ヴァーミリオンの館の内側で、過剰な装飾が施された椅子に少女が腰掛ける。
彼女は吸血鬼。吸血鬼レミリア・スカーレット。五百年を生きる、夜の支配者の末裔だ。
いつも通り、彼女は傍らの使用人に視線で紅茶を促す。どこからとも無くティーセットが現れ、カップに紅茶が注がれる。
優雅な動作だ。彼女も、その使用人も。ただ、夜の支配者の目の下に隈が出来ていなければ。
夜の支配者は昼に寝る。当然だ、夜こそが彼女の時間。また同時に彼女の活動が許される時でもある。
この頃は博麗神社に訪ねるため、昼に行動することも無いではないが、やはり夜が一番落ち着く。
そんな彼女の目の下に隈がある。理由は単純だ、単なる寝不足。満足な睡眠が出来ていないというだけ。
くぁ、とあくびがもれる。睡眠不足は日常の行動にも影響するし、肌荒れの原因にもなる。実に厄介だわ──レミリアは考える。
彼女が寝不足である原因は、実は身近な所にあった。というよりも、身近であるから寝不足の原因になりえるのか。
どぉん──腹の底から響くような地響きがして、館全体が揺れる。
床が揺れ、机が揺れ、ティーカップが倒れる。紅茶の湖が机上に形成され、広がりを見せてから床にしずくをたらす。
何事も無かったかのように、使用人はふきんをとりだす。床までこぼれた紅茶をふき取ると、何事も無かったかのように定位置につく。
「またか」
彼女は嘆息する。これで何回目になるかしらね、と。
そう、これはいつものことだ。いつもいつも、やかましい音と共に館全体が揺さぶられる。それが彼女の不眠の原因。
慎ましい声で、傍らの使用人が声を上げた。主人を気遣う色はそれほどはない、事務的な声だ。このやり取りも数度目になる。
「妹様は、今日も退屈なさっているようですが」
「それは分かっているわ、咲夜。分かった上で、それをどうするかが問題だ──」
「これは失礼しました」
洗練された動作でお辞儀する。彼女の動作にかげりは無い。
彼女──十六夜咲夜は人間である。が、時間を操れるので別に周りが煩かろうが、時間や空間を操ってしまえば関係ない。
結果としていうと、彼女は別に安眠できるのだ。主人が安眠できずともどうでもいい。少なくともそこまで気にしていない。
正確には、レミリアが目覚めやすい体質なだけ。いつでも刺客を迎え撃てるように意識しているのが仇になっているのだ。
この館、紅魔館の地下にはレミリアの妹が軟禁──半ば監禁状態だが──されている。
彼女の力が強すぎる上に制御が利かないので、被害を出来うるだけ減らす処置としてとったのだ。かれこれ五百年ほど地下に居てもらっている。
その少女は白黒の魔女だの、紅白の巫女だとの係わり合いで精神が安定してきたかと思われていた。
が、最近は彼女等の訪問も少ない為、ここに来てまた癇癪が爆発してしまったらしい。
退屈は何よりも辛い拷問だ。それはレミリアとて分かっている。五百年も生きれば、退屈な時間も応じて長くなる。
だが妹を地下から出すのも危ぶまれる。結局何もしてやれず、彼女は不眠症に悩まされるのだった。
「あ」
「どうされましたかお嬢様」
その時彼女は、運命を読む力で見てしまった。
「い、いや何でも無いわ」
「ならばよろしいのですが」
夜の支配者たる吸血鬼が、不眠症を元に健康を損ない、しまいには死んでしまう未来を。
──ぜ、ぜったいにそれだけは変えなくちゃ! さすがにソレは余りにもお粗末過ぎる!
不眠症に死の恐怖を抱く、五百歳児童であった。
ですとろいぜむおーる!
レミリアの妹の名はフランドール・スカーレットという。何でも破壊できちゃう怖い能力を持っている。危険度はかなり高い。
そんな妹に、自分が間接的に殺されようとしているのをレミリアは感じている。ぶっちゃけ今は確信している。このままだと死ぬ。
とにかく何らかの対処を施さねばならないだろう。彼女が暴れる原因、即ち退屈を取り除いてやればいいのだ。
自分が遊んでやるのは却下。まず己の命が危ない。死なない為の対処なのに、それで死んだら後世までの笑いものになってしまう。
一晩──もとい一昼悩んだ結果、咲夜に何か玩具を買ってきてもらう事に決めた。
善は急げと咲夜にある程度のお金を持たせて、お使いを命じた。どこで何を買ってくるかは彼女に一任した。寝不足で考えられなかっただけだ。
彼女は直ぐに帰ってきた。時間操作が出来る彼女には、往路と復路の時間はゼロで十分なのだ。
レミリアは早速その玩具を見に行った。妹に与えるものではあるが、やっぱりそこは自分も気になる。
「お嬢様、玩具を買ってまいりました」
「ごくろうさん」
自室。一応労わりの言葉をかける。なんだかんだで今一番苦労しているのは自分だとは思うが、それはそれだ。
その玩具は広間においてあるそうだ。なぜここにもってこないのさ──レミリアは咲夜に聞くが、玉虫色の返事が返るだけだった。
ふわふわ、と屋敷内を飛びながら広間に向かう。時折窓から日差しが入り込むので、咲夜が日傘を差すことで日差しを遮る。
広間には一つの箱が置いてあった。なかなかに大きな箱だ。これが件の玩具かしら──どうなのだろう、良くわからないものだ。
箱には窓のようなものが取り付けられていて、窓の下からちょこんと突き出したところには、先に球のついた棒とボタンが突き出している。
なんだろ、これ。五百年という長い時を生きてきたレミリアであるが、その彼女の知識のどれにもこんな箱はなかった。
知らないのが当然なのだ。その箱はいわゆる『外の世界』における技術の結晶、機械と呼ばれるものだから。
