ぶっ飛ばされたんだっけ……!」
 辿った記憶から状況を把握した魔理沙は急速に覚醒した。
「霊夢っ、まだ生きてるか」
 通信回線を通して相棒へ呼びかける。――応答がない。
 まさか、という思いが心臓を掴んで締めつける。
「ッ、霊夢! おい! 聞こえないのか!」
 振り解くように魔理沙は声を荒げた。返ってくる沈黙がひたすらに怖い。
「――うるさい」
 不安を煽る数秒ののち、聞き慣れた声が入った。
「無事なら早く返事しろよぉ……」
 知らずのうちに乗り出していた身をシートに沈め、魔理沙は息をついた。
「アンタが落とされたせいでこっちはてんてこ舞いなの。気がついたんなら早く手伝ってよ」
 言うわりには切羽詰った様子のない霊夢に「へいへい」と返して魔理沙は『霧雨』のコンソールに目を走らせた。
『霧雨』の正面図が黄色の線で描かれ、『前面装甲に歪み発生。損傷拡大』と表示されている。
「ヤバそうか?」
 独り言めいた魔理沙のつぶやきに『霧雨』は新たに文面を表示。
『フレーム損傷は皆無。戦闘に支障なし』
「頼もしいぜ」
 魔理沙の顔に不敵な笑みが浮かんだ。『霧雨』が自分はまだやれると言っているようじゃないか。
『霧雨』は続けて『博麗』から転送されてきた戦闘情報を見せた。魔理沙は文面に目を通し、渋い顔をする。
「増援が来やがったか」
『大図書館』だけでも厄介だというのに、さらに二機の『小悪魔改』が追加。戦力比の優位が逆転されていた。
『博麗』、『霧雨』に有効弾を出せない『サーヴァント』ならともかく、対抗できるだけの性能を持つ相手が三機だ。
 今のところ『大図書館』が高みの見物を決めているから霊夢一人で凌げているが、魔理沙が加われば二対三に変わる。そうなれば勝ち目はない。
「どうしたもんかな……」
 先制攻撃で一機でも落とせば勝算はあるが、しくじれば待っているのは負けだ。加えて先制攻撃を掛けるには『大図書館』がネックだった。
 遠距離砲撃能力とそれを支える広大なレーダーレンジを持つ巨人機。
 その目を盗み、『霧雨』の有効射程――それも確実に相手を撃破できる距離――まで接近する。
 それは無理な注文だった。間合いを詰めるより向こうに発見される方がどうしたって早い。
「手持ちの札じゃ勝ち目が……ん?」
 視界の端でコンソール上に文字が躍る。魔理沙のぼやきに『霧雨』が答えた。
『『マスタースパーク』の使用を提案』
 表示された一文を見て魔理沙は「はぁン」と笑った。あるかもしれないとは薄々思っていたが、本当にあるとは。
「香霖のヤツ、なかなか粋な事するぜ。……ここから撃てるのか?」
『最大射程38万。『博麗』と交戦中の敵機、全てを同時攻撃可能』
「威力はどうだ?」
『敵巨人機を撃破可能と推定』
「今すぐ撃てるか?」
『エネルギーチャージに300秒を要する』
「……なるほど」
 簡潔なやりとりを交わし、魔理沙は続けて霊夢との通信に入った。
「霊夢、一人であと五分ちょい耐えられるか?」
「五分? なに、そんなにかかるの?」
 戦場は霊夢がそうなるように移動した事もあって、遥か彼方に移っていた。『大図書館』のレーダーでも『霧雨』を補足できない程度に。
「いや。合流するだけならそこまでかからんが、私がそこに加わってもラチがあかん。ここから攻撃する」
「届かないでしょ。見えないわよ、『霧雨』」
「『マスタースパーク』なら届くぜ」
 魔理沙は通信越しに霊夢が絶句する気配を感じた。
「あるんだ。『マスタースパーク』」
「あるんだぜ。『マスタースパーク』」
「で、撃つのに五分かかるのね?」
「ああ。その分威力は保証するぜ。『霧雨』が」
「分かった。五分ね」
「頼むぜ」
 通信を終えて、魔理沙は射線を通すべく本棚の上へと向かう。そこへ「ああ」と何か思い出したように霊夢が回線を開いてきた。
「耐えるのはいいけど、別に墜としたって構わないんでしょ?」
 魔理沙はきょとんとして、次の瞬間盛大に笑いだした。
「上等だ! やっちまえ霊夢!」
 通信終了。『霧雨』は本棚の天板に降り立つと、ビームブルームをマスタースパークモードに変形させた。
 柄先が開いて砲口となり、柄からはグリップとトリガーを展開する。『霧雨』はグリップを掴み、ビームブルームの砲口を戦場へと向けて腰だめに構えた。
『エネルギーバイパス接続。砲身とジェネレータの直結およびエネルギー導通を確認。マスタースパーク、充填開始』
 さらに『霧雨』は『博麗』とデータリンクを開始。『博麗』を介して敵機の位置を取得、射線上に捕捉する。
『3ループMAXにて発射。残り290秒』
 コンソール上に表示されたエネルギーゲージがじわじわと伸び、残り時間のカウントが減っていく。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 空中に静止した『大図書館』の中、パチュリーはページを捲っていた。使い魔から手出し無用と言われてしまって、する事がない。
 さりとて帰るわけにも行かず、パチュリーは本を読みつつ『小悪魔改』二機と『博麗』の戦闘を見ていた。状況は依然として小悪魔サイドが優勢気味に『博麗』を押している。
「……気のせいかしら。さっきより動きが良くなってるような」
 ページをめくる合間合間に目をやっていた戦いの中、『博麗』の動きがいつからか変わっているように思える。
 どこがどう変わった、とはっきりは言えないのだが、何かが違う。どこかが違う。その何かがパチュリーの危機意識に触れ、背筋をざわつかせる。
 パチュリーは読書の手を止めて戦闘に意識を集中した。「何かの正体を見極めろ」と囁く魔女のカンに従って。


