Coolier - 新生・東方創想話

半人と半霊と苦労とその先にあるもの

2008/07/30 17:45:14
最終更新
サイズ
23.07KB
ページ数
1
閲覧数
1035
評価数
3/13
POINT
690
Rate
10.21

分類タグ


炎天下の日差しの中、私と妹紅は腕を組み首を捻っていた。

「幽々子が魂だけの存在に、ねぇ」

妹紅がどうしたものかといった口調で口を開いた。

私の方を見られても困る。



事の発端はこうだ。

幽々子様が伝説の剣を取りに行ってくる、と白玉楼を出た。
それから数刻後、私が夕食にと中華のフルコースを作っていると幽々子様が魂だけになって帰ってきたのだ。

その状態でもしっかりと料理を平らげるあたりは流石だなと思ったが、
やはりこのままでは色々とまずい、威厳も何もあったもんじゃないと思ったので
私はこの暑い中妹紅の元を訪れた。

不老不死の蓬莱人なら、何か解決法を知っているかもしれないというわけである。

幽々子様はどうやら蓬莱人が苦手なようだが、
今はそんな事を言っている場合ではない。
あんな半透明のまま放置しておいたらいつ天狗に嗅ぎつかれて
「スクープ!亡霊嬢があられもない姿を披露!こんなスケスケで大丈夫!?」とか書かれるか分かったもんじゃない。

「ところで、一つお願いがあるのですが」
「ん、何?」

さて、幽々子様の問題はとりあえず棚に置いておいて、
相変わらず首を捻っているその蓬莱人に一つ頼みたいことがあった。

「首を360度捻っているのは痛々しいのでやめて欲しいんですが」

妹紅はさっきから「文字通り」首を捻っている。
本気で頭を悩ませているのか、それともただのフクロウプレイなのか判断に困る。
見方によっては首の骨を折ってまで真摯に問題と向き合ってくれる人と取れるのがまた困りものだ。

「あれ、もしかしてあれ?こういうの出来ない系?」
「出来ない系って何ですか。大体私に限らず出来る人なんて居ませんよ」
「ところがどっこい、他にも……」
「蓬莱人は抜きでお願いします」
「……チッ」

ただのフクロウプレイだったようだ。

私にはそんな趣味はありません。

そう言うとこれが本当のタネ無しマジックだ、とかほざきよる。

うっとうしいので「首の捻り」を斬っておいた。


スパッ。ポロッ。

首が落ちた。


しまった。今幽々子様に白楼剣食われて無いんだった。

首の捻りが「人の迷い」かどうかはここでは置いておくとして、
余興という名目で「幽々子!剣飲みます!」と宣言して
本当に白楼剣を飲み込まれた時は流石に庭師辞めようと思ったが、
後で返すと涙目で仰ったので頬擦りしながら許してあげた。

多分産んでくれたりするに違いない。

「リザレクション!」
「ああ、ご無事で」
「ご無事で、じゃないよあんた!
リザラクション一回するのがどれだけ大変なことか分かってるの?」

さっきのフクロウは何だったんだ。
そう思ったが怒らせてもまずいのでここは下手に出ておく。

「すいません、全く分かりません」
「良い?一回リザレクションするにはね、フェニックスの尾が一本必要なのよ!」

どこのRPGの世界ですか。

「つまり、フェニックスの尾があれば、何回でも復活できる、と」
「まあ、そうとも言える」
「……にわかには信じがたい話です。もう一回見せて頂けますか?」
「いいよ、何回でも」

バキバキ。

「リザレクション!」

キュピーン。

ボキボキ。

「リザレクション!」

キュピーン。

おおー。

ええい違う。こんな事を頼みに来たわけではない。

「じゃあ、これさえあれば魂から肉体を再生することも出来る?」
「そりゃあもちろん。私のフェニックスの尾は天然物だから」

養殖物もあるとは知らなかった。

きっと価格偽装とか産地偽装とかもあるのだろう。
思ったよりフェニックスの尾業界も大変なようだ。

「そうですか、それでは大変言いにくいことなんですが……」
「フェニックスの尾だろ、いいよ一本くらい。持っていきな」

妹紅は親切にもそう言ってくれた。
後ろを向いてガサゴソとやっている。
全くの隙だらけだ。

……いや、だめだって。
静まれ剣士としての私の血。
隙を見せている相手には斬りかかるべし、なんて教えは守らないと心に決めたじゃないかああもう静まれったら。

一体全体何で師匠はこんな事私に伝授したんだ。
私は「幻想郷一後ろを見せてはいけない人ランキング」で第一位になってしまったんですよ……また心が乱れた。

これじゃいけない。精神を集中するんだ。
息すって。はいて。

目を閉じて。



……



……よし。大分落ち着いた。

さて、そろそろ尾の準備も出来たころだろうか。
妹紅に問いかけてみるとしよう。

「妹紅さん?」
「んあ?」


「キエエエェェェェッッ、隙ありぃいいいいいっ!!」


妹紅を やっつけた!


