Coolier - 新生・東方創想話

トワイライト・ゾーン

2009/04/24 12:36:40
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幻想郷。
不思議な物語が決して不思議ではなくなる世界。
幻想の力によってのみ知る事が出来る謎の世界。
では、幻想郷のお話を、この作者でご覧ください。


******


電波入りフレッシュゴーヤジュースの時ですらやらなかった初めての前書き。

このSSはいわゆる幻想郷入りモノです。多分。ううん、知らないけど絶対そう。
レイ・ブラッドベリ様の『オリエント急行は北へ』が元ネタです。すごくネタバレ含むので注意。
あとトワイライトゾーン(ミステリーゾーン)を知ってる人が居たらなんか嬉しい。
以上前書きでした。


******




<境界のこちら側>へ、ようこそ。

                           -或る隙間妖怪


******


そうして。
二人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。


******


「ね?あなたが、お話が上手なおばあさん?」
「あらまあ、小さなお客様ですね。上手かどうかはわかりませんが、よくあなたみたいな子にお話を聞かせていますよ」
物語は、女の子がある老婆を訪ねるところから始まります。
老婆は語り手として評判で、近所の子供に人気がありました。
少女は老婆に物語をねだります。
そして老婆は少女に語り始めるのです。自らが体験した、トワイライト・ゾーンへの旅を。
「そうね…こんなお話はどうかしら」


******


むかし、むかし。
ある列車に、一人のおばあさんと、一人のおじいさんが乗っていました。
おばあさんは看護婦で、苦しむ人を見つけては、あれこれ手を焼き身を粉にし、助けてあげるが生きがいでした。
おじいさんは幽霊で、ぜぇぜぇはぁはぁ虫の息。だぁれも夜を怖がらないから、栄養不足で消えそうでした。
…出会った二人はどうしたか?
おばあさんは腕まくり。たとえ幽霊お化けでも、助けてみせます生きがいだから。
おじいさんはぐったりと、今にも何処かへ消えそうで、幽霊らしい青い顔。冷たく脈打つ心臓も、遂には止まって動かない。
東方急行はイギリスへ。お化けと看護婦、二人を乗せて。


******


「ね、ね?」
と、語りを遮る声。小さな子供の声だった。
「『いぎりす』ってどこ?」
「そうね…とっても遠い所ですよ」
答える声は老いた女性の声。
けれど。と、その声は続ける。
「あなたがそう望めば、もしかしたらそう遠くはないかも知れないわ。そういう場所」
いいえ、此処こそがそういう場所なのかしら。そう老婆は呟く。
ふうん、と子供は頷いた。難しい話はよく分からない。そういう時にはこう言う風に、分かったふりをして相槌をうつ事にしている。
「…ね?お話、続けて?」


******


おばあさんは大慌て。何しろ患者は幽霊で、今まで助けたことがない。
どうすりゃ良いかも知らないけれど、とにかくまずは、励まします。
そして気づいた治療法、幻想・浪漫・物語。信じる心が栄養と。
だから彼女は語ります。不信が渦巻く列車のさなか、ロマンが溢れるお話を。
レベッカ・猿の手・ハムレット。
あれこれ頑張り栄養あげて、トクリと心臓動き出し、おじいさんは死に返り。
一息ついたおばあさん、疲れを取る為一休み。


******


「…死に返り?おじいさんは元気になったの?」
「なんとか、その時はね。でも、もちろん生きてはいないから、死に返ったの」
ふうん、と、子供は相槌をうった。


******


列車を船に乗り換えて、二人の旅は続きます。
なんとか動ける幽霊は、けれど今にも消えそうで、ぐらぐらくらくら人の中。
これでは埒があかないと、おばあさんは考えます。そして見かけた一つの答え。
嫌がる幽霊引っ張って、看護婦さんが頑張ります。引っ張る先は、遊戯室。
沢山の子供を見回して、おばあさんは問いかけます。


******


一息ついて、慎重に。老婆が口を開きます。
「…あなたは幽霊を信じますか?」
うん、もちろん。と、答えはすぐに返ってきます。
「河童も天狗も信じるよ、だって友達いるんだもん」
胸張り威張る、女の子。語りの続きを急かします。
安堵の笑顔、おばあさん、語りを再び始めます。


