某県の山の中
人里離れた山の中にその建物はあった
生い茂る緑の中に露骨な清潔感の白い建物
それを見上げた私は
まるでこの建物には行ったら二度と出られないんじゃないかと言うような
そんな不安を感じた
「はじめまして。気楽院栄貴と申します」
「はじめまして。彼女の担当医で八意永琳です」
この気楽院栄貴とは私の本当の名前ではない
「気楽院」などという珍妙極まりない名字などあるものか
別に身分を偽っているわけではない
これは私のペンネームだ
「さて・・・では本日いらっしゃった目的は彼女の取材・・・でよろしかったかしら?」
「はい。是非ともお願いします」
「うーん。彼女の事を題材にした記事や書籍なら今まで数え切れないほどあるでしょう?
何故今になってあなたが書こうと思った訳ですか?」
彼女の言うことはもっともだ
あの事件があって以来数々のマスコミ、ジャーナリスト、精神科医、オカルト記者が彼女の取材をした
知人で新聞記者の「射命丸文」さんやフリーで交流のある「姫海棠はたて」なんかも
「今更あの事件に突っ込むんですか?ふう・・・あなたはホント流行を追いませんねぇ」
「え~。あんなのネタがもう出尽くしたじゃない。これ以上何を望むの?」
などと言われてしまった
それでも私はあの事件・・・いやあの人の話を生で聞きたかった
「私は彼女の話を聞かねばなりません。そこにリアルがあるから。早く知るスクープよりも、真実の方が大切なんです」
「そう・・・では参りましょうか。面会時間は限られています」
「ご協力ありがとうございます」
私の熱意が伝わったのか伝わっていないのか。
八意女史は事務的な手つきで私を案内してくれた
白い廊下を渡る二人の足音
他に人は居るのだろうが、不気味なほどに静かだ
日中の所為か照明が最小限になってので白い空間に作りだされた影は
恐ろしく黒かった
すると廊下の先の部屋のドアが開き一人の看護士が出てきた
「ウドンゲ。彼女の調子はどうかしら?」
「あ、先生。大丈夫ですよ。面会に支障はありません」
ロングヘアーに淡い白衣の胸元には「鈴仙・U・イナバ」と書いてあった
顔立ちからしてハーフか何かだろうか?
「そう、では気楽院さんどうぞ」
「あ、はい」
八意女史に促され私は病室のドアを開いた
どうでもいいことだが私がここまで挙げた女性の名前はすべて本名なのだから驚きである
今のところ偽名は私だけだ
「失礼します」
ドアを開けるそこには黒髪の女性がベッドの上でワープロで何やら文字を打ち込んでいる最中だった
「・・・あっ!えと・・・」
「ああ、すいません私は気楽院栄貴と申します」
「あ、ああごめんなさい。そいえば今日会う約束だったわね。締め切りが近くて忙しさですっかり忘れてたわ」
「いえ、いいんです。どうぞキリのいいところまで続けてください」
「そう?悪いわね。すぐ終わらせるから」
そう言って彼女はまたワープロに目を戻した
私はそれを黙って待つことにした
それでは彼女の紹介を私から簡単にしよう
彼女はこの蓬莱山精神病棟の入院患者第633号
10年前に起こった「マエリベリー・ハーン変死事件」の最重要参考人
「宇佐見蓮子」だ
人里離れた山の中にその建物はあった
生い茂る緑の中に露骨な清潔感の白い建物
それを見上げた私は
まるでこの建物には行ったら二度と出られないんじゃないかと言うような
そんな不安を感じた
「はじめまして。気楽院栄貴と申します」
「はじめまして。彼女の担当医で八意永琳です」
この気楽院栄貴とは私の本当の名前ではない
「気楽院」などという珍妙極まりない名字などあるものか
別に身分を偽っているわけではない
これは私のペンネームだ
「さて・・・では本日いらっしゃった目的は彼女の取材・・・でよろしかったかしら?」
「はい。是非ともお願いします」
「うーん。彼女の事を題材にした記事や書籍なら今まで数え切れないほどあるでしょう?
何故今になってあなたが書こうと思った訳ですか?」
彼女の言うことはもっともだ
あの事件があって以来数々のマスコミ、ジャーナリスト、精神科医、オカルト記者が彼女の取材をした
知人で新聞記者の「射命丸文」さんやフリーで交流のある「姫海棠はたて」なんかも
「今更あの事件に突っ込むんですか?ふう・・・あなたはホント流行を追いませんねぇ」
「え~。あんなのネタがもう出尽くしたじゃない。これ以上何を望むの?」
などと言われてしまった
それでも私はあの事件・・・いやあの人の話を生で聞きたかった
「私は彼女の話を聞かねばなりません。そこにリアルがあるから。早く知るスクープよりも、真実の方が大切なんです」
「そう・・・では参りましょうか。面会時間は限られています」
「ご協力ありがとうございます」
私の熱意が伝わったのか伝わっていないのか。
八意女史は事務的な手つきで私を案内してくれた
白い廊下を渡る二人の足音
他に人は居るのだろうが、不気味なほどに静かだ
日中の所為か照明が最小限になってので白い空間に作りだされた影は
恐ろしく黒かった
すると廊下の先の部屋のドアが開き一人の看護士が出てきた
「ウドンゲ。彼女の調子はどうかしら?」
「あ、先生。大丈夫ですよ。面会に支障はありません」
ロングヘアーに淡い白衣の胸元には「鈴仙・U・イナバ」と書いてあった
顔立ちからしてハーフか何かだろうか?
「そう、では気楽院さんどうぞ」
「あ、はい」
八意女史に促され私は病室のドアを開いた
どうでもいいことだが私がここまで挙げた女性の名前はすべて本名なのだから驚きである
今のところ偽名は私だけだ
「失礼します」
ドアを開けるそこには黒髪の女性がベッドの上でワープロで何やら文字を打ち込んでいる最中だった
「・・・あっ!えと・・・」
「ああ、すいません私は気楽院栄貴と申します」
「あ、ああごめんなさい。そいえば今日会う約束だったわね。締め切りが近くて忙しさですっかり忘れてたわ」
「いえ、いいんです。どうぞキリのいいところまで続けてください」
「そう?悪いわね。すぐ終わらせるから」
そう言って彼女はまたワープロに目を戻した
私はそれを黙って待つことにした
それでは彼女の紹介を私から簡単にしよう
彼女はこの蓬莱山精神病棟の入院患者第633号
10年前に起こった「マエリベリー・ハーン変死事件」の最重要参考人
「宇佐見蓮子」だ
期待させて頂きます。