大罪を犯した。
薬を飲んだ。不老不死になる薬で、メロン味がした。
メロン味とチョコレート味とイチゴ味があったけれど、私はメロン味を選んだ。
私はメロンが好きだ。
そして。
私は大罪を裁かれようとしていた。
宮廷法廷という場に私は居て、薬を飲んだ理由を証言しようとしていた。
「メロン色で美味しそうだったからです」
私が答えると、法廷に完全な静寂が訪れた。まるで停電した冷蔵庫の中にいるみたいだった。
誰もが私の言葉がもっと続く物だと期待しているようだった。
けれども私の証言がそれで一区切りだと、皆わかったのだと思う、傍聴人の王族たちがざわめきだした。
裁判長がくしゃくしゃのお札みたいに顔を顰めた。
検事は鳩が豆鉄砲を六百発食らったような顔をして、口をあんぐりと開けてしまい。
弁護人は今にも卒倒しそうなほど青ざめた。
いい気味だ。と私は思った。
「では……あの、姫様は、あの」私の罪を追求するべき検事がこの体たらくだ。私が罪に問われている行動は、月人にはあまりにも不可解すぎた。「おいしそうだから、という理由で蓬莱の薬を服用した、と仰るわけですか?」
大罪を犯すにはもっと深刻な理由が必要なんです、とでも言いたそうな検事の顔。あるいは法の観点としては、そうかも知れない。
ならばどういう理由さえあれば蓬莱の薬を飲んでもいいのか、訊ねてみたい気がしたけど、止めた。
彼の口から聞けそうな相応の理由に、私は興味を持てそうも無かった。
だから私は、「いいえ」と答えた。「私が飲んだ理由はそれだけではありません」
法廷にいる全員が皆一様の表情で安堵のため息をついた。検事でさえもだ。
皆は考えているのだと思う。
私には蓬莱の薬を飲むに足るだけの理由があったと、本気で考えているのだと思う。
もちろん私にはそれがあった。ただし絶対に彼らを満足させられるものじゃない。
それは何気ない午後のひとときだった。
本来ならばなんの記憶にも残らないような、ザ・日常というタイトルを貼り付けて額に飾って良いほどの午後だった。
そういう時間と言うものがある。
人生で無数に巡り来る日々の断片。
永琳の家に私は居て、永琳は家に居なかった。
ペットの玉兎だけが居た。
私は玉兎と二人で永琳の帰りを待った。
永琳の玉兎と過ごす午後。私の好きな時間だった。
他愛もない会話を交わし、他愛もなく笑い合う。
その兎はとんでもなくフリーダムな奴だ。
私に出来ないことをいつも、軽くやってのけてしまう。
何にも縛られない風のように、雲のように、空のようにだ。
そいつと一緒に過ごす時間が好きだった。
自分も自由になれたような気分になるから、だけど。
結局は私は籠の中の小鳥さんで、彼女は野原を駆け回る野ウサギさんだったりしたのだ。
うん。
私は小鳥さんなのだ。
自分が籠の中の小鳥さんであると、自覚してしまう、あらまあ可哀想な小鳥さんなのだ。
自分の宮廷での生活を考えると、いつでも憂鬱になれる。憂鬱になりたければ、自分の日常を考えればいい。
なんて素晴らしい人生でしょうね。
皮肉の一つも言いたくなる。
まいらいふ。
煌びやかな宮廷での、なに不自由ない生活。確かに。
だけど自由もない。私は生まれた時から、月の後継者になる事が決まっていた。
そのために育てられた。そのために全ての生活があった。
凄まじいものだ。もし私と同じ生活を続けたら、きっと本物の小鳥でも本当に月の後継者になれる。
ううん。違う、そこらに生えてるぺんぺん草でさえ、月の後継者になれる。たぶん。
私の生活を例えるならば、金型に自分をギュウギュウはめ込んで、それで毎日上下左右からプレスされるようなもの。
プレスされる内に、だんだんと自分の形が金型にはまってくるようになる。これなら中に居るのが私だろうが、小鳥だろうが、ぺんぺん草だろうが関係ない。でもね、金型の中は窮屈だ、苦しい、私はそんな中に居るのは好きじゃない。
こんな生活が延々と繰り返される究極の退屈さ。
これはね。永遠に続く拷問に等しい。
いっそぺんぺん草でも姫にしてやってくれと思う。マジで。
っていうかほんとにペンペン草で作った人形を身代わりにして、侍従たちをだまし、家出したこともあった。
三日三晩、都をほっつき回り、そこで出会ったハンサムボーイとスクーターに二人乗りしたり、ジェラートを食べたり、石像の口に手を突っ込んでみたりと、淡いロマンスがあったりはしなかった。
現実は理想と違う。家出して三分三十秒くらいで捕まった。
ちゃんと計測してた。誤差は0.5秒くらいか。
私の自由への大脱走は三分三十秒プラマイ0.5秒で潰えた。
ぺんぺん草を姫にしてくれという、私のヴィヴィットでウィットに富んだブラックジョークも世間には通じない。
大目玉を食らって終わっただけだ。私は衛兵にとっ捕まえられながら叫んだ。
『ほらみんな見てよ、私ってぺんぺん草と同じ事させられようとしてる。人生楽しくってしかたねえや!』
でも実際には残念ながらぺんぺん草には、月の後継者をやることは出来ない。月の王・王女とは永遠と須臾を操る能力者でなければならない。この私の血筋だけに伝わる能力こそが、月の都が永続性を持った理想郷である事を維持できている根元であるからだ。
だから、私がそんな義務をほっぽり出して逃げ出そうなんてのは、月の民びとを裏切る行為であり、なんたらかんたらと、初めて父からひっぱたかれた。思いっきりだった。ほっぺたを張られて私は空中で一回転くらいして、床に転がった。
実にわかりやすく効果的な説教の方法だった。握り拳を作って私を見下ろす父は、世の中にいくつか存在するどうしようもなく動かし難い物事の、具現化した姿のようだった。
父は正しいと思う。
より多くの人々のために、人生を捧げなければならない人がいるかも知れない。
それがたまたま私で、私にしか出来ないなら。仕方もない。
でも、じゃあ、私の人生ってなんなんだろう、と考えると、どこまでも憂鬱に沈み込んでしまう私の心は、なに?
くそやろうが。何かに向かってそう怒鳴ってやりたかった。でも何に叫べばいいかわからなかった。
ほっぺたをさすって泣くことしか出来なかった。
父にひっぱたかれて以来というもの、私がライフワークにした事がある。
一輪車に乗りながら三味線でメロディック・コア・スピードメタルを奏でる筋肉質の男を想像することだ。
男はボクサーパンツ一枚を穿いている。それに、マー君と油性マジックで名前が書いてある。
そして彼はあまりに情熱的な演奏をし、そのサウンドは涙を流したくなるほどに感動的だ。
何故マー君なのか?
マサキという名前だからだ。だからボクサーパンツにもマー君と書かれる。絆の象徴だった。親子の絆。彼にとって一度は失われた物で、長い苦闘の人生の果てに手に入れた物でもある。
そんな、マー君がマー君ボクサーパンツを手に入れるまでの半生を、濃密なタッチと繊細な風俗描写で描き出すマー君物語は四百字詰め原稿用紙にして、八億八千万枚程度まで執筆が進んでいる。私はほぼ毎日書き進めていた。
要するに、私が憂鬱の泥沼の中で生きていく消極的な決意をしてからの生活というものは、思春期まっさかりの少女、つまり私に、マー君というの奇妙な男の人生を妄想させてしまうくらいストレスが病的に貯まるほどに鬱屈したもので、それを八億八千万枚書いてしまうくらい退屈だった。
と言うことだ。
マー君ワールド。私は自分の生活をそう呼んでいた。
マー君ワールド。それが私のほぼ全てだった。
マー君ワールド。そこからひとときだけ解放してくれる場所。それが永琳の家だった。
永琳の家には一輪車もボクサーパンツも筋肉も存在しなかった。
居るのは一人の玉兎で、彼女は大概、こまっしゃくれた喫茶店のウェイトレスのような恰好をしていた。
制服とも言える彼女の服は、エプロンの吊り紐によって胸がはちきれんばかりに強調され、常にブラウスのボタンが一つか二つは弾け飛んでいた。また、スカートは少し歩くだけでも、腰を覆うというその本来の機能の75%を損なわせるほどに短かく、もし脚を組んで座ろうものなら87%の機能が損なわれ、さらにずっこけた時に限っては150%の効果が発揮されるタイプの物だった。世の中には着ていたほうが何も着ていないよりもエロい服装というものがあるが、まさにそれだった。
彼女は永琳のペットだ。
だから。
彼女がそのようなエロい恰好をしているのは、彼女自身の趣向であると同時に、永琳の趣向によるものでもある。
もしだ。
永琳以外の宮廷に出入りする誰かが、ペットにこのようなエロい恰好をさせようものなら、たちまち風紀に問題ありと弾劾を受けることになるが。永琳の兎のファッションは確かにコケティッシュで扇情的である事は間違いない。だけど、あえてエロいだろそれと口に出して指摘するにしても、ちょっとなんか気後れしちゃうような、微妙にぎりぎりセーフなラインを攻めていて、尚かつ何も着ないより着ている方が明らかにエロいのだ。一種の芸術だった。
そういう風に微妙にぎりぎりセーフだから永琳が許されていた、というわけではない。誰も咎めなかったのは、単純に永琳という存在に、世間一般の法やしきたりを課そうと考える者が居なかったからだ。
永琳はあらゆる意味で特別だ。
彼女の本名は月において創造主とほぼ同義の意味があってしまう。
しかし、特別さとは特権だけを意味するものではなく、同時に特権の大きさに比例した孤独をも意味する。
特別すぎる存在とは孤独なものなのだ。文字通りの至高である彼女の横に並び立てる人間など居るわけがなく、月の都の創成以来というもの、永琳にとっては100%対等な友人関係、あるいは恋愛関係を築ける相手というものが、彼女が彼女の玉兎に出会うまで存在しなかった。
その玉兎が現れるまでは、近しい誰もが永琳の孤独を癒す誰かが必要だと、理解していていても、誰もその役目を果たせないでいた。
私自身も役目を果たせなかった一人だ。永琳は師であると同時に、親しい友人でもあった。
と言っても月の都という私にとっての永遠の牢獄を創った張本人ではある。
だから彼女が師としてあてがわれた当初は、私は反発しまくったもんだ。
永琳の椅子にぶーぶークッションを仕掛けたり、ドアに黒板けしを仕掛けたり、うんこ座りして禁煙パイポを吸ってみたり、まあ、せいぜいそんなもんだったけれど。
私が永琳の椅子へぶーぶークッションを仕掛けるのを止める代わりに、お手製のお菓子を焼いてあげたり、食事に誘ったり誘われたり、お忍びで彼女の自宅へ訪問、つまりプライベートな友人として遊びにいったりするのに、大した時間は掛からなかった。
永琳は都という世界そのもの作り上げた張本人だけあって、世の中っつーもんをどこまでも達観してる奴だった。
世の中に組み込まれて埋没してしまっている両親とは違う。
永琳は私の憂鬱を誰よりも客観的に理解してくれたし、そんな私の話を月の後継者のそれではなく、一人の女の子の話として親身に聞いてくれた。父や母や親類の誰よりもだ。
そして私は永琳が抱えている孤独も知った。私と同じに、この世界で憂鬱を抱えている一人なのだとわかった時、私にとって永琳は誰よりも信頼できる相手になり、誰よりも心を開ける相手になっていた。
もし永琳という理解者が居なければ、私はとっくにマー君ワールドに完全に飲み込まれて、発狂でもしてたと思う。
きっとボクサーパンツを穿いて一輪車に乗っていたと思う。情熱的に三味線をかき鳴らしていたに違いない。
間違いなく永琳は私の精神的な命綱だった。
けれども、私が彼女によって憂鬱の泥沼から救われているほどに、彼女にとっての憂鬱の泥沼、孤独の泥沼から救えているか、と言えば自信がなかった。
永琳は私にとって一方的なお姉さん的ポジションであって、私は永琳にとって一方的な妹ちゃん的ポジションでしかなかった。私は対等な親友になりたかった。永琳が精神的に頼りにしてくれるような友だち。
でも永琳は正真正銘の賢者で、私はお姫様という肩書きと血筋があるだけの割と凡才な女の子でしかない。
永琳が究極の孤独の中で生きるのを、私はなんら手を差し伸べられないまま、ずっと側から見ていた気がする。
ずっとずっとずっと、どうにかしてやりたいと私は思っていた。
私が永琳に頼りにされるのが無理ならば、永琳と対等に付き合える相手は居ないものかと、いつも探していたし。
何よりも自分でも、いつかそう成れればと考えていた。そういう人間になりたいと願っていた。
どうすれば、そうなれるのかは、まるでわからなかったけれども。
私は。探して探して探して。願って願って願った。
そんなある日。私は兎を見つけた。
私の誕生日の事だった。
誕生日など祝い飽きたけど未だに祝う。
式典とかやっちゃうのだ。それがしきたりだから。
マー君ワールド的祝賀晩餐会だ。一年がぐるりと巡るたびにこれをやる。
これをやる度に私は思う。
