命蓮寺の裏庭。
小さな石橋の架かる、小さな池にて。
「ほらほら、こんなに立派に咲きましたよっ!」
「ふむ、これは見事な……」
私はご主人と一緒に、開花したばかりの蓮の花を眺めに来ていた。
少し前。
ご主人へのお供え物に、古い蓮の種子が混ざっていた。
折角なので裏の池で育ててみよう、と聖が言いだしたのが、そもそもの始まりだった。
こんな池と呼べるかどうかも怪しい水溜まりに、蓮なんて咲くのかと疑っていたが……
いやはや、なかなかどうして、綺麗な蓮華が咲いた。
今日の昼過ぎに、いつものように紛失した宝塔を探していたご主人が見つけたらしい。
一番乗りだ、今日の私たちは運が良い、とはしゃいでいた。可愛い。
と言っても、開いているのは一輪のみ。(入道使いのことではない)
後は蕾か、それ未満のものばかりだ。
だというのに。
「確かに凄い存在感だね」
「でしょう? こんなに立派なものはそうそうありませんよ!」
そう、その一輪(入道使いでない)が、とてつもなく大きいのだ。
ご主人の頭に乗ってる蓮華冠とは比べものにならない。
小さい座布団程もある。いや、もう少し大きいかもしれない。
そんじょそこらの妖精なら楽に乗せられるレベルだ。
大きさだけでなく、その美しさも並大抵ではない。
女性的な曲線を描く、桃色の薄く柔らかい花弁。
それらが重なることによって生まれる、紅白のグラデーション。
黄色い柱頭を中心に広がるその姿は、どこか太陽にも似ている。
葉の深緑の中で孤独に佇みながらも、悠然と構えたその様は、儚さと同時に、力強さをも内包しているようだった。
この花に「命」を想起した先人の気持ちが、今ならよく分かる。
ゆらゆらと水面を漂うこの花は、危なっかしくて、頼りなくて。
それでもしぶとく咲き誇るから。逞しく輝くから。
水面に映る空の蒼さを、浸かった水の清らかさを教えてくれるから。
この花は、鮮やかな生命そのものなのだ。
「いやしかし、これは驚きだね。他の蓮華もこんなに大きくなるのかい? とんでもない種を貰ったものだよ。」
「ムラサが毎日池の水を換えてくれたお陰ですねっ」
成る程、船長が世話をしていたのか。
それは適任だね。能力的に考えて。
まぁ、大好きな聖に良いところを見せたかった、という動機もあるのだろうが。
結果としてこんなに立派な花が咲いたのだから、頭ナデナデくらいはして貰えるんじゃないかな? 私もご主人の頭をナデナデしたいものだ。
おっと、聖は今『ダーツで行く!全国説法の旅~幻想郷編~』の途中なんだっけ。一輪(入道使い)と。
今は紅魔館だったか。船長には残念だが、まだ暫く掛かりそうだね。
「不思議なものだよ。一輪(入道使いでない)だけなのに、いつまで見ていても飽きない」
「えぇ、本当に。蓮華は人を惹きつけますね……」
おや、ご主人はそんなに蓮が好きだったのか。まぁ頭に乗っけているくらいだしね。妬ましい。私も蓮華になりたい。
だが、本当にこの蓮華は美しい。この世の物じゃないみたいだ。妬ましい。
庭にこの蓮が咲いて一番喜んでいるのは、ひょっとしたら、ご主人なのかもしれないな……ってぇ!?
「ご主人!? そんなに身を乗り出したら……っ!」
「あぁ……なんて綺麗な花なんでしょ……ッ!?」
バッチャーーン!
あぁもう、言わんこっちゃない。浅い池で良かったよ、全く。
「大丈夫かい、ご主人。流石にうっかりしすぎだよ」
しかし、今のは何だか、誤って落ちたというより……
「自分から進んで飛び込んだみたい、でしたね?」
「~~ッッヂューーー!?」
「あ、ごめん、驚かせちゃいましたか?」
せ、船長っ!?
