私がそこに行ったのは小学5年生のころだった。
暑い夏、上がり続ける気温。
いかに「子供は風の子元気の子」と言った所で限界がある。
毎日流れるのは決まって同じニュース。
『本日午後過ぎ、海岸沿いで遊んでいた子供2名が熱中症の疑いで意識不明の重態となり病院に搬送後、死亡が確認されました。』
「また熱中症か、あれだけ注意しろと言ってるのに…」
「本当、怖いわねぇ…」
そんなことを呟いているのは私の父母だ。
父は、交通会社に勤め、母はとある料理屋でパートをしているいたって普通の家族である。
両親から『れんちゃん』という愛称で呼ばれている私は小学校に通い、数日前夏休みに入ったばかりだった。
「熱中症?」
何にでも好奇心が湧く時期で、私の両親もそれを理解しているようで、色々教えてくれた。
私の父が答える。
「熱中症っていうのはね、暑いところにずっといて倒れちゃうことなんだ。」
「倒れたら、どうなるの?」
「そうだね…一番悪くてれんちゃんはお父さん、お母さんに一生会えなくなっちゃうんだ。」
会えなくなる、という怖さがわかっているのか不安な気持ちが私の心に侵入してくる。
「え…?一生…?」
「そう、ずっと会えなくなる…だから外にずっと1人でいちゃ駄目だよ?わかったかい?」
「うん…お外には出来るだけ1人で行かないようにする。」
よし、いい子だ。そう言って父親は私を抱き上げた。
私は、こうやって抱きかかえられるのが好きだったから、さっきの不安なんかどこかに飛ばしてはしゃいでいた。
そんな私を見ながら母が呟く。
「でも、こんな暑い中、家でクーラー浴びっぱなしってのも健康に悪いわねぇ。」
「そうだなぁ…」
父親は私を膝に乗り換えさせて考え込んだ。
『昨日が大暑でしたが、いかがお過ごしでしょうか?続いて天気予報のコーナーです。』
『はい、それではこれからの天気です。
日本列島は大暑を迎えましたが、それでも気温は変わらず暑い日々が続きます。外にお出掛けの際は十分に準備をしてから外出するようにしましょう。
それでは、今日の天気です。』
そんな言葉を聞いてか、父はパッと顔を上げた。
「避暑地、とかどうだろうか?」
「ひしょち?」
「ああ、いいわねぇ…」
その結果は避暑地。私はそんな言葉を知らなく疑問の表情を浮かべていた。
母親はそれに賛成だった。
「それで、どこに行くの?」
「そうだねぇ…」
「ねぇ、ひしょちってなに?」
私の問いに今度は母親が答えた。
「避暑地っていうのはね、夏でも涼しくてとっても気持ちいいところよー。」
「ほんとう?」
「ええ、とっても気持ちいいわよー。れんちゃんも行ってみたい?」
「うーん…行ってみたい!」
そう言うと
「……よし、決めた。」
「どこ?」
「どこー?」
「八雲風穴だ。」
車で数時間、八雲風穴はそこにあった。
「入場料は、小学生以上100円…全員で300円だな。」
係りの人に案内され、私と両親は八雲風穴へと足を踏み入れた。
「ねぇ、あなたは来たことあるの?」
「ああ、生まれてから何回かだけだが…何も変わってないみたいだ。」
両親が話している中、私ははしゃいでいた。
「すずしー!」
そんな私を両親は微笑んで見ていた。
地下三階まで降りてきた、雪が保存されている場所である。
「ここまで来ると、寒いなぁ。」
「夏とは思えないわねぇ。」
確かに寒かった、私は襲い来る寒気に体が震え上がるのを感じた。
「ねぇ、れんちゃんも寒がってるし上に行かない?」
「そうだね、れんちゃん、もう雪はいいかい?」
「うん、もういいよ。」
途中で何人かの観光客とすれ違いながら、上がっていった。
「さ、ここから地下二階だぞ。」
そう言って、父親が階段を上る。母親も階段を上る。そして私も階段を上がった、はずだった。
が、突然私の足元が揺れ、地面が震えだした。
混乱している頭では何も考えることが出来ずに私はただ慌てることしか出来なかった。
しばらく地面は揺れたがようやく揺れが治まった、が両親の姿が見当たらない。
それよりも周りを見渡せば来た事もないような場所だった。
階段があるのはわかるが、上が見えない。
下の方も真っ暗で、一番気になったのは壁だった。
何か模様が描かれており、赤色、青色、黄色などが滅茶苦茶に塗られているようだ。
そして明らかにさっきよりも寒い、比べ物にならないほど。
「………」
しかし、私は嫌に冷静だった。いつもなら1人になると泣き出してしまう癖があったがそれも出てこない。
否、それは1人ではなかったから、そこに明らかに不自然な人がいたから。
普通の人が着ないような不思議な模様の服、日は照らないのに、日傘と変な帽子を被っている金髪のお姉さん。
「お姉さん、誰?」
そう言った私を見て、その金髪のお姉さんは少し驚いているようだった。
あら?私が見えるのね?
