Coolier - 新生・東方創想話

東方公開決闘~賢者の妖怪退治~

2010/07/17 11:01:40
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バトルものです、暴力シーンや痛々しい描写が苦手な人にはお勧めしません。
同タイトル作品の続きですが、一話一戦で前のを読んでなくとも大丈夫な構成のつもりです。

~前回までのあらすじ~
霊夢と紫の提案で博麗神社での宴席に限りスペカ戦でない決闘が許されることになった。
第一回の決闘は早苗・妖夢らが戦い、最後にミスティアがレミリアに2対2の決闘を申し込み幕を閉じた。


「明日だよなミスティアがやるのは」
満月の晩、霧雨魔理沙は決戦を明日に控えたミスティアの屋台に来ていた、さすがに屋台ではがさばる大きな帽子は脱いで左隣の空席に置いている。
場所は妖怪の山の麓、夜風が涼しく虫たちの鳴き声が耳に心地よい。

「特訓でもしてるのかと思ってたぜ、普通に営業してるとはな」
「今日は気持ちのいい夜だから、ね」
「随分、余裕じゃないか、それで誰と組むんだ?」

ミスティアは魔理沙の質問を苦笑いして受け流し、手元のよく焼き上がった八つ目鰻を皿に乗せ魔理沙に差し出した。

「はい、お待ちどうさま、それは明日のお楽しみで」
「勿体ぶるなよ~」

それまで魔理沙の右隣で二人の掛け合いを黙って見ていたもう一人の客がわざと、コンッと音が出るくらい少しだけ力を込めて杯を置いた。
杯の動作に反応した二人が、その客に注目する。

「あなたこそ、随分と楽しみにしてるようね」

淡い水色の着物をゆったりと着こなし、帽子についた渦巻模様が特徴的な彼女は白玉楼の主、西行寺幽々子であった。

「あぁ楽しみだぜ、幽々子はやらないのか?」
「決闘は血と肉を持つ者がするからいいのよ、私がやったって興ざめよ」
「ふぉんなもんはぁ(そんなもんかぁ)」

魔理沙が八つ目鰻を頬張りながら適当な相槌を打つ。

「それより妖夢がまたやりたがってるわ、あの子はアレで好戦的なところがあるから」
「いい事じゃないか、汚名挽回するべきだな」

魔理沙の誤用なのか皮肉なのか分からない言い回しに二人はどちらであっても滑稽だと感じてクスクスと笑った。

「でも、どうしてレミリアなのかしら?」
「あの子が一番からかったら面白そうだったからかな」

幽々子の問いにあっけらかんと答えるミスティアを見て、また魔理沙が身を乗り出してくる。

「レミリアは強いぜ、みんなミスティアには荷が重いと思ってるようだが」
「うーん、強い、強いかぁ、そうゆう物差しはやっぱり人間だね」

洗い物を終えたミスティアが手を拭きながら相変わらずあっけらかんと答える。

「へ!? そ、そうか?」
「人間ね、人間三昧」

意外な返され方をして珍しく動揺する魔理沙へ、幽々子が追い打ちのからかいをした。
魔理沙は釈然とせずに鰻の串をプラプラさせながら「うーん」と唸り、改めて正面からミスティアを見る。

「こうして見ると人間の女将さんみたいだけど、そーゆーとこ妖怪だよな」

噛み合わないやりとりに、三人の誰からということなく笑いが沸き起こり場が和む。
こうして満月の夜は更けていった。


一夜明け、決闘の十六夜の晩。
夜の博麗神社に再び多くの人妖が集まっていた、前回と同様に境内の中央には大きな円を描き幾つものかがり火が配置され、即席の闘技場が出来上がっていた。

「よっ霊夢、今日も盛況じゃないか、また早苗はやるのか?」
「やるわよ~、私が選んだ妖怪とね」

前回と同様、闘技場を囲む人垣の最前列にいた霊夢を見つけて魔理沙が後ろから声をかける。
霊夢は腕組みを解かず前を向いたまま、更に続けた。

「前のパルスィの持ち味は精神的な怖さだったけど、今日のはもっとシンプルにね」
「泣かなきゃいいけどな」
「前回がイマイチだったからトリじゃないけどね、だからもうすぐ…って、あれ?」