「い、いきなり出てこないでくれ。心臓に悪い……」
「あらら、ごめんなさい。気配がないのは生まれつきのものでして」
悪びれもせずによく言う。
生まれつき、ではなくて、死につき、だろうに。
「私も蓮が気になって見に来たのですよ。聖に任されたものですからね」
「そうか。時に船長、あの花を見てくれ。あいつをどう思う?」
「どう、って……普通の蓮華ですね。少し大きな」
「何かおかしなところはないかい? 例えば、変に惹きつけられる、とか」
「いえ、私は何にも感じませんよ? 星は随分と気に入っているようですが」
「そうか……いや、何か違和感があってね。あの花にも、ご主人にも」
船長は何にも感じないのか。
あの花は、綺麗すぎる。怖いくらいに。
それに、いくらご主人でも、ただの花に気を取られて頭から池に突っ込むなんて事はない。多分。きっと。恐らく。
それに、先のご主人の眼。
上手く言えないが、何かおかしかった。
「そうですか? 綺麗な花に誘われる事なんて、そう珍しくもないんじゃ?」
ふむ……花に誘われる、か。
どこかで聞いたことがあるような……
「ふぇぇ……やってしまいましたぁ……」
おっと、それよりも今はご主人を助けないと。
タオルと着替えも用意して……
「ぅぅ、びしゃびしゃですぅ……」
「あらー、これは派手に突っ込みましたねぇ。早くタオルを……ナズーリン?」
ご主人が。
ご主人が、濡れている。
頭の天辺から足の先まで。
ポタポタと水を滴らせて。
寒さに身体をプルプル震わせて。
両脚を左に投げ出したような、いわゆる「女の子座り」で。
腰元まで水に浸って。
肩を落として。
幽霊のように両手を前にだらりと出して。
服を身体にへばり付かせて。
全体的に細く、それでいて出るべきところは惜しみなく出ている身体のラインを強調させて。
微妙にはだけた胸元にも気がつかないで。
艶めかしく濡れた髪もそのままに。
失態への恥ずかしさで頬をうっすら紅潮させて。
震える口元から八重歯を覗かせて。
どうしましょう、と目を潤ませて。
上目遣いで。
思わず出てしまった虎耳をしょんぼりさせて。
尻尾も頼りなくしなだれて。
ご主人が、濡れている。
この光景を深く心に刻みつけたと同時に、私の忠誠心は臨界点を超え、恐ろしい体積の余剰忠誠心が鼻から噴出した。
「何という幸運な日だったろう……
我が生涯に、一片の悔い無しッッ!!!!!!!!!1」
「「ナ……ナズーリーーーーンっ!?」」
ほとばしる忠誠心の隙間から、池の蓮華とご主人の蓮華冠が並んで浮かんでいるのが見えた。
蒼い水面が、不自然にゆらりと揺れた。
ああ、思い出した。アレに似ているんだ……
そして、私は意識を手放した。
…………ぅ、ん。
……いけない、少し眠りすぎたようだ。
ここは…私とご主人の部屋か。
月が高いな……今は何時だ?
みんなはもう寝静まって……
「ん……にゃず…りん……」
「あ…ご主、人……」
枕元に、ご主人が座ったまま眠っていた。
顔を上げようとすると、額から濡れタオルがずり落ちてきた。まだ少し冷たい。
「こんな遅くまで、看病をしてくれていたのか……」
池に落ちたのはあなたの方なのに……
ご主人の濡れ姿を見ただけで気絶するとは。
不甲斐ない自分に吐き気を催す……おっと、いかんいかん。思い出し忠誠を催しそうだ。
ありがとう、ご主人様。
その場で横にしたご主人に布団を掛ける。
残念ながら、私の力ではご主人の敷き布団まで引きずられない。
申し訳ないが、コロコロ転がして運ぶよりは良いだろう。
「がお……うぐぅ……」
ああああやっべぇご主人の寝顔超可愛い寝言も葉鍵可愛いご主人可愛い……
いかん、また取り乱してしまった。可愛いは罪だ。尚且つ正義だ。
残念ながら、今の私にはやることがある。
それが終わるまで、ほっぺたプニプニは我慢だ。畜生。
さぁ、行こうか。
命蓮寺の裏庭。
小さな石橋の架かる、小さな池にて。
真上には、丸くなりきれない月が高く昇っている。
そして、空の彼方に、月を隠すように躍る影が一つ。
私もよく知っている、あいつ。
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「やっぱり君だったか
……ぬえっ!!」
「ぬぇ~っぬぇっぬえっぬえっ! 今更解っても遅いですよ~だ!」
この千年ゴスロリ妖怪め。
どうやら、大方予想通りだったようだ。
「そうよ、この蓮を供えたのは私! 地底のいっちばん奧で眠っていたのを拾ってきたの!」
「この蓮は、あの『西行妖』の劣化版みたいなものかな」
「劣化版だなんて、失礼しちゃうわね。聞いて驚け、見て恐がれ!
これは生者を惹きつけて殺す魔界の蓮!一本の力は弱くても、集まったらスッゴいんだからっ!」
船長が何にも気がつかないわけだ。亡霊には何にも影響がないんだから。
生命の体現である蓮華が、生命を食らうとは……
魔界とはなんとも恐ろしいところだね。
「話は大体分かったよ。悪戯にしては、少々度が過ぎているということも、ね。」
「へ~、それで? どうするのさ?」
「簡単だ。君をコンティニュー出来なくしてやる!」
先手必勝!
不意打ち気味に懐からスペルカードを取り出す。
「ちょっと! それ私の友人の台詞でしょうが!」
「視符「高感度ナズーリンペンデュラム」!」
「鵺符「アンディファインドダークネス」っ!」
私のペンデュラムが蒼く輝いて分裂、そのままぬえに向かって三方向から襲撃する。
同時にスペルを発動したぬえの姿が黒く霞み、ペンデュラムが目標を見失う。初撃は失敗。
「くっ、流石に反応が早い。だが、スペル選択を誤ったな! 索敵(サーチ)!」
見失ったならば、また探せばいい。
私のペンデュラムは何処までも君を追いかけるぞ!
