レミリア・スカーレットはインド人だった。
偉大なる親友、歩く大図書館、パチュリー・ノーレッジがレミリアに言い放ったのだ。インド人、と。
レミリアは悟った。そうだ、レミリア・スカーレットは吸血鬼である前に一人のインド人だったのだ。
母なるガンジスの流れ、自らの身体に流れるインドの血を感じ、レミリアの頬を涙が伝った。
――レミリア・スカーレットが還るべき場所は其処に在る。
◇ ◇ ◇
夜もとっぷりと暮れ、紅魔の館は活気付く。カリスマの権化たるレミリアは、大食堂で目覚めの食事を摂っていた。
「ナンです、お嬢様」
粗相では無い。ナンです、ナンである。流石は十六夜咲夜、主人の好みを完全に掌握し、適切な食事を選択する。テーブルの上には沢山のナンが積まれている。レミリアはA型血液の練りこまれたナンをハモハモと頬張りながらガンジスに感謝する。聖なる流れ、ガンジス川、レミリアが流れを渡れないのも道理であった。ああ、吸血鬼である自分が憎い。
タオルを首にかけた咲夜がパチンと指を弾く。瞬時に深淵の紅、鮮血滴る紅茶が目の前に現れた。ハモハモ後の至福の一時、ティータイムである。断じてスープカレーではない。
「咲夜、今日の紅……チャイは……?」
「原産地はアッサム、カームループ県。茶葉は夏に入る直前、新月の夜が明けた霧の早朝にのみ収穫されます。月の光で僅かに茶葉が焼けるのを防ぐ為だとか、収穫するのは地元に住む処女。穢れの無いたおやかな手が柔らかい新芽への傷を最小限に留めるのです――」
原産地に満足したレミリアは咲夜の紅茶解説をよそにとぷとぷと白澤印のミルクを混ぜる。紅茶なんて苦いもの、とてもじゃないけれど飲む気にはなれない。ミルクとたっぷりのお砂糖で味をごまかしてようやくレミリア好みの飲料となるのだ。とろけるような甘みに、僅かに舌を痺れさせる茶葉の味。紅茶だった液体をジャリジャリと嚥下し、レミリアの至福のときは終わりを告げた。
◇ ◇ ◇
「やはりインドの血をひくからにはスペルカードにも反映させないといけないな。インド的な何かを」
「ええ、そのとおりですわ。お嬢様」
ヨーガの時間をサボり、自室で咲夜に話しかける。新たなスペルカードの創造プランだった。
「しかし、だからと言って吸血鬼の威厳を損なうようなスペルカードは作れない。聖なるガンジスは偉大ではあるが、鬼には似つかわしくない。レミリア・スカーレットたる私がガンジスの名を冠したスペルを使ったら失笑ものだろ?」
ククっと笑いながらまっ白な符にインクを滴らせ、レミリアはスペルを構成していく。自機狙いの大玉、世界の創造を意味する三つの弾、散弾。戦場を所狭しと駆け、跳ねる紅の魔弾。
「まるで節分ですね、お嬢様」
その様子を眺めていた咲夜がタオルを首にかけなおしながらレミリアに進言した。
「豆まき……。そうか! いいこと言うじゃない、咲夜!」
「恐れいります」
散弾の後にはレミリアを象徴する紅く穿つ槍、グングニル。その先は三叉に分かれている。神の槍を模したのだ。
今、ここにレミリア・スカーレットの新たなるスペルが誕生した。
「できたわ……! 世界を破壊する神の名を冠し、私の性質をも体現した必殺のスペル。私は、私の才能が恐ろしいよ、咲夜」
「そのスペルの名は……?」
「印度『豆シヴァ』!!」
「まぁ……」
咲夜は見事なタオルさばきを披露しながらわんわん的な響きに涙した。
◇ ◇ ◇
サリーに身を包み、庭から紅魔館を眺めた。窓の多い、洋風の造りだ。いずれはこの外見もムガル建築にしなければいけないだろう。屋根に大きな玉葱が乗った姿を思い浮かべ、レミリアは悦に浸る。早速咲夜に命じておこう。
庭先でパタリとパチュリーに遭遇した。レミリアに大切なことを気づかせてくれた唯一無二の親友だった。
「やぁ、パチェ。お前のおかげで私はインド人としての尊厳を取り戻すことができた。ありがとう」
「……そ、そう。良かったわね、レミィ」
「なんだ、やけに挙動不審じゃないか、パチェ」
パチュリーは何も無いはずの天を仰ぎ、深いため息をついた。
「皮肉もここまでくると喜劇ね。レミィ。貴女がどんな運命を手繰り寄せたのか知らないけど、怒らないで聞いてね」
「……?」
「私はね、レミィ。貴女のことをインドアだと言ったのよ」
ハハハハとレミリアは笑い、パチュリーの鳩尾に左手で全世界ナイトメア。
ブッ飛んでる
なんか可愛い
お嬢様がラジニーばりに歌って踊るアクション物の続編はありますか?
おなかに全世界ナイトメアを食らわされたのはパチュリーさんのはずなのに、壊れてしまったのは私の腹筋であったのです。
面白かったです。ゲラゲラゲラと声を出して笑いました。
神ですかアナタは!
実際、ありそうで困るwww
わざわざ左手で撃ったのは、「くそくらえ」ということか
カレーの香りがした。
アホの子すぎるお嬢様も咲夜も。
印度『豆シヴァ』ってなんやねんwww
しかしどんな弾幕か見てみたい様な気も。
おかげで開眼しそうです。
『豆シヴァ』でニヤってなりましたよ。
アレですか?枝豆とかから「うにょ~ん」ってシヴァが出てくるのでしょうか?
それはそれでなぁ……。
愉快で面白い話でした。
百歩譲ってスペカ名は譲るとして、その系統名(?)は絶対おかしいですお嬢様
あのタオルさばきをしてる咲夜を想像して笑いました
そのインドの知識はどこから仕入れたんだ……
お嬢様があの膨らんだズボン履いてターバン巻いて・・・あれ、以外に似合ってね?
何度読んでも最初の一文と最後の一文でカレー噴く。
なんぞこれー。
ギャグの醍醐味を見た気がします。
このインド紅魔館は最高です!
オチが切れ味良すぎですw
あっという間に読めて、笑わせて頂きました。
面白かった!
久しぶりにマサラムービーを見たくなった。
笑わせてもらいましたw
なんという切れ味か!
くるってる……!(褒め言葉
面白かった!
何をどうやればレミリアがインド人になるんだろう。