霊夢は最初に戦うはずの早苗が出てくるのを待っていたが、闘技場に現れたのは意外な人物二人だった。
青を基調とした服装に下部に穴の開いたデザインのスカート、特徴的な箱型の帽子を被って現れたのは里の半人半獣、上白沢慧音である。

慧音に続いて現れた物憂げな表情の少女は、ゆったりとした薄桃色の服に髪の左右に赤と青の結い具をつけた、紅魔館の魔女パチュリー・ノーレッジであった。

霊夢は予定外の二人の登場にも、さして驚かず敢えて何も口を出さずに二人が闘技場の中央に歩み出るのをを見守った。

「お集まりのみなさん聞いてほしい、私としてはこの決闘の試みに諸手をあげて賛成ではないのだが、この場を借りて退治したい妖怪がいる」

慧音の発言に決闘を楽しみにしているギャラリーのボルテージが一気に上がり、其処此処から「先生ー」「いいぞー」「慧音ー」という歓声が聞こえてくるが、慧音自身は極めて冷静にギャラリーに掌を向けるジェスチャーをして静まるように示した。

「ご存じだろうか?昨今、人里近くの墓地が掘り返され、あるいは葬列が襲われ遺体が持ち去られるという事件が頻発している、もちろん妖怪の仕業だろう」

一旦、言葉を切った慧音がすぅっと息を吸い、ギャラリーの一点を指さし強い口調で言い放つ。

「お前のことだ、火焔描燐!!」

慧音の指さした先には火車妖怪、火焔描燐が地霊殿のペット仲間と共に観戦に来ていたが、お燐は我関せずといった感じで、隣のお空から肘でつつかれようやく慧音の方を向いた。

「お前の妖怪としての性(さが)は解る、だが、おとなしく野垂れ死にした死体だけを持ち帰っていろということだ」

慧音が話し終えてもお燐は話を聞いているのかいないのか、右手で三つ編みをいじりながらぼーっと宙を見つめていた。

「ふーん」

じっと見つめられ、ようやくお燐は一応の反応を示して慧音を見る。
右手は三つ編みを触ったまま、左手の甲を上にし人差し指と親指だけ伸ばした手で慧音を指さし、無邪気に笑った。

「じゃあさ、お姉さんの死体貰うけどいいよね?答えは聞いてないけど」

ようやく三つ編みを触るのをやめて肩の高さで広げた掌の上に、おぼろげに髑髏の輪郭を成した炎が燃えあがる。
髑髏の炎はお燐が使役する怨霊である、お燐は手の上の怨霊を愛おしそうに見つめていた。

「どうだろうか?霊夢」

自分に伺いを立ててくる慧音に対し、霊夢は深くため息をついて一応は呆れた反応を示したが、次の瞬間には込み上がってくる笑みを隠しきれず愉快そうな調子で応える。

「何が『賛成ではない』よ、やるき満々じゃないの、まっ、好きにやっていいわ」
「感謝する」

それまで黙って様子を見ていたパチュリーが無言で手を差し出し、慧音はそれに頷いて帽子を預けた。

「ふうぅ」

お燐に向き直った慧音がゆっくりと息を吐き両手の間に俗に“大玉”と呼ばれる見た目の割に実体が大きくない弾を作り出す。

「はっ!」

大玉を真上へ打ち出す、弾はある程度の高さまで達すると宙空に静止した。

「パチュリー殿、頼む」

パチュリーは無言で頷き、本を抱えていない右の掌を頭上の大玉に向けて掲げる。

「月光『サイレントウェーブ』」

パチュリーの掌から発せられた淡い光が一旦は放射状に広がっていくが、宙に浮かぶ大玉に近づくにつれ大玉に吸収され収縮していく。
やがて光を吸収した大玉は大きさを増し、表面の質感が変わり、光を全て吸い尽くす頃にはクレーターまで完全に再現した小さな満月と化した。

