Coolier - 新生・東方創想話

幻想鉱物綺談

2011/05/21 12:19:47
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 どうかゆるして。
 そのまま眠っていて。
 私ももう、二度とあなたを起こさないから。

 石の囁きに、西行寺幽々子は耳を寄せる。
「誰かいるの、泣いているのは誰」
 目を開けると、天井の木目がくっきりと見えた。灯りは消して寝たはずなのに。寝返りを打った。障子窓がぼんやりと光っている。その窓から外を眺めるには、立ち上がらなければならない。それが億劫だったので、布団の中で横になったまま、その窓を眺めていた。今日は朝から紫と顕界に行き、あちこち歩き回ったせいで疲れた。昼間から始まり、夕方前に終わった博麗神社の宴会では、幽々子もたらふく喰った。
 そんな日中の記憶がかすれ、実際には一日中こうして眠っていたのだと言われても、今の幽々子は納得しそうな心持ちだった。部屋の外と中を仕切っている窓、家と庭の境界は、さっきから頼りない光を放っているばかりだ。
 光がなくなると同時に、自分の意識までもなくなってしまいそうで、怖い。なぜそうなるのかは説明がつかない。夢の怖さとはそのようなものだと、幽々子は思う。
 ならば、これは夢なのだろうか。自分が見ている夢か、それとも誰かに見られている夢か。
「ええ、いしが、そう」
 石が、何か囁いた。それから、喉から絞り出すような声が聞こえた。生き物でなければ出せないような、不規則で、濁った声だった。
 幽々子は手をついて上体を起こした。この前までは夜になると冷え込み、夜具を取り除けると途端に寒気がしたものだが、今夜の空気は、もうぬるかった。しまりのない、だらしない春の夜が幅を利かせていた。
「叫んでいるのは、誰」
 幽々子は問う。膝をついて、完全に立ち上がった。窓に歩み寄る。ぬるい室内に比べて、白い光には温度が感じられなかった。暖かいも、寒いもない。
 障子窓を開く。
「騒々しいわ」
 幽々子は眉をひそめた。
 外の砂利も、岩も、およそ石であるものはすべて、光っていた。内側から発光し、中が透けて見えた。幽々子は月を探すため、空を見上げた。だが、それは叶わなかった。塀向こうの空に浮かんでいるはずの月は、巨大な建物のせいで遮られていた。
「ここは、どこなの」
 庭の砂利が盛り上がり、何十という細い槍が飛び出した。紫色に美しく光る、無数の水晶だった。巨大な針鼠がうずくまっているかのようだ。はじめからそこにあったかのように堂々と輝き、とろみのある光を垂れ流している。幽々子は振り向いた。自分の部屋は、まだ浸食を受けていない。だが、庭が、そして外がこの有様である以上、時間の問題だった。冥界にあの奇妙な建物が生えたのか、それともここがすでにかつて知ったる冥界ではないのか、そして白玉楼内にいる召使いの幽霊たちはどうしているのか、気になった。特に、こういう異変があった場合、夜中だろうと昼間だろうと構わず真っ先に駆けつけてくるはずの従者が、まだ来ない。幽々子は襖に目をやった。ひょっとすると、無事なのはこの部屋だけかもしれない。
「わあ、すごい。あらゆる、ゆる」
 また、枕元の石が囁く。幽々子は窓を閉め、布団に膝をつき、身を屈め、砂色の石を手に取った。手のひらに乗るくらいの大きさだ。無数の小さな穴が空いている。たとえば白蟻に喰い散らかされた柱だとか、紙魚に喰い荒らされた本だとか、そういうものを連想させる。石を喰う蟲に全身をたかられでもしたかのようだ。穴は石の内部まで縦横無尽に貫いている。
「軽石(かるいし)……」
 部屋の湿気が一段と増した気がした。庭に面した壁と畳の隙間から、飴色の液体がじわりと滲み出た。それは着実に部屋を侵しつつあった。
「こんな、いっぱい、わあ、だれ」
 幽々子の呼びかけに耳を傾けず、石はただ囁き続ける。
 この石の名を幽々子に教えたのは八雲紫だ。今日の昼のことだった。

   ***

 宴の果てた博麗神社の境内に見慣れぬ石が転がっていた。それを幽々子が屈んで拾ってしげしげと眺めていると、紫が近づいてきた。
「どうしたの、幽々子。そんなに興味津々に見て。そんなに楽しそうな目をして」
 紫は、幽々子が何を見ているかより、幽々子がなぜそんなに嬉しそうなのかが気になっているようだった。紫は道士服の裾をつまんで屈みこみ、幽々子と同じ目線で石を見た。
「あら、軽石ね。こんなところで見るなんて」
「なんだか無残で美しいわ」
「博麗神社には似合わないわね」
「どうしてこうなるの、紫。まるで泡が弾けたみたい」
「その通りよ。幽々子の言う通り。山が噴火すると、溶岩が流れるわよね。その溶岩が流れている途中で冷えて固まったの。でも、冷え切らない部分もあって、そこは流れてしまうわ。流れてしまった場所には、空間ができる。だからこうなるの」
「そう……もとは生きて、流れていたのね」
「今も生きているとは思うけど。ちょっと、貸して」
 紫は、幽々子の白い手の甲にそっと自分の手を乗せた。幽々子の繊手がなめらかに翻り、紫の手に軽石を渡した。幽々子の指を惜しむように、親指から小指に至るまで名残惜しげにその指を伝わせながら、紫は自分の手のひらに石を収めた。それから、耳に軽石を当てた。
「少し、響いているわね」
「あら、聞かせてちょうだいな」
 幽々子は反対側から石に耳を当てた。髪と髪が触れ合った。
「まるでスポンジみたいな石ね。見た目ほどに体積はない。これだけ内部にからっぽを抱えると、色々と反響させてしまうのよ。それが声になる。時には、石がそれを自分の声にしてしまう。そうすると石が囁き出すの」
「何か聞こえるけど……よくはわからないわ」
「まだ幼い響きだから」
「でも最近、山が噴火したなんて聞かないわ」
 幽々子は首を傾げた。髪が紫の頬をくすぐる。紫は目を細めながら応えた。
「地上ではね。でも、地下ではそうとも限らないわ」
「あら、そうなの。地下で山が噴火するなんてこと、あるのかしら」
「山がなくても、溶岩は出る。だって地底だから。それが、外に出てきたんでしょうね」
「この響き、色々なものが混じっているわね。今の私たちの声まで、混じっちゃってるわ」
 幽々子はますます石に耳を押しつけた。紫は苦笑し、幽々子の手首を取り、自分の手にある石をその手のひらに渡した。
「気に入ったら、持って帰るといいわ。まさか落ちている石ころにまで値段をつけたりはしないでしょうから。ねえ」
 立ち上がり、道士服を翻し、神社に向かって声をかけた。紅白の巫女が拝殿の脇から姿を現した。薄く目を開け、眠そうにしている。髪と赤いリボンが少し乱れていた。
「石ぐらい、好きにすればいいわ。そんなことより紫、ちょっと見てほしいんだけど。裏に来てくれるかしら」
「また弛んでいるの」
 紫は顔を曇らせた。幽々子に対しては決して見せない、実務的な表情だった。
「さっき締めなおしたばかりだけど……正直、よくわかんないわ」
「あれで良かったはずでしょう」
「それがわかんないから、見てもらいたいのよ。大丈夫なら大丈夫で、いいから。一応安心しておきたいの」
「霊夢は今でも問題なく結界を張れているんでしょう。なら基本的に締め直しはうまくいったはず。それで違和感が出るなら、また別の個所を見直す必要があるわね」
 紫は人差し指を顎に当て、霊夢の方へ歩いていく。幽々子は屈んだまま、石を耳に当て、紫の背中と、霊夢を見ている。ふたりの会話が、軽石が発する響きに混ざりこんでいく。
「別の個所ってどこ。博麗神社さえ押さえておけばヨソが多少綻ぼうが、あんたやあんたの式のケアが間に合うんでしょう」
「例外もあるわ。新しく結界が誕生して、まだそれを私たちがサーチしていない場合よ」
「あんだけあんたら……というかあんたの式がマメに結界を見ているのに?」
「グーグルだって、できたばかりのサイトは捉えきれないでしょう。ましてや私たちが管理しているのは世界の結界。すぐに検索に引っかけようったって無理な話ですわ」
「お茶飲んでから探しに行く?」
 紫の得意げな薀蓄を無表情で流しながら、霊夢は社務所の方へ歩いて行った。紫は幽々子に振り向いた。
「ごめんなさい幽々子、ちょっと野暮用ができたわ。また今度、白玉楼に羊羹持っていくわね」
「ええ、中に餅が入っているのがいいわ」
 たいしたことではない。
 そう、いつもの別れだ。紫は白玉楼にしょっちゅう来るし、幽々子も行こうと思えば紫の住まいにわりと簡単に行ける。紫の仕事である結界の見張りに、わざわざ幽々子が同行することもない。
 いつも通りだ。わかっている。しかし幽々子は、立ち上がり、空に浮きながらも、石を耳から離さなかった。社務所に入っていく紫と霊夢からも、目が離せなかった。