そう言って、お姉さんはちょいちょいと私に手招きをした。
私は誘われるようにしてお姉さんに近寄る。
「初めまして、『れんちゃん』」
「え…?」
近くに寄れば寄るほど、聞こえる声は繊細で美しいものだった。
「八雲風穴へ、ようこそ。」
「え?あ、う…」
突然、知らない人に名前で呼ばれ、突然『ようこそ』なんて言われれば誰でも混乱するだろう。
ましてや、子供の私なんか、頭がパニックになっていただろう。
「どうしたの?」
お姉さんが綺麗な金色の瞳を私に向ける。吸い込まれるような感じがした。
「お姉さん、誰…?」
混乱した私はそんなことしか言えなかった。
お姉さんは、あらあら失礼。と優雅に笑った後、自己紹介を始めた。
「私の名前は、八雲紫。ここ八雲風穴の管理人ですわ。」
「え、管理人、さん?」
「ええ、そうよ。およそ6千年前の妖怪大戦争の時の噴火でここを作ってしまってから、毎年ここに見に来るの。」
一瞬だけ、ここの偉い人、という私の認識はすぐに砕け散った。
子供の私では理解できる範囲ではなかったのだろう。
「え、え?よ、妖怪?戦争?」
「ふふ、わからなくてけっこうよ。」
そういって八雲紫と名乗ったお姉さんは私を優しく撫でた。
ふわふわと優しく撫でられ、気持ち良かった。
突然、お姉さんは私に質問を投げてきた。
「れんちゃんはここに来て、どうかしら?」
「ど、どうって…?」
「涼しくて気持ちいい、とか暑くなくていい、とか何でもいいわよ?」
「え、えっとね、少し寒いけどお外より涼しくて過ごしやすい…」
「ずっと、いたい…?」
「……ずっとは、いたくない…」
そうよねーとお姉さんは残念そうに呟いた。
「全く、こっちの人間は賢いわよね…多くの妖怪が封印されたこの風穴を観光名所にするんですもの。
こっち側の人間も少しは見習って欲しいわねぇ…」
そう呟くとお姉さんは扇子を口に当てた。
そこから僅かに視線をこちらに向けながら口を開く。
「貴女…私とここで出会ったことは絶対に内緒に出来る?」
突然、そんなことを言われた私はしどろもどろになりながらも
「出来る…と思う。」
そう答えるしか出来なかった。
「ふふっ、珍しいわね貴女。不思議な雰囲気だわ。ぜひ欲しいけどやめときましょう。」
そう言うとお姉さんは扇子を一振りする。
すると、そこには変な目がついた隙間みたいなものが出てきた。
「ひっ!」
それが怖くて私は思わず後ずさった。
「大丈夫よ、取って食べたりはしないから。」
そこにひょいとお姉さんは飛び乗る。
「じゃあね、れんちゃん。また会いましょう。貴女が私と会ったことを秘密に出来たなら、いずれまたこの風穴で。」
そう言って女性は姿を消した。
その瞬間頭に鈍い衝撃が走り、私は一瞬で意識を手放した。
「ふふっ、御機嫌よう。れんちゃん。」
「………ん、………ちゃん、…んちゃん!れんちゃん!!」
「う、ぅん…?」
「れんちゃん!大丈夫!?」
「あれ?お母さん?」
目を開けるとそこには涙目になった母の姿とほっと息をついた父がいた。
「良かった…急に気を失って倒れたんだぞ?大丈夫か?」
父は不安そうな顔をしながら近寄ってきた。
「え?気を失って…?」
おかしいな、確か八雲紫って言うお姉さんに…
もしかして夢――
―――私とここで出会ったことは内緒に出来る?
