その刀がいつから土蔵にあったのかは誰も知らない。
刀に造詣の深かった嘗ての庭師の持ち物であったのか、
それともこの白玉楼の主人が誰かから買って、そのまま土蔵に仕舞ったまま
忘れているのか、今となっては確かめる術もない。
その刀は、美しかった。柄の細工や全体の形もさることながら、刀を
覆う名状しがたい雰囲気があった。刀を見たものは、皆手にとって見たくなるだろう。
そして、鞘から抜いて、その輝く刀身を確かめたくなるだろう。
しかし刀は、妖刀であった。
自分を手にしたものを魅了し、意のままに操る
呪いを秘めた、冒涜的な呪物であった。
物語は、この刀を、白玉楼の現在の庭師が、土蔵から見つけたことから始まる。
――――――――――妖刀綺譚――――――――――
「おーい妖夢、そろそろ休憩にするぞ。」
その日、白玉楼は大掃除の最中であった。手伝いに来ていた八雲藍は、
土蔵の観音開きの扉からひょいと顔を出したが、背中を向けていた妖夢から
あなどりがたい雰囲気を感じ取った。
「お、おい、妖夢、どうかしたのか?」
「ククク…、フフフフ…、アーッハハハハハハ!!」
「よ、妖夢?」
それは明らかに妖夢の声であったが、その声には
這いよるような冷気がこもっており、藍は宇宙的恐怖を感じて身構えた。
「我は魂魄妖夢では無い!我は妖刀村正なり!この
身体は今日から我のものぞ!フハハハハ!」
「よ、妖夢……!?」
抜き身の刀を持ち、虚空に向かって笑う姿に、八雲藍は目をしばたいた。
その姿は藍に根源的な呪いを思わせるものであった。
「『ぐ…ら、藍さん…逃げて下さい…こいつは、私の身体を乗っ取って
…』ぐうっ、小娘め、まだ我に逆らうかぁあ!」
「よ、妖夢…。」
「ぐっ、小娘め、ようやくおとなしくなりおったか。
そこな狐よ。ようやく相手をしてやれそうだぞ。フフフ。」
ああ、おぞましき妖刀の呪いは八雲藍の忌まわしき過去を思い出させたのだ。
~~~
「ねぇ…藍、これ貴方の日記よね…」
「みっ、見るなぁあ!最低限私のプライバシーを尊重してください!くそぉ!」
「…ねぇ藍、あなた、最近、私によそよそしいじゃない?」
「……紫様の考え過ぎです。私は私で、それ以上でもそれ以下でもありません。」
「…そう。」
「……」
「ねぇ、藍、その日記に、『あの人は私の本当の母では無い、だからこの日記では
母の人と表記する』って書いてあったけど…」
「え、う、えええええ!?よ、読んだんですか?」
「ご、ごめんなさい…ぐすっ。私は貴方のことを本当の子供だと思って
たわ。でも、それは私のわがままだったのね…ご、ごめんなさいね…えぐっ…」
「え、えと、そ、それは…その…」
「尻尾が…尻尾が私の人格を乗っ取るんだ…!くそっ!私から出ていけ!くぅう!!」
「藍!どうしたの!どこか痛いの?大変だわ!お医者様に…」
「うわわ!いつから居たんですか紫様!」
「どうしましょう藍、ともかく楽にしなさい。今スキマを開けて貴方を…」
「わー、やめて!やめてぇえ!」
「フハハハ!奥義ィ!式弾『アルティメットフォースブディスト・∞(エタニティ)ブリザード』相手は死ぬ!」
「うあぁああ!」
「藍ー、あまり妖精をいじめちゃダメよー。」
「藍、どうしたの、その包帯は!?怪我したの!?見せてみなさい!」
「え、え、えと…」
~~~~~
「うっ、ぐあああ!やめろお!私のトラウマをそれ以上えぐるなぁ!!」
「フフハハハハ!触れずとも貴様のような野狐など我の相手にはならぬわ!」
「があああ!」
八雲藍は名状しがたい妖刀の呪いに背を向けて逃げ出す他の手段を知らなかった。
「『ううっ、藍さんは逃げてくれたか…くそっ!妖刀め!私の身体から出ていけ!くぅう!』
小娘めぇ!我を誰だと思うておる!かの徳川家に幾多の厄災を振りまいた村正ぞ!
『お前が誰だろうと関係ない!幽々子様に手を出したら私はお前を許さないぞ!』
フハハハ…幽々子…それがうぬの主の名前か!