その機械の中でも特に娯楽を目的として作られたもの。ゲーム筐体、という奴である。
それもシューティングと呼ばれるジャンルのそれだ。そんなことまでレミリアが知るはずもない。
「咲夜、これは?」
純粋な疑問を従者にぶつけた。問いかけられた従者は、レミリアの胸部のような平坦とした口調で返す。
「玩具ですけれど」
「それはさっき聞いた」
「はあ──」
咲夜は気の無い返事をする。なんとも煮え切らない態度である。
もう少し教育をするべきかも──レミリアは従者の態度に不服だった。
だから声を少少荒げてしまう。
「はあ、って何だ。はあ、って! 咲夜が買ってきたんでしょ!」
怒りっぽいのは子供の特徴というが、レミリアは既に五百歳なので単なるヒステリといえるかも知れない。
寝不足によるストレスも大きかったのだろう、彼女の沸点はそうとう低いところまで下がってきていた。
具体的にはお気に入りのぬいぐるみに上四方固めをきめるくらい。眠れぬ暇つぶしにやっている節もあるが。
「といわれましても、香霖堂で買ってきたものですから──店主の説明もよく理解できませんでしたし」
「なら、その説明とやらをさっさと教えなさいな」
はあ──理不尽な主人に、溜息とも返事ともつかぬみょうな音をだす咲夜であった。
それから説明の終盤に入るまで、レミリアのご機嫌は傾いたままだった。
従者とは、かくも苦労が絶えない仕事である。
「なるほど、つまりそこの機械とやらは、デンキというものが無いと動かないわけね」
「そういうことになりますね」
説明も終わり、レミリアの機嫌もそこそこ直ってきた。こういった癇癪はたまにあるので、咲夜の対処もなれたものだ。
なれたからといって、主人の理不尽な怒りを受けるのが気持ちいいわけでもない。出来れば怒らせないようにはしようと思う。
思うが、この見た目お子様な吸血鬼の精神は子供のそれと似ていて、予測できない部分が多多ある。
何に対して怒られるかわからないのだ。対策のしようもない。
「で、そのデンキとやらはあるの?」
「いえ──取り扱っていないそうでして──」
語尾をにごらせる。さすがにこれは己の落ち度か、と咲夜は諦めた。
機能しない玩具など、ただのガラクタでしかない。いや、ガラクタだからこそ香霖堂にあるのか。
思わず身構えるが、レミリアの対応は先程とは打って変わって普通なものであった。
「そう、ならしょうがないわね」
どういう意味か咲夜にはわかりかねたが、後に続く言でその意味を理解した。
「パチュリーに頼んでみましょう。図書館に持ってくわよ」
その体躯に似合わず、ゲーム筐体を軽々と持ち上げたレミリアは、図書館へと向かってすたすたと歩き出す。
咲夜はあわててその後を追うのだった。
※
「デンキ?」
本が大部分を支配する、広大な空間の中で少女の声が響く。冷淡な響きを持った声は本に吸い込まれていった。
声の主は長髪をいただく少女。彼女もその齢は百を越えているが、どちらかというと病弱な印象を受ける。
事実、彼女は喘息もちなので、それが原因で大魔法の詠唱──彼女は魔法使いだ──ができないという。
「デンキ、ねえ?」
再度重ねるように声が響く。
机際のイスに腰掛けた少女は、膝元の本から片時も視線を外さない。
机をはさんで向かいのイスにはレミリアが、床までつかない足をぶらぶらさせている。傍らには従者。
「そう、デンキよ」
レミリアが平坦な胸をはって言う。
そう、と少女は蒼白い指で本のページを捲った。不健康すぎるまでに白い肌だ。
本に集中しているが、話をきいていないわけではない。むしろ友人であるレミリアの言なので熱心にきいている。
「パチェ、心当たりはある?」
レミリアが少女に尋ねる。
パチェ、とは少女の渾名の様なもので、本名はパチュリー・ノーレッジという。
二つ名は動かない大図書館。それではただの大図書館だけど、きにしない。
「デンキ──」
言葉の途中でパチュリーは机上から白のティーカップを持ち上げる。咲夜が入れたものだ。
既にぬくもりは霧散していたが、だからといって不味くはない。一口だけ飲んで、また机にもどした。
紅茶のほかに、こじんまりとした皿にクッキーが置かれているが、本にかけらが落ちるので読みながらは食べない。
パチュリーが本から視線を上げ、顔を上げて図書館の一角を指差す。あっち、と本棚の林立する──どこもそうだが──場を指して、
「デンキならあっちに腐るほど、というか腐ったのもある──」
「本当? ありがと!」
言葉が終わるや否や、レミリアはどたばたと駆け出した。パチュリーの眉間にしわが刻まれる。
そこで、今まで会話に参加していなかった咲夜がレミリアを呼び止めた。
「お嬢様、それはたぶん伝記かと」
パチュリーはそれがレミリアの望む『デンキ』でない事は理解していた。
しかし、今彼女の機嫌はよろしくなかったのだ。少女は視線をめぐらせて溜息をつく。
図書館のど真ん中、大層邪魔になる場所に、ゲーム筐体がその巨体をもって存在を誇示していた。
※
レミリアがうーうーうるさいので、パチュリーは『デンキ』とやらを半ば強制的に探す事になった。
最近は魔法の研究も行きづまっていたし、気分転換にはちょうどいいかも──とは当人の言である。
結局、せっかく買ってきた玩具をつかうこともなく数日が過ぎた。あいも変わらずお嬢様は寝不足。
目の下の隈は一層深くなっていた。紅茶を飲む元気はまだあるが、人間の血を吸う気力はない。