「ううぅ、があぁぁっ!!」

人工の満月の光に呼応し、慧音の五体に変化が現れる。
頭には二本の角が生え、犬歯は異常に巨大化し牙の様相を成し、青を基調としていた服は何度かゆっくりと青と緑に点滅を繰り返すうち完全に緑に変わっていった。

「待たせたな、化け猫」
「おおっ、お姉さんはハクタクだね、強い死体と賢い魂、両方ともあたいが貰ってあげるよ」

慧音のハクタク化に驚き興奮するお燐は、自身の後ろに置いてあった猫車を無造作に片手で持ち上げ、正面に置き両手持ちの体勢になった。
話が終わり、二人の間の空気が緊張の度合いを増す。

慧音は深く前傾して角で相手を牽制するような構え、それに対しお燐は正面で猫車を両手で持ち少し膝をまげて、いつでも前へ出れる体勢だ。
左半身の慧音が更に前傾を深くし左前腕を左膝の上に軽く乗せられるくらいの低さになる、対してお燐も同じように正面から見ると猫車の荷台から眼だけを覗かせるくらいの低さになった。

「はっ!」
「ふぅんっ!」

両者が同時に駆ける、角と猫車がぶつかり合い、ギイィィンっと鉄を打つ音が響いた。
競り勝ったのは慧音だった、猫車が手を離れ数回バウンドして後方に転がる。

突進の勢いをそのままに慧音はお燐の胴を角で挟み込み、足の指先から、足首、膝、腰、背、そして首と全身の可動部をひとつの大波のようにうねらせ、お燐を頭上に放り投げた。

「もらったっ!」

落下してくるお燐を角で突き刺そうと待ち受ける。
しかし、串刺しの感触はやってこない。

「猫は身軽なのさ、ってね♪」
「なんだとっ!」

お燐は角の先端に人差し指一本で倒立していた。
そこから縦に反回転して肩車の体勢になり、慧音の顔面を掻きむしる。

「っしゃあぁっ!!」

慧音が肩に乗るお燐を振り落とそうとしたとき、不意に背後から接近してくる気配を感じた。
見れば先ほど弾き飛ばした猫車が自走して迫っている。

「あれはっ!? ぐっ」

猫車に激突されて慧音がうつ伏せに倒れこむと、頭上にいたお燐は上から馬乗りになる。
慧音は背に乗るお燐に対して苦し紛れに角で牽制しようとするが、不利な体勢からでは効果はなかった。

「おっとと、すぐ終わるからね~」

お燐は左手を顎に右手を左のこめかみの辺りに当てて首を捻ろうとしてきた、慧音はとっさに顎を引いて首に力を込め折られまいとする。

「なんのっ!転生『一条戻り橋』」

慧音のスペル発動により、通常の術者から周囲に拡散する弾幕とは逆に、周囲から術者に集まってくる弾幕が自身の背に乗るお燐に向かっていく。

「わっと」

攻撃を中断して背から飛び退くお燐、慧音は起き上がって折られそうになった首に手をあてて一応の安堵をした。

(こいつ、躊躇わずにくるな)

慧音はずっと違和感を感じていた、お燐とどれだけ話しても暖簾に腕押しどころか、こうやって戦っていても真剣みが感じられない、その違和感の正体が今の攻防で解りかけてきた。
人間同士が憎しみ合い戦う時、痛めつける、究極の場合は命を奪うということが目的になるが、お燐の場合は違う、目的は死体の回収であり、“命を奪う”ということさえ一つの過程にすぎない。
その心の在りようの違いが違和感の正体であると。

「お姉さん、おとなしく運ばれちゃいなよ」
(『運ばれる』か、やはり勝負の先の事を言うやつだ、いや勝負ですらないのか)