ああ、またマー君ワールドが始まるんだ。永久にずーっと。
憂鬱のどん底に私はずぶずぶ沈みこむ。ずぶずぶずぶずぶ。
ずぶずぶずぶずぶ。
そこに一匹の兎が紛れ込んできたのであったりしちゃった。
その兎は王族のキラキラした生活という物に憧れていたらしく、パーティをどうしても見物したかったそうで、玉兎お得意の波長を操る能力を駆使して会場に潜入したそうだ。
彼女の一番のお目当ては着飾ったお姫様と一緒に写真を撮ることで。
そして私は着飾ったお姫様だった。
祝賀晩餐会のフィナーレである。今年の我が抱負、みたいなもんを私が憂鬱のどん底な心理状態でも日夜鍛え上げたロイヤルスマイルでスピーチしてるところに、そいつがに乱入してきた。
晩餐会出席者の視線が集まっていたステージに、髪のやたら長い兎が駆け上がってきた。私を囲んでいたマー君ワールドの全部を飛び越えて、そいつは私の目の前に、いきなり、さっそうと、現れた。
そいつは私のことを初対面で、『かぐっちゃん』と呼んだ。『ねー、かぐっちゃん、私と一緒に写真とってよ』と言ったのだった。私のマー君ワールドを悠々と土足で踏破し、私を『かぐっちゃん』と呼んだのだった。
呆然とする私をよそにそいつは私と肩を組んで、私の父に向かって、『あ、おっさん、撮ってくんない?』とか言ってた。何枚も写真を撮らせた。父もあまりの事に、兎のノリと勢いに流されて普通に撮ってた。
兎は型破り過ぎた。自由すぎた。
こいつだ! と思った。直感だ。
こいつしか居ない。と思った。ぴぴっときた。
私は玉兎の耳をひっつかんで。
『永琳。これを飼いなさい!』スピーチそっちのけで叫んだ。
『あなたはこれを飼うべきよ!』マイクの音量を最大にして永琳に命令しちゃったりしてみた。
兎はすんごく脳天気な奴で、『私えーりんに飼われるんだすげえあたし! あたしすげーキラキラな人に飼われるのが夢だったんだ』とか喜んでたのを良く覚えてる。
永琳の事を本名ではなく、“永琳”と呼び捨てにする兎は、恐らく月であいつだけだ。私以外の王族も必ず敬称を付けるというのに、あいつはハナっから呼び捨てだった。
最初は永琳もずいぶんと面食らって、兎を飼うなど馬鹿らしいなどと言っていたけれど。
私の目論見は大正解だった。
永琳は兎に対して三日間ツンツンしてたけど、三日目でデレた。
その野良玉兎の極めて天真爛漫でフリーダムな性格が唯一、永琳の地位と才能に対して100%無邪気に対等で居られる要素だったのだ。
永琳はとことんデレた。デレデレになってしまった。
億年単位の孤独の反動だと思うが、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいの、デレデレっぷりだった。
そうして永琳は見ているこっちが恥ずかしくなるような衣装を、ペットに着せるようになったのだ。
それは何気ない午後のひとときだ。
永琳の家に私は居て、永琳は家に居ない。こまっしゃくれたウェイトレスみたいな格好の兎だけが居る。
私たちは永琳の帰宅に合わせてお茶にするために、キッチンでおはぎを作っていた。
キッチンでおはぎを作ってるだけでも、兎のスカートは本来の機能の平均70%を放棄していた。食材などを床下収納から取り出したりなど、ちょっと腰をかがめただけで、その内側が覗いて見えそうだった。でもけして見えないのだ。ギリギリセーフ具合に関しては計算されつくしたデザインになっている。もちろん胸のボタンは既に二つ弾け跳んでいた。彼女が何かする度に、つやつやの胸元がブラウスの隙間から見え隠れする。
「でさあ。かぐっちゃん的にはさあ。どうなのあれ」と彼女は言った。
彼女はすりこぎで餅米を突いていた。突くたびに彼女の頭で耳がゆさゆさ揺れていた。
私は煮上がったあんこのあんばいを見ていた。塩と砂糖の加減が難しい。
「あれって、何のこと?」と私は聞き返した。
永琳の自宅では宮廷で求められるような丁寧な言葉使いは必要ない。
フリーダムな彼女と過ごすフリーダムな時間は、私をフリーダムな気持にさせてくれちゃうのだ。
「何って決まってんじゃん。この前もさ、えーりんがまた地上人に蓬莱の薬ちらつかせて戦争させたじゃん。ああいうのって、どうなのかなあって、いっぱい死ぬんでしょ。人が。いい加減馬鹿らしいような気もするしさ。だって、私は月で暮らせればそれでいいのに」
「どうなのと訊かれてもねえ」と私はとりあえず曖昧に相づちをうってみた。
永琳が地上人に戦争をさせるのは、いくつか理由があるけど、もっとも根本的な理由は、孤独と不安の二つ。
この胸のボタンが二つ弾け飛んでる兎のせいで、地上人はそうとは知らず永琳に戦争させられている。
そこには非常に馬鹿らしい理由が存在する。でも私から見てどんなに馬鹿らしくても。
永琳にとっては彼女のうん億年の人生の全てをかけた挑戦だった。
私が口を挟める物事でもない。永琳とこいつ自身の問題であって、私は蚊帳の外だ。二人で将来、地上へ住むそうだ。
私は月から離れられない。それは永琳もわかってる。私はいつの日かマー君ワールドに一人ぽっちだ。
永琳の本当の友だちになりたかった。でも出来ないから、この兎を代わりにした。
そして永琳は兎だけを連れて行ってしまう。しょうがない事だ。しょうがない事。私は誰も責められない。
でもさ。じゃあ。私って。私ってなんなのよ?
なんなんだろうね。ほんと。
だから、「わったしなんか関係無いじゃな~い」と歌うみたいに声を弾ませて答えてみた。
自分でもうんざりするくらいの見栄っ張り。しょうがない。私は産まれながらのリアルお姫様って奴で、体裁をつくろう事に関しては、おむつが取れる前から躾と共に叩き込まれてきた。そんな風に育てられると、虚飾を張る事それ自体が行動原理のようになってしまう。私は超見栄っ張りさんなのだ。
真面目に鬱になれる話題振られたって、うきうきスマイルで答えるくらいの事は余裕だし、本気で沈んじゃう気分になる時こそ、ダウナーな顔なんか出来れば誰にも見せたくない。
だから、「ね、そう言うまりなはどう思うのよ?」と私は結局、質問に質問を返した。
まりなは首を傾げた。彼女の頭の上でふわふわの耳が、くにゃっとお辞儀した。
まりな。まりな。
まりな。
兎の呼び名だ。
永琳が名付けた本名があるけれど、私はまりなと呼んでいた。
かぐっちゃんと呼ばれる事への、私なりの返礼と、最も親しい友人の一人として、あだ名の一つも与えなければならないという平凡な責務感、由来は彼女の二つ名、『電子レンジからの生還者(マイクロウェーブ・リターナー)』を略したものだ。
この二つ名が成立した事件こそが、永琳の地上人類文明発展計画の発端であり、地上の戦乱の発端だった。
そして何よりも、蓬莱の薬というもんが創りだされた切っ掛けになった事件だった。
まりな。この名前こそが、全てのモノゴトの始まりだった。
それは、かつてのまりなの急病だった。
酷い悪寒に冒された。
穢れが無く寿命という概念の無い月ではあるが、月の民も生き物である以上、病気もすれば怪我もする。
その頃の永琳にはまだ、医術の心得が無かった。薬師の家系の出という彼女だが、だからと言ってそれを専門にしているとは限らないのが世の皮肉だ。まりなの急病に錯乱するほど動揺してしまった。
永琳は震えるまりなを温めてやろうとして、特大の電子レンジに入れてしまった。
動物を温めてはいけません、とレンジのマニュアルに書いて無かったからだ。
永琳は一応は世間一般から天才と言われてる。マニュアルもちゃんと読む。だが常識はあまり持ち合わせていない。
チンした。
まりなに言わせれば、空前絶後の恐怖と苦痛だったという。後に私にこう語った事がある。
『こうね、体の中の水分がぷちぷち沸騰していくのを感じるって言うのかな? 脳みそとかがさ、ぶわって頭の中で膨らむ感じが自分でわかるっていうの?』
電子レンジ内で起こった事を私は最後まで聞く勇気はなかった。
まりなが死なずに済んだのは、人一倍波長を上手く操る事が出来たからだ。
隠れた才能だった。彼女はマイクロウェーブを操り灼熱地獄からどうにかリターンして来たのだが。
重傷は免れなかった。
永琳はホカホカな最愛のペットを前にさらに動揺した。動揺しまくったせいで、医者を呼ぶのを忘れ、思わず古今東西のありとあらゆる医術書を読破してしまった。自分で治療しようと思ったわけだ。
本物の天才とは医者を呼ぶ代わりに、古今東西の医術を三分で修得し、もう二分で常識を覆す新薬を作り上げ、さらにもう三十秒で瀕死の重傷人に治療を施し、全快させる人間の事を言う。
まりなはチンされてから計五分三十秒後には、永琳の治療によって全快していた。
この出来事は一つの奇跡の発現であり、月における医術革命の始まりだった。
永琳の才能ほぼ全てが、医術に傾けられる事になったのだ。
たちまちに月から病という病が消えさった。たった三ヶ月で医療技術が三世紀分ほど進化した。さらに月で出回るレンジのマニュアルに玉兎を温めないでくださいと必ず記述されるようになった。永琳に訴訟を起こされた電気製品会社が多額の賠償金をふん取られたからだ。
信じがたいが、永琳は自分でうさたんをチンしたくせに、裁判において彼女の超頭脳を駆使した論説でマニュアルのせいだと司法に認めさせ、勝訴してしまった。
永琳はその莫大な賠償金も全て医学の研究にあてた。ひたすら医の道を邁進した。
だが、なにも永琳は月の都のためを考えて医学を発展させたのではない。
永琳は恐れていた。まりなを失う事を恐れていた。
うさたんレンジでチン事件が一種の強迫観念を永琳に植え付けていた。
うさたんを失うあらゆる可能性を排除するために、そのためだけにひたすら医術を一人で進化させ続けてたのだ。
再びうさたんを間違って殺し掛けちゃっても、ぜんぜんOKなようにだ。永琳超がんばった。超努力した
実際に事件以降にもまりなは度々、死にそうな目にあっていた。
それら全てが永琳の非常識さが原因だったのだが。まりなが死にかけるたびに、どこかしらの企業が訴訟を起こされ大量の賠償金が支払わされ、そのたびに医学は爆発的に発展していった。
永琳とまりなによるそんな血と涙の輝かしい足跡は、月の様々な日用品のマニュアルに見ることが出来る。
大概の電気製品のマニュアルに、『本製品で玉兎をXXXするような誤った使用法はしないでください。死にます』などと大きな赤い文字で書かれているのは、永琳のせいだ。しかしそういった工業製品だけではない。キュウリやバナナなどの食品にまで注意書きが張られている。
例えばバナナなら、『本製品を食用以外で玉兎に使用しないでください。内部で千切れて取れなくなる事があります』と書かれている。意味がわからなくて永琳にバナナをどういう風に使ったのか聞いた事があるけど、お父さんとお母さんに聞きなさいと優しい笑顔で言われただけだった。父と母にも聞いたけれど教えてくれなかった。色んな人に聞いて回ってるけど、未だに誰も教えてくれない。切実に誰か私に教えて欲しいと思う。
ともかく私の疑問を置き去りにしつつも、月の医学は行き着く所まで行き着き、生き物が死ぬ事がほとんどなくなってしまった。
しかし永琳自身は満足していなかった。
病気や怪我を直す事は出来ても、突発的な事故などで、まりなが即死する可能性は常にある、という不安が永琳をさらに追い立てた。しかし生き物が活動する以上は、事故そのものを完全に無くすのは不可能だ。
だったら、ぜったいしなないうさたんをつくればいいじゃない。わたしってばてんさいね。
という子供じみた発想を本気で実現してしまうのが、永琳という奴で。
子供じみた発想を実現させる才能、それが天才という単語の真の定義だ。
蓬莱の薬が出来上がった。
しかし、世の中は上手く出来ていない。
薬には致命的な問題があったりしちゃうのだ。
飲むと月に住めなくなる。
絶対に死ななくなる薬を飲むという行為そのものが、生への極大の執着になりえてしまい、極大の穢れを身に負う事になるらしい。つまりそれは、かつて永琳自身が穢れに満ちた人々を説いて、地上から月へと導く時に、穢れを捨て去らせた過程を真逆に行くような行為になる。
永琳は悩んだのだと思う。まりなに蓬莱の薬を飲ませるべきか否か。
自らが創りだした月という世界の有り方へ背信してまで、自らにとって最も大事な個を、永久に失わずに済むという保証を得るべきなのか。
創造主が背負ってしまっている世界への責任感が果たしてどのような物なのか、私には想像すら出来ないが。
彼女は自問した事だろう。人々のために理想郷として創りだした月の都は、果たして自分に何をもたらし、これから何をもたらそうとしているのか? 少なくとも自分にもたらされたのは極大の孤独だけだった。それが自分の望んでいた事だったのか? 自分はいったい本当は、何を求めていたのだろうか?