食欲がない。今日は軽い物だけで済ませよう。咲夜に頼まないと。思考も普段より鈍い。
屋敷の紅い壁がレミリアに人の血を想起させる。うぷ、と吐き気を催した。食欲がないというのに。
「今日もご機嫌斜めね、レミィ」
珍しい事に広間のテーブルにパチュリーがいた。レミリアは子供特有の大きな目を、さらにまん丸にして彼女を見る。
まるで幽霊でも見たかのような彼女の視線に、パチュリーは口をへの字にした。
「何、その視線は。せっかくあの玩具を動かせたって教えに来たのに──」
「ああ、そうなの。じゃあ見に行きましょうか……」
とぼとぼと力なく広間を後にする姿に、さすがに尋常ではない様子を感じ取ったのか、パチュリーが聞く。
「ちょっと、レミィ。ずいぶん疲れているようだけど大丈夫?」
「ええ、だいじょうぶだいじょうぶ」
だいじょうぶだいじょうぶ、とうわ言のように繰り返す姿はまるで幽霊のようだった。
うわ、とさすがのパチュリーもちょっとばかしあとずさってしまう。レミリアの背後に人魂までみえた。
これは本格的にまずいかも知れないわね──まあ、玩具は動くようだし、後は妹様をどうにかすればいいか。
友人思いなのか、適当なのかよくわからない魔法使いである。
ゲーム筐体は図書館の角においてある。わざわざ小悪魔に頼んで運びなおしてもらったのだ。
現在のそれには、様様な魔術的装飾が施されていた。魔方陣が書かれていたり、注連縄がまかれていたり、まあ色々である。
奇遇な事に窓──スクリーン部分は何も手を加えられていない。プレイに支障をきたす事はないだろう。多分。
電気を供給する部分、いわゆるコードにはこれまた奇妙なマジックアイテムが装着されている。
「……なにこれ」
というのが、レミリアの第一印象であった。大体の人はそう言いたくなるだろう。
正確には電気でこれを動かすわけではないのだが、そこは魔法の不思議エネルギーだのリークパワーだのでどうにかした。
それを数日でやってのけたのは、ひとえにパチュリーの才能のおかげだ。パチュリーは結構天才なのだ。
「とりあえず、動かしてみましょうか。咲夜もまってるみたいだし」
咲夜はいつの間にかレミリアの傍らに立っていた。気配無く立っていた従者にレミリアは驚いて、大きく飛びのいた。
パチュリーがゲーム筐体を弄くると、スクリーンに黄色の文字が表示され、メロディーが流れ出した。
幻想的な音色だ。機械ゆえのチープさ、というよりは人工っぽさはあるが、それを補って余りあるほどに美しい旋律。
「いい曲、じゃないの」
レミリアは日々の疲れが癒されていくのを感じた。そういえば、音楽を聴くのも久しぶりだったかな。
画面に表示されている文字は、真ん中に大きく数字、その上下に一行ずつ英文が書かれていた。
上に書かれている文は『WARMING UP NOW』で、数字は一秒ごとにどんどん減っていく。
レミリアは疑問を口にした。
「何かを準備してるのか?」
「待ってればわかるけど」
直ぐに数字はゼロになる。同時に画面にでかでかと現れる文字は、
「GRADIUS? 短剣?」
「さあ、どういう意味かは知らないけどね」
などといっているうちに、急に画面が変わる。デモプレイという奴である。きゅいんきゅいんと高い効果音がちょっとうるさい。
そこに表示されるのは、一機の戦闘機が多くの敵を殲滅していく映像──なのだが、レミリアたちにはわからない。
え、なによこれ──などとあわてふためいているレミリアに、パチュリーが的確に指示を出す。レバーのついた台を指差して、
「そこのボタン──それじゃなくて、そう、それ。それを押すと始まる」
「何が」
「なにかが、よ」
「パチェも知らないのね」
「うんにゃ、説明が面倒なだけ」
レミリアが苦笑しながらボタンを押し込むと、軽快な音。
それと同時に画面中央にはSTARTと白の表示が点滅する。
美しいBGMとともに、ゲームが始まった。
※
画面中央、宇宙のど真ん中に表示されるのは戦闘機。超時空戦闘機ビックバイパー。某戦艦とは関係ない。
レミリアはしばらくその戦闘機を、これなんだ、と眺めながら音楽に聞き入っていた。
その平穏を突如こわすのは、敵。バクテリアンと称されるが、その設定はゲーム中はどうでもよかったり。
敵は画面右上から編隊を作ってやってきた。
「え? なになに?」
レミリアが突然のことについていけないでいると、その敵は回転しながら、その身を武器とした。
ビックバイパーに敵がぶち当たる。ビックバイパーは爆発四散。敵も四散。スコアに百の得点が入る。
そして再度STARTの文字とともにゲームが再開した。何がなにやらさっぱり──レミリアは既に恐慌状態だった。
「レミィ、そこの突き出した棒を取って。そこで真ん中の白いのが動く。あと、ボタンのどれだかで弾幕みたいのがはれる」
「え、あ、うん」
言われたままにレバーを手に取る。今ここに新たなシューターが誕生した。年齢五百歳。多分、世界一高齢なシューター。
しかし悲しいかな、やはり生まれて初めてのゲームゆえか、上手く操作が出来ずにまた爆発四散。
……とりあえず、敵が来る前に弾幕の練習ね。ええと、これかな。
ビックバイパーの前部から弾が放たれた。豆粒の様な弾が一発だけ。
「え。これだけ?」
「たくさん押せば連発できるわよ。あ、咲夜、紅茶」
パチュリーは既に言うことはなくなったようだ。イスに腰掛けて、脇にかかえていた本を読み出す。
咲夜がどこからともなく取り出したティーセットで紅茶を淹れる。さりげなく己の分まで用意しているのがちゃっかりしている。