「見つけ…たぁッ!」
四時の方向、距離十七の位置。
今度は外さないっ!
「なるほど、大した性能ね。でも……速さが足りないッ!」
なっ! こっちに突っ込んでくるだと!?
いけない、戻れペンデュラ……
「遅い遅ォいッ!!」
ゴッ、と全身に鈍い痛みが走り、身体が浮き上がる。
大丈夫、ただのタックルだ。体勢を立て直して……いや! この方向は……ッ!!
「そのままァ! 蓮に魅入られて死ねェ!」
派手に吹き飛ばされた私は、そのまま頭から池に突っ込んだ。
撒き上がる水飛沫。溺れる程の深さではない、が。
「う……ぁ…………」
目の前に、大きな蓮の花がある。
黄金色の月明かりに照らされて、妖しく揺れている。美しく揺れている。
花脈が透けて見える。どこまでも紅い。揺れに合わせて脈打っているようだ。
生きている。
数多の命を食らって、大量の血を啜って。
何年も、何千年も。この種族は、そうやって生きてきたのだろう。
そして今は、私の命を……
ああ、頭が回らない。目が離せない。美しい。素晴らしい。ああ、嗚呼、良い気分だ。
「さぁて、憧れの蓮華にお近づきになれた気分はどうかしら?」
「……素晴らしい気分だよ。これほどまでに美しいとはね」
「さぁ、その花に触れなさい。そうして、あなたも花の一部になるの。素敵でしょう?」
「あぁ……素敵だよ、凄く」
抑えがたい、灼熱の衝動が身体を貫く。
身体が勝手に動く。腕が、勝手に伸びていく。
「嗚呼! もう限界だっ!」
「さぁ! さぁ! さぁ! 喰われなさいッ!」
「……なんて、ね。私が欲しいのは、こんな蓮華なんかじゃあない」
「えっ……?」
私の懐が光る。
月よりも尚明るく、黄金色に激しく輝く。
差し込んだ右手が掴んだもの、それは。
「ほ…宝塔!? なんでアンタが……!」
そう、いつもはご主人が持っているはずの、毘沙門天の宝塔だった。
「昼前のことだったかな。ご主人がまたこれを紛失してね、私が直ぐに見つけたんだが…
返しそびれてしまったんだよ。ご主人があんまりはしゃぐものだから。
『蓮が咲いた』って、ね」
「そ、そんな……それじゃあ……!」
「仮にも神の加護が与えられたアイテムだ。昼間もだったが、ちゃちなクズ花の誘惑なんて、あっという間に打ち消してしまうさ」
そう、私ではなく、ご主人が蓮に魅入られた訳がこれだ。
私自身も、もしかして、くらいの予想だったが……
「ご主人のお陰かな? やっぱり、今日の私は運が良い」
「ぬぇい! そんな道具一つで……!」
「止めといた方が良い。この宝塔の力は、君もよく知っているだろう?」
「……くっ!」
「チェックメイト、だ」
「…………」
最早ぐぅの音も出まい。ふふん、完全勝利というヤツだね。
君の敗因はたった一つだ。君は私を怒らせた。
さて、質の悪い悪戯には、それ相応のお仕置きが必要だ。
「この蓮も早々に処分しなくてはいけないが、逃げられる前に灸を据えなくてはね。
聖達が帰るまで、君を地底に封印させてもらう。それからのことは彼女次第だが、もしかしたらまた暫く地底に……」
「…………くくっ」
「……?」
「くっ、くくっ……ぬぇ~っぬえっぬえっぬえっ!」
「変な笑い方は止めろッ! 何がおかしい!」
「ぬ、ぬぇっ……ひじり~、もういいよ~?」
「…………は?」
ゆらり、と石橋の上の空気が動く。
うっすらと景色が霞み、また晴れていく。
其処に立っていたのは……
「え~っと、申し訳ありません、ナズーリン」
「お疲れ、ナズー。あ、雲山もありがとね」
んな、な、な……なんだってーーーッッ!?
聖と一輪っ!? どうしてここにっ!?
何という急展開……あ、頭が追いつかん!
一体どういう事なんだキバ…一輪!?