   ***

 あれから半日間、ずっと石は何事かを幽々子に囁き続けていた。それは、過去の会話の再現や、たった今頭に思い浮かべたことがほとんどだった。しかし、時に、まったく意味のわからぬ言葉が聞こえてくる。言葉の意味はわかっても、結局何を言いたいかがわからない。
「光る、さようさよう、そうは言っても。いいなあ」
 不快ではなかった。雨上がりのぬるくて土臭い空気中に、ひっそりと吹き抜ける涼しい風のように、心地よく幽々子の耳を撫でた。博麗神社からひとりで白玉楼まで戻ってから、その晩は寝るまでずっと軽石を肌身離さなかった。従者が首を傾げながら、恐る恐る何をしているのか尋ねてきたが、幽々子にだって自分が何をしているか、はっきりとはわからなかった。だからわからないと正直に答えたが、従者は信じていないようだった。
 その従者の助けも、今はあてにできない。
 部屋の半ばまでが、飴色の液体に侵されている。畳も柱もふやけたように歪み、溶け、混ざり合っていた。
 幽々子は意を決し、襖を開けた。そこに、いつもの廊下はなかった。
 煤煙越しに、月が光を投げかけている。煤を通した月光は、鼠色に輝いていた。
 車輪が回り、敷石を噛む。石を踏み鳴らし、リズミカルな音を立てて、馬車が走る。だが音だけで、馬車の姿は見えない。道の両脇の建物はどれも暗く、街全体が眠りについているようだった。家は木と紙ではなく、石と硝子でできていた。
「石はなんでも知っている。だって、石の来歴は、宇宙のはじまりからだから。人間のはじまりより、ずっと昔なの」
 潮騒が聞こえる。
 ゆゆこは昔、父に連れられて、海を見たことがある。肌を刺すように冷たい風は、塩分を含んでいるせいで、すぐに顔や手をべとべとにした。空は分厚い曇天だった。太陽は鉛色の雲越しに、下界を鈍く照らしていた。砂浜はどこまでも続いていた。その果てしなく広い大地を、同じように果てしなく広い波が、一定の間隔で押し寄せては、また引いていった。そのことが、ゆゆこには信じられなくて、気が遠くなる思いだった。父を見上げた。歌聖と呼ばれている父は、むっつりと黙り込んだまま、海を見ていた。
「この水たちは、いつまでこんなことをしているんですか」
「ずっと」
「この水たちは、いつからこんなことをしているんですか」
「ずっと前から」
「お父様が生まれた頃から?」
「それより昔。神様が、嫌なことがあって、天岩戸に引きこもった頃より、もっと昔から」
「それは、どのくらい昔なんでしょうか」
 潮騒が、ゆゆこの、幽々子の耳をやさしくなぶる。
「カンブリア紀よりも、ずっと昔よ」
 街路に、少女が立っていた。潮騒は、いつの間にか葉擦れの音へと変わっていた。家の窓が割れ、中からシダの葉が飛び出した。その隣の家の窓からも、たっぷりと葉を茂らせた植物が飛び出した。敷石の隙間からも生えてきて、やがて家も街路も緑色に染まっていく。シダ植物が溢れかえり、幽々子と少女の腰まで埋もれた。
「カンブリアから、オルドビス、シルル、デボン紀……石はずっと声を聞いてきたわ。石炭紀になってもね。ふふっ、私、本で読んだのよ」
 緑が、次第に茶色に染まっていく。枯れていく。街路の下に沈んでいった。あとには、干からびた茶色い葉の断片がところどころに残るばかりだった。
「この子たちは、一度は死んで地面に染み込んだ。それから長いこと経って掘り返され、また生き続けたわ。大きな乗り物を動かしたり、灯りをつけたりして。この子たちの墓場は油田と呼ばれて、みんなからちやほやされたわ。でも、その役目ももうすぐ終わる」
「ごめんなさい、あなたの言っていることが、よくわからないわ」
「嘘よ。お嬢さんはなんでも知っているわ。知らないふりが、得意なだけ」
「海だって見たことないもの」
「そうね、お嬢さんは覚えていないかもしれない。でも、お嬢さんの無意識は覚えているわ」
 少女のスカートがふわりと広がった。少女はその場にしゃがみこんで、両手のひらを耳にそえた。
「聞こえてくるの、こうしていると。もう死んでしまって、肉も骨もとっくに土に溶けてしまった死者の声が。彼らは、死んだあと天に上るのでもなければ、消えてしまうのでもないわ。地に沈んで、澱のようにたまっていく。その声が、石に残るのよ」
 少女は、敷石を手のひらで撫でた。黒く濡れた道路が艶めき、左右の建物が弾け、あの針鼠を思わせる水晶の小山がいくつもできた。なめらかな平坦な石道路に、いくつもの円柱や四角柱が突き出した。色は黒や灰色のおとなしいものから、黄色や緑、赤などきらびやかなものまで様々だった。どの柱の色もべったりと濃く、ささやかな色の違いを楽しむような心づもりを嘲笑するかのように、毒々しかった。
「あなた……誰」
「古明地こいし」
 幽々子は舌の上で、古明地こいし、という言葉を転がしてみる。とても心地よかった。
「あなたは? 大地の無意識の声に呼ばれた、幽霊のお嬢さん」
「私は西行寺幽々子。私のこと知っているの」
「いいえ。なぜそんなことを聞くの」
 こいしは首をかしげた。その、かしげたまま問いかける様子が、とてもかわいらしいと、幽々子は思った。
「あなた、私をお嬢さんと言ったわ」
「ふふっ」
 こいしは首をかしげたまま笑った。幼い白牡丹が咲きこぼれるような笑い方だった。
「だって、お嬢さんにしか見えないもの。立ち方ひとつ、歩き方ひとつとってもそう。足の運び方、腕の振り方、指の曲げ方、その瞼の閉じ方、どれをとっても、あなたはお嬢さんだわ。気品があるの」
「ありがとう。けれど、あんまりほめても、何も出ないわ」
「いいの、気遣いは無用よ。幽々子お嬢さんには、この子たちのショーを心行くまで楽しんでほしいの。太古から歴史を重ねてきた石たちの絢爛豪華な大博覧会よ、私だけが楽しむには勿体ないわ」
 毒々しい色が、次第に黒く塗りつぶされていく。敷石は消え、道路も街並みも完全に消え、剥き出しの岩が至るところに突き出ている、荒れ果てた荒野が現れた。空に明かりはないが、岩野のずっと先まで見渡すことができる。太陽も月もないのに。まるで、地面の石そのものが微量の光を発しているかのようだった。
 幽々子は、目を細めた。絹のようになめらかな彼女の肌に、異変が起こった。ほとんどいつも、穏やかな表情を絶やさぬ幽々子の眉間に、皺が寄っていた。
「死んだらね、魂は三途の川に行くけれど、肉は土に溶けるわ。灰になったって同じよ。死んだ死体の声は、閻魔様じゃなくて、地面に埋まったこの子たちが聞いてあげるの。ねえお嬢さん、よく耳を澄ませて。あなたにも聞き覚えのある声が、きっとあるはずよ」
 ひそめられた眉の、皺がさらに深くなる。
「覚えがないわ。でも、さっきからずっと私を呼んでいるみたい」
 こいしはつまらなそうにため息をついた。
「なんだ、ほんとにすっかり忘れているのね。心当たりないの? こんなにすっごく濃いのに、何も感じないんだ」
「ごめんなさいね」
「ううん、いいの、ひとには向き不向きがあるから。でもね、私の軽石にここまで反応したんだから、やっぱりお嬢さんはすごいの。それは確か。もうケタ外れよ」
 暗い岩野に、花火が弾けた。それは鉱物の花火だった。普通の花火のように消えていかない。鮮やかな弾幕を広げたまま、固まった。
「そう、そうよ、私ひとりじゃこんなことできないもの。お嬢さんのおかげ。ありがとう、私ってこんな能力を持っていたのね」
「綺麗ねえ」
 幽々子の眉間の皺は取れた。紫や黄色の鮮やかな結晶は、生成と変形を繰り返した。
「私ね、万華鏡、好きなの。こんなに大きな石で見られるとは思っていなかったわ」
「気に入ってくれたのね。よかった。お嬢さん、こういうのだったらいいのね」
 体が少し軽くなる。足場が下降しているのを、幽々子は感じた。この世界そのものが、地下へと深く、潜っていく。
「ねえ、ここはどこなの。夢とも少し、違うようだわ」
「夢なんかじゃないわよ。私は、軽石にたくさん空いた穴に、私の無意識を流し込んでいるの。そこにあなたが引っかかったわけ。ここはふたりで作り出した空間なの。そうね、夢と言うなら、ふたりの夢、とは言えるかしら」
 世界に光が差し込んだ。晴れ渡った青空に砂埃が舞い上がり、怒涛の歓声が四囲から押し寄せた。ふたりは広場に立っていた。周囲を擂鉢状の観客席に囲まれている。
「素敵な劇場ね。地底なのにこんなに晴れ渡っているなんて」
「何を言っているの、これは、お嬢さんの劇場よ。冥界の白玉楼の地面の下には、これだけの声が埋もれているの。どの石からも、お嬢さんを呼ぶ声が聞こえるわ。いったいあなたは、あの庭で何をしたの」
 また、幽々子の眉間に皺が寄る。もやもやとしてとらえどころのないものが、すぐそこにあるのがわかっているのに、手が届かない。かすかに、頭が痛い。
「そんな昔のこと、忘れたわ」
「殺したの?」
 咲き誇る牡丹みたいな笑顔で、こいしは問いかける。
「だから、忘れたのよ」
 幽々子は、自分の声に明らかな苛立ちが含まれるのを、止められなかった。これほど輪郭のはっきりした苛立ちの感情は、久しぶりだった。ところが、その対象であるこいしの姿は、もうどこにもなかった。円形劇場には幽々子だけひとり、ぽつんと残されていた。観客たちも消えている。
「驚いたわ、たいしたアトラクションね。辺境の文明も馬鹿にできないわ」
 青空に裂け目が入る。そこから黒のパンプスを履いた生足が生えたかと思うと、ふんだんにフリルをあしらった華美な道士服に身を包んだ紫が現れた。服の上からでも、よくしまった腰や、温められた牛乳の膜のように肩や腕を覆う脂肪が、幽々子にはよくわかる。
「紫」
 呼びかけに対し、紫は傘の下で目元を緩め、微笑み返す。
「あなたが何か変わった小旅行をしているようだったから、ちょっとお邪魔したわ。今、白玉楼全体がとんでもないことになっているわよ。夢と現の境界が入り混じっている」
「あら、それじゃあ妖夢には荷が重いわね」
「なかなか楽しそうなところじゃないの、私も混ぜてくれる」
「いいけど、紫はここでの動き方、知っているの? 私はいまだにここがどこなのかすら、よくわからないのよ」
「なんとなくはわかるわ。ちょっと厄介かもしれない。危なそうな奴が出てきたら、注意してね」
 地面が沈んでいく。広場そのものが下降していき、円形劇場ははるか視界の上方へと去っていった。下降が終わると、今度は長大なトンネルに出迎えられた。足場となる地面が勝手に動いているので、幽々子も紫も立っているだけで良かった。トンネルは基本的に薄暗いのだが、たまに、煌びやかな光が目を奪った。
 エメラルドグリーンに光る苔。
 炎がそのまま固まったような、青白い石。
 角度によって虹色に変化する岩壁。
「あら。いいわぁ、持って帰りたいくらいだわ」
 足場はいつの間にか、レールの上を走るトロッコに変わっていた。
 宝石のような輝きを目にするたび、幽々子は感嘆の声を上げた。紫も、声は出さなかったが、暗闇の洞穴に時として現れる、はしたないほど鮮やかな色彩の氾濫を、存分に堪能していた。そして、それと同じかもしくはそれ以上に、少し興奮気味にはしゃぐ幽々子の様子を見て、目を楽しませていた。
「ここは白玉楼なの? それとも私の夢?」
 上気した顔を、紫に向ける。紫は、まず幽々子の赤く染まった頬に一瞬言葉と思考を失い、それから質問の意味を理解した。だが、すぐに即答できなかったので、はぐらかした。
「色々と混ざり合っているわ」
 トロッコの縁に手を置くと、木の、ざらざらと乾いた、リアルな感触がある。
「地底、とか」
「なんだ幽々子、気づいているじゃない」
「さっきの子がそんな風だったから」
「さっきの子?」
 紫は、胃のあたりがきゅっと締めつけられる気がした。嫌な予感がする。
「ええ、私と話していたわ。いつの間にかいなくなっていたけど。あなたにも気づかれずにいなくなるなんて、すごいわね、あの子」
「名前は」
「古明地、と言っていたわ」
 幽々子の答えに対して、紫が何か言おうとしたとき、聞きなれない声が、トンネルの中にさざ波のように広がった。広がった声たちが、そこここで反響し合った。紫は、いつの間にか幽々子の眉間に寄った皺を、見た。ますます胃が絞られる。何百という声が重なっているので、並の人妖には聞き取ることができない。幽々子にも無理だ。しかし、紫の情報処理能力にかかれば、何も難しいことはない。声のひとつひとつを紫は仕分けていった。
「ぎっ」
 我知らず、歯ぎしりをした。
 ひとつは、幽々子の表情が、苦悶といえる段階にまで達していること。
 もうひとつは、分けても分けても、それ以上の速度で声が増えていること。
 絡まった糸を解きほぐすようにして声に耳を澄ませても、直後に新たな声が生成され、被せられるせいで、紫の理解は遅々として進まなかった。
 誰かが声を、反響させている。これも地底の連中の仕業なのか、わからない。
 それでも、かろうじてわかる事実がある。その事実は、紫の胃を、胸を、喉を、頭を、緊張でぎりぎりと縛りつけ、軋ませる。
 こいつらは、幽々子を曳こうとしている。輪廻に曳きずり込もうとしている。
「幽々子っ、それを捨てなさい」
 紫は幽々子の腕を取り、袖に手を差し込んだ。
「あ……」
 幽々子が何か言うより先に、紫は軽石を取り出した。そこに穿たれた無数の穴からは、糸のように細い靄が、何千と立ちのぼっていた。紫が握りしめると、軽石に大きな亀裂が走った。いや、それは亀裂ではなく、境界だ。無数の境界が軽石を蹂躙する。ガラスの破片のように粉々になった石を、紫はトロッコから身を乗り出し、トンネルの壁に投げつけた。
「もう、遅いよ」
 無邪気に幼い。それなのに、悟ったような声がトンネルの壁から返ってきた。まるで物わかりの悪い子供に噛んで含めるような口調だ。トンネルは行き止まりになり、トロッコは終点を迎えた。
 周囲は石膏の像で囲まれていた。木綿の野良着を来た農夫、烏帽子をかぶった貴族、十二単をまとった姫君、女官、鎧武者、痩せ細った学者、彼らは壁から飛び出そうとしているように見えた。表情は様々だった。助けを求め哀れに顔を歪めている者もいれば、安らかに満足しきった者、表情が強張っている者、大笑いしている者と、統一性がない。
 紫にはわかる。そして、この幼い声にも。
「ふふっ、だって私、わかったの」
「お前は」
 声だけで、姿は見えない。
「どうして冥界の中でも、あの庭だけとびっきり声が濃いんだろうかって」
「糞まみれのブーツで私を踏み荒らした」
「お嬢さんが殺した人間の肉が、血が、感情が、あの土と石の中にたっぷりと染み込んでいるからなんだね。これ、すごいの、私、はじめ触れたとき、背筋がぞくぞくして止まらなかった。気絶するかと思ったわ。これね、それにね、この力、私ととっても相性がいいの」
「ブーツはさらに汚れるだろう」
「どう、すごいでしょ、石に宿った無意識の意思、私がこんな像にしちゃったわ。さあ、もっともっとお嬢さんと共鳴させ」
 一本のクナイが虚空を抉った。そこには、砕けた南瓜のような頭の少女がいた。まわりの石膏像に、血や脳漿が垂れかかっている。少女の下顎と、そこに乗った舌はまだ無事だった。
「お前自身の血と反吐で」
「あなたもすごいわね、私がいるところ、わかっちゃうんだ。見えちゃうんだ」
 さらにクナイが走る。足が弾け、腹に穴が空く。少女はそのまま蒸発するように消えた。
「いいわ、あなた強い! 楽しいなぁ」
 紫は目を据わらせ、姿の見えない少女を探す。
「紫、これ……」
 背後から声をかけられ、紫の肩が跳ね上った。どんな難敵と出会っても、これほど紫が動揺し、恐れることはなかった。幽々子はトロッコに立ったまま、ぼんやりと石膏像に囲まれた行き止まりを眺めている。
「私の、知らない人たち、よね」
 紫の周囲に、紫の倍の高さはあるスキマが次々と開いていく。
 幽々子が幽霊となり、白玉楼に住まうようになってからつまみ食いした魂たちなら、問題はない。そんなものを紫は恐れない。
 だがここで石膏像にされている人間たちは、幽々子が幽霊になる以前、白玉楼の最上層にあるあの和風の屋敷がまだ現世にあった頃に死んだ人間たちだ。
 彼らの埋葬場所はそれぞれ異なる。だが、彼らの声は、あの庭に集中した。幽々子の肉体が眠る、あの庭に。幽々子の肉体はすでに虫に喰われ、地中に分解されている。声も、今は幽々子が保持しているため、地中にはほとんど残っていない。だが、古明地こいしは声の記憶だけでこれほどまでに精巧な像を複数作り上げた。地中にかつてあった幽々子の肉体を探り当て、それを像にするのも時間の問題だろう。
 こいしが言ったとおり、こいしと幽々子の能力、無意識と死が共鳴すれば、途方もない力が生み出されるだろう。だが、今の紫にとってそれは二の次だった。それよりも何よりも、幽々子が自分の像と対面することが恐ろしかった。肉体と魂の幸福な結合が、起こってしまう。
 成仏する。

境符「四重結界」

 幽々子を囲い込む。視覚も聴覚も封じた。今はこんなものは目に毒だし耳に毒だ。
 紫の周囲のスキマは、その数を六まで増やした。

廃線「ぶらり廃駅下車の旅」

 電車が一台スキマから飛び出し、石膏像を打ち砕きながら、壁に突き刺さる。

廃線「ぶらり廃駅下車の旅」
廃線「ぶらり廃駅下車の旅」

 さらに二台の列車が飛び出す。同じように、轟音と爆砕音を響かせながら、壁に突き立った。そうして、六台の電車を呼び出し、さらにそれぞれの電車を壁沿いに走らせた。
 トンネルの行き止まりには、石膏のかけらが舞い散った。紫は安堵の息を漏らした。四つの平面四角が幽々子を囲んでいる。中から外は見えない。
「幽々子、心配しないで。もう頭痛は起こらないから」
「あーあ、せっかく作ったのに。まぁ、いいわ」
 紫の体が、一度、短く痙攣する。背中に、ハートが突き立った。そのまま中までめりこむ。
 ハートが爆散した。数えきれない無数のハートとなって、紫の内部から外へ向かって飛び出した。右の小指が吹っ飛び、左の肘が千切れかけ、右目はハートの切っ先に持って行かれ、あばら骨が歪な角度で突き出し、右膝は断たれ、長い髪は血まみれになって何十本もちぎられた。豪奢な衣装は無残に八つ裂きにされた。
「あのね、ここは私とお嬢さんが作った空間なの。そこに入り込んでくるってだけでもうわけがわかんないんだけど、さらにこれだけ暴れまわるなんて、もう意味不明だわ。私ってほんと井の中の蛙だったのね。世の中にはすごいひとがいっぱいいるんだって、いい勉強になった。やっぱり外に出ないといけないわ。でもね。もういいかな。私、これからあなたを殺掠するね」
 トンネルの壁や天井、床に突き刺さっていたハートが、爆散したときと同じ勢いで、戻っていく。収束点の紫を圧殺すべく。