レミリアがそんな様子を眺めているうちに、敵がまたまたやってきた。
「またきたよ、飽きないモンねぇ」
とりあえず敵の体当たりをさけるために左へとレバーを倒す。緩慢とした動きで白の戦闘機が左に動いた。
まっすぐ飛んでいた敵が、急に方向を転換する。ビックバイパーが先程までいた位置をねらう軌道だ。
すでにそこに戦闘機はいなかった。故に、それは決定的な隙を生むことになる。
かと思いきや、そのまま画面右へと帰ってしまう。
「あ、待って待って!」
レミリアは慌ててショットボタンを連打するが、残念なことに数機逃してしまった。
肩を落として落胆するレミリアに、咲夜が注意を呼びかける。
「お嬢様、下からもきています」
「お、本当だ」
再度、ショットボタンを連打する。今度は一機も残さずに倒す事が出来た。よっし、とレミリアはガッツポーズ。
最後の一機を倒した後には、なにやら四角い、真ん中がオレンジの変な物体があった。少しずつ左に流れてきている。
これはカプセル、というアイテム。これをためてパワーアップボタンを押す事で、画面下部に表示されたボーナスを得ることが出来る。
このゲームにおいて必須で、しかしこのゲームの難易度を上げる要因ともなるシステムだ。
つまるところお助けアイテムなのだが、レミリアは突然の敵の襲撃に疑心暗鬼になっている。
「これ、触っても大丈夫なのかしら」
「多分大丈夫。敵を倒した後には、財宝があるパターンが多いし」
パチュリーが適当に言う。とりあえず、友人の言に従がって戦闘機をカプセルに当てる。
すると、奇妙な音を立てて画面下部にあるバーの『SPEED UP』という部分が点灯した。
「うん? スピードアップ?」
どこか押せばいいのかな──レミリアは当たりをつけてボタンを適当に押した。
すると、高い音とともにビックバイパー後部の青い炎が点滅し、大きくなった。
なになに、と思っていると画面右から敵が飛来した。今度は三機、さっきとは違うタイプのものだ。
ひとまず敵を倒そうと、レバーを倒して気付く。
「あら、スピードが上がってるわ。なるほどね」
敵を撃退する。今度はカプセルは無い。
その後に敵がどんどん来襲した。下、上、と編隊をつくってきたり、三機だけのがきたり。
三機だけのやつの、赤いのを倒すとカプセルがでた。それを取りにいこうとして、敵にぶつかられて死んだ。
「あ──死んだ──!」
まあ、復活するからいいかな。と思っていたら、軽快な音楽とともにGAMEOVERと表示された。
当然、ゲームであるからこそ制約はある。残りの機数しか復活出来ないのだ。得点ごとにEXTENDはするが。
ちなみに、この筐体の設定は三万ファーストの八万エブリである。閑話休題。
「ところでお嬢様。それは妹様に差し上げるのでは──」
「うぅん、わかってるけどねぇ、もう少しだけ」
結局、一日中遊び続けたレミリアだったとさ。
※
「やっとここまできたわ……」
目の下の隈をさらにさらに濃くしたレミリアが呟く。ごくり、と固唾を飲み込んだ。
画面の上下に、大地がある。敵の群れる大地の上空に乾いた風が吹き、その中を白の機体が駆け抜けていく。
既にステージ一も最後の最後。ダブル火山のエリアに差し掛かっている。
ここまでくるのに、スピードを上げすぎて激突死したりとか、レーザーを選ぼうとしてダブルをとったりなど、いろいろあった。
それらが走馬灯のように目の前に流れて行く。まあ、まだラストステージではないが、レミリアは勘違いしているのだ。
残りは一機。とうとう、ボスの前座であるボーナスステージが始まる。
BGMが変わった。先程までの軽快なものとは違う、どこか遊園地のようなそれ。
「な、なによこれ!?」
突如の大噴火。火山の真上に居たビックバイパーは、哀れ星のくずに。
ゲームオーバーの子気味いいメロディーと、心を落ち着かせるランキング登録のメロディーが響き渡る。
REM、と──少しだけなれた手つきで、ネームを入力する。
放心状態。もう少しでクリアだったのに、とか、色んな思いが渦を巻いている。
不意に、うふふふふふ、とレミリアは不気味に笑った。楽しそうな笑いだが、聞くほうはそうでもない。
「もう一回、もう一回──」
どぉん、と図書館が揺れるが、レミリアは気にしない。
彼女は既に、当初の目的をみうしなていた。妹をどうにかするという目的は、もはやどうでもよかった。
ゲームのモニタが、淡い光で彼女を照らす。聞きなれたメロディーが彼女の耳を刺激する。
咲夜が淹れた紅茶も、すっかり冷めてしまっていた。
目の下の隈は前より深い。満足な睡眠を取れていない証拠だ。
いや、あえて睡眠をとっていないのか。睡眠時間は、以前よりも減っていた。
本来眠れるようになることが目的だったのに、前よりも睡眠時間が減っている。本末転倒だ。
「まずは、スピードアップを二回。そのあとミサイルで──」
ぶつぶつ、と低い呟き。
お嬢様はすっかりグラディウサーになってしまいました。
でも、彼女が一千万点シューターになれるのは、ずっと後の事。
というかその前に寝不足でホントに死ぬかもわからんね。
彼女は吸血鬼。吸血鬼レミリア・スカーレット。五百年を生きる、夜の支配者の末裔だ。
いつも通り、彼女は傍らの使用人に視線で紅茶を促す。どこからとも無くティーセットが現れ、カップに紅茶が注がれる。
優雅な動作だ。彼女も、その使用人も。ただ、夜の支配者の目の下に隈が出来ていなければ。
