――来た来た。
張り巡らせた感覚の網に、人間が引っかかる。
私は自らが高ぶるのを感じた。
強敵が近づいてきている。神を相手にできるくらいの実力者が。
それはおそらく、山の下の巫女だろう。平和ボケした顔でやるじゃあないか。
早苗はやられたか――、いや、それで構わない。いや構わなくはないけど。ウチの可愛い可愛い、もう頬ずりしたいくらい可愛い早苗に弾幕を撃って傷を付けるのだから、殺意が湧いてくるけれども。
でも、たまには神だって羽目を外して暴れ回りたいのだ。早苗には悪いが。
身内でそう言うことやると、手の内を知っているせいでこざかしい読み合いになってしまう。私はどうもそう言うのが苦手だ。
大体、ウチの蛙はこざかしい。おお嫌だ嫌だ。外見年齢と精神年齢が合致していないとはこれいかに。それでいて外見でポイントを稼ぐとは全くコンチクショウ。あいつに神社の表仕事やらせた方が信仰されてたかもしれない。
……話がそれた。あの巫女、人間の身でここまで来るか。
外で見なくなって久しい天狗や河童、そして外から消えた神々がこの山にはわんさか居るようだった。
特に天狗は保守的で排他的な身のようだし、妨害もあったろう。
それらをかいくぐってここまで来るのだから、大層な実力と見て構うまい。
楽しみだ。思わずニヤニヤしてしまう。
戦闘欲をもてあますね、全く。
やがて、あの巫女を目視できた。境内の入り口付近。
――うわっ、派手な巫女だなぁ。クッキリしたコントラスト。
何というかまぁ、早苗とは対照的だ。それが良い意味なのか悪い意味なのかは分かりかねるけども。
ウチの早苗は真面目で清純で……。
ああ、また話がそれた。ともかく、奴で神遊びだ。我が熱きオンバシラが疼くわ。
神力を使って瞬間転移。姿を現し、重々しく言う。
「我を呼ぶのは何処の人ぞ」
決まった。カリスマたっぷり。
測定すれば七万二千ジュール程度のカリスマね。
これだけの威厳があれば、いかな強者だろうと気圧されることは必至。ましてこやつは只の人間――、
「……え、今回の六面って道中無いの?」
「ん?」
周囲を見渡す。
「ゴフッ!?」
……ステージタイトルのテロップが私にぶつかってきた。
テロップ硬っ。
「*おおっと* スマン、何でもない」
姿を消す。何処からか「真似するなー」と抗議の声が聞こえた気がする。が、無視。
******************************
人間、誰にでも失敗はある。
恥じて悶えたくなることもある。
タンスを整理していたら奥の方から出てきた中学校時代の小説とかがそれだ。だが、それを恥じることは決してない。何故なら神だってそうなのだから。
そして、失敗した奴を笑ってはいけない。
そんなわけで、さっきブラウザの前で笑った奴、挙手しろ。殴る。いや、オンバシラですりつぶす。
よし、お前とお前、それと赤服で青いオーバーオールのお前、後でちょっと来いや、な?
巫女は妖精をなぎ倒しつつ、順調にこちらへ近づいてきているようだ。
……あ、ボムった。待て待て、そこでボムるか普通。ちょっとこの巫女の強さに疑問を抱いた。
やがて巫女は上空へと舞い上がる。
そして口を開いた。
「何だろう、この気持ち悪い柱の山は……」
貴様。
ウチの可愛い早苗と弾幕ごっこをしたあげく不遜にも不遜にも不遜にも倒して、あげく私のオンバシラコレクションにケチを付けるとは、不届き千万、派手巫女のくせに! リボン巫女のくせに!
これは神遊びなどしている場合ではない、叩きのめしてやらなくては。徹底的に、そう、徹底的に! 大事なことなので二回言いました!
「我を呼ぶのは何処の人ぞ」
怒りで声が震えるが知ったことか。むしろ台本通りに喋ってるんだから褒めて欲しい。
「え、何、アンタさっき同じ事言わなかったっけ?」
「おや? なーんだ、麓の巫女じゃないの。私に何か用?」
おや、どうも巫女は台本をきちんと覚えていないらしい。
これだから若手は困る。台本に忠実に。アドリブなんて百年早いわ。
「ちょっと、人の話を聞きなさいよ」
台本通りに喋れよッ! 私にアドリブなんてできるか!
