Coolier - 新生・東方創想話

構って。 ~ 眼鏡Limited ~

2012/02/10 20:27:09
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「それが無いと、本当に何も見えないの?」

 森の中にぽつんと建つ一軒の道具屋『香霖堂』には、一人の店主と客の姿があった。
 そのうち、客の方の少女―――十六夜咲夜が言及したのは、店主である森近霖之助の眼鏡について。
 霖之助は、自分の眼鏡に触れながら口を開いた。

「見えないこともないが……目つきは悪くなる」
 
 冗談っぽく、しかし笑顔の一つも浮かべず、そんなことを言う霖之助。

「ふぅん、目つきの悪い貴方も悪くないと思いますわ」
「―――何を言ってるんだ、君は」
「私、ずっとその眼鏡というものに興味を持っていましてね?」
「………おい、本当に何をする気だ。 いくら客でもわがままには限度が……」

 ふっと、音がしたような気がして。
 それきり霖之助の視界はぼやけた。

「なっ……!」
「ふむふむ、ここを耳に掛けてと」

 焦点の合わない目で咲夜の方を見ると、彼女が眼鏡を掛けている姿が、ぼんやりと見えた。
 
「どう? 似合います?」
「………生憎、目が悪くてね。 眼鏡を返してくれれば見えるんだが」

 霖之助の眼鏡を(勝手に)掛け、感想を訊く咲夜。
 霖之助は、皮肉をたっぷり込めて言葉を返した。

「あらあら、それは男冥利に尽きませんわね」
「君は何と言うか、実に性質が悪い」
「悪女は悪ではなく、女なんですわ」

 意味が解らない、と溜息を吐く霖之助。
 まぁ流石に帰るときには返してくれるだろう、と諦め、読みかけの本に手を伸ばした。恐らく全く読めないであろうが。

「―――む……ここか、いや………」
「あら、立体視ですか?」
「四次元世界の君にはわからないさ」

 本を近づけたり離したりしていた霖之助を、横から覗き込む咲夜。
 霖之助は、買い物をしに来たんじゃないのか、と思いつつも口には出さなかった。
 咲夜が店に来るだけ来て、買い物をせずに帰ることなど、最近は珍しくもない。
 それでも他の自称客に比べて時々買い物をしていくだけ、霖之助にとってはマシだった。

「う~ん、逆に見辛いですねぇ」
「そりゃあ、目の良い人間が着けるものではないからね」

 咲夜は霖之助の肩に顎を乗せるようにして(ただし、実際には乗せない)、霖之助の本を覗き込む。
 霖之助と咲夜の顔同士の間には、一寸ほどの距離しかなかった。

(―――全くこのメイドは、『こういうこと』を自覚してやってるのかそうでないのか……そこが読めないから性質が悪い)

 霖之助は、自分が未だに男であったことを再確認して、冷静を装いながら咲夜の頭を引き離す。

「買い物をするのか、それとも僕にちょっかいをかけたいだけなのか……それとも君は、眼鏡に対する純粋な興味だけでここに来たのかい?」
「後者、とだけお返ししますわ」
「―――どっちのだよ」

 とりあえず、買い物をする為に来たわけでは、ないらしい。

「とにかく、買い物をしない以上は客じゃない。 眼鏡を返して帰ってくれ。 読みたい本があるんだ」
「では僭越ながら、私が読んでさしあげますわ」
「………ふざけているのか?
「さて、どの辺りからお読みさしあげればよろしいでしょうか」

 眼鏡を外し、霖之助から本を取り上げる咲夜。
 
「―――外すくらいなら、返してくれ」
「『春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際―――』」

 霖之助の言葉になど一切耳を貸さず、朗読を始める咲夜。
 

 素直じゃない人間だ、と心の中で呟いて。
 そっと目を閉じて、咲夜の声に耳を傾けた。











~ 閑話休題 ~



「のう、獣耳小娘や」
「あなただって獣耳じゃないですか」
「そんなことはどうだっていい。 儂が訊きたいのはな」
「どうだってよくないですー!」
「……儂が訊きたいのはな、なんでおぬしが儂の眼鏡をつけておるかじゃ」

 マミゾウは、目を細めて、睨むように目の前の少女を見た。

「な、なんですか~! こ、怖くなんかないんですからね! 南無三!!」
「こんなときに頼られては、仏も困ろうよ……それに、儂は睨んどらん。 おぬしが儂の眼鏡を持っているせいで、よく見えんのじゃ」