『小悪魔改01』がヘヴィーマシンガンの掃射を降らせ、さらに『小悪魔改03』が横合いからビームを放つ。
 宙を舞う『博麗』は鉄の雨を縫うように、十字砲火の直中を的確な見切りでくぐり抜けていく。
(当たらない……!)
(当たんないこぁ!)
 高機動バックパックを再始動させ、再び十字砲火の形に捉えて早くも数分が経過。しかし、こぁとさーどは『博麗』に一発の命中弾も与えられずにいた。
 真っ向からは勿論の事、死角である背後をとっての射撃でさえ『博麗』はかわしてみせた。ただの一弾も掠らせる事のない徹底的な敵弾回避。
 偏差、先読み、フェイントと小悪魔二人が持ち得る技能を総動員しての攻撃を、霊夢は危うげなく避けた。
 一発の被弾もなく、一発も撃ち返さず、水のように弾幕の中をただひたすらに流れていく。数分前とはまるで別物の動き。
「こいつ、後ろにも目があるなんてチンケなモンじゃないこぁ。なんかもっとおっかないものこぁ」
「超反応とも時止めとも違う。未来予知だとでも言うんですか」
 連携をとって二機がかりで浴びせる銃火が悉く外れ、二人の小悪魔に焦りを募らせる。当たるはずの弾がなぜ当たらない。
 不意に『小悪魔改01』のコンソールがアラートを鳴らし、メッセージを表示した。
『へヴィーマシンガンの残弾残り僅か』
「なっ!?」
 こぁの口から思わず声が出た。オプション装備であるへヴィーマシンガンは『800マシ』の通称を持ち、その名の通り給弾ベルトで繋がったアモボックスに800発の重機関銃弾を装填している。
 一射――ワントリガーで六発――で『サーヴァント』を無力化する銃弾が、気づけば100を切っていた。それだけの銃弾を消耗してなお『博麗』は健在。冗談でなければ悪夢だ。
「こぁ姉、ライフルのエネルギーがあと七発ぐらいしかないこぁ」
 さーどの方も残弾が乏しくなっていた。『小悪魔改』のビームライフルはジェネレータからのエネルギー供給で作動するが、その他にライフル内部に備えた弾薬に相当するエネルギーを消費する。これは機体側で賄う事が出来ず、補充には設備が必要だった。戻らなくては補充出来ない。
「くっ、これが狙いでしたか……!」
 無駄弾を撃ち過ぎた、とこぁが臍を噛む。『博麗』が回避に徹したのは、『小悪魔改』の弾切れを狙っていたのだ。
「さーど、一旦こっちへ。ライフルを渡します」
「こぁ姉はどうするこぁ?」
「800マシを撃ち切って格闘戦に持ち込みます」
 どのみち高機動バックパックとビームライフルは併用できない。
 頭部バルカンで『博麗』を墜とせるはずもなく、弾速の遅いグレネードは命中すら望めまい。となればあとは格闘戦しか手がない。
「あんまり得意じゃないんですけどね」
 両手の長物を撃つでもなくふわふわと滞空する『博麗』を睨みつつ、『小悪魔改』は合流した。ビームライフルを投げ渡して『小悪魔改01』が前に出る。
「バックアップをお願いします」
「らじゃこぁ」
 へヴィーマシンガンの火線を開き、『小悪魔改01』が『博麗』との間に保っていた距離を詰めていく。こぁはみるみるうちに減っていく残弾表示にちらちらと視線を飛ばし、時折指切りをして弾切れのタイミングを調節する。
『博麗』は接近しつつの射撃を、後方から飛ぶ『小悪魔改03』のビームと合わせ、捉えどころのない機動で回避する。相対距離が縮まればそれだけ命中率も上がるはずだが、しかし命中弾は出ない。異常とさえ言える回避能力。
 へヴィーマシンガンの鉄火が止む。残弾ゼロ。『小悪魔改01』は銃身を放って、デッドウェイトとなったアモボックスをパージ。ヘヴィーマシンガンを捨てた。軽くなった分増した速度で『博麗』へ迫る。臀部スカートアーマーのラッチに手を伸ばし、格闘兵装のビームサイズを抜いた。柄が上下に伸びて、弧を描くビームの刃を展開する。
 大鎌の形状を成した右手の得物をこぁは背に“かつぎ”、そして横薙ぎに振るった。
 ――早過ぎる。
『博麗』はまだ大鎌の間合いに入っていない。
 間合いを見誤ったかと、思われた刹那、大鎌が不自然に“伸びた”。
 振り始めた瞬間、こぁは柄の半ばを握っていた右手の握力を僅かに緩めていた。大鎌は勢いに乗って柄の半ばから柄尻まで大きく滑り出で、その間合いを“流し伸ばし”たのである。
 ビームサイズが意表を突いて『博麗』を襲った。恐るべき伸びを見せた鎌首が『博麗』の目の前、紙一重のところ薙いでいく。避け損ねれば『博麗』は頭を喰いちぎられていただろう。
 大鎌を振りぬいた『小悪魔改01』へ『小悪魔改03』のバックアップが入った。大振りの隙をビームの連射がフォローする。さーどは撃ちつくしたライフルを捨てて、さらにビームを撃つ。
「畳み掛ける!」
 カバーの間に『小悪魔改01』は手首を返し、踏み込んで再度ビームサイズを振るった。逆袈裟での切り上げ。だがその刃は届かない。
(化け物め)