ボグッという音と同時に妹紅は倒れた。
我ながら見事な峰打ちであった。

「って、しまったああああぁぁぁっ!!」

何てことだ、またやってしまった。
あまりにも間の抜けた返事だったのでつい、じゃ済まないよな絶対。
一体何回目だこれ。
辻斬り同然じゃないか私。

さて、どうする。

今まで通り、責任を取って腹を割るか。

いや、それはいけない。
白楼剣があったなら切腹したように見せかけた上自分の迷いまで断ち切れるから良かったが今はそれは出来ない。

じゃあどうする。

悩んだ結果、

「まあ、倒してしまったものは仕方が無いか」

という結論に達した。

ので、妹紅のもんぺをあさっておく。


不死鳥の羽を手に入れた!
不死鳥の羽を手に入れた!
不死鳥の羽を手に入れた!
不死鳥の羽を手に入れた!
不死鳥の羽を手に入れた!
不死鳥の羽を手に入れた!


よし、こんなもので良いだろう。
バレないうちに撤退しないと。
誰かに見られたらどんな噂を立てられるか分かったもんじゃ……


「さっきからドンチャンやってるのはお前か?
寺子屋の子供が怯えるから静かにして貰いたいんだが……
……って妹紅!貴様、妹紅に何をした!許さんぞ!」




弁当箱を手に入れた!






無事に任務を終え私は白玉楼に戻ってきた。
やはり竹薮よりこの居なれた白玉楼の方が居心地が良い。

「というわけで、不死鳥の羽を丁重に拝借してきました」
「それよりこのお弁当おいしいわねもぐもぐ」

幽々子様は自分の目の前にある食い物にしか目が行っていない。

思う。

幽々子様人の話を聞いてくださいと言うのは簡単だ。
しかし、幽々子様に御使えする身としてはそれではいけない。
幽々子様のその一挙手一投足から学び、自らを高めるのだ。

「お弁当も良いですが、この羽もきっといい味ですよ。
 ほら、あーん」

という名目で幽々子様が可愛らしく弁当をほおばっている姿を見て悶え苦しみつつ次の手を繰り出した。

名づけて、『ドッキリ☆手から口への遠距離恋愛!』。

この不死鳥の羽は甘甘スゥイートな二人きりの世界を開ける鍵。
この鍵が貴方の口に収まった瞬間、心の蝶番が外れそのまま二人はフォール・イン・ラヴッ

「あら、ありがとう妖夢」
幽々子様は箸でもって羽を口に運ばれた。

決まったぁ、幽々子選手の華麗なスルーパス!
妖夢選手のハートにナイス・オウンゴォォォル!!

嗚呼神よ。
貴方は私達の主従を超えた関係を許されないというのでしょうか。

だとしてもあまりにもむごい、こんな仕打ちは。

別にその唇を奪おうとかじゃない、たかが「あーん」じゃないか。
カップルなら誰だって「あーん」するじゃないか。

私は空に向かって叫んだ。

すると奇跡は起きたのです。

幽々子様の私を見る目つきがだんだんと白い目になってきたのです!
そんな良いじゃないですか、ちょっと甘い言葉を囁いたくらい……じゃなくて。

魂だけになっている関係上ただでさえ白かった幽々子様の肌が、
みるみるうちに透明になっていくのです!

「妖夢何か変よ」
「しまったぁ!
不死鳥の羽はアンデットに特効なのはお約束の設定なのを忘れていた!」

そうだよなー、魔列車にフェニックスの尾使ったら一撃で倒せるよなー。

「あははははー、体が軽いわー」

幽々子様は空高く舞い上がっていく。

「待ってください幽々子様!」
「飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで
 回って回って回ってまわーるー」
「幽々子様それ若干古いです!」
「今誰か私を呼んだ?」

ヒナが あらわれた!

