Coolier - 新生・東方創想話

六十年目の東『芳』短編集

2010/12/11 14:44:57
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~スーパーメイドとちるのさん~

「招かれざる人物は、いつも唐突に現れる」

いつだったかお嬢様が言っていた言葉だ。きっと、何か予定があるときに限って厄介な来訪者が現れるとか、そういう意味だろう。
まあ、私もその言葉が本当なのは重々承知している。
何故か知らないか、今日は徹底的に家事をこなそうと思っているときに限って、図ったように現れるのだ。白黒とか、紅白とか、その他諸々。

彼女たちはきっと、私のパーフェクトなメイドぶりをぶっ壊すために送られてきた刺客に違いない。
そうでも思わないと、本当にやっていられないわよ。

図書館にて、本来いないはずの人物を確認しながら、そんなことを私は思う。

「ねー、咲夜」
「……何かしら?」
「絵本読んで!」

にっこりと笑って、そうのたまったチルノの手に握られていたのは『3歳からの量子力学』という本。
絵本か。それが絵本なのか。だとしたら、私などよりはるかに頭の良い幼児が、世の中には山ほどいることになるが。

(パチュリー様!何で図書館にチルノがいるんですか!?)
(だって、別にこの子が来たところで特別被害も無さそうだし。暇だって言うから入れてあげたの)
(被害大有りです!今日はここを大掃除するつもりだったんですよ!?あの子がいたんじゃ、邪魔でしょうがないじゃないですか!)

ひそひそとパチュリー様に話しかけるも、てんで相手にしてもらえない。
傍らには、そんな会話に気付かずに、相変わらずの笑みを浮かべるチルノ。
その瞳はキラキラとした期待に満ち溢れており、断られることなど微塵も考えていないようだ。

「ねー、咲夜」
「……何よ」
「あたい知ってるよ、この本!たしか『残念寝太郎』っていうんだよね?」
「全然違うわよ。そもそも、それを言うなら『三年寝太郎』でしょう」
「あれ?そだっけ?まあいいや、とにかく読んでよぅ!」

一度本を机に置くと、チルノは両手で私の腕を取り、ぶんぶんと振ってみせる。
(うっとうしいなあ)と思いつつも、断ったらきっと泣くだろうなあ、とも思う。
泣くまでいかなくても、かなり不機嫌になるだろうことは間違いない。
そうなったときに、はたして、それを無視して掃除できる非情さが自分にあるだろうか。

「もし、ダメって言ったら?」
「ダメなの!?」
「だって、私も忙しいもの」
「そっか……」
「……」

予想通りと言うべきか、私がこんなことを聞いた時点で、チルノは既にシュンとなり、ウルウルと瞳を潤ませている。
正直、そんなのってずるいと思う。だって、こんな子供に泣かれちゃったら、もう断れないじゃない。

しばらくの間、私はあからさまに嫌そうな表情を浮かべていたが、やがて諦めて頷くと「分かったわよ」とついに折れた。

「え、いいの?やったー!じゃあ、はい!」
「それは貴女には早すぎるわよ。来なさい。貴女向けの本、一緒に探してあげるから」
「えー?ねたろーくらい、さいきょーのあたいなら、簡単に分かるのに。まあいいや、行こっ」
「はいはい」

グイグイと強引に手を引かれながら、私とチルノは本棚へと向かう。
図書館を思う存分掃除するはずが、何でこんなことにとは思うものの、こうなってしまったからには仕方ない。
メイドとして、精々お客様を手厚くもてなすだけだ。

「ねー、ねたろーが無理ならあれ読んでよ!えーと、『カバ地蔵』ってやつ!」
「……『笠地蔵』でしょ。カバって、どんな地蔵よ、それ」

いつまで経っても相変わらずのチルノに、私は思わずため息をつく。
一方のチルノは、そんなことお構いなしと言った様子で鼻歌などを吹いている。余程本を読んでもらうのが楽しみなようだ。
その様子を見ていると、私は何だか昔の自分を思い出して、体がムズムズしてしまう。