 こぁは心中で毒づく。回避機動を先読みして振った斬撃を『博麗』は打ち合わせていたかのように避けてみせた。
 不意に『博麗』が薄く青い光を帯びる。攻撃の前兆と見て取った『小悪魔改01』はシールドを前面に立て、バックステップのように宙を下がった。
 それを追ってこれまで受身に徹していた『博麗』が前に出た。紅白の鋼が明確な敵意を持って迫る。接近を阻むべく『小悪魔改01』の頭部バルカンが唸る。
 弾着の火花が散るより早く『博麗』から身に纏った光が解き放たれ、『小悪魔改01』とその後方に居た『小悪魔改03』を打った。
『小悪魔改01』が青いスパークを散らし、がくんと跳ねる。そして糸が切れた人形のように脱力、空中で停止した。コンソールにメッセージを表示し、『小悪魔改01』が沈黙する。
「機能障害!? 今ので!?」
 こぁは即座にシステムの復帰に掛かった。だが紅白の敵機はそれを待たない。モニターに映された『博麗』が動けない『小悪魔改01』にニードルマシンガンを向ける。
「や……」
 鉄火の驟雨。ニードルの速射が黒い人型を不器用に踊らせた。貫通力に優れた針状高速弾が装甲を穿ち、その奥の機体中枢を引き裂いて『小悪魔改01』を蹂躙する。
「ああぁっ!」
「こぁ姉!」
 振動し、機器が火花を散らすコクピットでこぁが悲鳴を上げる。さーどがカバーに入ろうとするが、『博麗』のスプレッドガンとホーミングミサイルがそれを許さない。
「んなくそぁ!」
 自機に向けられた攻撃の全てをシールドで受け止めながらさーどは血を吐くように叫んだ。
『小悪魔改01』が火を噴き、地上へ墜ちていく。大破しながらも生きているモニターが天地逆さの図書館を映した。
 流れていく光景の中、こぁは『大図書館』の背後、遠く離れた後方に集う光の粒子を視認した。こぁの瞳孔が開く。
「ぱ」
 戦場である図書館にあのような自然発光体があるはずがない。であれば、あれは――
「パチュリー様、後ろに! さーど、カバーを!」
 それを最後に通信は途絶した。ニードルマシンガンのダメージと墜落により『小悪魔改01』は大破、完全に機能を停止した。
 こぁからの最後の指示を受けて『小悪魔改03』は機体を翻した。デーモンロードの出力をMAXに引き上げ、弾丸の勢いで『大図書館』へ向かう。
『博麗』はその背中へ銃火とミサイルを放ったが、弾丸は『小悪魔改03』の回避機動に外れ、ミサイルは『大図書館』からの『プリンセスウンディネ』により撃ち落された。
 霊夢はなおも追撃しようとして、やめた。
「いっか。五分は稼いだものね」
『特殊兵装『封魔陣』発動によりパワーダウン中。回復まで221秒』
 コンソール上の表示に目をやって、霊夢は機体を振った。『プリンセスウンディネ』の掃射を掻い潜り、あと数十秒となく放たれるであろう『マスタースパーク』の範囲から離脱に掛かる。
 こぁは弾切れを狙ったと読んだがそれは間違っていた。霊夢の狙いは弾切れではなく、二機の小悪魔が焦れて確実に仕留めるべく距離を詰めてくる事だった。『封魔陣』の有効範囲に二機を引き入れればあとは機能障害を起こさせて動きを止め、容易く撃破できる。『小悪魔改01』のように。
「しかしおかしいわね。もう一機も射程内にいたはずなのに何で止まらなかったのかしら?」
 霊夢は小さく首を傾げた。
 ――実はまだ五分には一分少々足りなかったのだが、そんな事は霊夢の意識に欠片もなかった。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「あの連携をかいくぐるなんて、“ルナシューター”だとでもいうの?」
 小悪魔二人の弾幕を回避し続け、さらには一機を撃破してみせた霊夢に、パチュリーは戦慄と共につぶやいた。
 自身も撃ち返しながら耐えたのならばまだ分かる。攻撃を掛ける側にも回避の必要が生じ、結果的に攻撃の密度が下がるからだ。
 だが霊夢は二人の小悪魔に一弾も撃ち返す事無く、800発の重機関銃弾と装弾数が少ないとはいえないビームライフルを撃ち尽くさせた。
 一対一ならまだしも、数で勝る相手にそんな芸当が出来る搭乗者は紅魔館には一人しか居ない。
「……化け物め……」
 ひたすらに逃げを打つ『博麗』をレーダーだけでマークし、パチュリーは旋回、後方を向いた。
『博麗』に『大図書館』は落とせない。
 スカートアーマー内へ攻撃されれば別だが、そのためには接近の必要がある。だがレーダーで捕捉していれば接近を見落とす危険はない。落とされる要因はない。
「後ろって、まだ敵がいるの? あの黒白なら潰したはず……」
 こぁは後ろに、と言ったがパチュリーは半信半疑だった。侵入してきた敵は二機。うち一機は前方の『博麗』。もう一機の『霧雨』は『大図書館』のアームパンチが叩き潰したはずだ。