「んーっとね、簡単に言うと、全ては姐さんの掌の上だったという訳よ」
「へ……じ、じゃああの蓮は……」
「あの蓮をぬえが拾ったというのは本当。
命を食らう魔界の蓮だというのも本当。
蓮の正体を知ったぬえが、星に供えたのも本当。
でも、姐さんはこれらのこと全てを知っていたの
だって、ぬえにあの蓮の正体を教えたのは、姐さんなんですもの」
「な……聖はあの蓮が危険だと知っていて育てさせていたのかっ!?」
「そうよ。だから船幽霊のみつに頼んだんじゃないの」
「……だが! 命を食らう花を育てるなんて!」
「あら? 聞いてなかったの? ぬえが言ったでしょう。『一本の力は弱い』って。
あんなちっぽけな花じゃあ、二十日鼠一匹も殺せやしないわ。星にも影響は無いわね」
「で、でも……今は一輪(入道使いでない方を指す)でも、まだこれから咲く花が……!」
「いやいや、一輪(入道使いでない方を指す)だけよ。だって、ぬえが持ってきた種は一粒だけだもの。
あとは、折角だからって聖が追加した普通の蓮。魔界の蓮に生命力をちょっとずつ奪われて、開花が遅れているのがその証拠ね。
それに、姐さんが今から池の周りに結界を張るから、もう完全に無害な花になるわ。その為に早く帰ってきたんだもの」
「ご主人が落ちたのは……ぬえとの戦闘は……?」
「星が落ちたのは……まぁ、故意の事故ね。可哀想だけど。
本当は私たちも昨日のうちに帰ってきて、その時にみんなに訳を話すつもりだったんだけど、ぬえがどうしても蓮の力を見てみたいっていうから……」
「んふふ~♪ 私がただ遊びたかっただけよ?
ナズーリンったら、ちょっとからかっただけなのに本気で向かってくるんだもの。いい暇潰しになったわ♪」
なんてことだ……
本当に聖達に振り回されていただけだったのか……
「あ、それよりもさっきの雲山見た!? 光を屈折させて、私たちの姿を隠していたの!
少し前にね、河童の子と知り合ってね! その時に光学迷彩の仕組みを教えて貰ってね!
なんでも、光を屈折させて、自分の前に自分の後ろの風景を投射するとかでね!
苦しい特訓の末、この前ついに習得したのよっ! 聖も"よく頑張りました"って言ってくれたのよ!褒めて褒めてっ!」
煩い入道使いだな。私は凹んでいるんだ。少しは雲山を見習え。
「ぅう……いいもん、みつに褒めて貰うから……
ナズにはお土産の『紅魔館名物・パッチュンプリン苺味~ルーマニアンルーレットVer.~』はあげないもん……」
しかし、最後に一つだけ。
「聖、あなたはどうしてこんな厄介な花を育てようと思ったんだい?
供えられたからと言って、わざわざ育てることもない。育てるにしても普通の蓮だけでも良いじゃないか」
「どうして、ですか? 簡単ですよ。
だって……こんなに綺麗な花を咲かせられるのですよ?
『蓮は泥より出でて、泥に染まらず』とも言いますしね。
こんなに目を楽しませてくれるのに、魔界の物だから、害があるから、と言って捨て置くのは、勿体ないでしょう?」
「そうか……うん、安心したよ。とてもあなたらしい答えだ」
やっぱりこの方は器が違う。
妖怪も、亡霊も、人間も、植物に於いてさえ、この方は全てを救おうとしている。
あんなお化け蓮よりも、よっぽど人妖を惹きつける魅力を持っている。
結局踊らされていただけだというのに、腹を立たせることもさせてくれないなんて。
「全く、敵わないな」
「それでは、結界を施しましょうか」
「了解です! お札を貼って……って、あら? 寺から声が……」
「ナ、ナズーリーン! どこですかー!? もう大丈夫なんですかー!?」
ご主人……!
そんなに私を心配してくれるのか……
このどこまでも不甲斐ない部下を……ご主人!
「ご主人! 私はここだよ!」
精一杯の声量でご主人に応える。
パタパタと足音が近くなり、引き戸が開けられた。
「あぁ、ナズーリン! 体はだいじょう……ぶ…………」
「……? どうしたんだい、ご主人」
いったい何に驚いているのだろう。
何であんなに顔が赤いのだろう。
聖達が帰ってきていることに驚いているのではない。
ぬえが居ることに対してでもない。
この騒ぎで未だに起きてこない船長に対してでもない。
ご主人の息が荒いのは、先ほどまで走り回っていたためだけだろうか。
ふ、と自分の姿を見て、気づいた。
あ、びしゃびしゃだ。
「がおーーーーー!!!!!!1」
「チューーーーー!!?!?」
「うわー!? 星が野性に目覚めたっ!? お、お札お札っ!」
「あらあら、大変ですね」
「ぬぇっぬぇ♪ 熱いわねぇ」
ご主人に抱きすくめられ、オーバーヒートして薄れていく意識の中。
小さな蓮華の冠が眼に映った。
ああ、この花だ。
私がずっと触れたかった、この小さな蓮華。
これが、この持ち主が。
他の何よりも、私を魅了するのだ。
どうにも変なにやけ顔のまま、私は意識を手放した。
.