夜の支配者は昼に寝る。当然だ、夜こそが彼女の時間。また同時に彼女の活動が許される時でもある。
この頃は博麗神社に訪ねるため、昼に行動することも無いではないが、やはり夜が一番落ち着く。
そんな彼女の目の下に隈がある。理由は単純だ、単なる寝不足。満足な睡眠が出来ていないというだけ。
くぁ、とあくびがもれる。睡眠不足は日常の行動にも影響するし、肌荒れの原因にもなる。実に厄介だわ──レミリアは考える。
彼女が寝不足である原因は、実は身近な所にあった。というよりも、身近であるから寝不足の原因になりえるのか。
どぉん──腹の底から響くような地響きがして、館全体が揺れる。
床が揺れ、机が揺れ、ティーカップが倒れる。紅茶の湖が机上に形成され、広がりを見せてから床にしずくをたらす。
何事も無かったかのように、使用人はふきんをとりだす。床までこぼれた紅茶をふき取ると、何事も無かったかのように定位置につく。
「またか」
彼女は嘆息する。これで何回目になるかしらね、と。
そう、これはいつものことだ。いつもいつも、やかましい音と共に館全体が揺さぶられる。それが彼女の不眠の原因。
慎ましい声で、傍らの使用人が声を上げた。主人を気遣う色はそれほどはない、事務的な声だ。このやり取りも数度目になる。
「妹様は、今日も退屈なさっているようですが」
「それは分かっているわ、咲夜。分かった上で、それをどうするかが問題だ──」
「これは失礼しました」
洗練された動作でお辞儀する。彼女の動作にかげりは無い。
彼女──十六夜咲夜は人間である。が、時間を操れるので別に周りが煩かろうが、時間や空間を操ってしまえば関係ない。
結果としていうと、彼女は別に安眠できるのだ。主人が安眠できずともどうでもいい。少なくともそこまで気にしていない。
正確には、レミリアが目覚めやすい体質なだけ。いつでも刺客を迎え撃てるように意識しているのが仇になっているのだ。
この館、紅魔館の地下にはレミリアの妹が軟禁──半ば監禁状態だが──されている。
彼女の力が強すぎる上に制御が利かないので、被害を出来うるだけ減らす処置としてとったのだ。かれこれ五百年ほど地下に居てもらっている。
その少女は白黒の魔女だの、紅白の巫女だとの係わり合いで精神が安定してきたかと思われていた。
が、最近は彼女等の訪問も少ない為、ここに来てまた癇癪が爆発してしまったらしい。
退屈は何よりも辛い拷問だ。それはレミリアとて分かっている。五百年も生きれば、退屈な時間も応じて長くなる。
だが妹を地下から出すのも危ぶまれる。結局何もしてやれず、彼女は不眠症に悩まされるのだった。
「あ」
「どうされましたかお嬢様」
その時彼女は、運命を読む力で見てしまった。
「い、いや何でも無いわ」
「ならばよろしいのですが」
夜の支配者たる吸血鬼が、不眠症を元に健康を損ない、しまいには死んでしまう未来を。
──ぜ、ぜったいにそれだけは変えなくちゃ! さすがにソレは余りにもお粗末過ぎる!
不眠症に死の恐怖を抱く、五百歳児童であった。
ですとろいぜむおーる!
レミリアの妹の名はフランドール・スカーレットという。何でも破壊できちゃう怖い能力を持っている。危険度はかなり高い。
そんな妹に、自分が間接的に殺されようとしているのをレミリアは感じている。ぶっちゃけ今は確信している。このままだと死ぬ。
とにかく何らかの対処を施さねばならないだろう。彼女が暴れる原因、即ち退屈を取り除いてやればいいのだ。
自分が遊んでやるのは却下。まず己の命が危ない。死なない為の対処なのに、それで死んだら後世までの笑いものになってしまう。
一晩──もとい一昼悩んだ結果、咲夜に何か玩具を買ってきてもらう事に決めた。
善は急げと咲夜にある程度のお金を持たせて、お使いを命じた。どこで何を買ってくるかは彼女に一任した。寝不足で考えられなかっただけだ。
彼女は直ぐに帰ってきた。時間操作が出来る彼女には、往路と復路の時間はゼロで十分なのだ。
レミリアは早速その玩具を見に行った。妹に与えるものではあるが、やっぱりそこは自分も気になる。
「お嬢様、玩具を買ってまいりました」
「ごくろうさん」
自室。一応労わりの言葉をかける。なんだかんだで今一番苦労しているのは自分だとは思うが、それはそれだ。
その玩具は広間においてあるそうだ。なぜここにもってこないのさ──レミリアは咲夜に聞くが、玉虫色の返事が返るだけだった。
ふわふわ、と屋敷内を飛びながら広間に向かう。時折窓から日差しが入り込むので、咲夜が日傘を差すことで日差しを遮る。
広間には一つの箱が置いてあった。なかなかに大きな箱だ。これが件の玩具かしら──どうなのだろう、良くわからないものだ。
箱には窓のようなものが取り付けられていて、窓の下からちょこんと突き出したところには、先に球のついた棒とボタンが突き出している。
なんだろ、これ。五百年という長い時を生きてきたレミリアであるが、その彼女の知識のどれにもこんな箱はなかった。
知らないのが当然なのだ。その箱はいわゆる『外の世界』における技術の結晶、機械と呼ばれるものだから。
その機械の中でも特に娯楽を目的として作られたもの。ゲーム筐体、という奴である。
それもシューティングと呼ばれるジャンルのそれだ。そんなことまでレミリアが知るはずもない。
「咲夜、これは?」
純粋な疑問を従者にぶつけた。問いかけられた従者は、レミリアの胸部のような平坦とした口調で返す。
「玩具ですけれど」
「それはさっき聞いた」
「はあ──」