(まあ、たしかに本を読んでもらうのって、嬉しいし楽しいのよね)
思い返せば、私も昔はよく、美鈴に本を読んでもらったりしたものだった。
その度に、ワクワクしたり、ハラハラしたり。誰かに本を読んでもらうというのは、実は結構大事な機会なのかもしれない。

歩きつつ、私は、この子にはどんな本を読み聞かせてあげるべきだろうかと考える。

(そういえば、文屋の書いた『金星人と椛と酢味噌』の最新刊が入ってきてたわね)

射命丸文の代表作で、主人公の犬走椛が、酢味噌を用いて金星人絡みの問題を解決するという、キテレツストーリー。
元々は新聞のスキマを埋めるために書かれたものらしいが、今やこちらの方が人気となってしまい、何冊も本が出るに至っている。
本末転倒とはまさにこのことだろう。
私が読んでもそこそこ質は高いと感じたし、奇抜なものが大好きな、子供のチルノにもぴったりだ。きっと喜ぶに違いない。

「? 咲夜、何にやにやしてるの?」
「ふふ、なんでもないわよ。ただ、貴女に本を読んであげても、飽きたり寝たりしないで、最後まで聞いてられるのかなーと思って」
「むう、馬鹿にして!そんなの、聞いていられるに決まってるでしょ!」

からかうように私が言うと、ぷうっと頬を膨らませて怒るチルノ。
「あら、それは悪かったわね」と口先だけで詫びつつ、私はチルノの頭を撫でる。

「それじゃあ、何を読んであげましょうか」
「早く、早く!」
「分かったってば。少しは落ち着きなさいな」

さっきまでの怒りはどこへやら。
本棚の前に着いた途端に、再びキラキラと目を輝かせて、チルノは私を急かしたてる。
何がそんなに嬉しいんだか……と思いつつ、期待されているのが満更でもなくて、私もつい笑みがこぼれてしまう。

さて、あの本はどこにしまったか―――。
以前読んだときの記憶を辿りつつ、私は広大な棚の中から、本を探すのだった。










~ただいま禁酒中~

博麗神社の居間。しんと静まり返った空間に、二人の声が響く。

「しばらく、酒を断とうと思う」
「ふーん、そう。頑張って」

饅頭をパクつきながらそう一言だけ言うと、表情一つ変えずに、ずずっとお茶を啜る霊夢。
まるで、これっぽっちも興味がないと言わんばかりだ。事実彼女は、珍しく真剣な表情になっている、萃香の顔すら見ようとしない。
一方の萃香は、そんな霊夢の態度にがくっと崩れ落ち、むうっとむくれた様子を見せる。

「もうちょっと何か無いの?一時とは言え私が禁酒するなんて、今まで言った事ないのに」
「声や表情に出してないだけで、充分驚いてるわよ。今だって、さっきのお饅頭が喉につっかえちゃっゲホッ」
「大丈夫!?ねえ!?」

段々と青ざめていく霊夢の顔を見て、萃香は慌てて霊夢の背中をバンバンと叩く。
幸いにも適切な処置が功を奏したようで、徐々に霊夢の顔には血の気が戻り、萃香はほっと息をついた。

「ありがと萃香。こんなところで死んじゃうかと思ったわ」
「むしろ、私の方が驚いて心臓止まりそうになったよ。まあ無事で良かった」
「鬼が人間に驚かされて心臓停止で死ぬなんて、とんだ笑い話になっちゃうわよ?」
「誰のせいよ」

相変わらずマイペースな霊夢に、萃香は思わずこぼす。
鬼をも振り回す辺りは、流石に幻想郷の巫女というところなのだろうか。
こんなところでその実力を発揮した所で、萃香にとってははた迷惑なだけの話だが。

はあ、と一つため息をつき、そのままいつもの習慣で、瓢箪から酒を飲もうとする萃香。
だが、口元まで持っていった段階で先程の自分の発言を思い出し、彼女は慌てて瓢箪から口を離す。