小さな石橋の架かる、小さな池にて。
「ほらほら、こんなに立派に咲きましたよっ!」
「ふむ、これは見事な……」
私はご主人と一緒に、開花したばかりの蓮の花を眺めに来ていた。
少し前。
ご主人へのお供え物に、古い蓮の種子が混ざっていた。
折角なので裏の池で育ててみよう、と聖が言いだしたのが、そもそもの始まりだった。
こんな池と呼べるかどうかも怪しい水溜まりに、蓮なんて咲くのかと疑っていたが……
いやはや、なかなかどうして、綺麗な蓮華が咲いた。
今日の昼過ぎに、いつものように紛失した宝塔を探していたご主人が見つけたらしい。
一番乗りだ、今日の私たちは運が良い、とはしゃいでいた。可愛い。
と言っても、開いているのは一輪のみ。(入道使いのことではない)
後は蕾か、それ未満のものばかりだ。
だというのに。
「確かに凄い存在感だね」
「でしょう? こんなに立派なものはそうそうありませんよ!」
そう、その一輪(入道使いでない)が、とてつもなく大きいのだ。
ご主人の頭に乗ってる蓮華冠とは比べものにならない。
小さい座布団程もある。いや、もう少し大きいかもしれない。
そんじょそこらの妖精なら楽に乗せられるレベルだ。
大きさだけでなく、その美しさも並大抵ではない。
女性的な曲線を描く、桃色の薄く柔らかい花弁。
それらが重なることによって生まれる、紅白のグラデーション。
黄色い柱頭を中心に広がるその姿は、どこか太陽にも似ている。
葉の深緑の中で孤独に佇みながらも、悠然と構えたその様は、儚さと同時に、力強さをも内包しているようだった。
この花に「命」を想起した先人の気持ちが、今ならよく分かる。
ゆらゆらと水面を漂うこの花は、危なっかしくて、頼りなくて。
それでもしぶとく咲き誇るから。逞しく輝くから。
水面に映る空の蒼さを、浸かった水の清らかさを教えてくれるから。
この花は、鮮やかな生命そのものなのだ。
「いやしかし、これは驚きだね。他の蓮華もこんなに大きくなるのかい? とんでもない種を貰ったものだよ。」
「ムラサが毎日池の水を換えてくれたお陰ですねっ」
成る程、船長が世話をしていたのか。
それは適任だね。能力的に考えて。
まぁ、大好きな聖に良いところを見せたかった、という動機もあるのだろうが。
結果としてこんなに立派な花が咲いたのだから、頭ナデナデくらいはして貰えるんじゃないかな? 私もご主人の頭をナデナデしたいものだ。
おっと、聖は今『ダーツで行く!全国説法の旅~幻想郷編~』の途中なんだっけ。一輪(入道使い)と。
今は紅魔館だったか。船長には残念だが、まだ暫く掛かりそうだね。
「不思議なものだよ。一輪(入道使いでない)だけなのに、いつまで見ていても飽きない」
「えぇ、本当に。蓮華は人を惹きつけますね……」
おや、ご主人はそんなに蓮が好きだったのか。まぁ頭に乗っけているくらいだしね。妬ましい。私も蓮華になりたい。
だが、本当にこの蓮華は美しい。この世の物じゃないみたいだ。妬ましい。
庭にこの蓮が咲いて一番喜んでいるのは、ひょっとしたら、ご主人なのかもしれないな……ってぇ!?
「ご主人!? そんなに身を乗り出したら……っ!」
「あぁ……なんて綺麗な花なんでしょ……ッ!?」
バッチャーーン!
あぁもう、言わんこっちゃない。浅い池で良かったよ、全く。
「大丈夫かい、ご主人。流石にうっかりしすぎだよ」
しかし、今のは何だか、誤って落ちたというより……
「自分から進んで飛び込んだみたい、でしたね?」
「~~ッッヂューーー!?」
「あ、ごめん、驚かせちゃいましたか?」
せ、船長っ!?