 眼鏡をかけた少女、幽谷響子はそれきり黙ってしまった。
 やれ困った、と溜息を吐き肩を竦める、眼鏡をかけているはずの少女(?)は二ツ岩マミゾウ。
 
「それは玩具じゃない。 すぐ壊れるし、子供が持っていて面白いものでもないぞ」

 悪戯をした子供の母親―――或いは祖母のように、マミゾウは響子を優しく諭した。
 対して響子は、ぐぬぬと息を漏らすだけで眼鏡を外そうとはしなかった。

「ほら、いいから返せ。 目が悪くなるぞ?」
「い~や~で~す~」

 眼鏡のつるを抑え、マミゾウに返すまいとする響子。
 その強情な態度に、マミゾウはもう一度溜息を吐いた。

「ふぅ………仕方ないのぅ。 ここは根性比べじゃ」
「根性比べ?」
「うむ。 おぬしが返すか、儂が諦めるか。 しばらく付き合ってやろう」

 マミゾウは白い歯を見せ、含み笑いをした。
 響子は、マミゾウのそんな表情をしばらく見つめ、ぷいと横を向いた。

「し、仕方ないですね。 じゃあ私も付き合ってあげます」

 目をマミゾウに合わせぬまま、響子はそう言った。
 マミゾウは、決してこちらを向こうとしない響子の横顔をじっと見つめた。
  
「―――なんですか」

 その視線に気付いたらしい響子が、顔を横に向けたまま言った。

「いやぁ、獣耳は赤くならぬのじゃな、と」
「な、ななななにを言ってるんですか!」

 一層顔を真っ赤にした響子が、マミゾウに詰め寄る。
 それを見てマミゾウは、にぃっと笑った。

「一番勝負、儂の勝ち。 じゃの」

 一瞬、響子はポカンとして。
 それからマミゾウの胸をポカポカ殴り始めた。

「ずるい! ずるいですっ!」
「年の功、かのう」
「うぅ~……もう一回! もう一回です!」

 マミゾウは響子の翡翠色の髪を撫で、そうじゃのう、と笑った。
 うららかな陽射しに、眼鏡のことなど最早どうでもよくなって。

 この我侭で悪戯っ子な甘えん坊と、しばらく遊ぶのも悪くないかなと。
 マミゾウは思った。








「―――なにをしている」
「おはようございますわ、お寝坊店主。 勿論、客の特権として商品を物色させていただいております」
「客、というのは、店主が寝ている間に店に忍び込む人間を言うんだったかな」

 むくりと、店主と呼ばれた男―――森近霖之助は、突っ伏していた机から身体を起こし、目をこすった。
 それから、覚束ない様子で机の上を手探る。

「あぁ、失敬。 またお借りしました」
「………あのなぁ」
「商品を勝手に持っていかないのが客の条件なら、まさに私は客ですわ。 勝手に取ったのは商品ではありませんもの」

 全く悪びれた様子もなく、勝手に忍び込んでいたらしい少女―――十六夜咲夜は言った。

「僕の眼鏡を返してくれ。 それが無いとあまり―――いや何も見えない」
「あら、では私から眼鏡を奪い返すこともできませんね」

 咲夜は霖之助にわざと近づいて、霖之助が手を眼鏡に伸ばす。
 しかし咲夜は、その手を優雅にひらりとかわした。
 そして、愉しげに笑う。

「あらあら、私はそちらではありませんわ」

 口元を隠し、瀟洒に笑う咲夜。 その笑顔は、少女らしい無邪気なものだった。
 惜しむらくは、その愛らしい笑顔が、霖之助の目には映らないことだった。
 霖之助は、諦めたように一つ溜息をついた。

「眼鏡を返すのは、商品を見て満足してからでいい。 君はお得意様だからね、それくらいは―――」
「お会計のときも、眼鏡なしで?」
「………さすがにそれは」
「だめですわ。 もう言質はとりましたもの。 あたふたする貴方が見られそうですね」

 咲夜はにっこりと笑って、スカートの端を軽く摘まみ、くるりと霖之助に背を向けた。
度々眼鏡を弄りながら、愉快そうに店内を見回る咲夜。
 霖之助はぼんやりとしたその姿を、目を細めて追って。 そして、目を閉じた。






「ちゅっ」
 


 がばり、と霖之助は身を起こした。
 真っ先に目に入ったのは、咲夜らしき人影。
 何か声を掛けようと思ったが、ことん、と一つ音がしてすぐ、その人影はいなくなってしまった。

「―――なんだったんだ、今のは」

 生温かく生々しい、柔らかな感触が、霖之助の頬にまだ残っていた。
 疑問を頭に浮かべながら立ち上がると、机の上に眼鏡が置いてあるのに気付いた。

「どうやらちゃんと置いていったようだ……買い物はしなかったけど」

 霖之助は眼鏡を装着しながら、寝癖がついていないかと売り物の鏡を覗いた。

「………なるほど、ね」

 思わず、独り言を呟きながら笑みを浮かべる霖之助。
 そっと、自分の頬を愛しげに撫でた。

「全く、素直じゃない人間だな」

 霖之助は肩を竦めつつ、しかし嬉しそうに笑い。 そしてもう一度見つめた。
 


鏡に映る、『こちらは御代です』と書かれた頬と。
素直じゃない人間からの『御代』であるらしい、お洒落なデザインの眼鏡を。
別に咲夜さんのことが好きすぎるわけじゃなくて偶然思いついたネタが二つとも(ry

要約:咲夜さんのですわ口調流行れ


私の文章力及び構成力の欠如により、オチが解りづらかったかと思います。
大変お手数ではありますが、お好きなように補完してください。
よっぽど解りづらいようでしたら、加筆なども視野に入れます


ps,自薦するならもっと派手にやりますよー
そのうちガチで自薦レビュー書こうと思うのでよろしくお願いします
また、レビューしてくださった方、ご迷惑をおかけしました
汗が制汗剤を流す人
https://twitter.com/#!/ase_kissaten
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コメント



0.1560簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
そろそろ俺も眼鏡新しいの欲しいな
4.90奇声を発する程度の能力削除
どっちも良い雰囲気で良かったです
16.100名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気だ…
26.100名前が正体不明である程度の能力削除
響子で癒された。
27.80名前を忘れた程度の能力削除
むしろマミ響がよかった。
38.無評価名前が無い程度の能力削除
某スレにて自薦(自演?)疑惑がたっているようですがその真偽を教えてください


もし違うようでしたら大変失礼しました
39.90名前が無い程度の能力削除
よかったよ作者が大人な方で

作品はおもしろかったです。
なんなら閑話休題といわず本編として書いてもいいのよ?