「おおっと。危ない危ない」
「あら、耐えた。今、絶対飲むと思ったんだけど」
「一度言った事だもの、そう簡単に破ったりはしないさ。鬼は、嘘をつけない性分だし」

そう言って『私だって、やれば出来るでしょ』とでも言いたげに、萃香はにかっと笑う。
(いつまで持つやら)と思った霊夢だったが、口には出さない。代わりに、気になっていたことを訊ねる。

「でも、どうしていきなり禁酒なんてする気になったのよ?」
「いやあ、恥ずかしい話なんだけどさ。この前、酔って転んだ拍子に、木に角が刺さっちゃって」
「本当に恥ずかしい話ね」

呆れたように霊夢が言うと、萃香は苦笑を浮かべながら続ける。

「もちろんすぐ抜けたから良かったんだけど、もし誰かにこんなところ見られたら恥ずかしいからね」
「それで、しばらくお酒をやめようと思ったの?」
「うん。あとは気まぐれかな。長い人生、少しくらい酒を断ってみるのも悪くないかなって」
「ふうん」

「まあ、他にも理由はあるんだけどさ」と笑う萃香に対し。
「へえ、そうなの」と気のない相槌を返して、ぐびりと何かに口をつける霊夢。
ふと萃香が見てみれば、そこには、いつの間にやら大吟醸が用意されていた。
ご丁寧な事に、お猪口も二人分きちんと揃っている。まるで、これからサシ飲みでもしようと言わんばかりの光景だ。

衝動的に手を伸ばしたくなるのを押さえ、萃香は霊夢に向かって抗議の声を上げた。

「な、何で今そんなもの出してくるのさ!?私の話聞いてた!?」
「今度の宴会で出すからね。味見よ、味見。あんたも飲めば?」
「飲まないって言ったばかりでしょーが!それに、何も今そんなことする必要ないじゃない!」

その怒りに溢れた萃香の叫びにも全く怯むことなく、霊夢は
「ふふ、折角だし、あんたの意志の強さを測ってあげようかなって」とからかうように言ってみせる。
そして、またぐびりとお猪口に口をつけた。

目の前で繰り広げられるあまりにも魅惑的な様子に、萃香は思わずごくりと喉を鳴らす。
何しろ、目の前に置いてあるのは、酒好きなら知らない人はいないであろう有名なものなのだ。
こんな仕打ちにあっては、例え彼女でなくともたまらないだろう。
すると、霊夢はそんな萃香の心中を見透かすかのような一言で、さらに萃香を誘惑しにかかる。

「あー、美味し♪この一杯のために生きてるって感じがするなあ。どれ、もう一口」
「……もういいでしょ?早いとこ、それしまってきなよ、霊夢」

プルプルと体の震えを抑えつつ、なるべく霊夢の様子を見ないようにしながら、そう言う萃香。
というのも、少しでもその様子が窺えようものなら、反射的に飛びつきそうになってしまうのだ。
既に、先程の自分のうかつな発言を痛いほど後悔しつつ、萃香はひたすら歯を食いしばって誘惑に耐える。

しばらくの間、そんな萃香の様子を、今にもふき出しそうになりながら眺めていた霊夢。
すると、彼女は何を思ったか、戸棚から裂きイカを取り出して、それを数本萃香に渡した。
突然の事に戸惑う萃香に向かい、霊夢は極上の笑みを浮かべながら言う。

「これ、外の世界でよく食べられてる、お酒に良く合うおつまみらしいの」
「……それで?」
「あんた、いっつもお酒飲んでるんだから、本当にこれがお酒と合うか分かるでしょ?だから、試食してもらおうと思って」
「!? じ、自分で食べればいいでしょ!?」
「だって、私よりあんたの方が、たしかな舌を持ってると思って」
「―――――! 霊夢の鬼!」