 今にも降りそうな雨雲が、朝からずっと博麗神社の周辺に溜まっていた。昼になってもまだ雨は降らない。夕方近くになっても、空の色は変わらず、灰色にどんよりと曇っている。
 霊夢は、ぬるくなったお茶を啜った。縁側の沓脱石の草履を履いて、境内裏に回った。そこに開いたスキマと、地べたに這いつくばっている紫を見つけた。
「ひどい有様ね」
 霊夢は、見たままの感想を言った。紫は顔を上げた。顔の右半分が吹き飛んでいる。片側だけ残った唇で笑ってみせた。
「大失敗だわ。向こうに幽々子を置いてきたままよ」
「こんなこと聞くのも野暮かもしれないけど、あんたら、痛くないの」
「さっきから胃が痛くて仕方ないわ。焦ったり緊張したりするのがひどいと、お腹の辺りがぞわぞわってなるでしょ。あれよ。早いところあの子を連れて帰らないと、大変なことになるわ」
「大変なこと、ねぇ」
 霊夢は、紫の下半身を見た。ズタズタのスカートの先からは、肉か骨かよくわからない形状と色合いをしたものが突き出しており、それに臓器の一部分と思われるものが絡みついている。
「あんたの方がよっぽど大変そうだけど」
「相手の空間で喰らった傷だから、治るのにかなり手間取る。治している間は術もロクに使えないし、かといって考え事に集中できるわけでもないし、ほんと困ったものだわ」
 紫の残った左半分の顔からは、血の気が失せていた。会話の合間に、歯が鳴る。
「やっぱり、大変そうね。つらいの」
 霊夢は紫の左頬を撫でた。
「怖いわ」
「珍しいこと言うわね。明日は雨が降るわ」
 した、した、と。
 霊夢の親指と、頭に、水滴がかかる。振り仰ぐと、今度は鼻の頭に一滴、落ちる。
「やれやれ、気が早いこと」
 霊夢は紫を抱き寄せた。下半身はどこを持ったらいいか迷ったが、とりあえずスカート越しに、尻がかつてあったと思しき辺りに手を入れて、持ち上げた。ずいぶんと軽くなっていた。
「ごめんね、汚して」
「洗濯代は別途、表の箱に入れといて」
 霊夢は社務所にあがり、奥の部屋に紫を安置した。黒光りする板張りの部屋だ。ここは空気が常に張りつめている。真夏でも、修行の足りない者が不用意に入ると、鳥肌が立つのが止まらなくなる。
 霊夢が紫のために用意した真新しいシーツは、すぐに生臭い体液に赤黒く染まった。
「やっぱりこの部屋がいいわね、落ち着くわ。回復も早まりそう」
 ドレスの袖やスカートが、もごもごと蠢いている。
「それは良かったわ」
「あら、心配してくれるの。なんなら服をめくって、治っているところをよく見せましょうか。その方がもっと安心するかも。何よ、そんなに目をそらさなくてもいいじゃない」
「私グロいの苦手なの」
 霊夢は紫に背を向けた。かといって部屋を出ていくわけではない。部屋の四隅に札を張っていく。
 紫は左目と、生成しかけている右目を大きく開いた。
「本当に、どうしたの。至れり尽くせりね。あなたがこんなにやさしいなんて」
「いつもこうならいいのに、なんて言うんじゃないでしょうね」
「言わないわ。普段のあなたが一番。今は、私が劣っているから、あなたがやさしくなってしまっている。そういうんじゃないわ、境界の妖怪と結界の巫女の関係は。歯車と歯車がぴったり噛みあうようでなきゃいけないの。そうすれば、どんなに小さなネジでも、巨大な車輪でも、自在に動かすことができるわ。これって、とても気持ちいいこと。わかるでしょう、私とあなたじゃなきゃできないこと」
「それは認める。あなたとするときが、一番ぴったりだもの。なんというか、これ以上ないくらい相性がハマっているのよね」
「月が欠けたあの夜は、最高だったでしょ」
「ええ。すごくよかった」
「うふふ、ありがとう。あの魔法使いが聞いたら泣いて悲しんでそのまま帰ってしまいそうな言葉が聞けて嬉しいわ」
「そのときはあなたを放っておいて魔理沙を追いかける」
「私との方がいいのに?」
「それは関係のない話よ。あなたにとっての幽々子と一緒」
 紫が唇を閉じた。顔の右半分は、肉は完全に出来上がり、その上を覆う皮膚も、半ばまで復元されていた。
「早く治して、紫。さすがに私ひとりで今の結界を見るのはきついから」
「破れているのね」
「破れている、というよりは歪につながっているわ。つながっちゃいけないところが」
「冥界と、地底が」
「死んだ人間の、魂が行く場所と肉体が行く場所が」
「霊夢。私、幽々子を置いてきたわ」
「それはさっき聞いた。あんたなりの目算があったんでしょう。無理やり連れて行くよりも、置いていく方が安全だと」
「ええ。その程度の計算はあの一瞬でできたわ」
「じゃあ、どうしてそんなに顔を歪めているの。まるで、友達を見捨ててきたかのような……自分を責めているような顔をしているわ」
「気のせいよ。私は一度も後悔なんてしてない。あの子を見捨てたことなんてない。今はただ、一秒でも早くあの空間に戻りたいだけ」
「無駄よ、もうあの妖怪は手がつけられないわ。あいつ自身が化け物な上に、なんだかしれないけど結界の歪みからどんどん力を吸収しているわ。それがきっかけで、土に埋もれた死人の声を集めることを覚えた」
「あの空間の中で、正面切って戦うなら、ね」
 まだ完全に皮膚が肉に張り付いていない状態で、紫は三日月形に唇を曲げ、にんまりと笑った。そのせいで、くっつきかけていた皮膚が避け、肉の赤い部分がもっと露わになった。
「搦め手はいくらでもあるわ」


 結界の中は、静かだった。幽々子は膝を抱え、壁にもたれかかり、前方斜め上を見ていた。紫と紅の入り混じったような色の線が四角を象り、幽々子を囲んでいる。その外は、青と黒の混じった、夜に似た何かだ。それは外のようでいて、外ではない。結界の中から見た光景に過ぎない。
 外の音は何も聞こえない。あの、眉間から額にかけて、内側から骨をつつくような痛みはもうない。その代わり、立ち上がって動きまわれるようなスペースも、ここにはない。絶対安全の病室であり、脱出不可能の監獄でもあった。仮にこの壁を破っても、あと三枚は結界がある。一枚ですら強固な紫の結界が、四重にも。
「紫は私を、大事に大事に、しているのね」
 幽々子のため息には、生温かい安堵と、少しの諦めが含まれていた。頭の芯まで痺れるような確信がある。
紫は、私を、大事にしている。
「それが、嫌なんでしょう」
 幽々子は口を開く。まるで自分の声ではないようだ。なのに、唇を動かしているのは紛れもない自分だ。耳にしたくないのに、そんなことは考えたくないのに、けれどそう言っている。
「嫌じゃないわ」
 首を振って、自分の言葉を否定する。
「嫌よ」
 また、同じ唇から声が漏れる。幽々子は戸惑った。無意識のうちに言葉が口をついて出ていた。だが、誰かに無理やり言わされている、という気はしない。自分の奥底にある想いが、ふとした拍子に飛び出てしまった、そんな感覚だった。
「大事にするために、隠すの。隠したせいで、私がばかになっても、それでも大事にしたいの。紫にとっては、私のことよりも、私を大事にすることの方が、ずっと大事なの」
 幽々子は自分の言葉に耳を澄ませた。自分の心情を、言葉や文章にして洗いざらい調べていくという作業を、これまで幽々子はまったくといっていいほどしてこなかった。そもそも自分というものにあまり興味がなかった。まだ意識が虚ろな状態のときから紫の世話を受けており、それから様々な出来事を経て、今では紫の手を借りずとも、白玉楼の冥界の姫として、与えられた役割を果たせるようになった。だがそのことにも特別な悦びはない。今やっている仕事は、閻魔たちへの家賃のようなものだと思っている。この頃は紫の他にも話すひとができた。たとえば妖夢とのやりとりは、紫とはまた違ったおもしろさがある。別に仲がいいわけではないが、博麗の巫女との会話も、悪くはない。顕界の人妖たちも、なかなか顔と名前が一致しないが、遊んでいて楽しいと思う。
 月が歪み、空模様が慌ただしく移り変わり、地の底から不穏な霊が湧き出て、そのたびに幽々子は、目の前に建てられた舞台を鑑賞していた。自分が舞台裏に回って劇の進行を補佐し、時には壇上にあがることさえあった。
 いつも、自分自身への興味は二の次だった。
 だがこうして紫の四重結界によって強引に外との経路を閉ざされ、得体の知れぬ自分自身の言葉と向き合ううちに、幽々子はそのことに考えを及ぼしていった。
「私は、このままこうしていて、いいの」
 自分を檻のように囲んだ四重結界を見回す。指先で触れ、足でちょっと蹴ってみる。手のひらに、桜色の小さな杭を生成し、結界に突き立てた。結界はそういう行為を咎めるでもなく、淡々と受け止める。幽々子は横になった。膝を抱え込むようにして、体を丸める。姿勢に応じて、四重結界の中も姿を変えていく。床に柔らかい襞が幾重にも生まれ、幽々子をそっと包み込む。心地よくて、そのまま目を閉じた。

 膝を抱え込むようにして、体を丸め、こいしは目を閉じていた。
 真っ暗な広がりの中、ぽつんと彼女はいた。周囲を、時々岩石が通り過ぎる。岩石の表面には映像が流れている。時には音声のみのこともある。あるいは、匂いだけ、感覚だけ、感情だけのことも。やってくる方向も、飛んでいく方向もみんなバラバラだ。この虚空の広さがどれだけあるのかは、こいしもわからない。ただ、はるか遠く、流星のように流れていく光の群れがあるから、ずいぶんと広いのだとは思う。少なくとも幻想郷よりは。
 岩石の表面が磨かれていればいいが、あまりにでこぼこしていると映像も乱れてしまい、何のことだかさっぱりわからなくなる。
 こいしは体を丸めた姿勢のまま、自分の腹に手を当てた。そこにあるものを確かめるのように、ゆっくりとさすった。


