Coolier - 新生・東方創想話

愛くるしいお嬢様とデレたパルスィ

2009/08/19 23:40:11
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嫉妬深い妖怪は一人で泣いていた。
積もり過ぎた嫉妬が悲しみに変わっていくのだ。
嗚呼、どうして私は恵まれないのかしら―
世界は輝きに満ち溢れている。
地底が地上と繋がってから旧都は賑わいを益々盛んにした。
笑い声が絶えぬ場所は無い。
嗚呼、私はずっと一人ぼっち…どうしてなの―
嫉妬狂いの橋姫は、ただ無くしか出来なかった。
彼女を助けてくれる人などいないと彼女自身理解してしまっていた。




「幻想郷の支配者として、地底も征服すべきだと思う」
「寝言は寝て言えって言葉、知ってる?」
「夢ぐらい見させてくれたっていいじゃない」

紅く光るシャンデリアの下。魔女と吸血鬼は椅子に座って向かい合っていた。
三日前に出来た談話室は暖炉や煙突つきの西洋風な構造になっており、
真っ赤な絨毯が敷き詰められ、所々に見慣れぬ観葉植物が置いてあった。
テーブルには白銀のトレイがあり、その上には飲み終わった後の紅茶のカップが鎮座している。
椅子は木製の安楽椅子で、木特有の仄かな甘い匂いが漂う。
新しい応接間的な部屋をレミリアが要求し、咲夜が空間を拡張し
美鈴が素材調達、加工、配置等をした出来立てほやほやの部屋である。

「で、私地底に行こうと思ってるの」
「さっきも聞いたわ。行けばいいじゃない」
「あぁ、パチェは分かってない。何も分かってないなぁ」

レミリアは手を大仰にやれやれと振る。

「地底には私達には見知らぬ物が沢山あるの。パチェの欲しい魔道書もあるかもしれないわ。
それに地底で沸いた温泉にはもしかしたら喘息に効くかもしれない。一緒に来ない理由は無いわよ?」
「却下」
「何で!」

パチュリーの決断は早かった。
魔道書があればあの泥棒鼠が何かしら話題に出すだろう。
温泉が喘息に効いたとしてもそこへたどり着く過程で余計に悪化することが明白だ。
この我侭吸血鬼に付き合わされる道理はないのである。

「うぅ。パチェは酷いわね。純情可憐なこの私を一人であんなジメジメした所へ連れて行こうというのね…」
「行かなければいいのよ」
「運命の糸が私を地底に導いているの。過程がどうあれ結果が出ればそれでいいのよ」
「少なくとも私に行く気はないわ」
「旅は道連れ世は情け…旅には一緒に友する人が欲しいものよ。しょうがない、一人で行くか…」

レミリアはちらっとパチュリーの方を見る。
様子を伺っているのだ。
名付けて『ちょっと待って!やっぱり私も行くから!』作戦である。
相手が動揺している場合、この手法は中々に成功する。
とはいえパチュリーに地底に行く気は更々無かった。あらそう、と一言でレミリアの言葉を片付ける。

「…あれ?本当にいいの?私行っちゃうよ?」
「どうぞ。ご自由に」

現実は非道である。
駄々をこねてもパチュリーはうんともすんとも言わない。
暖簾に腕押し。まさにどうしようもない状態なのだ。
レミリアは諦めた。これ以上やっても無駄なのはとっくに分かっていた。
もしかしたらの希望に掛けてみたかったのだ。成功したことは今まで一度も無かった。


「お嬢様ッ!少々重要な問題が…」
「はぁ?何よ…」

いざ地底に向かおうとすると咲夜に呼び止められた。
興醒め、いやまだ醒めるほど何かあったわけじゃないな。
でもタイミングが悪いなぁ―

「美鈴が不貞寝してます」
「…うん?不貞寝?不貞寝ってふて腐れて寝るってあの不貞寝?」
「そうです」

話に聞くと先日の談話室建設の影響らしい。
あまりにも働かされ過ぎた。そしてその内容が雑用染みている。
労いの言葉の一つも無かった!
くぅぅ!私なんて必要とされていないんだ―
という門番の心の叫びを表に出す勇気が無く、結局寝るしかなかったとのこと。
お疲れ様の一言ぐらいはかけてやったけどね― なんて考えても意味の無い。
思いを本人に伝えなければ言ってないも同然なのだ。