 現にレーダーレンジ内に『博麗』以外の敵性反応はない。『大図書館』の最大射程は超束積高魔力弾『エメラルドメガリス』の35万。レーダーの有効範囲が30万のため命中を期待できるのはそこまでだが、それでも充分すぎるほどに広い。紅魔館で最長の射程距離を誇る『大図書館』が、射程で遅れを取る等ありえない。仮に『霧雨』が生きているとしても、あの機体サイズでは『大図書館』以上のレーダーレンジを持つなど考えられない。そんな事は技術的に不可能だ。
「……ふぅん。潰したの思ったのだけれど」
『大図書館』のモニター上に輝点が視える。モニターが壊れたのでなければアレがこぁの見たものなのだろう。どうやら黒白の未熟者は『大図書館』にぶん殴られてなお立ち上がったらしい。
 目つきを悪くしてパチュリーは輝点を見る。その口元には嘲りの笑みが浮かんでいた。
「馬鹿ね。当たるはずがないわ」
 遠距離砲撃には近距離、中距離からの攻撃よりも遥かに正確で精密な照準が要求される。
『大図書館』が山のような巨体である事を差し引いても、レーダー捕捉さえしていない標的に当たるはずがない。
 この距離でさえ視認できるほどの光を発するエネルギーを集束させているのは驚嘆に値するが、それも当たらなくては意味がない。届くとしても。
「そんなことも分からない馬鹿なのか、それとも分かってて賭けに出た馬鹿なのか。どっちにしろ馬鹿ね」
『霧雨』の搭乗者である魔理沙を馬鹿と断じて、パチュリーはレーダーで『博麗』の動向を見た。特に動きがない事を確認すると『ヴワル』の装填弾種を変更。『プリンセスウンディネ』から『エメラルドメガリス』へ。同時にFCSレンジを遠距離砲撃に切り替える。
「まだ動くのは驚きだけど、もう機体フレームがガタガタでしょ。とどめを刺してあげる」
 その前に無駄な一発を撃たせてあげるわ、と嗤った。
 嘲り、余裕を見せ付ける『大図書館』の前に警戒するように『小悪魔改03』が出た。
「さーど。こっちはいいわ。後ろの化け物を警戒して」
「ヤこぁ」
 さーどの返答にパチュリーはきょとんとした。――このばかこあくまは今なんと言った?
「パチュリーご主人、敵なめすぎこぁ。それにわたしはこぁ姉にカバーするように言われたこぁ」
「舐めてなんていないわ。論理的な結論から脅威にならないと判断しただけよ」
「通信つつぬけでばかばかばかばか言ってるの全部聞こえてたこぁ。そういうゆだんは足元をすくうってここぁ姉が言ってたこぁ」
 こぁこぁと間抜けな語尾が抜けないさーどにパチュリーは心中で舌打ちした。
「こぁこぁ五月蝿い。いいからとっとと後方警戒につきなさい」
「きょひするこぁ。こぁい三連星はどくじの権限で行動することが許可されてるこぁ」
「ガタガタぬかしてるとおやつ抜きよ」
「んぐっ……、覚悟のうえこぁ」
「おやつはプリンだったんだけど」
「うぐあはっ」
 少女が甘味、お菓子を好む例に漏れる事無く、小悪魔さーども甘いものが好きだった。特にプリンはほぼ確実に取引が成立するほどの大好物だ。
「残念だったわね。命令違反の懲罰はおやつ抜き一週間よ」
「ごむたいなぁっ!」
 コクピットでさーどはがっくりと肩を落とし、パチュリーはふふんと笑んだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 暴力的なまでのエネルギーを宿し、フル稼働する機関の唸りがコクピットに満ちていた。
 集束、蓄積され解放の時を待つ魔導エネルギーが、砲身となったビームブルームの先端部より余剰エネルギーの粒子を立ち昇らせ、『霧雨』の視界を陽炎のように揺らがせる。
 膨大とも思えた時間を数えていたカウンターがついにゼロを刻み、長いチャージゲージが三度に渡って満たされた。
『『マスタースパーク』、エネルギーチャージ完了。最終セーフティロック解除』
 短い電子音と共に『霧雨』は魔理沙にそう知らせた。
「うっし、一発カマすとするか」
 有視界外で繰り広げられる戦闘に蚊帳の外となっていた魔理沙が不敵な笑みを浮かべる。景気づけとばかりに帽子を押さえつけて深く被り、鍔先を指で切った。
「いくぜ『霧雨』」
『対ショック、対閃光防御完了。レディ、『マスタースパーク』、スタンバイ』
 操縦レバーを掴み、魔理沙はモニターを睨んでトリガーに指を掛ける。『霧雨』は『博麗』とのデータリンクを元に『大図書館』および『小悪魔改03』を射線上に捉え、照準した。
 コンソールを点滅させて『霧雨』が魔理沙に撃てと言う。
「吹っ飛べデカブツ!」
 墜とされた借りは利子つけて返す。魔理沙は指に力を込めた。
 ――閃光と衝撃。
 トリガーが引かれ『霧雨』最強の兵装が放たれた。レーザーライフルとは比較にならない巨大な光の奔流が薄闇を駆逐する。
 白い光に照らされて深い陰影を浮かばせた『霧雨』は発射の反動をいなし、射撃姿勢を維持し続ける。元となった魔理沙の魔砲同様、こちらも持続式だ。弾体を撃ち出しておしまいではない。
 亜光速で奔る『マスタースパーク』が射線上の全てを薙ぎ払い、鉄砲水のように紅魔館地下大図書館の空を突き抜けていく。