突然脳裏にあのお姉さんの声が再生された。
「!!」
「うん?どうした?」
「うぅん…なんでもないよ…?」
「そうか?体は大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
「少し…頭が痛い…」
父親は、急な寒さでびっくりしたのかもなー。と言っていた。
「とりあえずもう帰りましょう。避暑はいいけどれんちゃんが危ないわ。」
「そうだな、また今度来ような?」
そういって、父は私を背負い外に出た。
外は異常に暑く感じ、あっという間に汗が湧き出てくる。
頭の痛みと、暑さで空を仰げば、満点の星空と綺麗な月が浮かんでいた。
「八雲風穴、7時38分29秒………」
「ねぇ、蓮子ー?まだー?」
「こころ辺にあったんだけどなー…ってあった!あれだわ!!」
「え?ってちょっと!待ちなさいよ!蓮子!」
メリーは渋々私に着いてくる。
「全く、何でこんな真夏の暑い日にこんな森に来ないといけないのよ…」
「ねぇ、メリー?文句ばっかり言ってないで、ここに来てみてよ。」
なによ、と私の近くにメリーが寄って来た。
しかしその瞬間メリーの不満顔は驚愕に染まった。
「え、す、涼しい…!?」
「あれ。」
私はそういって1つの寂れて廃れた小屋を指差した。
昔、私が訪れ『彼女』にあった場所。
昔は栄えたこの場所もこの時代では生き残れずあっという間にその存在を消した場所。
それでも、私は覚えていた。いかに廃れてぼろぼろになろうが、当時の面影を感じる。
そして、あの女性の感じもひしひしと感じる。
横を見るとメリーは訝しげな目でその建物を見ていた。
「夜に来たら間違いなく出るわね…」
「もう、メリーったら。何か感じないの?」
私がそう言うと、メリーは突然真剣な顔つきになる。
「気づかないわけないじゃない。こんな量のスキマ見たことないわよ。」
「何個ぐらいある?」
「数え切れない、どれもが変なうねりを出しているわね。」
気持ち悪いわー、とメリーは言った。
「準備は?」
と私が言えば
「いつでも。」
というメリーの声。
「秘封活動、始めましょう。」
どちらともなく呟き、廃屋の扉を開けて中に踏み込んだ。
その扉の上には『風穴入口』と寂れた看板が風に揺らされているだけだった。
「絶対会ってみせるわ、八雲紫…」
そんな私の呟きは押し寄せてくる冷気に流されメリーには届かなかった。
暑い夏、上がり続ける気温。
いかに「子供は風の子元気の子」と言った所で限界がある。
毎日流れるのは決まって同じニュース。
『本日午後過ぎ、海岸沿いで遊んでいた子供2名が熱中症の疑いで意識不明の重態となり病院に搬送後、死亡が確認されました。』
「また熱中症か、あれだけ注意しろと言ってるのに…」
「本当、怖いわねぇ…」
そんなことを呟いているのは私の父母だ。
父は、交通会社に勤め、母はとある料理屋でパートをしているいたって普通の家族である。
両親から『れんちゃん』という愛称で呼ばれている私は小学校に通い、数日前夏休みに入ったばかりだった。
「熱中症?」
何にでも好奇心が湧く時期で、私の両親もそれを理解しているようで、色々教えてくれた。
私の父が答える。
「熱中症っていうのはね、暑いところにずっといて倒れちゃうことなんだ。」
「倒れたら、どうなるの?」
「そうだね…一番悪くてれんちゃんはお父さん、お母さんに一生会えなくなっちゃうんだ。」
会えなくなる、という怖さがわかっているのか不安な気持ちが私の心に侵入してくる。
「え…?一生…?」
「そう、ずっと会えなくなる…だから外にずっと1人でいちゃ駄目だよ?わかったかい?」
「うん…お外には出来るだけ1人で行かないようにする。」
よし、いい子だ。そう言って父親は私を抱き上げた。
私は、こうやって抱きかかえられるのが好きだったから、さっきの不安なんかどこかに飛ばしてはしゃいでいた。
そんな私を見ながら母が呟く。
「でも、こんな暑い中、家でクーラー浴びっぱなしってのも健康に悪いわねぇ。」
「そうだなぁ…」
父親は私を膝に乗り換えさせて考え込んだ。
『昨日が大暑でしたが、いかがお過ごしでしょうか?続いて天気予報のコーナーです。』
『はい、それではこれからの天気です。
日本列島は大暑を迎えましたが、それでも気温は変わらず暑い日々が続きます。外にお出掛けの際は十分に準備をしてから外出するようにしましょう。