「まぁアレね。三日もすれば直るわよ」
「お嬢様がそう仰られるならそうなるでしょう」
「いや、運命透視じゃなくてね。アレ、小学生の絶交と同じよ。二日後ぐらいには元通り」
「…ちょっと違うと思いますが」
「もう!今はそれどころじゃないのよ!私は地底に行きたくて仕方が無いのよー!」

レミリアは叫びつつ館を飛び出していった。
咲夜は思う。カリスマもへったくれもないじゃないか。




地底に入って最初に感じたのはその特有な暗さ。
黒と緑を混ぜたような靄が出ていて前がよく見えない。
そして予想通りにジメジメしていた。纏わりつく空気が、洞穴の岩肌が、何もかもが。
噂に聞いた旧都の賑わいなど微塵も感じない。
ようやく靄が薄くなり、視界も晴れてきた。
そこには橋がある。石でできた質素な橋。
下を流れる川は濁りに濁って灰色をし、薄気味悪い臭いを放っている。

「あぁ、不気味ね…」

橋を渡ろうとする。コツ、コツ、コツ…
静寂の中に足音だけが響き渡り、なおいっそうの恐怖を誘う。

「人の橋に不気味とは随分失礼ね。それとも傲慢かしら?」
「おやおや、これだけ妖気を発しているのに近づくあなたは死にたがりなの?」
「足をガクガクさせて鳥肌立たせてる人に言われたくないわね」

後ろから現れた妖怪はパルスィと名乗った。
僅かな光に照らされたその黄金色の髪は地底には似つかぬ光を持っていた。

「暗くて狭いところは苦手なのよ」

以前肝試しをやった時にも同じようにからかわれたのを覚えている。
最初は怖がりな自分が滑稽だったが、徐々に諦めもつき始めた。
吸血鬼だって怖いものは怖い。500年の歳月だって恐怖への耐性は与えてくれない。

「ふぅん。そうなの」
「えぇ、そうなのよ。私は旧都へ行くから…」

いや、違う。
レミリアは驚愕した。
運命を操る程度の能力。その能力の片鱗に『自己に都合のいい運命を引き寄せる糸の目視』がある。
例えば糸が図書館を指せばレミリアは図書館へ行く。
すると例の人形遣いが来て美味しいバタークッキーを持参してたりする。
今回視えた糸はこのパルスィと名乗る珍妙な妖怪に繋がっていた。

「あぁ妬ましいわ。あなたも下で宴会に興じていくのね。妬ましい」

なんて考えに耽っていたら何か言っていた。

「間違えた。用があったのは貴方の方みたいだ」
「妬ま…って私?人違いよ」
「悪報かもしれないけど残念ながら貴方で正解」

それにしても一体この妖怪が私の運命にどう干渉してくるというのだろうか。
地底に住む橋姫の話は以前パチュリーに聞いたことがある。
積もった嫉妬を怒りに変えて襲い掛かってくる悲劇の鬼。
ただ、話に聞いていたよりもずっと穏やかで、敵意がない。

「私に用事?くだらない事ね」
「くだらないと一蹴するには早過ぎる。…そもそも私だって何で貴方に用があるのか分からないのよ」
「はぁ?」

レミリアの能力は抽象的。
糸が一定の場所を指せばそこに行けばいい。
なら全く見知らぬ人を指せば? そればかりは自分で考えるしかないのである。
前にもこんな事があったな…と思いを馳せる。
満月の晩、久しぶりに紅魔館の外へと導いた糸は見事に立派なメイド長へと化けたのである。