 紫が橋を渡り終えると、地面が、壁が、空気そのものが震えた。
「いいの? 私は知らないわよ、もう」
 欄干に腰かけ、水橋パルスィは紫の背中に声をかけた。紫は振り向こうともしない。
「ま、口を利きたくないんなら別にいいけど。変な話ね、あなた、ずいぶん地底を嫌っているみたいだったけど」
「今でも嫌いよ。理由はないわ。ただ、このこもったような空気が嫌いなだけ」
「よく言うわ」
「橋、渡らせてくれてありがとう。私も、無駄な争いはしたくなかったから」
「私だって無駄に傷つきたくないから」
「利害の一致ね」
 橋を渡り終わった紫は、広大な空洞を飛び、やがて旧地獄街道に至る。
 通り過ぎる妖怪たちは、みな怪訝そうな顔をして紫を見た。古くから地底に住む者は、当然紫の顔を知っている。そして、それが重大なルール違反であることも。ただ、ひと違いかもしれない。むしろ、そうであってほしい。そんな共通の雰囲気が作られ、誰もが紫の存在に気づきながら、誰も彼女に言及しないという状況が生まれた。
「なあ、八雲の」
 もちろん、地底の中には、そういった空気を一切読まない者もいる。額から赤い一本角を生やした鬼の少女が、その堂々たる体躯で紫の通り道を塞いだ。
「そんなに据わった目をして、どこへ行く」
 星熊勇儀は、唇を弓なりに曲げ、笑っている。脂ぎった目は、むしろこれからの交渉の破綻を望んでいるようにも見えた。
「どいてくれる?」
「あんたの答え方次第だな。私だって、別に大昔に交わした約定を寸分たがわず守れと言っているわけじゃない。間欠泉が出て以来、地上と地底の交流が増えた、それは構わないさ。けど、今のあんたはそういうのと違う。自分の思い通りにならない奴を片端から食い殺そうとしているみたいだ」
「そうかしら」
「ああ、ちょっと懐かしいね。あんたがこんなにピリピリしてるのって」
 往来の人通りが途絶えた。喧嘩は、やるのも見るのも大好物なはずの旧地獄街道の面々が、固唾を飲んで、建物の陰や中から成り行きを見守っている。この喧嘩は、楽しめない。ふたりの間に流れる空気を感じ取って、誰もがそう判断した。
 先に動いたのは勇儀だった。音もなく左の軸足を踏み込み、右足を横へ振り払った。見ている誰もが目を疑った。豪放磊落な彼女は、喧嘩のときもなるべく見栄え良く、豪快に、派手な音を立てて動く、そのはずだった。
 紫の体が上下二つに分かれた。そのため、勇儀の蹴りは空を切った。足が通り過ぎるとすぐに、紫の体はひとつにくっついた。
「おいおい、よける動作すら面倒だっていうのかい」
 勇儀の目から、ぎらぎらしたものが消えていく。相手にやる気がないなら、どうしようもなかった。
「地霊殿に行きたいの。その間、私に余計な邪魔が入らないようにしてくれないかしら」
「それで、わざわざ私に見つかるようにここをうろついていたってわけか」
 旧地獄街道は、地底の中でも社会性のある妖怪が集まっている。商売をしたり喧嘩を楽しんだりするには、それなりの心のゆとりが必要だ。
 地理的にではなく、文化的な僻地には、言葉もろくに話さず、ひたすらに自分の爪を研いでいる妖怪も多い。彼らが地上の妖怪の存在に気づけば、勝算があろうとなかろうと襲いかかってくるだろう。
「鬼のあなたがきちんと言っておけば、そういう輩も黙る。私は、追われた妖怪であるあなたたちにはもう興味はないの。とにかく地霊殿までは邪魔しないで」
 勇儀はため息をついた。紫の性急な物言いに辟易しているようだった。だが同時に、どこか納得している風でもあった。
「あそこは今、ちょっとおかしいよ」
 紫とすれ違いざま、勇儀は言った。紫は足を止め、勇儀を見上げる。正直を旨とする鬼が、奥歯にものの挟まったような言い方をするのが、珍しかった。
「なんというかな、私が見たこともないような家具に囲まれている。エネルギー革命が起きたんだと」
 勇儀は頭をがしがしとかく。
「あすこの主人も何考えているかわかんねーしさ、あのまま放っておくのもどうかと思うが、ひとん家に土足で上がりこんで文句をつけるなんざ無粋の極みだ。あいつらが何かしたんならともかく、何もしてないんだからな」
「怨霊をまた地上に放出しようとしている?」
「いや、いや、そういうんじゃない。そういうんじゃないが」
「でも、鬼のあなたは直感で、嫌なものを感じた。そうね」
「あまりあてにするなよ、私たちの直感ってのを」
「ありがとう、参考にするわ」
 紫は旧地獄街道を飛び去った。地霊殿の状況は地上からは知ることができない。地底に住む者の情報は貴重だった。
 地霊殿に近づくにつれ、どうおかしいのかが紫にもわかってきた。巨大な鍾乳石と鍾乳石の間から、遠目に地霊殿が見える辺りですでに、陽気なマーチ曲が響き渡ってきた。さらに近づくと、どうやら館の壁に大量のスピーカーを設置しているためであるらしいことがわかる。
 館の前庭に広がるバラ園は、狂騒のさなかにあった。陽気なマーチ曲に負けないくらい、バラ園は騒々しかった。
 誰も彼もがしゃべっていた。一輪のバラに複数の霊魂が乗り込んで、中で押し合いへし合いしているらしく、花と花同士の会話は、まったく噛み合っていなかった。以前、幻想郷ですべての季節の花が咲いたことがあった。あのときは幻想郷中だ。ここのバラ園も広いとはいえ、たとえば太陽の畑などとは比べ物にならないほど狭い。そこに、どうやら大量の霊魂が一斉に飛び込んだらしい。だから、収拾がついていない。
 霊魂のあまりの混み具合に、憑代となっているバラの方も異常を来していた。異様に茎が伸びたり、花びらの隙間から人間の目や耳が飛び出たり、突然チューリップやタンポポを偽装し始めたりしている。
 花の異変のときよりも、もっと変化が毒々しい。なぜならここは地底、バラに憑りついている彼らは、怨霊だ。
 紫は、それらの声をひとつひとつ解きほぐしていった。
 時代はバラバラだった。それでも、どうにか二つ三つのまとまりとして捉えることができた。最近になって大量に流れ込んできた死者の霊魂、その霊魂を悼む者たちの想念、それがまずひとつ。そして、ひとつ目の霊魂に触発されて声を上げ始めた、ずっと昔の死者の霊魂、これが二つ目。ここまでは紫にとって、さほど重要なことではなかった。異変の兆候であり、無視できないものではあるが、切迫したものではなかった。
 三つ目は、西行寺家の庭の霊魂たちだ。
 かつて平安時代に顕界に身を置き、幽々子が白玉楼の主となったとき、冥界に移住した。だが冥界に移住した時点で、恨みや呪詛といった要素からは離れているはずだ。それが今、こうして地底に引きずり込まれ、怨霊となってバラに寄生している。石膏像を電車で破壊した時点であるいはケリがついたとも思っていたが、紫の見込みは甘かった、ということだ。
 バラ園を抜け、地霊殿の門の前に立つ。精巧な地獄の絵が掘り込まれた扉は姿を消していた。代わりに、クリーム色の、飾り気もそっけもない、しかし頑丈そうな扉が立ちはだかっていた。横にはインターフォンがあった。紫はそれには目もくれず、まっすぐ進んでいった。扉に斜めに裂け目が生まれ、水に浸した紙のように、分厚い扉がふにゃりと曲がった。紫は何事もなく館の中に入った。
 館の中は、外観と同様、もしくはそれ以上にちぐはぐで、混沌としていた。クラッカーが立て続けに弾け、天井と壁の接合点から突き出した何百というトランペットが、てんでばらばらに歓迎の音楽を始めた。背中からゼンマイを生やした首振り人形が、床の至るところで歩き回っている。また、尻からコードを生やした、高い声で鳴く犬もいた。他に、狐や鳥も、コードをつけたまま動き回っているので、あちこちでコードが絡まって、動きの取れなくなっている者が見受けられた。金メッキ塗装の首振り人形がコードに蹴つまずくと、コードが犬から取れ、途端に犬は動きをぴたりと止めた。床は白と黒のモザイク模様だったが、時折白と黒が入れ替わったり、赤と青に変化したりして、目の休まるひまがなかった。
 入ってすぐは、紫の吐く息が白くなるほど寒かったが、三十秒もすると、今度は手のひらがじっとりと汗ばむほど暑くなった。
「ごめんなさいね、空調がおかしいの。なかなか電気の使い道がわからなくて」
 正面には、左右に分かれる大階段がある。そこを、紫から見て右手側から、降りてくる者がいた。足は動かしていない。階段もエスカレーター式になっているようだ。
「初めて見るわ、あなたがそんなに焦っているところ」
 古明地さとりは、階段を降り切って、紫と対峙した。とても眠そうだ。目は気だるげに、半ば閉じられている。しかし胸に掲げた第三の目は、はっきりと開かれ、紫を見ていた。
「こんなにもあけすけに、私の前に立つなんて思わなかったわ。地上の妖怪は狡猾だから、たいていは誰かをそそのかして、代理にするものだけれど」
「あなたの妹に会わせなさい」
 用件など、紫がわざわざ言わずとも、さとりは理解している。それでも紫があえて口を開いたのは、これ以上さとりのくだくだしいおしゃべりを一秒たりとも聞きたくなかったからだ。
「今、あなたがこいしに会ったからと言って、どうなるものでもないわ。だってあなた、一度こいしの中に入って、無様に追い出されたのでしょう。中から無理なら、外から叩けばいいと思ったのね。想念の空間で無敵であっても、実際には部屋で静かに眠っているかもしれない、そこを襲えば、あなたのように弱々しい幻想郷の妖怪でも、私の妹に勝てると、そう思ったのね。もちろん、とんだ見当外れね。妖怪の賢者の名が泣くわ」
 紫の手が、かすかにブレた。広間の階段が砕け、人間一人が埋まるほどの穴が開いた。一本のクナイがそこに刺さっていた。さとりは、その穴のすぐ上の段にいた。再び、目にも止まらぬ動きで紫がクナイを投げる。階段が破壊される。さとりはさらに上の段にいた。
「妖怪の賢者なら賢者らしく、今のあなたには、もっと他にやるべきことがあるのではありませんか」
 さとりの足元から、バラが生まれた。茎はない。花弁だけが、泡のように次々と生まれていく。花弁の泡は、さとりを中心に放射状に広がっていった。
「大地がズレたわ」
 さとりは眠そうな顔のまま、そう告げた。
「地底にいれば、それはわかる。ほんの少し、だけど、まるごと、ズレたのよ」
 広がっていく花弁の群れは、禍々しい緋の色に濡れている。場違いなトランペットのファンファーレと、ズンチャッチャズンチャッチャとマーチが喧しい。音楽は、けたたましい笑い声を立てながら紫の耳に入り込んで、そのまま体内を暴れ回り、胸の内側から爪を立ててかきむしる。
「地上で結界を管理しているあなたたちも、結界のねじれは認識していた。ただ、歪んでいる場所が地底だと気づくことがなかった。あなたがここへやってきたのは、ただの私用。暢気なものね」
 クナイが飛ぶ。今度は五つ、範囲を広く。
 無為に穴が空く。さとりは、紫の視界の左端に、距離を取って立っていた。
「大地がズレ、結界に隙間ができると、外から大量の霊魂が入り込んできたわ。声は絡みあい、やがて溶け合った。こいしは、地底に流れてきた死者の声と、その死者を悼む声を無意識に受け入れてしまった。あの子は要領がいいから、そのことで、土や石から死者の声を聞くことを学んだのね。いまや、大地の夢を見るようになったわ。あの子は心地いい音楽を探すために、方々を探し回った。そして見つけたの。とびきりの死の力を秘めた土と、石を」
 再びクナイを飛ばす。十だ。今度は、視界の右端に立っている。
「それは冥界、白玉楼」
 さとりの立つ位置が変わるたびに、そこからバラが生まれる。そして今まで生まれたバラも消えることなく、放射状に広がっていく。このまま放っておけば、床はバラで満ちるだろう。そのうちのひとつが、紫の足に触れた。途端、バラは獰猛に紫の足を螺旋状に昇って行った。花弁には牙が現れていた。道士服を裂きながら喉へ至る。紫は無表情に花弁をつかむと、握りつぶした。花弁は弾け、紫の手のひらに数条の切り傷がついた。
「あの子はとてつもない力を手に入れたわ。呪いも恨みも忘れ去った綺麗な霊魂ではなく、恨みそのものがこびりついた地面から力を得ることを覚えた。この世界に生命と感情が誕生して以来、大地にこびりついてきた嘆きを、こいしは無尽蔵にその身に集めることができるの」
 紫は鼻から息を吐いた。今まで眉間に寄っていた焦りの皺が、少し減った。ほんのわずか、余裕を取り戻していた。
「そんなこと、たかだか一個の妖怪にできるわけがない」
 クナイを視界の届く範囲にありったけ投げ飛ばした。百を超える。明るい照明に隅々まで照らされた地霊殿のホールは、無残にも穴だらけになった。
「できるわ。私の妹なのよ」
 さとりの息が、うなじにかかる。紫の真後ろにいた。泡のように生まれた花弁が、紫の足元から一斉に這い上がる。スカートの下にも潜り込んできた。紫はバラで包まれた。
「いつまでも私が、おしゃべりしながら逃げているばかりだとでも思ったのかしら」
 足元から頭までバラで覆われ、顔を両手で抑えながら、体を前のめりに折り曲げる紫を、さとりは侮蔑の笑みで見おろした。
「悔しいのね。あなたの心が手に取るようにわかるわ。心というよりは、もっとシンプルで愚直な、感情の揺らめきが、まるで突き刺すように伝わってくる。あなたのその、自分自身に対する不甲斐なさ、私への苛立ち、こいしへの恐れ、そして西行寺幽々子への救いがたい独占欲……あなた、いつもこんなことばかり考えているのね」
「心が読めるというのは、何もいいことばかりとは限らないわ」
 床を血で濡らしながら、紫は呟いた。さとりは不快気に眉をひそめた。
「今さらどうしてあなたがそんなことを言うの? 心を読むことがつらいとでも? こいしへのあてつけかしら。あなたは今、とても怖れを知らぬことを言っているわ。私が他人から言われて最も腹立たしい言葉を吐いているのよ」
「あなたがつらいかどうかなんて、どうでもいい」
 紫は右腕を伸ばした。手首から先がなかった。
「心を読めることで、考えることはやめてしまったのかしら」
 さとりは視線を下に向けた。慌ててブラウスをめくった。右手が、さとりの腹を撫でさすっている。そのやさしい手つきに、さとりの首から背筋にかけて、一気に震えが駆け抜けた。
「やめ……」
 ぬぷぅ、と紫の指がさとりのなめらかな腹に沈み込む。まずはじめに人差し指が、それから中指、親指、薬指、小指と順番に、やがては手のひらごとうずもれた。さとりは顔中に脂汗を流し、眉根を寄せ、唇を噛んだ。
「なぜ、気づいたの、そしてなぜ、私にわからなかったの」
 皮膚が、みちりと音を立てて、裂けた。紫の右手が、さとりの腹が出てきた。入ったときは水面に入るように静かだったが、出てくるときは容赦がなかった。腹を破り、そこから赤やピンクの色々なものがこぼれるのもまったく意に介さなかった。そんなもの、妖怪さとりにとってはなんの痛手にもならないからだ。紫の右手は、少女の腕をつかんでいた。右手にとってはそれだけが重要だった。わずかに緑がかった白髪の少女は、服を着て、体を丸め、目を閉じていた。さとりの腹から引きずり出された少女は、バラで敷き詰められた床に横たわった。術者であるさとりのダメージが深刻であるためか、バラは無反応だった。紫に張りついていたバラも、力なく剥がれていった。髪を顔を、服を足をまだらに血に染め、紫は笑った。
「やっぱりそこにいたのね、古明地こいし。胎児のように何もできない無力な存在になって、姉の腹の中に隠れていたのね」
 紫は羊水でべとべとになったこいしを見下ろした。右手はまだ持主の元に戻らず、こいしの体をまさぐっている。
「さわ、るな」
 さとりは、溢れるものを抑えるために、右腕を腹にそえている。顔は青ざめ、目元は黒ずんでいた。うつむき加減のせいで、上目遣いになっていた。
「わた、しの、こいし、に」
「あなたは私の感情の揺らめきとやらを追いかけるので精いっぱいで、肝心の行動を読む余裕までなかったみたいね。それもそうでしょう、腹の中にこんなに騒々しいスピーカーをパンパンに詰め込んでいたら、普段なら聞こえるものも聞こえないわ」
 右手はこいしの腹の辺りを這い回り、今まさにブラウスをかき分けようとしていた。
「さわる、なァッ!」
 足を踏み出した瞬間、さとりは弾かれたように、首を大きく後ろにのけぞらせた。眉間に深々とクナイが突き刺さっている。さとりはそのまま、仰向けに倒れた。
 右手は、こいしの腹を露わにし、そこに指を沈めた。さとりのときと同じように、人差し指から入れていき、最後には右手すべてがとぷんと沈み込んだ。それから、肉を分ける音がして、右手が出てきた。さとりのときよりも、もっと乱暴に腹を破った。中から、幽々子が出てきた。目を閉じ、脱力しきっている。四重結界が施されているため、外界からの干渉には反応できない。紫は表情をゆるめ、ため息をついた。
「よかった、無事で。幽々子」
 安心すると、今まで聞こえてこなかったマーチとトランペットの音が意識の上にのぼってきた。クナイやバラの巻き添えを喰らった機械人形たちはほとんどが大破していたが、生き残った、しかし体のどこかを欠損させた歪な人形たちが、任務に忠実に、決められた動作を延々と繰り返している。床はおびただしい血や臓物で、悲惨な有様となっていた。
 紫はそんな周囲の状況にはまったく頓着せず、血に濡れた床に膝をついて、右手を手首につけて、幽々子を抱きかかえた。厳重に張られた四重結界を、一枚一枚、丁寧に剥がしていく。
 四重結界によって行為と感覚の間に境界を引いてしまえば、耳も聞こえず目も見えず、匂いも、触れ心地も、味も断ってしまう。紫は本来なら、幽々子の感覚に干渉などしたくなかった。だが、この件だけは別だった。幽々子に何ひとつ教えるわけにはいかなかった。
 結界を完全に解除した。今にも瞼を震わせ、やがて目を開けるだろう。そして、地上へ帰るのだ。
 そのつもりなのに、幽々子はいつまでたっても目を開けない。
「幽々子?」
 胃から這い登ってきた緊張の塊が、喉元までやってくる。肩をつかんで揺さぶった。
「幽々子、ねえ」
 首ががくがくと力なく揺れた。それでも、言葉が欲しくて、もっと強く揺すった。言葉は返ってこなかった。その代わり、幽々子の袖から、固いものが転げ落ちた。紫は見覚えのあるそれを手に取る。あのとき、こいしと幽々子の想念の空間で粉々に砕いたはずだった。それなのに、何事もなかったかのように、そいつはそこにあった。
 軽石は、気色悪いほど紫の指に馴染んだ。この石の、どの部分をどんな風に幽々子の指が這い回ったかを、紫はそれこそ手に取るように理解することができた。
 石が、囁く。
「かくす、まって、だいじにたいせつ、おっと、うそ」
 フフフフフ。
 ケケケケケ。
 人形は止まり、マーチは絶えた。
 アハハハハ。
 クヒヒヒヒ。
 音楽の絶えた空間に、少女の笑い声が、新たな二重奏となる。
 さとりは上体を起こした。眉間からクナイを引き抜く。穴から垂れた血は鼻の左右から、頬と唇の端を伝い、顎から垂れ落ちる。腹から漏れた赤やピンクは、先ほどよりも少なくなっていた。治るにつれ、大半は体内に戻っていったのだろう。
「今だけはあなたに感謝しますよ、八雲紫。あなたが、こいしと西行寺さんの世界を解き放ってくれました。あなたが、境界を越えさせたのです」
 こいしは横たわったまま、宙へ浮いた。空中で軽やかに回転し、両手両足を元気いっぱいに伸ばした。さっきまで死産した子供のようにぐったりしていたのが、嘘のようだった。こいしは心底嬉しそうに、叫んだ。
「やっぱりね、お嬢さん、戻りたくないんだってさ!」
 紫の表情に一瞬強烈な焦りが浮かび、すぐに消えた。上から石膏で塗り固めるように、無表情を象った。
「あなたの推測した通り、こいしが自分の世界を充実させるほど、外に対してはとても脆くなっていました。私は気が気でなかった」
 さとりは膝を曲げ、手を床につき、ゆっくりと体を起こした。ふらつきながらも、二本の足で立った。上目遣いのせいで、三白眼になっている。三白眼のまま、薄ら笑いを浮かべた。
「ところが、西行寺さんはこいしの中にいて真実を知ることを選んだわ。彼女はこいしの世界を肯定したの。そしてあなたが、そんな肯定し合ったふたりを引っ張り出したものだから、世界が混じった。境界を越えさせたのはあなたよ。せっかくの寝こみを襲う算段もこれで無駄になったわね。今のこいしには誰もかなわないわ」
 紫の無表情の仮面に、さとりが次々と言葉の杭を打ち込む。その杭は、使い手であるさとりまで傷つけているかのようだった。さとりは言葉を発するたびに、眉根をよせ、鼻から眉間にかけてぴくぴくと小刻みに痙攣させた。
「観念しなさい、地上の妖怪の賢者よ。あなたはいつも真実を糊塗する。あなたにとってだけ都合のいい世界を保つために。いけませんよ、そんなものは、私たちさとりには通用しませんよ」
「よくしゃべるわね」
 ぽつりと、紫は呟いた。さとりの形相がさらに歪む。さっきから、紫はさとりにもこいしにも一瞥をくれただけで、ずっと胸元の幽々子を見ていた。
「やっぱり、そうよね。隠しているって、わかるわよね。今までずっと、あえて知らないでいただけよね。そして、それをそのままにしておくっていうのは、私の我儘よ。でも、だってあなた、庭にあなた自身の死体が眠っているなんて聞いたら、成仏しちゃうでしょう」
 紫は、幽々子の髪の毛を指に絡めとりながら、子守唄のように言い聞かせた。
「それとも、知らないふりで済ませられるのかしら」
 亡霊は、自分の肉体と出会うことで自分の確かな死を理解し、成仏する。それから、新たな生を迎えるため、冥界に行く。幽々子はその前の段階にあった。自分が死んでいると、知識の上で理解はしていたが、肌身で直接知ったわけではない。だからこそ、冥界でその心も、形も揺らぐことなく、管理者として存在することができる。
 閻魔の四季映姫から、紫は何度も口を酸っぱくして注意された。冥界の管理人である限り、人間の魂の規範からは外れる。
 魂の規範とは、成仏して、過去の未練を捨て去り、新たな生を生きることだ。幽々子を半永久的に白玉楼の主にしておく限り、幽々子は魂のあるべき姿からはどんどん離れていく。幻想郷の閻魔担当である映姫は、幻想郷の冥界管理者の代替えを考えていた。今までもそうしてきた。冥界の管理者は短ければ数十年、普通は数百年で交代する。幽々子が白玉楼の主になったのは、紫の強力な後押しがあったことが一番だが、ちょうどそのとき管理者の選定期間だったということもあった。幽々子を冥界管理者の座から下し、成仏させるとなると、紫が強硬に反対することが目に見えているので、映姫も他の閻魔も、この件はうやむやのままにして、時が過ぎていった。
「私は、一度も尋ねたことがなかったわね。あなたが成仏したいかどうか。私が駄目だと思っているから、当然あなたも駄目だと思っている……いえ、少し違うわ。私が絶対に駄目だと思っているから、その他の一切の判断、他者の意思が混じる余地がなかったの。あなたの意思すら、そう」
 かつてゆゆこには、父と母がいて、召使いがいて、気の許せる友がいて、大勢の知り合いがいた。
 彼らはゆゆこの魂と出会うこともなく、とっくに新たな輪廻に入ってしまった。
 生前のゆゆこの履歴をまとめて凍結したまま、幽々子としての新しい生と死が始まった。
 というより、紫が、はじめた。
 紫は時折、壁や障子にスキマを作り、そこから、あったかもしれない世界を覗き込んだ。
 それは、ゆゆこが成長し、子をなし、人間の生活に頭のてっぺんからつま先まで浸かり、年老いていく世界だった。紫はしばしばそこへ、自分自身を登場させた。
「子供はいくつになるの」
「八つよ」
「そう。蝉の幼虫みたいだと思っていたら、いつの間にか猿みたいに駆け回っていたから、変だなと思っていたら、もうそんなに経つのね」
「あなたたちにとっては、たったの八年、でしょう。妖怪のくせに変な物言いね。人間みたい」
「だってあなた自身は、全然変わってないじゃないの。一瞬かと思っていたら八年だったから、少し驚いたの」
「嘘。変わるわよ。八年経てば。見た目も、中身も」
 ゆゆこは自分の頬に手を当てる。その上に、紫は手のひらを重ねた。
「それこそが、嘘。変わっていないわ」
 さらに、もう一方の手も頬にそえ、両手で顔を挟み込む形にした。
「変わらないと退屈でしょう」
「そんなことはない、そんな話じゃない」
 紫は、実際にその場所に自分がいたとき、本当にそんなセリフを口にするかどうか、わからない。このまま時が過ぎれば、じきにゆゆこは老いて死ぬだろう。今のように、白玉楼やマヨヒガでゆっくりとお茶を飲むこともなかった。
 瞬きのような六十年だか七十年の交わりで、はたして自分は満足できただろうか。
 そもそもこの設定だと、ゆゆこは死の力を持っていないか、飼いならす程度には無難な力だったことになる。ならば、そもそも紫と交流を持たなかったかもしれない。それに、ふたりが話している部屋から見える空は、冥界の茫漠とした空だった。今の記憶と想像とがごっちゃになっている。
 廊下の外で、軽い、小動物のような足音が連続して聞こえてきた。ゆゆこは立ち上がり、襖を開けて出ていった。何か会話を交わしているが、何と言っているのかよく聞き取れない。言葉は聞こえるのに、それがつながりをもった意味として成り立たない。自分で境界をいじった世界なのに、自分が聞き取れないことに、紫はもどかしさを感じた。これでは普通の人妖が見る夢と一緒ではないか。もっとよく会話を聞こうと、紫も廊下に出る。
 廊下はひんやりとして、暗かった。屋敷の内部の廊下で、明り取りがどこにもない。ゆゆこによく似た桃色髪の少女が、廊下の真ん中にぽつんと立って、廊下の先を見ていた。
「お母さんは?」
 紫はそう尋ねながら、少女の背中に近づく。近づくにつれ、少女の体に絡まった紐のようなものの存在に気づく。
「お母さんは、いませんよ」
 少女は、さとりは振り向く。飛び切りの笑顔を、唇の端が耳元まで届き、口が裂けんばかりの、牙を剥き出しにした笑顔を見せた。
「まるでミルクを拭きとって丸一日放置した雑巾のような、耐えがたい臭いを放っていますね」
 さとりが言った。
「あなたの、心」
 地霊殿の、荒れ果てたロビーだった。現実は続いている。
 紫は、はじめてそこにさとりが存在することに気づいたとでもいうように、幽々子から視線を外し、顔を上げた。
「そういえばあなた、読めるんだったわよね。でも、読んだって理解できないでしょう」
「他人の心の中は痛々しくてひどい臭いだと相場は決まっていますし、理解するつもりもありません」
「妹の心は理解しなくていいの」
「お前には関係ない」
 裂けんばかりの口の笑みはそのままに、眉間に皺が寄り、目が憤怒につりあがった。全体として見ると、さとりの顔は、何か混沌とした粘土細工のように、不可解にねじ曲がっていた。紫は、その顔から、言葉以上に、さとりの感情を受け取った。
「理解できないのね」
「勘違いしないでもらいたいですね。私は、あえて妹の心は読まないままにしているんです。無理やり目を開かせたりもしない。このままの関係でいいんです。私の中で、いつだってこいしは不可解な存在です。私が誰よりも何よりも大切に思っているにもかかわらず、ね。でも、それは、だからこそなの。理解できないもの、どんなに触れ合っていても、かつては同じ腹の中で育った経験があるにもかかわらず、わからない、だからこそ、かけがえのないもの。傍にいて癒されるだけなんて、生ぬるいことじゃない。大切な者といるときは、怖いのです。もちろん、こいしのしたいことはなんだって叶えてあげますよ。地上の呆けた幽霊に興味があるなら、最大限その願いは叶えてあげます。死人の扱いなんてお燐に聞けばよさそうなものですが、そこはまあ、時には新鮮な題材が必要なのでしょう。ほら、こうやって、わからないまま、こいしの思うがままに事が運んでいく。これが、私の生きる意味なんです」
「こいしは、そのことをわかっているのかしら」
「わかる!? わかる、わからないの問題じゃない何度言ったらわかるのでしょうかこの地上の愚かな賢者は。私の、生きる、意味だと、言ってるでしょうがァッ!」