それでは、今日の天気です。』
そんな言葉を聞いてか、父はパッと顔を上げた。
「避暑地、とかどうだろうか?」
「ひしょち?」
「ああ、いいわねぇ…」
その結果は避暑地。私はそんな言葉を知らなく疑問の表情を浮かべていた。
母親はそれに賛成だった。
「それで、どこに行くの?」
「そうだねぇ…」
「ねぇ、ひしょちってなに?」
私の問いに今度は母親が答えた。
「避暑地っていうのはね、夏でも涼しくてとっても気持ちいいところよー。」
「ほんとう?」
「ええ、とっても気持ちいいわよー。れんちゃんも行ってみたい?」
「うーん…行ってみたい!」
そう言うと
「……よし、決めた。」
「どこ?」
「どこー?」
「八雲風穴だ。」
車で数時間、八雲風穴はそこにあった。
「入場料は、小学生以上100円…全員で300円だな。」
係りの人に案内され、私と両親は八雲風穴へと足を踏み入れた。
「ねぇ、あなたは来たことあるの?」
「ああ、生まれてから何回かだけだが…何も変わってないみたいだ。」
両親が話している中、私ははしゃいでいた。
「すずしー!」
そんな私を両親は微笑んで見ていた。
地下三階まで降りてきた、雪が保存されている場所である。
「ここまで来ると、寒いなぁ。」
「夏とは思えないわねぇ。」
確かに寒かった、私は襲い来る寒気に体が震え上がるのを感じた。
「ねぇ、れんちゃんも寒がってるし上に行かない?」
「そうだね、れんちゃん、もう雪はいいかい?」
「うん、もういいよ。」
途中で何人かの観光客とすれ違いながら、上がっていった。
「さ、ここから地下二階だぞ。」
そう言って、父親が階段を上る。母親も階段を上る。そして私も階段を上がった、はずだった。
が、突然私の足元が揺れ、地面が震えだした。
混乱している頭では何も考えることが出来ずに私はただ慌てることしか出来なかった。
しばらく地面は揺れたがようやく揺れが治まった、が両親の姿が見当たらない。
それよりも周りを見渡せば来た事もないような場所だった。
階段があるのはわかるが、上が見えない。
下の方も真っ暗で、一番気になったのは壁だった。
何か模様が描かれており、赤色、青色、黄色などが滅茶苦茶に塗られているようだ。
そして明らかにさっきよりも寒い、比べ物にならないほど。
「………」
しかし、私は嫌に冷静だった。いつもなら1人になると泣き出してしまう癖があったがそれも出てこない。
否、それは1人ではなかったから、そこに明らかに不自然な人がいたから。
普通の人が着ないような不思議な模様の服、日は照らないのに、日傘と変な帽子を被っている金髪のお姉さん。
「お姉さん、誰?」
そう言った私を見て、その金髪のお姉さんは少し驚いているようだった。
あら?私が見えるのね?
そう言って、お姉さんはちょいちょいと私に手招きをした。
私は誘われるようにしてお姉さんに近寄る。
「初めまして、『れんちゃん』」
「え…?」
近くに寄れば寄るほど、聞こえる声は繊細で美しいものだった。
「八雲風穴へ、ようこそ。」
「え?あ、う…」
突然、知らない人に名前で呼ばれ、突然『ようこそ』なんて言われれば誰でも混乱するだろう。
ましてや、子供の私なんか、頭がパニックになっていただろう。
「どうしたの?」
お姉さんが綺麗な金色の瞳を私に向ける。吸い込まれるような感じがした。
「お姉さん、誰…?」
混乱した私はそんなことしか言えなかった。
お姉さんは、あらあら失礼。と優雅に笑った後、自己紹介を始めた。
「私の名前は、八雲紫。ここ八雲風穴の管理人ですわ。」
「え、管理人、さん?」
「ええ、そうよ。およそ6千年前の妖怪大戦争の時の噴火でここを作ってしまってから、毎年ここに見に来るの。」
一瞬だけ、ここの偉い人、という私の認識はすぐに砕け散った。
子供の私では理解できる範囲ではなかったのだろう。
「え、え?よ、妖怪?戦争?」
「ふふ、わからなくてけっこうよ。」
そういって八雲紫と名乗ったお姉さんは私を優しく撫でた。
ふわふわと優しく撫でられ、気持ち良かった。
突然、お姉さんは私に質問を投げてきた。
「れんちゃんはここに来て、どうかしら?」
「ど、どうって…?」
「涼しくて気持ちいい、とか暑くなくていい、とか何でもいいわよ?」
「え、えっとね、少し寒いけどお外より涼しくて過ごしやすい…」
「ずっと、いたい…?」
「……ずっとは、いたくない…」