 閃光を見た次の瞬間、パチュリーの眼前には魔砲の光が迫っていた。
「え……」
 距離30万オーバーからの直撃コース。
 論理的にありえないはずだった状況に、知識と日陰の少女の思考が停止する。一瞬が永遠に感じるほど間延びし、ゆっくりと流れていく。
 回避は既に不可能。防御も、不可能だった。
『大図書館』の装甲は紅魔館でもずば抜けて強固だが、距離30万を越えてなお減衰の様子を見せないエネルギー砲撃には耐えられない。
 やられる、という結論に至る前に、至ると察したが故にパチュリーの思考は空白と化した。
 ゆっくりと、まるで見せ付けるように破壊の光がにじりよる。嘲ったパチュリーを嫐るように。
(や……)
 白く染まっていく視界にパチュリーは目を瞑った。
『マスタースパーク』着弾。光の瀑布が全てを飲み込む。
 衝撃が『大図書館』を揺さぶる。装甲が砕かれ、剥ぎ落とされ、一切合財が破壊されていく。
 ダメージアラートも、装甲が拉げて散る音も聞こえない中、「こあぁぁぁぁ!!」というさーどの叫びだけが聞こえた。
 ……パチュリーは恐る恐る目を開く。直撃を受けたにしては衝撃が弱く、コクピットになんの異変も起こらない。
 背けた顔を上げ、そして息を呑んだ。開いた目蓋の向こうには、黒い悪魔の翼が広がっていた。
『小悪魔改03』が『マスタースパーク』を受け止めている。
 ビームライフルを捨てて両手でその機体よりも大きなシールドを構え、『大図書館』と『マスタースパーク』の間に立ちはだかっていた。
 シールドから紅い光のフィールドを展開し、『大図書館』の巨体全てを破壊の光から守っている。
 ――バリアフィールド発生器内蔵型シールド。
 元は紅魔館当主である『レミリア・スカーレット』と、その妹である『フランドール・スカーレット』専用機として開発された『小悪魔改』が持つ、万能にして最硬の盾。
『封魔陣』を無効化したシールドを前面に、さーどは全リミッターを解除、ジェネレータ出力の全てをバリアフィールドの維持に回し、パチュリーを守る事だけに全力を注ぐ。デーモンロードが性能限界の悲鳴を上げてコクピットをレッドアラートで満たすが、構わずに『マスタースパーク』を受け続ける。
 シールドの輻射熱とオーバーロードで爆散しようとも、パチュリーを守り抜く。それが使命だ。
「さーど!」
 盾による庇護の中、『大図書館』が『ヴワル』を構えた。だが、撃てない。
 敵はレーダーレンジの外にいる。照準不能。このままでは撃っても当たらない。それでは意味がない。
 命中弾を放つべくパチュリーはコンソールを叩き、FCSへのデータ入力に掛かった。レーダーの外にいる相手は見えないが、居ると分かっているのなら打つ手はある。
「敵砲撃を導線に位置を特定、そこへ砲弾をぶち込んで粉砕する」
『霧雨』はホースで水を撒くように持続式の砲撃を行っていた。それは『マスタースパーク』を介して『小悪魔改03』と『霧雨』が繋がっている事を意味する。
 ならば、『マスタースパーク』を遡った先に標的は、『霧雨』は居る。
 たんっ、と強くコンソールを叩いてパチュリーは入力を完了した。
 コンソールに様々な項目が目まぐるしく表示され、FCSが入力データを基に命中弾を送り込むべく動いている事を知らせる。
『目標推定位置計算……計算完了
 有効砲撃弾道計算……計算中
 薬室内装填弾へのデータ入力……待機中
 射角、照準角調整……待機中
 砲撃可能状態まで、あと30秒』
 衝撃が『大図書館』を立て続けに揺らし、コクピットのパチュリーに悲鳴を上げさせた。シートベルトがやわらかな胸を締め付ける。
『右スカートアーマー、大破
 左スカートアーマー、大破
 左腰部装甲、小破。なおも損傷拡大』