萃香は目に涙を貯めて精一杯の抗議をするが、霊夢は「本物の鬼に言われたかないわよ」と何処吹く風だ。
そのままのんびりと握ったイカを一口食べ、お酒を飲んだかと思うと
「うーん、私は合うと思うんだけどね。自信が無いから、是非あんたの意見も聞きたいわ」と、萃香を追い詰める。

「うー……分かったわよ!食べればいいんでしょ!食べれば!」

ヤケクソ気味に叫ぶと、萃香は渡されたイカを一口でむっしゃむっしゃと頬張った。

(……ヤバい。これ、想像以上に美味しい……)

ご存知の通り、噛み締めるごとに、裂きイカはその味わいを増していく。
萃香も、初めて食べるその味に、すっかり魅了されていった。
たしかに、これならお酒にもピッタリ合うだろう。もっとも、今の彼女は自ら禁酒を宣言しており、一口も飲めない訳だが。

せめてこれくらいはと、萃香は目の前に置かれたお茶へ手を伸ばす。
しかし、やはりそんなものでは、まったくもって物足りない。
それどころか、萃香の酒に対する欲求は、ますます強くなるばかりだ。


(くう……お酒、欲しい……)

もはや涙目になりながらイカを噛み締めつつ、自分の中に生まれる欲求と、必死に闘う萃香。
自身のプライドにかけても、彼女は簡単に「さっきの発言はなかったことに」などとは、死んでも言えなかった。
精一杯強がった笑顔を浮かべると、彼女は霊夢に向かって言う。

「……美味しいね。これなら、お酒に合うと思うよ、霊夢」
「へえ、良かった。もしも『合わない』なんて言われたら、これどうしようか途方に暮れちゃう所だったわ」

そう言って霊夢は、先程の棚から、たっぷりと裂きイカのつまった袋を1つ取り出して、大吟醸の隣へと置いてみせた。

「見ての通り、まだまだ沢山あるからね。もう少し食べていきなさいよ」
「―――!!霊夢の鬼!悪魔ぁ……?」
「だから本物の鬼に言われたか……って、萃香!?いきなりどうしたのよ!?」

理性と誘惑の戦いがついに限界を迎え、まるでブレーカーが落ちたかのように萃香の意識がブラックアウトしたのは、その瞬間のことだった。



「師匠、どうですか?萃香さんの様子は」
「大したことは無いわ。強いストレスによって、一時的に意識を失っているだけみたいだから」
「いわゆる『鬼の霍乱』ってやつね」
「のん気に言ってるんじゃないわよ霊夢……無闇やたらに人をからかったりするから、こんなことになるんでしょうが」
「分かってるわよ。今後は、やりすぎないように気をつけるわ」

現在萃香は、霊夢によって永遠亭へと運ばれ、横になっていた。
「うう、おーさーけー……」などと苦しそうにうわ言をつぶやいてはいるが、どうやら症状そのものは軽いらしい。
さしもの霊夢も、突然ぶっ倒れた萃香には驚かされていたから、それを聞いてほっとしたようだ。彼女にしては珍しく、胸を撫で下ろすような仕草を見せた。

「今日は、突然押しかけてごめん。でもありがとね、永琳。おかげで助かったわ」
「別にいいわよ。これが私の仕事だもの」

霊夢の言葉に、永琳はにこりと笑いながら答えてみせる。その様子は、まさに患者から絶対の信頼を置かれた医者のそれだった。
本来薬剤師でありながら、こういった緊急時にも全く慌てず対処できる辺りが、彼女が天才と呼ばれるゆえんだろう。

だが、次の瞬間永琳は表情を変え、普段の彼女からは到底聞けないような声で、小さく呟いた。

「それにしても、まさかこんなことになるなんて……」
「? どうしたのよ?」

そんな呟きを聞き逃すことなく、永琳へと問いかける霊夢。
すると、永琳は何とも申し訳なさそうな素振りで答える。

「実は、萃香に禁酒を勧めたのは私なのよ。『休肝日を作った方が、健康的だしきっとお酒も美味しくなる』って言ってね」
「へえ、そうだったの」
「実際、彼女も初めから意外と乗り気だったのよ?だけど、却って逆効果だったのかもしれないわね……さすがの私も、この事態は予想できなかったもの」