そうよねーとお姉さんは残念そうに呟いた。
「全く、こっちの人間は賢いわよね…多くの妖怪が封印されたこの風穴を観光名所にするんですもの。
こっち側の人間も少しは見習って欲しいわねぇ…」
そう呟くとお姉さんは扇子を口に当てた。
そこから僅かに視線をこちらに向けながら口を開く。
「貴女…私とここで出会ったことは絶対に内緒に出来る?」
突然、そんなことを言われた私はしどろもどろになりながらも
「出来る…と思う。」
そう答えるしか出来なかった。
「ふふっ、珍しいわね貴女。不思議な雰囲気だわ。ぜひ欲しいけどやめときましょう。」
そう言うとお姉さんは扇子を一振りする。
すると、そこには変な目がついた隙間みたいなものが出てきた。
「ひっ!」
それが怖くて私は思わず後ずさった。
「大丈夫よ、取って食べたりはしないから。」
そこにひょいとお姉さんは飛び乗る。
「じゃあね、れんちゃん。また会いましょう。貴女が私と会ったことを秘密に出来たなら、いずれまたこの風穴で。」
そう言って女性は姿を消した。
その瞬間頭に鈍い衝撃が走り、私は一瞬で意識を手放した。
「ふふっ、御機嫌よう。れんちゃん。」
「………ん、………ちゃん、…んちゃん!れんちゃん!!」
「う、ぅん…?」
「れんちゃん!大丈夫!?」
「あれ?お母さん?」
目を開けるとそこには涙目になった母の姿とほっと息をついた父がいた。
「良かった…急に気を失って倒れたんだぞ?大丈夫か?」
父は不安そうな顔をしながら近寄ってきた。
「え?気を失って…?」
おかしいな、確か八雲紫って言うお姉さんに…
もしかして夢――
―――私とここで出会ったことは内緒に出来る?
突然脳裏にあのお姉さんの声が再生された。
「!!」
「うん?どうした?」
「うぅん…なんでもないよ…?」
「そうか?体は大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
「少し…頭が痛い…」
父親は、急な寒さでびっくりしたのかもなー。と言っていた。
「とりあえずもう帰りましょう。避暑はいいけどれんちゃんが危ないわ。」
「そうだな、また今度来ような?」
そういって、父は私を背負い外に出た。
外は異常に暑く感じ、あっという間に汗が湧き出てくる。
頭の痛みと、暑さで空を仰げば、満点の星空と綺麗な月が浮かんでいた。
「八雲風穴、7時38分29秒………」
「ねぇ、蓮子ー?まだー?」
「こころ辺にあったんだけどなー…ってあった!あれだわ!!」
「え?ってちょっと!待ちなさいよ!蓮子!」
メリーは渋々私に着いてくる。
「全く、何でこんな真夏の暑い日にこんな森に来ないといけないのよ…」
「ねぇ、メリー?文句ばっかり言ってないで、ここに来てみてよ。」
なによ、と私の近くにメリーが寄って来た。
しかしその瞬間メリーの不満顔は驚愕に染まった。
「え、す、涼しい…!?」
「あれ。」
私はそういって1つの寂れて廃れた小屋を指差した。
昔、私が訪れ『彼女』にあった場所。
昔は栄えたこの場所もこの時代では生き残れずあっという間にその存在を消した場所。
それでも、私は覚えていた。いかに廃れてぼろぼろになろうが、当時の面影を感じる。
そして、あの女性の感じもひしひしと感じる。
横を見るとメリーは訝しげな目でその建物を見ていた。
「夜に来たら間違いなく出るわね…」
「もう、メリーったら。何か感じないの?」
私がそう言うと、メリーは突然真剣な顔つきになる。
「気づかないわけないじゃない。こんな量のスキマ見たことないわよ。」
「何個ぐらいある?」
「数え切れない、どれもが変なうねりを出しているわね。」
気持ち悪いわー、とメリーは言った。
「準備は?」
と私が言えば
「いつでも。」
というメリーの声。
「秘封活動、始めましょう。」
どちらともなく呟き、廃屋の扉を開けて中に踏み込んだ。
その扉の上には『風穴入口』と寂れた看板が風に揺らされているだけだった。
「絶対会ってみせるわ、八雲紫…」
そんな私の呟きは押し寄せてくる冷気に流されメリーには届かなかった。
邪念まみれの自分じゃバッドエンド直行は目に見えているけど、
俺もれんちゃんみたいに紫様と遭遇してみたいなぁ。
それにしても八雲風穴にゆかり館か……
びっくりするほどマーベラスだぜ。
幼い頃に紫に出会った蓮子はメリー
を見て何か思ったのでしょうか…