「貴方一体どこから沸いて出てきたの」
「神を温泉みたいに言わない」
「神?ああそうか、貴方も一応神様だったわね」
「そうよ、だからたっぷり敬いなさい。……と言いたい所なんだけど」
「何かあったの?」

雛はバツが悪そうに下を向いた。
緑の髪がふわっと踊り、リボンがひょいと頭を下げる。

「幽々子がさっきくるくる回って行ったでしょう?」
「そうね。あの見事な回りっぷりは幽々子様にしか出来ない芸当……」
「それを見て私はつい反応してしまったの」
「なるほど、幽々子様の華麗な舞に見惚れてしまったと」
「全然違うけどもうそれで良いわ。
『目を回さない・吐かない・回るという言葉に過剰反応しない』
絶対厳守の厄神三か条を守れなかった私はもう神様ではいられない」
「そうね、じゃあこれで」

私は飛び立った。

「いやいやいやちょっと待とうよ!」
「何よ一体」
「突っ込もうよそこは!
『厄神三か条』の中身おかしいだろ、とかさ、
神が神で居られないとかもう存在意義なくない?とかさ、
とにかく色々あるでしょうよ突っ込み所が!」
「ああ、私が『ゆ』と聞いたら幽々子様のお顔とお声とお体を思い出して
二人だけの脳内ワールドを堪能するのと一緒ね」
「いや、それは違うと思う」

雛は突っ込んで欲しい割りに自分は冷静だった。
芸人たるもの、常に冷静たれという雛の台詞は後に幻想郷中に広がる事となるがそれはまた別の話。

「私は幽々子様を追いかけるのに忙しいのよ。
ほら貴方と無駄な話をしてるうちに幽々子様が行ってしまった。
幽々子様ー!待ってくださいー!」
「貴方意地でも私を無視して行くつもりね。
さあ突っ込んで欲しい私の気持ちをどうしてくれよう?
どうするも何も、こうするのさ!」

そう言うと雛はやおら回りだし、
白玉楼の庭をガリガリと削りだした。

「ああっ!先祖代々伝わる由緒ある庭が!」
「ふふふ、いくら待っても突っ込みが来なかったから
代わりに貴方のところの地面に思いっきり突っ込んでやったのさ!
どう、これで少しは私の気持ち分かってくれ

雛は沈んでいった。

それは突っ込んでるんじゃなくて世間一般的には埋まっていると言うんだと思ったが、
というか突っ込んでくれないから土を掘り返すというその行為自体が問題だと思ったが、
ここで突っ込んだら相手の思う壺なのであえて言わなかった。


しかしこのまま雛の悪行を放置しておくわけにはいかない。

庭には大きな穴ぼこが空いてしまっている。
これでは、庭の伝道師とまで呼ばれ数々の庭の劇的を演出してきた先代にも申し訳が立たない。

私は半霊を飛ばし、命令した。

「行け、私の半霊!」
「ワンワン!」

半霊はあっという間に潜って見えなくなった。

半霊は私の思うがままに動いてくれる。
五感全てを共有出来るし、緊急時には私と同じ格好をして同じ動きをさせることも出来る。
私の密かな自慢だ。

まあ、幽々子様にはかなわないけれど。

「幽々子様ー、今参りますー!待っていて下さーい!」

私はその愛しい幽々子様を追って、空に向かった。






一時間と少々飛んだだろうか、日が大分高く昇って来た。

白玉楼を出て間もなく幽々子様に追いついてはみたものの、
追いついた所で私に何が出来る訳でもなく、
仕方なくこうして幽々子様の後について飛んでいる。

幽々子様はと言えば、相変わらずうふふふふと笑いながら飛んで……と言うより、たゆたって……という表現が丁度良いだろう、私には何処に向かっているのかさえ分からない。
半ば途方にくれ掛けていた時、前方から声が聞こえた。

「ちょっと、そこの幽霊止まりなさい」

紅白に身を包んだ巫女が目の前に立ちふさがっていた。

「幽々子、何だか存在感が薄いし一体何があったの?異変?」
「うふふふふー」
「……思考回路も薄っぺらくなってるみたいね」
「すまない、霊夢。これはかくかくしかじかで……」