前置きをした後、永琳は、神妙な声で言った。










「まさか、休肝のせいで、急患になるなんて」










~姉妹のぎゅーって儀式~

いつもより、ちょっとだけ気だるい朝って、誰にでもあるかと思います。
中々眠気が取れなかったり、もう少しだけ横になっていたいなあ、なんて思ったり。冬場は、特にそんなことを感じる人が多いのでは。
お休みだったら二度寝もいいですけど、平日だとそういう訳にもいきませんし、困りますよね。

さて、皆さんだったら、こんな時どうやって乗り切るでしょうか。
軽く体操?それとも、苦ーいコーヒーを淹れる?色んな方法があるでしょう。
参考までに、私の場合を例に取ると―――。





ぼやっとした目覚めの朝。
はて、目覚ましは鳴っただろうかと手元を見れば、おそらくは寝ぼけていたであろう私の手によって、見事に叩き割られていました。
いつものことです。今月18個目。今日早速19個目を買いに行くとしましょうか。あんまり意味がない気もしますが。

低血圧な私は、中々パッと目が覚めるようなことがありません。悩みの種です。

睡眠時間を調節して、レム睡眠時に目が覚めるよう目覚ましをセットしたり。
早朝に起きて、辺りを散歩する癖をつけようとしたり。
色々試したものの、どれもこれもまるで効果なし。

知り合いの閻魔様などは、毎朝5時に起きて欠かさず乾布摩擦をしているというのに。
そこまでではないにしても、せめて7時くらいには起きれるようにしたいところ。

(……今世紀中には何とか)

ああ、意志弱いなあ。私。ダメダメだ。

余談ですが、一度、閻魔様の家に、居眠りの多い死神がお泊りに来たことがありまして。
その翌朝、閻魔様がいつも通り、上半身裸で乾布摩擦しているのを、トイレに起きて来た死神がたまたま目撃してしまい。
『ブバッシャアア!』という音と共に、閻魔邸は、一時リアル血の池地獄と化したそうです。大変ですね。

そんな事を考えつつ、ふと見上げれば、お空とこいしが笑顔で私の顔を覗き込んでいました。
2人とも本当にいい子で、いつも早起きして、私を起こしに来てくれます。
一方、お燐は部屋の隅で私のタンスを漁っていました。残念ながら、これもいつものことです。

「ふああ……おはようございます、皆」
「「おはようございます!さとり様!」」
「おはよう、お姉ちゃん」

皆朝から元気でいいですね。私はとても、朝っぱらからそんなテンションにはなれません。見習わなければいけません。
あと、お燐は今ポケットに入れた私のパンツ返しなさい。『イヤです』じゃないです。涙目になったってダメ。

とりあえず、着替えて朝食を頂く事にしましょうか。

「早速で悪いけど、お燐、着替えを」
「はい!さあどうぞ、さとり様!」

渡されたのはスケスケランジェリー。
もちろん即座に叩き返す。

「お空。朝食を」
「うにゅ!」

差し出されたのはお皿に乗った真っ黒トースト。というか炭。
「責任持って貴女が食べなさい」とお空の口に押し込む。

何のコントですか。朝からちょっと泣きそうなんですが。

ちなみに、うちではほぼ毎朝こんなことやってます。
ああ、何て成長しない二人なんでしょう。
でも、本当に一番成長してないのは、毎朝毎朝懲りもせず、同じ指示を繰り返してる私だったりするんでしょうか。
全部自分でやった方が、効率良かったりするんでしょうか。

(……はあ。まあ、いいか)