「い、いきなり出てこないでくれ。心臓に悪い……」
「あらら、ごめんなさい。気配がないのは生まれつきのものでして」
悪びれもせずによく言う。
生まれつき、ではなくて、死につき、だろうに。
「私も蓮が気になって見に来たのですよ。聖に任されたものですからね」
「そうか。時に船長、あの花を見てくれ。あいつをどう思う?」
「どう、って……普通の蓮華ですね。少し大きな」
「何かおかしなところはないかい? 例えば、変に惹きつけられる、とか」
「いえ、私は何にも感じませんよ? 星は随分と気に入っているようですが」
「そうか……いや、何か違和感があってね。あの花にも、ご主人にも」
船長は何にも感じないのか。
あの花は、綺麗すぎる。怖いくらいに。
それに、いくらご主人でも、ただの花に気を取られて頭から池に突っ込むなんて事はない。多分。きっと。恐らく。
それに、先のご主人の眼。
上手く言えないが、何かおかしかった。
「そうですか? 綺麗な花に誘われる事なんて、そう珍しくもないんじゃ?」
ふむ……花に誘われる、か。
どこかで聞いたことがあるような……
「ふぇぇ……やってしまいましたぁ……」
おっと、それよりも今はご主人を助けないと。
タオルと着替えも用意して……
「ぅぅ、びしゃびしゃですぅ……」
「あらー、これは派手に突っ込みましたねぇ。早くタオルを……ナズーリン?」
ご主人が。
ご主人が、濡れている。
頭の天辺から足の先まで。
ポタポタと水を滴らせて。
寒さに身体をプルプル震わせて。
両脚を左に投げ出したような、いわゆる「女の子座り」で。
腰元まで水に浸って。
肩を落として。
幽霊のように両手を前にだらりと出して。
服を身体にへばり付かせて。
全体的に細く、それでいて出るべきところは惜しみなく出ている身体のラインを強調させて。
微妙にはだけた胸元にも気がつかないで。
艶めかしく濡れた髪もそのままに。
失態への恥ずかしさで頬をうっすら紅潮させて。
震える口元から八重歯を覗かせて。
どうしましょう、と目を潤ませて。
上目遣いで。
思わず出てしまった虎耳をしょんぼりさせて。
尻尾も頼りなくしなだれて。
ご主人が、濡れている。
この光景を深く心に刻みつけたと同時に、私の忠誠心は臨界点を超え、恐ろしい体積の余剰忠誠心が鼻から噴出した。
「何という幸運な日だったろう……
我が生涯に、一片の悔い無しッッ!!!!!!!!!1」
「「ナ……ナズーリーーーーンっ!?」」
ほとばしる忠誠心の隙間から、池の蓮華とご主人の蓮華冠が並んで浮かんでいるのが見えた。
蒼い水面が、不自然にゆらりと揺れた。
ああ、思い出した。アレに似ているんだ……
そして、私は意識を手放した。
…………ぅ、ん。
……いけない、少し眠りすぎたようだ。
ここは…私とご主人の部屋か。
月が高いな……今は何時だ?
みんなはもう寝静まって……
「ん……にゃず…りん……」
「あ…ご主、人……」
枕元に、ご主人が座ったまま眠っていた。
顔を上げようとすると、額から濡れタオルがずり落ちてきた。まだ少し冷たい。
「こんな遅くまで、看病をしてくれていたのか……」
池に落ちたのはあなたの方なのに……
ご主人の濡れ姿を見ただけで気絶するとは。
不甲斐ない自分に吐き気を催す……おっと、いかんいかん。思い出し忠誠を催しそうだ。
ありがとう、ご主人様。
その場で横にしたご主人に布団を掛ける。
残念ながら、私の力ではご主人の敷き布団まで引きずられない。
申し訳ないが、コロコロ転がして運ぶよりは良いだろう。
「がお……うぐぅ……」
ああああやっべぇご主人の寝顔超可愛い寝言も葉鍵可愛いご主人可愛い……
いかん、また取り乱してしまった。可愛いは罪だ。尚且つ正義だ。
残念ながら、今の私にはやることがある。
それが終わるまで、ほっぺたプニプニは我慢だ。畜生。
さぁ、行こうか。
命蓮寺の裏庭。
小さな石橋の架かる、小さな池にて。
真上には、丸くなりきれない月が高く昇っている。
そして、空の彼方に、月を隠すように躍る影が一つ。
私もよく知っている、あいつ。
「おはよう、よく眠れたかしら?」
「やっぱり君だったか
……ぬえっ!!」
「ぬぇ~っぬぇっぬえっぬえっ! 今更解っても遅いですよ~だ!」
この千年ゴスロリ妖怪め。
どうやら、大方予想通りだったようだ。
「そうよ、この蓮を供えたのは私! 地底のいっちばん奧で眠っていたのを拾ってきたの!」
「この蓮は、あの『西行妖』の劣化版みたいなものかな」
「劣化版だなんて、失礼しちゃうわね。聞いて驚け、見て恐がれ!
これは生者を惹きつけて殺す魔界の蓮!一本の力は弱くても、集まったらスッゴいんだからっ!」
船長が何にも気がつかないわけだ。亡霊には何にも影響がないんだから。
生命の体現である蓮華が、生命を食らうとは……
魔界とはなんとも恐ろしいところだね。
「話は大体分かったよ。悪戯にしては、少々度が過ぎているということも、ね。」
「へ~、それで? どうするのさ?」
「簡単だ。君をコンティニュー出来なくしてやる!」
先手必勝!
不意打ち気味に懐からスペルカードを取り出す。
「ちょっと! それ私の友人の台詞でしょうが!」
「視符「高感度ナズーリンペンデュラム」!」
「鵺符「アンディファインドダークネス」っ!」
私のペンデュラムが蒼く輝いて分裂、そのままぬえに向かって三方向から襲撃する。
同時にスペルを発動したぬえの姿が黒く霞み、ペンデュラムが目標を見失う。初撃は失敗。
「くっ、流石に反応が早い。だが、スペル選択を誤ったな! 索敵(サーチ)!」
見失ったならば、また探せばいい。
私のペンデュラムは何処までも君を追いかけるぞ!