全く、最近の若者は決まり事を変えようとするからいけない。
この場合、私もアドリブで返事をしないと会話が成り立たない。アドリブと言えば気の利いた台詞。気の利いた台詞――。
『えー、かにゃこ、わかんなーい』
棄却。
神として、自らカリスマを消滅させる真似は避けなくてはならない。
「最近は、厳かな雰囲気を見せるよりも友達感覚の方が信仰が集まりやすいのよ」
アドリブは諦めた。だって私役者じゃないもん。神様だもん。ピッチピチの。
おい、誰だ今笑った奴。何処で笑った。
……ピッチピチ? ホホォ、良い度胸だ。朝起きたら髪の毛が全てオンバシラになっていても泣かないことだな。
話は変わるが、友達感覚で信仰を集める、その典型がウチの二人(一人と一柱)だ。
少し天然の入った真面目な高校生風祝と、子孫がいるにも関わらず幼女然とした外見を持つ神。
男の考えることはよく分からんが、まぁ、一部の連中からすると凄くイイらしい。
そしてそう言う連中からすると、私はアウトな存在らしい。何がアウトなのか知らんが凄く腹立たしい。
ふむ、お前がそういった類の人間か。よし分かった、後で楽屋に来い。目上の人に対する接し方を教えてやる。主に肉弾戦で。
「だから人の話を聞いてよ……まあいいや、うちの神社を乗っ取ろうとするの、あれ困るからやめてくれない?」
派手巫女め、ようやく台本通りに喋ったか。だが許さん、今度は私がアドリブで返してやる。
せいぜい困るがいい。
「えぇー、だって信仰欲しいんだもん。私神様だしぃ。ぶーぶー」
「うわっ……」
何だ「うわっ……」って。おい、離れるな待てこら、おい。
やめろその顔、ちょ、おい、やめろって。
ああ、巫女が馬鹿なことやるから、覚えてた台本の中身が飛んだじゃないか。何だっけ? ああそうだ。
「よろしい、ならば戦争だ」
こう言ってスペルカードを取り出すんだったわね、確か。
……盛大に間違えた気もするのよ。ちょっとばかし。
「戦争……? いやもう何だって良いわよ。とりあえず乗っ取り計画みたいなのはやめて貰う」
「ぶーぶー」
「うわっ……」
貴様、二度も「うわっ……」などと。おい、離れるな待てこら、おい。
……泣くぞ。神だって泣くんだい。悲しさ余って怒り百倍。
必ず叩きのめす。
「言っておくよ、巫女」
「何」
「私は最初からクライマックスよ」
「……はぁ。まあ、そっちの方が手っ取り早くて良いんだけど。小手調べされるのとか面倒だし」
ふふん、余裕ぶっこいて居られるのも今の内、我がオンバシラの前にひれ伏すがいい!
私は右手を高く天に振り上げ、高らかに叫ぶ。
「Hey Come on,エクスパンデッドオンバシラァァァァァァ!」
雷鳥のテーマに乗せて、社務所のオンバシラ格納庫より、我が麗しのオンバシラが飛んでくる。
さあ来い、黒光りする我がバット。月夜に駆けろ、そして我と一体化!
飛んできたソレは、私の背中のしめ縄にドッキングし、ガッキーンという効果音を――、
ぐにゅん。
――あぁ?
オンバシラの調子がどうも悪いらしい。というか、最悪のようだ。普段ならガッキーン、良ければジャキィンの所が、今日は、ぐにゅん。
ぐにゅんて。それナマモノが立てる音じゃないか。そう言って私は我が熱き血の滾るオンバシラを見た。
太巻きであった。
中身? 知らんがな。
――犯人? 諏訪子に決まってる。
(諏訪子ォォォォ! 何て時に何てことしてくれるのよぉぉ!)
あの貧乳大魔神め、悪戯にだって、していい事と悪い事っつうもんがあるでしょうが。
例えば、寝てる早苗にあれこれするのは、して良い事。それに対し、私のオンバシラにアレコレ狼藉を働くのは、絶対にしてはならない事!
諏訪子よ、そもそもお前、今日私がこの巫女と戦うって知ってたよな。知ってた上でこれか、この悪戯か。
あの蛙はタチが悪い。いつぞや私にボロクソにやっつけられて、ひがんでいるのか。昔のことをいつまでもグジグジとねちっこい奴め。ミシャグジグジ。
しかし、そうやってぼやいてみたって、今更。
ええい、ままよ!