「あぁ、成るほどね。分かったよ」
「そう。やっぱり私には関係のないことでしょう?」
「いやいや、お前を紅魔館に連れて行く。メイド長の次は副メイド長だ」
「へっ!?な、何を言って…」

言った後は早かった。
吸血鬼の翼は高速で天を駆ける。いくらかとっていた距離も瞬く間に詰められ、
気付けばパルスィはレミリアの腕の中にいた。

「つっかまえたー」
「は、離しなさい!離せ!このッ!」

目を緑色に光らせパルスィはレミリアの腕を引き剥がそうとする。
が、力の差は歴然。どう足掻いても勝てない。所詮嫉妬狂いの妖怪程度では吸血鬼には抗えないのである。

「なぁに、ちょっと変な服を着て私に仕えるだけよ。食事は毎回つくけど年中無休のただ働きだけどね」
「嫌に決まってるじゃないッ!」
「嫌よ嫌よも好きのうち。さぁ行くわよ!」

パルスィを抱え込んでレミリアは翼を広げる。
その瞬間、全身に重い衝撃が走る。

「ぐっ!?」
「はぁ…はぁ…。ここは私のただ一つの楽園。誰にも邪魔させない。しようというのなら…」
「いや、もういい。興醒めだ」

自分の思惑通りにいかなかった。
それだけで不満。子供っぽいのは分かっている。でも苛立ちを隠しきれない。
これ以上、ここにいても無駄だ。

「フン、残念な奴だ。…嫉妬狂い如きに救世の手を差し伸べてやる必要など無かったか」

捨て台詞に過ぎない。馬鹿みたいな言葉しか頭に浮かばない。
自分の中の憤怒が理性を追い払っているのが分かる。今すぐにでも爆発しそうだ。
ただ勧誘を断られただけ。それなのに、苛立ちは積み上げられる。
レミリアは広げた翼をはためかせ地底の入口へと羽ばたいた。

「…救世の手?笑わせる。それはただの我侭の口実。傲慢な罪を贖罪した気になっているだけ。そう、そうなのよ…」

地底奥深く、橋の前で残されたパルスィはぶつぶつと恨み言を言うしかなかった。
自分の気がいつにも増して苛立っているのを抑えられない。
嫉妬狂いは嫉妬以上に怒りの炎を燃していた。普段無い感情が心の中で暴れているのである。



月明かりの下。紅魔館の部屋からは明かりが絶えず、常に賑わいを見せている。
仕事を終えた妖精メイドが談笑を楽しんでいるのであろう。
地底から帰ってきたレミリアは門前に例の門番がいないことをなぜか意識した。

「不貞寝…ね。全くあの妖怪にも門番にも困らせられる。厄日かしら…」

確かに配慮が足りなかったかもしれない。
労いをもう少し形にしてやるべきだったかもしれない。
しかしレミリアにはそれが出来なかった。生まれつき不器用なのである。
人の疲れを見透かすのは容易い。ただそれを癒す術が分からないだけなのだ。

「うぅ…、とりあえず今日はもう寝よう…」

普段慣れないことをしたせいで疲れが溜まっているのが目に見える。
太陽光に耐性はあるものの、日中の活動はやはり体によくなかった。




嫉妬深い妖怪は一人で泣いていた。
もしかしたら本当に彼女は自分を救ってくれたのかもしれない。
本能は理性を狂わす。
もう少し落ち着いて彼女と話せていたのなら、少しぐらい結果が変わったかもしれない。
ただそれにはもう遅過ぎた。彼女はもう行ってしまった。
憤怒に塗れた彼女は、もう自分の元へと戻ってこない。
結局自分が他者を拒絶し寄せ付けないだけなのだ。
分かっていても、分からなくなってしまう。
そんな自分が嫌いで仕方がなかった。