「見つけ…たぁッ!」
四時の方向、距離十七の位置。
今度は外さないっ!
「なるほど、大した性能ね。でも……速さが足りないッ!」
なっ! こっちに突っ込んでくるだと!?
いけない、戻れペンデュラ……
「遅い遅ォいッ!!」
ゴッ、と全身に鈍い痛みが走り、身体が浮き上がる。
大丈夫、ただのタックルだ。体勢を立て直して……いや! この方向は……ッ!!
「そのままァ! 蓮に魅入られて死ねェ!」
派手に吹き飛ばされた私は、そのまま頭から池に突っ込んだ。
撒き上がる水飛沫。溺れる程の深さではない、が。
「う……ぁ…………」
目の前に、大きな蓮の花がある。
黄金色の月明かりに照らされて、妖しく揺れている。美しく揺れている。
花脈が透けて見える。どこまでも紅い。揺れに合わせて脈打っているようだ。
生きている。
数多の命を食らって、大量の血を啜って。
何年も、何千年も。この種族は、そうやって生きてきたのだろう。
そして今は、私の命を……
ああ、頭が回らない。目が離せない。美しい。素晴らしい。ああ、嗚呼、良い気分だ。
「さぁて、憧れの蓮華にお近づきになれた気分はどうかしら?」
「……素晴らしい気分だよ。これほどまでに美しいとはね」
「さぁ、その花に触れなさい。そうして、あなたも花の一部になるの。素敵でしょう?」
「あぁ……素敵だよ、凄く」
抑えがたい、灼熱の衝動が身体を貫く。
身体が勝手に動く。腕が、勝手に伸びていく。
「嗚呼! もう限界だっ!」
「さぁ! さぁ! さぁ! 喰われなさいッ!」
「……なんて、ね。私が欲しいのは、こんな蓮華なんかじゃあない」
「えっ……?」
私の懐が光る。
月よりも尚明るく、黄金色に激しく輝く。
差し込んだ右手が掴んだもの、それは。
「ほ…宝塔!? なんでアンタが……!」
そう、いつもはご主人が持っているはずの、毘沙門天の宝塔だった。
「昼前のことだったかな。ご主人がまたこれを紛失してね、私が直ぐに見つけたんだが…
返しそびれてしまったんだよ。ご主人があんまりはしゃぐものだから。
『蓮が咲いた』って、ね」
「そ、そんな……それじゃあ……!」
「仮にも神の加護が与えられたアイテムだ。昼間もだったが、ちゃちなクズ花の誘惑なんて、あっという間に打ち消してしまうさ」
そう、私ではなく、ご主人が蓮に魅入られた訳がこれだ。
私自身も、もしかして、くらいの予想だったが……
「ご主人のお陰かな? やっぱり、今日の私は運が良い」
「ぬぇい! そんな道具一つで……!」
「止めといた方が良い。この宝塔の力は、君もよく知っているだろう?」
「……くっ!」
「チェックメイト、だ」
「…………」
最早ぐぅの音も出まい。ふふん、完全勝利というヤツだね。
君の敗因はたった一つだ。君は私を怒らせた。
さて、質の悪い悪戯には、それ相応のお仕置きが必要だ。
「この蓮も早々に処分しなくてはいけないが、逃げられる前に灸を据えなくてはね。
聖達が帰るまで、君を地底に封印させてもらう。それからのことは彼女次第だが、もしかしたらまた暫く地底に……」
「…………くくっ」
「……?」
「くっ、くくっ……ぬぇ~っぬえっぬえっぬえっ!」
「変な笑い方は止めろッ! 何がおかしい!」
「ぬ、ぬぇっ……ひじり~、もういいよ~?」
「…………は?」
ゆらり、と石橋の上の空気が動く。
うっすらと景色が霞み、また晴れていく。
其処に立っていたのは……
「え~っと、申し訳ありません、ナズーリン」
「お疲れ、ナズー。あ、雲山もありがとね」
んな、な、な……なんだってーーーッッ!?
聖と一輪っ!? どうしてここにっ!?
何という急展開……あ、頭が追いつかん!
一体どういう事なんだキバ…一輪!?