 バリアフィールドを蝕み、喰い破って魔光が『大図書館』の各部を末端から破壊していく。
「っく……、盾が持たない……!」
 シールドの出力が限界を迎えつつあった。元々、自機のみの防御を想定して開発された兵装である。『大図書館』の全体を保護するほどの広域展開など想定されていない。
 また、これほどの威力を相手にしての長時間稼働も考慮されていない。想定外と考慮外を二つも重ねれば無理が出るのは当然といえた。
『目標推定位置計算……計算終了
 有効砲撃弾道計算……計算終了
 薬室内装填弾へのデータ入力……入力中
 射角、照準角調整……待機中
 砲撃可能状態まで、あと20秒』
 バリアフィールドの範囲が秒刻みで狭まっていく。身を縮める『大図書館』が秒刻みで削られていく。
『小悪魔改03』がコクピットと機能中枢を納めた胸部から頭部を中心に庇っているため、未だ『大図書館』は機能を維持していた。
『目標推定位置計算……計算終了
 有効砲撃弾道計算……計算終了
 薬室内装填弾へのデータ入力……入力終了
 射角、照準角調整……調整中
 砲撃可能状態まで、あと13秒』
 焦燥がパチュリーを急かす。まだなの。知らずに食いしばった歯がきし、と鳴った。まだなの。
 範囲を狭め続け、遂にバリアフィールドが消失した。『マスタースパーク』は続けて特殊コーティングを施されたシールドそのものの攻略に掛かる。
 特殊コーティングが粒子を散らして『マスタースパーク』を弾き、その威力を減衰させる。だが相殺するには至らない。『大図書館』の腰から下が溶け落ちて、光の奔流に飲まれて消えた。パチュリーは五基から三基に減ったジェネレータの出力配分を全てフライトユニットに回し、『大図書館』を辛うじて空に浮かせる。
『目標推定位置計算……計算終了
 有効砲撃弾道計算……計算終了
 薬室内装填弾へのデータ入力……入力終了
 射角、照準角調整……調整終了
 砲撃準備完了』
 コンソールの表示が変わり、電子音を鳴らすが早いか、パチュリーはトリガーを引いた。
『ヴワル』が咆哮し、超束積高魔力弾を撃ち出す。灼熱のエーテル流を貫いて『エメラルドメガリス』が空を翔る。
 ほぼ垂直に跳ね上がった砲身に引っ張られて『大図書館』が大きく姿勢を崩した。下半身全てを喪失し、重量の減った機体では『ヴワル』の反動を殺し切れない。
「く、ぅ……!」
 砲身の先が質量を持った光の流れに触れ、『大図書館』の手から『ヴワル』が吹き飛んだ。多目的ランチャーは『大図書館』の下半身と同じ運命を辿り、消滅した。
 パチュリーが『エメラルドメガリス』を放ってなお『マスタースパーク』は止まらない。
 亜光速の『マスタースパーク』に対し『エメラルドメガリス』は超音速だ。この距離では弾着に時間が掛かる。
 シールドの表面が音を立てて弾け、光の中に飛散した。シールドは特殊複合装甲を二層に重ねて作られているが、弾着まで――『マスタースパーク』が止むまではたして持つかどうか……。
(レンジ内を飛翔しきるのにおよそ五秒。最大射程までは六秒。つまり……)
 弾着まであと数秒。
 だが現実は非情であり、パチュリーはその数秒遅かった。
 シールドが光の藻屑と化し、破壊の光に曝される『小悪魔改03』そしてさーど。
「のがぁぁぁぁ!」
 血を吐くような悲鳴を上げながら、それでも両手を広げてパチュリーの盾となる。『マスタースパーク』に押され、『小悪魔改03』は『大図書館』に張りつく形になった。耐久限界を迎えたカメラアイが砕け散る。
「う~っ、ぱちゅ……!」
『小悪魔改03』は最期まで盾となったまま、爆装、沈黙した。
 ダメージアラートで花畑のように真っ赤に光るコンソールに照らされ、パチュリーは目を閉じる。
「お疲れ様、小悪魔」
 巨体の頭部が火を噴き、『大図書館』はその機能を停止した。