「やっぱり地底に行ってくるわ」
「レミィ、昨日はあんな所はもう懲り懲りって言ってなかった?」

談話室。そこには相変わらずの二人がいた。
咲夜お手製のスコーンを食べつつレミリアは畳み掛ける。

「運命が私を呼んでいるの!仕方ないじゃない!」

レミリアの糸は相変わらず地底へ繋がっていた。
またあの橋姫に会うのかと思うと気が重くなる。
良好な関係は気付けそうにない。
それは自分が願望の一方的な押し付けをしているからだと分かっている。
分かっていてもできない。運命の糸は具体的な解決策を明示してくれない。
ただ、まだ糸が続いているという事は、少なからずまだチャンスがあるのだ。

「って事で、友達作りのためのアドバイスを」
「レミィには無理よ」

瞬殺である。
頭の中でハンカチをグギギと噛んで引き伸ばす。
魔女め、私を誰だと思っている。レミリア・スカーレットだぞ?
そりゃ無理だよなぁ…。自己完結は早かった。

「行き当たりばったりでいいんじゃない?」
「それしかないわよねぇ…」
「友達…ね。鬼と友達にでもなるの?」
「いや、前に話してくれた嫉妬狂いのこと」
「あぁ、彼女か。…それならちょっといい手があるかも」

パチュリーの話を聞いたレミリアは半信半疑になりつつもその提案を受け入れた。
レミリアは前回同様に館を飛び出た。早速それを試したくなったのだ。
門は妖精門番の姿で犇めき合っていた。
それでもそこに美鈴の姿はなく、いつもの活気も半減していた。




再びレミリアは橋へとたどり着いた。
昨日と同じ暗くて嫌な感じ。生ぬるい風が吹き、幽霊でも出て着そう。
緑色の靄はまだ残っており、コケのようなものが岩肌を、足元を覆っている。
パルスィは気付いた。あの妙な吸血鬼がまたやって来たことを。
そして彼女が橋の上できょろきょろと周りを見渡していることを。
何で―
自分を探している事はすぐに分かった。
橋の上で時間を潰す理由など他にないし、何より私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「探し物は見つかったかしら?」
「えぇ、目の前にいたわ」

話しかけるとレミリアはにんまりと笑ってパルスィに近づいていった。
その顔には昨日にはない嬉々とした表情がある。

「柔は剛を制す。力付くじゃ何も解決しないって言われた。ねぇパルスィ、貴方の悩みは解決したかしら?」
「私に悩みなんてないわ」

嘘―
自分より遥かに優秀な周りが嫌い。
そして周りを妬む自分が嫌い。
この世は嫌いな物だらけで溢れている。
現実から何度も目を背けた。でも叶わなかった。
誰かが助けてくれるかもしれない。そんな万が一の事を考えてしまう。
一縷の望み、それすら叶わないと理性の一片が訴えかけてくるというのに。

「悩みなんてない」

繰り返す。
まるで本当に悩みがないように感じられる。
嗚呼、また現実から逃げているだけ。パルスィはそれがもう分かってしまう。
理性が客観的に自己を分析するのだ。

「そう、吸血鬼も鬼の端くれ。嘘をつく子は嫌いよ?」

パリンと、ガラスにヒビが入る如く理性が崩れる。
なぜバレた?いや、バレてない。ただ向こうは勘ぐっているだけ。
だからもう一押し―

「友達に聞いたの。嫉妬狂いは他者の長所を嫉妬し否定する。それ故に孤独だと」

もう止めて。何も言わないで。

「周りから置き去りにされて寂しかったでしょう?」

そんな事はない、あんな奴らと一緒にいたくなんかなかった。
理性はそう訴え続ける。だが自我は素直だ。
寂しかった自分を認めざるを得ない。
事実、寂しくて泣いていたじゃないか。一人ぼっちだと。

