「新月の日」
私は森とともに生また。そのときから私はここに居る。ここから一歩も動いたことはない。しかしそれを悲しいと思ったことは一度も無い。私は私の周りの出来事しか知らない。
ここには妖精も住んで居る。妖精は、春は歓喜に踊り、夏は日差しを愛で、秋は実を採り、冬は寒さを耐える。彼らとの付き合いは、もう何百年という単位になるのだろう。
他にも鼠やら梟やら兎やらもこの辺りに住んでいる。彼らもまた、季節が移り行く中で姿を変える。時に他の者に捕食されることもある。
これは、そんな私の周りで起こった出来事である。
あくる日の夜、そのときはやけにチューチュー五月蝿かった。どうやら梟に狙われた鼠が賢明に逃げているものらしい。本来は梟に目を付けられた鼠は一瞬で殺されてしまうものだが、この鼠は屈強なのだろうか。激戦とも言える光景があった。
そこにとある妖怪が通りかかった。いや、結果的に妖怪とわかっただけで、その時私はそれが何なのかわからなかった。それは闇に身を包み、ゆっくりと空中を浮遊していた。
鼠は何を思ったかその闇の中に飛び込んだ。梟は追わない。否追えない。わずかな光も捉える梟の目にも見透かせない闇の中、飛ぶなんてとんでもないことだ。鼠は躊躇している間に手探りでその中を彷徨っているらしい。そして、ここまでおいでべー、とでも言うようにチューと一回鳴いた。
梟は、そんな得体の知れない、仮にもし入ったら二度と抜け出せないような闇に突っ込むマネはしなかった。悪態をつくようにホーと一回鳴いて、また別の獲物を求めて空を舞った。
鼠に入られた闇は一瞬動きが止まった。そのまま梟が飛んでいくのとほぼ同時に闇はとけた。
闇がとけた後には、ここらでは珍しい金髪の、人間で言うと十代も満たない様な少女だった。しかし人間が空を、道具も何も用いずに飛ぶと言うことは、博麗の巫女以外に聴いたことが無い。博麗の巫女は黒髪だと聴くので違うだろう。つまり、ここで可能性は妖怪となる。
妖怪らしき金髪少女は、髪に一際目立つ赤いリボンをしていた。その色はただの赤というにはあまりにも濃い色をしていた。端的にあらわすなら紅だろう。しかし、絶対的にはそんなに暗い色をしているわけではない。どちらかと言うと、服の色が黒いから紅く見えるのかもしれない。夜の闇の中だからというのもそこに含まれるかもしれない。
少女は闇をといて、止まって、浮いていた足を地に降ろした。そして閉じていた目を開けて、肩に乗っている鼠を見た。今思うと、睨んでいたのだろうとも思う。しかし何も言わずにそのまま私の足元に腰掛けた。
そして鼠の尻尾を掴み、目の前にぶら下げるようにした。鼠はそこで一切の口をきかなかった。いきなりのぼってごめんと、謝罪の念を表しているのだろうか。少女はそのままジッと鼠を見ていた。
しばらくそうしていただろうか。そろそろ鼠の尻尾が危ういだろうと私が心配しかけたところで、少女は鼠を肩の上で開放した。鼠はそのまま眠っていた。呆れた少女はそのまま私の足元で眠った。
朝になって、少女らはそのままでいた。しかし朝日を浴びて眩しいのか、少女は起きた。鼠は少女の髪の毛に包まるようにしているので朝日に気づかない。少女はその鼠をそのまま落として、闇に身を包んでどこかへ飛んで行こうとした。が、鼠はパッと起きて少女の服にしがみついた。
少女は訝しげな顔をした。しかし顔以外には特に気にした様子もなく、フワフワと黒い球体となって飛んでいった。