これはもう、いわゆる『お約束』ですし。
急に「明日から、朝食も着替えも自分で用意するわ」なんて言ったら、お燐もお空も悲しむでしょう。
きっと「何か不手際がありましたか!?」と、堂々と聞いてくるでしょう。うん、実際あるんだけどね。
でも、私もこの毎朝の寸劇を今更演じられなくなるのは、ちょっとだけ寂しかったり。

(……甘いですよねえ、私)

苦笑しつつ、思う。けれども、まあ仕方ないかなあ、とも感じたり。
実際、この寸劇も、目を覚ますのに一役買っているわけで。何も役に立っていないわけではないし。

でも、まだ完全に目が覚めきった訳ではありません。
お約束も済んだところで、いよいよメインイベントと参りましょう。

「こいし」
「何?お姉ちゃん」
「……むぎゅっ」
「またー?もう、しょうがないなあ、お姉ちゃんは」

文句を言いながらも、こいしはいつも嫌がることなく私の要求を受け入れてくれます。
放浪癖があったりするのが困りものですが、やっぱり基本とっても良い子なのですよ、こいしは。大好き。

ぎゅーっとこいしに抱きつく事、たっぷり10分。今日の元気分を完全に充電完了しました。
また一日頑張れそうです。これが我が家の方程式ならぬ『ぎゅーって儀式』。

「うにゅ、お二人は本当に仲が良いですよね!」
「姉妹愛っていいですよね!」

仲がいいのは認めるけれど。
とりあえず、お燐。貴女は溢れ出る鼻血を拭きなさい。



さりとて、これからますます寒さが厳しさを増す中、この方法はとても有用だと思います。

皆さんも、気だるい朝には是非お試しあれ。

……でも、こいしは私専用の充電器ですからね。
誰にもあげませんよ?










~笑って!ゆかりさま~

―――紫様。紫様ってば。私の声、聞こえているでしょうか?

寒いと思って外を見てみれば、雪が降ってきました。もう、そんな季節なんですね。

一年間、振り返ってみれば、沢山の出来事がありました。毎年言っていることですけど、何だか、今年は特に、そんな気がしています。

本当に、充実していた年でした。



二人で、色々な場面を見てきましたよね。

新しい命の誕生がありました。悲しい親子のすれ違いがありました。ごくごく平穏な、日常もありました。

笑っている人がいました。怒っている人がいました。悲しい思いをして、涙を流している人もいました。

でも、不思議なもので、最後はみんな笑顔だった気がします。

いつだったか「人はみんな、何故、こんなにも素敵な笑顔で終われるのでしょう?」と紫様に尋ねたら、こう仰ってましたよね。

「色んな人と出会って、からまって、振り回されて、年中無休の物語が紡がれて……そんな毎日が素敵じゃないわけがないでしょう?だから、例えそれまでにどんなことがあっても、最後には、人は笑顔で去って行くのよ」って。

なるほどなあって、私は感心したものでした。



―――紫様。

貴女が今、寂しいと思っている気持ち、私にはよく分かります。

落ち込んでしまうのだって、無理は無い話ですよ。

だって、ずっと一緒に、あの子達を見守ってきましたからね。

彼女たちが、ほんの短い青春のステージを終え、旅立つその姿。私たちは、もうその行方を知ることすら許されない。

ずっとずっと彼女たちを追いかけてきたのに、こんな理不尽な話もないと思います。

けれども、それも仕方のないことなのですね。

別れは、全ての者に平等にやってくる。そんなことはとうに承知の上で、それでも、私たちは彼女たちを見守る道を選んだのですから。

だから、一度彼女たちとは『お別れ』をしましょう。辛いですが。悲しいですが。

大丈夫です。彼女たちも、最後まで飛び切りの笑顔を見せてくれていましたから。

きっと、今でもどこかで、彼女たちは、思い思いに人生を楽しんでいるのでしょう。

一緒になって遊んだり、時には大きな喧嘩をしたり。そしてまた、そんなことがきっかけで、より絆が深まったり。

そんな様子に思いを馳せれば、また元気がもらえる気がしませんか?