私は霊夢に経緯を説明した。

霊夢はすぐに「なるほど、分かったわ」と言ってくれた。

どうにも掴み所が無いのであまり付き合いたくは無いタイプだが、
やはり博麗の巫女、いざと言う時には頼りになる。

まあ、普段は役に立たないとも言える。

そんな事を思っていると霊夢は怖い顔でこっちを睨んでいる。
考えていることを読まれたかと思ったが、霊夢はまるでこちらの予想外の質問を投げかけてきた。

「で、これは異変なのね?」

異変。

博麗神社の巫女が動くときのキーワード。

異変があった時の霊夢には何かエネルギーが満ち溢れているとか、
前の異変の時には2Pカラーの霊夢が現れたとか、
異変時の霊夢と何も起こっていない時の霊夢、それに寝顔の霊夢を全部揃えると上海人形が出てきてアリスの願い事を一つだけ叶えてくれるとか、
とにかく霊夢には異変絡みの噂が絶えない。

「え、いや、異変というほどのものでは無いかと……」
「い・へ・ん・な・の・ね?」
「はい異変ですこれでもかというほど異変です」

妙な威圧感に押されて答えてしまった。

「ほらそうでしょう?
今日縁側で昼寝してる時から分かっていたわ、異変があることは。
やっぱり私の異変アンテナに狂いは無かったわね」

そう言って、霊夢は真っ赤なリボンにそっと触れた。

アンテナだったのかそれ。

「ふふふふふ久しぶりに腕が鳴るわー。
最近異変らしい異変が何にも無かったもんだから、
宴会は減るし食料は減るしお茶は涸れるしでもう大変だったのよ」

宴会はまだしも、食料とお茶に関しては異変が悪いのではないと思う。

「あら、知らないの?」
「何が?」
「ほら、異変があると色々と集まるでしょ。
ポイントとか信仰とか時間とか」
「ええ、まあ」
「あれ、異変終わったらもう使わないから、
余った分を食料とかお茶と交換してるのよ」

そー、なの、かー。

そんなのアリなのか。

いや、何か溜まっていってるのは分かってたけど、
それにそんな再利用法があるとは考えもつかなかったというかそのシステム考えたの誰だ。
地球にも優しい究極のエコだと思う。

「で、あなたさっき、これは異変だと言ったわよね」
「言ったけれど、解決出来そうなの霊夢?」
「異変解決してウン年、異変のスペシャリストと呼ばれたこの霊夢に任せなさい」

霊夢に任せるのは良いけれど『異変のスペシャリスト』には任せたくない。
まるで異変起こしまくってるみたいじゃないかこれじゃ。
一体どこのどいつだこんな二つ名付けたの。出て来い。

あと何となくさっきのエコポイントと同一人物の気がした。

「異変のスペシャリストから言わせて貰うと、異変を解決するには方法は一つ」

しかも本人気に入っちゃってるよ。
自己紹介するときに霊夢じゃなくて異変のスペシャリストです、って言いそうな勢いだよ。
誰か気づかせてあげようよ。この巫女が色々と勘違いしないうちに。

「それは弾幕よ。今までずっとこれで解決してきたわ。
ということで十数えたら行くわよ、じゅーう、きゅーう……」

待て今何と言った。
私の美貌溢れる幽々子様に傷を付けるつもりか。

「ちょっと霊夢、幽々子様に当たったらどうするのよ」
「当たったらどうするのって当てるのよこれから。
きっと一発きついのお見舞いしてあれをのしたら食べ物もお茶もお代わりし放題……うふふ……」

霊夢はもう視線の先が明後日の方向だ。
ああ、少しでもこいつをあてにしようと思った私がバカだった。

「はーち、ななろく、ごーよんさん、ええいもう面倒いゼロ!」

わわわ、待って待って待って待てったらこの紅白!






霊夢が弾幕を展開する。
まさしく八方から押し寄せようとする針には一遍の隙も見当たらない。

ならば、成すべき事は一つ。
迫り来るその全てを弾き返すのみ。

慣れ親しんだ感触と共に、私は楼観剣を抜き放った。


霊夢の放った無数の針が唸りを上げて迫る。

ちらり、と幽々子様の方に目をやる。
幽々子様は陽気に笑っておられる。

「幻想郷一堅い盾」の名にかけて、幽々子様には指一本触れさせない。

「はあっ!」

横一線、剣を薙ぐ。
硬い金属音と共に、前方の針の八割が力を失ってそのまま地上へと落下する。

「まだまだ!」

横に流した勢いのまま、体を剣にあずけて一回転する。
もはや音は意味を成さない。視界に入る情報を可能な限り早く肉体に反映させる。
幽々子様にまさに当たらんという針、それを全て叩き落す。