想起「テリブルスーヴニール」

 さとりを中心に、放射状に光の線が広がる。虚像と実像を交えていた。ある光の線は紫を貫き、また別の光の線はそのまま紫を素通りした。ガラスを引っ掻くような耳障りな高音が、紫の鼓膜にねじ込まれた。頭の中で跳ね回る。頭蓋骨ごとねじ切られそうな感覚だ。虚実入り混じった光は、紫の目を焼き、広間自体が、実像の広間、虚像の広間、無数の広間となった。その中に紫自身の像までが混じっている。もう、どれが今自分がいる広間なのかわからない。大弾が連なって押し寄せてきた。紫は簡易結界を周囲に張り、弾幕を弾き返した。視覚と聴覚がほとんど使いものにならないが、それでも身を守る結界ぐらいは張れる。だが、光と音の乱舞は精神に堪えた。胃から胸にかけて、圧迫される。体の中から重くてごつごつした石が勝手に生まれているかのようだ。
 なぜこんな地下の奥深くで、わざわざ胃の痛い思いをしながら、床に這いつくばって、ひねくれた地底妖怪の相手をしなければいけないのか。苦痛と不快のさなか、紫はそんなことを考えた。考えてしまった。芋蔓式に、余計な想念が入り込んでくる。今回霊夢にはずいぶんと借りを作ってしまった。清算が面倒だ。でも世話を焼き焼かれるという関係も新鮮で良かった。なぜ博麗神社に軽石があったのだろうか。間欠泉からたまたま吹き出したのか、あの地底妖怪の妹が計算してあそこに置いたのか。やはり地底との接点ができたことはまずかったかもしれない。その接点が博麗神社だったのはまだましだった。一番管理がしやすいから。白玉楼はどの程度まで浸食されているかも、あとで見なければならない。未熟とはいえあの庭師が、まわりに異変を知らせることもできず、何も抵抗できなかった。それほど地底の連中の力が強大だということだ。冥界にちょっかいをかけられた以上、是非曲直庁も何か言ってくるだろう。この事件の事後処理を考えると憂鬱になる。
 時間にすれば一秒にも満たぬ間に、思考は彼方此方へと飛び回る。
 そう、思考は避けている。肝心要のことを考えるのに。
 それでも、まわりをめぐっていれば、いつしか、そこだけぽっかりと浮かびあがる。どうしても見ざるをえなくなる。
 紫は、自分の矜持を折り、屈する。
 幽々子が今、何を考えているか、誰でもいい、誰か教えてほしい。
 あのぞっとするような春を、もう味わいたくない。
 西行妖が今にも満開になろうとしていたあの春。
 原理的に、満開にならない。それは紫にはわかっている。だが、何かの理の壁を越えて、もし満開を幽々子が見てしまったら……
 あのときの西行妖とともに、亡霊の姫君はその存在をまっとうしていた。
 ようよう醒めゆく夢に別れを告げ、新たな輪廻へ入っていたかもしれなかった。
 怖い、怖い、あの満開の弾幕。
 西行妖と、西行寺家代々の言葉と死の力の結晶である、あの弾幕。
 怖い、怖い、もう見たくはない。
「あ、見えたわ」
 さとりの声は愉悦に満ちていた。その言葉一滴で、大海すべてが蜜になってしまうような、途方もない甘さを持っていた。
「ひっ」
 紫は知らず、かすれた悲鳴を漏らしていた。

想起「反魂蝶」

 何千何万という蝶が乱舞した。桜花をまとった光条が空を貫く。紫は唇を噛みしめていた。前歯に噛まれた下唇から血が流れている。
「ぐ」
 紫は憤怒にかられていた。自分の幽々子の記憶に土足で入り込んできたさとりも、一瞬の怯えを漏らした自分自身も許せなかった。頭に血が上っていた。体が熱い。
「おおおぉぉおおおおおおおおおお」
 罵倒は言葉にならなかった。紫の周囲に小さなスキマが次々と広がる。その数はたちまち十を越え、二十を越えた。桜花の光線が紫の腹を薙いだ。蝶の弾幕が肩を砕いた。それでもスキマは増え続ける。三十、四十、百……やがてスキマは二百を超える。それは遠目から見ると小魚の群れのように見えた。

幻巣「飛光虫ネスト」

 白い紡錘形の光がスキマから飛び出す。鋭く尖った角と、なだらかな流線型の甲殻をまとった虫が、光をまとっていた。中には、光そのものもある。人型に近いものもあった。いずれもが、白光をまとい、高速でさとりを襲った。桜の花びらや蝶と絡み合い、爆ぜる。無数の小爆発を潜り抜け、光がさとりの胸を貫いた。さらに新たな虫が、頭部を抉り取った。首なしの少女は、続けざまに光の槍に貫かれ、穴だらけの赤い残骸と化した。それでも蝶と桜の狂乱はやむことはない。
 紫の体もまたいくつもの穴を穿たれ、体にまとわりつく蝶からは妖気を急速に吸い取られていた。憤怒はまだ消えていなかったが、それを向けるべきさとりの肉体はあちこちに散らばってしまい、どこを見ればいいのかわからなかった。
 やがて、偽りの開花は終わりを告げた。紫は床に仰向けに倒れていた。体の各部位が、手ひどく破損していた。傍に横たえていた幽々子には傷ひとつついていない。紫は目を細め、ほほえんだ。
「こういうところが、いけないのかしらね。でも、しかたないでしょう、ねぇ、幽々子」