慧音はお燐の言動から、改めて眼の前の相手が少女の姿をしていても、人とは決定的に違う妖怪であるということを実感した。
その実感が慧音の意識を当初の“懲らしめる”という意志の疎通ができることを前提としたものから、そうでないものに変えていく。

「いくよ、恨霊『スプリーンイーター』」

再度、距離をとったお燐がスペルを発動した。
怨霊と弾幕が慧音の全方位から螺旋を描き近づいてくるのに加えて、4時方向からは猫車が、10時方向からはお燐自身が迫ってくる。

(後ろが一呼吸分、早いな)

慧音はお燐自身を最も警戒しつつ、後ろの猫車にも気を配る。

(距離、4m、2m、いまっ!)

後ろは振り向かずに左へ跳んで猫車の突進をかわす、背後から横を通り過ぎていった猫車が慧音から見て斜め前方でお燐とぶつかり合う形になった。

「よっとっ!」

お燐は迫る猫車を踏み台にして慧音の頭上を飛び越え、再び背後をとり背中に密着する。

(狙いは飽きもせず首か)

先程と同じくお燐は首を捻ろうと手をかけるが、何故かそこで動きが止まってしまった。
両手は慧音の頭部にぎりぎりで触れることなく、小さく痙攣している。

「知っているか?ハクタクの角は全部で6本ある」

慧音があえて振り返らずに問いかけるが、お燐はそれに答える事はなく、ついには両手を力なく垂れてしまった。

「がっ、かはっ!」

お燐の吐血が肩越しに慧音の頬にかかる。
背後をとられた慧音は何も仕掛けた様子はないにも関わらず、お燐には謎のダメージ。
一部を除いたギャラリーには、すぐに慧音の攻撃手段は解らなかった。

「上手いわね、決まりかしら」
「ああ、えげつない先生だぜ」

霊夢と魔理沙は気付いていた、ハクタクの6本ある角の、残りの4本が背から生えてお燐の胴を串刺しにしてい事に。
よく見ると、お燐の背には僅かだが貫通した角の先端が見える、角の周りの四ヶ所は深緑の服を赤黒く染めていた。

「ふんっ!」

背後のお燐を突き刺したまま、柔道の投げのように腰に乗せて前方へ投げ飛ばす。
慧音はそのまま自分自身も体を放り出し、二人ともども仰向けに倒れ背を預けて体重をかけた。

「げはぁっ! がっ」

四本の角が、更に深くお燐の胴を貫き、先程よりも大量の吐血をする。

 びちゃ びちゃ びちゃ

吐き出された血は噴水のように真上に吹き出し、それが降り注ぎお燐の上に乗る慧音の顔を汚す。
慧音は余裕を持ってゆっくりと立ち上がり、お燐を見下ろした。
背から生えた4本の角は既に姿を消し、血の跡だけが残っている。

「終わりかな、うん?」

瀕死の筈のお燐が、仰向けのまま首だけをわずかに起こして不気味に笑い、何故か天を指さしていた。
それまで戦いに夢中で気がつかなかったが、そういえば人工満月の光が弱まっていると、慧音は感じて上空を仰ぎ見る。

「何っ!?」

上空では色のない、どこか寒々しい妖精たちが人工満月に群がり蠢いて、そいつらの影が月光を遮っていた。

 パチッ!

地上のお燐が指を鳴らし合図をすると、妖精たちが一斉攻撃を始め人工の月は瞬く間に爆発、霧散してしまう。
それに伴い、慧音の角が尻尾が緑色の服が、ハクタク化が元の人間の姿に戻っていく。

「しまった」
「ゾンビフェアリー!」

未だ倒れたままのお燐が血を撒き散らしながら叫ぶ。
空に手を伸ばし、見えない何かを掴むように拳を握って、引き寄せる動作をすると、お燐の動きに連動して上空の妖精が一斉に慧音に向かって降下してきた。