その答えは、とっくに出ていた。
まりなをチンした後の爆発的な医学の発展は、まりなのためにだけを考えての事だったのだから。
彼女は人間の誰もが当たり前にして求めるように、ただ平凡な幸福を欲していただけなのだ。
だが。
いざ、まりなに蓬莱の薬を飲ませようとしても、まりな本人が嫌がった。
『私は自分に与えられた生をありのまま、自分の裁量で歩んでいきたいんです! それが生きるという事なんです!』
とか、まりながなんとなく立派っぽい事を言ったわけではもちろんない。
あいつはそういう事は死んでも言わない。絶対にだ。
現に胸ボタン二つロストの兎は曰っていた。月よりも文明が遅れている地上での生活など、考えられないと。
『まーあれだよね、水道も電気もシャワーも、ウォシュレットも、イチゴ味歯磨きも、安全カミソリも無いところで暮らす位なら、死んだ方がマシみたいな? やっぱりね。生きるっていうのは、その間にいかに充実した生活をするかって事だと思うのよ、かぐっちゃん。イチゴ味歯磨きの無い世界なんて生きる価値はないよね。あ、私って今なんか格好いい事言った気がする』という事らしく、極限の甘えんぼさんであるまりながそう言ってだだをこねれば、永琳は蓬莱の薬を飲ませる事を諦めるしか無かった。
かくして永琳の新たな野望、地上文明発展計画がスタートする事になっちゃうのだった。
計画は永琳らしく子供じみていた。無駄に壮大だった。
子供じみて無駄に壮大だが、天才がそれをやると、まじぱねぇくなる。
最初の計画は地上に月の文明の一部を持ち込んだ都市を築くことだった。
そのテストケースとして永琳は地上にアトランティスとムーという二つの都市を造ったが、どちらもあっさり自滅してしまった。地上の人類が月の文明を使いこなすよりも早く、内紛で文字通り地球上から消滅してしまったのだ。
地上人が弓矢や刀剣と同じ感覚で、マイクロブラックホール爆弾や相転移砲を使えばそうもなる。
結果、計画は根本から見直される事になり、文明は人類そのものと同時に成熟させる必要があるという結論に至った。
そして最適の方法として今現在も続けられているのが、蓬莱の薬を地上の権力者にちらつかせ、それを餌にして抗争を巻き起こし戦争させる事によって、文明の発展を加速させるという方法だ。そうして出来るだけ早く、地上でも月と変わらないくらいの豊かな生活をおくれるようにしようというらしい。
つい少し前にも地上で白村江の戦いやら、ニハーヴァンドの戦いやら、壬申の乱などがあったばかりだそうだが、あれら全ては永琳が仕組んだ物だったりする。
いわば、まりな一人のために地上人が死んでいた。死にまくっていた。
たかが下賎な民共、なんて言ったところで、元々月の民だって地上から来たわけであって。
まりな自身も思うところがあるらしい。
が、まりなは永琳に計画を止めるよう言うことも無かった。
まりなは永琳の孤独と不安を誰よりも身に刻まれて理解していたし。
ウォシュレット>>>>>越えられない壁>>>うん億人の人命。
これが、まりなだった。わかりやすい。
そんな風にまりなは度々、世の中にはびこる色んな価値観を軽々ぴょーんと飛び越えちゃってくれて、私を驚かせてきたけれども、一つだけ彼女が絶対にぴょーんと飛び越えない物があった。
それは彼女自身が持つ自意識、自分自身を自身自身だと設定する領域のようなものだ。
絶対的なエゴ。
これこそが彼女の圧倒的な常識跳躍力の根元であって、自分自身を変えるという事を全く知らない奴だった。
彼女のエゴは例えばイチゴ味歯磨きだったり、安全カミソリという具体的な物として現れたりする。
だから、まりなが安全カミソリが無ければ地上に行きたくない等と言い出せば、それが絶対の原則になるのだ。
そして地上人たちはその原則に従って戦争をさせられる。今日も明日も昨日も、たぶん明後日も。ずっと。
ずっと。
二人が地上へ移り住む時まで。
私が月に一人残されるときまで。
そして何気ない午後のひとときだ。
永琳の家に私は居て、永琳は家に居ない。まりなと私だけが居る。
私たちはキッチンでおはぎを作っていた。
「かぐっちゃん、ずるいなあ。私が質問してたのに。いつもはぐらかすよね」
「そんな事言ったって、私が地上に行くんじゃなくて、あなたが永琳と行くんでしょ。私関係無いじゃない」
「でもでもでも、私とかぐっちゃん離ればなれになっちゃうじゃん。かぐっちゃんはいいのそれで? 永琳が計画を止めてくれればって思うよ私は、月でみんなで暮らせばいいのにって思うよ」
「じゃあ、どうして永琳にそう言わないのまりなは」
「それはだからね」
「ううん。わかってる。私だってまりなと同じよ。永琳を止めようとは思わない。私だって永琳の事はわかるもの」
まりなは私の言葉にうんうんと頷きながら、水道からボールに水を汲んで、両手を浸した。
おはぎの餅米をまるめるためだ。
なんとなく深刻っぽい話題を話してる時でもお菓子くらいは作る。というよりも、永琳の地上うんたら計画が始まって以来というもの、私とまりなの間にたびたび上る話題であったりして、未だに結論が出ない。既に日常会話だ。
「でもでもでも、私が言いたいのはね。かぐっちゃんはどう思ってるのかって事なの。それで良いのかって事なの」
月に一人で残される。良いわけないじゃん。
でも私は見栄っ張りさんだ。
「良いわよそれで。私は間違ってないと思う」出来るだけクールな顔を作って言ってみた。
したらチョップされた。私の頭にまりなの濡れた手がデシッ! とヒットした。
「いたい」と私は言った。
まりなが赤いおめめをちょっとだけ釣り上げて口をへの字にしてた。
「嘘つき」とまりなは言った。「そうやってすぐ、かぐっちゃんは格好つけっぽい事するよね、嘘でしょかぐっちゃん」
「うん。嘘です」あっさり認めてみた。
残念ながらこいつと永琳には私一流の虚勢も通じにくい。私と言う者が知られすぎちゃってる。
「一緒に行こうよかぐっちゃん。地上に行こう?」
私だって地上に降りると思い切れればどんなに良いだろうと、空想することはある。けどね。
永琳はあんたのために地上に行くんだよ、まりな。
だったら、もし、あんたたちに付いて行ったら、その私って何なの?
惨めなだけじゃん。
まりなは永琳の100%の友だちであるだろうけど、私はそうじゃない。
私は行かない。少なくとも今は行きたくない。
でも。
ここで、行かない。と即答しても納得してくれないのがまりなだ。
こういう時は苦悶に満ちた表情で熟考する振りをしなきゃいけない。
というわけで、むつかしい顔をして、うーん、と唸ってみた。
その間にも、まりなは餅米を丸めて、まな板に並べていった。一個一個丸めながら私の顔をちらちら見てた。
あんこを茹でた鍋が大分冷めてきた。
私はむつかしい顔で考える振りをしながら、丸まった餅米にあんこを一個一個のせていった。
「やっぱり、それは無理よ。私の身分では月から離れられない」
これまで何百回も繰り返してきた解答。
お前らに付いていったらなんか虚しいから、と本心を答えた事は一度も無い。
しょうがない。私は超見栄っ張りさんなのだ。
でも嘘でもない。私が月から居なくなったら、それはそれは大事になる。
事実として、私の意志と関係無く、私が月から離れるなんて事は到底不可能だ。
「どうにかなる」まりなはお米だらけの右手でガッツポーズした。
「どうやって」
「イチゴ歯磨きが地上で開発されるまで、まだまだまだまだ時間はあるもん。どうにかなる気がする」
まりなはお米だらけの左手でもガッツポーズした。
私は肩を竦めた。
まりなは、え、なんで肩すくめちゃうの? みたいに首を傾げた。まりなの頭の上で耳がくにゅっと横方向にお辞儀した。
結局のとこ。こいつは野ウサギさんで、私は籠の中の小鳥さんだ。
私は籠から出ることが出来ない。野ウサギさんにはその感覚がわからない。
このどうしようもなく、私を縛り、私を規定してしまう身分と。
身分が私を縛る感触。
私が生まれた時から持っていたこの感触が最初からこいつにはない。わかるわけがない。
ほんとに。
あんたには憧れちゃうよ。
何にも縛られない、イチゴ味歯磨きのために人を死なせまくるくらいフリーダムで、世の中の常識に囚われず、自分のためだけに生きる、こいつ。
私にもこいつほどのフリーダムさと常識跳躍力があれば今頃もう、お姫様なんかやめちゃって、やめちゃって、やめちゃって、やめちゃって……やめれるものなら、やめちゃってるかも、知れないのに。
それにそれに、こいつは。
永琳の本当の友達に成りたいと思っていた私の前に現れて、あっけなくそれに成っちゃった奴だ。
私が成りたいと思っていて、想像すら出来なかった理想の自分の姿、その答えの一つが、こいつだった。
私がずっと成りたいと思ってたものに、なんの努力もしないで最初からそれだった。
ずるいと思う。
ひどいずるだ。ずるすぎて、むかつく事すら出来ない。
気持良くなるくらいのずるだ。
だからかも知れないね。ねえ、まりな。
あんたが好きだよ。大好きな友だちだよ。私だって離ればなれになりたいわけじゃない。それは本当だって。
でもさ、だからってどうにも出来ない事だってあるでしょ。
「あら、カグヤが来てるのね」
玄関から廊下を通して永琳の声がした。帰ってきたようだ。ただいま、と続けて聞こえてきた。
「あ、えーりーん!」
まりなが黄色い声を上げてキッチンから廊下を駆けていった。
そしてお馴染みのまりながずっこける音がして。
「あらあら、お膝にばい菌が入ったら大変よ」と永琳のデレデレした甘ったるい声、「今すぐ消毒してあげるわ」
あとの事は廊下を覗かないでもわかる。永琳がまりなの膝をペロペロするだけだ。
十分とか十五分くらいそうやって唾液で消毒する。
予定調和的なスキンシップだ。
ちょっとそっち系が入っちゃってるスキンシップだ。
私は永琳の孤独を癒せる友だちになりたいとは願っていた。まりなが一つの理想だとは思ってた。
けど別に私はああいう事をしたいわけじゃない。
でも二人はああいうことをしていた。
理想と現実は違う。現実とは常に生臭いのだ。乾いてはいない。唾液がドロドロでヌルヌルでネチョネチョなのだ。
二人が膝をペロペロしたりされたりしてる間に、私はおはぎを居間の卓に持っていった。
お茶も淹れた。二人がペロペロを終えて来るのを待っていた。
ザ・蚊帳の外。
廊下からのまりなのくすぐったがる声が聞こえてくる。それに混じって庭から大勢の鳥の声もする。桜の木があるから、そこにとまって居るらしい。花は三ヶ月ほど前に散っていて枝はピンクじゃなくて、グリーン。その脇に植わってるあじさいの葉の上では、カタツムリがよじっているのが見える。部屋に吹き込んでくる風は湿っている。夕方あたりには雨が降りそうな気配もするけど、天気予報では降らないと言っていた。今年も夏は暑くなるそうで、また水不足になるそうだ。
まりなの声が一層大きくなってきた。
あ、あ、あああ~ん、とか言っちゃってる。
なんだか、聞いてるこっちがちょっと恥ずかしくなってくる。
あれは医療行為であって、なんらいやらしくありません! 唾液には殺菌作用があるんです! と思ってても。
お医者さんのライセンスがある人が怪我人を治療する。当然じゃないですか! と思ってても。
たぶん私のほっぺは今、ほんのり赤くなっちゃってる。
そして、こういう場面に遭遇するたびに思ってしまう。
私はやっぱり二人に付いて地上に行くなんて考えるべきじゃない。
蚊帳の外にいるのが私だ。永琳と対等な友だちに成れてないのが私だ。
永琳にペロペロしたいと思われてないのが私だ。まあ、ペロペロはともかくとしても。
そういう私が、寂しいから、とかいう理由で、付いていっちゃったら、いくらなんでも、ださい。虚しい。
そんな事は死んでもしたくない。でも月に一人で残るのも同じくらい嫌だ。出来るなら一緒に行きたい。
けど今の蚊帳の外的ポジションじゃダメだ。永琳にペロペロされるようなポジションは譲るとしてもこう。
なんつーかこう、まりなが寝静まった後に、永琳と二人でナイトガウンを着て暖炉の前でワインを傾けながら、壮大な計画の相談とかされちゃったり、『ねえカグヤ、実は今度、宇宙征服をしようと思うのだけど、自信が無いわ』とか言われたら私は、『任せて永琳、私のアドバイスに従えばお茶の子さいさいよ』とかそういうポジションになりたい。
あとたまに、『実はあの子と喧嘩しちゃったのよ』とか永琳がしなだれ掛かってきたりして、私は、『うふふ、寂しがりやさんね永琳はもうしょうがないんだから』とか言っちゃって、わりと大人チックに慰めてやれるような、そんな私。
つまり、もっとこう、ええと、うーん、つまりつまり。うんそうだ。
私は もっと永琳みたいに、きりっとして、しゃきっとして、あらあらうふふな感じになりたい。
それでいて、まりながまりなしか持っていない魅力のような。私にしかない魅力が欲しい。
ねえほら永琳、これが私よ、凄いでしょう? みたいな。思わず永琳がペロペロしたくなるような。
永琳とまりなを足して二倍したような、そういう私に成りたい。
そう成れれば、私も堂々と二人に付いていける気がする。マー君ワールドから綺麗さっぱり足洗って、何もかも捨てる覚悟が出来る気がする。
でも、どうやったら、私はそういう私に成れるのかな?
今の自分と最終目標の自分の間に距離が有りすぎて、その中間地点にあるはずの、理想に向かって進む自分の姿が見えてこない。
どういう自分になれば目標へ近づけるのか? 今、私は何をすれば目標に近づけるのか?
結局、私はそれがわかるまでは、お姫様をやるしかないのかも知れない。
少なくとも何もわからないまま、二人に付いていくよりは、お姫様をやってた方がまだ目標に近い気はする。
永琳がずっと一人で創造主なんてものをやっていたように、私は一人、月でお姫様をやるのだ。
何もわからない私は、せめて自分に与えられた役割くらいはこなせるようになればいい。
いずれ私が月を背負って立つ身になれば、永琳から壮大で子供じみた計画の相談をされたりするかも知れないし。
「こんにちわ。カグヤ」
私がぼーっと思いを巡らせているところで、二人が居間に入って来てた。永琳は私に挨拶したけれど、頬が紅潮している。膝ペロペロによる興奮がさめやらないと言った様子で、あまり第三者に見せるべき顔ではない。
でも私としては慣れっこで、今更気にしない。
気にしない。ようにはしてるんだけど、思ってしまう。
永琳にとって今の私ってなんなんだろ?