「んーっとね、簡単に言うと、全ては姐さんの掌の上だったという訳よ」
「へ……じ、じゃああの蓮は……」
「あの蓮をぬえが拾ったというのは本当。
命を食らう魔界の蓮だというのも本当。
蓮の正体を知ったぬえが、星に供えたのも本当。
でも、姐さんはこれらのこと全てを知っていたの
だって、ぬえにあの蓮の正体を教えたのは、姐さんなんですもの」
「な……聖はあの蓮が危険だと知っていて育てさせていたのかっ!?」
「そうよ。だから船幽霊のみつに頼んだんじゃないの」
「……だが! 命を食らう花を育てるなんて!」
「あら? 聞いてなかったの? ぬえが言ったでしょう。『一本の力は弱い』って。
あんなちっぽけな花じゃあ、二十日鼠一匹も殺せやしないわ。星にも影響は無いわね」
「で、でも……今は一輪(入道使いでない方を指す)でも、まだこれから咲く花が……!」
「いやいや、一輪(入道使いでない方を指す)だけよ。だって、ぬえが持ってきた種は一粒だけだもの。
あとは、折角だからって聖が追加した普通の蓮。魔界の蓮に生命力をちょっとずつ奪われて、開花が遅れているのがその証拠ね。
それに、姐さんが今から池の周りに結界を張るから、もう完全に無害な花になるわ。その為に早く帰ってきたんだもの」
「ご主人が落ちたのは……ぬえとの戦闘は……?」
「星が落ちたのは……まぁ、故意の事故ね。可哀想だけど。
本当は私たちも昨日のうちに帰ってきて、その時にみんなに訳を話すつもりだったんだけど、ぬえがどうしても蓮の力を見てみたいっていうから……」
「んふふ~♪ 私がただ遊びたかっただけよ?
ナズーリンったら、ちょっとからかっただけなのに本気で向かってくるんだもの。いい暇潰しになったわ♪」
なんてことだ……
本当に聖達に振り回されていただけだったのか……
「あ、それよりもさっきの雲山見た!? 光を屈折させて、私たちの姿を隠していたの!
少し前にね、河童の子と知り合ってね! その時に光学迷彩の仕組みを教えて貰ってね!
なんでも、光を屈折させて、自分の前に自分の後ろの風景を投射するとかでね!
苦しい特訓の末、この前ついに習得したのよっ! 聖も"よく頑張りました"って言ってくれたのよ!褒めて褒めてっ!」
煩い入道使いだな。私は凹んでいるんだ。少しは雲山を見習え。
「ぅう……いいもん、みつに褒めて貰うから……
ナズにはお土産の『紅魔館名物・パッチュンプリン苺味~ルーマニアンルーレットVer.~』はあげないもん……」
しかし、最後に一つだけ。
「聖、あなたはどうしてこんな厄介な花を育てようと思ったんだい?
供えられたからと言って、わざわざ育てることもない。育てるにしても普通の蓮だけでも良いじゃないか」
「どうして、ですか? 簡単ですよ。
だって……こんなに綺麗な花を咲かせられるのですよ?
『蓮は泥より出でて、泥に染まらず』とも言いますしね。
こんなに目を楽しませてくれるのに、魔界の物だから、害があるから、と言って捨て置くのは、勿体ないでしょう?」
「そうか……うん、安心したよ。とてもあなたらしい答えだ」
やっぱりこの方は器が違う。
妖怪も、亡霊も、人間も、植物に於いてさえ、この方は全てを救おうとしている。
あんなお化け蓮よりも、よっぽど人妖を惹きつける魅力を持っている。
結局踊らされていただけだというのに、腹を立たせることもさせてくれないなんて。
「全く、敵わないな」
「それでは、結界を施しましょうか」
「了解です! お札を貼って……って、あら? 寺から声が……」
「ナ、ナズーリーン! どこですかー!? もう大丈夫なんですかー!?」
ご主人……!
そんなに私を心配してくれるのか……
このどこまでも不甲斐ない部下を……ご主人!
「ご主人! 私はここだよ!」
精一杯の声量でご主人に応える。
パタパタと足音が近くなり、引き戸が開けられた。
「あぁ、ナズーリン! 体はだいじょう……ぶ…………」
「……? どうしたんだい、ご主人」
いったい何に驚いているのだろう。
何であんなに顔が赤いのだろう。
聖達が帰ってきていることに驚いているのではない。
ぬえが居ることに対してでもない。
この騒ぎで未だに起きてこない船長に対してでもない。
ご主人の息が荒いのは、先ほどまで走り回っていたためだけだろうか。
ふ、と自分の姿を見て、気づいた。
あ、びしゃびしゃだ。
「がおーーーーー!!!!!!1」
「チューーーーー!!?!?」
「うわー!? 星が野性に目覚めたっ!? お、お札お札っ!」
「あらあら、大変ですね」
「ぬぇっぬぇ♪ 熱いわねぇ」
ご主人に抱きすくめられ、オーバーヒートして薄れていく意識の中。
小さな蓮華の冠が眼に映った。
ああ、この花だ。
私がずっと触れたかった、この小さな蓮華。
これが、この持ち主が。
他の何よりも、私を魅了するのだ。
どうにも変なにやけ顔のまま、私は意識を手放した。
.
「がおーーーーー!!!!!!1」
故意なのか分かりませんが一応報告しておきます。
見事な描写&見事な展開のストーリー、楽しく読ませて頂きました。
パッチュンプリン苺味は誰が食ったんだろう……
あと、濡れ濡れ星ちゃんの描写に気合入れすぎですwww
キノの旅かとw
魔界の蓮ですくぁ、面白いこと考えましたぬぇww