鼠と少女の出会いだった。字だけを追うと訳のわからないことだが、これ以上端的に表現する術を私は持ち合わせていない。加えて私には読心術とまでは行かないが、人の心情と言うものを捉える事を非常に苦手としていたので、その時彼らがどんなことを考え、どんなことを感じ、どんなことをしようとして止めたのかはわからない。しかし、これだけは言える。少女にとって、その鼠はどうでもいい存在だったのだ。
私はその少女と鼠をこの一月の間、時折見かけた。当時私は、鼠は一度助かったその少女の闇を有効に利用しているように感じていた。少女とともに居れば危険が迫ることは無い。そう考えていたのだと思う。その考えは今も変わらない。しかし肝心の少女のほうはと言うと、何を考えているのかまったくわからない。一度睨んだようにして、迷惑そうにもしていたのに、なぜ鼠を肩に乗せ続けるのか。あの出来事を目撃した後の私の考察によると、何度振り下ろしてもくっついて来るから諦めがあったのだろう。何度も何度も振り下ろして、それでもくっついて来るものだからそうやって肩に乗せ続けたのだろう。そういうことをやりそうなほどに、鼠は屈強であり、賢かったのだから。
そして、しばらくして、彼らはなぜか私の周辺で寝るようになっていた。仲良くなったようにも見える。それはいいことだなと、その頃の私はそう思った。種族の差があれど、仲良くなることに、私は微塵の疑問も感じれなかったのだ。
そのくせ梟はいつの間にか私に住み着いていた。しかし少女がいつも闇を纏っているため鼠を狙えない。別の獲物を狙えばいいものを、なぜそうやってこの鼠に拘るのか。そこには梟なりの美学とプライドがあるのだとしか私にはわかない。
特にあれが起こる前に面白いことは何も無い。鼠と少女がともにいて、それを上から梟が覗く。ただ、それだけだった。
そして、ある新月の宵に、それは起こった。
いつものように少女と鼠は私の元に来た。しかしその姿にいつもと違いがあった。
少女が闇を纏っていないのである。故に鼠はいつもと違い露出している。毛が抜けていると言う意味ではない。もう一つ、鼠は肩ではなく頭の上に居た。
梟はその日も私の上に居た。それを見て、歓喜をあげんとする気色が空気を通して私に伝わってきた。梟はわかっていたのだ、この少女が新月には闇を纏えないことを。
そのまま私から降り、急降下しつつ、目で鼠を捉えて捕まえんとする。対する鼠のほうはしばらく逃げることをしていなかったので反射が遅れた。しかしそのまま捕まらず、頭から転げ落ちた。梟の鋭い爪が少女のリボンを引き裂いた。
鼠は賢明に逃げるが、一月前の屈強な鼠とは違う。怠けて運動神経が鈍っていた。
つまり、鼠が捕まるのは時間の問題だった。いや、時間は問題ではなかった。逆に梟はこの一ヶ月で訓練し、凄まじい捕食能力を身に着けたのだ。
そのまま鼠は捕らえられ、梟の食事となった。鼠は無念そうに一瞬チューと鳴いて、このままこときれた。
梟はこの一ヶ月の訓練の甲斐があったと、鼠をうまそうに平らげる。それはまだ起こっていない。これから起こるのだ。
少女は梟を一瞬で鷲掴みにすると、そのまま握りつぶした。鮮血が中を舞う。返り血を浴びて、紅くなった自身の顔など気にした様子は無い。そのまま少し笑みを浮かべて、血でベットリの右手でリボンを拾う。
そして次の瞬間、この森は闇に包まれた。その時、何もかもが止まったようだった。森は音を失った。
朝になって、そこにはいつも通りの少女の寝姿があった。鼠の死骸と、梟の死骸と、森では際して珍しくも無い光景が脇にはある。
少女はリボンのついた頭ををかしげてジッとそれらを見た。
そしてそのまま何も言わずに、闇を纏い、いつものように湖の畔へ出かけるのだった。