「なんだ、こいつらは」

妖精たちは頭部といい、上半身といい、慧音の身体にまとわりついていった。
大きなダメージにこそならないが、着実に身体の自由を奪われていく。

「あああぁぁっ!!」

お燐が突如として跳ね起き、転がっていた猫車を片手で持ち上げ慧音に殴りかかる。
その攻撃は、相手のどの部位、どの急所を狙うといった要素は皆無だ。
ただ力任せに、まとわりつく妖精たちもろとも叩き潰す本能の一撃である。

ガゴンッ、と骨と鉄のぶつかる音が響く。

強烈な一撃をくらい、慧音はふらついて膝をつきそうになるが、寸でのところで堪える。
額からは一筋の血が垂れ、お燐の返り血と混ざりあっていた。

「はは、やっぱり人間だと脆いね、運びづらくなっちゃうかな」

お燐は猫車を縦にして、転がってしまわないように荷台部分を地につけて寄りかかった。
大ダメージを負い肩で息をしているが、表情は生き生きとして愉快そうだ。
敵は人間に戻され、強烈な一撃を食らい、さぞ動揺しているだろうと思った。
しかし、慧音は落ち着いた様子で静かに佇むだけだ。
あえて二人分の血で汚れた顔を拭わずにいることが、不気味さに拍車をかけている。

「これはあまり使いたくなかったが、怨霊はお前の専売特許ではないことを教えてやろう」

予想外の敵の反応に加えて、自身の領分である“怨霊”という言葉に、お燐の方がわずかだが動揺してしまった。

慧音が手の甲を上にして右拳を突き出すと、紫がかったお燐が使役するものとは異質な怨霊が手元に集まっていく。
やがて集まった怨霊達は、右拳親指側へ地面と平行に真っすぐ伸びて一本の棒のようになる、棒は慧音自身の肩幅ほどの長さだ。

「はっ、はあぁぁっ」

左手を右拳に添えて、ゆっくりとスライドさせてゆくと、それまで輪郭がぼやけていた怨霊の棒が直線になり、左手が棒の先端に達したところで怨霊達が一際大きな光を放つ。
光が収まると慧音の右手には剣が握られていた。
その剣は日本刀でなく、青銅製で武器というよりは呪術的な用途の物に見えた。

「これぞ、黒歴史アイテム“草薙の剣”」

対戦者のお燐も、戦いを見守るギャラリーも、一様に突如現れた謎の武器に注目した。

「草薙の剣ですって!?」
「あの剣がどうかしたのか? 怨霊がどうのって言っていたが」
霊夢は慧音の武器のおかしな点について、何も気づかない魔理沙の質問に苛立って言い返した。

「怨霊ってとこじゃなくて、ああもうっ! 草薙の剣っていうのはね、今でも外の世界で大切に受け継がれてる物なの、それが幻想郷にあるなんてことは…」
説明を受けても釈然とせず首をかしげる魔理沙に構うのはやめて、霊夢は一人で呟きながら思案する。

「草薙の剣に怨霊、怨霊ねぇ、あっ! もしかして」
「気付いたようね、アレの正体に」

霊夢と魔理沙が声に振り返った先にいたのは、今回の慧音の協力者であるパチュリー・ノーレッジだ。

「パチュリー!」
「魔理沙は少し勉強が必要ね」

パチュリーは魔理沙が質問してくるのを先読みして遮り、霊夢に向き直る。

「察しの通り、慧音のアレは寿永4年(1185年)、壇ノ浦の戦いで平氏と共に海に沈んだ宮中の分身の方よ」
「やっぱり、それなら幻想郷にあるのも頷けるわ」


戦いの場は膠着していた。
お燐は一気呵成に攻めたいところであったが、慧音のハクタク変身時を上回る奇妙な迫力に気押されていた。

「感じるか? これには歴史の波に翻弄され滅んだ一族の怨念が詰まっている、寄せ集めのお前の怨霊どもとはわけが違うぞ」
(あたいの他に怨霊使い!? それも今は人間の半獣が?)