そんな事をついつい考えてしまう、のだけど。
私は非常によく訓練されたお姫様なのだった。
私はお澄まし笑顔で。
「ええ、お邪魔してるわ」くらいは平気で言っちゃう。
「ねえ、えーりん、かぐっちゃんとおはぎ作っといたんだよ。えーりんのために特性の具を色々入れておいたんだから」
まりなが永琳の左腕を引っ張って強引気味に座らせた。そしておはぎの一つを摘んで、「ほらえーりん、あーんして」と口に運んでやると、永琳は緩みきった表情で口を大きく開け、一口囓った。
「まあ、チョコレート入りね。おいしい」らしい。
あんこと餅米とチョコレートなんて、いまいちどんな取り合わせになるのか想像出来ないけど、永琳の顔を見る限りは不味くはないみたい。もっとも幸せ補正が利いてる分、表情はあまり当てにならないけども。
「かぐっちゃんも食べて食べて、かぐっちゃんの好きなメロン味もあるよ!」
良く見ると、あんこの隙間から緑色がはみ出してるいかにもメロン味っぽいものがある。いつの間に仕込んだのやら。
せっかくだから一番大きい緑色の奴を摘んでみた。
私にあーんしてくれる相手はこの場には居ない。自分で食べるしかない。一口でほおばってみた。
「んぐぅ!」と私は言った。
自分でどうしてそんな声を出すのかわからなかったけど、最初に口の中に感じたのは、おいしいとか不味いとかじゃなくて、圧倒的な違和感。思わず吐き出したくなったけれど、お姫様たる身、さすがにそんな下品な事は出来ない。
何が起こったのかわからなかったが。
んぐぅと言いながらもしっかり飲み込むと、鼻に来るものを感じた。
つーんとした。
つーんとした上で、食道と胃にまで焼けるような感覚を感じ、涙がぽろぽろと零れだした。
「あ!」とまりなが嬉しそうに言った。「かぐっちゃんそれ、たぶん外れだよー。わさび入りね」
という事らしい。
「まあこの子ったら悪戯さんなんだから、こんな事したらダメよ」とデレデレ永琳。「ほらカグヤが凄い顔してるじゃない。これをお見合い写真にしたらきっと一生結婚出来ないわね」あらあらうふふふふとか暢気に笑ってる。
けど。
私は畳の上をのたうち回ってた。わさびの量が半端じゃない。
てゆーか。私が食べたものは、明らかにわさび入りおはぎではなく。
おはぎの皮を被ったわさびの塊だった。
「ねえねえ、かぐっちゃん、そのわさびね。さっきすり下ろしたばかりの新鮮なやつだから、半端ないでしょ?」
まりなが顔を覗き込んで聞いてきた。むかついたけど、こんな悪戯にひっかかって腹を立てるのもしゃくだ。
余裕たっぷりに、『半端じゃないわねこれ』と言おうとしたけど、口の感覚はとうに無くなっていて喋れるわけがなかった。
「それね、実は入ってるのわさびだけじゃないんだよ。隠し味なんだかわかった?」
まりなは藻掻き苦しむ私を見下ろして楽しそうに笑ってる。
そりゃわさびで苦しむなんて、冗談になる苦しみではあるにせよ。今の私には笑って許せるほどの精神的な余裕は、無くなってきてるようで、兎野郎の胸ぐらをひっつかんでやった。胸ボタンがさらに二つ弾け飛んだ。半ぽろり状態だ。
「かぐっちゃんは、ブート・ジョロキアって知ってる?」
私はまりなの胸元をひっ掴みながら、ぶんぶんと首を横に振った。
「世界一辛い唐辛子でね。それ入れといたんだよね。どう、辛い?」
私はぶんぶんと首を縦に振った。涙と鼻水がぶんぶんと舞った。
「あらまあ、よっぽど辛いのねえ」うふふふふふと永琳がのどかに笑ってるのが、無性にむかついて、感情の赴くまま、まりなのほっぺたをビンタして、ヘルファイアーな状態の口と食道と胃をどうにかしようとお茶を飲んだら、熱いお茶は無謀だった。ヘルファイアーがウルトラグレートヘルファイアーになった。
あまりの苦痛に我を忘れ、卓をひっくり返し、畳を裏返し、障子を体当たりで突き破ったあげくに、桜の木に正拳突きからの回し蹴りサマソコンボを食らわせ、あじさいのカタツムリさんを空へ放り投げ、台所へ走った。
水を飲もうと思った。流しの蛇口に口をつけ、全開にしてみたけれど水が出てこない。
「今日は三時から断水よ。カグヤ」とおはぎとお茶を頭から被った永琳が追いかけてきて私に言った。
「丁度三分まえからだね」とまりながほっぺたをさすりながら続けた。「ぶつなんて酷いよ、かぐっちゃん」
怒りのやり場があるような無いような気がした。
とりあえず蛇口を捻り折り、二人に怒りの腹パンチを食らわせた後で、私は泣き叫びながら冷蔵庫に走った。
泣いて叫びながら、冷蔵庫の戸をむしり取るように、開放した。
麦茶くらいあんだろ、と思ったけど無かった。牛乳とかもなかった。ビールもない。ジュースもない。なんでなにもねえんだよとマジ切れして冷蔵庫に膝蹴りを食らわしたら、積み重なってた納豆のパックが崩れ、200㎜㍑入りのジュースパックが目に入った。
蓬莱の薬 ストロベリー味 果汁10%未満。
ふざんけんあ。
まじふざけんあ。
あんでこれしかのみもんねえんだよ。とさらに膝蹴りをしたら、納豆ががらがら崩れて、今度は茶色いパックが現れた。黄緑色のパックもだ。
蓬莱の薬 チョコレート味 カカオ10%未満。
蓬莱の薬 メロン味 果汁10%未満。
私は本能的に納豆パックをかき分け、握りつぶし、床におちた生卵を蹴散らし、納豆でねばねばする手でメロン味のパックを手に取った。ストローを突き刺した。苦しみから逃れたい、一心だった。今すぐにでも何か冷たい液体を口にふくめるならば、何がどうなってもいい。
けれど本当に?
ストローをくわえて自問自答。
これを飲んでしまえば。このタブーを冒せば月では暮らせなくなる。
そりゃ私にとっての月はマー君ワールドだけど、今、地上に落とされなんかしたら、どうするの?
永琳もまりなも一緒ですらない。こいつらはイチゴ味の歯磨きが開発されるまでは絶対に、地上に降りてこないだろうし、私一人だけで暮らすなんて、なにそれ?
そんなん無理無理つーか。でもなんつーかこれ、今すぐ冷たい物飲まないとたぶん私は死ぬ。いやまあ、わさびで死にはしないだろうけど、この衝動は抑えきれる気がしない。それこそ無理無理!
飲むしかない。畜生わさびめ!
いやなに、ちょっと待てよ私。
わさび?
わさびのせいで私は蓬莱の薬を飲む?
わさびのせいでタブーを冒す?
なんか、ださくね?
なんかすげえださいなそれ、ちょーだせえ。
これで飲んだら、明日からわさび姫とか言われんだろ絶対。歴史に残んだろそれ。歴史教科書とかに載るだろこれ。
カグヤ(わさび姫)とか教科書にカギ括弧で注釈つけられるだろ。教科書の隅っことかにあるおもしろ歴史豆知識コーナーみたいなとこに書かれんだろこれ。黒歴史って生やさしいレベルじゃねえぞ。やだよそれ。絶対やだ。
でも飲まなきゃ死ぬ。ぜってー死ぬとおもうこれ。蓬莱の薬を飲まざるを得ない。
でもわさびじゃダメ。なんかこう、もっと違うやむをえぬ事情がいい。
出来れば格好いい理由がいい。永琳みたいにキリっとして、まりなみたいにズバーンなのがいい。
こうしよう。私は自由な生き方に憧れ、自ら蓬莱の薬を飲むことによって、月という世界から決別の決意をしました。
あ、これなんとなくかっこよくね? うん、ヴィヴィットでいいかな? ちょいわる姫様みたいな? ていうかもうダメ、考えてる場合じゃない。今すぐなんか飲まないと死ぬ!
「わ、私はへつにわさびに負けてのむんじゃないあkらね!」
ろくに回らない舌で怒鳴り、ストローを唇で噛んで、パックを握りつぶすように一気に飲み込んだ。
濃厚な味がした。普通のジュースとひと味違う。
奇妙な口触りで、喉から直接体の隅々まで清涼感が染み渡っていくみたいだった。
途端に口と喉と胃が焼けるみたいだった苦痛が和らいで、あっという間に消えた。これも薬の効果なんだろうか。
「かぐっちゃん……?」まりなが呆然と座ったまま私を見てた。
「カグヤ……それは」永琳もわなわなと体を震わせていた。
永琳にそこまで強い腹パンチをした覚えはない。せいぜいちょっと、ふぐぅっとなってへたり込む程度の威力のはずで、精神的にわなわなしてしまうほどのダメージを与える物じゃない。
私が薬を飲んでしまったからだ。
いざ我が身から辛味が去ってみると、永琳の表情が意味するところの事の深刻さが、ずずんと心にのし掛かってきた。
私は間違いなく。
この月という世界でもっともしてはいけない事を、してはいけない立場で、してはいけない理由で、した。
「ふう。すっきりした。おいしいわねこれ。もっと飲みたいわ」
どうしていいかわからなかったから、習慣に従って虚勢を張ってみた。
爽やかな笑顔をしてみた。スポーツドリンクのCMに使えそうなほどのだ。
でもだった。
強引に顔の筋肉を歪めて作った私の笑顔はそんなに痛々しかったのか、永琳から顔を背けられてしまった。
永琳はそのままがっくりと項垂れた。彼女の銀髪が柳のように床へとたれた。
私は永琳が項垂れている横を、とぼとぼ歩いて流しに向かった。
手を洗おうと思った。
手がねばねばしてた。
納豆でだ。
けれど、水道から水は出なかった。そういえば断水だっけ、と思い出して、生卵で汚れた靴下だけ脱いで、縁側まで行って、体育座りした。
精神的に体育座りをしたい気分だった。
俯いて体育座りをしたい気分だった。
人生にはそういう瞬間もある。それが今だった。
鳥の声が相変わらず桜の木から聞こえた。
ぴよぴよと鳴いていた。
お空は青くて雲は無かった。
馬鹿みたいに晴れてた。
遠くから豆腐屋のラッパの音がして、近所から野球中継のアナウンスが聞こえ、ホームランを打ったと喚いていて、誰かの笑い声も聞こえる。案外近くで誰かが笑ってる。自分の肩が揺すられてる。まりなと永琳が私の肩を揺すってた。笑い声が近くから聞こえる。それもそのはずで、笑ってたのは自分だ。ひたすら、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、と私は笑ってた。空を見上げて笑っていた。
ええとなんだっけ、確か蓬莱の薬を飲むと、なんか特別な刑罰があったなあ。
確かそうそう、地上の竹の中に黄金に光らされて閉じこめられる? あははははははははははは。
「じゃ、ちょっと竹ん中入ってくるわ」と私は立ち上がった。「あはははははは。たまに会いに来てよ。わあ竹入りミニかぐっちゃん、今日も良く黄金に光ってるねえとかつってさ」
「待ちなさい輝夜」永琳が私の腕を掴んだ。いやにシリアスな顔してる。そりゃまあ、ゲラゲラ笑ってたりしたら嫌だけどさ。まあ薬飲んだって月で暮らせなくなるだけじゃん。飽き飽きしてたマー君ワールドだし、まだ見ぬ未知の世界へ無敵モードでGOってのも楽しそうだ。
うん。大したことない。
大したことない。
ぜんっぜん平気だし。
「何よ永琳。私のポカなんだから、別にあなたが気にする必要ない。こうでもしないと、ずっと王宮暮らしだもの、丁度良かったわ」
とか言った私の声はえらく震えていた。両手も震えていた。
私はとんでもなく不安でしょうがないらしい。
ぜんっぜん平気じゃない。
私ってば哀れなほどに見栄っ張りさん。
「かぐっちゃん、なんか、なんかごめんね」
まりなは泣き出しそうだ。
「い、いいのよ、まりな、やってしまった事はもう仕方ないもの。今はむしろ、わくわくしてるんだから私」
とか言っても脚まで震えて来ちゃってるし。
ああ、私。どーなっちゃうんだろ。
裁判とかやるんだろうなあ。法律とかあんまわかんねーけど、蓬莱の薬なんか飲んだら、もうどうにもならないって事だけはわかる。確実に地上へ落とされる。それ以外に判決は有り得ない。
一人で地上なんかに行って、わたしゃあ、どーすりゃいいってのよ?
ていうか裁判になったら、飲んだ理由とか訊かれんだろうなあ。わさびのせいで飲みましたとか言うの?
いや言えねえだろ、どう考えても。
うん。まじで、薬飲んだ事、他人にどう説明すりゃいいの?
あれ。なんだろ、なんか涙さんが出ちゃってるし。ぽろぽろ。
なんか私ちょっと泣いちゃってるし。
泣くことないじゃん。これくらいどうってことないじゃん。ねえ?