「紅魔館は貴方を歓迎するわ。妖精メイドがいっぱいいるし、それに貴方に頼みたい事があるのよ」
「べ、別に私じゃなくてもいいじゃない…」

パルスィの目に溜まった涙が零れ落ちていく。
誰かに優しくされた事なんて何年ぶりだろうか。
レミリアはパルスィをぎゅっと抱きしめ頭を撫でる。

「パルスィにしか出来ないの。ね、お願い。ダメかしら?」

人の温もりを感じる。
仄かに暖かく、心の氷を溶かしていく。
もう自分に嘘をつくことは疲れた。

「分かった。行く。行くからちょっと…」

ちょっとだけこうさせて。
パルスィはそういうとレミリアの胸に顔をうずめた。

(流石パチェ、愛を持って接すれば誰だって友達大作戦は大成功よ!)

レミリアは内心喜んでいた。
あんな妖怪が今では涙を流して甘えてくるのだ。
可愛くて仕方がない。このままずっと撫で撫でしてやろう。
レミリアにとって今のパルスィは猫と同じである。癒しの象徴なのだ。



紅魔館に戻ったレミリアは咲夜に大まかに事の成り行きを話した。
一先ずメイドとして雇い、結果次第で副メイド長にしようとレミリアは提案したが咲夜はこれを拒否した。
次にレミリアはパルスィをパチュリーのように居候させようと提案したがまたも否決された。
何度もこれを繰り返され、パルスィは少し悲しくなってきた。
妬ましい。料理、裁縫、掃除、挙句の果てには時間操作なんてどんなメイドよ。
でも胸の大きさだけは私のほうが上ね。なんて考えてたら睨まれた。
考えている事が筒抜けである。

「よし分かった。じゃぁ結果を一つ出させてみよう」

咲夜の言い分はこれ以上人手、それもわけの分からない妖怪を屋敷に常駐させたくないというもの。
そこでレミリアは一つ、パルスィに課題を出すことにした。
出来たら居候。出来なければ追い出し。
パルスィは追い出されたときのことを考えて涙が出てきたが、レミリアが
そしたらまた地底に遊びにいくと言ってたから泣くのをガマンした。
それを見ていたパチュリーは愕然とした。
あの嫉妬狂いがここまで変わるなんて明日は雨かしら。なんて考えてた。



パルスィの課題は奇妙なものだった。
曰く、あの部屋にいる住人に好き勝手感じたことを言いなさい。と。
何でもあまりの仕事の多さにふて腐れているとのこと。
いまいち状況と行動が噛み合ってない気がする。が、かといって何か出来るわけも無かった。
コンコン。とドアを叩く。

「寝てまーす」

なんて白々しい声が聞こえてくる。

「あなたが美鈴?」
「おや?見知らぬ声ですね」

溌剌とした明朗な少女の声。
ただ落ち込んでいるか、少々声に元気が無い。
前の私と一緒だな。なんて思える余裕があって笑ってしまう。

「あぁ妬ましい」
「…はい?」
「仕事があるっていいわね。妬ましいわ」

嫉妬なんて無い。妬ましいと言ってもただの前口上に過ぎない。
ただ―羨ましいだけ。でもやっぱり『妬ましい』って言った方がしっくり来る。
元来私は嫉妬狂いの妖怪なのだ。