*****


集まる子供を見渡して、幽霊さんはおおはしゃぎ。
湧き出た元気に身を任せ、怖いお話始めます。
子供達は怖いお話が大好きで、誰も彼もが怖がります。
するとおじいさんはますます力が湧いて、今やすっかり健康に。
やる事なくした看護婦は、子供と一緒に話に聞き入り仲間入り。
そうして船はイギリスへ。降り立つ幽霊おじいさん、なんと遂には走ります。
年寄り看護婦おばあさん、元気な幽霊目の前に、歓喜に胸を躍らせます。


******


「…それから?」
お話は、ここでお終い?少しだけ不満げに、女の子は問いかけます。
「それから…ね」
少し戸惑うおばあさん、なんとか語りを続けます。


******


おばあさんは予定をかえて、おじいさんと一緒に行くことに。
二人は一緒に北へと向かい、そこには不信の影もなく。
そうして二人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。


******


「こんな話で、どうかしら?」
「うん、二人が幸せになってよかった」
女の子はそう言って、満足気に笑い、河童の元へと遊びに行った。


******


船のタラップをゆっくりと降りていた老婆の体が、ぐらりと傾ぐ。
割れた体温計から溢れた水銀が、イギリスの霧に燻る空の色を写している。陰鬱な、死を匂わせる色を。
医者を、と誰かが叫んだ。だが彼女はもう、死んでいた。
そしていつしか老人の隣へと現れた看護婦は、青白い顔で幽霊へと笑いかけ、二人は北へと向かう。
倒れた誰かを置き去りにして。


******


そう、それが本当のお話。そして北へと向かった私達は、だがその地でも幻想が失われ始めている事を知る。
最早あちら側では我々のような者は存在できないのだ。その事に気づいた私達の前に、彼女は現れた。
こちら側へと向かう事を選択した私達は、いつの間にか体中に活気が満ち溢れている事に気が付いた。
「幻想郷へ、ようこそ」
それだけを言って、彼女は消えた。
…今や漠然としか覚えていない人間の時の記憶、人間の時の感情。
その中から、私は思い起こそうとする。私はいつからこちら側へと歩んでいたのかを。
子供の頃、幽霊を幻視したあの夜だろうか。
それとも、あの人を助けようと決心した時だろうか。
…全てが暗闇に包まれた、あの瞬間だろうか。
私を呼ぶ彼の声がした。いつもの優しい声。けれど、あちら側の人間が聞けば背筋が凍りつくような声に聞こえる筈だ。
私はいつ、境界を超え、あちら側の人に恐怖される存在へと変化したのか。いつ、あちら側の人間には理解出来ない存在へと変貌したのか。
その答えは、彼女にしか分からないのだろう。
胡散臭い笑みを浮かべた、あの妖怪にしか。


******


さて。
彼女はこのようにして幻想の境界を踏み越え、幻想郷へと至りました。
いつ、どこで彼女がそうなってしまったのか、我々にはわかりませんが、この物語を締めくくるには、やはりこの決まり文句が良いでしょう。
そうして。
二人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。


******


幻想の境界<トワイライト・ゾーン>は、あなたの身近にも、存在しているのかも知れません。


******
人でないものを愛した男は、最後に自分が人間であることをやめて、恋を成就させるんだ。ハッピーエンドだよ。だろう?(緑川ボイスでこんにちはの意味)

初めての方ははじめまして、そうでない方は名前避けせずに読んでくださりありがとうございます。
ある意味幻想郷入り第二弾でした。第一弾はAbraxasの揺り篭。別名フレッシュなゴーヤジュース。あちらは生誕への願望なので今回とは思いっきり逆ですね。
『沙耶の唄』や『オリエント急行は北へ』のように、今回のテーマは「あちら側への同化」(同化への恐怖)でした。
どこぞの少佐は「私は、私だ」と言ってましたが、その言葉に心から同意する自分としてはあちら側への同化なんて怖くて怖くて出来ません。
元々あちら側なら良いんですけどそれじゃああちら側がこちら側になってこちら側があちら側になってそんならやっぱりあちら側が怖くて怖くて震え上がるんでしょうねと単純なことを読みにくく書いてみるてすと。
でも幻想郷には行きたい。どうしよう。そんな感じ。

女の子は、最初の設定では第一弾で生れ落ちた子。でもそうすると、この作品の時間では霊夢さんじゅうななさいとかになってしまう。これはヤバい。だぜだー!的な意味でヤバい。のでやめにします。たぶん。


あんまり関係ないけど、ナレーションの千葉耕市さんが好きでした;;
目玉紳士
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