「かぐっちゃん! 私がすり下ろしわさびとブート・ジョロキア入れたばっかりに……飲ませちゃってごめんね!」
「わ、わさびのせいじゃないわよ! 勘違いしないでよね。その、なんというか……ちょっと飲んでみたかったっていうか、お茶目な好奇心というか、あの、なんていうかさ、そういう事にしておいて貰えないかなっていうかね。わかるでしょ、まりな? 裁判で証人とかで呼び出されるだろうけど、わさびだけは無しの方向でお願いしたいかなって」
「うん。良くわからないけど、わかったよかぐっちゃん。でも、でもね。泣かないでかぐっちゃん。かぐっちゃんが地上に行っても、ずっと友達だよ!」
まりなが抱きついてきて泣き出してしまった。これだからこいつは憎む事ができない。
けどやっぱ、むかつく気はする。
まりなを抱きしめ返えして、両手にべったりついた納豆を糞長い髪と耳になすりつけてやった。
「そうだ、かぐっちゃん。そうだよね。これでかぐっちゃんも地上に行けるんだから、本当は良かったのかな?」
そりゃね。何もかも捨てて自由になれればと、考える事もあったのは事実だよ。
でもあんたら二人に付いて行かないのには、理由だってあった。
けれど私はもう、地上に行くしかないん、だよね。
「うん……そうね。こうなったらもう、まりなみたいに前向きに考えるしかないかな。ね、まりな」
と言いながら耳の穴に納豆を詰め込んでやった。こいつ泣きまくってるけど、もっと泣きたいのはこっちだ。
まじで。私どーすりゃいいってのよ? 一人で地上なんて。
「でもかぐっちゃんだけ行っちゃうなんてやだよ。イチゴ味歯磨きが発明されてから三人一緒じゃなきゃやだよ!」
お前のせいだよ、イチゴ味の歯磨きなんてどうでもいいから、せめて今すぐお前も薬飲んで私と一緒に地上に落ちろよこの胸ボタン四つロスト半ぽろエロバニー野郎って言いたいけどしょうがない。
こいつには何も悪気はないし、これが私の大好きなまりなって奴だ。
でもやっぱむかつく、納豆まみれの耳を蝶々結びしてやった。
「どう言って良いかわからない」と、永琳だった。
さすがと言うべきか永琳は、もう慌てても居なければ取り乱しても居ない。まりなの耳を蝶々結びする私を、冷静な顔でじっと見詰めていた。最善の事後処理を異次元性能の脳みそで考えているんだと思う。
「絶対に約束するわ。カグヤがどんな状況に立たされようと。私はあなたの味方よ。罪滅ぼしなんて言えばおこがましいけれど。裁判でも出来るだけ力になるから」
「ま。お先に地上に行ってるわよ。来るんでしょ。そのうち。永琳たちもさ」
精一杯の強がり。
体の震えだって止めてみせた。涙だって止めた。自分でも信じられないくらい、あっけらかんと笑ってもみせた。
でもそんな作り笑顔も、永琳には通じない。私の狼狽しまくった心なんか、お見通しすぎたらしい。
永琳の両手で、私の納豆まみれの右手が握られてしまった。強く強く。
「大丈夫よカグヤ。私がどうにかするから、悲観しないで」
ああ。
誰よりも私を深く理解してくれているのがこの永琳だ。
永琳とまりなが地上に行くことに、私が抵抗を感じているのも永琳は気づいていたし、それを止めろと言えない私の性格も知っていたし、月に一人で残るべき私の立場も誰よりもわかっていたし。
薬を飲んでしまった今の時点でも、月に残ることを望んでしまう私という小心者のださい自意識も理解されてしまっている。
「かぐっちゃん」
まりなも私の左手を握った。ぎゅーっと握られた。蝶々結びの耳が納豆の糸を引いている。
「私もかぐっちゃんのためにがんばる。絶対に一人でなんか行かせないからね!」
まったく、これだから、まりなは。
うん。でもね。こんな馬鹿みたいな状況だけど、一つだけ確かに言えることがある。
私がどこに行こうと、この二人だけは絶対に、どこまでも私の事を考えてくれる大切な友だち。
「そうね。まりな、永琳、もし離ればなれになっても、再会した時には、必ず、こうしてまたお茶をしましょう。三人で。うん……きっと……。ただし、絶対にわさびは抜きの方向で」
私たちはそれぞれの顔を見合わせ、胸の前で手を握り直した。納豆がねばねばして、それが摺り合わされ、さらにネバネバが強くなり、白い糸がどこまでもどこまでも、ネバネバと、長く長く、ネバネバと。それはまるでけしてネバネバと切れはしない、永久に続くであろうネバネバな私たち三人の絆のようだった。
前向きに考えるしかない。
確かにね。言うのは簡単だ。
でもね。私は見栄を張るのは得意だけど、タフじゃない。
永琳の自宅から出てから、おうちに帰るまでの僅かな時間の間に、私の気持ちは180度真後ろを向いていた。
薬を飲んだ言い訳を考えなければと思ったけど、そんな事に頭を回す余裕もない。
両親に泣きつきたい気分だった。わさび食べて蓬莱飲んじゃったって、両親に大声で言いたかった。
私が月に残ることを誰よりも望んでくれるのは、両親のはずだった。
私が薬を飲んだことを誰よりも一緒に悲しんでくれるのは、両親のはずだった。
私のこれまでの生活を全て肯定してくれるのは、両親のはずだった。
ちっちゃな子供みたいに、母や、特に父に抱きついて、わーんわーん泣きたかった。
そして。
めっさヘビィな気分で、おうちに帰ったら、逆に泣かれた。
母に泣かれた。私が身に纏ってしまった禍々しいまでの穢れを感じたらしい。
母は私を見た瞬間に悲鳴を上げ、泣き出した。
私だって泣きたかった。だから母に泣きつこうと近づいたら、母は私が手を触れる前に失神してしまった。
薬を飲んだことを説明する事すら出来なかった。
私の気分はヘビーを通り越して鬱になった。
父からの扱いはもっと悲惨だ。
私は半泣きで父に抱きつこうとしたのだけど。彼は失神した母を見てひどく取り乱していた。私をいきなり殴った。
私はほっぺたをひっぱたかれた衝撃で宙に打ち上げられた。
さらに空中で錐もみ状態になってる私へ、父はジャンプで追撃してきて十三連続で往復ビンタを続けた。
14HIT 3570ダメージだった。
みんな見て! 実の娘に問答無用で3k越えコンボを叩き込む酷い親がここに居ます! と叫びたかった。
私だって蓬莱の薬を飲みたくて飲んだんじゃない。
飲んだ理由くらい聞いてくれたっていいのにと思うと。
大泣きしちゃった。頭に来た。滅茶苦茶にしてやる。私の人生全部が滅茶苦茶だ。全部ひっくり返してしまえ。
私は父へ向かって突進し、飛びつき腕ひしぎ十時固めと見せかけたフェイントで、三角締めを決めてやった。
マー君ワールドで日々鍛え上げられた私の護身術は、そんじょそこらのグラップラーの比ではない。
生まれながらのプロのお姫様とは、達人級バーリトゥードファイターであるのだ。
しかし父もまたマー君ワールドの先輩である。ものっそ強い。たまに一緒にお風呂入る時に見る背筋は鬼の顔だ。
そんなわけで私の三角締めも易々と解かれてしまい、私たちの親子ファイトは第三ラウンドまで長引いた。私も父も自分たちがなんで戦っているのか、さっぱりわからなかっていなかったと思う。
ただ感情にまかせて行動することで、自分たちが置かれた状況から目を背けたかったのかもしれない。
結局、私たちのファイトは延長戦を経て判定に持ち込まれるかと思われたが、第四ラウンドの途中で衛兵に取り押さえられてしまった。
私はガチムチの衛兵二人に羽交い締めにされながら叫んだ。
「私だって、今までずっとここでの生活を我慢してきた。パパが言うとおりにしてきた。これからだってそうしたいと思ってたのに。なんでよ! なんでいきなり殴ったの。なんで何も聞いてくれないの?」
けれど。
とてもじゃないけど、父は私の問いに答えられる状態じゃなかった。
彼は母の二千五百倍、私の五千倍は取り乱していた。衛兵が十人がかりで取り押さえようとしてもダメで、百人来てもダメで、軍隊が出動してもダメで。父は疲労で自然に倒れるまで三日三晩、暴れていた。
蓬莱の薬を飲んだ私という存在を、父は三日三晩暴れるほど、受け入れたくなかったと言うことだ。
一番話しを聞いてもらいたかった人に。一番わかって貰いたかった人に。
私という存在を完全に拒否されてしまっていた。
私は父を憎むしかなかった。
もう親だと思うもんか。大嫌いだ。
裁判までの幽閉生活が始まった。
私は高っかい塔のてっぺんにあるスイートルームに閉じこめられた。
都が一望できた。360度の大パノラマ。ザ・マー君ワールド。この世界に私は閉じこめられているのだ。
そんな事を思った。
極限まで鬱だった。鬱になりすぎて、心の中のタコメーターが振りきったような気がした。
笑うしかないとか、そーゆうフィーリングになっちゃって、私は一人で歌ったりした。
カグヤちゃんソングを三十五番くらいまで作詞作曲して、エア・ベースを掻き鳴らしながら一人で熱唱した。
何故弾き語りなのに、ギターではなくベースなのか? なんとなくだ。特に意味はない。
誰も会いに来なかった。永琳もまりなも面会は許されないらしい。
日に三度の食事と、午前と午後二回の間食。終わりのない熱唱、ソロリサイタル。
それ以外は何もない。シンガーソングぺんぺん草のような生活。
でも、ぺんぺん草には、蓬莱の薬を飲んだ理由を考えることは出来ない。
私はカグヤちゃんソングに合わせて歌いながら考えていた。
私が何故、薬を飲んだのか~♪
わさびを食ったからだ~♪ それは間違いないぜー、まごう事なき真実だ~♪ たった一つの現実なんだよー♪
だがそんな事は死んでも他人の前では言えないんだぜえ。ださすぎるぅう! チェゲラッちょボンバィエ!
とまあ、歌ってた。
薬を飲んだ理由は確実に裁判での焦点になる。絶対に証言しなければならない。
どうしても薬を飲んだ偽物の理由が必要だった。
裁判のためだけじゃない。父にも母にも本当の理由は、もう言いたくない。
むしろあの二人を、叩きのめせるような、そんな理由を考えていた。
あの二人は私を幽閉させてからというもの顔さえ見せていない。
私を問答無用でぶん殴った父が憎くてしょうがない。
私にお姫様という人生を初めて目に見える形で強制したのもあいつだ。
マー君物語なんてものを書き始める切っ掛けになった、初めて父から殴られた時の事は今でも夢に見る。
あいつが私に科した私の今までの人生を、全部ひっくり返すような、ぶちこわすような、そんな理由が良い。
もっとも私がどんな理由であれ薬を飲んだ時点で、あいつが私に望んでいた人生は、粉々になった。だからこそ、あいつは私を問答無用で殴ったんだろうけど。
ならば、もっとだ。
もっと私を殴りたくなるくらい、滅茶苦茶に悔しがらせてやりたい、怒らせてやりたい、嘆かせてやりたい。
あいつを絶望の淵に叩き落とすような薬を飲んだ理由を、宮廷法廷という月でもっとも権威のある場所で、あいつに真っ向からぶつけてやりたい。
どうせなら、それでいて、なんつーかこう、格好いい感じの理由がいい。
私が薬を飲む直前に考えてたみたいな。自分の人生で何が一番大事なのか目覚め、自由を求めてとかみたいな、永琳的で、まりな的っぽい、そういうのがいい。
私は考えた。
考えに考えに、考えて。
考えた。
そうして出来上がった薬を飲んだ理由は、ちぐはぐの積み木のようだった。
私の中にあった有りったけの材料でこしらえた、いびつな塔みたいだった。
私の中に溜まっていた、うっぷんや、将来への期待、不安、日々のストレス、戸惑い、怒り、憎しみ。
そういったものの寄せ集めだ。
とても不安定で、不完全に見えた。
けれども、全部が私の中にあった材料で作られた物だ。
私が薬を飲んだ理由としては、嘘、だけど、私の生きている状況にとっては全部が真実だった。
法廷で語ろう決めた“薬を飲もうとした私”は、間違いなく、今の私ではない私の、そうであったかも知れない姿だった。
永琳のように理知的に自分の価値観をどこまで肯定し、まりなのようにフリーダムでアクティブな、そういう私。
そんな自分の姿はずっと探していた何かに似ていた。
そうだ。
永琳+まりなを二倍したような自分という遠い目標に向かって、真っ直ぐ進んでいく私の姿。
未来の目標と、今の私を繋ぐための、中間地点の私の姿。私がずっと探していた自分の姿だった。
私は嘘を作り上げようとして、本当に求めていた理想の自分のあり方を、蓬莱の薬を飲むという具体的な行動をする自分として、初めて見つけてしまったのだった。
どうせ、地上に落とされるんだ。とことんやってやる。私が今まで出来なかった理想の私を、とことんやってやる。
私を縛ってきた全部をひっくり返して、全部をぶっ壊して、全部を滅茶苦茶にしてやる。
とことんその①
裁判までの三日間でマー君物語を完結させようと思った。
やたらハイになって書きまくった。完成させた。
実に原稿用紙、八億八千万とんで八百八十八枚。
読むのに何十年掛かるだろう? それとも何百年?
誰が読むの? 誰も読まない。
もとより誰かに読ませるつもりも、自分で読むつもりもない。
とことんその②
裁判の前日だ。マー君物語の原稿を格子のはまった窓から、都に向けて投げ捨てた。ばらまいた。
風に舞った。
八億の原稿が巨大都市の空を覆った。八億の白い鳩が飛んでいるみたいだった。
ばらまいた。ひたすらばらまいた。笑いながら、ばらまいた。
八億八千万枚までぶちまけたところで、父が部屋にやって来た。
私が気が狂ったんじゃないか心配になったんだと思う。そーゆう顔して来た。
残りの八百八十八枚を彼の髭面に投げつけてやった。
「ほら見てよパパ。私の今日までの人生、全部ぶちまけてやったわ。どうして私の話を聞いてくれなかったのよ!」
父の顔を見た瞬間から、涙が出そうだった。殴ってやろうと思ってもダメだった。
憎んでいるはずだったのに、拳を握りしめるよりも早く、涙がにじんできちゃった。
でもこんな風に啖呵切った時、たぶん永琳もまりなも泣いたりしない。
だから我慢した。
父もだ。泣きたいのを我慢してるみたいな、苦しそうな表情。
私もこういう顔してるんだろうなって思った。
父は一言だけ。
「許してくれカグヤ……」と言った。
「何を許せって言うの。今までずっと、パパと同じように生きてきた。パパみたいに生きるしかないって思ってきた。だからそうしてきたのに!」
だからそうして来たのに、もうこの間までと同じ生活は出来ない。
私たちの何もかもが変わってしまった。
「カグヤ」
父はもう一度私の名を呼んで、かぶりを振ってしまった。
「お前を弾劾などしたくない。私はどうすればいい、お前をどうすればいいんだ。地上に落とすなど……どうしろと」
月を統べる者としての彼にとって、私はタブーを冒した罰するべき後継者。
でも一人の父親としての彼にとって、私はただ一人の娘。
私は毎日、肩たたきをしてあげてたし、一緒に護身術のトレーニングしてたし。父の日には手作りのプレゼントを上げたし、誕生日の祝賀会ではステージでかわいい衣装を着てハッピーバースデートゥーユーを生で歌ってあげたし、バレンタインデーにも特大のチョコレートをあげてたし、たまにお風呂で背中を流してあげたりもした。
でも私にとって目の前のこいつは、今は憎むべき相手だ。
憎むべき相手のはずなのに。
「もう絶対、肩叩きしてあげないし、トレーニングも間違った振りして本気で絞め落としちゃうし、父の日にも百円ショップの雨が降ったら色がワイシャツに移るようなネクタイをプレゼントしてやるし、ハッピーバースデートゥーユーも録音口ぱくで済ませてやる! バレンタインには五円チョコよ! お風呂なんかだって一緒に入らないからね!」
もう、そんな事すらこれからは出来ない。
と思うと。
怒鳴ってる間に涙が溢れて来ちゃった。
それが悔しくて悔しくて悔しくて。
私は父の顔面にドロップキックして廊下へと吹き飛ばし、ドアを閉め、家具という家具でバリケードを作って塞いだ。
父はドアを叩いて私に謝っていた。
「許してくれカグヤ! 私はお前に酷い事をした。開けてくれカグヤ。ちゃんと謝らせてくれ。頼む、許してほしいんだ。なんなら肩叩きはこれからは毎日じゃなくて一日おきでもいいから! トレーニングでお前に本気で絞められるのも私は結構好きだからそうしてくれて構わない……だが父の日にはお手伝い券くらいはおまけでくれないか? お前のハッピーバースデートゥーユーが無ければ私の一年が始まらないんだ。生歌がダメなら最高品質のスタジオを借りてやるから、そこで録ったDAWデータを直接私にくれ。あとでリミックスして愛でる。バレンタインデーにはせめてチロルチョコを頼む。知ってるかカグヤ、あれいつの間にか十円じゃなくて二十円になってるんだぞ? しかもちょっと大きくなってるんだ。しかし、しかしだ! そんな事はどうでもいい、どうでもいいんだ。そんな事は些細だ。今はそんな事を言っている場合じゃない。私にだって絶対に譲れない事がある。良く聞けカグヤ。一緒にお風呂だけは何があっても譲らんぞ、絶対にだ!」
父の懇願を完全に無視した。
私は涙をぼろぼろと床に落っことしながら、部屋に散らばった八百八十八枚を、ぐしゃぐしゃにして集めて、窓から捨てた。
そして。
とことんその③
裁判がやってきた。
まさにやってきたという感じで、如何ともし難い現実ってもんが、ずごおおおおって迫ってき。
ぱっくり私を包み込んだ。
私は蓬莱の薬を飲んだ理由を証言するように求められて最初に、「メロン色でおいしそうだったからです」と答えた。
昨日、泣いちゃったのが悔しかったから、ちょっくら世間様って奴をおちょくってやろうと思った。
それ以外の意味はない。私はフリーダムな奴なのだ。
でもメロン色なんて小洒落た解答で、皆が納得するほど世間は甘くない。
世の中は大概、不条理だが、人は不条理という厳然とした現実よりも、整合性という儚い理想を求めるものだ。
やはり真の理由を私が明らかにする事が求められていて。
私は一つ咳払いをした。
静まりかえった法廷に、こほん、と響くと人々の顔が一様に緊張した。
裁判長も弁護人も検事も書記も、貴賓席の父と母と、傍聴人席の有象無象の王族たちも。皆表情を引き締めた。
「私は常々、この世界に疑問と不満を感じていました」
と私は言った。
「この世界とはつまり、月の都の事ですか?」
裁判長が聞き返してきた。これから私が何を言い出すのか戦々恐々といった風に、眼鏡の奥の目を丸くしてだ。
何しろ私はさっき、メロン色だから飲んだ、と巫山戯た事を言ったばかりだ。
「ええ、月の都を中心とした全ての物事です。裁判長殿」
「わかりました……どうぞお続けください」
私は父に顔を向けた。
父はオフィシャルな場相応のいかめしい顔をして、どっしり構えて椅子に深く座っていた。この世でもっとも崇高な民の長らしい威厳溢れる風体、と他人なら言うと思う。私と目が合うと父はそんな威圧感を込めた視線で見返してきた。
今からあの余裕ぶった面を、しっちゃかめっちゃかに歪ませてやるのだと思うと、わくわくする。
私はにやりと笑ってみせ、父から目を逸らし、前に向き直り。
息を大きく吸い込んだ。
全力で怒りを吐き出さなければならない。これまでの私を閉じこめていたものを、全てぶっ壊すために。
月の姫なんて立場が絶対に言ってはいけないことを、この場で、ありったけの声で全部言ってやる。
月の王の一人娘がろくでもない不良姫だって、この場で知らしめてやる。
見ててよパパ、あんたが私にやらせてきた全部の結果を見せてあげるから!