咲夜は気の無い返事をする。なんとも煮え切らない態度である。
もう少し教育をするべきかも──レミリアは従者の態度に不服だった。
だから声を少少荒げてしまう。
「はあ、って何だ。はあ、って! 咲夜が買ってきたんでしょ!」
怒りっぽいのは子供の特徴というが、レミリアは既に五百歳なので単なるヒステリといえるかも知れない。
寝不足によるストレスも大きかったのだろう、彼女の沸点はそうとう低いところまで下がってきていた。
具体的にはお気に入りのぬいぐるみに上四方固めをきめるくらい。眠れぬ暇つぶしにやっている節もあるが。
「といわれましても、香霖堂で買ってきたものですから──店主の説明もよく理解できませんでしたし」
「なら、その説明とやらをさっさと教えなさいな」
はあ──理不尽な主人に、溜息とも返事ともつかぬみょうな音をだす咲夜であった。
それから説明の終盤に入るまで、レミリアのご機嫌は傾いたままだった。
従者とは、かくも苦労が絶えない仕事である。
「なるほど、つまりそこの機械とやらは、デンキというものが無いと動かないわけね」
「そういうことになりますね」
説明も終わり、レミリアの機嫌もそこそこ直ってきた。こういった癇癪はたまにあるので、咲夜の対処もなれたものだ。
なれたからといって、主人の理不尽な怒りを受けるのが気持ちいいわけでもない。出来れば怒らせないようにはしようと思う。
思うが、この見た目お子様な吸血鬼の精神は子供のそれと似ていて、予測できない部分が多多ある。
何に対して怒られるかわからないのだ。対策のしようもない。
「で、そのデンキとやらはあるの?」
「いえ──取り扱っていないそうでして──」
語尾をにごらせる。さすがにこれは己の落ち度か、と咲夜は諦めた。
機能しない玩具など、ただのガラクタでしかない。いや、ガラクタだからこそ香霖堂にあるのか。
思わず身構えるが、レミリアの対応は先程とは打って変わって普通なものであった。
「そう、ならしょうがないわね」
どういう意味か咲夜にはわかりかねたが、後に続く言でその意味を理解した。
「パチュリーに頼んでみましょう。図書館に持ってくわよ」
その体躯に似合わず、ゲーム筐体を軽々と持ち上げたレミリアは、図書館へと向かってすたすたと歩き出す。
咲夜はあわててその後を追うのだった。
※
「デンキ?」
本が大部分を支配する、広大な空間の中で少女の声が響く。冷淡な響きを持った声は本に吸い込まれていった。
声の主は長髪をいただく少女。彼女もその齢は百を越えているが、どちらかというと病弱な印象を受ける。
事実、彼女は喘息もちなので、それが原因で大魔法の詠唱──彼女は魔法使いだ──ができないという。
「デンキ、ねえ?」
再度重ねるように声が響く。
机際のイスに腰掛けた少女は、膝元の本から片時も視線を外さない。
机をはさんで向かいのイスにはレミリアが、床までつかない足をぶらぶらさせている。傍らには従者。
「そう、デンキよ」
レミリアが平坦な胸をはって言う。
そう、と少女は蒼白い指で本のページを捲った。不健康すぎるまでに白い肌だ。
本に集中しているが、話をきいていないわけではない。むしろ友人であるレミリアの言なので熱心にきいている。
「パチェ、心当たりはある?」
レミリアが少女に尋ねる。
パチェ、とは少女の渾名の様なもので、本名はパチュリー・ノーレッジという。
二つ名は動かない大図書館。それではただの大図書館だけど、きにしない。
「デンキ──」
言葉の途中でパチュリーは机上から白のティーカップを持ち上げる。咲夜が入れたものだ。
既にぬくもりは霧散していたが、だからといって不味くはない。一口だけ飲んで、また机にもどした。
紅茶のほかに、こじんまりとした皿にクッキーが置かれているが、本にかけらが落ちるので読みながらは食べない。
パチュリーが本から視線を上げ、顔を上げて図書館の一角を指差す。あっち、と本棚の林立する──どこもそうだが──場を指して、
「デンキならあっちに腐るほど、というか腐ったのもある──」
「本当? ありがと!」
言葉が終わるや否や、レミリアはどたばたと駆け出した。パチュリーの眉間にしわが刻まれる。
そこで、今まで会話に参加していなかった咲夜がレミリアを呼び止めた。
「お嬢様、それはたぶん伝記かと」
パチュリーはそれがレミリアの望む『デンキ』でない事は理解していた。
しかし、今彼女の機嫌はよろしくなかったのだ。少女は視線をめぐらせて溜息をつく。
図書館のど真ん中、大層邪魔になる場所に、ゲーム筐体がその巨体をもって存在を誇示していた。
※
レミリアがうーうーうるさいので、パチュリーは『デンキ』とやらを半ば強制的に探す事になった。
最近は魔法の研究も行きづまっていたし、気分転換にはちょうどいいかも──とは当人の言である。
結局、せっかく買ってきた玩具をつかうこともなく数日が過ぎた。あいも変わらずお嬢様は寝不足。
目の下の隈は一層深くなっていた。紅茶を飲む元気はまだあるが、人間の血を吸う気力はない。
食欲がない。今日は軽い物だけで済ませよう。咲夜に頼まないと。思考も普段より鈍い。
屋敷の紅い壁がレミリアに人の血を想起させる。うぷ、と吐き気を催した。食欲がないというのに。
「今日もご機嫌斜めね、レミィ」
珍しい事に広間のテーブルにパチュリーがいた。レミリアは子供特有の大きな目を、さらにまん丸にして彼女を見る。
まるで幽霊でも見たかのような彼女の視線に、パチュリーは口をへの字にした。