「大量の仕事があるのはそれだけ信用されている事。あなたは少し周りが見えていない」

扉の向こうから返ってくるのは沈黙。

「自分への労いも信用も気付いてない。そして愚かにもそれを失おうとしている」

返事は無い。
でもそれで良かった。心の深淵にも言葉は響くのだ。

「まだ間に合う。タイミングを逃す前にもう一度謝ったら?」

パルスィはその場を去った。
もうこれ以上この問題に足を踏み入れる気は無かった。
後は本人の意思と覚悟次第である。



美鈴は後を追うように出てこなかった。
咲夜はパルスィに出て行くように行ったが、レミリアが泣きついたために諦めた。

「えーっと、パルスィ…だっけ?何か酷いこと言っちゃったけどこれからよろしくね」

なんてメイド長は言う。
何となくにパルスィが危険因子ではないと判断したのだろう。
紅魔館の1区間の掃除と引き換えに部屋一つとメイド服、そして夕食のあまりを貰った。
ベッドの上で寝転がると幸せを感じられる。
ふかふかのベッド。優しい住人。美味しいご飯。昨日の私が見たら何というだろうか。
大体予想はつく、妬ましいとぼやいて羨ましがるだろう。
たった一日にして随分と生活が変わった。
色々と分からないこと、不慣れなこともあるがそれが楽しくて仕方が無い。
嫉妬妖怪はもう、誰かに嫉妬することなんて無いのだ。



紅く光るシャンデリアの下。いつもと違う変わったメンバーがいた。
レミリアにパルスィにそして美鈴である。

「迷惑かけて申し訳ございませんでしたッ!」

開口一番に美鈴は謝罪し、土下座を始める。
対し、レミリアはにやにやと下品な笑いを浮かべる。
嬉しくて仕方ないのだ。五日間とはいえ引き篭もっていた従者が出てきたのだから。
妬ましい。自分にはあんな笑顔をまだ向けられていない。

「迷惑かけたと思ったのならその分成果を出せばいいのよ。さっさと門で働いてきなさい」

ぶっきらぼうな物言いでもそこに愛情があることを美鈴は知っていた。

「分かりました、お嬢様」

土下座した体勢から立ち上がり談話室を出ようとする。
質素な紅魔館には珍しい随分と洒落た部屋だ。
失敗するかな…と思っていたが案外受けが良かったらしい。
お嬢様はわざわざここで朝の紅茶をお飲みになるし、何だかんだでパチュリー様も来てる。
そう話したのは咲夜であった。
そんな部屋を自分ひとりで殆ど作ったと考えると感無量。嬉しくなってしまう。

「ちょっと美鈴」
「あ、はい?何でしょう?」

レミリアに呼び止められる。
なぜか赤面したレミリアといやらしい笑いを浮かべたパルスィがいる。

「い、いつもありがとうッ!」
「え、あ、…どういたしまして…?」

赤瓜みたいな顔をしたレミリアは半泣きであった。
面と向かってお礼を言ったことなんて今まで無かったから恥ずかしい。
それでも言わなければまた引き篭もっちゃうかもとパルスィに脅されて言ってみたのだが、
やっぱり恥ずかしい。

「う、うるさい!どっかいけ!」

顔を隠しながら腕で振りはらう仕草がたまらなく面白いのか、パルスィはくすくすと笑いを隠せない。

「お嬢様」
「…何よ」

机に突っ伏して答える。

「今までありがとうございます。それでは私は仕事に行ってまいりますね」
「ぬぁ!?」

再びレミリアが顔を真っ赤にして悶える。
パルスィはあははははと声を上げて笑い始める。

「ひー、ひー、笑い死ぬかと思ったわ…」
「うー、言わなきゃ良かったかしら」
「大丈夫、後三十年間ぐらいは安泰よ」
「何よそれ」

でも定期的にお礼を言うことは大切だと思った。
当たり前だと思っていても実はそうでもないのだ。
紅魔館に妖精メイドはいっぱいいて面倒だし、とりあえず咲夜にありがとうと言ってみた。
咲夜は最初は驚いていたが、ここで働くことが存在意義であり、娯楽でもある。お礼を言われることなんてないと。
レミリアはちょっと残念そうな顔をしたが、それでも嬉しかったですよの一言で満足した。
例によってパルスィはにたにた笑ってた。

長い親友にも迷惑をかけたかもしれない。
図書館に行ってパチュリーにも今まで迷惑かけてごめんなさいと言った。
永遠亭の薬師のところへ連れて行かれそうになった。
泣き喚いて抗議するレミリアにカリスマなんて言葉は似合わない。
愛くるしい子供なのだ。
何とか思いの旨を伝えて自室に戻ろうとすると横でパルスィがげらげら笑ってた。
あまりにもムカついたので一発殴った。ふぐぅとか言って沈んだ。