仕上げに、機を窺っている遠方の針に狙いをつける。

――人鬼、未来永劫斬。

爆ぜる。

楼観剣から放たれた斬撃は、残りの針を全て消し炭に変えた。

幽々子様見てます?私、こんなに頑張ってます――

「やるわね」

言い終わるか否かのうちに、霊夢は懐からお札を取り出し、幽々子様に向けて放った。

あ、幽々子様がこっち見た。

笑った。

もう幽々子様ったら笑顔がチャーミングなんだ・か・ら
貴方が笑えば私のハートはドキドキ、心トキメキ、
頭クラクラ、体これアドレナリンバンバン出てますよー準備万端ですねー
私頑張れる!まだ頑張れる!

「はあっ!」

溢れんばかりのパワーをそのままに刀を大きく振りかぶり、一同に収束して迫るお札に向けて振り下ろす!

スカッ。

「あ、ごめん。それホーミングだから当たらないわ」

エエエエエ、そんなんありっすか。

こっちが火力1、爆弾の数1で必死に戦っている所に
火力マックス、リモコン爆弾持ちがやってきてあっという間に蹴散らされた、そんな気分だ。

そうこうしているうちにお札は真っ直ぐ幽々子様目掛けて飛んでゆく。

幽々子様――!


スカスカスカスカ、スカッ。

「「あれ?」」

霊夢と私の声が見事にシンクロナイズトした。

お札は全て幽々子様の体を貫通し、そのまま通り抜けて行ってしまった。

「……どういうこと?」
「要するに……」

肉体を持たない幽々子様なので物理攻撃が当たらない状態になっている、ということらしく、
つまり、今まで私が必死になってやっていたのは意味の無いことだったということで……

呆然としている私が攻撃目標を失って戻ってきたお札に打ち倒されるのはもう間もないことであった。






……


八方塞りとはこのことだ。

痛む頭を抑えて、何とか立ち上がり、すぐに辺りを見回してみたが、幽々子様の影も形もなく、
ついでに霊夢も居なかったがそれはどうでも良くて、
二百由旬の一閃を使って幻想郷中を斬りながら飛び回って探してみたものの、
得られたのは天狗が今わの際に言い残した「切り捨て御免、妖夢」の称号だけで
結局幽々子様は見つからずじまいだった。

「幽々子様ー!居たら返事して下さーい!」

とりあえず呼びかけてみる。

――ワンワン!

思わぬところから反応があった。半霊だ。

「どうした、幽々子様を見つけたのか!」

――ワンワンワワンワン、ワワワンワンワンワン、ワンワワンワンワワンワンワンワン!
――な、何この黒い物体は!?

半霊に続いて雛の声が聞こえる。
そうか、そういえば雛を追わせていたんだった。
それにしても黒い物体てどういうことだ?

――ワワンワワンワンワオーン。

なるほど、土が体中に付いてしまったのか。

合流したらしっかりと拭いてあげないといけないな。
あとミルクとご飯も。

「よし、これからそっちに行くから何とか雛に追いついておいて!」

――ワンワン!

半霊は頼もしくそう答えてくれた。

ああ、やっと分かりました。
私の半霊は土に潜って厄神を追跡するためにあったんですね幽々子様――!


よし、ひとまず幽々子様の事は置いておいて雛をとっちめに行こう。
幽々子様なら一人でも何とかするに違いない。

「私の」幽々子様なら一人でも何とかするに違いない。

さて、半霊の居るこの方向は……

無縁塚だな。






無縁塚に向かう道のりはあまり平坦ではなかった。

己のスピードの限界に挑戦している黒白の魔法使いに喧嘩ふっかけられたり、
暴れているリグルをチルノと大妖精が何とか抑えようとしている現場に立ち会ったり、
「あとは寝顔!寝顔だけなのよ!」と必死の形相で神社に向かったアリスを目撃したりした。