『ぬかったっ…!畜生!こうなれば我が身もろともお前を…』
ふむ。もし小娘が我に従うなら、その幽々子とやらをうぬにくれてやろうぞ。
『はい。村正様。ご指示を。』」
哀れ、魂魄妖夢の必死の抵抗むなしく、その穢れなき魂と心は
深淵に引きずり込まれるがごとく忌まわしき妖刀の手に落ちてしまったのだ。
~~~~
藍は這いよる何かから逃げるかのごとく、必死に走って、
白玉楼の当主たる西行寺幽々子の姿を求めた。
「幽々子様ーー!!妖夢が、妖夢があ!」
「あらあら、どうしたの藍。」
「妖夢が、邪気眼で、第三の目で、卍解で、なんか刃物もちあるいてて、ああああ!!」
西行寺幽々子はその霊性的(れいしょうてき)な知能を以って、藍の言わんとしている事を
理解した。
「そう。妖夢もそんな年にねぇ…。うふふ、今夜はお赤飯ね。あと、
これを、っと。」
「え?って幽々子様、そのカメラみたいなものはなんですか?」
「『びでおかめら』っていって、映像をこの『てーぷ』って
いうのに保存できるらしいの。これで邪気眼な妖夢が永遠に
保存できるわ。うふふふふふ。」
「やめたげてよお!」
そうこうしながら、二人は魂魄妖夢のいる駒形切妻屋根の土蔵を目指した。
~~~~
「待ちくだびれたぞ、野狐。ほう、そこな亡霊が
西行寺幽々子か。二人もいれば勝てると思うたか!」
「うああああ……!!」
「あらあら」
八雲藍は早々に妖刀の呪いを全身に浴び、両耳を塞ぎ地面をのたうちまわった。
「口ほどにもない野狐よ。そちらの亡霊は少しは楽しませてくれるのだろうな。
さもなくば、この舞台に上がった意味が見出せぬ。」
「貴方…妖夢を乗っ取ったのね…。」
「ううう…やめろぉ…ってえっ?」
「藍、これは本物の妖刀よ。妖夢の身体を
操っているらしいわ。」
「ふはははは!さすがに一目で気付いたか。
そう。我こそは嘗て神速聖将幸村の手にありし村正よ!
徳川に仇なした村正よ!」
途端に八雲藍は便所蟋蟀のごとく跳ね起きた。
「ハハハハ、散々人の心の傷をえぐって…ナマクラめ、もう一度眠りにつかせてやる。」
「むっ…!?」
「式弾『アルティメットブディ…」
「『ら、藍さん!た、助けてください!』」
「…って妖夢!妖夢なのか!?」
「『そうです!あの、攻撃すると私も痛いので、攻撃しない方向で
何とかして下さい。』」
「え…、そんなことを言われてもだな…」
「『じゃあ降服してください』」
「い、いやそんな事をいわれてもだなぁ」
「『降服して下さい』そうだぞ。この小娘が大事なら早々に兜を脱ぐがいい」
「ど、どうしろと…」
「あらあら、たいへんねぇ。」
村正の大いなる力に翻弄される藍を尻目に、幽々子は優雅な動作で、妖夢に近づいた。
「『わ、わ、幽々子様がこんなに近くに…』お、落ち着け小娘!
ち、近づくな、亡霊、この小娘が…」
そして、幽々子は妖夢の手首をきゅっと握り、そのまま胸のあたりまで
持って行き、刀身を目線の高さに上げた。
「『わわわ、わ、私の楼観剣が未来永劫斬ッ!!』
お、落ち着けといっている小娘!!」
「ねぇ、妖刀さん…?」
「ぬぅ…!やるな亡霊…!」
「貴方って、村正なのよね…?」
「なんどもそう言っておろうが!!」
「ほら、ここ、銘が『村正』じゃなくて『村止』になってるわ。」
「あっ…………」
~~~~~~~~~~
これが、妖刀をめぐる忌まわしき物語の顛末である。
そして、現在妖刀は……
「『フハハハ…!我に切れぬものなど無いわ!!!』
幽々子様ー、もう少しでお夕飯ができますからねー!」
だいぶ短くなって、白玉楼の台所で、活躍している。
オチで不覚にも吹いてしまったww
「村止」ってww
確かに邪悪な思考がそこかしこに見え隠れしている。
幽々子様はどちらかというと霊障的な痴脳、ってな感じかな?
ビデオ撮影など言語道断。妖夢が全霊になっちゃうヨ!
藍様はあれだな。九本の尻尾全てにエキセントリックなキャラ付けをしてそうだな。
紫様をあまり泣かせてはいけません。
文章の勢いは買い。
その弊害として若干物語の流れの中で、状況がわかりにい箇所があることが玉に瑕でしょうか。
無粋と知りながらも、もう一つ。
刀の銘は普通ナカゴに切られているもので、つまり柄をはずさんと見えない訳です。
物語冒頭で柄の描写がなされているので、剥き出しの状態でもなさそうですし、ちょっと不自然かな。
村止は好きですよ。
>3.名前が有りそうで無い程度の能力さま
長くすると、話がわけがわからなくなるのです…
長い文章を書けるようにしたいですね。
>4.奇声を発する程度の能力さま
大変です!這いよる混沌にとりつかれているのでしょう!いあいあ!
>6. 道化さま
貴方が偉い人に怒られているとき、お葬式に出席をしたとき、電車にのっているときに
思い出してください。
>7. コチドリ さま
ああああ!やっちまった!!もう少し刀について勉強すべきでした!
ちなみに私の一番好きな武器はマスケット銃(特にフリントロック式)だったりします。
え、聞いてない?
8.名前が無い程度の能力さま
もうひとひねり入れるべきでしょうか…前作でも「もう少しひねれ」と言われたのですが。
今回もコメント、評価してくださった皆様ありがとうございます。
ではちょっと勉強のために刀を見に博物館に行ってきます。