   ***

 潮風が肌をべたつかせる。潮騒は、まるで心音のように、飽くことなく繰り返される。私の心音が止まった後も、この浜辺で、潮は変わることなく満ち引きを繰り返すだろう。波は死体を洗う。武者鎧に身を包んだ男たちの、血の気の失せた顔を洗う。血はとうに流し尽くされた。鎧には何本も矢が突き立ち、無事な部分がないほどずたずたに切られている。浜辺には、てんてんと死体があった。今朝がた打ち上げられたのだ。中には、互いを着物で結び合った女官や、母親らしき貴人に抱きしめられたままの乳飲み子の死体もある。どの死体の顔も、無残なまでに水膨れしている。身に着けているもので判断するしかない。
 私の背中に矢が突き立つ。敗残兵をそのままにしておくつもりはないらしい。振り向いて戦う力も、一目散に逃げる力も残されてはいない。私はまっすぐ前に向かって倒れ、波を散らしながら、死体たちと並んだ。波はたちまち血に染まった。うつぶせに倒れたものだから、浜を洗う波に、鼻も口も塞がれた。だが、それより先に私の命は終わりそうだった。
 西行寺様は、何と仰るだろう。
 馬鹿な戦に名乗りをあげた私を、自業自得と責めるだろうか。それともその愚かさを憐れむだろうか。
 これもまた、お嬢様の力なのか。もしお嬢様が死霊を操るすべを心得ていらっしゃるとすれば、その死霊は、もしくはお嬢様は、あまりに気まぐれだった。お嬢様の傍にいて、すぐに死ぬわけではない。いつまでも死なない場合もある。また、気に入られている、気に入られていないという基準でもないようだ。ただ、自分の傍で死んでゆく人間にお嬢様が見せる涙や、かすれた声で為される読経に、嘘はないように思えた。
 私などは、幼少からお傍にお仕えしていて、身の回りの世話も行なっていた。それでもずっと死ななかった。だがこうして西行寺家を飛び出し、世の流れと生きてみて、最後には死のうとしている。これもまた、お嬢様の力なのだろうか。
 そういうことにしておいてもいい。死の定めそのものを操るのだ。無能な司令官や、気まぐれな天候、裏切者、そういった者のせいで死んだと思うよりは、お嬢様の持つ力に囚われ、逃れえぬ死の運命を背負わされたと思った方がずっといい。そうすれば少なくとも、お嬢様の涙だけは、いっときとはいえ私だけのものになるからだ。
 我々の住むこの国は、元は混沌から生まれた島だという。混沌、というのがよくわからない。雨の日のぬかるみのようなものだろうか。島のまわりにあるのは、海だ。我々は、元は海からやってきたということだ。神話がそう言っているのだから、きっとその通りなのだろう。
 なのに私たちは、その海へ還ろうとすると、息を塞がれ、死んでしまう。その懐深く抱かれようと身を投げても、こうして浜辺に打ち上げられるのが関の山だ。
 私は、お嬢様の腕の中で死にたかった。

   ***

 強い風が吹き、こんもりと葉を茂らせた木々を大きく揺らした。ざあ、ざあ、という葉擦れの音は思いのほか大きく、人の叫びにも似たひゅうぅいと鳴る風の音も、私とお嬢様の会話も、たちまちかき消してしまった。
 私だけは大丈夫だと、信じていた。
 私は幼い頃から歌の道に通じ、歌聖と呼ばれた西行寺様から直々に添削指導を受けもした。妹のようなお嬢様に、歌の手ほどきもした。お嬢様も私を姉のように慕ってくれた。
 だから、お嬢様が死神に見初められ、奇怪な力を振るうようになっても、私だけは大丈夫と思っていた。
なぜなら、西行寺様から止められたからだ。
 西行寺様が亡くなられたとき、多くの信者が……そう、あれは信者と言ってしかるべきだ……桜の木の下で死んだ。曳かれたのだ。私も曳かれようとした。だが、桜に近づくと西行寺様の声が聞こえてきた。
「お前には、娘を頼む。だからまだこちらへ来るな」
 たとえ誰に信じられなくてもいい。妄想だと嘲るのも好きにすればいい。だが私は確かに聞いた。だからお嬢様の傍に残った。
 お屋敷から離れれば死霊の力も衰えるかもしれないという、陰陽師の見立てに従い、お嬢様はわずかな伴を連れ、この辺鄙な村へやってきた。一ヶ月ほど経つが、村で不審な死が二、三起こっているらしい。
 私はお嬢様と、歌の道について語らい、紀貫之や清少納言の著作にも触れながら、木々のざわめく中を歩いていた。
 話が、いちばんのはじまりである、万葉集に及んだ。お嬢様は、恋の歌が好きだとおっしゃった。戦や飢饉に引き裂かれた悲しげなものではなく、ただ、ご飯がおいしい、空が綺麗だ、そんな風にして歌う恋の歌が好きだと。誰か想う人がいるのですかと聞いてみたが、顔を赤らめて首を横に振られた。そういう心持に憧れるのだとおっしゃった。
「それから、もうひとつ、鯨魚(いさな)の歌が好き」
「とても大きな魚だと聞きます」
「稗田阿礼は、私たちが混沌の海から生まれたと言い伝えました。海には、私たちのように大地に上がらず、そのままそこで育ち、成長し、変わっていった生き物たちがいるのですね」
「鯨魚が、おおもとは私たちと同じだとおっしゃるのですか。ふふふ、お嬢様はやっぱり、おもしろいおかたですね」
「まあ、笑うのね」
「ええ、嬉しくて笑います。お嬢様と会えて本当に良かった。鯨魚の、どんな歌が好きですか。私はあまり鯨魚について注意深く読み込んでいなかったので、おぼろげに覚えている範囲ですと……」

鯨魚取り、浜辺を清み、うちなびき、生ふる玉藻に、
朝凪に、千重波寄せ
夕凪に、五百重波寄す、辺つ波の

「……あとは忘れてしまいました」
「ええ、それも好きよ。それじゃあ、私の特に気に入っている歌を教えるわね」

鯨魚取り、海や死にする、山や死にする
死ぬれこそ、海は潮干て、山は枯れすれ

「海や山が、死ぬんですか」
 死、という言葉をお嬢様が口にすると、途端になまなましい手触りのものへ変わってしまう。すぐ手を伸ばせば届いてしまいそうなものに。
 あれほど確固としたものとして存在する海や山すら、お嬢様に言われてしまうと、なんだか脆くあやふやで、頼りないものに思えてしまった。
風はますます強まり、木々は悲鳴のように葉を打ち鳴らす。寄せては返す波のように。
私は眩暈がした。
「そうよ。鯨魚のように大きい魚も、目に見えない稚魚も、そして海から生まれ、彼らにはない手や足を持ち、言葉を持った私たちも死ぬように、海も、山も、死ぬの」
「では、何が生きるのですか」
 心細くなった私は、お嬢様に取りすがった。足元がおぼつかなくなり、視界が曇る。
 突然、来た、という予感があった。お嬢様の顔は悲しげだったが、予め知っているようにも見えた。私がすでに死霊に囚われていることを知っていた? 知っていて尚、こんな風にのんびりと文学の話をしていた?
「言葉と、記憶が、残るわ。いえ、ごめんなさい、これは願望ね。何かが残ってほしいの。でも、ちっぽけな私たちの言葉や記憶は、海や山よりずっとちっぽけで儚いものかもしれないわ」
 私は、お嬢様の退屈しのぎの話し相手だったのだろうか。私の死より、歌の解釈の方が大事だったのだろうか。そう、お嬢様自身は決して死霊の手にかかることなく、こうしてのうのうと悲しんでいられるのだ。私は今わの際、お嬢様の手を取り、力を込めた。手の甲に、私の爪痕ぐらいは残っただろう。それは、言葉よりも記憶よりも、すぐに消えてしまうぐらいの痕跡だけれど。

   ***

 幽々子は真っ暗な海を漂っている。こいしは、幽々子の真横にいたり、数万里の彼方まで離れたりしていた。ずっと幽々子を観察している。
「どう、聞こえてくる? 大地の夢が。すごいなぁ、私ひとりじゃこんなのできない。お嬢さんを連れてきて本当によかった」
「夢なの?」
 幽々子は問い返す。
「本当にあったことかと思ったわ」
「きっと本当にあったことよ。でも、それを私は証明できないわ。今のお嬢さんもね。誰かが、これは夢じゃなくて、記憶を夢にしたものだっていってあげないと、ここで死んだ人たちは、みんな嘘っぱちになるわ。誰かが頭の中で勝手に拵え上げた死よ」
「どうすれば、この人たちの死が本物になるの」
「思い出せばいい」
「覚えていないわ」
「思い出したら、あなたは多分、あなたじゃいられなくなるけど、元の、正しいあなたになるわ。今のあなたは途中でねじ曲げられ、その歪んだ状態のまま日々を暮しているの」
「いけないことかしらねえ」
「私はどうでもいいけれど。あなたはそれでいいの」
「どうかしら」
「お嬢さんは、自分でどうするか選ぶこともできるの。誰かが手前勝手に作った枠に、わざわざ従わずともね」
「まあ、紫のことをそんな風に言うのね」
 こいしは、不意を打たれたように目を丸くした。
「話が早くて助かるわ、お嬢さん」
「だってそうとしか聞こえないもの。さっきも、私の口を勝手に動かしていたでしょう」
「動かさせたのは私だけど、言葉はお嬢さん自身の中から出たものよ。大事にされているだけじゃ、物足りないんでしょう。自分で考えて、自分で選びたいんでしょう。種族のさだめなんて、まっぴらじゃない」
「さとりはそんなにつらいの」
 こいしは眉をひそめた。幽々子は、こいしの不快げな表情を初めて見た。
「私の話はしていないでしょ」
「あなたの話もしてみたいわ」
「しなくていいわ。私は石ころみたいに誰にも気づかれないの。そのことがすごいことなのに、なんでわざわざ私の話をするのよ」
「じゃあいいわ。しない」
 幽々子はわざとらしくこいしからそっぽを向いた。こいしは言葉に詰まった。
「あなたは何を恐れているの? 私が恐れているのは、失うことよ。嘘やごまかしを恐れているわけじゃないわ」
「そ、それは嘘をつかれたっていいってことなの。本当と思ったことが実は違ったって、ひとかけらも本当のことがなかったって、そう言われてもいいっていうの」
 奥行きのあった暗闇が、次第に平板なものとなっていく。こいしが感情を乱せば乱すほど、その世界は書き割じみていく。
「嘘でも本当でも、いいじゃないの。大切なのは、自分がどれだけ欲しいかよ」

   ***


 幽々子は目を開けた。体を横たえ、左耳と左頬が床に引っついて、冷たかった。目の前に、同じように床に右耳と右頬をくっつけた紫がいる。顔は血まみれだったが、目は澄んでいた。
「おかえり、幽々子」
「ただいま、紫」
「戻って、きてくれたのね」
「そりゃあ、戻るわ。あなたが呼んでいるなら、戻るわよ」
 幽々子は手を伸ばし、血で赤くまだらに染まった紫の金髪を、指で梳いた。
「ごめんね、幽々子」
「何の話」
「今まで、あなたに隠していたこと。隠すことが、あなたのためだって思っていた。私もその方が、安心できるって。でも、選ぶのは……」
「あのね、紫」
 幽々子は、紫の言葉を断ち切るように、はっきりと言った。
「興味ないの、昔のことは」
 紫は、それを聞いて、はじめ呆然と幽々子を見ていた。やがて、口元に笑みを浮かべる。
「いいの、それで」
「ええ、いいわ。そういうことで」
 いいわ。
 それは、輪廻から外れたままでいることを肯定し、かつての自分の記憶を葬り去ることを肯定し、紫という鎖を自らにまとうことを肯定するものだった。
 少なくとも、紫は、幽々子の言葉をそう解釈した。
 嘘と執着と偽装と献身で編まれた、太く、長く、粘度の高い鎖を、幾重にも身にまとう。手足が、指が、そして髪の先までが、戯れるように鎖と絡み合う。
「あなたの結界で、私を閉ざしていいわ」
「どうしてっ」
 こいしが切迫した声で叫んだ。
「どうして私の中にいないのっ、お嬢さん!」
 こいしを中心に、暴風が吹き荒れた。桜花と飛光虫の乱舞で無残な破壊の跡をさらしていた地霊殿ロビーは、さらに引っ掻き回された。壊れた人形も、瓦礫もみな風に浚われ、広間の隅に押しやられ、かえって綺麗になった。
「こいし、お願いだからそんな風につらそうな声をあげないで。あなたの心は読めないけど、あなたの声が、私の胸に響いてしまう」
 さとりのか細い声がする。紫は肘をついて上体をわずかに起こして、声の在りかを探った。床に、第三の目が転がっていた。声はそこから出ていた。
「お嬢さんの声が消えた、私の中から。出て行っちゃったの!」
 さとりの声など届かないように、こいしは頭を抱えて、首を大きく振った。幽々子は何か声をかけようと口を開いたが、やがて閉じた。
「もっと色んな話が聞けると思ったのに。死にゆくひとのため息とか、幸せな回想と描写の冷たさの対比とか、隙間風が入り込むみたいにそっと忍び寄る圧倒的な絶望とか、花や太陽を見て抱く生きることへの希望とか、そういうのがまるごとまぜこぜになった死ぬってことを、お嬢さんからひとつひとつ聞き出そうとしていたのに!」
「こいし、こいし、そんな心だったら、目を開けばいつでも見えてくるのよ。お姉さんは、あなたが見たがっているものを、すぐに見ることができるわ。目を開いて人間を襲えば、すぐよ。人間を襲うとね、ひとによって様々な心の動き方をするわ。ひとつとして同じものはないの。自分自身も傷ついたり、時にはとても危ない目に遭ったりもするから、簡単に勧めることはできないけれど、それでもこいし、あなたがそんなに身をよじるほど死にゆく者の物語を求めているんだったら、あなたがさとりに戻ればいいの」
「そんなんじゃないそんなんじゃないわ」
 こいしは駄々っ子のように首を振り続ける。諭す立場にあるはずのさとりの声も、うわずって落ち着きがなかった。不意に、こいしは首の動きをぴたりと止めた。
「ねえ、また地上に行けば、わかるかな」
 声が途絶えた。こいしの気配がなくなった。紫は口の中が干上がったように感じた。再び胃の辺りが締めつけられる。
「なんですって……」
 幽々子さえ回収できれば、あとはもう用はなかった。それなのに、地底の妖怪はとんでもないマネをしてくる。
「そうね、それがいいでしょうね。あなたの不安定な心を落ち着かせるには、適度な運動も必要だわ」
 第三の目は、目を細めて笑った。紫は傘を広げ、その先端を目に向けた。
「紫、構うことはないわ。どのみち、帰るのに変わりはないのだから。行きましょう」
 幽々子に袖を引かれ、紫はさとりの目から視線を外そうとした。
「あれぇ~、おかしいな。この辺に確か広間があったはずなんだけど」
 ふたつの異なる足音がした。出処は、ひとりだった。ひとつは革靴、もうひとつは重たげな生き物の足だ。
「どうしてこんなにすっきりしちゃったんだろう」
 黒いストッキングに包まれた形の良い足と、岩を固めてつくったように無骨な象の足を持つ少女が、あくびをしながら現れた。
「これじゃおちおち寝ていることもできないわ」
 象の右足が、さとりの第三の目に触れた。
「うにゅ?」
「おくう」
「さとり様?」
「前を見なさい」
 霊烏路空は言われたとおり、前を見て、紫と幽々子を視界に収めた。腰まで広がる長い黒髪が、ちりちりと逆立っていく。
「あれは? さとり様」
「侵入者よ。排除しなさい」
「わかりました、排除します」
 そこからは早かった。空の右手に六角形の長い制御棒が備わる。左手で添え、構える。砲身に力が満ち、ただちに解放された。空自身の何倍もの直径を持つ超火力のエネルギーが迸った。紫はまだ体のあちこちが欠けている状態で立ち上がった。腕を高々と振り上げ、一気に振り下ろす。紫と幽々子の目の前に、巨大なスキマが開き、空の炎を丸ごと飲み込んだ。空の右手側に、同じ大きさのスキマが開き、そこから炎が噴き出す。空は自らの渾身の一撃に飲み込まれた。
「あなた、結構ラクしているわね」
「そうでもないわ。大技よ。できればあんな熱くて危険なもの、スキマを通したくないもの」
 すべてをスキマ送りにできたわけではなかった。熱波はふたりのところまで押し寄せていた。幽々子の袖にも、火が移っていた。幽々子は自分でぱたぱたと袖をはたき、息を吹きかけて消した。
 空は高熱の球体に包まれていた。彼女の炎は、まったく彼女に痛手を与えた様子がなかった。再び制御棒を構える。第二撃目が放たれた。
 同時に、紫の前で開いたままのスキマから、炎が噴き出した。空の炎と絡み合い、押し返す。
「な、何これっ」
 空は思わず声をあげていた。自分の炎が押し返されたということが信じられなかった。足元から渦巻く風が、長髪とマントを高々と吹き上げる。空自身が赤く輝く。
「こんのぉ……っ!」
 制御棒が震えた。さらに炎の力は増し、スキマから噴き出した炎を止め、拮抗し、やがては押し返し、完全に吹き散らした。炎はスキマごと紫たちを飲み込もうと押し寄せる。