まあ、どれも私の手にかかれば大した問題では無かった。
主に楼観剣に物を言わせて無事解決できた。
後で幽々子様に褒めてもらおう。

私は両手に香霖堂印のミルクとドッグフードを抱え、半霊の待つ無縁塚に降り立った。






無縁塚で私を待ち受けていたのは、思わぬ人だった。

「幽々子様!」
「あらあら妖夢。待ちくたびれたわよ。
この人説教が長いからもう聞き飽きてしまったわ」

居たのは、幽々子様と、閻魔様と雛と、それから違和感。

「説教が長いとはなんです。
これも全て貴方のためを思ってしていることなのですよ。
大体貴方は自分勝手すぎます。少しは妖夢の事も考えて……」
「あーもう、ドレスがボロボロだわ!
突っ込みは良いけれどこんなハードなのは勘弁だわ」
「それに……雛と閻魔様……はどうでも良いか」
「「いやいやいや!」」

ナイス緑髪コンビネーション。

「あんた私を追いかけてきたんじゃ無かったの!?
あんなに深く庭を突っ込んだ私を無視!?無視なの!?」
「妖夢!貴方はあの花の異変の時から何も進歩していないようですね。
冥界の者としての行動というものを……」
「幽々子様、ご無事で」
「私は全くの健康体よ、妖夢」
「「って聞けやー!!」」

そろそろこの即席コンビが五月蝿くなってきた。無視しておく。
構っていたらこちらの耳と口が足りない。

「ところで、幽々子様なんでそんなピンピンされてるんですか?
少し前まであんなどうしようもない目も当てられない状態だったのに」
「酷い言い草ね妖夢。
……まあ、そう言われても仕方が無い所なのだけれど」
「……妖夢。実はその事で今幽々子に説教をしていた最中だったのですよ。
自らの欲望を戒めることが出来ない者が当主としてどうか、と」

自らの欲望?どういうことだ。
幽々子様の欲と言ったら食欲しか思い浮かばない。

「妖夢、貴方の思っている通りです。
幽々子は己の食欲と葛藤し、そして……負けた」

食欲に負けるなんていつものことじゃないか。
大した問題ではない。

それなのに何だ、この悪い予感は。

「……」

幽々子様そんな目を逸らさないで下さいよ。
不吉じゃないですか。

「……あーもうあんたたち勿体つけないでとっとと言っちゃいなさいよ!」

雛が痺れを切らしたように話し始める。

「話すのを先延ばしにした所で戻ってくるわけじゃないんだよ。
分かってるでしょ、そんなこと」

戻って来ない。
今この場に居るべきなのが、居ない。

悪い予感は現実となってぐるぐる回り始める。

「妖夢、あんたもいい加減気づきなさいよ!」

駄目だ。
聞いてはならない。
気づいてはならない。

幽々子様を――

「いい、妖夢、幽々子はね!
食べちゃったのよ、あんたの半霊を!」

音が塞いだ耳を通り抜け、
動いた口が視覚に飛び込み、
現実を私に突きつける。

ミルクとドッグフードが、がしゃあんと音をたてて落下した。




ああ、なんだ。

半透明だった幽々子様がすっかり元に戻っていたのはそういうことか。

「妖夢、幽々子は悪気があったわけじゃないの……」

分かってる。
幽々子様の事だ。きっときなこ餅に見えた、とかその辺だろう。

「幽々子の言うところだと、見えない力に引きずられここにたどり着いたら、
わらび餅か何かが目の前に見えたので反射的に口に入れてしまって、
そうしたら霊力が回復していくのが分かった、だそうよ」

やっぱり。
そんな所だと思った。

何でだろう。

幽々子様の事を言い当てたのに、嬉しくも何ともない。

何でだろう、視界がぼやけているのは。

何で。

「何で」
「……」
「何で幽々子様は私の大切なものばかり奪っていくのですか!
白楼剣もそう!半霊もそう!どれも私が大事にしていたものですよ!
一体何なんですか!いつもいつも私は幽々子様に振り回されて……!」