「我慢ならない!」
絶叫だった。
裁判長の顔が引きつった。
検事の手からペンが落ちた。
弁護人の顔から血の気が引いた。
「この月という世界は私にとって牢獄だ! 今の私の生活は、拷問に等しい! 何故、私はこの牢獄に閉じこめられ、永久に終わらない拷問を受け続けなければならないのでしょうか? 私が月の姫という立場に生まれたから? たったそれだけの理由で? 私の人生とはいったいなんですか? どなたか教えていただきたい。私はなんのために生まれてきたのか、誰か答えられますか。私は一生苦しむために生まれてきたのですか?」
両親へ視線を向けた。二人とも呆然と、ただ私を見詰めていた。
「私の生活はあまりに馬鹿らしかった。否定したい。私と言う者を否定したい。私の身分も立場も一切否定したい!」
裁判長の顔が泣き出す寸前の幼児のように歪んでいる。
弁護人は放心して天井を見詰めたまま死んでしまったようにぴくりとも動かない。
検事はメモするために操っていたペンを何度も床に落としてしまっている。
母は泣き出した。
父は怒りを感じる暇も無かったらしい。もはやガスの抜けたアドバルーンみたいにしなびてしまっている。
私は。
私は愉快だった。
これまで私を縛ってきた全ての物事を、キリッとシャキーンとひっくり返してやっている。
私は、あらゆる常識や伝統や慣習を軽々ぴょーんと飛び越えようとしている。
「全てをひっくり返したかった。私という存在を、身分を、人生をゼロにしたかった。ならば今までの私の全てを、もっともわかりやすく、簡潔に完璧に否定してみせよう、月という世界で、月の民という存在の、月の姫が、もっともしてはいけない事をしてみせる。だから飲んだ。だから私は蓬莱の薬を飲んだ!」
途端に法廷全体がざわつきだした。当然だ。
王族が窮屈な生活を迫られるなんて、当たり前の事。誰もが受け入れる運命であって、私のように我が儘で否定するべき事ではない。ましてや月の後継者である私が、それを投げ出すなどと口にする事は、絶対にあってはいけない事だ。
愉快だ。
たかが私の我が儘一つで、全部を台無しにしてやった。
父に借りを返してやった。利子を付けて、泥と一緒に投げ返してやった。ぶちまけてやった。
母の泣き声が延々と聞こえてくる。
父に顔を向けてみた。私はたぶん今、勝ち誇った表情をしていると思う。父はその逆だ。いい気味だ。うろたえきっている。立ち上がろうとしてる、でも席から立ち上がるのに、父は背もたれを腕で支えなければならなかった。
父は私に声を上げようと口を開いたけれども、言葉はすぐに出てこなかった。痴呆症の老人みたいに、何度も口をまごまごさせ言葉を反芻して、やっと父は言った。
「何故だ。何故だカグヤ。何故いまさらそのような事を……私は、私はお前をどう理解すればいい?」
「私を理解なさる必要はありません父上。これは私の人生です。月の後継者に成り、他人の幸福などを守ってやらなければならない道理はない。たった一度のこの私の生に、誰が、どうして、何を、強制することができるというのです?」
私は父を指さした。
「だがあなたは強制した。それは責めない、あなたの当然の義務でしょう。私を殴りつけるのは正しい。なんなら、また私を殴ればいい。殴ってください。何回でも。でも断言出来る。何度殴られようと私の意志は変わらない。むしろ! 私はあなたに初めて殴られた時に、今日の今、私がこうして喋っている事を全て言うべきだった。私は憂鬱の沼の中に居る事を受け入れるべきではなかった。例えあなたに殺されようと、私はあたなに言うべきだった。あなたの子として生まれたのが間違いだった。私は自分を否定する。私は――」
「頼むから、頼むから!」父が私の言葉を遮った。両目に涙が溜まっている。「そんな事を……そんな事を言わないでくれカグヤ。お前は私の娘だ」
私は腹の底から叫んだ。「私は月の姫である事もあなたの子であることもやめる!」
父が絶句した。
傍聴人たちが立ち上がり、騒ぎ出した。一様に私へ非難を浴びせかけてきている。
静粛に! 裁判長が木槌を打った。
父はさらに何か言おうとしていたけれど、言葉が完全に失われてしまったように、口を開いても声は出せず、力つきたように座り込んでしまった。頭を抱えて項垂れた。
私は満面の笑みを作り、手元の水を一杯飲んだ。
再び法廷は静まりかえっている。母のすすり泣く声だけが残った。
「では……姫様、今のあなた様のお言葉に、何か訂正なさる箇所や言い足したい事はありませんか?」
裁判長は私が言ったことを取り消してほしいと言いたいのだと思う。
「何一つ訂正する言葉はありません。今現在の発言は、私自身の嘘偽り無い心、ただ一つの、もっとも純粋な良心に従ったものです」
「しかし、姫様、ただこの現実が信じがたいのです。ともかく信じがたいのです。前代未聞なのです。私だけではない。この場にいる全員がそうなのです。おわかりになられますでしょう?」
「ならば、証人の召喚をお認め下さい。私が蓬莱の薬を飲んだ時に一緒にいた、私の師と彼女の玉兎です。私の当時の行動が、私が自由を求める心からであったと、彼女らが証明してくれるはずです。尚、やもすれば今後、彼女らが王宮を混乱させるために私をけしかけたなどと、よからぬ風説もまかり通ってしまうかも知れません。この状況を鑑みて、今事件の全責任が私一身にあることを証明するためにも、彼女らの証言を、月でもっとも権威あるこの場で、是非、認めていただきたい」
当然。証人召喚は認められた。
しばらくして法廷の扉が開かれ、永琳が廷使に導かれて証言台へ上がった。
威風堂々、自信満々、冷静沈着。永琳の佇まいと表情はそれ。
彼女は被告席の私に、不敵に笑って見せた。なんとかしてみせるから、安心していなさい、とでも言うように。
それから始まったのは永琳による三時間に及ぶ大演説だ。
テーマは月の都の未来性と、私の取った行動の関連と可能性の考察。
つまり永琳の演説は、私の先の発言に対する弁護という事になるが。それに対抗するべき検事は最初から永琳を相手に立ち回るのは諦めていたらしく、ペン回しをして遊んでいた。
何しろ永琳は、うさたんを自分でレンジでチンしたくせに、訴訟を起こし大勝利したという伝説がある。さらにその後の諸企業などに対する裁判では四百万戦無敗の大記録をうち立てた。
法廷という場で永琳に対立してしまえば、明らかに誤った使用法をされたキュウリやバナナでさえも責任を追及され、けして逃れることはできない。そんな風にどの訴訟においても、あまりにも理路整然と荒唐無稽な判決が自然に導き出されてしまうために、永琳が関わった裁判は判例として扱われないのが、月の法政会の常識にさえなっている。
いわば永琳は法政会におけるジョーカーであり。裁判所は永琳無双の場であり。私は宇宙最強の弁護人を得たわけで。
本物の弁護人はといえば、先ほどまでの心肺停止的面持ちから回復し、今や両腕でガッツポーズしていた。
なんという頼りない奴だけど、永琳と比べてしまうのは可哀想というものだ。
事実、今日の永琳の論法も芸術的の一言に尽きる。私がこの場でぶち壊したモノゴトの残骸や破片を、一つ一つ組み立てて、元通りに修理するのではなく、見たこともない新しい美術品を作り上げてしまうような、そんな奇跡のような演説だった。
まさに言論のアートだったのだ。
結果として私は秩序と伝統の破壊者から転じて、新たな時代の創成者のように語られてしまった。
あれよあれよと話しが進むものだから、私が口を挟む間もない。
気づけば、私というヤツは永琳の演説によって超かっこいいヤツにされてしまっていた。
それは自分でも惚れ惚れしちゃう私の姿だった。
きりっとして、しゃきっとして、あらあらうふふしてて、さらに私にしか無い魅力を持ち合わせた私だった。
妄想の中でしか見たことのない、私の目標たる私の姿だった。永琳から宇宙征服のアドバイスを求められてそうな私だった。永琳が人肌恋しい夜に寄り添って優しく温めてやれるような、私だった。
のだけど。
演説は長すぎた。演説二時間目には16%程度の傍聴人が寝ていた。
真っ先に寝てたのは母だ。泣き疲れてたらしい。次にいびきをかきだしたのは父だ。
私もうつらうつらと首を支えるのが辛く、三時間目に突入する前後には寝ていたが、誰にも起こされなかった。
親子三人揃ってたぶん人生において一番大事な局面で寝ていたことになるが、しょうがない。血は争えない。
目が覚めたのは、永琳が直接私に声を掛けてきたからだ。
「みんな、あなたの行動を理解してくれたわ。きっと罪は問われない。希望をもってカグヤ」
と永琳は退廷していった。
寝ていたから話の流れの後半はわからなかったが、裁判長と検事と弁護人と、傍聴人と、母と父が私を見る目は、明らかに変わっていた。
皆が私に向ける眼差しは、禁忌をいたずらに冒す不良姫へ向けるそれではなく、新たな時代に相応しいパイオニア的プリンセスっぽいそれな感じになっていた。どうやら母も父も途中から永琳に起こされて、さんざん説得されたらしい。
永琳に不可能はない。私が薬を飲んだ時に、永琳は、『何とかする』とか言ってたけど、ほんとになんとかしちゃってた。
なんともならなそうな事をなんとかする才能、それがきっと天才という単語の第二の定義だ。
改めて、永琳すげえな、と思った。
続いてまりなの召喚、となる予定だったが、さすがに皆疲れている。一時休廷となった。
退廷するときに、父ともう一度目があった。私を見る目は変わっていたけれど、やはりその瞳には言い知れない切なさの光があった。
なんとなく、ごめんなさい、と謝りたくなった。
けれど、私は何も言えなかった。父も何か言いたそうにしていたけど、言わなかった。
血は争えない。私たちはとっても見栄っ張りなのだ。オフィシャルな場では素直になれない。
だから私は心の中だけで、ごめんなさい、と呟いた。
被告人控え室で一人、窓から海を眺めた。
波は極端に穏やかで、初夏の空を映してどこまでも水色だった。
地上の海には沢山の生き物が居て、浜辺には海鳥も見えるらしいけれど、月の海には生き物が居ない。鳥も見えない。
波の音が微かに聞こえてくる。
一週間後、一ヶ月後、私はこの音を地上で聞くことになるのか、それともまた月の浜辺で聞くことができるのか。
そんな事を考えた。
永琳は私の罪が許されると言っていた。
けれどもだ。
私はどうするべきなんだろう?
罪が許されたら、その後どうすればいい?
あんな事散々言ったあとじゃ、お姫様なんて続けられるわけがない。
なんだかんだ喚いてたけど、結局お姫様に戻っちゃいましたー、なんてそんなダサイことできるわけない。
たぶん、さっきの演説の後半とかで、私がこれからどうすればいいかとかも永琳は言ってたんだろうけど、私は見事に寝てたわけで……私のばかやろう。なんで聞いとかなかったのよ。ほんと。
ていうかさ。私って、何これ。
永琳+まりなを足して二倍の私を目指してとことんやってやるとか言って、自分で何をするかもわからないわけ?
永琳に聞かなきゃわからないの?
ダサ。
超ダサイじゃん。
とにかく、私は何か、今までと違う事を始めなくちゃいけない。でしょ?
例え罪が許されたとしても。私はもう、この前までの私ではない。
理想の私になるんだ。
みんなの前でああいう姿を見せてしまった以上、もうあの、さっき法廷に居た私に、私は成るしかない。
じゃあ。
だからってどうする? これからは何するの私?
「わからない」独り言。
お姫様なんて事しかしてこなかったのが、私だ。他の事をする生活なんて、どう想像すればいい?