式神「十二神将の宴」

 スキマから十二の魔方陣が現れ、それぞれが緊密なつながりを持ち、炎を塞ぐ壁となった。激しい力の拮抗ののち、魔方陣はすべて消えたが、炎もまた掻き消えていた。
 空は自分の超火力砲が防がれた以上に、今の瞬間、スキマから出てきたものに関心を奪われている。
 何かが出てきた、しかし目で追えない。何かが回りながら、かつて広間だった瓦礫の山を縦横無尽に飛び回っている。毬が跳ね回っているかのようだ。しかし、そんな暢気なものでないことは空にもわかっている。狙いをつけて、速射した。
 そいつは火弾を紙一重でかわし、そのまま突っ込んできた。銃口を向けるが間に合わない。
 ぞぶり、と、空の右腕が噛み千切られた。そいつはようやく回転をやめ、着地した。人型をしていたが、両手両足を地面につけ、獣のように牙を剥き出しにしている。口には、制御棒をつけた空の右腕がくわえられていた。目はつりあがり、口は耳元まで裂けんばかりに広がっている。
「あーあ、その制御棒、気に入っているのに。でもね、それがなくったって私、戦えるんだよ」
 胸元の赤い目が光る。空の周辺に巨大な火球がいくつも現れた。
「ここはお任せを、紫様」
「頼んだわ、藍」
 火柱がいくつも吹き上がり、原型をとどめなくありつつ広間から、紫と幽々子は連れだって外へ出た。
 鍾乳石の巨大な柱が立ち並ぶ地底空間を見渡す。こいしを探さなければいけない。
 ふと、か細い猫の鳴き声が聞こえてきた。それとともに、車輪が地面を転がる音がする。地霊殿の外はほとんど整地されていないので、がたごとがたごとと騒々しい。
 紫は周囲に視線を走らせる。怨霊に囲まれていた。近づくと、怨霊は形を変え、鋭い針となった。まわりの怨霊もそれに従い、紫たちは針の壁に囲まれた。見上げれば、針ははるか上方まで伸びている。
「やれやれ、仕事から戻ってきてみればウチが大変なことになってるじゃないのさ」
 その針の山を苦も無くかき分け、手押し車を押す、赤いおさげ髪の少女が現れた。その猫目は爛々と光っている。
「人間じゃないのがちょっと物足りないけど、いいよ、この際。さとり様やこいしちゃんの苦しそうな声がここまで聞こえてきたよ。覚悟はできているよね。やろうか」
 車は怨霊で溢れかえっていた。乗り切れないものたちが、火焔猫燐のまわりを取り巻いている。紫は呆れたようにため息をついた。
「まったく……本当に地底の連中はどいつもこいつも。やっぱり降りるんじゃなかったわ」
 それでもお燐に向かおうとする紫の袖が、後ろから引っ張られる。振り向くと、幽々子がじいっと紫を見ていた。
「……何のつもり、幽々子」
「ここは俺に任せてお前は早く行けー……って、一度言ってみたかったの」
「はい、言ったわね。どう、感想は」
「私の柄じゃないわね」
「私もそう思うわ」
「でも、言ったからには実行しないとね」
 幽々子は紫より一歩前に出た。扇を開き、一振りすると、黒い風が巻き起こり、周囲を囲む針の山を、砂粒のように粉々に砕いてしまった。
「ひゃー、すごいねお姉さん、どうしてそんなに霊を扱い慣れているの」
 お燐は歓喜の声をあげた。猫目は顔の半分を越える大きさにまで拡大し、上唇から伸びた牙は涎を滴らせた。
「ああもう、残念だよ、お姉さんが肉体を持っていたらなぁ。幽霊じゃ、つまらないものね。でもいいや、楽しめそうだから」
「どうぞ、かかってらっしゃい」
「ちょっと幽々子、勝手に」
「いいじゃない、たまには。それに、私じゃまたいつあの無意識に取り込まれるかわからないもの。探すのは紫が適任なの」
 顔だけ振り向いてそう言われると、紫としては反論できなかった。悠長に言い争っている状況でもない。紫はスキマを開き、中に入った。


 洞穴の至るところに、巨大な宝石があった。それは壁から直接突き出した円錐形だったり、足元に石ころのように転がっていたりした。
「探したわよ。手持ちの式神を総動員したけど、まだ地上に行っていないみたいで助かったわ」
 こいしは、黒曜石の大きな柱に背中を預け、膝を組んでぼんやりしていた。声がかかると、紫の方へ視線を向けた。こいしの顔は、泣き疲れた幼児のように、やつれていた。
「また、するの」
「いいえ、しないわ」
「でも、こんなところまで追いかけてきた」
 紫はスキマに手を入れて、そこからテーブルを取り出した。さらにテーブルクロスを敷き、トレイを引き出す。トレイには、すでに用意されていた紅茶とクッキーが乗っていた。紅茶からは甘いミルクの匂いとともに湯気が立ちのぼっている。クッキーにもまだ熱さが残っている。
「淹れたて、焼き立てよ」
「どういうこと」
「話し合いましょう。私にもう戦う理由はないわ。疲れたし」
「うん、私も疲れた」
「こっちに来なさい」
 紫が言うと、こいしは素直にうなずき、立ち上がって、テーブルの前にやってきた。椅子を差し出すと、ちょこんと浅めに座った。
「地上にはもう行かないのね」
 確認するように、紫は言った。
「うん、いかない。行ってもしかたないもの。行ったって、どうせなんにも見えないし。嫌われるだけだし」
「あなた、最近、地上の人妖と少し仲良くなったって聞いていたけれど、聞き違いだったかしらね」
 紫はクッキーを齧った。こいしはミルクティーを口に含み、うなずく。
「仲のいい子がいたの」
「その子はどこにいるの」
「そこ」
 こいしが指差した方には、巨大なルビーの柱があった。紫は柱にスキマをつくり、手を切り離して、中に手を突っ込んだ。やがて、稲穂色の髪の少女が、スキマから引きずり出された。紅葉の髪飾りをつけたその少女は、意識を失っているようだったが、眉をひそめ、表情は苦しげだった。げっそりとやつれていた。元々痩せ形のようだが、それでもひどかった。頬骨が突き出、手は骨に皮がはりついただけのよう、足もマッチ棒のように頼りなかった。服もサイズが一回り大きいように感じた。
「どうしてこんなにしたの」
「私はただ、この子と遊ぼうと思ったの。この子は、ええ、と言ってくれるわ。でも、この子のまわりのひとたちが、私のことを悪く言うの。それはいいの、そんなことずっと言われてきたことだし。だって、殺掠って楽しいから、今さらやめるなんてとんでもないわ。この子が私を選んでくれたんだから、それで私は満足だったの。でもね、この子はやさしいから、まわりのひとの言葉に耳を傾けてしまうの。絶対にあいつに近づくな、地底の妖怪と関わるとロクなことがない、って。あの子はやさしいから、その言葉も聞くわ。でも私の言葉も聞くわ。でもこれって、おかしいことになるの。両方とも反対のことを言っているのに、両方の言うことを聞くのって、無理よね」
「絶対に無理ではないけれど、少し難しいかもしれないわ」
「だから、この子は嘘をついた。何度も。苦しそうに。それって私のせい? ねえ私のせいなの? 私といると楽しいって聞くと、ええ、と言ってくれるわ。私はその言葉を聞くだけで、お腹のあたりがあたたかくなって、この子がいてよかった、この子と交わす言葉があってよかったって思えていたの。でもね、もし嘘があったらどうなるの。楽しさも悦びも、ないってことよね。それ、私たちが言葉を交わす意味がないよね。私は、もっと深くこの子の声を聞きたかったの。そんなとき、地底にたくさんの霊魂が流れてきたわ。言葉って、地の底にたまるものだって、初めて知った。この子のことをもっと知りたくて、いつもより少し強引に、私のうちに連れていったわ。まわりのひとたちはすごく怒っていた。でも、私にはかなわないものね。そして、この子に幻想鉱物大博覧会を見せたわ。博覧会が終わった頃には、この子、ぐったりしていた。私はなんだかわからなくなって、とりあえずルビーの中に保管したわ。あとはもう、とにかく耳に気持ちのいい声だけ探した。他にすることがなかったから。私が地上に散らした軽石は、色んな声を拾ってくれたわ。その中のひとつに、今まで聞いたことのない声があった。それを追いかけていったら、地上よりももっと高いところまでいかなきゃならなかった。冥界っていうんですってね。広い庭に大きな建物があったわ。その建物の一番てっぺんに、今まで聞いた中で一番濃密な声があったの。思った通り、そこのお嬢さんに博覧会を見せたら大喜びだったわ」
 紫は盛大にため息をついた。
「そりゃそうでしょう。ただでさえ地上のひとには、怨霊の巣窟になっている地底はつらいのに、ましてや死者の声が飛び交うようなあのショーをやったんならね。幽々子だからなんともなかっただけよ」
「そんなの、わからないよ!」
「知りなさい」
 ぴしゃりと紫は言った。こいしは押し黙った。膝の上で拳を握りしめた。
「とりあえずその子、返してきなさいよ」
「どうやって返したらいいか、わからない。だって、絶対に怒っている」
「そりゃ怒るでしょうね、特にその子はともかく、まわりの連中は」
「多分、謝っても許してくれない」
「でしょうね」
「じゃもういいや、地上に行ってこの子のまわりのひとたちごと」
「殺掠しちゃえ……って? それはまた馬鹿なことを考えたものね。霊夢が動くわよ。思いとどまってくれてよかったわ」
「やっても、きっとつまらないって思った。歯ごたえがないし、この子は悲しむし。ルビーに入れてしまったら、やっぱり、相変わらず綺麗なんだけど、でも何も私に話しかけてくれないの。すごく、嫌だった」
「それがわかっただけで上出来よ。クッキーもっと食べなさい。知り合いの悪魔に作ってもらったものよ、序列二十七位とかいって自慢するだけあって、おいしいわ」
 こいしはうなずいて、クッキーを一度に三枚頬張った。
「勿体ないことするわね。とりあえず、その子は私が地上に返しておくわ。あなたが反省していたことも一応向こうには伝えておく。ほとぼりが冷めたら、また謝りに行きなさい」
「うん」
「とりあえず今日のところは、食べて飲んで、うちに帰ることね。もっとも、あなたのうち、掃除が大変だろうけど、あそこ広いから、まだ無事なところがかなり残っているはずよ。ねえ、家主さん」
 宝石の柱列から、さとりが現れた。
「ご一緒にいかが。停戦協定は、こうやってテーブルを挟んで飲み食いするのが一番よ」
「こいしとふたりきりでお茶なんて、私もここしばらくご無沙汰だというのに、いいご身分ですね」
「妬かないの。クッキーはいかが」
 さとりは仏頂面でテーブルに近づき、少し身を前に乗り出した。すると、首が取れてテーブルに落ちた。その拍子に、ちょうど紫が取ろうとしていたカップが揺れ、中の紅茶が紫の袖やスカートに飛び散った。
「ああ、これは失礼しました。誰かさんにもぎ取られた首のすわりが、まだちょっと悪いようです」
 テーブルに頬をつけ、さとりは紫を見上げた。それから何事もなかったかのように頭を両手で抱えて、首の上に置く。紫は眉間の筋肉をぴくりと痙攣させたが、停戦の了承として受け取り、ここは冷静に流すことにした。
 さとりのためにもう一席用意すると、彼女は素直に座った。紅茶を口にし、クッキーをかじる。立ち振る舞いが上品だ。さとりだけでなく、こいしも、何気ない仕種の端々に品の良さが滲み出ていた。普段の言動が言動だけに、こういう場面で現れる古明地姉妹の育ちの良さに、紫は新鮮な驚きを感じた。
「あなたたち、やっぱりいいトコの出なのね」
「おっしゃる意味がよくわかりませんが」
「心を読めばわかるでしょう」
「読んでもピンと来ないことがあるのですよ」
「じゃあ自分で考えて御覧なさい」
「ところで地上の妖怪よ、今私が何を考えているかわかりますか」
「地霊殿の修理」
「ご名答。さっきあなた、まるでひとごとのように話していましたよね。まさか散々ひとの家で暴れておいて、このまま何もせずに帰るなんてことは、もちろんしませんよね。鬼への折衝はあなたにお任せします。私はあのひとたちは苦手なので。もちろん費用もあなた持ちですよ」
「わかったわ、そのくらいはこっちが折れるわ」
「というか壊したのあなただから当たり前でしょう」
「そっちだってペットをけしかけていたわ。おあいこよ」
「この期に及んでまだ責任転嫁しますか」
「ハイハイだからこっちが折れるって。交渉も費用もこっちでやる。そう言ってるでしょそれでいいでしょう」
「地上の妖怪はいちいちひとを苛立たせるのがお上手ですね」
「顔を見るだけで苛々する地底の妖怪にほめられるとはね、ああ嬉しいわ」
 ふたりは言葉を区切り、紅茶を飲む。紫はため息をついて、口を開いた。
「話を先に進めましょうか」
「そうですね、私も賛成です」