 ゆうに300秒を掛けてチャージしたエネルギーを撃ち尽くし、『霧雨』はビームブルームを上げた。過熱した砲身が薄く煙を立ち昇らせ、陽炎で景色を歪ませる。
 データリンクを介して『大図書館』の撃破を確認、魔理沙はビームブルームを通常モードに戻して武器パックへ格納した。入れ替わりにミニミサイルマシンガンを装備する。
「――へへ。惜しかったな」
 前方、かなり離れた位置に穿たれた砲撃の痕に魔理沙はそう言った。
 乾坤一擲の『エメラルドメガリス』は『霧雨』まで届く事無くその役目を終えていた。
「まあ、見立てが甘かったって事だぜ。誰かさん」
 ぴ、と左手を振って『霧雨』は足場を蹴った。空へ上がり、『博麗』と合流する。
「おつかれさま」
「おつかれさん」
 紅白と黒白が並び、地下大図書館の空を行く。
「さて、もうここに敵はいないみたいだがこの後はどうするんだ?」
「そうねぇ……たぶんあっちだわ」
「オーケー。じゃ行ってみるか」
 二機は霊夢のカンに従って針路を取り、半地下の空の中へ飛んでいった。



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 地下大図書館の床に『大図書館』と『小悪魔改03』は打ち捨てられたように転がっていた。
 機体のどこにも損傷のない箇所はなく、『マスタースパーク』により焼け爛れた姿は、誰がどこから見てもスクラップだ。
「全く。やってくれたわ」
 大きな方のスクラップ――仰向けに倒れていた『大図書館』が僅かに動いた。
 小爆発が胸部の数箇所で生じ、硝煙を上げる。続いて高い音と共に胸部が火花を散らし始めた。火花はゆっくりと移動し、『大図書館』に赤い線を刻んでいく。
 線はやがて出発点へ戻り、『大図書館』の胸部に大きな四角形を描いた。ばん、と音を立てて四角形に切り取られた装甲板が飛び、床の上を跳ねて盛大な音を立てた。
「霧雨魔理沙、だったわね」
 死に体となった『大図書館』から、羽化する蝶かなにかのように白い機体が姿を現した。
『サーヴァント』よりもやや小さく、見るものに何処か儚い印象を与えるフォルム。だが右手にはその印象を吹き飛ばす物騒で凶悪な代物――大型の回転鋸が携えられている。
 これで『大図書館』を内側から切り拓いたのだろう。あの分厚く強固な装甲を。
「覚えておくわよ。この私が。パチュリー・ノーレッジが」
 大破した『大図書館』を蹴って、白い機体――『知識』が軽やかに、羽毛のように舞った。