……それに、もうすぐ新しい年が迫っています。

また、新たな出会いがあるでしょう。新たな仲間たちが、私たちを快く迎えてくれるでしょう。

笑顔の溢れる空間が、そこには広がっているはずです。



だから。

もう、そんな顔をしないで下さい、紫様。

何だか、見ているこっちまで辛くなってきちゃうじゃないですか。

だから。

泣いてばかりいないで、笑ってくださいよ、紫様。

せっかく出迎えてくれる仲間が待っているのに、私たちの方がそんな表情でどうするんですか。

だから―――





「大好きだったマンガが最終回を迎えたくらいで、そんな凹まないでくださいったら、紫様。また、新連載が色々始まってますよ?」
「グス、うぅ、だって、ずっと好きで、何年も読んでた4コマまんがだったのに……」
あとがき前に、まずはタイトル元ネタとなった作品の表記を。

『スーパーメイドちるみさん』(師走冬子:著)
『ただいま勤務中』(辻灯子:著)
『姉妹の方程式』(野々原ちき:著)
『笑って!外村さん』(水森みなも:著)

ちなみに『金星人と椛と酢味噌』は『スーパーメイドちるみさん』劇中劇(?)『火星人と今日子と醤油』を元ネタとしています。

分かる人には分かると思いますが、これらの作品は、全て芳文社『まんがタイム』系列の雑誌で連載されている4コマまんがです。
今年で芳文社が丁度創立60周年を迎えられたということで、こんな作品たちを綴ってみました。
某作品の映画化だとか。まんがタイム創刊30年目に突入とか。
今年は本当に色々あったりしたんです、この4コマという界隈。まあ、分からない人にはどうでもいい話題だと思いますが……。

余談ですが。
4コマ漫画においては、どんな作品でも、最後はみんな笑顔でハッピーエンドのまま幕を閉じる、というものが非常に多いです。
なので、そういったまんがが好きだという方は、是非一度書店などで4コマ雑誌を読んでみることを勧めます。マジで。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。それでは。
ワレモノ中尉
[email protected]
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
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コメント



0.630簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
四コマ漫画は好きです、大好きです。
あの独特の感じが本当に大好きなんです。
とっても楽しく読ませて頂きました!!
9.100名前が無い程度の能力削除
四コマいいですよね
でも最近四コマ雑誌の数が増えすぎて何を読んだらいいのか……
10.40名前が無い程度の能力削除
4コマは好きです。

そして萃香の話の部分が好きです。もし、この話をもう少し砕いて長くしても100点を入れるでしょう。

しかしあとがきで元ネタのパロディと分かったときは物凄くがっかりでしたのでこの点数で……
11.80かすとろぷ公削除
こういう小ネタを小出しできるのは素直に羨ましいと思います。
前の人が言った様に私も萃香のねたを膨らませて一つの作品にしたら面白いと思います。
私は四コマ漫画はかつてスクエアのDQの柴○亜美とかが一線で活躍してた頃位の4コマしか見てないので4コマには最近の4コマ漫画の風潮が分からないのですが素直に面白いと思います。
12.70名前が無い程度の能力削除
「金星人」にデジャヴを感じてたら、そういう事だったのかw
作者様とはいい酒が飲めそうです。
15.40名前が無い程度の能力削除
話の種があるのにまだ熟れてないのに収穫した感じでした。もったいない
16.90ずわいがに削除
ぱっちぇさんも咲夜さんも優しいなぁ
しかし『金星人と椛と酢味噌』ってラノベっぽいなw

鬼はやっぱ禁酒なんてするもんじゃあ……
って永琳さんww不意打ち過ぎて吹いたwwww
このオチはまさに短篇向けですね

小町ェ…
充電してるのはさとり様の方だけじゃないかもね

紫様の気持ちが共感出来過ぎていたたまれない;w
4コマはホント読後感がスッキリするから俺も大好きです