後日、暇だからと館にやってきた霊夢や魔理沙、アリスはそこで働くパルスィの姿に何度も目を疑った。
朝一番に掃除を始め、料理をする咲夜を爛々と光る緑の眼で観察し、洗濯物を取り込む。
すぐに力尽きるかと思いもパルスィはずっと働き続けた。
不思議に思って魔理沙がなぜそこまで頑張るのかと尋ねると二つの回答が帰ってきた。
曰く、自分を救い出してくれたお嬢様のために恩を返したい。
曰く、お嬢様からお礼を言われるほどの活躍をしたい。
何を言っているのか良く分からなかったが、熱意だけは感じられた。

「パルスィ、あなたもお嬢様のために朝食を作ってみる?」
「任しておきなさい!」

周りからすれば紅魔館に緑色の目の妙に張り切っているメイドが増えた。
ただそれだけなのである。
レミリアは楽しみで仕方が無い。
自分がお礼を言う時に笑ってばかりいたあの妖怪が今度は言われて赤面する日の事が。
想像するだけでレミリアは楽しかった。
書き溜め分吐き出し終了。
デレたパルスィは本当に可愛いと思う。いわゆる準ヤンデレ。
裏切られたくない一心で甘えてくる感じ。なでなでしたい。
ノンカリスマお嬢様も素敵。なでなでしたい(そればっかり…)

キャラの書き分けって難しい。口調に特出した特徴がないと泣ける。
それにしても自分の限界は20KB程度らしい。
100KBとか書く超大作作家さんって凄いよね。
そこまで拡張できる想像力と文章力に脱帽。俺も頑張るぞー(`・ω・´)

ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました。m(_ _)m
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コメント



0.2710簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
ええ、可愛いです。なでなでしたいです。全面的に作者さんに同意します。
もう少しだけ二人の口論から和解までのところが物足りなかった気がしますが、ラストまで気持ちのいいお話でしたし、私のなかでは満点です。可愛かったし(大事なことなので(ry
9.90名前が無い程度の能力削除
なんかパルスィが陥落するのがいくら何でも早すぎるような気がします。
まあ何でしょう、とりあえずパルスィ萌えで90点。
13.100奇声を発する程度の能力削除
パルシィなでなでしてぇー!!!!!!
14.90名前が無い程度の能力削除
なにこの暖かい気持ち・・・これが和みというものか・・・!
15.80M.u削除
パルスィ好きとしては嫉妬に狂ってない姿に違和感を覚えました
16.90名前が無い程度の能力削除
メイドパルスィに新たな目覚めを見た。

レミリアとパルスィの心境の推移が丁寧でとても読みやすかったです。
個人的にはレミリアがパルスィにこだわる理由にもう一捻りあってもいいな、と思いました。
17.100名前が無い程度の能力削除
レミパルとはまた新しい。
これはもっと読みたくなる作品ですね。
27.100名前が無い程度の能力削除
新しい領域を見た気分です。
良い作品でした。
38.90名前が無い程度の能力削除
よし、作者をなでなでしよう
50.90名前が無い程度の能力削除
陥落の展開スピード-20、
嫉妬に狂わずメイド生活を楽しむパルスィに+14、
でしょうか?

ちょっと駆け足な感もありますが
描写が丁寧で優しい気持ちに浸れました。


さぁパルスィ、僕と一緒になでなで仕合おうか(台無し
53.100名前が無い程度の能力削除
デレたパルスィときいて飛んできた。
メイド服のパルスィの幻視余裕です。
54.80名前が無い程度の能力削除
妬ましいな…
57.100名前が無い程度の能力削除
これは良いパルパルごちでした
62.無評価名前が無い程度の能力削除
どうも展開が急すぎるような気が・・・。
さっくり読めるのはいいんですが、ただでさえマイナーなカプなのでもう少し心理描写を濃くした方が自然な気がします。