「さあ来い巫女! 我がオンバシラの前に屈するが良いわ!」
自分で言ってて凄く空しい。
「……くっ、巨大な柱を背中に背負って戦うだなんて、何てハイセンスな奴なの――!」
巫女、オンバシラの良さが分かるあたり、お前とは仲良くできそうな気がする。初めてオンバシラの良さが分かる人間に出会ったわ。
ぐっじょぶ、ハイセンス巫女。
でもね、巫女、ちがうの。これ柱ちゃうの。海苔と酢飯と具材なの――。
ああ、巫女。そんな真剣な表情しないでよ。何か申し訳なくなってくるから。
巫女に罪悪感を抱くのは構わないけれど、いつまでもこうして呑気にしている訳にはいかない。
何か、何かスペルカード無かったっけ。オンバシラ無しで使えるような奴。オンバシラ使うこと前提だったから、自力使用可のスペルカードなんてほとんど用意してないんだよなぁ。
巫女の針を避け、適当に通常弾幕を張りながら胸の谷間を探ること数秒、私は絶望した。
つまり、自力で撃てるスペルカードを一枚も作っていなかったのである。幻想郷にやって来て、スペルカードルールに触れてから今までの間、ただの一枚も。馬鹿じゃないの私?
「何よ、通常弾幕しか出さないわけ? 張り合いが無い」
ああ、ごめんよ巫女。だがスペルカードが撃てないんだもん、しょうがないじゃないか。
次善策を私は採ることにした。即ち、太巻きをオンバシラの代わりに使っても、問題なく放てるスペルカードだ。
――あるわけねぇだろコンチクショウッ!
自分に毒づく。一瞬でもそんなこと考えた私が馬鹿みたいだった。一体どんなスペルカードだ、太巻き使って放つって。
「なんだ。もったいぶって出てきた上、ハイセンスだから期待したのに、てんで弱いんじゃないの」
違うのよ巫女。これは違うの。色々と。残念な状況のお陰なのよ。
泣きたい。なんかもう、めっちゃ泣きたい。
諏訪子の馬鹿野郎、いや、馬鹿蛙郎。
やけくそで適当にスペルカードを宣言する。
「筒寿司『神の太巻き』!」
ああ、馬鹿じゃないのか私は。
こんな弾幕撃っても簡単に破られるだろう。
そうすればこの巫女は、きっと私を笑う。
神としてのカリスマ性も大暴落。布教したって誰も見向きもしません。必然的に信仰集まりません、そうすれば当然消えますグッバイ。
そう。そう思っていた時期が、私にもありました。
「な――なによこれぇっ! ハイセンスだわ!」
巫女が恐慌気味に叫んだ。……最後の方の言葉は、聞かなかったことにしよう。
私は我が目を疑ったね。
だって、目の前に展開されているのは、ルナティックもかくやと言わんばかりの弾幕なのだもの。
原因? 太巻き以外にあり得ない。
太巻き、超すっげぇ。
私の涙は驚きで乾いた。今度は巫女が半泣きになる番だ。ああ、サド心をくすぐる表情だなぁ。
そして、私は素晴らしい案を思いついた。
「ふ、……ふははははっ、思い知ったか巫女、これが神の力よ!」
種まき。ええ、種まきですよ。
くだらない事に思う人もいるだろう。挙手。あ、いや、今回は殴らないから。ね?
――ほお、またお前か。何だ、つんでれなる物か?
だがまあ、聞いて欲しい。これは確かに、小さな種に過ぎない。が、こうすればきっと、巫女は私の話を他人にする。そうすれば幻想郷は私を畏怖するだろう。
すると、私のカリスマは上がること間違いなし。
布教して信者が一杯。必然的に信仰がっぽがっぽ、お布施がっぽがっぽ。お布施御殿建設。いや――太巻き御殿だ!
可愛い早苗は私に絶対的尊敬を寄せるようになり、蛙はほぞを噛んで悔しがる。
なんて素晴らしい光景。じゅるり。
「くっ……! 今まで一度も負けた事なんて無いのにぃっ!」
巫女が被弾。
勝った。私は勝ったのだ。
つまり、信仰がっぽがぽ!
今日からオンバシラコレクションはやめよう。その代わり太巻きをコレクションしよう――。
「あの神様、ノーマルよりイージーのが難しいのよ。ハイセンスだわ」
「あやややや、大人げないんですねぇ」
「それは信仰できそうにないぜ。まあ、する気もないが」
****************************************
「もしかして、前に早苗や神奈子と戦ったりしたのって……」
「そう、ただの神遊び、つまりお祭り。今日は私の弾幕お祭りの番よ!」
べーんべーんべーんべーん、べれれれれでれれれでれれれでれドゥルルル! だららだららだらだららだららだら……。
決まった! 私カックイイ! BGMもネイティブフェイスがバッチリ!