私は森とともに生また。そのときから私はここに居る。ここから一歩も動いたことはない。しかしそれを悲しいと思ったことは一度も無い。私は私の周りの出来事しか知らない。
ここには妖精も住んで居る。妖精は、春は歓喜に踊り、夏は日差しを愛で、秋は実を採り、冬は寒さを耐える。彼らとの付き合いは、もう何百年という単位になるのだろう。
他にも鼠やら梟やら兎やらもこの辺りに住んでいる。彼らもまた、季節が移り行く中で姿を変える。時に他の者に捕食されることもある。
これは、そんな私の周りで起こった出来事である。
あくる日の夜、そのときはやけにチューチュー五月蝿かった。どうやら梟に狙われた鼠が賢明に逃げているものらしい。本来は梟に目を付けられた鼠は一瞬で殺されてしまうものだが、この鼠は屈強なのだろうか。激戦とも言える光景があった。
そこにとある妖怪が通りかかった。いや、結果的に妖怪とわかっただけで、その時私はそれが何なのかわからなかった。それは闇に身を包み、ゆっくりと空中を浮遊していた。
鼠は何を思ったかその闇の中に飛び込んだ。梟は追わない。否追えない。わずかな光も捉える梟の目にも見透かせない闇の中、飛ぶなんてとんでもないことだ。鼠は躊躇している間に手探りでその中を彷徨っているらしい。そして、ここまでおいでべー、とでも言うようにチューと一回鳴いた。
梟は、そんな得体の知れない、仮にもし入ったら二度と抜け出せないような闇に突っ込むマネはしなかった。悪態をつくようにホーと一回鳴いて、また別の獲物を求めて空を舞った。
鼠に入られた闇は一瞬動きが止まった。そのまま梟が飛んでいくのとほぼ同時に闇はとけた。
闇がとけた後には、ここらでは珍しい金髪の、人間で言うと十代も満たない様な少女だった。しかし人間が空を、道具も何も用いずに飛ぶと言うことは、博麗の巫女以外に聴いたことが無い。博麗の巫女は黒髪だと聴くので違うだろう。つまり、ここで可能性は妖怪となる。
妖怪らしき金髪少女は、髪に一際目立つ赤いリボンをしていた。その色はただの赤というにはあまりにも濃い色をしていた。端的にあらわすなら紅だろう。しかし、絶対的にはそんなに暗い色をしているわけではない。どちらかと言うと、服の色が黒いから紅く見えるのかもしれない。夜の闇の中だからというのもそこに含まれるかもしれない。
少女は闇をといて、止まって、浮いていた足を地に降ろした。そして閉じていた目を開けて、肩に乗っている鼠を見た。今思うと、睨んでいたのだろうとも思う。しかし何も言わずにそのまま私の足元に腰掛けた。
そして鼠の尻尾を掴み、目の前にぶら下げるようにした。鼠はそこで一切の口をきかなかった。いきなりのぼってごめんと、謝罪の念を表しているのだろうか。少女はそのままジッと鼠を見ていた。
しばらくそうしていただろうか。そろそろ鼠の尻尾が危ういだろうと私が心配しかけたところで、少女は鼠を肩の上で開放した。鼠はそのまま眠っていた。呆れた少女はそのまま私の足元で眠った。
朝になって、少女らはそのままでいた。しかし朝日を浴びて眩しいのか、少女は起きた。鼠は少女の髪の毛に包まるようにしているので朝日に気づかない。少女はその鼠をそのまま落として、闇に身を包んでどこかへ飛んで行こうとした。が、鼠はパッと起きて少女の服にしがみついた。
少女は訝しげな顔をした。しかし顔以外には特に気にした様子もなく、フワフワと黒い球体となって飛んでいった。
鼠と少女の出会いだった。字だけを追うと訳のわからないことだが、これ以上端的に表現する術を私は持ち合わせていない。加えて私には読心術とまでは行かないが、人の心情と言うものを捉える事を非常に苦手としていたので、その時彼らがどんなことを考え、どんなことを感じ、どんなことをしようとして止めたのかはわからない。しかし、これだけは言える。少女にとって、その鼠はどうでもいい存在だったのだ。