慧音が一歩を踏み出すのに合わせて、お燐は一歩後ずさる。
自分が無意識のうちに下がってしまった事に気づき、気持ちを奮い立たせ前へ踏み出そうとするが、何かがお燐の足首を掴み、前進を阻んだ。
掴まれた足首にびちゃっと、濡れた感触がする。
ひんやりとした水の冷たさの後に、じわりと妙に温かい人の体温を感じた。

その何かはゾンビフェアリーのように色のない鎧をまとった武者たちであった。
よく見れば、向こうが透けて見えることから霊の類であることがわかる。
最初、足首だけを掴んでいた武者の怨霊たちは、ふくらはぎ、太もも、腰回りと、徐々にお燐の身体をよじ登ってきた。

「ひっ、ゾンビフェアリー!!」

咄嗟にゾンビフェアリーたちをけしかけるが、武者の怨霊に近づいただけで妖精たちは形をなくし、武者たちと同化していった。

(取り込まれてる)
「下賤な怨霊を従えるのが、妖怪であるお前の限界のようだな」

慧音が草薙の剣の先を、お燐に向けると剣から人魂が二つ放たれる。
お燐の背後に回り込んだ人魂は、新たな武者の怨霊へと姿を変えて完全に身動きが取れぬようお燐を抑えつけた。

「はあああっ!!」

一閃。
慧音が気合と共に駆け寄り、渾身の斬撃を放つ。
祭具のような剣であったが十分に武器としての役割を果たし敵の肉を斬る。
お燐の口からは、痛みの悲鳴は出ずに、ただ吐息だけが漏れた。

「人の歴史の中で、神にまで昇華された怨霊の力を見るがいいっ!」

慧音はお燐の胸元に草薙の剣を突き立てた上で、前蹴りを食らわせた、ダメージよりも押し倒すことを狙った蹴りである。
蹴りに合わせて武者の怨霊たちは霧散し、お燐は胸に剣が刺さったまま仰向けに倒れる。

「天神!」

慧音が叫び、五指を力いっぱい開いた右手を天にかざすと、一瞬のうちに空に暗雲が立ち込め腹の底に響く雷のゴロゴロという音が鳴った。

「『ライトニング・ミチザネ』」

右手を振り下ろすと同時に、夜の空気を揺さぶる特大の雷が草薙の剣を避雷針にしてお燐に打ち降ろされた。
強烈な稲光が辺りを照らし、一瞬だけ昼間のような明るさになる。

「う~、目が、って今度こそ、決まりね」
「ああ、慧音が何を言ってるのかわからなかったが」

稲光で目が眩んだ霊夢と魔理沙に視界が戻る、お燐は倒れたまま動かず、慧音はようやく顔についた血をぬぐっていた。

「って、あれ? パチュリー!」

気がつけば、二人の傍にいたパチュリーは慧音へ歩み寄り、預かっていた帽子を返すところだった。

「お疲れ様」
「せっかく協力して貰ったのに、ハクタクで決め切れずに申し訳ない」
「ううん、面白かったわ、歴史の授業」

凄惨な戦いの後には似つかわしくない、悪戯っぽい笑みで話しかけるパチュリーに慧音もダメージを忘れて思わず笑顔になっていた。

戦いを終えた二人が退場する時、霊夢たちの元へは戻らず、次に戦いを控えた早苗の方へ歩いていく。
横を通り過ぎる時、慧音が早苗の肩に手を置いた。

「楽しいものだな、妖怪退治」
毎度、気がつくと予定よりもエグい描写になってしまいます。

今回は、慧音に歴史ネタを使わせてみたり、元ネタを知らない人が見ても違和感を感じない程度の軽めのパロディも入れてみました。
ペロの飼い主
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コメント



0.280簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
痛々しいのは描写じゃなくて…。
5.70ダイ削除
まあ、同じくバトル物を愛する者としてはこの手の作品が増えて欲しいのですが

一言申し上げるなら、ミスチーとレミリアが戦うんじゃなかったの?
9.50名前が無い程度の能力削除
ミスティアを楽しみにしていたのに!

面白くはありましたよ
でもなぁ