「何、その視線は。せっかくあの玩具を動かせたって教えに来たのに──」
「ああ、そうなの。じゃあ見に行きましょうか……」
とぼとぼと力なく広間を後にする姿に、さすがに尋常ではない様子を感じ取ったのか、パチュリーが聞く。
「ちょっと、レミィ。ずいぶん疲れているようだけど大丈夫?」
「ええ、だいじょうぶだいじょうぶ」
だいじょうぶだいじょうぶ、とうわ言のように繰り返す姿はまるで幽霊のようだった。
うわ、とさすがのパチュリーもちょっとばかしあとずさってしまう。レミリアの背後に人魂までみえた。
これは本格的にまずいかも知れないわね──まあ、玩具は動くようだし、後は妹様をどうにかすればいいか。
友人思いなのか、適当なのかよくわからない魔法使いである。
ゲーム筐体は図書館の角においてある。わざわざ小悪魔に頼んで運びなおしてもらったのだ。
現在のそれには、様様な魔術的装飾が施されていた。魔方陣が書かれていたり、注連縄がまかれていたり、まあ色々である。
奇遇な事に窓──スクリーン部分は何も手を加えられていない。プレイに支障をきたす事はないだろう。多分。
電気を供給する部分、いわゆるコードにはこれまた奇妙なマジックアイテムが装着されている。
「……なにこれ」
というのが、レミリアの第一印象であった。大体の人はそう言いたくなるだろう。
正確には電気でこれを動かすわけではないのだが、そこは魔法の不思議エネルギーだのリークパワーだのでどうにかした。
それを数日でやってのけたのは、ひとえにパチュリーの才能のおかげだ。パチュリーは結構天才なのだ。
「とりあえず、動かしてみましょうか。咲夜もまってるみたいだし」
咲夜はいつの間にかレミリアの傍らに立っていた。気配無く立っていた従者にレミリアは驚いて、大きく飛びのいた。
パチュリーがゲーム筐体を弄くると、スクリーンに黄色の文字が表示され、メロディーが流れ出した。
幻想的な音色だ。機械ゆえのチープさ、というよりは人工っぽさはあるが、それを補って余りあるほどに美しい旋律。
「いい曲、じゃないの」
レミリアは日々の疲れが癒されていくのを感じた。そういえば、音楽を聴くのも久しぶりだったかな。
画面に表示されている文字は、真ん中に大きく数字、その上下に一行ずつ英文が書かれていた。
上に書かれている文は『WARMING UP NOW』で、数字は一秒ごとにどんどん減っていく。
レミリアは疑問を口にした。
「何かを準備してるのか?」
「待ってればわかるけど」
直ぐに数字はゼロになる。同時に画面にでかでかと現れる文字は、
「GRADIUS? 短剣?」
「さあ、どういう意味かは知らないけどね」
などといっているうちに、急に画面が変わる。デモプレイという奴である。きゅいんきゅいんと高い効果音がちょっとうるさい。
そこに表示されるのは、一機の戦闘機が多くの敵を殲滅していく映像──なのだが、レミリアたちにはわからない。
え、なによこれ──などとあわてふためいているレミリアに、パチュリーが的確に指示を出す。レバーのついた台を指差して、
「そこのボタン──それじゃなくて、そう、それ。それを押すと始まる」
「何が」
「なにかが、よ」
「パチェも知らないのね」
「うんにゃ、説明が面倒なだけ」
レミリアが苦笑しながらボタンを押し込むと、軽快な音。
それと同時に画面中央にはSTARTと白の表示が点滅する。
美しいBGMとともに、ゲームが始まった。
※
画面中央、宇宙のど真ん中に表示されるのは戦闘機。超時空戦闘機ビックバイパー。某戦艦とは関係ない。
レミリアはしばらくその戦闘機を、これなんだ、と眺めながら音楽に聞き入っていた。
その平穏を突如こわすのは、敵。バクテリアンと称されるが、その設定はゲーム中はどうでもよかったり。
敵は画面右上から編隊を作ってやってきた。
「え? なになに?」
レミリアが突然のことについていけないでいると、その敵は回転しながら、その身を武器とした。
ビックバイパーに敵がぶち当たる。ビックバイパーは爆発四散。敵も四散。スコアに百の得点が入る。
そして再度STARTの文字とともにゲームが再開した。何がなにやらさっぱり──レミリアは既に恐慌状態だった。
「レミィ、そこの突き出した棒を取って。そこで真ん中の白いのが動く。あと、ボタンのどれだかで弾幕みたいのがはれる」
「え、あ、うん」
言われたままにレバーを手に取る。今ここに新たなシューターが誕生した。年齢五百歳。多分、世界一高齢なシューター。
しかし悲しいかな、やはり生まれて初めてのゲームゆえか、上手く操作が出来ずにまた爆発四散。
……とりあえず、敵が来る前に弾幕の練習ね。ええと、これかな。
ビックバイパーの前部から弾が放たれた。豆粒の様な弾が一発だけ。
「え。これだけ?」
「たくさん押せば連発できるわよ。あ、咲夜、紅茶」
パチュリーは既に言うことはなくなったようだ。イスに腰掛けて、脇にかかえていた本を読み出す。
咲夜がどこからともなく取り出したティーセットで紅茶を淹れる。さりげなく己の分まで用意しているのがちゃっかりしている。
レミリアがそんな様子を眺めているうちに、敵がまたまたやってきた。
「またきたよ、飽きないモンねぇ」
とりあえず敵の体当たりをさけるために左へとレバーを倒す。緩慢とした動きで白の戦闘機が左に動いた。
まっすぐ飛んでいた敵が、急に方向を転換する。ビックバイパーが先程までいた位置をねらう軌道だ。
すでにそこに戦闘機はいなかった。故に、それは決定的な隙を生むことになる。