 一面が焦げ臭かった。ようやく空の抵抗がやんだ。藍は、左手で空の喉を高々と吊り上げていた。焼け爛れた藍の右半身は少しずつ回復していた。
「ふう、やっと、静かになったか」
「ふええ、なんなのよあなたは。地上の妖怪は強いのね」
「私は、ただの長生きの狐だよ。お前こそ、とんでもない力を持っているな。生態圏の外からのエネルギーか。理論上ほぼ無限に力を生み出せるから、熟達すれば私より上だ。第七次エネルギー革命は伊達じゃない。お前は、ひょっとすると近い将来、神になるかもしれない」
「な、なんだかわかんないけど、私ほめられてるのかな……それにしても、さとり様どこ行ったんだろう」
 藍は手を放した。空は地面に両膝をつく。
「私たちの主人は話し合いをしていたんだ。行こう」
「うん、いっぱい動いたからすごくお腹が空いたわ。あれ、そういえばお燐は? ここに一緒に来たんだけど」
「さっきまで、外から元気な笑い声が聞こえていたが……」
 藍と空は、砕け、焼けた地霊殿ロビー跡から外へ出た。お燐がこちらへやってくるのが見える。手押し車を押しながら、肩を落としていた。目は猫目ではなく、ごく普通の少女の目だった。明らかに戦意を喪失していた。彼女の頭上を、幽々子がふわふわと漂っている。
「ねぇ、元気出しなさいな。あなた、いい線行っているわよ」
「はぁ~あ、もういいよ、お姉さん、無理におだてなくったって。だってあたいの攻撃が全然通用しないんだもの。火を消すために火を使っているような感じだよ。それか、水を拭くために濡れた雑巾を使うような」
「今日は雑巾の話をよく聞くわね。でもあなた筋はいいわ」
「お姉さんとの相性は最悪だけどね」
「楽しくなかった?」
「楽しかったよ。手加減して遊んでもらってああ楽しい、そんなところ」
「私も楽しかったわ」
「ありがとさん」
 お燐は力なく手を振ると、空の方へ歩み寄った。
「お疲れ、おくう。どうだった」
「うん、なんかね、負けたみたい」
「あんたが負けるなんて、いったいどういうことなのさ……」
 藍をちらりと見ながら、お燐はすっかり呆れていた。





 縁側に箒を立てかけて、霊夢は一服していた。昨日の昼間は宴会、さらに夜がその残り物だったせいか、今朝からあまり食欲がない。朝は茶漬け一杯だった。昼間も漬物とご飯くらいで終わらせるつもりだ。
「あら、絶賛サボり中?」
 霊夢の後ろ、肩の辺りから、紫が首だけにょっきり突き出した。
「まさか。これから一日の後半への鋭気を養っているところよ。というかやめてよ気持ち悪い」
「ふふふ、昨日はありがとう。あなたとあんな濃密な時間を過ごしたの、久しぶりだわ」
「近い近い。息がかかる」
「あなたが全身バラバラになるような怪我をしたときは、私を頼ってね。どんな医者よりも上手に縫合してみせるわ」
 霊夢は湯呑を置いて、ため息をつた。
「ったく、私は人間よ。バラバラになった時点で死んでるっつーに」
「あら、そうだったわね」
 霊夢の正面から腕が生えて、湯呑を取った。人体の位置から考えると、紫の首が霊夢の後ろにあって、正面から腕が出てくるのはおかしい。紫はそのまま何喰わぬ顔で湯呑を口元に近づけ、お茶を啜った。
「よくそれでこんがらがらないわね」
「だって妖怪ですもの」
「昨日、地底の妖怪たちとはあれからうまくいったの?」
「おかげさまでどうにか」
「あれから異変らしい異変も起こっていないから、まあそうなんでしょうね。お疲れさま」
「あらねぎらってくださるの、嬉しいですわ」
「あんたもわりと面倒な立場にいるわよね」
「調停者というものはすべからく面倒な立場よ」
「地底の連中は、一度思い込むと、こうなるからね」
 霊夢は両手を顔の横にそえて、そのまま真っ直ぐ前に動かす仕種をした。
「あと、幽々子は大丈夫だったの?」
「ええ。問題ないわ」
 そこで、少し会話が止まった。霊夢は紫の手にある湯呑を奪って、お茶を啜る。
「本当に? どうもあんた、幽々子の全部を把握しているような口ぶりだから」
「そんなこと言ってませんわ」
「そうね、そんなことできっこないものね。幽々子は幽々子だから。あんたじゃない」
「わかってますわ」
「わかってるのかなー」
「幽々子は、幻想郷にいることに決めた。それで十分ですわ。昔のことにも関心がないそうよ」
「敬語が多いと、胡散臭く感じるわね。わざとでしょ」
 湯呑に入ったお茶を飲み干すと、霊夢は立ち上がって伸びをした。
「さて、仕事、仕事」
「また掃き掃除? さっきからそればっかりしているわね」
「あんた覗き見してたの」
「昨日、軽石に混じって高価そうな石ころが転がっていたから、それ目当てなんでしょうけど、あまり期待しないことね。地底からの贈り物だったら、どんな異物が混入しているかわかったものじゃないわ。自己責任でよろしく、境界の巫女さん」





 春も半ばを過ぎると、昼間から急に気温が高くなることがある。村紗水蜜は命蓮寺境内の松の下で足を伸ばして、自分で呼び出した幽霊で涼んでいた。彼女本人が舟幽霊であった頃の名残で、幻想郷を漂う幽霊とは仲が良かった。縁側の廊下を雲居一輪が歩いている。
「一輪、まだ終わらないの、聖の説教」
「みたいね」
「あの子……響子だっけ、いったい何をしたのよ」
「地底で声が響いていたから、面白半分にそれを増幅させたんですって。問題は、その声が死霊のものだったってことね。しかもとびきり強力な類の」
「あらら」
「響子ぐらいの妖怪なら一瞬で消し飛ばされかねないほどの、ね。身の程を知りなさいということで、姐さんからニコニコお説教よ」
「少しでも背筋を曲げたり、うつむいたり、ヨソ見したり、足を崩したりすると、ぴしゃりと平手が飛んでくる、アレね。で、それでもずっと聖はニコニコしてるの」
「あれはキツイわ、正直言って」
 一輪と村紗は顔を見合わせて、うなずいた。
「それで、その地底の死霊ってのは、もういいの?」
 脇に挟んだ幽霊を撫でながら、村紗は尋ねた。
「姐さんも星も、今のところ何も言ってこないから、ひとまずは大丈夫ってことでしょ。ただ、どうも地底でゴタゴタがあったのは確からしいわ。それ気持ちよさそうね」
 一輪が村紗の脇を指差すと、村紗はあははと水しぶきのように爽やかに笑って、手元の幽霊をひとつ一輪に放り投げた。
「ありがとう。ひんやりする」
「地底ってあそこ、いつもゴタゴタしてるわね。私たちがいたときもそうだったし、こないだナズーリンが挨拶行ったときも、いつの間にか戦闘に巻き込まれたって言ってたし」
「物騒なところよ」
 一輪は袂から手紙を差し出した。
「そうそう、忘れるところだった。あなたを探していたのよ。手紙よ」
「手紙……私に? 誰から?」
 聞きながら、もう封を開け、中の紙を読み始めている。さほど長い文章ではなかった。村紗は怪訝そうな顔をして、紙を元通り畳んだ。
「冥界の姫君は何て言ってきたの」
「それが、今度ふたりでお茶でも飲みませんかと」
「あら、お誘いだったのね。すごいじゃない、結構、偉いひとでしょ」
「ううーん、聖のいないところで、あまり知らない女のひととふたりきりになるのは気が進まないんだけどなぁ」
「姐さんには一言断っておけばいいじゃない。冥界にお茶のお誘いなんて、おもしろそう。他に、何か書いてあったの」
「海の話を聞かせてください、ですって」
だいぶ期間が空いてしまいました。お久しぶりです。
今度は、あまり間を空けずに向こうに投稿して、そいでまたこっちに投稿するつもりです。
6月のうちにどっちもしたい……

無間の鐘と胎児の夢のシンクロ率は異常。あすこはダブルスポイラーの白眉です。
凋叶棕・めらみぽっぷの胎児の夢も、いい歌ですね。
野田文七
http://blogs.yahoo.co.jp/alfettaalfetta
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コメント



0.1750点簡易評価
2.100点紅枝垂 削除
何かすごいものを読まされたように思えます。見てはいない。野田文七ワールドを堪能させていただきました。
或る点でまさに理想のお話でした。こんな題材を纏めきってしまうあなたはやはりおとろしや。
4.100点名前が無い程度の能力 削除
わーい、待ってました。面白かったと言うか、満足したって感想の方が合いますね、貴方の作品は。
最終的に大事にしないで収束させようとしたのも好きです。途中部分はえらく大事ですが。
最初の方、廃駅下車の旅を連発する所で笑ってしまいましたwこれがシリアスな笑いか。
6.100点名前が無い程度の能力 削除
いい文章でした。
7.100点名前が無い程度の能力 削除
面白い話でした。
途中、登場人物の視点にのめり込みすぎて気持ち悪くなったくらいに濃密な心理描写が堪らなかったです。
8.100点奇声を発する程度の能力 削除
凄く深い感じがして良かったです
9.100点名前が無い程度の能力 削除
ゆかゆゆと古明地姉妹と、それぞれの関係性の提示と纏めが見事ですね。シリアス部ユーモア部、調和していて無駄なところが無い。深みがあって素晴らしい作品でした。
10.100点名前が無い程度の能力 削除
途中の戦闘、心理描写にはのめり込むように読んでいたのに、締めがきれい読後はとてもすっきりしました。
13.100点名前が無い程度の能力 削除
脳内に幻想展覧会とテーマパーク地霊殿が展開された。
あと、紫の幽々子至上主義は相変わらず良いものですが、さとりんのこいし至上主義もなかなか…
楽しめました。
15.90点名前が無い程度の能力 削除
恋しいお話でした。
16.100点名前が無い程度の能力 削除
こいしは胎児の夢をみる
還りたいと乞い願うのか
幽々子は胎児の夢をみる
孵りたいと乞い願うのか
19.90点名前が無い程度の能力 削除
このさとりとこいしがなんかすごく気に入った。
20.90点名前が無い程度の能力 削除
ヒューッ!こいしー!
21.100点名前が無い程度の能力 削除
難しい問題に挑んで、よく治める手腕。流石は野田氏です。
異世界の異世界らしい描写や弾幕描写の奇妙さがたまりません。
幽々子がこちらに帰って来たときの一言、「興味ないの、昔のことは」に心が震えました。ゆかゆゆ! ゆかゆゆ!
全体的にシリアスで重たく暗い雰囲気ではありましたが、トンネルを爆走する廃列車や、
何故かとつぜん瀕死状態で出てきた静葉さんの箇所には、にやけてしまいました。
静葉は犠牲になったのだ。犠牲の、犠牲にな。こいしェ……。
23.100点名前が無い程度の能力 削除
今まで読んだ野田さんの作品の中で一番好きかも。
艶っぽさと恐ろしさ、暗い情熱と絆の美しさが冥界と地獄という舞台にぴったりと合ってました。ゆかゆゆ・さとこいマイスターとお呼びしたい。

静葉さんは前作からのつながりですね。ヤンデレな彼女を持つと大変だ。
24.100点名前が無い程度の能力 削除
血まみれの賢者が素敵
31.100点名前が無い程度の能力 削除
この妖怪達こえーよ、幻想郷はやっぱり人外魔境だったんや!
にしてもゆかゆゆとさとこいが濃密過ぎて胸焼けするわ、好きだけど
33.無評価野田文七 削除
皆様おひとりおひとりの言葉が天佑です。(孫堅by蒼天航路)
いやーやっぱコメントいただくと書いてよかったとしみじみ思いますね。

>列車
言われてみれば、ちょっと笑えますね。
書いているときは「これが一番均しやすいかな」と思って採用したスペカでしたが。
もちろん見た目のインパクトもありますし。

>さとこい
ゆかゆゆに比べてこっちは、暗くてひたむきではた迷惑な面ばかり書いてて、うまいこと魅力が伝わったか心配でしたが
好きだといってくれるひともいてよかったです。


毎度のことながら過去作とからめたい誘惑に駆られましたが
原則として、その一編で話が通じるようにしているつもりです。
静葉の名前を出さなかったのは、自分なりの線引きでした。

この場で宣伝するのもはしたない気がしてきたので控えめにします(結局するのかよ)が
夏までは妖々夢勢の話が続くと思います。
今しばらくキャラに偏りがあるかと思いますがご容赦ください。

久しぶりに仙狐思念取ろうとすると
チョン避けのタイミングが狂って残機落としまくるのがむかつく昨今でした。
次は6月!……だといいなぁ。
34.100点名前が無い程度の能力 削除
読んですぐの感動を形にしたいんですけれど、
読んですぐだと感動をうまく形にできません
37.90点名前が無い程度の能力 削除
ハズレがなくて当たりが多いから好きだわ
38.90点名前が無い程度の能力 削除
ウテナっぽいと感じたけど意図的なんかな。
さとりんのどうしようもない性悪さが大好きです。
43.100点名前が無い程度の能力 削除
だいすきー!
44.100点名前が無い程度の能力 削除
焼いた筈のクッキーや、淹れた筈の紅茶が、あれよあれよとスキマに消えていく様を眺める咲夜さんとお嬢様を想像したらにやけてしまった
45.100点名前が無い程度の能力 削除
なんかうまく言えないがすごかった!
50.100点名前が無い程度の能力 削除
上手く言葉にできません。
点数だけで勘弁してください。
51.100点名前が無い程度の能力 削除
おおぅw
なんだか読み終わってから、ドッと疲れを感じました。なんだこりゃ
お空とお燐が清涼剤に感じられる程、紫とさとりが濃かった。盲目的な狂気恐ろしい。
なまじ何かが出来る分、紫もさとりも欲が深い。なにが言いたいかっていわれると困りますが、他の方がコメントに悩んだであろう事がよく分かる気がしましたw
53.100点名前が無い程度の能力 削除
お久しぶりです!またあなたの世界が堪能できてうれしいです
54.100点名前が無い程度の能力 削除
読み終わった後に余韻がずっと残るくらい面白かったです。
紫と霊夢の会話から、紫と幽々子、霊夢と魔理沙、紫と霊夢の関係が見えてきてすごく好き。
56.100点名前が無い程度の能力 削除
濃厚な野田ワールドをたっぷりと堪能しました。
57.100点名前が無い程度の能力 削除
相変わらず、貴方の文章は素晴らしいな。
狂っていてそれでいて幻想的な雰囲気が好きだ。
65.100点名前が無い程度の能力 削除
見事な幻想小説でした。
紫と幽々子、紫と霊夢、霊夢と魔理沙、さとりとこいしの関係をあまりに見事に書かれてしまったために、
他の空想を許さないほどの影響を受けてしまいました。

そして、聖のニコニコ説教こえーw
66.100点名前が無い程度の能力 削除
感想を上手く言葉で表すことができないので、100点という点数で表します
67.100点名前が無い程度の能力 削除
あなたの書く、真摯な紫が大好きです。
69.100点つつみ 削除
こういう読んだ後の余韻がの響くものは本当に素晴らしい証拠だと思います。
紫の書き方に感銘を受けました。
71.無評価名前が無い程度の能力 削除
この方の書かれるゆかりや古明地姉妹が好きすぎる。久々に読み直しました。
74.100点まさかり 削除
引き込まれて読めて、面白買ったです