 To be continued...



   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




――以下機体設定――




 こぁい三連星搭乗機

『小悪魔改』

 搭載装備:バズーカ(全機共通装備。通常榴弾、苦無散弾を使用可能)
      ビームライフル(全機共通装備)
      グレネードポッド(全機共通装備)
      スモークディスチャージャー(全機共通装備)
      ECMシステム(02)
      小悪魔ハンマー(03)
      ドラゴン殺し(03)
      頭部バルカン(01、03)

 以下はオプション装備
      高機動バックパック
      ヘヴィーマシンガン
      シールド
  バリアフィールド発生器内蔵型シールド

 背部可変翼と頭部小翼が特徴的な、主に黒でカラーリングを施された機体。
 最大速度はそれほどでもないが、加速性、運動性に優れ、小回りの利くすばしこい機体に仕上がっている。
 元々はスカーレット姉妹専用機として紅魔館最強の機体となるはずだったが、技術蓄積により後発の機体の方が強力なものとなってしまった。
 それを受けて「なんで私の機体が最強じゃないのよ」と怒ったレミリアの命により、01、02が艤装段階、予備機の03がメインフレームを完成させたところで製作中止となっていた。
 しかし格納庫で埃を被っていたところをパチュリーが再利用。小悪魔三姉妹に与え、それぞれに合わせた改装を施している。
 本来は多種多様なオプション装備を有した究極汎用機となるはずだった。
 製作の中止に伴い、オプション装備の開発も中止され、一部しかロールアウトしていない。
 以下機体詳細
 01:トータルバランスに優れる万能タイプ。距離を問わない戦闘力を有する。オリジナル機体の正統完成形。
 02:ECMを搭載した支援タイプ。オプション装備機能を犠牲にECMシステムを組み込んでいるため、汎用性と戦闘能力はやや劣る。
 03:メインフレーム以外は未完成だったため、後発の技術を導入して完成させたアッパーカスタム機。出力だけなら最新鋭機に匹敵する。




パチュリー・ノーレッジ搭乗機

『大図書館』

搭載装備:『ヴワル』多目的ランチャーシステム
     レーザー砲
     近接防御速射砲
     アームパンチ


 白と紫の二色で構成された巨人機。
 非常に重厚かつ強固な装甲を持ち、殆どの火器を受け付けない。
 他の機体とは違った特殊フライトシステムを搭載しており、雪山のような巨体の割に動きは軽快である。
 こういった巨人機はえてして接近されると脆いが、接近を阻むノンディレクショナルレーザーと速射砲に加え、大質量の腕部より繰り出されるアームパンチでカバーしている。
 これらにより接近されても充分な自衛が可能だが、巨体ゆえの死角はカバーできない。特に立体戦闘を行うと足元が殆ど死角になってしまうという弱点を持つ。
 脚部は切り離し可能であり、損傷による歩行不能時などは、高出力バーニアで浮遊しての戦闘続行が可能。
 しかし、装甲のないスカートアーマー内を狙われやすくなってしまうため注意が必要である。
 実はこの機体はそのものがパチュリー専用機『知識』の追加外装であり、重厚な装甲の内部には『知識』が収められている。

『ヴワル』多目的ランチャーシステム
『大図書館』の主兵装にして最大の特長である弩級火器。
 火水木金土の札を組み合わせ、多彩な砲弾を使用できる。
 以下に主要な弾種を記す。
 超束積高魔力弾『エメラルドメガリス』
 広域焼夷榴弾 『アグニシャイン』
 対機動敵用榴弾『メタルファティーグ』
 質量光学複合弾『プリンセスウンディネ』
 焼夷集束弾  『フォレストブレイズ』
 待ちに待った時が来たのだ。多くの原稿が、無駄でなかったことの証のために。
 再び鋼鉄の続きを書くために! 鋼鉄紅魔郷完結のために!
 創想話よ!! 私は帰ってきたッ!!

 ……二年と半年ぶりに鋼鉄紅魔郷の続きです。
 もう覚えてる人いねえよ。つか文体も文章傾向も変わりすぎで異常に長いよ。
 それでも、私にだって、意地があるの。
 そんなわけでこの人、相変わらず正気とかポイ捨てしてまだ続けるみたいです。
 続きは……08小隊のリアルタイムリリースよりは早く出したいなぁ、と願望を。
 ではでは。バイバイロボ。
kt-21
[email protected]
http://titanaluminiden.web.fc2.com/
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コメント



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ロボ物はいい、心が洗われる…
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なつかしい
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敵味方共に良い勝負でした。
あまりロボ物とか読まない方ですが、熱いバトルを楽しませて頂きました。
13.100名前が無い程度の能力削除
いろんな意味で狂ってやがるぜ……。
これで違和感があんまりないのがすごい。