馬鹿みたいだ。
あれだけ偉そうな事を、世の中でもっとも権威のある場所でしゃべくって。
親に向かって、お前の子をやめるだの散々喚いた。
そのくせ、結局、自分がこれからどうしていいかわからない?
これじゃあ。本当のあるべき自分の姿を見つけたなんて言っても、ただ親や世の中ってもんに、身勝手な文句ぶちまけただけだ。
これじゃあ。ただのへりくつこねて、親に八つ当たりしただけのガキだ。私は。
あはは。
そうか。これが本当の今の自分なんだね。
私はただのガキだ。ただのどこまでもお姫様などうしようもない奴だ。
なんてさ。
ニヒル気取ってる場合じゃない。私は考えなきゃいけないんでしょ。
うん。
これからどうするのか。
それが切実に迫っている私の問題だ。
考えなければいけない。答えを出さなければいけない。
私はどうするべきなのか。
「姫様」
控え室のチャイムが鳴った。侍女の声だった。
「まもなく開廷の時刻です。お支度をしてください」
どうやら世間っつーのは、私が私の考え事に答えを出すまでは、待ってくれないらしかった。
開廷と同時だった。
まりなが証言台に駆け上がった。涙ぐんだ赤い瞳で私を見据え、私が助けてあげるからね! とでもいった表情で何やら大きなパネルを持ってきている。何かの資料だろうか?
にしても、久々に見るまりなは非常にキッチュな格好だった。宮廷裁判所というフォーマルな場に出るという事でおめかししてきたんだろうけど、明らかに方向性を間違えてる。しょうがない。
飼い主である永琳は常識がないし、当のまりなも言わずもがなだ。
まりなは髪をピンクに染めていた。大きなサイコロ型の髪留めで二つに結わえている。いわゆるツインテールだ。さらにベルトにハート形の大きなアクセサリーを付け、首にも手首にもショッキングピンクのチョーカーとリボン。スカートも同じ色で、丈は例によって極めて短かかったが、フリル具合がふわふわ感+60%くらいだ。いつもがウェイトレスみたいな格好だとしたら、今日は陳腐なアイドル歌手みたいな格好だった。
「かぐっちゃんは何も悪くありません!」
まりなは涙ながらに叫んだ。普通ならば、あんなにも興奮した声をあげれば注意の一つもされるだろうけれど、まりなには彼女のする事をお茶目に見せてしまう引力のようなものがある。
彼女がべそかき声を上げれば、裁判長といえど思わず同情して、頬を緩めてしまうし。検事と弁護人も、けしからん実にけしからんみたいな苦笑いをしつつも、まりなのスカートとニーハイソックスの間の絶対量域と、ボタンが二つ弾け飛んだ胸のラインを眺め回すし。
私自身だってついつい笑ってしまった。さっきあれだけ皆の前で啖呵切った手前、易々と笑顔を見せるのはなんだか、恥ずかしかったけれど、まりなを見ていて笑ってしまった。ねえ、まりな、もうそこまで必死になる必要はないのよ。必要な事は全部、永琳がやってくれたよ、と教えてやりたかった。
傍聴人たちも笑みを漏らしていた。
私が薬を飲んだ理由を証言した時とは真逆の雰囲気。
緊張感が空気の中から一切消え去っている。
既に永琳の演説によって私の行動は人々にとって肯定的に捉えられ、今や私は新たな時代を切り開く月の新人類と見なされている。これから始まるまりなの証言は、その補強であると同時に、大勢が決した後の蛇足的な余興だ
私が決定的行動を決意した瞬間に居合わせた親友の視点による、いわば英雄譚だ。
「悪いのは私なんです! 私があんなのを作ったから」
まりなが証言台の上から言ったのはそれだった。
なんか。ぞくっと来た。
もの凄く悪い予感がした。
こう、なんというか、喉の奥がからからに乾きだして。『ちょっとまて、お前は何を言うつもりだこれから、ねえまりな?』と叫びたかった。
「わさびなんです! かぐっちゃんは私の作ったわさび入りのおはぎを食べて、悶え苦しんだあげく、どうしても我慢できずに、飲み物が欲しくてたまたま冷蔵庫にあった蓬莱の薬を飲んでしまったんです。かぐっちゃんは見栄っ張りだから色々ひどい事言っちゃったみたいだけど、本当は良い子なんです。かぐっちゃんを苛めないでください。わさびを食べちゃっただけなんです。本当です。これを見てください。かぐっちゃんが悶え苦しんだ証拠の写真です!」
まりなが持参したパネルを両手で抱え、頭上にかざした。
これをお見合い写真にしたら、絶対に一生結婚できないだろうな、という私の顔が映っていた。
まぶたは最大まで見開かれ白目を剥いていて血走っている。唇も醜く歪んで歯茎を剥いていて、歯にはおはぎの黒とわさびの緑がこびりつき、鼻から流れ出した鼻水と涙が混じって首にまで垂れていた。
それをまりなが、これでもかと見せびらかしていた。後ろの人にもよく見えるようにぴょんぴょんジャンプしていた。
ジャンプするたびに、まりなの頭の上で耳とサイコロ髪留めがじゃらじゃら揺れ、私の不細工極まる写真パネルが、法廷の証明を反射しテカテカ光った。
私の右手が被告台をパンチした。大きな音をたてて倒れ、コップとポットが割れたが、誰も何も言わなかった。
法廷に居た全員が写真に注目していた。目を離せないで居た。誰もが言葉を失っていた。
私はその場に体育座りをした。俯いてだ。
人生には俯いて体育座りをするしかない瞬間というものがある。
それが今だった。
「悪いのは私なんです。かぐっちゃんは悪くないんです。みんなほら、これを見てください。鼻の穴が開ききっているでしょう? こんなに苦しんだんです、かぐっちゃんは。だから薬を飲んだって悪くないんです。許してあげてください。わさびのせいなんです。わさびのせいでかぐっちゃんは飲んじゃったんです!」
まりなの証言はそれで全部だった。
「かぐっちゃん、がんばってね。私がついてるからねー!」とまりなが退廷すると。
あとには死んだ空気だけが残った。
体育座りをする私と。言葉を失い、ただ私を見詰める法廷の人々。それだけがあった。
無言の咎、あるいは哀れみかもしれない。この世で最も高尚な民の姫が、わさびを食って禁忌を冒したという真実に、人々もどう言葉を上げて良いのか、まるでわからないのだと思う。
誰も何も言おうとしなかった。完全に空気が死んでいた。
「あの……」と私は俯いて体育座りしつつ呟いた。「もういっそのこと死刑にしてくれませんかね。いやまじで。なんかもう生きていたくないっす。いやまじで」
私の呟きが終わっても誰も言葉を発しない。
「つーかね。お前らもまじであれ食ってみ? なるよ? あの顔に。半端じゃないし、飲むよ? 冷蔵庫にあったら普通に飲むって蓬莱の薬! いやまじでね。あのね。世界に疑問を感じてたとか、まあ、ぶっちゃけると、後から考えただけですから。永琳が言ってたのもお得意の口から出任せですから、兎をチンしても勝っちゃう奴ですから彼女。あはははははは。私はそうですよ。わさびで飲みましたよ。ええ。はい、認めます」
私の乾いた笑いが法廷の中に響いた。
「いやさ。何これ? みんななんか言おうよ。黙ってるのきついって。さっき私が、月の姫をやめます、とか叫んだ時みたいに、総突っ込みいれてよ……わさび食って蓬莱の薬飲むってどんだけーとか言ってよ……ねえ。なに、なんなの、なにこれみんな。そっか、あれだね。写真で引いた? まあきついけどさ、あれは。ドン引き? あはははは」
私の乾いた笑いが法廷の中に響いた。
「はい。あの、私ね。もうね。いろんな事がね。どうでも良くなりました。なんかもう判決とかどうでもいいです。もうさ、いいじゃん、さっさと終わらせようよこれまじでね?」
私の乾いた笑いは、ちょっとだけ涙声が混じってる。
「あの、裁判長」検事が小さな声で言った。「もう、無罪……とかでいいんじゃないですかね。なんというか……その、空気的にというか」
「あ、あ、まあ……うん」裁判長はなんともいたたまれなそうな肯定の仕方をして、「じゃ、それでおk」と言った。
私は顔を上げた。
「ざけんな! 無罪でいいわけねえだろくそが! 空気にながされんじゃねえよ」検事に詰め寄ってネクタイをひっつかんでみせたら、奴は怯えた様子で椅子からずり落ちた。「あのさ。ちょっと待とうよお前ら。私、普通に竹ん中にでも入りたいわマジで、あんさ、何? 私さ、絶対明日からわさび姫とか言われるよねこれ? ん? でしょ? ねえ検事さん。お前友達とかに言うだろ? 『おいジョニー聞いてくれよカグヤがさあ。わさびで顔をこーんなこーんなにしてたんだぜHAHAHAHAHA、しかも奴、蓬莱の薬のんだんだぜ?』とか言うだろ? お? わたしゃもう全月中の笑いもんだよ! 教科書載るし、(わさび姫)とか。カギ括弧付いちまうっつーの、もう月でまともに暮らせるわけねえだろふつーに考えて、お断りだ、こっちからお断りだ。いくぞ私は地上にいくぞこの野郎誰がなんといおうが、私は行ってやる!」
検事のパープルのネクタイが千切れるまで引っ張り、裁判長に剛速球で投げつけると、彼の毛髪に絡まってロマンスグレーの髪を根こそぎ引き千切ったようにみえたのは、単にかつらが外れたから。かつらとネクタイが合体した物体はそのまま天窓を突き破り、空をどこまでも高くのぼっていった。パープルとロマンスグレーがぐるぐると回転しながら、大空の青を。どこまでも。
私は駆けだしていた。法廷の扉を蹴破り、廊下を走り抜け、前庭に出た瞬間に転んで十三回転しつつも、受け身をとって再び疾走した。海までだ。
そして断崖絶壁から浜辺に飛び降りると、全身が拉げるほどの衝撃を感じた。
きっと骨が何本も砕け、内蔵も破損したのだろうけれど、そのまま砂を蹴って走り続けた。体の節々や口や鼻から血液が溢れ、痛みが意識を蝕み嗚咽が漏れ悲鳴を上げながら走った。
血が砂浜へ点々と落ちていき、一歩進むごとに痛みが薄れ、波打ち際に踏み込んだ時には、どこも痛くなくなっていた。水に足を取られ膝を突いた。
波が太股をさらった。
前のめりに水中へ倒れた。水を飲み込んでしまい、咽せながら体を起こした。脇腹の高さまで波が打ち寄せてくる。
私は両手を広げて頭上に掲げた。どうして自分がこんな事をしているんだろうと不思議だったけれど、ごく自然に体が動いただけだ。ただそうしたかった。
どこまでも走り続けて、空を抱きしめたい衝動。
あはははははは。ねえ、どーすんだよ私。
マジで。
ぶち切れてあんな事言っちゃった。地上に行くとかなんとか。
どーするよ?
ほんとに私にそんな事出来るの?
今まで宮廷から出て暮らしたことすらない。私が、一人で、外で、しかも地上で暮らすなんて。
私がそんな事できるわけないじゃん。
私は、所詮、ガキで、お姫様なんだよ。わさびを食って蓬莱飲んだ、見栄っ張りのダサイ奴。理想の自分なんかになれるわけがない。それが私なんだよ?