泣き喚いて、当り散らして、見苦しい所を見せて。
何が従者だ。従者とは常に付いて従うから従者なのではないのか。
私は従者、私は……

「幽々子様にとって、私は一体何なんですか……!」


思いのたけを言い切ってしまった。

完全に従者失格だ。
幽々子様の下ではもう過ごして行けない。

「妖夢……」
「……はい」

なのに何でだろう、この人の言葉に反応してしまったのは。

「妖夢」
幽々子様は先ほどは優しく、今度は力強く、私の名前を呼んで下さった。

「はい」
だから、私もそれに応えてまっすぐに返事をする。

「妖夢、貴方がそんなに思いつめていると思わなかった、いえ思えなかった。
これは全て私の責任よ。御免なさい、妖夢」

幽々子様は私に向かって頭を下げた。

呆気に取られる。

「そんな幽々子様が私に向かって頭を下げるなんてよして下さい!」
「妖夢、これは私の使命なのよ。
この言葉、どうか受け取ってちょうだい」

幽々子様の決意は固いようだ。

「分かりました。
幽々子様、頭を上げてください」
「ありがとう、妖夢。
……さて、私は先の貴方の質問に答えなければいけないわね」

幽々子様は私の目を見て、言った。

「妖夢、私にとって貴方は大事な従者よ。それは間違いないわ」

やはり、そうか。
私は下を向いて頷いた。

「でも、それ以上に、貴方は私にとって大切な人。
私にとって貴方は、無くてはならない存在なのよ」

今……何と?

「もう一度聞きたいの?もう一度だけよ。
私にとって貴方は、無くてはならない存在よ。
うふふ、妖夢ったら子供みたいね」

笑われる。
こんなに真っ直ぐに答えられると、先ほどの私が間抜けに感じられる。
きっと今私の耳は赤いだろう。

「はい、これ」
「これは……?」

幽々子様が懐から取り出したのは一振りの短刀であった。
この世のものとは思えない、美しいまだら模様をしている。

「妖夢、前に貴方の剣を食べてしまってから、私は悩んだわ。
どうすれば妖夢にこの罪を許してもらえるか、を」
「そんな、私なんかのためにそんなことを……」
「伝説の剣を取りに行ったのも、何とか代わりになるものを手に入れようという思いから。
私なりに必死にやってみたのだけれど、あの子達に迷惑かけるだけだったわ。
やっぱり普段好き勝手に動くと閻魔様のバチがあたるものね」
「私は何にも関与していませんよ」

その偉い閻魔様が苦笑いする。

「妖夢、この剣を振ってみて頂戴」
「はい、分かりました」

命ぜられた通り、私は刀を受け取り、空気に向かって一振りする。

ヒュッ、という音と共に、目の前の空間が割れた。

「これは、幽々子様!」
「この剣は『半霊以外斬れないものは無い』剣」
「ということは、つまり……」
「ええ妖夢、貴方の白楼剣と半霊を合わせて作ったものよ」

ああ。
私は今猛烈に感動しております。

「幽々子様、先ほどの数々の暴言、本当にすいませんでした!」
「良いのよ妖夢、私の方こそ今まで迷惑をかけたわ。ごめんなさい」

どちらからともなく、私達は抱き合った。

パチパチパチ――

拍手がもれる。雛、閻魔様、そして周りの幽霊達からも。

私達は、拍手の音に包まれていった。






「幽々子様、刀の振り方はこうです!持ち方はこう……」
「妖夢、それよりお腹がすいたわ」

あれからというもの、私達はそれまでと変わらない生活を送っている。

ただ、私達の間の絆が一層強まった気がするのだ。

それは、幽々子様が私の一部を取り込んだせいなのか、
はたまたお互いの思いをぶつけ合ったためなのか。

それは分からないけれど。

――私は今、幸せです。


Happy end!
半霊「クゥーン(あれ、私は?)」

――

この作品は、前作「ダダッダ大妖精」を読んでから読むと一層楽しめます。
「言うの遅いよ」って書くなよ!絶対に書くなよ!絶対だぞ!

前回頂いた意見と、他の方の作品を参考に二作目を書いてみました。
今作は、前回のように変に文体を意識せず、また全て暴走させようとせず、
登場人物の性格もある程度抑えて、しかしはじけるところは一層はじけるように心がけました。
と思わせておいて常にどこかおかしい文章かもしれません。

やはりまだまだ至らない点多数あるかと思います。
遠慮なくご指摘頂ければこれ以上の幸せはありません。

【追記 2012.1.28】
改めて読み返すと色々と至らない点だらけですが、自省の意味も込めて残しておきたいと思います。
3
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.420簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
とてもよかったです。
あとリザラクションではなくて、リザレクションではないのでしょうか?
其処だけが気になってしまいました。
4.無評価3削除
すいません、素でミスってしまいました。
修正させて頂きました。ご指摘ありがとうございます。
5.80名前が無い程度の能力削除
言うの遅せえよw

…はい、すいませんでした
12.90名前が無い程度の能力削除
幽々子様が妖夢を食べた・・・?ナンだ、何時もの事か