かと思いきや、そのまま画面右へと帰ってしまう。
「あ、待って待って!」
レミリアは慌ててショットボタンを連打するが、残念なことに数機逃してしまった。
肩を落として落胆するレミリアに、咲夜が注意を呼びかける。
「お嬢様、下からもきています」
「お、本当だ」
再度、ショットボタンを連打する。今度は一機も残さずに倒す事が出来た。よっし、とレミリアはガッツポーズ。
最後の一機を倒した後には、なにやら四角い、真ん中がオレンジの変な物体があった。少しずつ左に流れてきている。
これはカプセル、というアイテム。これをためてパワーアップボタンを押す事で、画面下部に表示されたボーナスを得ることが出来る。
このゲームにおいて必須で、しかしこのゲームの難易度を上げる要因ともなるシステムだ。
つまるところお助けアイテムなのだが、レミリアは突然の敵の襲撃に疑心暗鬼になっている。
「これ、触っても大丈夫なのかしら」
「多分大丈夫。敵を倒した後には、財宝があるパターンが多いし」
パチュリーが適当に言う。とりあえず、友人の言に従がって戦闘機をカプセルに当てる。
すると、奇妙な音を立てて画面下部にあるバーの『SPEED UP』という部分が点灯した。
「うん? スピードアップ?」
どこか押せばいいのかな──レミリアは当たりをつけてボタンを適当に押した。
すると、高い音とともにビックバイパー後部の青い炎が点滅し、大きくなった。
なになに、と思っていると画面右から敵が飛来した。今度は三機、さっきとは違うタイプのものだ。
ひとまず敵を倒そうと、レバーを倒して気付く。
「あら、スピードが上がってるわ。なるほどね」
敵を撃退する。今度はカプセルは無い。
その後に敵がどんどん来襲した。下、上、と編隊をつくってきたり、三機だけのがきたり。
三機だけのやつの、赤いのを倒すとカプセルがでた。それを取りにいこうとして、敵にぶつかられて死んだ。
「あ──死んだ──!」
まあ、復活するからいいかな。と思っていたら、軽快な音楽とともにGAMEOVERと表示された。
当然、ゲームであるからこそ制約はある。残りの機数しか復活出来ないのだ。得点ごとにEXTENDはするが。
ちなみに、この筐体の設定は三万ファーストの八万エブリである。閑話休題。
「ところでお嬢様。それは妹様に差し上げるのでは──」
「うぅん、わかってるけどねぇ、もう少しだけ」
結局、一日中遊び続けたレミリアだったとさ。
※
「やっとここまできたわ……」
目の下の隈をさらにさらに濃くしたレミリアが呟く。ごくり、と固唾を飲み込んだ。
画面の上下に、大地がある。敵の群れる大地の上空に乾いた風が吹き、その中を白の機体が駆け抜けていく。
既にステージ一も最後の最後。ダブル火山のエリアに差し掛かっている。
ここまでくるのに、スピードを上げすぎて激突死したりとか、レーザーを選ぼうとしてダブルをとったりなど、いろいろあった。
それらが走馬灯のように目の前に流れて行く。まあ、まだラストステージではないが、レミリアは勘違いしているのだ。
残りは一機。とうとう、ボスの前座であるボーナスステージが始まる。
BGMが変わった。先程までの軽快なものとは違う、どこか遊園地のようなそれ。
「な、なによこれ!?」
突如の大噴火。火山の真上に居たビックバイパーは、哀れ星のくずに。
ゲームオーバーの子気味いいメロディーと、心を落ち着かせるランキング登録のメロディーが響き渡る。
REM、と──少しだけなれた手つきで、ネームを入力する。
放心状態。もう少しでクリアだったのに、とか、色んな思いが渦を巻いている。
不意に、うふふふふふ、とレミリアは不気味に笑った。楽しそうな笑いだが、聞くほうはそうでもない。
「もう一回、もう一回──」
どぉん、と図書館が揺れるが、レミリアは気にしない。
彼女は既に、当初の目的をみうしなていた。妹をどうにかするという目的は、もはやどうでもよかった。
ゲームのモニタが、淡い光で彼女を照らす。聞きなれたメロディーが彼女の耳を刺激する。
咲夜が淹れた紅茶も、すっかり冷めてしまっていた。
目の下の隈は前より深い。満足な睡眠を取れていない証拠だ。
いや、あえて睡眠をとっていないのか。睡眠時間は、以前よりも減っていた。
本来眠れるようになることが目的だったのに、前よりも睡眠時間が減っている。本末転倒だ。
「まずは、スピードアップを二回。そのあとミサイルで──」
ぶつぶつ、と低い呟き。
お嬢様はすっかりグラディウサーになってしまいました。
でも、彼女が一千万点シューターになれるのは、ずっと後の事。
というかその前に寝不足でホントに死ぬかもわからんね。
て、なかなかやめれなかったからなーw
スピィダップ!ダボゥ!ゥレィザァ!…と喋るネタも読んでみたかったw
弾幕といえばグラⅤですかね
グラ好きとしては満点を付けざるを得ない
バブルシステム版はメンテナンスが難しいからこれからどんどん幻想入りしそうだな・・・
後期には普通の基盤タイプのも作られたんでしたっけ
モーニングミュージックは今ではグラディウスポータブルでも聴けるからいい時代になったなぁ
……レミリアは全力で噴火を避けようとするタイプかなぁ。
あとレミリア、このゲームは「GRADIUS」で短剣は「GLADIUS」だぞ
グラディウスはよく知らんのですが、睡眠時間削ってもやる気持は理解できる。
難しいこと細かいことは考えず、ストレートに楽しめる作品でした。面白かったwww