川岸に咲く花。その一つに私はお酒をかけた。
「おっと、あんたにゃ酒より紅茶の方が良かったかな」
その花の近くに腰を落とす。
「まぁたまにはいいだろ」
再び花に酒をかける。
仕事前に、またサボるなよと言う同僚の言葉を思い出したが、まぁいい。
「息抜きも必要さ」
ふと花を見た。
気のせいか、その花だけは他よりも綺麗に咲いている気がする。
「…まだ私にはそんな生き方が合ってるよ」
「ねぇ、あなた死神なのでしょう?」
目の前に足元がおぼつかないメイドが立っていた。
「私はただの船頭だよ、鎌は持っているが本物の死神じゃない」
「そんな事はどうでもいいわ」
メイドが更に近づいてくる。
「今すぐ私を殺しなさい死神」
ふらふらな体とは逆にメイドの目は力強かった。
その輝きは死を望む者の目ではないほどに力強く…
「残念ながらそのトキは今じゃない。あんたの灯火はまだ残ってる」
「そぅ…なら、仕方ないわねっ!」
!!!
「殺さなければ代わりに私があなたを殺すわ」
メイドが私を押し倒し首元にナイフをつきつける。
「体を支えるのがやっとのくせによくやるよ…」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「人間よ、何故そうまでして死を急ぐ」
それは現世での絶望かはたまた生きる理由をなくしたか…
「あなたには関係ないことよ」
遠くから声が聞こえた
「……そうかい」
互いに体勢をなおし私はメイドに鎌をつきつける
「死ぬ前に何か言い残すことはないかい?」
「そうね…死神には解らないでしょうけど、メイドとは常に瀟洒で…カンペキであるものなのよ」
目を瞑るメイド。
「死神代行小野塚小町。これより汝の魂を冥界へと送りと届ける」
死という存在を目の前にして怯える表情ひとつさえしない。
「あんたを見てると人間っていう気がしないねぇ」
「……人間じゃないわ―――メイドよ」
遠くからまた声が聞こえる
「そこの死神、この辺りで人間を見なかった?正直に答えなさい」
傘を差した少女が近づいてきた
「……いや、ニンゲンなんて見なかったよ」
「そぅ…まだ遠くには行っていないはずよ、妖精達、探し出しなさい!」
そうか、この吸血鬼が……
私はカノジョがいた地面を見つめた
「メイドか…カンペキとは、また難しいねぇ」
花に水滴がついていた。
「私には気楽な船頭が一番だよ」
それは、カノジョが唯一私に見せた人間らしさだったのかもしれない。
私はメイドにはなれない
そんなに心が強いとは思っていない
そんな必要はないけど、いつかは・・・
「さて、一休みしたことだし」
酒を直し改めて花を見る。
「春、椿の咲く頃にでもまたくるよ」
カノジョに少しでも近づけるだろうか
fin
咲夜さんが何故死を望んだのかが分かればもっとグッと来たでしょうが……
それを付け加えるとやはりそれがメインになっちゃいますかね