私はその少女と鼠をこの一月の間、時折見かけた。当時私は、鼠は一度助かったその少女の闇を有効に利用しているように感じていた。少女とともに居れば危険が迫ることは無い。そう考えていたのだと思う。その考えは今も変わらない。しかし肝心の少女のほうはと言うと、何を考えているのかまったくわからない。一度睨んだようにして、迷惑そうにもしていたのに、なぜ鼠を肩に乗せ続けるのか。あの出来事を目撃した後の私の考察によると、何度振り下ろしてもくっついて来るから諦めがあったのだろう。何度も何度も振り下ろして、それでもくっついて来るものだからそうやって肩に乗せ続けたのだろう。そういうことをやりそうなほどに、鼠は屈強であり、賢かったのだから。
そして、しばらくして、彼らはなぜか私の周辺で寝るようになっていた。仲良くなったようにも見える。それはいいことだなと、その頃の私はそう思った。種族の差があれど、仲良くなることに、私は微塵の疑問も感じれなかったのだ。
そのくせ梟はいつの間にか私に住み着いていた。しかし少女がいつも闇を纏っているため鼠を狙えない。別の獲物を狙えばいいものを、なぜそうやってこの鼠に拘るのか。そこには梟なりの美学とプライドがあるのだとしか私にはわかない。
特にあれが起こる前に面白いことは何も無い。鼠と少女がともにいて、それを上から梟が覗く。ただ、それだけだった。
そして、ある新月の宵に、それは起こった。
いつものように少女と鼠は私の元に来た。しかしその姿にいつもと違いがあった。
少女が闇を纏っていないのである。故に鼠はいつもと違い露出している。毛が抜けていると言う意味ではない。もう一つ、鼠は肩ではなく頭の上に居た。
梟はその日も私の上に居た。それを見て、歓喜をあげんとする気色が空気を通して私に伝わってきた。梟はわかっていたのだ、この少女が新月には闇を纏えないことを。
そのまま私から降り、急降下しつつ、目で鼠を捉えて捕まえんとする。対する鼠のほうはしばらく逃げることをしていなかったので反射が遅れた。しかしそのまま捕まらず、頭から転げ落ちた。梟の鋭い爪が少女のリボンを引き裂いた。
鼠は賢明に逃げるが、一月前の屈強な鼠とは違う。怠けて運動神経が鈍っていた。
つまり、鼠が捕まるのは時間の問題だった。いや、時間は問題ではなかった。逆に梟はこの一ヶ月で訓練し、凄まじい捕食能力を身に着けたのだ。
そのまま鼠は捕らえられ、梟の食事となった。鼠は無念そうに一瞬チューと鳴いて、このままこときれた。
梟はこの一ヶ月の訓練の甲斐があったと、鼠をうまそうに平らげる。それはまだ起こっていない。これから起こるのだ。
少女は梟を一瞬で鷲掴みにすると、そのまま握りつぶした。鮮血が中を舞う。返り血を浴びて、紅くなった自身の顔など気にした様子は無い。そのまま少し笑みを浮かべて、血でベットリの右手でリボンを拾う。
そして次の瞬間、この森は闇に包まれた。その時、何もかもが止まったようだった。森は音を失った。
朝になって、そこにはいつも通りの少女の寝姿があった。鼠の死骸と、梟の死骸と、森では際して珍しくも無い光景が脇にはある。
少女はリボンのついた頭ををかしげてジッとそれらを見た。
そしてそのまま何も言わずに、闇を纏い、いつものように湖の畔へ出かけるのだった。
貴方の今後に期待。
丁寧に書こうとしすぎて逆効果になっている感じが。
でも試みは面白いと思うし、何よりルーミアがルーミアっぽかったのでこの点数で。
少なくとも私は楽しめました。