それが。私なんだよ。
そうじゃん。もうこの際仕方ないよ。恥ずかしいけど、やっぱり明日からもお姫様やりますー、とかなし崩しにしちゃおうこれもう? うん、所詮ガキでお姫様な私にはそれがお似合いだったんだよ。あんな無様にぶち切れちゃったんだんだ。もう一度、大恥かくくらいどうってことない。
どうせ、わさび姫なんだよ私は。
高望みし過ぎたんだ。見栄を張りすぎた。本当の自分はこんなにも小さくてダサイ奴だったんだ。
こんなちっちゃな私には窮屈な生活が似合ってる。一生籠の中に居ればいい。小鳥さんだよ私は。
あははははははははははははははははは。
「くそやろう!」海に向かって怒鳴った。「人生、楽しくってしかたねえや!」
声がすり切れるくらい怒鳴った。
「くそやろう!」
「かぐっちゃーん!」
波しぶきが目に滲みた。唇に飛んだ海水は辛かった。私を呼ぶ声が聞こえた。
砂浜からまりなが私を呼んでいた。『無罪』と筆で書かれた半紙を嬉しそうに掲げてる。
あいつだ。と思った。
あの、まりなだ。
全部をぶち壊しやがった。途中まで上手くいってたのに、ご破算だ。あいつが私の全部をぶち壊した。
私から永琳を奪って地上に連れ去ろうとしたのもあいつ。私に薬を飲ませたのもあいつ。
今日も特大のをやらかしてくれたあいつ。
あいつが最初から居なければ。
「まりなあああ!」
足下の濡れた砂を握った。トルネード投法でぶん投げた。まりなの顔に直撃した。
すかさず私は砂まみれのまりな目がけて突進する。姿勢を低くし、海水を巻き上げ、やがて乾いた砂を足の裏に感じながら、彼女の右脚ニーハイソックスを両手で抱えるように片足タックル。勢いは一切殺さない。そのまま押し倒してテイクダウン。マウントポジションに移行し、流れるようにパウンドの第一発目を叩き込もうとした時だ。
「また明日から一緒にお茶できるね。無罪だよかぐっちゃん!」とまりなが言った。「そんなに興奮しちゃって、よっぽど嬉しいんだね」
私の拳がまりなの鼻っ柱を叩きつぶす寸前で止まった。まりなが笑っていたからだ。私の罪が許されたのが本当に良かったと、祝福してくれている笑顔だった。
私は握り拳を解いた。まりなの叩き潰したいほど憎たらしい笑顔のほっぺたを摘んだ。
引っ張った。両手で、ぎゅむむ~っと。
「こんにゃろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「痛い痛い、痛いよかぐっちゃんんんん」
じたばた暴れるまりなを見下ろしてると、何故か笑けてきた。
笑けてきた。
ほんとうにわらけてきた。
盛大にわらけてきた。
だから、笑った。
馬鹿みたいに笑った。
大きな声を出して笑った。
まりなの隣に体を投げだし、大の字になって、あはははははははって笑った。
こいつだ。と思った。
この、まりなだ。この、どこまでもこいつな、まりなだ。
私はこいつに成りたかったはずだ。
永琳に地上へ連れ去られるくらい魅力のある奴に成りたかった。
蓬莱の薬を飲んでしまうほどの自由さが欲しかった。
今日のは格別だった。
原稿用紙八億八千万枚分のマー君ワールドの果てに辿り着いた私自身の理想の姿を、たった一枚の写真で消し飛ばしてくれた。
宇宙最強の論客が三時間の演説で固めてくれた私の姿を、あんたは二分足らずの言葉で、木っ端微塵にしてみせた。
私は、これまでの全部を壊したつもりだったのに、あんたはそこからさらに、完璧にぶっ壊してみせた。
いつもだ。私がどうしてもやりたいと思っても出来ない事を、斜め四十五度の最適跳躍角度であっさりと飛び越えやがってくれる。
信じられないくらい綺麗なフォームで、私の目の前で。見せ付けるみたいに、ぴょーんといきやがってくれちゃう。
しかも。
あんたがぶっ壊した後に残こされてたのは、あんたの跳んでいった背中に憧れるだけの、ダサイ、私のホントの私。
悔しいって。これさ。
本当に悔しいよ。
叩きのめしてたいくらいなのに。憧れる。叩きのめしたいくらい、憧れる。
憧れて憧れて、殺してやりたいくらい。私はあんたが好きだ。大好きだ。
だから。だからね。今日はもう我慢しない。もうなんにも我慢なんかしてやらない。
私もあんたを、私と同じくらい、悔しがらせてやりたい、叩きのめしたくなるほど憧れさせたい、殺したくなるほど、好きにならせたい。感嘆させたい、驚愕させたい、舌をぐるぐる巻かせて、脱兎のごとく裸足で逃げ出させて、耳が抜けるくらい脱帽させて、目から鱗をぼろぼろ落とさせて、ガツンとノックアウトしてやりたい。
勝負だまりな。
私だってあんたに見せ付けてやる。飛び越えてやる。あんたの絶対飛び越えないものを。
あんたがどこまでも、あんたなら。
私は。どこまでも、私な私を。
どこまでも、ガキで、お姫様な自分を。
飛び越えてやる。
私が私を私として縛っているこれを。
ぴょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
してやる。
「ねえ、まりな!」
私は叫んだ。すぐ十五センチ隣で寝ころぶ彼女へとだ。
まりなは驚いて赤い目を白黒させた。
「私はね。地上に行くよ」
「え、どうして、無罪になったんだよ?」
「びっくりしたまりな?」
「びっくりじゃないよ。なにそれって感じだし」
まりなは凄くびっくりしてた。耳がぴーんとなってた。
「だったら満足、私はね。私はね。地上に一人で行くんだ! お姫様じゃない私になるの。私は、私を飛び越えるのよ。ぴょおおんって、ねえ。良いと思うでしょ。まりな!」
まりなは耳をぴーんとしたままだった。私が何を言ってるのか理解できないみたいだった。
潮風が私たちの髪をなびかせた。砂を絡めた。
永琳が砂浜を走ってくる息使いが聞こえた。息切れしている。私たちの頭のすぐ近くで足音が止まった。
「わさびを気にしているのねカグヤ」
永琳は、私とまりなを真上から覗き込んできた。
「違うよ永琳。もうそんなのはどうでもいい」
「いいことカグヤ。わさびは忘れなさい。緘口令がしかれたわ。公式にはわさびの件は完全に無かったことになるはずよ。だいたい、あなた一人が地上に行ってどうしようと言うの」
永琳にだってわからないこともある。
私は不敵っぽく笑って立ち上がった。
「それをどうにかしてみせるために行くのよ。いつも永琳は言うでしょ。私がどうにかする、って。だったら勝負よ永琳。私だってどうにもならなそうな物をどうにかしてみせる。私はね。そうしたいの。誰のせいでもなく、誰のためでもなく、自分のためだけにそうしたいの。なんだか」
私は両腕を広げてみた。命一杯、翼のように。
「風になった気分。空と一つになったみたい。どこまでもね。こういうのが、自由っていうのかな?」
両手を広げ、くるくると踊るように巫山戯て回ってみた。海水で濡れていた下半身には砂がこびりついていて、日差しで乾いたそれらが、ぱらぱらと散った。
永琳は呆気にとられたみたいだった。くるくる回る私を見ていた。
まりなは座ったまま私を見上げていて。涙を溜めていて。零した。鼻の横を一粒伝ったら、あとからあとから、ぼろぼろといっぱい、まりなの涙は流れだした。
泣くことない。泣くことなんてないって教えてやりたい。
「泣かないでよ、まりな。私、別にあんたが嫌いで一人で行くわけじゃないもん。逆よ。あんたに憧れるだけじゃなくて。悔しがるんじゃなくて。あんたをね。もっと私は真っ正面から、大好きだって、正々堂々と言いたいから」
そこまで言って恥ずかしくなっちゃった。
まりなのぐずってる顔で真剣に見詰められると、ほんとに照れてしまう。
私は誤魔化し気味に盛大に笑ってみた。どうしていいかわからないから、まりなの前に膝立ちになって、まりなの頭を抱きしめちゃった。
胸元に抱えるようにして、ぎゅぎゅーっと。
まりなも私の背中を力いっぱい抱えてきた。泣き声を必死に唇で噛み殺そうとしているけど。難しそうだった。
それでもまりなは、がんばったのだと思う。波音と混じっていた泣き声が消えて、波音だけが残った。
ざざーん、ざぶーん。
私はまりなの頭から両腕を解いた。
立ち上がった。
「二人とも、またすぐに……は無理だろうけど、ちょっとした未来に会いましょう。そしたら、お茶すんのよ。三人で。もちろん、わさびは抜きでね」
波音の狭間に、私の言葉は漂った。
漂って。
ざざーん、ざぶーん。
すぐにかき消された。
永琳は私を真っ直ぐに見据えた。ゆっくり一度だけ頷いた。
まりなは涙を手の甲で拭った。顔を砂だらけにしてた。深く深く頷いた。何度も何度も頷いた。
私は髪を両手で掻き上げるふりをして顔を隠した。髪から香の匂いはとっくに消えていた。潮の香りがした。寂しさは感じる。不安だって感じる。とても感じる。とてもとても。とても。
だから顔を隠している間に、二人に背を向けた。海をあおいだ。二人を見ていると、泣いてしまいそうな気がした。
泣きそうな顔なんて見せたくない。
でしょ。
未来だけがある。誰に強制されたものでもない、可能性と選択肢と自由がある、私の未来だ。
私は私の意志で選び取った未来で、今の私を遙か飛び越えた私として、再び彼女たちに会うことが出来る。
うん。
私は超見栄っ張りさんなのだ。
涙は必要ない。希望だけを持てばいい。
「じゃ」と私は言った。
自分でも馬鹿らしいと思うくらい、脳天気に笑ってみせながら、二人に顔を振り向かせた。
「ちょっと行ってくるわ」
姫の、ぴょおおおおおおおおおおおんする姿を見たい。真剣に見たい。
つい、くだんねぇーーっ!て、言いたくなる感じが良い。
作家の名前とか出さない方がいいのかな。すみません
自分の思う姫様像とはかけ離れていた。面白かったけど。
永琳の唾付きまりなをください。
あとがきの違和感でマイナス10点。面白かったけど。
うさたんチンは読んでてぞわぞわしたが。
叫びたくなっちゃうだろ、まったく。
すごいパワーだ。
この永琳は間違いなく天才で
この輝夜は恰好はつかないけど
どうしようもなく魅力的だw
でも、面白かったよ。
滅茶苦茶面白かった
んだよこのロックな姫さまは!!!!!!!!
惚れるしかねぇだろおおおおおおおおおお!!!?
なんか頭の悪い感想しか出てきませんが、それくらい夢中になって読んじゃいました。
既成概念も何もかも飛び越えてびょーんしちゃった読後感に、敗北感と同時に憧れすら抱いてしまう。
すげぇ! なんつーかもう誰かれ構わず襟首掴まえて「いいから読めやこのやろう!?」と逆ギレしたくなっちゃう気分。
ああ、これがロックンロールだ。
なんにせよ、すばらしくロックなSSでした。泣き笑いみたいな表情で読ませてもらいました。
昔振り返って俺馬鹿やってたなぁ。と苦笑するのに似た作品でした。
でも東方じゃなくてもいいよね、コレ。
メロン味も凄いが、最初の11行で「この小説の輝夜は "停電した冷蔵庫の中" に入るような奴ですよ」とはっきり伝わるこの凄さ
設定守る気が有るのかどうかよくわからないと言うか、このクオリティでこの作品書くなら別に東方じゃなくてもよくね? というものを、東方でやっちゃってるのが凄い
俺は凄さにやられちゃってるだけかもしれないけど、これだけ凄いんだからいいじゃん、とおもった
ちょっとくどいところもあったけど、心理描写が好きになりました。
えらいぶっ飛んだ感じなんだけど、三人が全員へいきんからおおきくはずれている!
のでどの場面でもシリアスと笑いがあって、ああ面白かったよほんとうに。
これこそ東方二次創作ですね。
自由な風を感じました。
普通に筆力が高い。
心理描写とかマジですごい。
コメディとかギャグとかそういうんじゃないもっと圧倒的なエンターテイメントだよ。
めっちゃ情動を感じさせられた。もうホントすごい。超青春。
すげえベタ褒めだけど後悔しないぐらいに面白い。マジで。
こんな魅力的な輝夜を描かれたら続編に期待せざるを得ない
あえて言いたい。なんだこれwww
ひとまず、次回以降に期待という事で、この点。
え?続くんですよね?これ?続き書いてくれるんですよね?絶対ですよ?
文章の様々な場所に見える欲望とかが俗っぽくて具体的でかつストレートなのがいい
いいか譲れんぞ!一緒にお風呂だけは譲れんぞ!
ちょっと永遠亭に仕官してくる
このノリ、リズムを維持しつつマンネリにならないように描くのは大変かもしれんが
是非続きを読んで見たい。
シリアスなのに、どうしても感情移入できない。
正直、100点までしかないのが残念で仕方ないです。
輝夜が父親を弾劾するマジなシーンが一番浮いてるとかw
青春したあああああい
構成語呂発想キャラギャグと見せかけてシリアスと見せかけて壮大なギャグ
さらに緻密なプロットに熱いセリフと冗長のない完璧な締め。
非の打ち所がないと感じました。
アマチュアのレベルじゃない。
ファンになります。
素敵な小説をありがとうございました。
二次創作だというのに心が震え、感動してしまった。
もはや東方とかそういう括りはこの作品には不要なのではないだろうか。
一緒にお風呂だけは何があっても譲らんぞ、絶対にだ!親父www
それを差し引いても、この作品の魅力にはこの点数しかつけられません。
次回策、急かすつもりはありません。地底でどこまでも熱せられたマグマのごとくの情熱を、作品としてまた爆発する日を静かに待っています。
輝夜はともかく、永琳の針の振り切れた天才ぶりは、自分の中のイメージに近いものがありました。永琳はこれくらいでないとね。
細かいことはともかく、とても楽しく読ませていただきました。
次回が早く読みたいので10点分はツンデレ成分
長い話なのに砕けた言葉でテンポ良く飲み込まれました。
なにより作者さんが楽しそうに書いている雰囲気が伝わってきて良かったです。
五円チョコばねぇっす。俺にもください。
これは、すごい。
メロン味のようにすごい。
だがこんな青春があってたまるか!
貴方は毎回毎回、どうしてここまで圧倒させてくれるのか!
同居とか連携とかじゃない、融合だよ。どういうことだよ。
なんだこのレベルの違いは。
結局なんだったのかよくわからない部分もあるけど、これはすごい。それだけは言える。
これしか言えん
盗んだバイクで走り出すって感じの
でも素敵
ぴょおおおおおんって、青春突っ走ってる。
マイクロウェーブ・リターナーという単語に関して、
アンテナ立てっぱなしにする必要を、
感じ、
た、最速で。まりなちゃんでんしぺっとにしたい。
こういうの書きたかったなって気分、沢山デジャブらせてもらいました! 面白いよ! お? おー!
飛ぶよ! 飛べるよ! 飛んだんだよ!
ぴょおおおおおおおおおんって飛んだんだよ!
面白かったです。
なんかそんな感じ。
若さが溢れ出る、若さって何さ、振り向かないことさ。
そして輝夜も完全に吹っ切れたみたいで良かったね!
将来この二人に仕えることになる鈴仙の胃が心配だ…
青春すぎる!
ケツの穴の小さいことをいえる訳がないですよね。評価するしかない
馬鹿で突き抜けるならとことん突き抜けてみせろ! というお手本のような作品でした
このノリについてこれなかったのは自分がもう若くないからだろうか。
単に好みの問題かもしれないけど、どうも話に引き込まれませんでした。
ごめんなさい。
ヤったの?ヤったのか!?
>背筋は鬼の顔
バキだったかな?背筋乙
>永久に続くであろうネバネバな私たち三人の絆のようだった。
表現に反して非常に感動的な描写です
裁判も展開が二転三転
それでいて良い話に纏まっているのですから脱帽です
なんだかんだ言ってこれが捩れた腹筋を誤魔化す為の文句だという事は公然の秘密
憧れるというか、プロを真似てみたくなるというか、そんな感じ。
文章力もすごい臨場感溢れる描写と構成
これはほんとうにアマチュアのレベルじゃない
脱帽です
圧倒された…これは素晴らしい
>人生楽しくってしかたねえや!
感慨深い台詞ですねぇ
スカッとするぜ。
輝夜の思春期っぽさが凄くリアルで、これぞ青春って感じでした。
勢いがあってむちゃくちゃ面白かったです
なんつーか引力があった。
うまく言葉にできないけど、とりあえずすごい。
その調子だ、どこまでも飛んでっちゃえよ姫様!
ひゃっほう!!!!!!!!!!!!!
吹っ切れた輝夜もいいしなんかもうすげえ
でもまあ可愛そうなのが輝夜の父さん
けっこう娘思いなのに娘に子供であることを否定され
それが違ったと思ったら娘のきつい写真を見せられ
輝夜の父さん!がんばれ!
次回作たのしみにまってます!
ここまでやられると認めざるを得ない
ワロタ。
まあ私は好きですけどね。
最高にださくてかっこいい姫様が見れました
最高。
蓬莱の薬(ブート・ジョロキア100%配合)一気飲みで我慢しておきます。