あとはこの巫女をじっくりねっちょり料理するだけね。
本当は、巫女が攻め込んだ初日にやっつけて、可愛い早苗から尊敬されようと思ってたんだけどねぇ。
神奈子が何か倒しちゃったもんだから、後日って形になっちゃったわ。しかも早苗の尊敬は神奈子寄りになってるし。
全く、どちくしょう。何だって太巻きがあんなチート臭い能力持ってるわけ? ――自分が撒いた種だからアレコレ言えないのがなんともまた、むかつく。
「あんたは大人げの有る神様なわけ?」
「あーうー、あいつより精神年齢は高いつもりだけどねぇ」
「それは助かるわ。それなら倒せるし。あっちの弾幕はハイセンスすぎて、よけれないのよ」
カチンと来たわ。倒せる? ふざけんじゃ無いわよ。
私は神奈子より(一部の人から)人気があるのだ。伊達にウン千年幼女してませんから!
「倒せるもんなら。――『洩矢の鉄の輪』!」
さぁ来い、私の大事な鉄製リング。浮き輪としても使用可。
外側に付いてるギザギザのお陰で、簡単に大根おろしが作れます。今ならこのキュウリ輪切りにする奴と合わせて、たったの一万八千ジンバブエドル。もちろん送料無料。
電話番号は……はいそこ、メモ用紙と鉛筆探さない! 嘘に決まってんでしょう! しかも何、見つけたボールペンに限ってインク切れってベタなのよ!
……あれこれ言っている間に、鉄の輪が来た。幼女に似合わぬ無骨なフォルム。しかしそれがイイって大きいお友達の皆さん(守矢神社の収入源です)が言ってた。
私はそれをキャッチして叫び、
「口に装着、ぴーぴーぷー! ってコレ笛飴やん!」
地面に投げつける。
神奈子めッ! 仕返しのつもりか!
だが私はくじけない。だって神様だもん。
「何て素晴らしいノリツッコミなの……! ハイセンスだわッ!」
巫女お前おかしい!
しかし困った。鉄の輪はナイスな初見殺しなんだけどなぁ。
あれが無いと結構本気で弾幕しないとなんない。面倒くさ。
しかし、そんな私のアレコレも気にせず、巫女は目を輝かせて話し続ける。
「あんた素晴らしいセンスの持ち主ね……! その帽子をチョイスする感覚、幻想郷にファッションブームを巻き起こせるわ!」
いや巫女、お前の感性は大丈夫か。大丈夫じゃないな、その派手な服装。
だが帽子に目を付けるとはなかなかだ。この巫女とは上手くやって行けそうな感じがする。
「ハイセンスだわぁ……そのシルクハット、素晴らしいわよ!」
……ん?
なあ巫女よ、これはシルクハットじゃなく、ケロちゃん帽だ。見れば分かるだろ? やはり、ちっとばかし感性がずれてるなぁ。
シルクハットだなんて、あんなもんとケロちゃん帽を比べてもらっちゃあ困る。ケロちゃん帽はもっと可愛らしい形で、しかしながらも格好良い。
そうやって自分の頭をちらと見て――。
神奈子ぉぉぉ!
そして食べたくなった!
相変わらず切れ味抜群ですねww
どんなけデカイ太巻きなんだw
さて、そのシルクハット、目が付いてるか付いてないか・・・それが問題だ。
お帰りなさい。
神奈子様の太巻き弾幕で思う様『ハイセンス!ハイセンス!』ってシャウトしながらぴちゅりたい。
あと博麗の巫女さんはこの上なくハイセンス&神奈子様の嫁。
早苗さん?
ケロ神様と言う供物(あいて)が居るじゃないか。
何このハイセンス
……オイ早苗さんが出てねえぞ。
自分に作る技術ないのが残念だwww
「ハイセンスだわ」
もうこの一言で……ええもう、見事にヤられてしまいましたとも。
流石は喚く狂人様、私達に出来な(ryるうっ!
これからもお待ちしております!
ついでに自分も洩矢の信者になりますとも。
神奈子様を信仰したらハイセンスに腹いっぱい太巻き食えるって。夢みたい。
でも神奈子様、好きだからオンバシラですり潰すのは簡便してくださいw
「神々の」
「「遊び」」
テロップってイメージ映像じゃなくて本物だったんですね。
しかも超硬い。
軍神タケミナカタも祟神洩矢神=ミサグジ様も畏れない作者怖すぎますw
早苗のご両神はきょうも元気そうです。